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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F16H |
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管理番号 | 1283466 |
審判番号 | 不服2013-2448 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-02-08 |
確定日 | 2014-01-09 |
事件の表示 | 特願2006-149612「エンジンユニットおよび鞍乗型車両」拒絶査定不服審判事件〔平成19年12月13日出願公開、特開2007-321790〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は、平成18年5月30日の出願であって、平成24年10月30日付けで拒絶査定がされ(発送日:同年11月13日)、これに対し、平成25年2月8日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、その審判の請求と同時に、請求項の削除を目的として、手続補正がされたものである。 そして、本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成25年2月8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載されたとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。 なお、平成24年5月15日付け手続補正は、原審において、同年10月30日付けで決定をもって却下されている。 「【請求項1】 プライマリシーブと、セカンダリシーブと、前記プライマリシーブと前記セカンダリシーブとに巻き掛けられたVベルトと、を有するVベルト式無段変速機と、 前記セカンダリシーブに連結され、前記セカンダリシーブから駆動力が与えられて回転する回転軸と、 前記回転軸が挿通される第1の軸受と、 前記第1の軸受が挿通される回転体と、 前記回転軸が挿通される第2の軸受と、 前記回転体と前記第2の軸受との間に介装されるスペーサと、を備え、 前記回転軸は、前記第2の軸受を介して片持ち支持されており、 前記セカンダリシーブは、前記回転軸の片持ち支持された部分に連結され、 前記第1の軸受は、前記回転軸の片持ち支持された部分以外の部分に設けられており、ニードル軸受からなっており、 前記第2の軸受は、 前記回転軸が挿通されるインナーリングと、 前記インナーリングの径方向の外側に、当該インナーリングと相対回転可能に配置されるアウターリングと、を備え、 前記回転体と前記第2の軸受の前記アウターリングとは、上記スペーサによって軸方向に所定の間隔をあけて保持される、エンジンユニット。」 第2 刊行物 (1)刊行物1 これに対して、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前の平成18年5月18日に頒布された特開2006-123791号公報(以下「刊行物1」という。)には、「自動二輪車」に関して、図面(特に、図5、図6参照。)とともに、次の事項が記載されている。 ア 「【0016】 後輪15を駆動するパワーユニット20は、メインフレーム部材4の下方に位置するようにフレーム2に支持されている。図3ないし図5に示すように、パワーユニット20は、例えば駆動源としての4サイクル単気筒エンジン21と、ベルト式連続無段変速装置(以下CVTと称する)22とを備えている。」 イ 「【0019】 図4および図5に示すように、クランクケース23の後部に伝動ケース31が一体に形成されている。伝動ケース31は、クランク軸25の後方に位置している。クランクケース23および伝動ケース31は、第1のケースブロック32aと第2のケースブロック32bとを有し、これらケースブロック32a,32bは互いに突き合わされている。 【0020】 本実施の形態では、第1および第2のケースブロック32a,32bは、自動二輪車1の車幅方向に分けられている。言い換えると、第1のケースブロック32aは、シリンダ24の軸線O1の左側に位置し、第2のケースブロック32bは、シリンダ24の軸線O1の右側に位置している。 【0021】 伝動ケース31は、遠心式クラッチ33と歯車変速機34を収容している。遠心式クラッチ33および歯車変速機34は動力伝達装置の一例であり、クランク軸25の後方において車幅方向に並んでいる。 