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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G |
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管理番号 | 1283438 |
審判番号 | 不服2013-17125 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-09-05 |
確定日 | 2014-01-29 |
事件の表示 | 特願2009-196187「下面電極型固体電解コンデンサおよびその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月10日出願公開、特開2011- 49339、請求項の数(11)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成21年8月27日の出願であって、平成25年3月21日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年5月22日付けで手続補正がなされたが、同年6月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年9月5日付けで拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされた。 その後、平成25年10月18日付けで前置報告書を利用した審尋がなされ、同年12月13日付けで回答書が提出されたものである。 第2.平成25年9月5日付けの手続補正の適否 1.補正の内容 平成25年9月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、 「【請求項1】 陽極リードが導出された弁作用金属からなる多孔質体の表面に誘電体、電解質、陰極層が順次形成されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子と電気的に接続された陰極端子および、前記陽極リードに接合された陽極リード体と電気的に接続された陽極端子を有し、前記コンデンサ素子と前記陽極リード体を樹脂で外装した下面電極型固体電解コンデンサであって、前記陽極端子および前記陰極端子は同一の母材の金属板からなり、前記樹脂で外装して、切削加工にて前記多孔質体と前記陽極リード体に対応する位置の間で、前記コンデンサ素子の長手方向と垂直な方向に、前記樹脂の内部まで届く深さの溝を入れて前記金属板から前記陽極端子と前記陰極端子とが形成され、且つ前記長手方向に切断して製品の外形形状に形成されたことを特徴とする下面電極型固体電解コンデンサ。 【請求項2】 前記製品の外形形状の長手方向の側面に、切削加工による前記陽極端子の下面側および前記陰極端子の下面側から前記樹脂に届く深さの溝を有することを特徴とする請求項1に記載の下面電極固体電解コンデンサ。 【請求項3】 前記陰極端子に前記製品の外形形状の長手方向と直角に切削加工による前記陰極端子の下面側から前記金属板の厚み未満の深さの溝を有することを特徴とする請求項1?2のいずれか1項に記載の下面電極型固体電解コンデンサ。 【請求項4】 前記陽極端子および前記陰極端子の外側に前記製品の外形形状の長手方向と直角に切削加工による前記陽極端子の下面側および前記陰極端子の下面側から前記金属板の厚み未満の深さの溝を有することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に記載の下面電極型固体電解コンデンサ。 【請求項5】 両端から前記陽極リードが導出された前記弁作用金属の前記多孔質体の表面に前記誘電体、前記電解質、前記陰極層が順次形成されてなる前記コンデンサ素子を有する下面電極型固体電解コンデンサであって、前記製品の外形形状の長手方向の両側に前記陽極端子を合計2個有し、前記陰極端子を中央に1個有することを特徴とする請求項1?4のいずれか1項に記載の下面電極型固体電解コンデンサ。 【請求項6】 前記陽極リード体と前記陽極端子が導電性接着剤で接続されたことを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の下面電極型固体電解コンデンサ。 【請求項7】 前記陽極リード体と前記陽極端子の接続に、加工後に300℃以下の耐熱温度を備える半田ペーストを用いることを特徴とする請求項1?5のいずれか1項に記載の下面電極型固体電解コンデンサ。 【請求項8】 前記コンデンサ素子と前記陰極端子が前記導電性接着剤で接続されたことを特徴とする請求項1?7のいずれか1項に記載の下面電極型固体電解コンデンサ。 