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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G11B
管理番号 1283580
審判番号 不服2012-17032  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-03 
確定日 2014-01-06 
事件の表示 特願2010- 68162「交換バイアス(EXCHANGE-BIAS)に基づく多状態(MULTI-STATE)磁気メモリおよび論理装置、および磁気的に安定な磁気記憶」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月 2日出願公開、特開2010-192101〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明

本願は、平成17年7月13日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2004年7月13日 米国(US))を国際出願日とする特願2007-521668号の一部を平成22年3月24日に新たな特許出願としたものであって、手続きの概要は以下のとおりである。

手続補正 :平成22年 3月30日
拒絶理由通知 :平成23年12月15日(起案日)
意見書 :平成24年 3月19日
手続補正 :平成24年 3月19日
拒絶査定 :平成24年 4月26日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成24年 9月 3日
手続補正 :平成24年 9月 3日
審尋 :平成25年 2月13日(起案日)
回答書 :平成25年 7月11日

本願の請求項1ないし31に係る発明は、平成24年9月3日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし31に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項22に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「 【請求項22】
互いに磁気結合された強磁性層とこれに隣接する反強磁性層とを備えることによって、前記反強磁性層のブロッキング温度を下回る動作温度でデータを記憶する磁気記憶材料と、
データが前記磁気記憶材料内の選択された磁区に書き込まれる際、前記磁気記憶材料内の前記選択された磁区の領域における温度と磁場を局所的に制御する制御メカニズムとを備える装置であって、
前記ブロッキング温度は、強磁性材料のキュリー温度を下回り、
前記強磁性層と反強磁性層は、前記装置において、ゼロ磁場から離れて浮遊磁場より大きい磁場へ、前記磁気記憶材料の磁気ヒステリシス・ループをオフセットするように選択されることを特徴とする装置。」

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開昭62-184644号公報(昭和62年8月13日公開、以下「引用例」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「〔産業上の利用分野〕
本発明は光磁気メモリ用媒体、及びこの媒体を使用して情報を記録する方法に関する。」(1頁右下欄9?11行)

(2)「〔問題点を解決するための手段〕
上記目的は以下の本発明によって達成できる。即ち、本発明は基板上に反強磁性体より成る反強磁性層と該反強磁性体のネール温度よりも高いキュリー温度を有する低保磁力の強磁性体より成る強磁性層とを含む少なくとも二層以上の多層膜を有して成る光磁気メモリ用媒体であって、該反強磁性層の磁気モーメントと該強磁性層の磁気モーメントとが、該両層の界面において交換相互作用によって平行または反平行であることを特徴とする光磁気メモリ用媒体である。もう1つの本発明は、基板上に、反強磁性体より成る反強磁性層と、該反強磁性体のネール温度よりも高いキュリー温度を有する低保磁力の強磁性体より成る強磁性層とを少なくとも含む二層以上の多層膜を有して成り、該反強磁性層の磁気モーメントと該強磁性層の磁気モーメントとが該両層の界面において交換相互作用によって平行または反平行であることを特徴とする光磁気メモリ用媒体に対して、レーザー光を局所的に照射し該反強磁性層をネール温度以上の温度Tに加熱すると同時に、該温度Tでの該強磁性層自身の保磁力より大きな外部磁界を印加して記録を行うことを特徴とする光磁気記録方式である。
本発明を以下に詳細に説明する。本発明の光磁気メモリ用媒体は、図1 (a)に示すように、強磁性層lと反強磁性層2とからなる交換結合二層膜を基本構造とする。なお、この二層膜を支持する基板、例えばガラス、プラスチックは省略してある。」(2頁左上欄9行?右上欄18行)