【0022】 遠心式クラッチ33は、第2のケースブロック32bの後端部に位置している。第2のケースブロック32bは、遠心クラッチ33を出し入れする開口部35を有している。開口部35は、第2のケースブロック32bの後端部の右側面に開口するとともに、円盤状のクラッチカバー36で塞がれている。 【0023】 遠心式クラッチ33は、出力軸38の上に支持されている。出力軸38は、クラッチカバー36および第2のケースブロック32bに夫々軸受39を介して支持され、上記クランク軸25と平行をなしている。さらに、出力軸38の右端部は、クラッチカバー36を貫通して伝動ケース31の右側に突出している。 【0024】 図6に示すように、遠心式クラッチ33は、円筒状のクラッチハウジング40と、このクラッチハウジング40の内側に位置するクラッチボス41とを備えている。クラッチハウジング40は、出力軸38と一体に回転するように、この出力軸38の上に支持されている。 【0025】 クラッチハウジング40は、複数のクラッチ板42を支持している。クラッチ板42は、クラッチハウジング40と一体に回転するとともに、出力軸38の軸方向に間隔を存して同軸状に並んでいる。 【0026】 クラッチボス41は、クラッチ板42の内側に位置するとともに、その中心部を出力軸38が貫通している。クラッチボス41と出力軸38との間に円筒状の中継軸45が介在されている。中継軸45は、出力軸38の上に一対の軸受46を介して回転自在に支持されている。さらに、中継軸45は、クラッチボス41と一体に回転するように、このクラッチボス41と噛み合っている。中継軸45は、出力歯車47を有している。出力歯車47は、出力軸38の上でクラッチボス41と並んでいる。 【0027】 クラッチボス41は、複数のフリクションプレート48を支持している。フリクションプレート48は、ピン49を介して同軸状に保持されているとともに、クラッチボス41と一体に回転するようになっている。フリクションプレート48は、クラッチ板42の間に介在されて、これらクラッチ板42と向かい合っている。 【0028】 図6に示すように、クラッチハウジング40に複数のカム面51が形成されている。カム面51は、クラッチハウジング40の径方向外側に進むに従いクラッチ板42に近づく方向に傾斜している。各カム面51と、このカム面51と向かい合う一つのクラッチ板42との間にローラウエイト52が介在されている。 【0029】 ローラウエイト52は、クラッチハウジング40の回転により生じる遠心力に応じてクラッチハウジング40の径方向に移動する。具体的には、ローラウエイト52に加わる遠心力が予め決められた値に達した時点で、ローラウエイト52がクラッチハウジング40の径方向外側に向けて移動を開始するとともに、カム面51に追従してクラッチ板42に押し付けられる。この結果、クラッチ板42とフリクションプレート48とが互いに圧着し、遠心式クラッチ33がトルクの伝達を可能とするクラッチインの状態となる。 【0030】 ローラウエイト52に加わる遠心力が低下すると、ローラウエイト52がクラッチハウジング40の径方向内側に向けて移動する。これにより、クラッチ板42とフリクションプレート48との圧着が解除され、遠心式クラッチ33がトルクの伝達を断つクラッチオフの状態に移行する。 【0031】 上記歯車変速機34は、遠心式クラッチ33の出力端に位置している。この歯車変速機34は、第1の変速軸54と第2の変速軸55とを有している。第1の変速軸54は、伝動ケース31の後部に複数の軸受56を介して支持されている。第1の変速軸54の右端部に入力歯車57が固定されている。入力歯車57は、中継軸45上の出力歯車47と噛み合っている。この噛み合いにより、遠心式クラッチ33のクラッチボス41と第1の変速軸54とが一体に回転するようになっている。」 ウ 「【0041】 図5に示すように、上記CVT22は、第2のケースブロック32bの右側面に取り付けられている。CVT22は、クランクケース23の右側面と伝動ケース31の右側面との間に跨っており、パワーユニット20の前後方向に沿って延びている。 【0042】 CVT22は、CVTケース80、プライマリシーブ81、セカンダリシーブ82およびベルト83を備えている。CVTケース80は、パワーユニット20の前後方向に延びる中空の箱状をなしている。クランク軸25の右側のジャーナル部25bおよび出力軸38の右端部は、CVTケース80の内部に突出している。CVTケース80は、上記プライマリシーブ81、セカンダリシーブ82およびベルト83を収容している。 【0043】 プライマリシーブ81は、CVTケース80の前端部に位置するとともに、クランク軸25の右側のジャーナル部25bの上に支持されている。