【請求項9】 前記陽極端子及び前記陰極端子となる前記金属板の母材が銅材で下地にニッケルめっきが形成され、表面に金、パラジウムの少なくとも一つを含むめっきが形成されたことを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の下面電極型固体電解コンデンサ。 【請求項10】 前記陽極端子及び前記陰極端子となる前記金属板の母材が42アロイ材で下地にニッケルめっきが形成され、表面に金、パラジウムの少なくとも一つを含むめっきが形成されたことを特徴とする請求項1?8のいずれか1項に記載の下面電極型固体電解コンデンサ。 【請求項11】 多孔質体を備えたコンデンサ素子から導出された陽極リードに陽極リード体を接合する工程と、金属板の上面の陽極端子となる位置に、加工後に300℃以下の耐熱温度を備える半田ペーストを印刷し、陰極端子となる位置に導電性接着剤を塗布し前記コンデンサ素子を搭載する工程と、前記陽極リード体と前記コンデンサ素子を外装樹脂で封止する工程と、切削加工により前記多孔質体と前記陽極リード体に対応する位置の間で、前記コンデンサ素子の長手方向と垂直な方向に、前記樹脂の内部まで届く深さの溝を入れ前記陽極端子と前記陰極端子とを形成し、且つ前記長手方向に切断して製品の外形形状に形成する工程を含むことを特徴する下面電極型固体電解コンデンサの製造方法。」 と補正する補正事項を含むものである。 2.補正の適否 本件補正は、それぞれ独立形式で記載された請求項1及び請求項11に記載された各発明を特定するために必要な事項である、金属板から陽極端子と陰極端子とを形成するためにコンデンサ素子の長手方向と垂直な方向に入れられる「溝」について、「前記樹脂の内部まで届く深さ」であるとの限定を付加するものであって、補正前の請求項1及び請求項11に記載された各発明と補正後の請求項1及び請求項11に記載された各発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。 そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明1」という。)が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。 (1)刊行物の記載事項 (1-1)引用例1 原査定の拒絶の理由に引用された特開昭62-141714号公報(以下、「引用例1」という。)には、「チップ型固体電解コンデンサの製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「2.特許請求の範囲 (1) 4側面の内1側面の中央部に段部を設けた角型の有底金属ケースに半田付容易なメッキ加工を施し、この金属ケースに固体電解コンデンサ素子を組入れ、金属ケースの段部にコンデンサ素子の陽極引出し線を接続し、その反対側の側面に陰極を接続した後、前記金属ケースの開口部より樹脂を注入し硬化後、陽極および陰極となる部分を残し一定の幅で金属ケースを除去し、陽極端子と陰極端子を電気的に絶縁することを特徴とするチップ型固体電解コンデンサの製造方法。」(1頁左下欄4?14行) イ.「従来のキャップ型端子を有するチップ型固体電解コンデンサは、例えば実公昭59-10746号公報、実公昭59-10747号公報などに示さされている。すなわち、第5図および第6図に示すように、アルミニウム、タンタルなどの弁作用を有する金属粉末を所望形状に成形焼結した後、焼結体表面に陽極酸化を行ない誘電体層を形成した誘電体に、二酸化マンガン半導体層、グラファイト層、銀ペースト層を順次形成した固体電解コンデンサ素子(以下、コンデンサ素子という。)(1)の陽極引出し線(2)と・・」(1頁左下欄20行?同頁右下欄10行) ウ.「以下、本発明の一実施例を第1図ないし第4図に従い説明する。尚、従来例と同一部分には同一符号を付す。 第2図(イ)(ロ)(ハ)は本発明に用いられる角型有底金属ケースを示し、第2図(イ)は正面図、第2図(ロ)は底面図、第2図(ハ)は右側面図である。これらの図に示すように、角型の有底金属ケース(10)は1側面中央部に段部(11)を設けたものを、開口側より深絞り加工等で加工し、所望寸法に形成する。このように形成された金属ケース(10)に半田付容易な半田メッキ、銀メッキ等を施す。この金属ケース(10)内にコンデンサ素子(1)を組入れ、金属ケース(10)の段部(11)にコンデンサ素子(1)の陽極引出し線(2)を溶接により電気的に接続する。 一万コンデンサ素子(1)の陰極側は、半田又は導電性接着剤(5)により、金属ケース(10)の段部(11)と対向する側面(12)に接続する。その後、外装樹脂(7)を金属ケース(10)の開口部より注入し硬化させる。