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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06F |
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管理番号 | 1283548 |
審判番号 | 不服2011-24534 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2011-11-14 |
確定日 | 2014-01-06 |
事件の表示 | 特願2006-522473「文書スクロール方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 2月17日国際公開、WO2005/015380、平成19年 2月 1日国内公表、特表2007-501973〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.出願の経緯 本願は、2004年7月30日(パリ条約による優先権主張2003年8月8日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成22年2月3日付けで拒絶理由が通知され、同年8月20日付けで手続補正がなされたが、平成23年7月6日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年11月14日に拒絶査定不服の審判が請求されるとともに、同時に手続補正がなされ、平成24年12月20日付けで当審で拒絶理由が通知され、平成25年7月5日付けで手続補正がなされたものである。 第2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成25年7月5日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 文書内の焦点位置及び少なくとも1つの座標方向に関するズーム係数により決定される当該文書の少なくとも一部を表示画面上に提示する提示手段を有する、文書をスクロールするためのシステムであって、 前記提示手段は、ユーザにより与えられるスクロールコマンドに応答して前記焦点位置を調整することが可能であって、 前記提示手段は、 (i)前記スクロールコマンドの特徴に応じて、スクロールボタンの延長された操作においてズームアウト中に漸進的にズーム係数を自動調整し、 (ii)前記焦点が前記表示画面の端に到達し、所定の期間前記表示画面の端に留まると、前記ズーム係数を自動調整するよう構成され、 特定の座標方向への前記焦点位置の相対的に大きな調整は、少なくとも前記座標方向への前記文書のズームアウトを行わせることを特徴とするシステム。」 第3.引用例 当審の拒絶理由で引用した本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平5-257457号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の技術事項が記載されている。 a)「【請求項1】 画面データを表示するディスプレイ装置(12)を備え,スクロール指示に対し画面をスクロールするスクロール制御システムにおいて,画面をスクロールさせるイベントを検出するスクロールイベント検出部(14)と,スクロールイベントの検出により,表示画面の内容を指定された方向へ移動させる画面スクロールを行うスクロール制御部(16)とを備えるとともに,前記スクロール制御部(16)は,画面のスクロール時に,画面への表示情報量が増えるように表示画面データを縮小するデータ縮小処理部(17)を備えることを特徴とするスクロール制御システム。 【請求項2】 請求項1記載のスクロール制御システムにおいて,前記データ縮小処理部(17)は,スクロールイベントが所定の回数または所定の時間連続しているときに,表示画面データを縮小する処理を行うように構成されていることを特徴とするスクロール制御システム。」(【請求項1】、【請求項2】の記載。下線は、当審で付与。以下、同様。) b)「【請求項4】 画面データを表示するディスプレイ装置(12)を備えた装置におけるスクロール制御方法において,画面をスクロールする際に,表示画面データを縮小化させてスクロールを行う処理過程と,表示画面データの縮小率を画面スクロール時間に応じて変化させる処理過程とを有することを特徴とするスクロール制御方法。