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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08L
管理番号 1283496
審判番号 不服2013-8405  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-08 
確定日 2014-01-28 
事件の表示 特願2006-260026「ポリアセタール樹脂組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成20年4月10日出願公開、特開2008-81530、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年9月26日を出願日とする特許出願であって、平成24年9月4日付けで拒絶理由が通知され、同年11月8日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、平成25年2月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年5月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年6月10日付けで前置報告がなされ、これに基づいて当審において平成25年6月27日付けで審尋がなされ、それに対して同年8月27日に回答書が提出されたものである。



第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、平成25年5月8日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び出願時の明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「(A) ポリアセタール樹脂100重量部、
(B) ベンゾトリアゾール系化合物から選ばれた化合物とヒンダードアミン系化合物から選ばれた化合物の組み合わせからなる耐候(光)安定剤0.01?5重量部、
(C) ゴム状ポリマーのコアとビニル系共重合体からなるガラス状ポリマーのシェルとを有するコアシェルポリマー1?50重量部及び
(D) イソシアネート化合物、イソチオシアネート化合物及びそれらの変性体からなる群から選ばれた化合物0.01?5重量部を含有しており、
ポリアセタール樹脂(A) 100重量部に対し、更にグアナミン化合物、ヒドラジド化合物及びトリアジン化合物から選ばれた化合物の1種または2種以上を0.01?3重量部含むものであるポリアセタール樹脂組成物。」



第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、要するに、本願の請求項1?7に係る発明は、本願の出願日前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明及び同引用文献2?4に開示の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
引用文献1:特開平7-165935号公報
引用文献2:特開平7-195496号公報
引用文献3:特開平7-195476号公報
引用文献4:国際公開第2004/058875号



第4 当審の判断
1.引用文献1の記載
査定の理由で引用された引用文献1には,次の記載がある。

ア 「(A) ポリアセタール樹脂 100重量部に、(B) 溶融フロー温度が210 ℃以下のポリアルキレンテレフタレート系共重合体1?100 重量部、および(C) ゴム状ポリマーのコアとビニル系共重合体からなるポリマーのシェルを有するコアシェルポリマーおよび/または(D) イソシアネートあるいはイソチオシアネート化合物もしくはそれらの変性体 0.1?15重量部を添加配合してなるポリアセタール樹脂組成物の成形品に含浸印刷を施してなることを特徴とする含浸印刷の施された成形品。」(特許請求の範囲請求項1)

イ 「本発明に使用される好ましい(D) イソシアネート又はイソチオシアネート化合物またはそれらの変性体としては、一般式 O=C=N-R-N=C=O 又は S=C=N-R-N=C=S(R ;2価の基)で表される化合物およびそれらの変性体である。・・・
かかる効果は粘度上昇から見て、成分が溶融処理時にポリアセタール樹脂(A)および/またはポリアルキレンテレフタレート系樹脂(B) と反応し、場合により一部三次元化構造をとり、(A), (B)両者の親和性を高め、あるいは界面の密着性を向上させているものと推定される。ここで用いられる相溶化剤(C) および/または(D) の配合量はポリアセタール樹脂 100重量部に対し 0.1?15重量部、好ましくは2?10重量部である。(C) 、(D) 成分の量が少なすぎると、成形品の表面均一性等が十分でなく、また過剰に添加しすぎると、流動性が低下し射出成形に支障をきたす事がある為好ましくない。」(段落0007)

ウ 「本発明の組成物は、含浸印刷性を損なわない範囲で、目的に応じてさらに公知の各種安定剤を添加して安定性を補強することが望ましい。使用される安定剤としては酸化防止剤、耐熱安定剤(分解防止剤)、耐候(光)安定剤等が特に重要である。酸化防止剤としては、立体障害性フェノールまたはアミン類等、耐熱安定剤としては、金属の水酸化物や無機塩、脂肪酸の金属塩、アミジン化合物やアミド化合物の如き窒素含有化合物等、耐候(光)安定剤としては、ベンゾトリアゾール系物質、ベンゾフェノン系物質、芳香族ベンゾエート系物質、ヒンダードアミン系物質(立体障害性基を持つピペリジン誘導体)等が一般的に用いられる。」(段落0008)