樹脂(7)が硬化した後、陽極端子(3)と陰極端子(6)を独立させるため、金属ケース(10)の3面(13)(14)(15)を幅lに亘り、ケースの肉厚だけ切削して、両端子(3)(6)を電気的に独立させる。この幅lは陽極端子(3)と陰極端子(6)が電気的絶縁されれば艮く通常1?2mmあれば良い。」(2頁右上欄19行?同頁右下欄2行) ・上記引用例1に記載の「チップ型固体電解コンデンサの製造方法」により製造されるチップ型固体電解コンデンサに用いられる固体電解コンデンサ素子(1)は、上記「イ.」及び第5図、第6図に記載された従来例に係る固体電解コンデンサ素子(1)と同一のものが用いられることは明らかであり、すなわち、アルミニウム、タンタルなどの弁作用を有する金属粉末を所望形状に成形焼結した後、焼結体表面に陽極酸化を行ない誘電体層を形成した誘電体に、二酸化マンガン半導体層、グラファイト層、銀ペースト層を順次形成するとともに、陽極引出し線(2)を設けた固体電解コンデンサ素子(1)である。 ・上記「ア.」?「ウ.」の記載事項、及び第1図や第6図によれば、かかる固体電解コンデンサ素子(1)を用い、上記引用例1に記載の「チップ型固体電解コンデンサの製造方法」により製造されるチップ型固体電解コンデンサについても、その陽極端子(3)と陰極端子(6)は、上記「イ.」に記載の従来例と同様、「キャップ型端子」であると理解できる。また、固体電解コンデンサ素子(1)は、外装樹脂(7)により外装されるものである。 ・そして、上記「ア.」、「ウ.」の記載事項、及び第1図?第3図によれば、陽極端子(3)と陰極端子(6)とは、段部(11)を設けた角型の有底金属ケース(10)内に固体電解コンデンサ素子(1)を組入れ、固体電解コンデンサ素子(1)の陽極引出し線及び陰極側をそれぞれ有底金属ケース(10)の所定部分と電気的に接続した後、有底金属ケース(10)の開口部より外装樹脂(7)を注入し硬化後、陽極端子および陰極端子となる部分を残して有底金属ケース(10)の3面(13)(14)(15)を一定の幅lに亘り当該ケースの肉厚だけ切削して除去することにより、陽極端子および陰極端子となる部分を互いに電気的に独立させて絶縁させることによって形成されるものである。 したがって、製造される「チップ型固体電解コンデンサ」に着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「アルミニウム、タンタルなどの弁作用を有する金属粉末を所望形状に成形焼結した後、焼結体表面に陽極酸化を行ない誘電体層を形成した誘電体に、二酸化マンガン半導体層、グラファイト層、銀ペースト層を順次形成するとともに、陽極引出し線を設けた固体電解コンデンサ素子を外装樹脂で外装したキャップ型端子を有するチップ型固体電解コンデンサであって、 4側面の内1側面の中央部に段部を設けた角型の有底金属ケースに半田付容易なメッキ加工を施し、前記金属ケースに前記固体電解コンデンサ素子を組入れ、前記段部に前記固体電解コンデンサ素子の前記陽極引出し線を溶接により電気的に接続し、その反対側の前記金属ケース側面に前記固体電解コンデンサ素子の陰極側を半田又は導電接着剤により接続した後、前記金属ケースの開口部より外装樹脂を注入し硬化後、陽極端子および陰極端子となる部分を残し一定の幅で前記金属ケースの3面を当該ケースの肉厚だけ切削して除去し、陽極端子と陰極端子を電気的に独立させて絶縁させたキャップ型端子を有するチップ型固体電解コンデンサ。」 (1-2)引用例2 同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2003-133177号公報(以下、「引用例2」という。)には、「固体電解コンデンサ及びその製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【請求項1】 陽極片(22)と陰極片(23)を対向配備し、両極片(22)(23)の下端部を連結片(24)にて繋いだケース(2)を設ける工程と、両極片(22)(23)間にコンデンサ素子(5)を配備して、両極片(22)(23)とコンデンサ素子(5)を電気的に接続し、両極片(22)(23)間を合成樹脂(70)にて被覆する工程と、 連結片(24)を研磨又は切削して、陽極片(22)と陰極片(23)を電気的に分離するとともに、陽極片(22)と陰極片(23)の回路基板(3)との対向部分を露出させる工程とを具えた固体電解コンデンサの製造方法。」 イ.「【0019】(固体電解コンデンサの製造方法)固体電解コンデンサ(4)の製造方法を、以下に示す。図4は、陰極片(23)及び陽極片(22)となるべきケース(2)の斜視図である。ケース(2)は厚み0.5mmの銅板に銀メッキを施したものを用いているが、銅板の代わりに、銅棒を鍛造加工して設けても、銅製の角棒を切削加工して設けてもよい。 