プライマリシーブ81は、固定シーブ体84と可動シーブ体85とを備えている。固定シーブ体84は、ジャーナル部25bの軸端に固定されて、クランク軸25と一体に回転するようになっている。可動シーブ体85は、ジャーナル部25bの上に支持されている。可動シーブ体85は、固定シーブ体84に近づいたり遠ざかる方向にスライド可能であるとともに、ジャーナル部25bの周方向に回転可能となっている。 【0044】 固定シーブ体84および可動シーブ体85は、径方向に沿う外側に進むに従い互いに遠ざかる方向に傾斜している。固定シーブ体84と可動シーブ体85との間に第1のベルト溝87が形成されている。第1のベルト溝87の幅は、可動シーブ体85のスライドにより調整可能となっている。 【0045】 ジャーナル部25bの上にカムプレート88が固定されている。カムプレート88はクランク軸25と一体に回転するとともに、可動シーブ体85と向かい合っている。カムプレート88と可動シーブ体85とは、一体に回転しつつ互いに近づいたり遠ざかる方向に移動可能となっている。 【0046】 可動シーブ体85は、カムプレート88と向かい合う複数のカム面89(一つのみを図示)を有している。各カム面89とカムプレート88との間にローラウエイト90が介在されている。ローラウエイト90は、クランク軸25の回転時に発生する遠心力に応じてカム面89に沿って移動する。この移動により、可動シーブ体85がジャーナル部25bの軸方向にスライドし、第1のベルト溝87の幅が変化するようになっている。 【0047】 セカンダリシーブ82は、CVTケース80の後端部に位置するとともに、出力軸38の右端部の上に支持されている。セカンダリシーブ82は、固定シーブ体92と可動シーブ体93とを備えている。固定シーブ体92は、その回転中心部に円筒状のカラー94を有している。カラー94は、出力軸38と一体に回転するように、出力軸38の右端部と噛み合っている。可動シーブ体93は、カラー94の上に軸方向にスライド可能に装着されているとともに、複数の係合ピン96を介してカラー94に引っ掛かっている。このため、可動シーブ体93は、固定シーブ体92と一体に回転しつつ、この固定シーブ体92に近づいたり遠ざかる方向に移動可能となっている。 【0048】 固定シーブ体92および可動シーブ体93は、径方向に沿う外側に進むに従い互いに遠ざかる方向に傾斜している。固定シーブ体92と可動シーブ体93との間に第2のベルト溝97が形成されている。第2のベルト溝97の幅は、可動シーブ体93のスライドにより調整可能となっている。さらに、可動シーブ体93は、圧縮コイルスプリング98を介して第2のベルト溝97の幅を減じる方向に付勢されている。 【0049】 図5および図6に示すように、セカンダリシーブ82は、出力軸38の上で遠心式クラッチ33と隣り合っている。プライマリシーブ81およびセカンダリシーブ82は、遠心式クラッチ33のクラッチハウジング40と同等の直径を有している。このため、CVTケース80の高さ寸法は、第2のケースブロック32bの高さ寸法と同等となっている。このCVTケース80の後端部では、CVTケース80が第1のケースブロック32aの後端部よりも上方に張り出している。 【0050】 上記ベルト83は、プライマリシーブ81のトルクをセカンダリシーブ82に伝えるためのものである。ベルト83は、プライマリシーブ81の第1のベルト溝87とセカンダリシーブ82の第2のベルト溝97との間に無端状に巻き掛けられている。 【0051】 エンジン21がアイドリング運転をしている時のようにクランク軸25の回転数が低い状態では、ローラウエイト90はプライマリシーブ81の回転中心部に片寄っている。このため、可動シーブ体85は固定シーブ体84から最も離れた位置にあり、プライマリシーブ81に対するベルト83の巻き掛け径が最小となっている。 【0052】 一方、セカンダリシーブ82では、可動シーブ体93が圧縮コイルスプリング98によって固定シーブ体92に最も近づく位置まで押圧されている。これにより、第2のベルト溝97に巻き掛けられたベルト83は、セカンダリシーブ82の外周部に押し出されており、セカンダリシーブ82に対するベルト83の巻き掛け径が最大となっている。よって、CVT22の変速比が最大となる。 【0053】 クランク軸25の回転数が上昇するに従い、ローラウエイト90に加わる遠心力が増大する。このため、ローラウエイト90が可動シーブ体85の径方向外側に向けて移動を開始するとともに、可動シーブ体85のカム面89に押し付けられる。このローラウエイト90の移動により、可動シーブ体85が固定シーブ体84に向けてスライドし、第1のベルト溝87の幅が狭まる。