エ 「【発明の効果】以上の説明および実施例により明らかなように、ポリアセタール樹脂に、特定のポリアルキレンテレフタレート系共重合体および特定のコアシェルポリマーおよび/またはイソシアネート系化合物を配合した組成物の成形品を被印刷基体とする事によって、ポリアセタール単独の樹脂成形品に比べて著しく含浸印刷性が改良され、鮮明で、インキの密着性が良く、加熱処理などによるインキの滲みが著しく少なく、磨耗耐久性にも優れた含浸印刷成形品を得る事が可能になった。」(段落0017)

2.引用発明
上記摘示アから、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「(A) ポリアセタール樹脂 100重量部に、(B) 溶融フロー温度が210 ℃以下のポリアルキレンテレフタレート系共重合体1?100 重量部、および(C) ゴム状ポリマーのコアとビニル系共重合体からなるポリマーのシェルを有するコアシェルポリマーおよび/または(D) イソシアネートあるいはイソチオシアネート化合物もしくはそれらの変性体 0.1?15重量部を添加配合してなるポリアセタール樹脂組成物」

3.対比
本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「(A) ポリアセタール樹脂」、「(C) ゴム状ポリマーのコアとビニル系共重合体からなるポリマーのシェルを有するコアシェルポリマー」及び「(D) イソシアネートあるいはイソチオシアネート化合物もしくはそれらの変性体」は、本願発明の「(A) ポリアセタール樹脂」、「(C) ゴム状ポリマーのコアとビニル系共重合体からなるガラス状ポリマーのシェルとを有するコアシェルポリマー」及び「(D) イソシアネート化合物、イソチオシアネート化合物及びそれらの変性体からなる群から選ばれた化合物」にそれぞれ相当し、それらの配合割合についても重複一致している。
そうすると、両者は、次の点で一致し(一致点)、次の点で相違する(相違点)といえる。

○一致点
(A) ポリアセタール樹脂100重量部、
(C) ゴム状ポリマーのコアとビニル系共重合体からなるガラス状ポリマーのシェルとを有するコアシェルポリマー1?50重量部及び
(D) イソシアネート化合物、イソチオシアネート化合物及びそれらの変性体からなる群から選ばれた化合物0.01?5重量部を含有してなる、
ポリアセタール樹脂組成物。

○相違点
樹脂組成物を構成する要素について,ポリアセタール樹脂(A) 100重量部に対し、本願発明は、「(B) ベンゾトリアゾール系化合物から選ばれた化合物とヒンダードアミン系化合物から選ばれた化合物の組み合わせからなる耐候(光)安定剤0.01?5重量部」及び「更にグアナミン化合物、ヒドラジド化合物及びトリアジン化合物から選ばれた化合物の1種または2種以上を0.01?3重量部」を含有するものであるのに対し、引用発明は、特に規定していない点