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,ディスプレイ装置にテキストデータを表示させて編集等を行うような計算機システムにおいて,データ表示画面のスクロール制御を行うスクロール制御システムおよびスクロール制御方法に関する。」(【請求項4】?【0001】の記載。) c)「【0007】 【課題を解決するための手段】図1は本発明の原理説明図である。図中,10はキーボードやマウス等の入力装置,11は特定のキー等による縮小画面スクロール指示手段,12はデータを表示するディスプレイ装置,13は,CPUおよびメモリなどからなる処理装置,14はスクロールイベント検出部,15は編集するテキストデータなどの画面データを記憶する画面データ記憶部,16はスクロール制御部,17はデータ縮小処理部,18は指示された表示用のデータをディスプレイ装置12に表示する制御を行う表示制御部を表す。 【0008】スクロールイベント検出部14は,入力装置10からのカーソル移動キーまたはスクロールキーなどの入力により,画面をスクロールさせるイベントを検出する処理手段である。スクロール制御部16は,スクロールイベント検出部14によるスクロールイベントの検出により,表示画面の内容を指定された方向へ移動させる画面スクロールを行う処理手段である。」(【0007】、【0008】の記載。) d)「【0014】 【作用】ディスプレイ装置12に,図1の(ロ)に示す表示画面(a) が表示されているときに,縮小画面スクロール指示手段11または通常のカーソル移動キー等により,スクロールの指示が行われると,データ縮小処理部17は,画面データ記憶部15に格納されている画面データの表示範囲を広くするために,表示画面データを縮小する処理を行う。これにより,ディスプレイ装置12には,画面スクロールの間,表示画面(b) のように,より多くの画面データが表示される。 【0015】表示画面データを縮小化する契機は,例えばスクロールが所定の時間以上もしくは所定の回数以上続いたとき,または従来のカーソル移動キーやスクロールキーの他に設けられた特定のキーによる縮小画面スクロール指示キーが押下されたときである。 【0016】スクロール時に表示画面データを縮小化させることにより,画面の情報量が増え,スクロールによる検索を容易に行うことができるようになる。また,表示画面データの縮小率を画面スクロール時間に応じて変化させ,スクロール時間が長い場合には縮小率を大きくすることにより,特定データの検索などを,さらに容易化することができるようになる。 【0017】 【実施例】図2は本発明の実施例フローチャートを示す。以下,図2に示す処理(1)?(9)に従って説明する。この例では,カーソル移動キーが押下され,カーソルが表示中の画面データから外れるときに,スクロールが行なわれる。 【0018】(1) キーボードからの何らかの入力があったならば,そのキーボードイベントを獲得する。 (2) 上方向または下方向のカーソル移動キーによる上下スクロールに関するイベントかどうかを判定し,そうでなければ,処理(8)へ移る。 【0019】(3) 上方向のカーソル移動キーの場合,現在カーソルが画面最上行にあるかどうかを判定する。画面最上行にある場合,処理(5)へ移る。また,下方向のカーソル移動キーの場合,現在カーソルが画面最下行にあるかどうかを判定する。画面最下行にある場合,処理(5)へ移る。 【0020】(4) カーソル位置が画面最上行または画面最下行でない場合,画面データの表示はそのままにして,カーソル移動の処理を行う。その後,処理(1)へ戻り,次のキーボードイベントを待つ。 【0021】(5) カーソルが画面最上行または画面最下行にあり,スクロールが必要な場合,カーソルイベントが連続してn回あったかどうかを判定する。nは,システムであらかじめ決められた所定値,またはユーザが環境定義などにより事前に設定した値である。n回連続していない場合,処理(7)へ進む。 【0022】(6) カーソルイベントがn回連続したならば,画面に表示する文字フォントサイズを縮小する。 (7) 画面スクロール処理を次のように行う。 【0023】・カーソル下スクロールの場合,表示画面における現在の最下行の後に,次行のテキストを挿入する。 ・カーソル上スクロールの場合,表示画面における現在の最上行の前に,前行のテキストを挿入する。 