【0020】ケース(2)は、陽極片(22)となるべき第1壁片(20)と、陰極片(23)の縦板(25)となるべき第2壁片(21)を対向して設け、両壁片(20)(21)の下端部は、壁片(20)(21)の長手方向に直交する方向に沿って厚板(27)と薄板(28)を連ねた連結片(24)にて繋がれている。厚板(27)が陰極片(23)の横板(26)となる。ケース(2)は、後記するように、長手方向に沿って分割されて、3つの固体電解コンデンサが製作される。 【0021】第1壁片(20)と第2壁片(21)間に、3つのコンデンサ素子(5)(5)(5)を配備する。図4では、図示の便宜上、1つのコンデンサ素子(5)しか図示しない。各コンデンサ素子(5)の陽極リード(10)を第1壁片(20)に、銀ペースト層(60)(図16参照)を第2壁片(21)に、銀接着剤を用いて接続する。尚、陽極リード(10)を第1壁片(20)に直接溶接してもよい。また、陽極リード(10)の先端部を押しつぶして、平らに変形させ、銀接着剤が密着しやすくなる工夫も可能である。 【0022】次に、図5に示すように、第1壁片(20)と第2壁片(21)間に、上面が平らになるようにエポキシ樹脂等の絶縁性の合成樹脂(70)を充填し、1つのブロックを作成する。本例では、合成樹脂の厚みを、約3.0mmとしたが、これに限定されない。この後、合成樹脂(70)を充填したケース(2)を約150℃の硬化炉内に約30分間入れて、合成樹脂を硬化させる。 【0023】次に、図6に示すように、ケース(2)の下面を切削又は研磨加工して、連結片(24)の薄板(28)を除去し、第1壁片(20)と第2壁片(21)とを電気的に分離するとともに、第1壁片(20)と第2壁片(21)の下面を露出させる。そして、第1壁片(20)にて各コンデンサ素子(5)(5)間に、2つの切込み(55)(55)を入れて、3つの陽極片(22)(22)(22)を形成する。 【0024】第2壁片(21)に直流電圧を印加して、エージングを行う。これにより、固体電解コンデンサ(4)の漏れ電流を低減させる。第1壁片(20)には切込み(55)(55)が入っているから、各陽極片(22)に通電する。 【0025】最後にダイシングソーを用いて、切込み(55)(55)に沿ってブロックを3つに切断し、3つの固体電解コンデンサ(4)(4)(4)を得る。 【0026】上記工程にて製作された固体電解コンデンサは、コンデンサ素子(5)が0.5mm厚の陽極片(22)及び陰極片(23)に直接接するから、固体電解コンデンサ全体の幅を短くできる。また、両極片(22)(23)の下面が、直に回路基板(3)に接するから、従来のようにリードフレーム(9)をハウジング(7)に沿って曲げて設ける必要がなく、コンデンサ素子(5)から回路基板(3)までの電路を短くできる。更に、リードフレーム(9)を用いないから、コンデンサ素子(5)の陰極片(23)から回路基板(3)までの距離は、ケース(2)の厚みにまで短くなり、固体電解コンデンサ全体のESR、ESLの値を小さくできる。」 (1-3)引用例3 同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-234749号公報(以下、「引用例3」という。)には、「チップ状固体電解コンデンサの製造方法」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【0001】 本発明は、下面電極タイプのチップ状固体電解コンデンサの製造方法に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、電子機器の小型化や薄型化に伴って、部品の高密度実装が求められている。そのため、固体電解コンデンサにおいては表面実装が必要となっており、コンデンサの陽極および陰極が製品の下面に位置する、いわゆる下面電極タイプの固体電解コンデンサが多用されている。」 イ.「【0019】 次に、陽極導出リード2aと鉄およびニッケルの合金からなる金属条材5とを抵抗溶接した後、図5(b)に示す如く、コンデンサ素子2を電極基板8の一方の面8a上において、隣り合う電極部材4間に跨るように配置した。そして、金属条材5を電極部材4の右方側に対応する内部陽極6aにYAGレーザーを用いて溶接すると同時に、タンタル焼結体2bの陰極引出層(不図示)を隣の電極部材4の左方側に対応する内部陰極6cに導電性接着剤9を用いて接続した。そして、同様の方法を繰り返し、複数個のコンデンサ素子2を電極基板8上に搭載した。」 (1-4)引用例4 同じく原査定の拒絶の理由に引用された特開2001-110676号公報(以下、「引用例4」という。)には、「チップコンデンサ」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。 ア.