(3)「上記のような光磁気メモリー用媒体を使用する本発明の記録方式の原理は以下のとおりである。まずはじめに、図1(b)に示すように、媒体に矢印方向の磁界Hを印加し、次に、レーザー光をレンズ3によって集光し膜にあて媒体の一部の温度を反強磁性体のネール温度以上の温度Tに上昇させる。温度Tは必ずしも上限はないが、不必要に高くなくてもよく、強磁性体のキュリー温度以下でよい。
光磁気メモリ用媒体が温度Tに達すると、反強磁性体に磁気的な配列がなくなり、強磁性層lは本来の保磁力の小さい状態になり、磁界Hにより強磁性層lに反転磁区4が生じる。このときの磁界Hの大きさは温度Tにおいて強磁性体が磁化反転するための磁界以上、即ち、温度Tでの強磁性体自身の保磁力以上、が必要である。
次いで温度を下げて反強磁性体のネール温度以下にすると、反強磁性体は再び磁気的に配列するが、このとき、強磁性層lのスピンと反強磁性層2のスピンには交換相互作用が働く(図では平行)。この相互作用によって、図1(c)の示すように反強磁性層2には記録情報に対応した磁気モーメントの配列5ができ、強磁性層lには交換力によって実効的にσw/2Ms hだけの磁界が反強磁性層2から印加される。この磁界によって、本来保持力の小さな強磁性層1は(強磁性層1の本来の保持力を無視すると)見かけ上保持力がσw/2Ms hに増加し、記録情報を安定に保持することができる。ここで、σwは二層の界面にできる一種の磁壁のエネルギー密度、Msは強磁性層の飽和磁化、hは強磁性層の膜厚である。
強磁性層1の見かけの保磁力が向上するためばかりでなく、反強磁性層2が本来記録を受け持っているので、記録情報は、外部磁界に対して非常に安定となる。すなわち、図2(a)のように、外部磁界Hによって強磁性層1の記録情報が損なわれても、反強磁性層2の磁気モーメントの配列は保たれたままなので、磁界をとりさると、その記録情報はほぼ可逆的にもとの状態に戻る(図2(b))。なお、反強磁性層2に一旦記録された配列をそのネール温度以下で消去するためには、分子磁界程度の非常に大きな磁界が必要であり、これは通常得られる磁界よりもはるかに大きい。」(2頁左下欄17行?3頁左上欄19行)

(4)「〔実施例〕
反強磁性体としてNiO(厚さ:約1000Å、ネール温度: 520k) 、強磁性体としてNi(厚さ:約250Å、キューリ点: 630k)をガラス基板上にスパッタ装置を用いて真空を破ることなく順次成膜し、本発明に係る光磁気メモリ用媒体を作成した。記録を行なう前に、該媒体をNiOのネール温度以上まで加熱したのち、磁界を印加しながら冷却しNi層の磁化状態を一方向へ揃えておいた。
500Oeの磁界を印加しながら、レーザー光による加熱により記録を行なった。カー効果により、記録部分と未記録部分でNiのヒステリシスループのシフトの量が異なっていることを確認し、実際に記録が行なわれていることが確められた。Niの該両部分の磁化状態の違いは、20kOeの外部磁界を印加したのちにも観察され、外部磁界に対して非常に安定であることがわかった。」(3頁右下欄18行?4頁左上欄14行)

上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。

(a)引用例には、「光磁気メモリ用媒体」、及びこの媒体を使用して情報を記録する方法が記載されている(摘示事項(1))。情報を記録するために装置が使用されることは明らかである。

(b)「光磁気メモリ用媒体」は、基板上に、反強磁性体より成る反強磁性層と、該反強磁性体のネール温度よりも高いキュリー温度を有する低保磁力の強磁性体より成る強磁性層とを少なくとも含む二層以上の多層膜を有して成り、該反強磁性層の磁気モーメントと該強磁性層の磁気モーメントとが該両層の界面において交換相互作用によって平行または反平行であるものであって、強磁性層と反強磁性層とからなる交換結合二層膜を基本構造とする(摘示事項(2))。

(c)光磁気メモリ用媒体に対して、レーザー光を局所的に照射し該反強磁性層をネール温度以上の温度Tに加熱すると同時に、該温度Tでの該強磁性層自身の保磁力より大きな外部磁界を印加して記録を行う(摘示事項(2))。その際、温度と磁界を制御する制御メカニズムが使用されることは明らかである。

