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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01G
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H01G
管理番号 1283612
審判番号 不服2013-15982  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-19 
確定日 2014-01-28 
事件の表示 特願2009-144899「アルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月 6日出願公開、特開2011- 3685、請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成21年6月18日に出願したものであって、手続きの概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成24年12月18日(起案日)
意見書 :平成25年 2月20日
手続補正 :平成25年 2月20日
拒絶査定 :平成25年 5月24日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成25年 8月19日
手続補正 :平成25年 8月19日
審尋 :平成25年 9月27日(起案日)
回答書 :平成25年11月28日

第2 平成25年8月19日付けの手続補正の適否

1.本件補正

平成25年8月19日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書についてするもので、特許請求の範囲については、本件補正前に、
「 【請求項1】
エッチングされたアルミ箔を高温の純水中に浸漬して前記アルミ箔表面に水和皮膜を形成する工程と、この水和皮膜の表面に有機酸を付着させる工程と、前記アルミ箔を所定電圧まで行う化成処理工程と、前記化成処理工程の後に行う減極処理工程と、前記減極処理工程の後に行う再化成処理工程とを備え、前記化成処理工程が、前記所定電圧の80%以上を印加する化成液にリン酸塩水溶液を用いた第1の化成処理と、次に最後の化成処理する化成液を前記リン酸塩水溶液と異なる液種を用いた第2の化成処理とを行い、前記減極処理工程は、前記第2の化成処理の後に、リン酸水溶液またはシュウ酸水溶液の酸浸漬処理を行い、かつ熱処理を含まないアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法。
【請求項2】
前記第2の化成処理の化成液として硼酸系水溶液を用いるようにした請求項1に記載のアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法。
【請求項3】
前記第1の化成処理は、2段階以上行う請求項1に記載のアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法。」
とあったところを、

本件補正後、
「 【請求項1】
エッチングされたアルミ箔を高温の純水中に浸漬して前記アルミ箔表面に水和皮膜を形成する工程と、この水和皮膜の表面に有機酸としてマロン酸またはフマル酸の水溶液を付着させる工程と、前記アルミ箔を所定電圧まで行う化成処理工程と、前記化成処理工程の後に行う減極処理工程と、前記減極処理工程の後に行う再化成処理工程とを備え、前記化成処理工程が、前記所定電圧の80%以上を印加する化成液にリン酸塩水溶液を用いた第1の化成処理と、次に最後の化成処理する化成液として硼酸系水溶液を用いた第2の化成処理とを行い、前記第1の化成処理は2段階以上であり、前記減極処理工程は、前記第2の化成処理の後に、リン酸水溶液またはシュウ酸水溶液の酸浸漬処理を行い、かつ熱処理を含まないアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法。」
とするものである。

上記本件補正の内容は、請求項1について、発明特定事項である「有機酸」について「マロン酸またはフマル酸の水溶液」と限定し、「リン酸塩水溶液と異なる液種」について「硼酸系水溶液」と限定し、「第1の化成処理」について「2段階以上であり」と限定し、請求項2、3を削除したものである。
請求項1についての補正は、発明特定事項を限定するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。請求項2、3についての補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。

また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。

そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか)否かについて、以下検討する。

2.引用例

原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-36048号公報(平成19年2月8日公開、以下「引用例1」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【0001】
本発明はアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法に関するものである。」

(2)「【0006】
上記のような問題があったため、液管理の容易な製造条件で、静電容量が高いアルミニウム電解コンデンサ用電極箔を製造できる方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するもので、エッチングされたアルミニウム箔表面に陽極酸化皮膜を形成するアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、水和処理を行う工程と、アゼライン酸水溶液に浸漬処理する工程と、陽極酸化処理する工程とを有することを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。」

(3)「【0011】
[実施例1?16]
エッチングされたアルミニウム箔を、90℃の純水に10分間浸漬し水和皮膜を形成した後、表1に示す濃度、時間、温度条件でアゼライン酸水溶液に浸漬した。
このアルミニウム箔をホウ酸アンモニウム水溶液中にて、液温85℃で500Vまで化成電圧を上昇させ、同電圧を50分間保持した。
そして、「550℃5分間の熱処理およびリン酸水溶液への75℃7分間の浸漬」による減極処理、およびホウ酸アンモニウム水溶液中での修復化成を数回行い、電極箔を作製した。」

上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。

(a)引用例1には、「エッチングされたアルミニウム箔表面に陽極酸化皮膜を形成するアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、水和処理を行う工程と、アゼライン酸水溶液に浸漬処理する工程と、陽極酸化処理する工程とを有することを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法」が記載されている(摘示事項(1)、(2))。

