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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G06F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G06F
管理番号 1283575
審判番号 不服2012-14303  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-25 
確定日 2014-01-06 
事件の表示 特願2009-504202「バーチャル・ビュー回路図エディタ」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 3月27日国際公開、WO2008/036116、平成21年 9月10日国内公表、特表2009-532805〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成19年3月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年4月3日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成23年10月24日付けで拒絶理由の通知がなされ、平成24年2月29日付けで手続補正書の提出がなされ、平成24年3月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成24年7月25日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書の提出がなされ、当審において、平成25年1月24日付けで前置報告書を利用した審尋がなされ、平成25年4月1日付けで回答書の提出がなされたものである。


第2 平成24年7月25日付けの手続補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成24年7月25日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成24年7月25日付けの手続補正(以下,「本件補正」という)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1乃至25(平成24年2月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1乃至25)を補正して、補正後の特許請求の範囲の請求項1乃至25とするものであり、補正前後の請求項1は、各々次のとおりである。

(補正前)
「【請求項1】
CAD回路図を保存するためのメモリと、前記CAD回路図を表示するディスプレイと、前記メモリと通信するプロセッサと、を含むシステムにおいて、
ユーザーの前記CAD回路図の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、複数のページから成る前記CAD回路図を表すコンピュータ・ファイルから複数のページを選択する工程と、
前記ユーザーの要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記選択された各ページについて、前記複数のページに保存された要素および要素間の接続を選択する工程と、
前記ユーザーの要素の選択及び前記プロセッサの前記選択する工程に応じて、前記プロセッサが、前記要素間のバーチャル接続を生成する工程と、
前記ユーザーの要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記要素と前記バーチャル接続を一つの前記ディスプレイ上に描画する工程とを含むことを特徴とする方法。」

(補正後)
「【請求項1】
CAD回路図を保存するためのメモリと、前記CAD回路図を表示するディスプレイと、前記メモリと通信するプロセッサと、を含むシステムにおいて、
ユーザーの前記CAD回路図の第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、複数のページから成る前記CAD回路図を表すコンピュータ・ファイルから複数のページを選択する工程と、
前記ユーザーの第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記選択された各ページについて、前記複数のページに保存された他の要素および前記第一の要素と前記他の要素との間の接続を選択する工程と、
前記ユーザーの第一の要素の選択及び前記プロセッサの前記選択する工程に応じて、前記プロセッサが、前記第一の要素と前記他の要素との間のバーチャル接続を生成する工程と、
前記ユーザーの第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記第一の要素と前記他の要素と前記バーチャル接続とを前記第一の要素と前記他の要素を再配置して一つの前記ディスプレイ上に描画する工程とを含むことを特徴とする方法。」

本件補正では、本件補正前の請求項1は本件補正後の請求項1に対応し、本件補正前の請求項1と本件補正後の請求項1を比較すると、本件補正後の請求項1に係る本件補正には、以下の補正事項が含まれる。

(補正事項1)
補正前の請求項1のユーザが選択する「要素」を「第一の要素」とし、プロセッサが選択する「要素」を「他の要素」とする補正。

(補正事項2)
補正前の請求項1の「前記ユーザーの要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記要素と前記バーチャル接続を一つの前記ディスプレイ上に描画する工程」を「前記ユーザーの第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記第一の要素と前記他の要素と前記バーチャル接続とを前記第一の要素と前記他の要素を再配置して一つの前記ディスプレイ上に描画する工程」とする補正。


2.補正の適否
(1)補正事項1について
「要素」という用語は、この補正事項の前にも記載されている用語であり、この補正により「第一の要素」がユーザに選択された「要素」であり、「他の要素」がプロセッサにより選択された「要素」であることが明らかになるので、補正事項1についての補正は、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。
したがって、補正事項1は、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たし、また、補正事項1が当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものであることは明らかであるから、補正事項1は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(2)補正事項2について
上記補正は、補正前の請求項1における「前記ユーザーの要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記要素と前記バーチャル接続を一つの前記ディスプレイ上に描画する工程」を、「前記ユーザーの第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記第一の要素と前記他の要素と前記バーチャル接続とを前記第一の要素と前記他の要素を再配置して一つの前記ディスプレイ上に描画する工程」に限定するものであって、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、補正事項2により補正された部分は、当初明細書の段落【0018】に記載されているものと認められるから、補正事項2は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。

