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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G01N
管理番号 1283619
審判番号 不服2012-22593  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-11-15 
確定日 2014-01-28 
事件の表示 特願2010-510918「過酸および/または過酸化物の濃度の速度論的定量法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年12月11日国際公開、WO2008/149247、平成22年 8月26日国内公表、特表2010-529451、請求項の数(10)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年3月7日(優先権主張日 平成19年6月5日,米国)を国際出願日とする国際出願であって,平成23年3月1日付けで手続補正書の提出がなされ,同年12月26日付けで拒絶理由が通知され,平成24年4月9日付けで意見書と手続補正書の提出がなされたが,同年7月9日付けで拒絶査定がなされ,これに対し,同年11月15日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同日付けで手続補正(以下「本件補正」という)がなされたものである。
その後,平成25年5月14日付けで特許法第164条第3項に基づく報告を引用した審尋がなされ,回答書が同年10月3日付けで請求人より提出された。

第2 本件補正の適否
1 補正の内容
本件補正は,
(1)特許請求の範囲の請求項7を,補正前の「・・・試料混合物を作製するように構成されたシーケンシャルインジェクションマニホールドと、
時間の関数として前記試料混合物の吸光度を示す応答データを前記試料混合物から取得するように構成された検出器と、
前記応答データに基づいて前記使用組成物中の前記過酸の濃度および前記過酸化物の濃度を決定するように構成された演算処理装置とを含み、
・・・システム。」という記載から,「・・・試料混合物を作製するように構成されたシーケンシャルインジェクション分析マニホールドを含み、
前記シーケンシャルインジェクション分析マニホールドは、
時間の関数として前記試料混合物の吸光度を示す応答データを前記試料混合物から取得するように構成された検出器と、
前記応答データに基づいて前記使用組成物中の前記過酸の濃度および前記過酸化物の濃度を決定するように構成された演算処理装置とを含み、
・・・システム。」という記載に補正し,
(2)同請求項9を,補正前の「前記過酸が、ペルオキシカルボン酸、ペルオキシ酸、ペルオキシ酢酸、C2(ペル酢酸)、C8(ペルオクタン)酸、ペルオキシオクタン酸、C6過酸、C9過酸、C10過酸、C11過酸およびC12過酸のうちの少なくとも1種を含む請求項7のシステム。」という記載を,「前記過酸が、ペルオキシカルボン酸を含む請求項7のシステム。」という記載に補正するものである。
(下線は補正箇所を示す)

2 判断
上記補正事項(1)は,「シーケンシャルインジェクションマニホールド」とは独立して「検出器」および「演算装置」を含むという,発明の詳細な説明の記載と整合せず,また,「シーケンシャルインジェクションマニホールド」の意味するものが不明である,補正前の請求項7の記載を,「シーケンシャルインジェクション分析マニホールド」が「検出器」および「演算処理装置」を含むものに補正して,発明の詳細な説明の記載,特に「【0017】図1に示される態様では、使用組成物モニター200は、演算処理装置212の制御の下のシーケンシャルインジェクション(sequential injection)分析(SIA)マニホールドを含む。SIAマニホールドは、シリンジポンプ214、保持コイル216、マルチポジション(マルチポート)バルブ218、静止混合機220および検出器222を有する。SIAマニホールドは、手作業の湿式化学分析手法の自動化を可能とする装置である。他の態様では、他の光学ベースのもしくは電気化学的な検出器もまた使用することができ、本発明はこの点で限定されない。」の記載と整合がとれるようにしたものであるから,願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり,且つ,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するといえる。
また,上記補正事項(2)も,不明りょうであった補正前の請求項9の記載を明りょうなものとする補正であることは明らかであり,願書に最初に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてされたものであり,且つ,明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当するといえる。
そして,請求項7,9のこれらの点は拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示されていた事項である。

3 まとめ
よって,本件補正は,特許法第17条の2第4項ないし第5項の要件を満たしているから,認める。

第3 本願発明
本件補正が上記のとおり認められるから,本願の請求項1?10に係る発明は,本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであって,以下のとおりのものである。
「 【請求項1】
ヨウ化物化合物を含む試薬と決定すべき濃度の過酸および決定すべき濃度の過酸化物を有する使用組成物の試料とを含む試料混合物を作製するステップ、
時間の関数として前記試料混合物の吸光度を示す応答データを収集するステップ、ならびに
前記応答データに基づいて、前記使用組成物中の前記過酸の濃度および前記過酸化物の濃度を決定するステップを含み、
前記過酸の濃度および前記過酸化物の濃度を決定するステップが、
前記試料混合物の前記吸光度を示す前記データと時間との間の、傾きおよびy切片を含む、最も適合する線形関係を決定すること、
前記y切片に基づいて前記過酸の濃度を計算すること、および
前記傾きに基づいて前記過酸化物の濃度を計算することを含む方法。
【請求項2】
前記試料混合物の前記吸光度を示す前記データと時間との間の最も適合する線形関係を決定することが、最も適合する1次式を決定することを含む請求項1の方法。
【請求項3】
前記試料混合物の前記吸光度を示す前記データと時間との間の最も適合する線形関係を決定することが、最も適合する、より高次の等式を決定することを含む請求項1の方法。
【請求項4】
前記過酸の濃度を計算することが、前記y切片に過酸の変換要素をかけ算することを含む請求項1の方法。
【請求項5】
前記過酸化物の濃度を計算することが、前記傾きに過酸化物の変換要素をかけ算することを含む請求項1の方法。
【請求項6】
前記最も適合する線形関係を決定する前記ステップが、前記応答データに基づいて線形回帰分析を行うことを含む請求項1の方法。
【請求項7】
ヨウ化物化合物を含む試薬と決定すべき濃度の過酸および決定すべき濃度の過酸化物を有する使用組成物の試料とを含む試料混合物を作製するように構成されたシーケンシャルインジェクション分析マニホールドを含み、
前記シーケンシャルインジェクション分析マニホールドは、
時間の関数として前記試料混合物の吸光度を示す応答データを前記試料混合物から取得するように構成された検出器と、
前記応答データに基づいて前記使用組成物中の前記過酸の濃度および前記過酸化物の濃度を決定するように構成された演算処理装置とを含み、
前記演算処理装置は、少なくとも、前記試料混合物の吸光度を示す前記データと時間との間の、傾きおよびy切片を含む、最も適合する線形関係を決定すること、前記y切片に基づいて前記過酸の濃度を計算すること、および前記傾きに基づいて前記過酸化物の濃度を計算することによって、前記過酸の濃度および前記過酸化物の濃度を決定するように構成された、システム。
【請求項8】
前記過酸が、水酸基(-OH)がペルオキシ基(-OOH)で置換された酸を含む請求項7のシステム。
【請求項9】
前記過酸が、ペルオキシカルボン酸を含む請求項7のシステム。
【請求項10】
前記検出器が、25℃の温度よりも低く維持された試料混合物から前記応答データを取得するように構成された、請求項7のシステム。」(以下「本願発明1」?「本願発明10」という)