「【0015】コンデンサ素子22の下面22bの下方における端面22dが存在する側、即ち、タンタルワイヤー26が引き出されていない端面側に、陰極端子30が配置されている。陰極端子30は、互いに平行な2つの平面状の主表面30a、30bを有する平板、例えば長方形のもので、それの一方の端部に、接触面積増大部、例えば凸部32が一体に形成されている。・・・・(以下、略。)」 イ.「【0017】コンデンサ素子22の下面22bの下方における端面22cの存在する側に、陽極端子34が配置されている。陽極端子34は、相対向する2つの主表面34a、34bを有する平板状、例えば長方形状のもので、その一方の端部に、凸部32と同様な凸部36が形成されている。なお、陽極端子34は、陰極端子30とほぼ同一の厚さ寸法を有し、また凸部32、36もほぼ同一の厚さ寸法を有している。・・・・(以下、略)。」 ウ.「【0019】陽極端子34とタンタルワイヤー26との接続は、接続具、例えばタンタルワイヤー40を介して行われる。タンタルワイヤー40は、図1(b)に示すように、コンデンサ素子22の幅寸法にほぼ等しい、例えばコンデンサ素子22の幅寸法よりも若干短い寸法の円柱状に形成され、コンデンサ素子22の幅方向に沿って配置されている。このタンタルワイヤー40は、陽極端子34の主表面34aにタンタルワイヤー26の下方に、タンタルワイヤー26と陽極端子34の主表面34aとにそれぞれ接触するように配置され、例えば溶接によって、タンタルワイヤー26と陽極端子34とに電気的及び機械的に接続されている。」 (2)対比 本願補正発明1と引用発明とを対比すると、 ア.引用発明における「弁作用を有する金属」、「焼結体」、「誘電体層」、「二酸化マンガン半導体層」、「グラファイト層」及び「銀ペースト層」、「陽極引出し線」、「固体電解コンデンサ素子」は、それぞそれ本願補正発明1における「弁作用金属」、「多孔質体」、「誘電体」、「電解質」、「陰極層」、「陽極リード」、「コンデンサ素子」に相当し、 さらに、引用発明における「陰極端子」、「陽極端子」、「外装樹脂」は、それぞれ本願補正発明1における「陰極端子」、「陽極端子」、「樹脂」に相当し、 引用発明における「キャップ型端子を有するチップ型固体電解コンデンサ」と、本願補正発明1における「下面電極型固体電解コンデンサ」とは、「固体電解コンデンサ」である点で共通し、 引用発明における「アルミニウム、タンタルなどの弁作用を有する金属粉末を所望形状に成形焼結した後、焼結体表面に陽極酸化を行ない誘電体層を形成した誘電体に、二酸化マンガン半導体層、グラファイト層、銀ペースト層を順次形成するとともに、陽極引出し線を設けた固体電解コンデンサ素子を外装樹脂で外装したキャップ型端子を有するチップ型固体電解コンデンサであって」、「・・陽極端子および陰極端子となる部分を残し一定の幅で前記金属ケースの3面を当該ケースの肉厚だけ切削して除去し、陽極端子と陰極端子を電気的に独立させて絶縁させた・・」によれば、「キャップ型端子」としては、グラファイト層及び銀ペースト層からなるいわゆる陰極層と電気的に接続する陰極端子と、陽極引出し線と電気的に接続する陽極端子とからなることは明らかであるから、 本願補正発明1と引用発明とは、後述の相違点を除いて「陽極リードが導出された弁作用金属からなる多孔質体の表面に誘電体、電解質、陰極層が順次形成されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子と電気的に接続された陰極端子および、前記陽極リードに電気的に接続された陽極端子を有し、前記コンデンサ素子を樹脂で外装した固体電解コンデンサであって」の点で共通するといえる。 イ.引用発明における、角型の「有底金属ケース」と、本願補正発明1における「金属板」とは、「金属部材」である点で共通し、 引用発明における「4側面の内1側面の中央部に段部を設けた角型の有底金属ケースに半田付容易なメッキ加工を施し、前記金属ケースに前記固体電解コンデンサ素子を組入れ、前記段部に前記固体電解コンデンサ素子の前記陽極引出し線を溶接により電気的に接続し、その反対側の前記金属ケース側面に前記固体電解コンデンサ素子の陰極側を半田又は導電接着剤により接続した後、前記金属ケースの開口部より外装樹脂を注入し硬化後、陽極端子および陰極端子となる部分を残し一定の幅で前記金属ケースの3面を当該ケースの肉厚だけ切削して除去し、陽極端子と陰極端子を電気的に独立させて絶縁させたキャップ型端子を有するチップ型固体電解コンデンサ」によれば、 (a)陽極端子および陰極端子となる部分を残し一定の幅で金属ケースの3面を当該ケースの肉厚だけ切削して除去することは、金属ケースから陽極端子と陰極端子とを形成するために、切削加工にて、コンデンサ素子の長手方向と垂直な方向に溝を入れることに他ならず、 (b)また、切削加工にて陽極端子と陰極端子とが形成される金属ケースが、同一の母材からなることも明らかであるといえるから、 本願補正発明1と引用発明とは、後述の相違点を除いて「前記陽極端子および前記陰極端子は同一の母材の金属部材からなり、前記樹脂で外装して、切削加工にて、前記コンデンサ素子の長手方向と垂直な方向に溝を入れて前記金属部材から前記陽極端子と前記陰極端子とが形成されたことを特徴とする固体電解コンデンサ」である点で共通する。 