(3)新規事項の追加の有無及び補正の目的の適否についてのまとめ
以上検討したとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第4項に規定する要件を満たすものである。
そして、本件補正は、特許法第17条の2第4項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものであるから、本件補正後の上記請求項1に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。


3.独立特許要件について
(1)補正後の発明
本願の本件補正による補正後の請求項1乃至25に係る発明は、本件補正により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1乃至25に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記1.の「(補正後)」の箇所に記載したとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

「【請求項1】
CAD回路図を保存するためのメモリと、前記CAD回路図を表示するディスプレイと、前記メモリと通信するプロセッサと、を含むシステムにおいて、
ユーザーの前記CAD回路図の第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、複数のページから成る前記CAD回路図を表すコンピュータ・ファイルから複数のページを選択する工程と、
前記ユーザーの第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記選択された各ページについて、前記複数のページに保存された他の要素および前記第一の要素と前記他の要素との間の接続を選択する工程と、
前記ユーザーの第一の要素の選択及び前記プロセッサの前記選択する工程に応じて、前記プロセッサが、前記第一の要素と前記他の要素との間のバーチャル接続を生成する工程と、
前記ユーザーの第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記第一の要素と前記他の要素と前記バーチャル接続とを前記第一の要素と前記他の要素を再配置して一つの前記ディスプレイ上に描画する工程とを含むことを特徴とする方法。」


(2)引用文献
原査定の拒絶の理由に引用された特開平5-89201号公報(以下、「引用文献」という)には、下記の事項が記載されている。

(あ)「【0008】
【実施例】図1は、この発明の設計支援装置に係わる一実施例の構成を示すブロック図である。図2は、図1で示した設計支援装置の処理手順を示すフローチャートである。これらの図を用いてこの発明の一実施例を以下に説明する。まず、設計支援装置の可能メニューの中から図面間接続関係を得るためのメニューを選択する(STEP1)。選択された複数図面間の接続状態表示(ケース1)か、もしくは選択されたシンボルまたは図面と接続関係にある図面との接続状態表示(ケース2)かを意味するコマンド情報を、キーボード,マウスなどから入力部1に入力する(STEP2,3)。
【0009】入力されたコマンド情報及びコマンド引数情報は、コマンド解析部2で解析される。なお、コマンド引数は、選択された複数図面の接続状態表示の場合には選択された図面名を含み、選択されたシンボルまたは図面と接続関係にある図面との接続状態表示の場合にはシンボル名または図面名を含む。」

(い)「【0011】選択されたシンボルまたは図面と接続関係にある図面との接続状態表示が目的である場合、接続図面検出部4aにより、選択されたシンボルと接続関係にあるシンボルが存在する図面、もしくは選択された図面と接続関係にある図面が検出される(STEP4)。接続図面検出部4aおいて検出されシンボルと接続関係にあるシンボルが存在する図面、もしくは選択された図面と接続関係にある図面の配置位置が、接続図面表示位置決定部4bによって決定される(STEP5)。」

(う)「【0012】次に、入力処理部3で処理されたコマンド情報、コマンド引数情報、及び接続図面処理部4よって得られた情報に基づき、図面配置処理部5において表示図面の配置処理が行われる。
【0013】ただし、入力コマンドが選択された複数図面の接続状態表示である場合、選択された複数の図面名、接続図面処理部4による処理のコマンド引数は空である。また、入力コマンドが、選択されたシンボル名または図面名と接続関係にある図面との接続状態表示である場合、選択されたシンボル名または図面名、接続図面処理部4による処理のコマンド引数は、接続図面検出部4aで検出されたシンボルまたは図面と接続関係にあるシンボルの存在する図面と、選択された図面と接続関係にある接続図面と、接続図面表示位置決定部4bで決定された表示位置となる。
【0014】図面配置処理部5では、コマンド引数として与えられた各図面名が、図面名検出部5aで検出され、図面名格納部5bに格納される(STEP6)。また、接続状態表示図における各図面の表示配置位置が、図面配置位置検出部5cで検出され、図面配置位置格納部5dに格納される。さらに、変換規則検出部5eによって各図面の表示図形を統合図面での配置表示位置に変換する規則が求められ、変換規則格納部5fに格納される(STEP7)。」