第4 原査定の拒絶の理由の概要
原査定における拒絶の理由は,次の理由1,2である。
(理由1)
この出願は,特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する条件を満たしていない。

・指摘事項a.について
「SIマニホールド」と,「検出器」「演算装置」とを,含むとの請求項7の表現と整合しない点は依然として,変わらず,「SIマニホールド」の意味するものが不明である。
試料混合物を作成する機能を有する点が不明なのでなく,「シーケンシャルインジェクションマニホールド」の定義自体が不明である。

・指摘事項c.について
『選択肢の「ペルオキシ酸」は,常識的にみて,「過酸」と同義であるので,不明である。』点について、なんらの回答もしていない。
そして、「C2(ペル酢酸)」の表現は、C2が「ペル酢酸」の意味を有する訳ではなく、()内が単なる言い換えの補充ではないので、不明である。「C8(ペルオクタン)酸」の記載も、C8が「ペルオクタン」の意味を持たず、同様に不明である。
C2、C8(ペルオクタン酸)のような記載は、単なる酸を列挙したとはいえない。

(理由2)
この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
・請求項1-6/引用文献等1-3
・請求項7-10/引用文献等1-4

引 用 文 献 等 一 覧
1.DAVIS D.M.,Determination of peracids in the presence of a large excess of hydrogen peroxide using a rapid and convenient spectrophotometric method,ANALYST,1988年,113/9,1477-1479 (なお、平成25年5月14日付けの審尋に引用した前置報告書にも注記したように、この文献の雑誌名に誤記があったので、上記のとおり訂正した。)
2. PETTAS I.A.,Simultaneous spectra-kinetic determination of paracetic acid and hydrogen peroxide in a brewery cleaning-in-place disinfection process,ANALYTICA CHIMICA ACTA ,2004年,522,275-280
3. 特開2003-294694号公報
4. HARMS D.,Rapid and selective determination of peroxyacetic acid in disinfections using flow injection analysis,ANALYTICA CHIMICA ACTA,1999年,389,233-238

第5 当審の判断
1 理由1(36条6項2号違反)について
上記「第2 本件補正の適否 2 判断」にて述べたとおり,本件補正により,請求項7および請求項9についての記載不備が解消している。

2 理由2(29条2項)について
(1)各刊行物の記載事項
本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である「Determination of peracids in the presence of a large excess of hydrogen peroxide using a rapid and convenient spectrophotometric method,ANALYST,1988年,113/9,1477-1479」(当審訳:迅速及び便利な分光学的方法を用いる大量の過剰過酸化水素の存在下での過酸の定量,以下「刊行物1」という)には,次の事項が図面とともに記載されている。

(1-ア)
「Two methods are widely used to determine peracids in the presence of hydrogen peroxide. In the method of Greenspan and Mackellar^(1) the hydrogen peroxide is first titrated with cerium(IV) sulphate and the residual peracid is then determined iodimetrically. The alternative method of Sully and Williams^(2) utilises the much greater reactivity of iodide with peracid than with hydrogen peroxide. The liberated iodine is titrated with thiosulphate over a period of several minutes and the linear graph of titre versus time is extrapolated back to zero time to give a value, corrected for the slow reaction of hydrogen peroxide, which corresponds to the peracid.」(1477頁左欄1?11行,当審訳:過酸化水素の存在下で過酸の定量を行うために,2つの方法が広く使用されている。GreenspanとMackellarの方法^(1)において,過酸化水素はまず硫酸セリウム(IV)で滴定され,残余の過酸はそれからヨウ素法的に定量された。SullyとWilliamsの代替方法^(2)は,ヨウ化物の過酸化水素とよりも過酸とのずっと大きな反応性を利用する。遊離されたヨウ素は数分以上の期間にわたってチオ硫酸塩で滴定され,時間に対する滴定値の線形グラフが過酸化水素のゆっくりした反応に対して補正され,過酸に対応する値を与えるために,ゼロ時間へと外挿される。)

(1-イ)
「This paper decribes a convenient and rapid spectrophotometric method for the determination of peracids in the presence of up to a 1000-fold excess of hydrogen peroxide. The method is analogous to the titrimetric method of Sully and Williams^(2) and involves extrapolation of the absorbance change, due to the initial rate of the reaction between hydrogen peroxide and iodide, back to zero time to give a value that corresponds to the iodine formed from the reaction of the peracid with iodide.
The proposed method has been used to monitor the formation of peracetic acid during the porhydrolysis of p-nitronhenyl acetate.」(1477頁左欄23行?33行,当審訳:この報文は,過酸化水素の1000倍を超える存在下で過酸を定量するための便利で迅速な分光光度法を記述している。この方法は,SullyとWilliams^(2)の滴定法に類似しており,過酸とヨウ化物の反応から形成されるヨウ素に対応する値を与えるためにゼロ時間へ戻り,過酸化水素とヨウ化物との間の反応の当初速度による吸光度の変化を外挿することを含む。
提案された方法は,p-ニトロフェニルアセテートの過加水分解の間に形成された過酢酸をモニターするために使用されている。)