4.相違点についての判断
引用文献1に記載された発明は、「ポリアセタール樹脂に、特定のポリアルキレンテレフタレート系共重合体および特定のコアシェルポリマーおよび/またはイソシアネート系化合物を配合した組成物の成形品を被印刷基体とする事によって、ポリアセタール単独の樹脂成形品に比べて著しく含浸印刷性が改良され、鮮明で、インキの密着性が良く、加熱処理などによるインキの滲みが著しく少なく、磨耗耐久性にも優れた含浸印刷成形品を得る」(摘示エ)という課題解決を図るものであって、これは、本願発明における「従来技術を改善し、耐候性に優れ、表面光沢が抑制され、かつホルムアルデヒドの発生量が著しく低減されたポリアセタール樹脂材料を提供する」(出願時の明細書の段落0012)という課題とは全く相違するものである。そして、(C)及び(D)成分の配合目的も「相溶化剤」として用いられており、かかる「成分が溶融処理時にポリアセタール樹脂(A)および/またはポリアルキレンテレフタレート系樹脂(B) と反応し、場合により一部三次元化構造をとり、(A), (B)両者の親和性を高め、あるいは界面の密着性を向上させているものと推定される」(摘示イ)と記載されているとおりであって、本願発明における「表面光沢の低減」とはその働きを異にするものである。
そして、引用文献1において、さらに添加することができる各種安定剤の例示の中に「耐候(光)安定剤としては、ベンゾトリアゾール系物質、ベンゾフェノン系物質、芳香族ベンゾエート系物質、ヒンダードアミン系物質(立体障害性基を持つピペリジン誘導体)等が一般的に用いられる」(摘示ウ)と記載されているとしても、これらの耐候(光)安定剤を添加する目的は、あくまでも耐候(光)安定性の改良に留まるものでしかない。
また、引用文献4には、ポリアセタール樹脂に酸化防止剤及び特定構造のグアナミン化合物を添加することによりホルムアルデヒド発生量が著しく抑制されたポリアセタール樹脂組成物が得られたことが記載されている(特許請求の範囲等)ものの、(C)及び(D)成分の添加については一切記載されておらず、表面光沢についても一切記載されていない。
ここで、ポリアセタール樹脂組成物において、添加成分によって目的とする特性以外の特性がどのように変化するか予測することは、たとえその発明の技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)であっても困難である。
一方、本願発明においては、上記した構成とすることによって、耐候性に優れ、表面光沢が抑制され、かつホルムアルデヒドの発生が著しく低減された、という3つの性質を同時に兼ね備えたポリアセタール樹脂組成物が得られることは、本願の明細書中の記載からみて明らかであり、これは、たとえ当業者であっても予測できるとはいえないし、特に、(D)成分を含有することによって、グアナミン化合物、ヒドラジド化合物及びトリアジン化合物というホルムアルデヒド捕捉剤を配合しても低光沢性が損なわれないことまでを予測し得るとはいえない。
そうであれば、引用発明において、耐候性に優れ、表面光沢が抑制され、かつホルムアルデヒドの発生が著しく低減されたポリアセタール樹脂組成物を得ることを目的として、耐候(光)安定剤として例示されたもののなかから、特に「ベンゾトリアゾール系物質」及び「ヒンダードアミン系物質(立体障害性基を持つピペリジン誘導体)」を併用して添加し、さらに加えて、引用文献4に記載された特定構造のグアナミン化合物を添加することを想到するのは、もはや当業者であっても容易であるとはいえない。

なお、原査定においては、なお書きで、さらに引用文献5(特開平5-179104号公報)を引用して、本願発明が拒絶されるべきであると付記しているが、この文献について検討すると、以下のとおりである。

引用文献5には、「(A) ポリアセタール樹脂 100重量部に
(B) 耐候(光)性安定剤0.01?5重量部および
(C) ゴム状ポリマーのコアと含酸素極性基を有するビニル系共重合体からなる
ガラス状ポリマーのシェルを有するコアシェルポリマー1?50重量部
を添加配合してなる低光沢性を有する耐候性ポリアセタール樹脂組成物。
」(特許請求の範囲請求項1)が記載されており、(B) 耐候(光)性安定剤としては、「ベンゾトリアゾール系物質とヒンダードアミン系物質の併用が最も好ましい」と記載されているものの、(D)成分及び「グアナミン化合物、ヒドラジド化合物及びトリアジン化合物から選ばれた化合物の1種または2種以上」の添加については一切記載されておらず、ホルムアルデヒドの発生を低減させることについても一切記載されていない。そして、引用文献5には、低光沢性であると記載されているものの、(D)成分を含有しないことから、本願の明細書の実施例と比較例との対比からすると、その低光沢性の程度は本願発明におけるよりも劣るものであると認められる。
そうであれば、たとえ引用文献5の記載を参酌したとしても、せいぜい引用発明において、耐候(光)安定剤として例示されたもののなかから、「ベンゾトリアゾール系物質」及び「ヒンダードアミン系物質(立体障害性基を持つピペリジン誘導体)」を併用して添加することを想到するに留まるのであって、さらに加えて、引用文献4に記載された特定構造のグアナミン化合物を添加することを想到し、その場合に奏される上記した効果を予測することは、もはや当業者であっても容易であるとはいえない。

6.小活
以上のとおりであるから、本願発明は引用文献1に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。
また、本願発明が引用文献1に記載された発明から想到容易であるといえないのは上述のとおりであるから、請求項1を直接的または間接的に引用してなる請求項2?7に係る発明についても同様に、いわゆる進歩性を否定することはできない。



第5 むすび
以上のとおり、本願は、原査定の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-01-15 
出願番号 特願2006-260026(P2006-260026)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C08L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 阪野 誠司  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 加賀 直人
田口 昌浩
発明の名称 ポリアセタール樹脂組成物  
代理人 溝部 孝彦  
代理人 古谷 聡  
代理人 義経 和昌  

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