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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L |
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管理番号 | 1283451 |
審判番号 | 不服2012-9417 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-05-22 |
確定日 | 2014-01-09 |
事件の表示 | 特願2000-603310「水性ポリアミド-アミド酸組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成12年9月14日国際公開、WO2000/53677、平成14年11月12日国内公表、特表2002-538278〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成12年3月9日(パリ条約に基づく優先権主張 1999年3月12日,2000年3月7日 いずれもアメリカ合衆国(US))を国際出願日とする特許出願であって,平成22年4月27日付けで拒絶理由が通知され,同年11月4日に意見書とともに手続補正書が提出され,平成23年1月28日けで拒絶理由が通知され,同年5月31日に意見書とともに手続補正書が提出されたが,平成24年1月20日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年5月22日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。 その後,前置審査において平成24年6月20日付けで拒絶理由が通知され,同年9月26日に意見書が提出され,当審において平成25年2月27日付けで,審査官の作成した前置報告書を利用した審尋を行ったところ,それに対し,同年7月4日に回答書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?12に係る発明は,平成24年5月22日付け手続補正書により補正された明細書(以下,「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」ともいう。)は,以下のとおりのものである。 「水と, アミンと, 構造式A: 【化1】 (ここで,Rは,二価アリーレン基である) によるアミド-アミド酸単位を含み,さらに 構造式B: 【化2】 によるアミド-イミド単位を含み,水とアミンからなる混合物中に可溶性である,100mg KOH/gよりも大きい酸価を有するポリアミド-アミド酸(polyamid-amic acid)と, からなる水性組成物。」 第3 平成24年6月20日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由の概要 平成24年6月20日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由の概要は, 「本願の請求項1乃至12に係る発明は,刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 刊行物1:特公昭45-16586号公報」 というものである。 第4 合議体の判断 1.刊行物1の記載事項 (摘示1)「1 ポリアミド酸中の遊離カルボン酸基を総て中和するのに必要な化学量論量よりも過剰に存在する非芳香族第3級アミンとポリアミド酸との塩の安定な水溶液。 2 ポリアミド酸中の遊離カルボン酸基を総て中和するに必要な化学量論量よりも過剰の非芳香族第3級アミンでポリアミド酸を処理し,これによつて遊離カルボン酸基を対応の塩の基に転化させ,しかもこの処理と同時にまたはこの処理に次いで転化生成物を水性媒質に溶解させることからなる,ポリアミド酸の塩の安定な水溶液の製造法。」(特許請求の範囲) (摘示2)「本発明は被覆組成物として使用できるポリアミド酸の水溶液に関する。 ポリアミド酸は,2つのアミノ基をもつアミン(アミノ基の各々は第1級あるいは第2級の種類のものであり,別個の炭素原子にくつついている)と3つあるいはそれ以上のカルボン酸基を含む有機酸(カルボン酸基の少なくとも2つは隣接した炭素原子あるいは該有機酸のアミド生成誘導体にくつついている。)とのポリ縮合により生成したポリアミドである。ポリ重合の条件はカルボン酸基のうちの2つのみがポリ縮合に関与するというものであり,これによつて重合体連鎖の反復単位から分枝した未反応のままのカルボン酸基をもつポリアミドが生成される。」(第1頁1欄31行?2欄6行) (摘示3)「本発明が全く予想外にも認めたところによれば,前記ポリアミド酸の遊離カルボン酸基を対応の非芳香族第3級アミン塩の基に転化することによつて,加水分解に対する安定性の改良が得られ,従つてその転化生成物の水溶液は被覆操作及びフイルム形成操作に使用できるようになる。 ・・・ ポリアミド酸を非芳香族第3級アミンで処理し,これによつて遊離カルボン酸基を対応の塩の基に転化させ,しかもこの処理と同時に又は処理に次いで,該生成物を水に溶解させることからなる方法によつて前記の水溶液を製造することができる。 加水分解による分解に対して最良の耐久性をもつと共に,貯蔵後も例えば繊維形成操作,フイルム形成操作及び被覆操作に利用できるような水溶液を得るためには,ポリアミド酸の遊離カルボン酸基の全部が転化済みであること,即ちポリアミド酸が化学量論的な量よりも過剰の非芳香族第3級アミンと反応しなければならないことが一般に必要である。」