(1-ウ)
「Reagents
Analytical-reagent grade chemicals were used wherever possible. AnalaR (BDH) potassium iodide was rccrystallised from distilled water. All solutions were prepared in distilled water. Solution A contained 6.6gl^(-1) of potassium iodide and 2gl^(-1) of sodium hydroxide. Solution B contained 20 g l^(-1) of potassium hyrdrogen phthalate.」(1477頁左欄40行?同頁右欄4行,当審訳: 試薬 分析試薬級の化学物質が可能な限り使用された。AnalaR(BDH)ヨウ化カリウムが蒸留水から再結晶された。すべての溶液は蒸留水中で調製された。溶液Aは、6.6g/lのヨウ化カリウムと2g/lの水酸化ナトリウムを含んでいた。溶液Bは、20g/lのカリウム水素フタル酸塩を含んでいた。)

(1-エ)
「Assay
A 0.1-ml aliquot of the sample solution is added to a 1-cm cuvette containing 1 ml of solution A and 1 ml of solution B and the timer on the spectrophotometer is started simultaneously. The cuvette is quickly stoppered and shaken and the liberated iodine is measured at λmax= 352 nm for 0.1 s every 1.0 s for a total of 5 s. The absorbance at zero time is calculated by regression analysis, assuming a linear relationship between absorbance and time. The concentration of peracid is calculated from the absorbance at zero time using an apparent molar absorptivity of 24100 l mol^(-1) cm^(-1).」(1477頁右欄18?28行,当審訳: アッセイ 試料溶液の0.1mlアリコートが、1mlのA溶液と1mlのB溶液を含む1cmキュベットに添加されて、同時に分光計上のタイマーがスタートされる。キュベットは速やかに塞がれて振られ、そして遊離したヨウ素がλmax=352nmで各1.0s毎に0.1s、全体で5秒間測定された。零時間での吸光度が、回帰分析により計算され、吸光度と時間との間の線形関係が確かめられる。過酸の濃度は、ゼロ時間の吸光度から見掛けのモル吸光係数24100 l mol^(-1)cm^(-1)を使い計算される。)

(1-オ)
「Expeimental Procedure
The interval between starting the timer and taking the first absorbance reading is about 12 s. For peracid samples containing no hydrogen peroxide, the slope of a graph of absorbance versus time is zero. This shown that the reaction between the peracid and iodide is complete before the first absorbance measurement is made. 」(1477頁右欄30行?36行,当審訳:実験手順 タイマーのスタートと最初の吸光度読み取りとの間の間隔は、約12秒である。過酸化水素を含まない過酸試料に対して、吸光度対時間のグラフの勾配は、ゼロである。これは、過酸とヨウ化物との間の反応が最初の吸光度測定がなされる前に完了していることを示している。)

(1-カ)
「Application
The method was used to determine the concentration of the peracetic acid formed during the perhydrolysis of p-nitro-phenyl acetate (PNPA). The absorbance readings were corrected for the background due to PNPA and p-nilro-phenol, which was measured by adding the sample to a cuvette containing 1 ml of a 2 gl^(-1) sodium hydroxide solution and 1 ml of solution B. The sigmoidal-shaped curve shown in (Fig.1) is obtained. This is because^(11) the peracetic acid formed initially reacts further with PNPA to form diacetyl peroxide, which ultimately reacts with hydrogen peroxide to yield two moles of peracetic acid./Hence, the perhydrolysis of PNPA is auto-catalytic. A small amount of acetate is also formed owing to hydrolysis of PNPA and diacetyl peroxide. The agreement between the measured peracid concentration and that calculated using the rate constants for the individual reactions, determined independently,^(11) confirms the validity of the proposed method and illustrates its utility.」(1478頁右欄12行?末行,当審訳:応用 該方法は、p-ニトロフェニルアセテート(PNPA)の過加水分解の間に形成される過酢酸の定量するために使用された。吸光度読み取りは、PNPAとp-ニトロフェノールによるバックグラウンドに対して補正された。バックグラウンドは、2g/l水酸化ナトリウム溶液1mlと溶液B1mlを含むキュベットに試料を添加することによって定量された。図1に示されるS字状曲線が得られた。これは、当初形成された過酢酸がさらにPNPAと反応して、ジアセチルペルオキサイドを形成する^(11)からである。ジアセチルペルオキサイドは過酸化水素と反応して、2モルの過酢酸を生じる。それ故、PNPAの過加水分解は自己触媒的である。少量の酢酸塩もまた、PNPAとジアセチルペルオキサイドの加水分解によって形成される。定量された過酢酸の濃度と、独立的に決定された、個別の反応に対して速度定数を用いて計算されたものとの一致は、提案された方法の有効性を確証し、その有用性を示す。)

上記記載事項(1-ア)?(1-カ)を参照すると,刊行物1には,次の発明が記載されているものと認められる。
「p-ニトロフェニルアセテートの過加水分解の間に形成される過酢酸の濃度を定量するために,p-ニトロフェニルアセテートと過酢酸と過酸化水素を有する組成物の試料を,ヨウ化カリウムを含む溶液に添加し,
同時に分光計上のタイマーをスタートさせ,前記試料混合物の吸光度を示す応答データを収集し,
ゼロ時間での吸光度が,回帰分析により計算され,吸光度と時間との間の線形関係が確かめられて,
p-ニトロフェニルアセテートの過加水分解の間に形成される過酢酸の濃度を,ゼロ時間の吸光度から見掛けのモル吸光係数を使って計算される方法。」(以下「引用発明」という)

本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である「Simultaneous spectra-kinetic determination of paracetic acid and hydrogen peroxide in a brewery cleaning-in-place disinfection process,ANALYTICA CHIMICA ACTA ,2004年,522,275-280」(当審訳:醸造所洗浄-現場殺菌プロセスにおける過酢酸と過酸化水素の同時的分光-速度論的定量,以下「刊行物2」という)には,次の事項が図面とともに記載されている。