この結果、ベルト83がプライマリシーブ81の径方向外側に押し出され、プライマリシーブ81に対するベルト83の巻き掛け径が大きくなる。 【0054】 逆にセカンダリシーブ82にあっては、ベルト83がセカンダリシーブ82の回転中心部に向けて引っ張られる。これにより、可動シーブ体93が圧縮コイルスプリング98の付勢力に抗して固定シーブ体92から遠ざかる方向にスライドし、第2のベルト溝97の幅が広がる。このため、セカンダリシーブ82に対するベルト83の巻き掛け径が小さくなる。よって、CVT22の変速比が小さくなり、プライマリシーブ81に対するベルト83の巻き掛け径が最大となった時点でCVT22の変速比が最小となる。 【0055】 したがって、CVT22は、プライマリシーブ81およびセカンダリシーブ82に対するベルト83の巻き掛け径を変化させることで減速比を無段階的に変えている。セカンダリシーブ82に取り出されたトルクは、固定シーブ体92から出力軸38、遠心式クラッチ33、中継軸45を介して歯車変速機34に伝えられる。」 エ 図6において、一対の軸受39のうち、左側の軸受39の内外輪と中継軸45との間にわずかに隙間があることが窺える。 これに関して、上記イの段落【0023】の「出力軸38は、クラッチカバー36および第2のケースブロック32bに夫々軸受39を介して支持され」との記載及び図6からみて、前記軸受39の内輪は出力軸38と一体に回転し、同外輪はケースブロック32bに固定していることが分かる。一方、同段落【0026】の「クラッチボス41と出力軸38との間に円筒状の中継軸45が介在されている。中継軸45は、出力軸38の上に一対の軸受46を介して回転自在に支持されている。さらに、中継軸45は、クラッチボス41と一体に回転するように、このクラッチボス41と噛み合っている。」との記載、同段落【0030】の「クラッチ板42とフリクションプレート48との圧着が解除され、遠心式クラッチ33がトルクの伝達を断つクラッチオフの状態に移行する。」との記載、及び図6からみて、中継軸45及びクラッチボス41は、クラッチオフの状態になると、出力軸38からのトルクの伝達が断たれることになるから、前記軸受39の内輪と異なる回転をすることが分かる。 そうすると、異なる回転する中継軸45及びクラッチボス41と前記軸受39とを接触するように配置することは、部材の破損等を考慮すると、不合理であるから、図6には、中継軸45及びクラッチボス41と前記軸受39の内外輪との間に間隙を設けることが示されているといえる。 オ 上記イの段落【0023】の「出力軸38は、クラッチカバー36および第2のケースブロック32bに夫々軸受39を介して支持され」との記載、及び上記ウの段落【0047】の「セカンダリシーブ82は、・・・出力軸38の右端部の上に支持されている。」との記載を、図5と合わせみると、図5には、出力軸38は、軸受39を介して片持ち支持されており、セカンダリシーブ82は、前記出力軸38の片持ち支持された部分に連結され、軸受46は、前記出力軸38の片持ち支持された部分以外の部分に設けることが示されている。 これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「プライマリシーブ81と、セカンダリシーブ82と、前記プライマリシーブ81と前記セカンダリシーブ82とに巻き掛けられたベルト83と、を有するベルト式連続無段変速装置22と、 前記セカンダリシーブ82に連結され、前記セカンダリシーブ82から駆動力が与えられて回転する出力軸38と、 前記出力軸38が挿通される軸受46と、 前記軸受46が挿通される中継軸45及びクラッチボス41と、 前記出力軸38が挿通される軸受39と、 前記中継軸45及びクラッチボス41と前記軸受39との間に間隙と、を備え、 前記出力軸38は、前記軸受39を介して片持ち支持されており、 前記セカンダリシーブ82は、前記出力軸38の片持ち支持された部分に連結され、 前記軸受46は、前記出力軸38の片持ち支持された部分以外の部分に設けられており、 前記軸受39は、 前記出力軸38が挿通される内輪と、 前記内輪の径方向の外側に、当該内輪と相対回転可能に配置される外輪と、を備え、 前記中継軸45及びクラッチボス41と前記軸受39の前記外輪とは、軸方向に所定の間隔をあけて保持される、パワーユニット20。」 (2)刊行物2 同じく、原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開平4-165149号公報(以下「刊行物2」という。)には、「ベルト式無段変速機」に関して、図面(特に、第1図参照。)