(b)「水和処理を行う工程」において、「エッチングされたアルミニウム箔を、90℃の純水に10分間浸漬し水和皮膜を形成」する(摘示事項(3))。

(c)「水和処理を行う工程」の後、「アゼライン酸水溶液に浸漬処理する工程」において、アルミニウム箔を「表1に示す濃度、時間、温度条件でアゼライン酸水溶液に浸漬」する(摘示事項(3))。

(d)「アゼライン酸水溶液に浸漬処理する工程」の後、「陽極酸化処理する工程」において、「アルミニウム箔をホウ酸アンモニウム水溶液中にて、液温85℃で500Vまで化成電圧を上昇させ、同電圧を50分間保持」する(摘示事項(3))。

(e)「陽極酸化処理する工程」の後、「「550℃5分間の熱処理およびリン酸水溶液への75℃7分間の浸漬」による減極処理、およびホウ酸アンモニウム水溶液中での修復化成を数回行い、電極箔を作製」する(摘示事項(3))。

以上を総合勘案すると、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「エッチングされたアルミニウム箔表面に陽極酸化皮膜を形成するアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、水和処理を行う工程と、アゼライン酸水溶液に浸漬処理する工程と、陽極酸化処理する工程とを有することを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法であって、
水和処理を行う工程において、エッチングされたアルミニウム箔を、90℃の純水に10分間浸漬し水和皮膜を形成し、
アゼライン酸水溶液に浸漬処理する工程において、アルミニウム箔を表1に示す濃度、時間、温度条件でアゼライン酸水溶液に浸漬し、
陽極酸化処理する工程において、アルミニウム箔をホウ酸アンモニウム水溶液中にて、液温85℃で500Vまで化成電圧を上昇させ、同電圧を50分間保持し、
そして、「550℃5分間の熱処理およびリン酸水溶液への75℃7分間の浸漬」による減極処理、およびホウ酸アンモニウム水溶液中での修復化成を数回行い、電極箔を作製する方法。」

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-36043号公報(平成19年2月8日公開、以下「引用例2」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(4)「【0001】
本発明はアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法に関するものである。」

(5)「【0006】
本発明はこのような課題を解決するものであり、静電容量が高く、耐水性に優れ、かつ漏れ電流の低いアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するもので、エッチングされたアルミニウム箔表面に陽極酸化皮膜を形成するアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法において、
所定電圧まで陽極酸化を行う前に、エッチング箔に水和処理を施した後、ホウ酸を混合したリン酸またはその塩の水溶液中にて、所定電圧未満で陽極酸化を行うことを特徴とするアルミニウム電解コンデンサ用電極箔の製造方法である。」

(6)「【0010】
[実施例1?7]
以下、本発明の実施例について説明する。
まず、エッチングされたアルミニウム箔を液温90±2℃の純水に5分間浸漬し、水和皮膜を形成した。このアルミニウム箔を、0.05?4.0wt%の濃度のホウ酸を含み、比抵抗450Ω・cm、pH6.5に調整したリン酸アンモニウム水溶液中にて、液温85±2℃で230Vまで化成電圧を上昇させ、同電圧で3分間保持した。
次に、比抵抗450Ω・cm、pH4.5に調整したホウ酸アンモニウム水溶液中にて、液温85±2℃で350Vまで化成電圧を上昇させ、同電圧で15分間保持した。
その後、約550℃で5分間の熱処理と3.0wt%リン酸水溶液への70℃5分間の浸漬による減極処理、および上記ホウ酸アンモニウム水溶液中での修復化成を数回行った。」

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開平2-128415号公報(平成2年5月16日公開、以下「引用例3」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(7)「一般に、アルミニウム電解コンデンサの陽極は、電極用アルミニウムをエッチングしたのち、陽極酸化することによりつくられる。高圧用の陽極箔を製造するにあたって、従来ではまず第1段化成槽内で例えば200Vの化成電圧を印加し、次に第2段化成槽内に移して300V電圧下で化成し、さらに第3段化成槽で370V化成を行なったのち、減極、再化成などの工程を経るようにしている。」(1頁右下欄4?11行)