【0024】その後,処理(1)へ戻り,次のキーボードイベントを待つ。 (8) 上下スクロールイベントでない場合,前回のイベントが上下スクロールイベントであったかどうかを判定する。前回も上下スクロールイベントではないときには,今回要求されたイベントの処理を行う。 【0025】(9) 前回のイベントが上下スクロールイベントの場合,文字フォントサイズが縮小されているかどうかを調べ,縮小されている場合には表示している文字フォントサイズを標準のサイズに復元する。その後,今回要求されたイベントの処理を行う。」(【0014】?【0025】の記載。)(当審注:○に数字は、()に数字とした。) e)「【0027】図3は本発明の実施例に係るスクロール制御の例を示す図である。図3において,30-1?30-4はディスプレイ装置の表示画面,31は画面データ記憶部15に記憶されている表示対象のテキストデータ,a?fは表示範囲を表す。 【0028】(イ)表示画面30-1は,スクロール開始前の基本サイズの画面であり,aの範囲のテキストデータ31を表示している。 (ロ)基本サイズの表示画面30-1において,縮小画面スクロール指示手段11により,スクロール指示があると,表示するテキストデータ31の文字フォントを縮小することにより,aより広いbの範囲のテキストデータ31を表示画面30-2に表示し,その表示範囲の大きさで画面スクロールを行う。 【0029】(ハ)所定時間連続してスクロールが行われると,さらに文字フォントサイズを縮小する処理を行う。これにより,テキストデータ31の表示範囲cは,dまで広げられて,表示画面30-3のように表示される。 【0030】(ニ)テキストデータ31について,eの範囲が縮小されて表示されているときに,縮小画面スクロール指示手段11によるスクロール指示が終了すると,表示画面30-4は,基本サイズの表示範囲fを表示するように戻される。」(【0027】?【0030】の記載。) 上記引用例1記載の事項及び図面より、引用例1には以下の発明(以下「引用例1記載の発明」という。)が記載されていると認められる。 「テキストデータを表示する計算機システムにおいて、 画面データを表示するディスプレイ装置(12)を備え,スクロール指示に対し画面をスクロールするスクロール制御システムにおいて,画面をスクロールさせるイベントを検出するスクロールイベント検出部(14)と,スクロールイベントの検出により,表示画面の内容を指定された方向へ移動させる画面スクロールを行うスクロール制御部(16)とを備えるとともに,前記スクロール制御部(16)は,画面のスクロール時に,画面への表示情報量が増えるように表示画面データを縮小するデータ縮小処理部(17)を備えることを特徴とするスクロール制御システムであり, 前記データ縮小処理部(17)は,スクロールイベントが所定の回数または所定の時間連続しているときに,表示画面データを縮小化する処理を行うように構成され,また,表示画面データの縮小化は,表示画面データの縮小率を画面スクロール時間に応じて変化させ,スクロール時間が長い場合には縮小率を大きくすることにより,特定データの検索などを,さらに容易化することができるようにし, カーソル移動キーが押下され,カーソルが表示中の画面データから外れるときに,表示画面のスクロールが行なわれる例では, キーボードからの何らかの入力があったならば,そのキーボードイベントを獲得し, 上方向または下方向のカーソル移動キーによる上下スクロールに関するイベントかどうかを判定し, 下方向のカーソル移動キーの場合,現在カーソルが画面最下行にあるかどうかを判定し, カーソルが画面最下行にあり,スクロールが必要な場合,カーソルイベントが連続してn回あったかどうかを判定し, カーソルイベントがn回連続したならば,画面に表示する文字フォントサイズを縮小し, カーソル下スクロールの場合,表示画面における現在の最下行の後に,次行のテキストを挿入する, スクロール制御システム。」 当審の拒絶理由で引用した本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平8-69515号公報(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の技術事項が記載されている。 f)「【0025】以下、一例として、3秒をスクロールキーの連続押し時間の目安として、説明を続ける。