(d)反強磁性体のネール温度以下では、交換力によって反強磁性層から印加される磁界によって、本来保持力の小さな強磁性層は見かけ上保持力が増加し、記録情報を安定に保持することができる(摘示事項(3))。

(e)外部磁界によって強磁性層の記録情報が損なわれても、反強磁性層の磁気モーメントの配列は保たれたままなので、磁界をとりさると、その記録情報はほぼ可逆的にもとの状態に戻る(摘示事項(3))。

(f)光磁気メモリ用媒体のヒステリシスループがシフトしている(摘示事項(4))。

以上を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「反強磁性体より成る反強磁性層と、該反強磁性体のネール温度よりも高いキュリー温度を有する低保磁力の強磁性体より成る強磁性層とを少なくとも含む二層以上の多層膜を有して成り、該反強磁性層の磁気モーメントと該強磁性層の磁気モーメントとが該両層の界面において交換相互作用によって平行または反平行であるものであって、強磁性層と反強磁性層とからなる交換結合二層膜を基本構造とする光磁気メモリ用媒体と、
光磁気メモリ用媒体に対して、レーザー光を局所的に照射し該反強磁性層をネール温度以上の温度Tに加熱すると同時に、該温度Tでの該強磁性層自身の保磁力より大きな外部磁界を印加して記録を行う際、温度と磁界を制御する制御メカニズムとを備える装置であって、
反強磁性体のネール温度以下では、交換力によって反強磁性層から印加される磁界によって、本来保持力の小さな強磁性層は見かけ上保持力が増加し、記録情報を安定に保持することができ、
外部磁界によって強磁性層の記録情報が損なわれても、反強磁性層の磁気モーメントの配列は保たれたままなので、磁界をとりさると、その記録情報はほぼ可逆的にもとの状態に戻り、
光磁気メモリ用媒体のヒステリシスループがシフトしている装置。」

3.対比

そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(1)磁気記憶材料
引用発明の反強磁性層と強磁性層とは、該反強磁性層の磁気モーメントと該強磁性層の磁気モーメントとが該両層の界面において交換相互作用によって平行または反平行であるものであって、交換結合二層膜を構成するから、「互いに磁気結合され」ているといえる。
また、本願発明の「ブロッキング温度」は、本願明細書【0054】の記載によれば、「ニール温度」(引用発明の表記では「ネール温度」)に一致する。
また、引用発明の「光磁気メモリ用媒体」は、反強磁性体のネール温度以下では、記録情報を安定に保持することができるから、「反強磁性層のブロッキング温度を下回る動作温度でデータを記憶する磁気記憶材料」といえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「互いに磁気結合された強磁性層とこれに隣接する反強磁性層とを備えることによって、前記反強磁性層のブロッキング温度を下回る動作温度でデータを記憶する磁気記憶材料」を備える点で一致する。

(2)制御メカニズム
引用発明は、光磁気メモリ用媒体に対して、レーザー光を局所的に照射し反強磁性層をネール温度以上の温度Tに加熱すると同時に、該温度Tでの該強磁性層自身の保磁力より大きな外部磁界を印加して記録を行うから、光磁気メモリ用媒体の加熱された部分が、「磁気記憶材料内の選択された磁区」といえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、「データが前記磁気記憶材料内の選択された磁区に書き込まれる際、前記磁気記憶材料内の前記選択された磁区の領域における温度と磁場を制御する制御メカニズム」を備える点で一致し、本願発明は、温度と磁場を局所的に制御するのに対し、引用発明は、温度は局所的に制御するものの、磁場を局所的に制御する旨の特定がない点で相違する。

(3)ブロッキング温度
引用発明の強磁性体は、反強磁性体のネール温度よりも高いキュリー温度を有するから、本願発明と引用発明とは、「ブロッキング温度は、強磁性材料のキュリー温度を下回」る点で一致する。