(第1頁2欄36行?第2頁3欄22行) (摘示4)「ポリアミド酸を生成するのに用いうるトリカルボン酸の例はトリカルバリル酸及びトリメリツト酸である。 好ましいポリアミドを生成するのに用いられるジ第1級アミンの例は,・・・・芳香族ジアミン及び・・・例えばm-及びp-フエニレン・ジアミン・・・良い熱安定性ををもつ重合体を得るためには,芳香族ジアミンを用いるのが一般に望ましい。4,4’-ジアミノジフエニル・エーテル及び4,4’-ジアミノジフエニル・スルホンが非常に良く適し,所望ならばこれらを組合わせて用いることができる。」(第2頁4欄34行?第3頁5欄35行) (摘示5)「ポリアミド酸を生成させる方法は例えば特公昭36-10999により詳細に記載されている。・・・ ・・・ ポリアミド酸は,これを微細な形で第3級アミンのうすい水溶液に加え,これによつて直接に水溶液を作るのが適当である。」(第3頁5欄36行?6欄12行) (摘示6)「ポリイミドへの転化は単に加熱するだけによつて,又は例えば副生成物として生ずる第3級アミンの受容体として知られた化合物例えば無水酢酸の存在下で加熱することにより実施できる。・・・所望ならば,余り極端でない条件を採用することによつて,一部だけがポリイミドに転化するようにもできる。」(第5頁9欄6?22行) 2.刊行物1に記載された発明 刊行物1には,「ポリアミド酸中の遊離カルボン酸基を総て中和するのに必要な化学量論量よりも過剰に存在する非芳香族第3級アミンとポリアミド酸との塩の安定な水溶液。」(摘示1の請求項1)に係る発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。 3.対比,判断 (1)本願発明と引用発明との対比 本願発明と引用発明とを対比する。 引用発明のポリアミド酸は本願発明のポリアミド-アミド酸ともいえるものであり,水とアミンからなる混合物中に可溶性である(摘示1及び5)。 したがって,両発明は,被覆組成物として使用できるポリアミド-アミド酸の水性組成物の提供という点で,共通の課題を有するものであって(本願明細書段落【0002】,【0007】,【0008】等及び摘示2),次の点で一致し,相違点1?2で相違している。 <一致点> 「水と,アミンと,水とアミンからなる混合物中に可溶性であるポリアミド-アミド酸(polyamid-amic acid)と,からなる水性組成物。」 <相違点1> 本願発明のポリアミド-アミド酸は,「構造式A:(化学構造式およびその置換基の説明は省略)によるアミド-アミド酸単位(以下,「本願アミド-アミド酸単位」という。)を含み,さらに構造式B:(化学構造式およびその置換基の説明は省略)によるアミド-イミド単位(以下,「本願アミド-イミド単位」という。)を含み,」と特定されているのに対し,引用発明ではかかる特定はなされていない点。 <相違点2> 本願発明のポリアミド-アミド酸は,「100mg KOH/gよりも大きい酸価を有する」と特定されているのに対し,引用発明ではかかる特定はなされていない点。 (2)相違点についての検討 <相違点1について> 刊行物1には,「ポリアミド酸は,2つのアミノ基をもつアミン(アミノ基の各々は第1級あるいは第2級の種類のものであり,別個の炭素原子にくつついている。)と3つあるいはそれ以上のカルボン酸基を含む有機酸(カルボン酸基の少なくとも2つは隣接した炭素原子あるいは該有機酸のアミド生成誘導体にくつついている。)とのポリ縮合により生成したポリアミドである。」(摘示2、下線は当審で付与した。),「ポリアミド酸を生成するのに用いうるトリカルボン酸の例はトリカルバリル酸及びトリメリツト酸である。」(摘示4)と記載され,さらに,ジ第1級アミンとして芳香族ジアミンを用いること(摘示4)が記載されているから,引用発明のポリアミド酸は「本願アミド-アミド酸単位」を含むものである。 また,ポリアミド酸を形成する重合反応が発熱反応であること及びポリアミド酸の脱水・閉環によるイミド化が加熱によって生起されることはともに技術常識であるから(摘示6,特公昭49-25176号公報(平成22年4月27日付け拒絶理由通知における引用文献1),特公昭36-10999号公報(摘示5に記載された文献)参照),ポリアミド酸の製造においては,通常,その一部がイミド化物に転化しているものと認められる。 したがって,引用発明のポリアミド酸も「本願アミド-イミド単位」を包含しているものと認められる。 よって,相違点1は実質的な相違点とは認められない。 なお,本願明細書の実施例において,「本願アミド-イミド単位」が含まれていることについて何ら言及されていないことからみても,ポリアミド酸の製造において,イミド化物も生成されることは自明の事項と認められる。 <相違点2について> 刊行物1には,ポリアミド酸に含まれるイミド化物については何ら記載されておらず,ポリアミド酸を加熱によってポリイミドへ転化させることが記載されている(摘示6)。 これは,ポリアミド酸に含まれるイミド化物が無視できる程度の量であること,すなわちカルボン酸基は大部分が遊離のカルボン酸基として存在していることを前提とするものと解される。 さらに,引用発明においては,非芳香族第3級アミンを遊離のカルボン酸基を総て中和するのに必要な化学量論量よりも過剰に用いるものであるから(摘示3),水への溶解性には遊離のカルボン酸基の非芳香族第3級アミンによるイオン化が関係すること,すなわち,ポリアミド酸の水への溶解性は,遊離のカルボン酸基の量に依存することは当業者の技術常識をもってすれば,直ちに推し量ることができる事項である。 