とともに、次の事項が記載されている。 ア 「前記アウトプットシャフト7は中間プレート4に設けたローラベアリング19とトランスミッションケース3に設けたボールベアリング20により支持され、その中央部にはドリブンプーリ24の固定側プーリ半体21が一体に形成される。アウトプットシャフト7の外周にはボールスプライン22を介して可動側プーリ半体23が軸方向移動自在、且つ相対回転不能に支持され、左側の固定側プーリ半体21と右側の可動側プーリ半体23によりドリブンプーリ24が構成される。・・・そして、前記両プーリ18、24の間には2条のストラップ25に多数の押し駒26を装着した無端ベルト27が巻き掛けられる。」(3頁左下欄11行?右下欄14行) イ 「アウトプットシャフト7の左端に設けられる多板式の発進用クラッチ61は、アウトプットシャフト7にスプライン結合されたクラッチアウタ62と該アウトプットシャフト7に一対のニードルベアリング63を介して支持されたクラッチセンタ64を備え、これらクラッチアウタ62とクラッチセンタ64間には多数の摩擦板が介装される。クラッチアウタ62の内部にはクラッチピストン65とキャンセラピストン66が配設され、クラッチアウタ62とクラッチピストン65の間には該発進用クラッチ61を係合させるための油室67が画成されるとともに、クラッチピストン65とキャンセラピストン66の間には内部にクラッチピストン65の戻しバネ68を縮設したキャンセラ69が画成される。」(5頁左上欄7行?右上欄4行) ウ 「フライホイールケース1と中間プレート4にそれぞれボールベアリング73とローラベアリング74を介して支持したリダクションシャフト75は第1中間ギア76と第2中間ギア77を備え、前記クラッチセンタ64の右端に一体に形成した出力ギヤ78がリダクションシャフト75の第1中間ギア76に噛合するとともに、第2中間ギア77が差動装置79の歯車箱80に設けたファイナルギヤ81に噛合する。」(5頁左下欄10行?右下欄1行) エ 「上述のようにしてドライブプーリ18が回転すると無端ベルト27を介してドリブンプーリ24が駆動され、そのドリブンプーリ24を支持するアウトプットシャフト7が回転する。この状態から発進用クラッチ61を係合させるべく、フィードパイプ71、油路7_(3)、および油路62_(1)を介して油室67に圧油を供給すると、クラッチアウタ62とクラッチセンタ64が一体に結合される。これにより、アウトプットシャフト7の回転はクラッチセンタ64に一体に形成した出力ギヤ78、およびリダクションシャフト75に一体に形成した第1中間ギア76と第2中間ギア77を介して差動装置79のファイナルギヤ81に伝達され、車両を前進させるべく左右の前輪を駆動するとともに、差動装置79の歯車箱80に設けたアウトプットギヤ83から図示せぬ動力伝達系を介して左右の後輪に駆動力を伝達する。」(6頁右上欄5行?左下欄4行) オ 「アウトプットシャフト7上に発進用クラッチ61を配置したことにより、該発進用クラッチ61の支持ベアリングが省略されて部品点数の減少が可能となる。」(8頁左下欄14行?左下欄17行) カ 第1図には、クラッチセンタ64の右端とローラベアリング19との間に部材を介装することが示されており、前記ローラベアリング19はアウトプットシャフト7を内輪とし、前記アウトプットシャフト7の径方向の外側に、当該アウトプットシャフト7と相対回転可能に配置される外輪を中間プレート4に固定し、前記クラッチセンタ64と前記ローラベアリング19の外輪とは、上記部材によって軸方向に所定の間隔をあけて保持されることが示されている。 これらの記載事項及び図面の図示内容を総合すると、刊行物2には、「ベルト式無段変速機」に関して、次の発明が記載されている。 「ドリブンプーリ24に連結され、前記ドリブンプーリ24から駆動力が与えられて回転するアウトプットシャフト7と、 前記アウトプットシャフト7が挿通されるニードルベアリング63と、 前記ニードルベアリング63が挿通されるクラッチセンタ64と、 前記アウトプットシャフト7が挿通されるローラベアリング19と、 前記クラッチセンタ64と前記ローラベアリング19との間に介装される部材と、を備え、 前記ローラベアリング19は、 前記アウトプットシャフト7を内輪とし、 前記アウトプットシャフト7の径方向の外側に、当該アウトプットシャフト7と相対回転可能に配置される外輪と、を備え、 前記クラッチセンタ64と前記ローラベアリング19の前記外輪とは、上記部材によって軸方向に所定の間隔をあけて保持される、ベルト式無段変速機。」 