(え)「【0015】図面配置処理部5による処理の後、図面情報処理部7によって各図面情報の処理が行われる。図面名格納部5bに格納された図面名より、接続状態表示図で示される各図面情報が、図面情報検出部7aで検出される(STEP8)。検出された複数図面の各図面情報は、図面情報格納部7bに格納される。図面配置位置格納部5dに格納された各図面の表示配置位置情報に基き、図形配置変換部7cでは各図面の表示配置位置情報が接続状態表示図での配置表示位置情報に変換され、図形配置位置格納部7dに格納される(STEP9)。」

(お)「【0017】最後に、図面配置処理部5で格納された図面情報及び表示図形配置情報に基づき、図面表示処理部9において接続状態表示図の出力処理が行われる。まず、図形が配置される各図面上の図面範囲の境界枠が表示される。この処理は、図面配置位置格納部5dに格納された図面配置位置に基づき、図面範囲表示処理部9aで行われる(STEP10)。
【0018】次に、図面間情報処理部9bにおいて図面間にわたる接続状態の表示処理が行われる。各図面情報が持つページコネクタなどの注釈による図面間接続表示部分と、その図面間接続情報が図面間接続情報検出部9b1で検出される(STEP11)。検出された図面間接続表示部分とその図面間接続情報は、図面間接続情報処理部9b2によって予め定義された図面間接続表示用の接続パターンに変換される(STEP12)。例えば、色明度や結線の太さなどを同一図面上の接続パターンとは異なるものにする。
【0019】変換された図面間接続情報表示部分及びその図面間接続情報は、図面間接続情報編集部9b3で編集され(STEP13)、図面間接続情報格納部9b4に格納される。格納された表示部分及びその接続情報は、接続状態情報編集部9cにおいて図面間接続表示部を除いた情報と統合される(STEP14)。統合された図面間接続情報は、接続状態図形表示処理部9dで表示処理され(STEP15)、CRTなどの出力装置10に出力される(STEP16)。」

(か)上記(あ)の段落【0008】及び【0009】には、入力部1において、選択されたシンボル、コマンド情報、及びコマンド引数が入力されることが記載されている。

(き)上記(い)の段落【0011】には、接続図面処理部4において、選択されたシンボルと接続関係にあるシンボルが存在する図面が検出され、前記シンボルが存在する図面の配置位置が決定されることが記載されている。

(く)上記(う)の段落【0012】乃至【0014】には、図面配置処理部5において、コマンド情報、コマンド引数情報、及び接続図面処理部4によって得られた情報に基づき、各図面の図面名と表示配置位置が検出されることが記載されている。

(け)上記(え)の段落【0015】には、図面情報処理部7において、図面配置処理部5によって検出された各図面の図面名及び表示配置位置に基づき、各図面の図面情報及び接続状態表示図での配置表示位置情報が求められることが記載されている。

(こ)上記(お)の段落【0017】乃至【0019】には、図面表示処理部9において、各図面情報から図面間接続表示部分と図面間接続情報が検出され、検出された図面間接続表示部分と図面間接続情報は予め定義された図面間接続表示用の接続パターンに変換され、変換された接続パターンは図面間接続表示部を除いた情報と統合されて、統合された図面間接続情報が表示処理されてCRTに出力されることが記載されている。

よって、上記(あ)乃至(こ)及び関連図面の記載から、引用文献には、実質的に下記の発明(以下、「引用発明」という)が記載されている。

「入力部1において、選択されたシンボル、コマンド情報、及びコマンド引数が入力されると、
接続図面処理部4において、選択されたシンボルと接続関係にあるシンボルが存在する図面が検出され、前記シンボルが存在する図面の配置位置が決定され、
図面配置処理部5において、コマンド情報、コマンド引数情報、及び接続図面処理部4によって得られた情報に基づき、各図面の図面名と表示配置位置が検出され、
図面情報処理部7において、図面配置処理部5によって検出された各図面の図面名及び表示配置位置に基づき、各図面の図面情報及び接続状態表示図での配置表示位置情報が求められ、
図面表示処理部9において、各図面情報から図面間接続表示部分と図面間接続情報が検出され、検出された図面間接続表示部分と図面間接続情報は予め定義された図面間接続表示用の接続パターンに変換され、変換された接続パターンは図面間接続表示部を除いた情報と統合されて、統合された図面間接続情報が表示処理されてCRTに出力される、
設計支援方法。」