そうであれば,その溶解性を上げるためには,遊離のカルボン酸基の量を多くすることが必要であり,その際に遊離のカルボン酸基の量の指標として酸価を採用し,その最適な範囲を決定すること,すなわち,下限値として「100mg KOH/g」を特定することは,当業者が適宜なし得る事項である。 また,その効果も容易に予測し得る範囲のものにすぎず,格別顕著なものとは認められない。 なお,刊行物1には,実施例1としてテトラカルボン酸に由来するポリアミド酸に関するものが記載されており,その「ポリアミド酸(418g)」との記載を「4.18g」の誤記として計算すると,「1.12gKOH/4.18g=268mgKOH/g」の酸価を有するものと解される。 テトラカルボン酸に由来するポリアミド酸は,アミド-アミド酸単位中に2個のカルボン酸基が存在するから,その理論的酸価は,300KOH/gとなり,当該実施例の遊離のカルボン酸基は理論量の89%(268/300×100≒89)である。 この記載からみても,引用発明は,ポリアミド酸のカルボン酸基の大部分が遊離のカルボン酸基として存在していることを前提とするものと認められる。 (3)まとめ よって,本願発明は,刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 第5 審判請求人の主張について 1.審判請求人の主張 審判請求人は,平成24年9月26日付け意見書及び平成25年7月4日付け回答書において以下のような主張をしている。 「1)当業者が,引用文献1に記載の発明に基づいて本願発明に想到するには, ・具体的に開示されているテトラカルボン酸無水物に代えて,トリカルボン酸を用い, ・トリカルボン酸の中からトリメリト酸を選択し, ・二価のアリーレン基Rを有する芳香族アミンを用い, ・酸価を100mg KOH/gよりも大きい値とする, の4つの工程が必要である。 一方,引用文献1はトリメリト酸を用いたポリアミド酸を具体的に開示しない。 さらに,審査官殿も指摘しているように,引用文献1にはポリアミド酸におけるイミド構造(本願発明における構造式Bに相当)にかかる言及もない。本願発明の酸価は,イミド化のレベル,すなわち構造A(アミド構造)と構造B(イミド構造)の比率を実質的に表すが,引用文献1にはイミド構造にかかる言及さえないのであるから「酸価」という概念自体を示唆しない。さらにまた,出願時明細書段落0011および0036に記載のとおり,本願発明のポリアミド-アミド酸は,硬化を避けるように重合され(出願時明細書段落0019),イミド化を避けるように重合物は穏やかな条件で分離され(同0011),かつ樹脂ウェットケーキはイミド化する条件に晒すことなく処理される(同0036)。一方,引用文献1には,重合が発熱反応であるにもかかわらず温度制御に関する開示は一切ない。従って,この点からみても,当業者が,酸価を特定の値にしようとすることは困難である。 以上から,引用文献1に接した当業者が,本願発明のポリアミド-アミド酸に想到することは困難である。」(以下、「主張1」という。),「2)本願発明のポリアミド-アミド酸は,水/アミン系に対して改善された溶解性を示し,コーティングとしたときに基体に対して大きな接着性を有する等の優れた効果を奏するが,本願発明の前記構成を示唆しない引用文献1に基づいて当業者がこの効果を予測することも容易ではない。」(以下、「主張2」という。)と主張している。 2.審判請求人の主張に対して (1)主張1について まず,上記したように,刊行物1にはトリメリト酸を用いること,ジ第1級アミンとして芳香族アミンを用いることが記載されている(摘示4)。 また,酸価については,上記「<相違点2について>」で述べたとおりである。 さらに,刊行物1には温度制御に関する明示の記載はないが,そこで引用する特公昭36-10999号公報(摘示5)には,反応の急速な加速を防ぐため(すなわち,イミド化を防ぐため)に反応温度を低温に維持することが記載されているから,ポリアミド酸の製造において,イミド化の抑制のために温度制御を行うことは,通常行われている事項と認められる。 (2)主張2について 上記「相違点1について」でのべたように,刊行物1には,大きな酸価を有するポリアミド-アミド酸を備える点が記載されており,水に対する改善された溶解性を示すものと解されるから,本願発明と同様に,コーティングとしたときに基体に対して大きな接着性を有するものと認められる。 したがって,上記審判請求人の主張は採用できない。 第6 むすび 以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明についての平成24年6月20日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由は妥当なものであり,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願はこの理由により拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-08-12 |
結審通知日 | 2013-08-14 |
審決日 | 2013-08-27 |
出願番号 | 特願2000-603310(P2000-603310) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C08L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井津 健太郎 |
特許庁審判長 |
田口 昌浩 |
特許庁審判官 |
須藤 康洋 加賀 直人 |
発明の名称 | 水性ポリアミド-アミド酸組成物 |
代理人 | 富田 博行 |
代理人 | 千葉 昭男 |
代理人 | 小林 泰 |