(2-ア)
「A spectra-kinetic approach was applied for the simultsncous determination of peroxyacetic acid (PAA) and hydrogen peroxide with multiple linear regression (MLR) method, using the initial rates of their reaction with diphenylamine (DPA). The predictive ability of the MLR method is based on the slight kinetic differences of these analytes occur at two wavelengths when react with DPA as a common ligand. A stopped flow apparatus was used, and the time-resolved UV-vis spectra were measured with a coupled charge device (CCD) spectrophotometer. This novel instrumentation allowed to obtain high quality kinetic data at a maximum of many wavelengths simultaneously. The method was successfully applied to the simultaneous determination of these peroxides in residues from a disinfection process in a beer brewery.」(要約,当審訳:分光-速度論的アプローチが,多重線形回帰(MLR)法での過酢酸(PAA)と過酸化水素の同時的定量に対して,それらのジフェニルアミン(DPA)との反応の当初速度を用いて,適用された。MLR法の予測能力は,共通のリガンドとしてDPAと反応する際に,2つの波長で生じるこれらのアナライトのわずかな速度論的相違に基づくものである。ストップドフロー装置が用いられ,時間-解像UV-可視光スペクトルが結合電荷素子(CCD)分光光度計で定量された。この新しい装置は,多くの波長の最大値での高定量を同時的に得ることを可能にした。該方法は,醸造所における殺菌工程からの残余物中のこれらの過酸化物の同時的定量に成功裏に適用された。)

本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2003-294694号公報(以下「刊行物3」という)には,「過酢酸及び過酸化水素の同時分別定量法」について,次の事項が図面とともに記載されている。

(3-ア)
「【請求項1】モリブデン酸塩、ヨウ素及びヨウ化物イオンを含むpHが5?6であるpH緩衝溶液中に、過酢酸及び過酸化水素含む溶液を加え、過酢酸及び過酸化水素とヨウ化物イオンとの反応における酸化還元電位の変化量を測定することからなる、過酢酸及び過酸化水素の同時分別定量法。」

(3-イ)
「【0005】【発明を解決するための手段】過酢酸及び過酸化水素とヨウ化物イオンとの反応において、反応速度は過酢酸では速く、過酸化水素では遅いが、同時に反応する部分があり、過酢酸及び過酸化水素の分別定量を行うことができない。また、過酸化水素とヨウ化物イオンとの反応は遅く、平衡に達するのに時間がかかりすぎて、分析に利用するには問題があった。本発明者らは、前記課題を解決するため、モリブデン酸塩存在下に過酢酸及び過酸化水素とヨウ化物イオンの反応性を検討した結果、特定のpH範囲では、過酢酸及び過酸化水素とヨウ化物イオンとの反応が重なって起こる部分が少なくなり、過酸化水素とヨウ化物イオンの反応も比較的短時間で平衡に達することを見いだすとともに、過酢酸及び過酸化水素とヨウ化物イオンの反応における酸化還元電位の変化量を測定することにより、それぞれの分別定量が短時間で可能となることを見いだし、本発明を完成した。」

本願優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である「HARMS D.,Rapid and selective determination of peroxyacetic acid in disinfections using flow injection analysis,ANALYTICA CHIMICA ACTA ,1999年,389,233-238」(当審訳:フローインジェクション分析を用いた滅菌中の過酢酸の迅速及び選択的な定量,以下「刊行物4」という)には,次の事項が図面とともに記載されている。

(4-ア)
「Abstract The development and application of a flow injection analysis (FIA) method for the automated determination of peroxyacetic acids in the presence of hydrogen peroxide is described. The selective oxidation of 2,2'-Azino-bis(3-ethylbenzothiazoline)-6-sulphate) (ABTS) to a green radical cation (ABTS^(*+)) is the basis for this method. A reagent stream and a carrier stream into which the sample is injected are combined in a low dead volume mixing tee. A short reaction coil provides for a reaction time of 6 s after which detection is performed by UV/vis spectroscopically at λ=405 nm. Major advantages of the method are the simple experimental setup and the high selectivity towards hydrogen peroxide. Real samples have been investigated and the method has been validated using independent techniques including microplate spectrophotometry and liquid chromatography.」(233頁,当審訳:要約 過酸化水素の存在下での過酢酸の自動化された定量のためのフローインジェクション分析(FIA)法の開発と適用が記述されている。2,2’-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン)-6-サルフェート)(ABTS)の緑色ラジカル陽イオン(ABTS^(*+))への選択的酸化がこの方法の基礎である。試薬流と試料が注入されているキャリア流は,低デッドボリューム混合T管中で混合される。短い反応コイルが6秒の反応時間のために備えられ、その後UV/可視光分光光度計によりλ=405nmで検出が行われる。この方法の主要な利点は、単純な実験ステップと過酸化水素に対する高度な選択性である。現実の試料が調べられて、この方法がマイクロプレート分光光学法と液体クロマトグラフィーを含む独立した技術を使用して評価された。)

(4-イ)236頁の図2には,この研究で用いられる際の過酢酸(PAA)を測定するためのフローインジェクション分析システムの概略的セットアップが図示されている。

(2)本願発明1について
ア 本願発明1と引用発明との対比
(ア)引用発明の「ヨウ化カリウムを含む溶液」,「過酢酸」および「過酸化水素」は,それぞれ,本願発明1の「ヨウ化物化合物を含む試薬」,「過酸」および「過酸化物」に相当することは明らかである。