よって、本願補正発明1と引用発明とは、 「陽極リードが導出された弁作用金属からなる多孔質体の表面に誘電体、電解質、陰極層が順次形成されたコンデンサ素子と、前記コンデンサ素子と電気的に接続された陰極端子および、前記陽極リードに電気的に接続された陽極端子を有し、前記コンデンサ素子を樹脂で外装した固体電解コンデンサであって、前記陽極端子および前記陰極端子は同一の母材の金属部材からなり、前記樹脂で外装して、切削加工にて、前記コンデンサ素子の長手方向と垂直な方向に溝を入れて前記金属部材から前記陽極端子と前記陰極端子とが形成されたことを特徴とする固体電解コンデンサ。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 本願補正発明1では、陽極リードに接合されるとともに、陽極端子と電気的に接続された「陽極リード体」を有し、切削加工にてコンデンサ素子の長手方向と垂直な方向に入れる溝が、「前記多孔質体と前記陽極リード体に対応する位置の間で」あり、「前記樹脂の内部まで届く深さ」であると特定するのに対し、引用発明では、そのような特定がない点。 [相違点2] 本願補正発明1では、陽極端子と陰極端子とが形成される同一母材の金属部材が金属「板」であり、固体電解コンデンサが「下面電極型」であると特定するのに対し、引用発明では、そのような特定がない点。 [相違点3] 本願補正発明1では、コンデンサ素子の「長手方向に切断して製品の外形形状に形成され」ると特定するのに対し、引用発明では、そのような特定がない点。 (3)判断 上記相違点について検討する。 [相違点1]について 引用発明では、切削加工にてコンデンサ素子の長手方向と垂直な方向に入れる溝について、金属ケースの肉厚だけ除去するとしているが、陽極端子と陰極端子を完全に電気的に独立させて絶縁させるためには誤差分も考慮して、金属ケースの肉厚分だけでなく僅かながらでも外装樹脂の内部まで届く深さとすることは当業者であれば適宜なし得ることであるといえる。 しかしながら、引用発明では、金属ケースに設けた段部に固体電解コンデンサ素子の陽極引出し線を溶接により直接電気的に接続するようにしたものであって、「陽極リード体」に相当するものを必要としないものであることに加えて、「キャップ型端子」であることから、引用例1の第1図、第3図などからも明らかなように、金属ケースの一定の幅での切削除去は、通常、陽極端子と陰極端子とのコンデンサ素子長手方向の幅がほぼ同じになるようになされるものであるといえ、たとえ引用例3や引用例4に記載(上記「(1-3)イ.」、「(1-4)ウ.」を参照)のように、「陽極リード体」に相当するものを設けること自体は周知の技術事項であるとしても、本願補正発明1における、切削加工にてコンデンサ素子の長手方向と垂直な方向に入れる溝が「前記多孔質体と前記陽極リード体に対応する位置の間で」あるという発明特定事項を導き出すことはできない。 一方、引用例2には、金属のケースの下面を切削又は研磨加工して、連結片の薄板を削除することにより、第1壁片(陽極片)と第2壁片(陰極片)とを電気的に分離することが記載(上記「(1-2)ア.及びイ.」を参照)されているものの、引用例2の図5、図6を参照するに、金属ケース下面の切削又は研磨加工は、下面の全体に対して行われるものであり、そもそも金属ケースに対して「溝」を入れるものではないといえ、したがって当然、本願補正発明1における、切削加工にてコンデンサ素子の長手方向と垂直な方向に入れる「溝」が「前記多孔質体と前記陽極リード体に対応する位置の間で」あるという発明特定事項についての記載も示唆もない。 [相違点2]及び[相違点3]について そもそも引用発明では、陽極端子と陰極端子とが形成される同一母材の金属部材が有底の金属「ケース」であり、固体電解コンデンサが「キャップ型端子」であることを前提とするものである。 したがって、たとえ引用例3や引用例4に記載(上記「(1-3)ア.」、「(1-4)ア.及びイ.」を参照)のように、陽極端子と陰極端子が、金属「板」状の下面電極型であるものは周知であり、また、引用例2には、金属のケースに複数のコンデンサ素子を組入れておき、最終的に個々の固体電解コンデンサとなるように、コンデンサ素子の長手方向に切断して製品の外形形状に形成されるようにすることが記載(上記「(1-2)イ.」