同じく、原査定の拒絶の理由に引用された特開2007-138236号公報(平成19年6月7日公開、以下「引用例4」という。)には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(8)「【0067】
(2段階化成処理)
表1に参照されるように、1回目の化成処理として全てのNo.について化成電圧10Vで30分間定電圧化成処理を行った。次に、減極処理として熱処理を行い、さらに10Vで5分間再化成処理を行った。次に、2回目の化成処理として、化成電圧を10?15V(No.1?No.6)に昇圧し30分間定電圧化成処理を行った。次に、減極処理として熱処理を行い、さらに同じ電圧10?15V(No.1?No.6)で5分間再化成処理を行った。」

3.対比

そこで、本件補正発明と引用発明とを対比する。

(1)高温純水浸漬工程
「90℃の純水」は、「高温の純水」といえるから、本件補正発明と引用発明とは、「エッチングされたアルミ箔を高温の純水中に浸漬して前記アルミ箔表面に水和皮膜を形成する工程」を備える点で一致する。

(2)有機酸付着工程
「アゼライン酸」は、「有機酸」に含まれるから、本件補正発明と引用発明とは、「水和皮膜の表面に有機酸を付着させる工程」を備える点で一致し、本件補正発明は、「有機酸」として、「マロン酸またはフマル酸の水溶液」を用いるのに対し、引用発明は、「アゼライン酸水溶液」を用いる点で相違する。

(3)化成処理工程
「陽極酸化処理」は「化成処理」といえ、「500V」は「所定電圧」といえるから、本件補正発明と引用発明とは、「アルミ箔を所定電圧まで行う化成処理工程」を備える点で一致する。
「ホウ酸アンモニウム水溶液」は、「硼酸系水溶液」といえるから、本件補正発明と引用発明とは、「化成処理工程」が、「化成処理する化成液として硼酸系水溶液を用いた化成処理を」行う点で一致し、本件補正発明は、「化成処理工程」が、「前記所定電圧の80%以上を印加する化成液にリン酸塩水溶液を用いた第1の化成処理と、次に最後の化成処理する化成液として硼酸系水溶液を用いた第2の化成処理とを行い、前記第1の化成処理は2段階以上で」あるのに対し、引用発明は、「アルミニウム箔をホウ酸アンモニウム水溶液中にて、液温85℃で500Vまで化成電圧を上昇させ、同電圧を50分間保持」する点で相違する。

(4)減極処理工程
本件補正発明と引用発明とは、「減極処理工程」を備える点で一致する。 本件補正発明の「化成処理」は、「最後の化成処理」として「第2の化成処理」を行うから、「第2の化成処理の後」は「化成処理の後」を意味する。
したがって、本件補正発明と引用発明とは、「減極処理工程」が、「前記化成処理の後に、リン酸水溶液またはシュウ酸水溶液の酸浸漬処理を」行う点で一致し、本件補正発明は、「減極処理工程」が、「熱処理を含まない」のに対し、引用発明は、「550℃5分間の熱処理」を含む点で相違する。

(5)再化成処理工程
「修復化成」は「再化成」といえるから、本件補正発明と引用発明とは、「再化成処理工程」を備える点で一致する。

(6)アルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法
「陽極酸化処理」した「電極箔」は、「陽極箔」となるから、本件補正発明と引用発明とは、「アルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法」である点で一致する。

そうすると、本件補正発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「エッチングされたアルミ箔を高温の純水中に浸漬して前記アルミ箔表面に水和皮膜を形成する工程と、この水和皮膜の表面に有機酸を付着させる工程と、前記アルミ箔を所定電圧まで行う化成処理工程と、前記化成処理工程の後に行う減極処理工程と、前記減極処理工程の後に行う再化成処理工程とを備え、前記化成処理工程が、化成処理する化成液として硼酸系水溶液を用いた化成処理を行い、前記減極処理工程は、前記化成処理の後に、リン酸水溶液またはシュウ酸水溶液の酸浸漬処理を行うアルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

(1)本件補正発明は、「有機酸」として、「マロン酸またはフマル酸の水溶液」を用いるのに対し、引用発明は、「アゼライン酸水溶液」を用いる点。

(2)本件補正発明は、「前記アルミ箔を所定電圧まで行う化成処理工程」が、「前記所定電圧の80%以上を印加する化成液にリン酸塩水溶液を用いた第1の化成処理と、次に最後の化成処理する化成液として硼酸系水溶液を用いた第2の化成処理とを行い、前記第1の化成処理は2段階以上で」あるのに対し、引用発明は、「アルミニウム箔をホウ酸アンモニウム水溶液中にて、液温85℃で500Vまで化成電圧を上昇させ、同電圧を50分間保持」する点。