(4)強磁性層と反強磁性層の選択
引用発明は、反強磁性体のネール温度以下では、交換力によって反強磁性層から印加される磁界によって、本来保持力の小さな強磁性層は見かけ上保持力が増加し、記録情報を安定に保持することができ、外部磁界によって強磁性層の記録情報が損なわれても、反強磁性層の磁気モーメントの配列は保たれたままなので、磁界をとりさると、その記録情報はほぼ可逆的にもとの状態に戻り、光磁気メモリ用媒体のヒステリシスループがシフトしている。
したがって、本願発明と引用発明とは、「装置において、ゼロ磁場から離れて、磁気記憶材料の磁気ヒステリシス・ループをオフセットするように」なされる点で一致する。そして、オフセットの程度について、本願発明は、「浮遊磁場より大きい磁場へ」との特定があるのに対し、引用発明は、その旨の特定がない点、及び、オフセットの方法について、本願発明は、「強磁性層と反強磁性層は、選択される」との特定があるのに対し、引用発明は、その旨の特定がない点で相違する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「互いに磁気結合された強磁性層とこれに隣接する反強磁性層とを備えることによって、前記反強磁性層のブロッキング温度を下回る動作温度でデータを記憶する磁気記憶材料と、
データが前記磁気記憶材料内の選択された磁区に書き込まれる際、前記磁気記憶材料内の前記選択された磁区の領域における温度と磁場を局所的に制御する制御メカニズムとを備える装置であって、
前記ブロッキング温度は、強磁性材料のキュリー温度を下回り、
前記装置において、ゼロ磁場から離れて、前記磁気記憶材料の磁気ヒステリシス・ループをオフセットするようになされることを特徴とする装置。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

(1)温度と磁場の制御について、本願発明は、温度と磁場を局所的に制御するのに対し、引用発明は、温度は局所的に制御するものの、磁場を局所的に制御する旨の特定がない点。

(2)オフセットの程度について、本願発明は、「浮遊磁場より大きい磁場へ」との特定があるのに対し、引用発明は、その旨の特定がない点、及び、オフセットの方法について、本願発明は、「強磁性層と反強磁性層は、選択される」との特定があるのに対し、引用発明は、その旨の特定がない点。

4.判断

そこで、上記相違点について検討する。

相違点(1)について
互いに磁気結合された強磁性層とこれに隣接する反強磁性層とを備える磁気記憶材料は、選択された磁区の領域においてブロッキング温度を上回る温度で磁場を印加することによりデータを書き込むものであるから、温度を局所的に制御する場合、磁場は大域的に制御しても、あるいは、局所的に制御しても差し支えない(例えば、国際公開第02/084647号4頁下から9行?5頁3行参照)。
したがって、磁場を大域的に制御制御するか、あるいは、局所的に制御するかは、当業者が任意に選択し得る事項である。

相違点(2)について
着目する磁区の残留磁化に影響するおそれがあるのは、隣接する磁区の書き込みに使用する磁場や、隣接する磁区からの浮遊磁場である。
したがって、オフセットの程度について、浮遊磁場の影響を受けないよう、「浮遊磁場より大きい磁場へ」とすることは、当業者が容易に想到し得る。
また、強磁性層と反強磁性層の組み合わせによってオフセットの程度が変化することは容易に予測し得るから、オフセットの方法について、「強磁性層と反強磁性層は、選択される」とすることは、当業者が容易に想到し得る。

効果についてみても、上記構成の変更に伴って予測される程度を越える格別顕著なものがあるとは認められない。

5.むすび

以上のとおり、本願の請求項22に係る発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-09 
結審通知日 2013-08-13 
審決日 2013-08-26 
出願番号 特願2010-68162(P2010-68162)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G11B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 和俊中野 和彦  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 関谷 隆一
酒井 伸芳
発明の名称 交換バイアス(EXCHANGE-BIAS)に基づく多状態(MULTI-STATE)磁気メモリおよび論理装置、および磁気的に安定な磁気記憶  
代理人 岡部 讓  
代理人 三山 勝巳  

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