第3 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「プライマリシーブ81」は前者の「プライマリシーブ」に相当し、以下同様に、「セカンダリシーブ82」は「セカンダリシーブ」に、「出力軸38」は「回転軸」に、「軸受46」は「第1の軸受」に、「中継軸45及びクラッチボス41」は「回転体」に、「軸受39」は「第2の軸受」に、軸受39の「内輪」及び「外輪」は第2の軸受の「インナーリング」及び「アウターリング」に、「パワーユニット20」は「エンジンユニット」にそれぞれ相当する。 また、後者の「ベルト83」と前者の「Vベルト」とは「ベルト」という点で共通するから、同「ベルト式連続無段変速装置22」と同「Vベルト式無段変速機」とは「ベルト式無段変速機」である点で共通し、同「前記中継軸45及びクラッチボス41と前記軸受39との間に間隙を備え」ることと同「前記回転体と前記第2の軸受との間に介装されるスペーサとを備え」ることとは、「前記回転体と前記第2の軸受との間に間隙とを備え」るという限りで共通する。 したがって、両者は、 「プライマリシーブと、セカンダリシーブと、前記プライマリシーブと前記セカンダリシーブとに巻き掛けられたベルトと、を有するベルト式無段変速機と、 前記セカンダリシーブに連結され、前記セカンダリシーブから駆動力が与えられて回転する回転軸と、 前記回転軸が挿通される第1の軸受と、 前記第1の軸受が挿通される回転体と、 前記回転軸が挿通される第2の軸受と、 前記回転体と前記第2の軸受との間に間隙と、を備え、 前記回転軸は、前記第2の軸受を介して片持ち支持されており、 前記セカンダリシーブは、前記回転軸の片持ち支持された部分に連結され、 前記第1の軸受は、前記回転軸の片持ち支持された部分以外の部分に設けられており、 前記第2の軸受は、 前記回転軸が挿通されるインナーリングと、 前記インナーリングの径方向の外側に、当該インナーリングと相対回転可能に配置されるアウターリングと、を備え、 前記回転体と前記第2の軸受の前記アウターリングとは、軸方向に所定の間隔をあけて保持される、エンジンユニット。」 である点で一致し、以下の点で相違している。 〔相違点1〕 「ベルト」について、本願発明が「Vベルト」を用いた「Vベルト式無段変速機」であるのに対し、引用発明の「ベルト83」が「Vベルト」であるか明らかでない点。 〔相違点2〕 本願発明の第1の軸受が「ニードル軸受からなって」いるのに対し、引用発明の「軸受46」が「ニードル軸受」であるか明らかでない点。 〔相違点3〕 本願発明は、回転体と第2の軸受との間に「介装されるスペーサ」を備え、前記回転体と前記第2の軸受の前記アウターリングとが「上記スペーサによって」軸方向に所定の間隔をあけて保持されるのに対し、 引用発明が、中継軸45及びクラッチボス41と軸受39との間に間隙を備え、前記中継軸45及びクラッチボス41と前記軸受39の外輪とが軸方向に所定の間隔をあけて保持される点。 第4 当審の判断 そこで、各相違点について検討する。 1 相違点1について 引用発明のベルト83に関して、刊行物1の図6には、ベルト83がエ字状の部材とその隙間を埋める部材とからなることが示されている。 そして、ベルト式無段変速機の技術分野において、このような構造のベルトをもVベルトと称することから(例えば、国際公開第2005/008100号の[0028]の「57 Vベルト(伝動ベルト)」との記載及び図3の符合57の部材参照。)、相違点1は、実質的な相違点ではない。 2 相違点2について 引用発明と刊行物2に記載された発明とを比較すると、後者の「アウトプットシャフト7」は前者の「出力軸38」に、同「クラッチセンタ64」は同「中継軸45及びクラッチボス41」にそれぞれ対応する部材であり、後者の「クラッチセンタ64」が「アウトプットシャフト7」に挿通される構造は、前者の「中継軸45及びクラッチボス41」が「出力軸38」に挿通されることと構造において差異がない。 また、刊行物2のアウトプットシャフト7にスプライン結合された「クラッチアウタ62」は刊行物1の「クラッチハウジング40」に、以下同様に、「多数の摩擦板」は「クラッチ板42及びフリクションプレート48」に、クラッチセンタ64の右端に一体形成された「出力ギア78」は「出力歯車47」に、出力ギア78に噛合う「第1中間ギア76」は「入力歯車57」に対応する部材であり、刊行物2において動力がドリブンプーリ24からアウトプットシャフト7、クラッチアウタ62、多数の摩擦板、クラッチセンタ64、及び出力ギア78を介して、第1中間ギア76へ伝達される経路は、刊行物1において動力がセカンダリシーブ82から、出力軸38、クラッチハウジング40、クラッチ板42及びフリクションプレート48、中継軸45及びクラッチボス41、並びに出力歯車47を介して、入力歯車57へ伝達される経路と異なるところがない。 