を参照)されているとしても、これらの技術事項を引用発明に対して採用することはできないものであり、本願補正発明1における、陽極端子と陰極端子とが形成される同一母材の金属部材が金属「板」であり、固体電解コンデンサが「下面電極型」であること、コンデンサ素子の「長手方向に切断して製品の外形形状に形成され」ること、の発明特定事項を導き出すことはではない。 よって、本願補正発明1における、切削加工にてコンデンサ素子の長手方向と垂直な方向に入れる溝が「前記多孔質体と前記陽極リード体に対応する位置の間で」あること、陽極端子と陰極端子とが形成される同一母材の金属部材が金属「板」であり、固体電解コンデンサが「下面電極型」であること、コンデンサ素子の「長手方向に切断して製品の外形形状に形成され」ること、の発明特定事項については、引用発明及び引用例2ないし4に記載の技術事項に基づいて当業者であれば容易に想到し得たものとすることはできない。 そして、本願補正発明1は、上記発明特定事項を有することにより、「高さ方向においてより大きなコンデンサ素子を同一パッケージ内に収納する事が出来る」という効果を奏するものである(特に、本願明細書の段落【0023】を参照)。 したがって、本願補正発明1は、引用発明及び引用例2ないし4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (4)本件補正後の請求項2ないし11に係る発明について (4-1)請求項2ないし10について 請求項2ないし10は、請求項1に従属する請求項であり、請求項2ないし10に係る発明は、本願補正発明1の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明及び引用例2ないし4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (4-2)請求項11について 独立形式で記載された請求項11に係る発明は、「下面電極型固体電解コンデンサ」に係る発明である本願補正発明1を、「下面電極型固体電解コンデンサの製造方法」に係る発明にそのカテゴリーを変えて表現したものであって、実質的に本願補正発明1のすべての発明特定事項を共通して有するものであるから、上記(3)と同じ理由により、引用発明及び引用例2ないし4に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (5)その他 なお、引用例2に記載された発明を引用発明2とし、本願補正発明1と対比した場合にあっても、少なくとも上記[相違点1](上記(3)を参照)と同様に、本願補正発明1では、陽極リードに接合されるとともに、陽極端子と電気的に接続された「陽極リード体」を有し、切削加工にてコンデンサ素子の長手方向と垂直な方向に入れる「溝」が、「前記多孔質体と前記陽極リード体に対応する位置の間で」あり、「前記樹脂の内部まで届く深さ」であると特定するのに対し、引用発明2では、そのような特定がない点で相違し、かかる相違点については、そもそも引用発明2が、上記(3)の「[相違点1]について」でも指摘したように、第1壁片(陽極片)と第2壁片(陰極片)とを電気的に分離するために行われる金属ケース下面の切削又は研磨加工が、下面の全体に対して行われるものであり、金属ケースに対して「溝」を入れるものではないことからして、引用例1、引用例3及び引用例4にそれぞれ記載の技術事項や周知の技術事項を参照したとしても、当業者であれば容易に想到し得たものとすることはできない。 (6)むすび 以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。 3.本件補正についてのむすび したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。 第3.本願発明 本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1ないし11に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定されるとおりのものである。 そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-01-16 |
出願番号 | 特願2009-196187(P2009-196187) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01G)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 山澤 宏 |
特許庁審判長 |
石井 研一 |
特許庁審判官 |
萩原 義則 井上 信一 |
発明の名称 | 下面電極型固体電解コンデンサおよびその製造方法 |