また、出発点から予め登録した登録地(目的地)付近まで地図をスクロールさせて登録地(目的地)付近の地図を確認する場合を例に挙げる。 【0026】図1では、最初の縮尺を1/1.25万としている。(出発点では位置確認をしたいことが多いので、縮尺の小さい地図になっている場合が多い。)スクロールキーの押し時間が3秒経過すると、縮尺が1段階大きくされて1/2.5万になり、さらに3秒経過すると、さらに1段階大きくされて1/5万になり、以下同様にして、スクロールキーの押し時間が3秒経過するごとに、段階的に縮尺は大きくされていく。 【0027】地図の縮尺が大きくなっていけば、スクロールの速さは同じであっても、スクロールされる地図上の距離は長くなる。すなわち、連続スクロールの速さが速くなっていく高速スクロールと等価の働きをする。したがって、登録地(目的地)までのスクロール時間が短縮されて、ジョイスティックのレバーを押す時間が短くてすみ、待ち時間も短くなる。」(【0025】?【0027】の記載。) 第4.対比・判断 次に、本願発明を引用例1記載の発明と比較する。 ア)引用例1記載の発明は、「テキストデータを表示する計算機システム」において、「カーソル移動キーが押下され,カーソルが表示中の画面データから外れるときに,スクロールが行なわれる」ものであるから、引用例1記載の発明の「カーソル」は、本願発明の「文書内の焦点位置」に相当し、引用例1記載の発明が、本願発明の「文書内の焦点位置」「を表示画面上に提示する提示手段」を有することは明らかである。 イ)引用例1記載の発明は、「テキストデータを表示する計算機システム」において、「画面への表示情報量が増えるように表示画面データを縮小するデータ縮小処理部(17)を備える」ものであり、また、引用例1記載の発明において、表示画面データの縮小は、所定の「縮小率」(上記摘記事項d)第【0016】段落参照)で行われているから、該「縮小率」が、本願発明の「少なくとも1つの座標方向に関するズーム係数」に相当するといえ、引用例1記載の発明の「データ縮小処理部(17)」で縮小された「表示画面データ」は、本願発明の「少なくとも1つの座標方向に関するズーム係数により決定される当該文書の少なくとも一部」に相当するといえ、引用例1記載の発明は、本願発明の「少なくとも1つの座標方向に関するズーム係数により決定される当該文書の少なくとも一部を表示画面上に提示する提示手段」を有するといえる。 ウ)引用例1記載の発明は、「テキストデータを表示する」ものであり、「表示画面の内容を指定された方向へ移動させる画面スクロールを行うスクロール制御部(16)とを備える」「スクロール制御システム」であるから、引用例1記載の発明の「スクロール制御システム」は、本願発明の「文書をスクロールするためのシステム」に相当する。 エ)引用例1記載の発明は、「カーソル移動キーが押下され,カーソルが表示中の画面データから外れるときに,スクロールが行なわれる」ものであるから、引用例1記載の発明の「カーソル移動キーが押下され」ることが、本願発明の「ユーザにより与えられるスクロールコマンド」に、引用例1記載の発明の「カーソル移動」が、本願発明の「焦点位置を調整すること」に相当し、また、引用例1記載の発明において、「カーソル」や「テキスト」を画面上に提示している手段が前記「カーソル移動」や「スクロール」を行うことは明らかであるから、引用例1記載の発明の「カーソル移動キーが押下され,カーソルが表示中の画面データから外れるときに,スクロールが行なわれる」ことは、本願発明の「前記提示手段は、ユーザーにより与えられるスクロールコマンドに応答して前記焦点位置を調整することが可能であ」ることに相当するといえる。 オ)本願の明細書には、「スクロールコマンドの特徴が所定の基準を満たしているか判断される。このような特徴の例として、コマンドの長さ、・・・があげられる。対応する基準としてはそれぞれ、上記長さが閾値を超えたり、・・・があげられる。上記基準を満たす場合、・・・ズーム係数が低減される。すなわち、システムは当該文書をズームアウトする。このズームアウト処理は、瞬間的又は漸進的行われてもよい。例えば、スクロールコマンドの迅速な繰り返しに応答して、ズーム係数は各コマンドの後、一定量又は一定の比率だけ低減されてもよい。あるいは、スクロールボタンの延長された処理に応答して、ユーザがボタンを操作し続ける間、ズーム係数が漸進的に低減される。」(本願の明細書段落【0027】の記載。)