そして、当該動力伝達経路において、引用発明の「中継軸45及びクラッチボス41」がクラッチハウジング40と接続している場合に出力軸38と一体的に回転し、切断している場合に異なる回転をすることは、刊行物2に記載された発明の「クラッチセンタ64」がクラッチアウタ62と接続している場合にアウトプットシャフト7と一体的に回転し、切断している場合に異なる回転をすることと動作において差異がない。 そうすると、引用発明の「中継軸45及びクラッチボス41」と刊行物2に記載された発明の「クラッチセンタ64」とが配置される場所や動力伝達経路における動作において差異がないのであるから、引用発明に刊行物2に記載された発明を適用する動機付けがあり、刊行物2に記載された発明の「アウトプットシャフト7が挿通されるニードルベアリング63と、前記ニードルベアリング63が挿通されるクラッチセンタ64」との事項を参酌して、引用発明の「軸受46」を「ニードル軸受」とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 なお、審判請求人は、平成25年7月24日付け回答書において、「引用発明1(本審決中の刊行物1)は、セカンダリシーブが回転軸の片持ち支持された部分に連結されたものですが、引用発明2(本審決中の刊行物2)では、セカンダリシーブ24は回転軸7の両端支持された部分(ローラベアリング19とボールベアリング20とに支持された部分)に連結されています。引用発明1のベルト式無段変速機は遠心力を利用する形式ですが、引用発明2(本審決中の刊行物2)のベルト式無段変速機は油圧式であり、セカンダリシーブ24が油室36を備える関係上重量化しており、セカンダリシーブ24を回転軸7の片持ち支持部分に連結することはできないと思われます。」(【回答の内容】(2))と主張するが、引用発明に刊行物2に記載された発明を適用するにあたって、刊行物2のベルト式無段変速機が油圧式であることや、セカンダリシーブ24が両持ち支持されることが阻害要因となることはない。 3 相違点3について 刊行物1の図6及び刊行物2の第1図からみて、引用発明の軸受39が中継軸45及びクラッチボス41と隣接した位置で出力軸38を支持する点は、刊行物2に記載された発明のローラベアリング19がクラッチセンタ64と隣接した位置でアウトプットシャフト7を支持する点と共通している。 そうすると、刊行物2に記載された発明の「前記クラッチセンタ64と前記ローラベアリング19との間に介装される部材」を設けることによって「前記クラッチセンタ64と前記ローラベアリング19の前記外輪とは、上記部材によって軸方向に所定の間隔をあけて保持される」との事項を参酌して、引用発明において、中継軸45及びクラッチボス41と軸受39との間に「介装されるスペーサ」を備え、前記中継軸45及びクラッチボス41と前記軸受39の外輪とが「上記スペーサによって」軸方向に所定の間隔をあけて保持されるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 4 効果について 全体としてみて、本願発明が奏する効果は、引用発明及び刊行物2に記載された発明から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。 したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 なお、審判請求人は、平成25年7月24日付け回答書において、更なる減縮補正として補正案を示しているが、新たに「潤滑油供給機構」の具体的な構造を追加する補正は、いわゆる外的付加であって、請求項の限定的減縮に該当せず、解決しようとする課題を変更するもので、しかも、新たな特許性判断の調査を要することになるから、採用しない。 第5 むすび 本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-10-30 |
結審通知日 | 2013-11-12 |
審決日 | 2013-11-26 |
出願番号 | 特願2006-149612(P2006-149612) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F16H)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 広瀬 功次 |
特許庁審判長 |
森川 元嗣 |
特許庁審判官 |
冨岡 和人 島田 信一 |
発明の名称 | エンジンユニットおよび鞍乗型車両 |
代理人 | 後藤 高志 |