(3)対比
(3-1)本件補正発明と引用発明との対応関係について
(ア)引用文献の段落【0001】乃至【0005】には、引用発明が計算機システムを用いて複数図面に分割された集積回路の設計支援に係わるものであることが記載されているので、引用発明の「図面」は、本件補正発明の「複数のページから成る前記CAD回路図」に相当している。

(イ)引用発明の「CRT」は、本件補正発明の「CAD回路図を表示するディスプレイ」に相当している。
また、引用文献にはメモリ及びプロセッサについての記載はないものの、引用発明では複数図面が保存され、かつ、複数の構成要素に対して各処理が実行されるものであるから、引用発明も「メモリ」及び「プロセッサ」に相当する構成を備えたものであることは明らかである。
してみると、引用発明は「CAD回路図を保存するためのメモリと、前記CAD回路図を表示するディスプレイと、前記メモリと通信するプロセッサと、を含むシステム」と呼び得るものである。

(ウ)引用発明の「選択されたシンボル」は、ユーザが選択して入力部から入力されたものであることは明らかであるから、本件補正発明の「第一の要素」に相当する。

(エ)引用発明の「選択されたシンボルと接続関係にあるシンボルが存在する図面が検出され」では、ユーザが選択した「シンボル」に対応した図面が検出されるので、上記(ア)及び(イ)の事項を考慮すれば、本件補正発明と引用発明は、「ユーザーの前記CAD回路図の第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、複数のページから成る前記CAD回路図を表すコンピュータ・ファイルからページを選択する工程」を有する点で共通しているといえる。

(オ)引用文献の図5には、図面であるSheet1内のシンボルと図面であるSheet2内のシンボルとが接続状態とされた構成が記載されていることから、引用発明の「図面表示処理部9において、各図面情報から図面間接続表示部分と図面間接続情報が検出され」とは、上記(エ)で検出された図面内において選択されたシンボルと接続関係にあるシンボルが検出され、選択されたシンボルと該選択されたシンボルと接続関係にあるシンボルとの間の接続情報が検出されることになる。
してみると、引用発明の「選択されたシンボルと接続関係にあるシンボル」は本件補正発明の「他の要素」に相当し、本件補正発明と引用発明は、「前記ユーザーの第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記選択されたページについて、前記ページに保存された他の要素および前記第一の要素と前記他の要素との間の接続を選択する工程」を有する点で共通しているといえる。

(カ)引用発明では、「検出された図面間接続表示部分と図面間接続情報は予め定義された図面間接続表示用の接続パターンに変換」することで、引用文献の図5に記載された図面Sheet1内のシンボルと図面Sheet2内のシンボルとの間にバーチャルな接続が生成されることになるので、引用発明も「前記ユーザーの第一の要素の選択及び前記プロセッサの前記選択する工程に応じて、前記プロセッサが、前記第一の要素と前記他の要素との間のバーチャル接続を生成する工程」を有しているといえる。

(キ)引用発明では、「変換された接続パターンは図面間接続表示部を除いた情報と統合されて、統合された図面間接続情報が表示処理されてCRTに出力される」ことで、引用文献の図5に記載された図面Sheet1内のシンボルと図面Sheet2内のシンボルとそれらシンボル間のバーチャル接続が1つの画面上に表示されることになるので、本件補正発明と引用発明は、「前記ユーザーの第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記第一の要素と前記他の要素と前記バーチャル接続とを前記第一の要素と前記他の要素を一つの前記ディスプレイ上に描画する工程」を有する点で共通しているといえる。