と記載されているから、本願発明の「スクロールコマンドの特徴」には少なくとも「コマンドの長さ」が含まれ、本願発明の「スクロールボタンの延長された操作」は「コマンドの長さ」が「閾値を超え」るように「スクロールボタン」を「ユーザがボタンを操作し続ける」ことを含み、本願発明の「ズームアウト中に漸進的にズーム係数を自動調整」することは「ボタンを操作し続ける間、ズーム係数が漸進的に低減される」ことを含むものといえる。 よって、本願発明の「(i)前記スクロールコマンドの特徴に応じて、スクロールボタンの延長された操作においてズームアウト中に漸進的にズーム係数を自動調整」することは、「前記スクロールコマンドの長さに応じて、スクロールコマンドの長さが閾値を超えるようにユーザがスクロールボタンを操作し続ける間、ズーム係数が漸進的に低減」されることを含むものといえる。 一方、引用例1記載の発明は、「画面への表示情報量が増えるように表示画面データを縮小するデータ縮小処理部(17)」は、「スクロールイベントが所定の回数または所定の時間連続しているときに,表示画面データを縮小する処理を行」い、「画面表示データの縮小化」を所定の「縮小率」で行うものであり、「スクロールイベント」は「カーソル移動キーまたはスクロールキーなどの入力により,画面をスクロールさせるイベント」(上記摘記事項c)第【0008】段落参照)であるから、引用例1記載の発明の「スクロールイベントが」「所定の時間連続しているとき」は本願発明の「前記スクロールコマンドの長さに応じて、スクロールコマンドの長さが閾値を超えるようにユーザがスクロールボタンを操作し続ける間」に相当し、引用例1記載の発明の「表示画面データを縮小する処理を行う」ことは本願発明の「ズーム係数が漸進的に低減」することと「ズーム係数が低減」する点で共通するといえる。 よって、引用例1記載の発明は、本願発明の「(i)前記スクロールコマンドの特徴に応じて、スクロールボタンの延長された操作においてズームアウト中に漸進的にズーム係数を自動調整」することと「(i)前記スクロールコマンドの特徴に応じて、スクロールボタンの延長された操作においてズームアウト中にズーム係数を自動調整」する点で共通するといえる。 カ)引用例1記載の発明において、「カーソルが画面最下行にあり」、「カーソルイベントがn回連続したならば,画面に表示する文字フォントサイズを縮小」し、「スクロールイベントが所定の回数または所定の時間連続しているときに,表示画面データを縮小する処理を行」い、「画面表示データの縮小化」を所定の「縮小率」で行うことは、本願発明の「(ii)前記焦点が前記表示画面の端に到達し、所定の期間前記表示画面の端に留まると、前記ズーム係数を自動調整するよう構成され」ることに相当する。 キ)引用例1記載の発明は、「スクロールイベントが所定の回数または所定の時間連続しているときに,表示画面データを縮小する処理を行う」ものであり、「スクロールイベント」は「カーソル移動キーまたはスクロールキーなどの入力により,画面をスクロールさせるイベント」(上記摘記事項c)第【0008】段落参照)であるから、引用例1記載の発明の「スクロールイベントが所定の回数または所定の時間連続しているとき」は本願発明の「特定の座標方向への前記焦点位置の相対的に大きな調整」に、引用例1記載の発明の「表示画面データを縮小する処理」は本願発明の「ズームアウトを行わせること」に相当し、引用例1記載の発明の「テキストデータを表示する計算機システム」が「スクロールイベントが所定の回数または所定の時間連続しているときに,表示画面データを縮小する処理を行う」ことは、本願発明の「特定の座標方向への前記焦点位置の相対的に大きな調整は、少なくとも前記座標方向への前記文書のズームアウトを行わせること」に相当するといえる。 したがって本願発明と引用例1記載の発明とは、 「文書内の焦点位置及び少なくとも1つの座標方向に関するズーム係数により決定される当該文書の少なくとも一部を表示画面上に提示する提示手段を有する、文書をスクロールするためのシステムであって、 前記提示手段は、ユーザにより与えられるスクロールコマンドに応答して前記焦点位置を調整することが可能であって、 前記提示手段は、 (i)前記スクロールコマンドの特徴に応じて、スクロールボタンの延長された操作においてズームアウト中にズーム係数を自動調整し、 (ii)前記焦点が前記表示画面の端に到達し、所定の期間前記表示画面の端に留まると、前記ズーム係数を自動調整するよう構成され、 特定の座標方向への前記焦点位置の相対的に大きな調整は、少なくとも前記座標方向への前記文書のズームアウトを行わせることを特徴とするシステム。」 