(イ)過酸化水素の存在下でのp-ニトロフェニルアセテートの過加水分解の間に形成された過酢酸が,過酸化水素によりp-ニトロフェニルアセテートが過加水分解されて形成されるものであることは,過酸の形成における技術常識であるといえる。そして,上記記載事項(1-イ)からみて,形成される過酢酸は,その濃度を決定(モニター)されるべき成分であるが,反応原料としてp-ニトロフェニルアセテートと共に大量の過剰状態で当初から存在させている過酸化水素は,本願発明1とは異なり,その濃度を決定すべき成分として扱われないし,刊行物1にも,過酸化水素の濃度を決定することおよびその必要性についての記載も示唆もない。
そうすると,引用発明における「p-ニトロフェニルアセテートと過酢酸と過酸化水素を有する組成物の試料を、ヨウ化カリウムを含む溶液に添加し」は,「ヨウ化物化合物を含む試薬と決定すべき濃度の過酸および過酸化物を有する組成物の試料とを含む試料混合物を作製するステップ」ではあるものの,本願発明1の「ヨウ化物化合物を含む試薬と決定すべき濃度の過酸および決定すべき濃度の過酸化物を有する使用組成物の試料とを含む試料混合物を作製するステップ」には当たらないといえる。

(ウ)引用発明の「同時に分光計上のタイマーをスタートさせ,前記試料混合物の吸光度を示す応答データを収集し」は,本願発明1の「時間の関数として前記試料混合物の吸光度を示す応答データを収集するステップ」に相当することは明らかである。

してみると,本願発明1と引用発明は,
(一致点)
「ヨウ化物化合物を含む試薬と決定すべき濃度の過酸および過酸化物を有する組成物の試料とを含む試料混合物を作製するステップ,
時間の関数として前記試料混合物の吸光度を示す応答データを収集するステップ,ならびに
前記応答データに基づいて,前記使用組成物中の前記過酸の濃度を決定するステップを含む方法。」
である点で一致し,次の点で相違する。

(相違点1)
「試料である組成物」が,
本願発明1では「決定すべき濃度の過酸および決定すべき濃度の過酸化物を有する使用組成物」であるのに対し,
引用発明では「p-ニトロフェニルアセテートの過加水分解の間に過酢酸を形成させるためのp-ニトロフェニルアセテートと過酢酸と過酸化水素を有する組成物」である点。

(相違点2)
「吸光度を示す応答データに基づいて濃度が決定される成分」が,
本願発明1では「過酸」および「過酸化物」であって,
その結果,「前記応答データに基づいて、前記使用組成物中の前記過酸の濃度および前記過酸化物の濃度を決定するステップを含み、
前記過酸の濃度および前記過酸化物の濃度を決定するステップが、
前記試料混合物の前記吸光度を示す前記データと時間との間の、傾きおよびy切片を含む、最も適合する線形関係を決定すること、
前記y切片に基づいて前記過酸の濃度を計算すること、および
前記傾きに基づいて前記過酸化物の濃度を計算することを含む方法。」であるのに対し,
引用発明では「過酸(過酢酸)」だけであって,
その結果,「前記応答データに基づいて,前記使用組成物中の前記過酸の濃度を決定するステップが,ゼロ時間での吸光度が,回帰分析により計算され,吸光度と時間との間の線形関係が確かめられて,p-ニトロフェニルアセテートの過加水分解の間に形成される過酢酸の濃度を,ゼロ時間の吸光度から見掛けのモル吸光係数を使って計算される方法。」である点。

イ 相違点の検討
上記記載事項(2-ア)からみて,刊行物2には,「決定すべき濃度の過酢酸(過酸)および決定すべき濃度の過酸化水素(過酸化物)を有する使用組成物」を試料として,過酢酸と過酸化水素の両者を吸光度を示すデータから同時的に定量することが記載されているといえる。
しかしながら,刊行物2で使用されている過酢酸及び過酸化水素と反応させる試薬は,「それらのジフェニルアミン(DPA)との反応の当初速度を用いて、適用された。」と記載されているように,ヨウ化物とは全く異なるジフェニルアミンであり,しかも両者の濃度はともに,刊行物2の279頁の図5にも示されているように,反応の当初速度に基づき定量が行われるという別種の定量方法である。
また,上記記載事項(3-イ)の「過酢酸及び過酸化水素とヨウ化物イオンとの反応において、反応速度は過酢酸では速く、過酸化水素では遅いが、同時に反応する部分があり、過酢酸及び過酸化水素の分別定量を行うことができない」という阻害要因的記載があることからみて,刊行物3には,特定の条件下で過酢酸及び過酸化水素とヨウ化物イオンとの反応における酸化還元電位の変化量を測定する,という吸光度測定とは別種の手段で過酢酸及び過酸化水素の同時分別定量法を行うことが記載されているに過ぎない。
そうすると,「決定すべき濃度の過酸および決定すべき濃度の過酸化物を有する使用組成物」について,過酸の濃度および前記過酸化物の濃度を決定することが必要であることは,刊行物2および3に記載されているとしても、そのために採用する手段は,引用発明における手段とは全く異なっており,引用発明では過酢酸濃度を決定するためのゼロ時間の吸光度が時間と吸光度の線形関係で求められ,上記記載事項(1-オ)の「タイマーのスタートと最初の吸光度読み取りとの間の間隔は、約12秒である。過酸化水素を含まない過酸試料に対して、吸光度対時間のグラフの勾配は、ゼロである。」からみて,該ゼロ時間での吸光度を求めるまでの過酸化水素とヨウ化物との反応が線形関係にあることが刊行物1に示唆されているとしても,引用発明が「p-ニトロフェニルアセテートの過加水分解の間に形成される過酢酸の濃度を定量するための方法」である以上,引用発明における過酢酸の濃度を定量すべき組成物の試料を,刊行物2および3に記載された「決定すべき濃度の過酸および決定すべき濃度の過酸化物を有する使用組成物」に変更するべき動機付けは見当たらないといえる。
してみると,引用発明に刊行物2および3記載の事項を適用して,相違点1および2における本願発明1の構成とすることは,当業者が容易に想到し得る程度のことであるとはいえない。
そして,相違点1および2により,本願明細書に記載された格別顕著な効果を奏するといえる。
ウ まとめ
したがって,本願発明1は,刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(3)本願発明2?6について
請求項2?6は,請求項1を引用する従属項であるから,請求項2?6に係る発明も,本願発明1と同様の理由で,刊行物1?3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)本願発明7?9について
システムについての本願発明7?9に対しては,原査定の理由でさらに刊行物4が引用されているが,刊行物4に記載された方法,装置においては,過酢酸と反応させる試薬がヨウ化物ではなく,ABTSであって,本願発明7?9においても,本願発明1の場合と同様に,引用発明との相違点となる,相違点1,2について,記載・示唆するところはない。
そうすると,本願発明1と同様の理由で,本願発明7?9も刊行物1?4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