(3-2)本件補正発明と引用発明の一致点について
上記の対応関係から、本件補正発明と引用発明は、下記の点で一致する。

「CAD回路図を保存するためのメモリと、前記CAD回路図を表示するディスプレイと、前記メモリと通信するプロセッサと、を含むシステムにおいて、
ユーザーの前記CAD回路図の第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、複数のページから成る前記CAD回路図を表すコンピュータ・ファイルからページを選択する工程と、
前記ユーザーの第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記選択されたページについて、前記ページに保存された他の要素および前記第一の要素と前記他の要素との間の接続を選択する工程と、
前記ユーザーの第一の要素の選択及び前記プロセッサの前記選択する工程に応じて、前記プロセッサが、前記第一の要素と前記他の要素との間のバーチャル接続を生成する工程と、
前記ユーザーの第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記第一の要素と前記他の要素と前記バーチャル接続とを前記第一の要素と前記他の要素を一つの前記ディスプレイ上に描画する工程とを含むことを特徴とする方法。」

(3-3)本件補正発明と引用発明の相違点について
本件補正発明と引用発明は、下記の点で相違する。

(相違点A)
本件補正発明は、「ページを選択する工程」において「複数のページ」が選択され、該「複数のページ」が選択されることで、「他の要素および前記第一の要素と前記他の要素との間の接続を選択する工程」において「前記選択された各ページについて、前記複数のページに保存された他の要素および前記第一の要素と前記他の要素との間の接続を選択する」ものであるのに対し、引用発明は「複数のページ」を選択するものであるか定かではない点。

(相違点B)
ディスプレイ上に描画する工程において、本件補正発明は、「前記第一の要素と前記他の要素を再配置」するのに対して、引用発明は「再配置」を行うものであるか定かではない点。


(4)当審の判断
(4-1)相違点Aについて
引用文献の具体的な実施例(図5及び図7)には、2つの図面間での接続しか記載されていないため、引用文献には「選択されたシンボルと接続関係にあるシンボルが存在する図面」を複数検出することは明記されていない。
しかしながら、引用発明では、「選択されたシンボルと接続関係にあるシンボルが存在する図面が検出」されるため、例えば、「選択されたシンボル」に対してそれぞれ異なる図面に記載された複数の「シンボル」が接続されている場合、それら複数の異なる図面が検出されることは自明である。
そして、引用文献に接した当業者であれば、引用発明において複数の図面が検出された場合に、該検出された各図面内のシンボルを特定すること、及び、選択されたシンボルと該検出された各図面のシンボルとの間の接続を特定することは、格別に困難なくなし得る程度のことである。
よって、引用発明において、相違点Aの工程を有するようにすることは格別なこととはいえない。

(4-2)相違点Bについて
引用文献の段落【0014】には、「図面配置処理部5では、コマンド引数として与えられた各図面名が、図面名検出部5aで検出され、図面名格納部5bに格納される(STEP6)。また、接続状態表示図における各図面の表示配置位置が、図面配置位置検出部5cで検出され、図面配置位置格納部5dに格納される。さらに、変換規則検出部5eによって各図面の表示図形を統合図面での配置表示位置に変換する規則が求められ、変換規則格納部5fに格納される(STEP7)。」が記載されているので、引用発明では、複数の図面上のシンボルを統合図面上に配置する際に、各シンボルは各図面上の位置から統合図面上の位置に位置が変換されて配置されることとなり、該位置が変換されて配置されることは取りも直さず「再配置」が行われたといい得るものである。
してみると、引用文献には、「再配置」という文言は明記されていないものの、引用発明では、統合された図面間接続情報を表示処理することによって「再配置」が行われているといえるので、相違点Bについては実質的な差違は認められない。

仮に、引用発明における統合された図面間接続情報を表示処理することが「再配置」ではないとしても、CADにおいて回路図の要素を視覚的に分かりやすくするために再配置を行うことは、例えば、特開平3-257674号公報(第1頁右欄5行乃至17行には、CADを利用してプリント配線板の部品を画面上で配置させるプリント配線板設計システムにおいて、データベースに格納された接続情報を活用・処理して、部品と部品間の接続関係を視覚的に分かりやすい形で提供することが記載され、第5ページ左上欄7行乃至17行には、CAD用プログラム2により自動的に各部品を最適な配置位置に配置することが記載されている。)に記載されているように周知技術にすぎない。
してみると、回路図を視覚的に分かりやすくするために、引用発明に周知技術を適用して再配置を行わせることは、当業者が容易に推考できたものである。