の点で一致し、次の点で相違する。 [相違点1] 本願発明は、「漸進的にズーム係数を自動調整」するのに対し、引用例1記載の発明では、「画面に表示する文字フォントサイズを縮小」し、「画面表示データの縮小化」を所定の「縮小率」で行なっている点。 [相違点1]について 引用例1記載の発明は「前記データ縮小処理部(17)は,スクロールイベントが所定の回数または所定の時間連続しているときに,表示画面データを縮小化する処理を行うように構成」すること、及び、「表示画面データの縮小率を画面スクロール時間に応じて変化させ,スクロール時間が長い場合には縮小率を大きくすることにより,特定データの検索などを,さらに容易化することができるように」したものであり、この「さらに容易化する」ための構成が、「表示画面データの縮小率」を「画面スクロール時間」に応じて「漸次的に変化」させることを示唆していることは当業者にとって明らかなことである。 さらに、引用例2には、上記摘記事項f)第【0026】、【0027】段落に「スクロールキーの押し時間が3秒経過すると、縮尺が1段階大きくされて1/2.5万になり、さらに3秒経過すると、さらに1段階大きくされて1/5万になり、以下同様にして、スクロールキーの押し時間が3秒経過するごとに、段階的に縮尺は大きくされていく。」ことで、「登録地(目的地)までのスクロール時間が短縮されて、ジョイスティックのレバーを押す時間が短くてすみ、待ち時間も短くなる。」ことが記載されている。 また、「漸進」とは「段階を追って次第に進むこと。「?的」」[株式会社岩波書店 広辞苑第六版]を通常意味するから、引用例2には、スクロールキーの押し時間に応じて、漸進的にズーム係数を低減する技術が記載されているといえる。 そして、引用例1記載の発明において「上方向または下方向のカーソル移動キー」(スクロールボタン)の「押下」が「所定の時間連続しているとき」には、ユーザが、目的とする位置までの長いスクロールを意図していることは経験則より明らかであるから、引用例1記載の発明において、特定データの検索などを容易にするため、上記教示及び引用例2に記載された技術事項を適用し、「上方向または下方向のカーソル移動キー」(スクロールボタン)の「押下」が「所定の時間連続しているときに,表示画面データを縮小化する処理」(スクロールボタンの延長された操作においてズームアウト)を行ない、さらに「表示画面データの縮小率」を、「上方向または下方向のカーソル移動キー」(スクロールボタン)の「押下」による「スクロール」の時間に応じて「漸進的」に変化させ,「スクロール時間が長い場合には縮小率を大きくする」(「前記スクロールコマンドの特徴に応じて」、「ズームアウト中に漸進的にズーム係数を自動調整」する)ようにして、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。 なお、ズーム係数を低減する「段階」を多数として、連続的な低減と見なせるようにすることは、当業者が適宜なし得る設計事項である。 そして、本願発明のように構成したことによる効果も引用例1記載の発明及び引用例2に記載された技術から予測できる程度のものであって、格別なものではない。 したがって、本願発明は、引用例1記載の発明及び引用例2に記載された技術に基づき、当業者が容易に為し得たものである。 第5.むすび 以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用例1に記載された発明及び引用例2に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-08-01 |
結審通知日 | 2013-08-06 |
審決日 | 2013-08-20 |
出願番号 | 特願2006-522473(P2006-522473) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G06F)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 円子 英紀 |
特許庁審判長 |
清水 稔 |
特許庁審判官 |
山田 正文 稲葉 和生 |
発明の名称 | 文書スクロール方法 |
代理人 | 伊東 忠彦 |