3 前置報告について
前置報告書には,上記記載事項(1-ア)および(1-イ)における「SullyとWilliamsの代替方法」が記載されている刊行物を含め,以下の刊行物が追加引用されているので,これらについても検討する。

(1)各刊行物の記載事項
ア 本願優先日前に頒布された刊行物である「SULLY,B.D. 他,“The Analysis of Solutions of Per-acids and Hydrogen Peroxide”, ANALYST, 1962年, Vol.87, Issue 1037, pp.653-657」(以下「刊行物5」という)には,次の事項が記載されている。(なお、記載の都合上、計算式については等価の別形式での記載に変更している。)

(5-ア)
「Per-acids and hydrogen peroxide are determined in the presence of each other by taking advantage of the large difference in their rates of reaction with iodide. The method is superior to the permanganate and ceric sulphate methods generally used in the past, in that the determination is carried out in a pH range (3 to 5) in which the rate of equilibration between per-acid and peroxide is negligible; it is therefore applicable to systems, such as those containing performic acid, that could not be satisfactorily analysed by the former methods because of their rapid equilibration in strongly acid solution.」(653頁 要約,当審訳:過酸と過酸化水素は、ヨウ化物とのそれらの反応速度における大きな違いを利用することによって,互いの存在下に定量される。該方法は,過去に使用されていた過マンガン酸塩および硝酸セリウム法より優れており,そこでは過酸と過酸化水素との間の平衡速度が無視できるpH範囲(3?5)で定量が実施されている;したがって,これは,強酸性溶液におけるそれらの急速な平衡のために前者の方法では満足に分析できなかった,過ギ酸を含むシステムに対しても適用可能である。)

(5-イ)
「 In this paper an iodirnetric method is discribed that is free from the disadvantages referred to above. It is carried out in a weakly acid solution in which the rate of equilibration between per-acid and peroxide is usually negligible so that the usefulness of the procedure extends to systems that cannot be satisfactorily analysed by the former methods. Thus we have found that, although all the examples given in this paper deal with peracetic acid, the technique may equally well be applied to performic acid - hydrogen peroxide solutions.
Hatcher and Holden^(6) determined per-acids in the presence of hydrogen peroxide by adding potassium iodide and titrating the liberated iodine, the conditions being so chosen that, although the per-acid reacted rapidly with iodide, the reaction of the hydrogen peroxide was extremely slow. The proposed method is based on a similar procedure, but is carried out in a way such that a correction can be made for the error due to the slow reaction of hydrogen peroxide. The hydrogen peroxide is subsequently determined in the same sample by adding a catalyst for its reaction with iodide and continuing the titration.」(653頁下から16行?4行,当審訳:この報文では,ヨウ素法が上記に参照された欠点のないものであることが記述される。先行方法によって満足に分析され得ないシステムにまでこの方法の有用性を拡張できるように,その中では通常は過酸と過酸化水素との間の平衡速度が無視される,弱酸溶液中で之は実施される。すなわち,我々は,この報文で与えられたすべての例は過酢酸に関するものではあるが,この技術は過ギ酸-過酸化水素溶液に同様にうまく適用させ得る。
HatcherとHolder^(6)は,ヨウ化カリウムを添加して遊離されるヨウ素を滴定することにより,過酸化水素の存在下で過酸を定量した。その条件は,過酸はヨウ化物と急速に反応するけれども,過酸化水素の反応は極度に遅いという条件が選ばれた。提案された方法は,同様の手順に基づくものであるが,しかし,補正が過酸化水素の遅い反応による誤差に対して行い得るような方法で実施される。過酸化水素は,ヨウ化物との反応のために触媒を添加されて,滴定を継続することによって,同じ試料中で引き続いて定量される。)

(5-ウ)
「General procedure?
An accurately weighed sample of solution was added to a dilute acetic acid or acetate buffer solution that had usually been cooled to below 5°C. Excess of potassium iodide solution was added, and at the same moment a stop-watch was started. The liberated iodine was titrated with 0.1 N sodium thiosulphate, with starch as indicator, until the blue colour was just discharged; the burette reading, and the stop-watch reading at the moment when the colour returned, were noted. A further 2 or 3 drops of thiosulphate solution were added, and a second pair of readings taken. This was repeated several times, usually during a period of about 10 minutes. A small amount of ammonium molybdate solution was then added to catalyse the reaction of the remaining hydrogen peroxide, and the titration was then completed.
Although it is generally assumed that the iodimetric determination of hydrogen peroxide with molybdate as catalyst requires strongly acid conditions, in our experience it is equally satisfactory in 0.1 or 0.05 N acetic acid solution. It can even be used in a buffered solution at a pH as high as 4.7, although the reaction then requires several minutes for completion.
By assuming that the reactions of per-acid and of hydrogen peroxide with iodide proceed independently, the corrected titre corresponding to the per-acid present could be obtained by plotting titre against time and extrapolating back to zero time. The difference between this and the total titre corresponded to the hydrogen peroxide. In practice, conditions were usually such that the plot was linear within the error of the burette reading, at least during the first few minutes, so that the corrected titre could be calculated from two pairs of readings within a suitable time interval without the necessity of drawing a graph. Since the reaction of hydrogen peroxide with iodide is of first order in peroxide^(9), a more exact method of making the correction would be to extrapolate from the strictly linear plot of log(xt ?x) against t, where x is the titre at time t and xt is the total titre. This procedure was used in some special instances, but in ordinary circumstances little or no extra accuracy was gained by it. 」(654頁4?30行,当審訳:一般的手順- 溶液の正確に秤量された試料が,通常5℃以下に冷却された希釈酢酸又は酢酸塩緩衝溶液に添加された。過剰のヨウ化カリウム溶液が添加され,同時にストップウオッチがスタートされた。遊離されたヨウ素が0.1Nチオ硫酸ナトリウムで指示薬としての澱粉と共に,青色が丁度呈しなくなるまで,滴定された;色が変化した場合の時点のビュレットの読みとストップウオッチの読みを書きとめた。さらに2,3滴のチオ硫酸塩溶液が添加されて,第2の読み取り値対が取られた。これが数回,普通約10分間,繰り返された。少量のモリブデン酸アンモニウム溶液がそれから添加されて,残存している過酸化水素の反応を触媒化した。そして滴定が次いで完了された。
触媒としてモリブデン酸塩を用いる過酸化水素のヨウ素法定量は強酸性的条件を必要とするが,我々の経験では,0.1又は0.05N酢酸溶液中で同様に満足的である。反応は完了するのに数分必要になるけれども,4.7のような高いpHの緩衝液中で使用することさえできる。
過酸と過酸化水素のヨウ化物との反応は独立的に進行するけれども,過酸に対応する補正された滴定値は,時間に対して滴定値をプロットして,ゼロ時間に外挿することによって得ることができた。これと総滴定値との間の相違は,過酸化水素に対応する。実際,条件は普通,補正された滴定値がグラフを描く必要なしに適当な時間間隔内の2つの読み取り値のペアから計算できるように,プロットが少なくとも最初の数分間,ビュレットの読みの誤差の範囲内で直線的であるものである。過酸化水素とヨウ化物との反応は過酸化物において一次である^(9)ので,補正を行うより正確な方法は,tに対するlog(xt-x)の厳密な線形プロットから外挿することであるだろう。ここで,xは時間tにおける滴定値でxtは総滴定値である。この手順は,いくつかの特別な実例で使用されたが,普通の環境では,それによって少しの又は特別な精度は得られなかった。)