(3)本件補正発明は、「減極処理工程」が、「熱処理を含まない」のに対し、引用発明は、「550℃5分間の熱処理」を含む点。

4.判断

そこで、上記相違点(2)について検討する。

引用例2には、陽極酸化について、所定電圧まで陽極酸化を行う前に、ホウ酸を混合したリン酸またはその塩の水溶液中にて、所定電圧未満で陽極酸化を行う発明が記載され(摘示事項(5))、ホウ酸を含むリン酸アンモニウム水溶液中にて、230Vまで化成電圧を上昇させ、ホウ酸アンモニウム水溶液中にて、350Vまで化成電圧を上昇させた実施例が記載されている(摘示事項(6))。
しかしながら、230Vは、350Vの80%以上とはいえないから、引用発明の「陽極酸化処理する工程」として、引用例2の、ホウ酸を含むリン酸アンモニウム水溶液中にて、230Vまで化成電圧を上昇させ、ホウ酸アンモニウム水溶液中にて、350Vまで化成電圧を上昇させる構成を適用しても、本件補正発明の、「前記アルミ箔を所定電圧まで行う化成処理工程」が、「前記所定電圧の80%以上を印加する化成液にリン酸塩水溶液を用いた第1の化成処理と、次に最後の化成処理する化成液として硼酸系水溶液を用いた第2の化成処理とを行」う構成に至らない。

一方、引用例3には、まず第1段化成槽内で例えば200Vの化成電圧を印加し、次に第2段化成槽内に移して300V電圧下で化成し、さらに第3段化成槽で370V化成を行なうことが記載されている(摘示事項(7))。
しかしながら、第1段化成槽、第2段化成槽でリン酸アンモニウム水溶液を用い、第3段化成槽でホウ酸アンモニウム水溶液を用いることは記載されていないから、引用発明の「陽極酸化処理する工程」として、引用例2の、ホウ酸を含むリン酸アンモニウム水溶液中にて、230Vまで化成電圧を上昇させ、ホウ酸アンモニウム水溶液中にて、350Vまで化成電圧を上昇させる構成を適用したものにおいて、ホウ酸を含むリン酸アンモニウム水溶液中にて、所定電圧の80%以上まで化成電圧を上昇させ、ホウ酸アンモニウム水溶液中にて、所定電圧まで化成電圧を上昇させる構成に変更する動機付けにはならない。

また、引用例4には、2段階化成処理において、1回目の化成処理として化成電圧10Vで定電圧化成処理をい、2回目の化成処理として、化成電圧を10?15Vに昇圧し定電圧化成処理を行うことが記載されている(摘示事項(7))。
しかしながら、1回目の化成処理でリン酸アンモニウム水溶液を用い、2回目の化成処理でホウ酸アンモニウム水溶液を用いることは記載されていないから、引用発明の「陽極酸化処理する工程」として、引用例2の、ホウ酸を含むリン酸アンモニウム水溶液中にて、230Vまで化成電圧を上昇させ、ホウ酸アンモニウム水溶液中にて、350Vまで化成電圧を上昇させる構成を適用したものにおいて、ホウ酸を含むリン酸アンモニウム水溶液中にて、所定電圧の80%以上まで化成電圧を上昇させ、ホウ酸アンモニウム水溶液中にて、所定電圧まで化成電圧を上昇させる構成に変更する動機付けにはならない。

そうすると、引用発明において、「前記アルミ箔を所定電圧まで行う化成処理工程」について、「アルミニウム箔をホウ酸アンモニウム水溶液中にて、液温85℃で500Vまで化成電圧を上昇させ、同電圧を50分間保持」する構成に代えて、「前記所定電圧の80%以上を印加する化成液にリン酸塩水溶液を用いた第1の化成処理と、次に最後の化成処理する化成液として硼酸系水溶液を用いた第2の化成処理とを行い、前記第1の化成処理は2段階以上で」ある構成を採用する動機付けがあるとはいえない。

ましてや、相違点(1)?(3)をすべて克服する動機付けがあるとはいえない。

したがって、本件補正発明は、引用例1、2に記載された発明及び引用例3、4に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たす。

5.本件補正についてのむすび

以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項に規定する要件を満たす。

第3 本願発明について

本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項に規定する要件を満たすから、本願の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。

そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-01-10 
出願番号 特願2009-144899(P2009-144899)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01G)
P 1 8・ 575- WY (H01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小山 和俊  
特許庁審判長 乾 雅浩
特許庁審判官 酒井 伸芳
関谷 隆一
発明の名称 アルミ電解コンデンサ用陽極箔の製造方法  
代理人 藤井 兼太郎  
代理人 寺内 伊久郎  
代理人 徳田 佳昭  

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