(4-3)本件補正発明の作用効果について
審判請求人は、平成25年4月1日付けで回答書の【回答の内容】において、
「ここで、本願発明では、明細書[0018]段落に記載されているように、図10(b)の回路図をより分かり易く表示するために互いの要素の相対位置が再配置され、図11に示すような回路図となっています。つまり、当該段落の記載から、本願発明の「再配置」とは、単に互いに関連している要素同士をどの場所に配置するかということではなく、各要素同士の接続の際に各ページに記載されている要素の互いの相対位置を再配置することを意味します。具体的には、例えば、要素1060は、図10ではページ1004の表示されている通りに表示されていますが、「再配置」されることにより、図11に示すように、約90°回転されています。これにより、要素1006周辺の接続が簡素化されて、各要素同士の接続状況が分かり易くなっています。」
と主張している。
しかしながら、本件補正発明が特定される請求項1には、「再配置」については、「前記ユーザーの第一の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記第一の要素と前記他の要素と前記バーチャル接続とを前記第一の要素と前記他の要素を再配置して一つの前記ディスプレイ上に描画する工程」と記載されているだけで、上記の「各ページに記載されている要素の互いの相対位置を再配置する」処理については何ら記載されていないことから、上記審判請求人の主張を採用することはできない。
また仮に、請求項1に記載された「再配置」が、上記の「各ページに記載されている要素の互いの相対位置を再配置する」ことを含む処理であるとしても、上記(4-2)に記載したように、CADにおいて回路図の要素を視覚的に分かりやすくするために再配置を行うことは周知技術にすぎないことから、上記審判請求人の主張を採用することはできない。
そして、本件補正発明の作用効果も、引用発明、引用文献の記載事項、及び周知技術から当業者が予測できる範囲のものである。


(5)むすび
よって、本件補正発明は、引用発明、引用文献の記載事項、及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。



第3 補正却下の決定を踏まえた検討

1.本願発明
平成24年7月25日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成24年2月29日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1乃至25に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうちの請求項1に係る発明(以下「本願発明」という)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記第2 1.の「(補正前)」の箇所に記載したとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

「【請求項1】
CAD回路図を保存するためのメモリと、前記CAD回路図を表示するディスプレイと、前記メモリと通信するプロセッサと、を含むシステムにおいて、
ユーザーの前記CAD回路図の要素の選択に応じて、前記プロセッサが、複数のページから成る前記CAD回路図を表すコンピュータ・ファイルから複数のページを選択する工程と、
前記ユーザーの要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記選択された各ページについて、前記複数のページに保存された要素および要素間の接続を選択する工程と、
前記ユーザーの要素の選択及び前記プロセッサの前記選択する工程に応じて、前記プロセッサが、前記要素間のバーチャル接続を生成する工程と、
前記ユーザーの要素の選択に応じて、前記プロセッサが、前記要素と前記バーチャル接続を一つの前記ディスプレイ上に描画する工程とを含むことを特徴とする方法。」


2.引用文献
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された引用文献の記載事項及び引用発明は、上記第2 3.(2)に記載したとおりである。


3.対比・判断
本願発明は、上記第2 2.で検討した本件補正発明における限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要素を全て含み、さらに特定の点に限定を施したものに相当する本件補正発明が、上記第2 3.(4)に記載したとおり、引用発明、引用文献の記載事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明、引用文献の記載事項、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.むすび
以上のとおり、本願発明は、当業者が引用発明、引用文献の記載事項、及び周知技術に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本件は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-30 
結審通知日 2013-08-01 
審決日 2013-08-21 
出願番号 特願2009-504202(P2009-504202)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G06F)
P 1 8・ 121- Z (G06F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松浦 功  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 辻本 泰隆
仲間 晃
発明の名称 バーチャル・ビュー回路図エディタ  
代理人 小泉 伸  
代理人 市川 朗子  
代理人 北澤 一浩  

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