(5-エ)
「 Method
Reagents?
Sodium thiosulphate solution, 0.1 N.
Acetic acid solution, approximately 0.1 N.
Potassium iodide solution, 15 per cent. w/v.
Ammonium molyhdate solution?Reagent solutions of the type normally used for determining phosphate are suitable.
Dissolve 100 g of molybdic anhydride in a mixture of 400 ml of water and 80 ml of ammonia solution, sp.gr. 0.880. Add this solution slowly, with stirring, to a mixture of 400 ml of concentrated nitric acid and 600 ml of water; store the product in a warm place for several days, and then remove any sediment by decantation.

Procedure?
Place 100 ml of acetic acid solution in a wide-necked 500-ml conical flask provided with a mechanical stirrer and a thermometer and immersed in an ice-water bath. When the temperature has fallen to 5°C, add an accurately weighed sample of the solution to be analysed, the size of sample being so chosen as to give a suitable total titre. Add 10 ml of potassium iodide solution, and, at the same moment, start a stop-watch. Titrate the liberated iodine with thiosulphate, with starch as indicator, and, as the blue colour returns, continue the titration dropwise until 2 minutes have elapsed from the addition of the iodide. Note the burette reading (x_(1)) and the stop-watch reading (t_(1)) when the blue colour next returns. Continue the titration as before for a further 3 or 4 minutes, and then take a second burette, reading (x_(2)) with the corresponding stop-watch reading (t_(2)). Then add 3 drops of ammonium molybdate solution, and continue the titration to an end-point that remains stable for one minute; note the burette reading (x_(t)).
Calculate the corrected titre at zero time (x_(0)) from the expression?
x_(0)=x_(1)-t_(1)(x_(2)-x_(1))/(t_(2)-t_(1))
Then the per-acid content = x_(0)・N・E/10W per cent
and the hydrogen peroxide content = (x_(t)-x_(0))・N・17.01/10W per cent
where N = normality of thiosulphate,
W = weight of sample and
E = equivalent weight of per-acid (e.g., 38.03 for peracetic acid). 」
(657頁3?33行,当審訳: 方法
試薬-
チオ硫酸ナトリウム溶液,0.1N
酢酸溶液, 約0.1N
ヨウ化カリウム溶液 15%w/v
モリブデン酸アンモニウム溶液 -リン酸塩定量用に普通に使用されているタイプの試薬溶液が適当である。
400mlの水と80mlのアンモニア水,に100gの三酸化モリブデンを溶解,比重0.880。この溶液をゆっくりと撹拌しながら,400mlの濃硝酸と600mlの水の混合物に添加;生成物を数日間暖かい場所で貯蔵し,次いでいくらかの沈殿を傾斜法で除去。

手順-
機械的撹拌機と温度計を備え,氷-水浴に浸された広首の500ml円錐型フラスコ内に100mlの酢酸を置く。温度が5℃に下がったとき,分析される液体の正確に秤量された試料を添加。試料量は,適当な滴定総量になるように選択。10mlのヨウ化カリウムを添加,そして同時に,ストップウオッチをスタート。遊離されたヨウ素を,指示薬としての澱粉と共に,チオ硫酸塩で滴定。そして青色が戻ったとき,ヨウ化物の添加から2分経過するまで滴滴の滴定を継続。次に青色が戻ったとき,ビュレットの読み(x_(1))とストップウオッチの読み(t_(1))を書きとめる。さらに3乃至4分,前のように滴定を継続,次いで,第2のビュレットの読み(x_(2))と対応するストップウオッチの読み(t_(2))を読み取る。それから3滴のモリブデン酸アンモニウム溶液を添加,そして1分間安定のままである終点まで滴定を継続;ビュレットの読み(x_(t))を書きとめる。
次の表現から,ゼロ時間(x_(0))で補正された滴定値を計算-
x_(0)= x_(1)-t1(x_(2)-x_(1))/(t_(2)-t_(1))
それから過酸の含有量= x_(0)・N・E/10W パーセント。
そして過酸化水素含有量= (x_(t)-x_(0))N・17.01/10W パーセント。
ここで,N=チオ硫酸塩の規定度,
W=試料の重量 及び
E=過酸の等量重量(すなわち,過酢酸については38.03) )

イ 本願優先日前に頒布された刊行物である特開平06-194313号公報(以下「刊行物6」という)には,次の事項が記載されている。

(6-ア)
「【0003】測定対象の物質の濃度を求める方法としては,従来はエンドポイント法とレート法の2種類の方法が採用されている。エンドポイント法は、図4に示すように、発色反応による生成される色素の量が反応時間の経過に伴って飽和する場合に用いられる方法であり、検体と試薬とを十分反応させた後の最終吸光度Aに基づいて測定対象物質の濃度を求める方法である。これに対して、レート法は、検体中の酵素活性を測定する場合のように、発色反応により生成される色素の量が反応時間の経過と共に増大していく場合に用いられる方法であり、この場合には図5に示すように、反応中に測定した吸光度yに対して、一次関数y=at+bを最小二乗法によりで近似し、その結果求められる係数aの値に基づいて測定対象物質の濃度を求めている。」

ウ 本願優先日前に頒布された刊行物である「EFSTATHIOU,C.H. 他,“Automatic Reaction Rate Method for the Determination of Vicinal Glycols with a Perchlorate Ion Selective Electrode”, ANALYTICAL CHEMISTRY, Vol.47, No.6, 1975年5月, pp.864-869」(当審訳:過塩素酸塩イオン選択性電極での隣接グリコールの定量のための自動的反応速度法,以下「刊行物7」という)には,次の事項が記載されている。

(7-ア)
「Determination of Ethylene Glycol by Direct Potentiometry. The method is based on the determination of periodate consumption. This is equal to the difference between the known initial periodate concentration and the final one determined from a single potential measurement, multiplied by the final volume of the reaction mixture, and corresponds to the periodate consumed for the oxidation of ethylene glycol. For better accuracy, the sample concentration range should be narrow(0.020-0.0028M), and the usual precautions as in the classical iodometric procedure (15) should be taken to avoid overoxidation. Overoxidation is most noticeable when high concentrations of periodate are used, or when high temperatures are employed for the oxidation (13).
If [IO4^(-)]_(0) is the initial periodate concentration (equal to the periodate concentration in the blank),[IO4^(-)]_(x) is the concentration of the unreacted periodate, and E_(bl) and E_(x) are the measured potentials in the blank and in the sample, after the completion of the reaction, then
E_(0) = E_(bl) = E' - Slog [IO4^(-)]_(0) (17)
E_(x) = E' - Slog [IO4^(-)]_(x) (18)
where S = 2.303 RT/F = constant. Combining Equations 17 and 18,
E_(x) - E_(bl) = Slog[IO4^(-)]_(0)/[IO4^(-)]_(x) (19)
The ethylene glycol concentration [G] is given by
[G] = [IO4^(-)]_(0)-[IO4^(-)]_(x) (20)
Combining Equations 19 and 20,
[G] =[IO4^(-)]_(0)(1 - 10^(-(Ex - Ebl)/S)) (21)
The ethylene glycol concentration can be calculated from Equation 21 from a single potential measurement. Since S depends not only on temperature but also on the age of the perchlorate electrode, all measurements are taken at the same temperature (25 ± 0,1°C) and the value of S, which is equal to the slope of the potential vs. log [IO4^(-)] curve, is determined with a series of standards, with an accuracy of ±0.05 mV, For better accuracy E_(M) should be the average of three determinations. 」(867頁左欄,当審訳:直接ポテンショメトリーによるエチレングリコールの定量
この方法は,過ヨウ素酸塩消費の定量に基づくものである。これは,既知の当初過ヨウ素酸塩濃度と1回の電位測定から定量され,反応混合物の最終容積によって乗算されて,エチレングリコール酸化のために消費された過ヨウ素酸塩に対応する最終濃度との間の相違に等しい。より良い精度のためには,試料の濃度範囲は狭くなければならず(0.020-0.028M),そして過剰酸化を避けるために,古典的ヨウ素法手順におけるような予防策を取らなければならない。過剰酸化は,高濃度の過ヨウ素酸塩が使用される場合,あるいは高い温度が用いられる場合に最も注目しなければならない(13)。
もしも[IO_(4)^(-)]_(0)が当初の過ヨウ素酸塩濃度(ブランクにおける過ヨウ素酸塩濃度に等しい)であるとすると,[IO_(4)^(-)]xは反応されていない過ヨウ素酸塩の濃度であり,そしてE_(b1)とExは,反応が完了した後のブランク中と試料中で測定された電位であって,そうすると
E_(0) =E_(b1) =E' -Slog[IO_(4)^(-)]_(0) (17)
E_(x) = E’-Slog[IO_(4)^(-)]_(x) (18)
ここでS=20303RT/F=一定である。式17と18とを組み合わせると,
E_(x)-E_(b1) = Slog[IO_(4)^(-)]_(0)/[IO_(4)^(-)]_(x) (19)
エチレングリコールの濃度[G]は次式であたえられる。
[G] = [IO_(4)^(-)]_(0)-[IO_(4)^(-)]_(x) (20)
式19と20を組み合わせると,
[G] = [IO_(4)^(-)]_(0)(1-10^(-(Ex-Eb1)/S)) (21)
エチレングリコールの濃度は,単一の電位測定から式21から計算され得る。Sは温度だけでなく,過塩素酸電極の経時年齢にも依存するので,すべての測定は同じ温度(25±1℃)で行われ,そしてS値は,電位対log[IO_(4)^(-)]曲線の勾配に等しいので,一連の標準溶液で±0.05mVの精度で定量される。より良い精度のためには,E_(b1)は3回の定量の平均でなければならない。)

(2)検討
刊行物5には「ヨウ化物化合物を含む試薬と決定すべき濃度の過酸および決定すべき濃度の過酸化物を有する使用組成物の試料とを含む試料混合物を作製し,過酸の濃度および前記過酸化物の濃度を決定する」ことは記載されているものの,そのための方法は,試料混合物の吸光度データの収集によるものではなく,上記記載事項(5-エ)にある如く,「途中からはモリブデン酸塩を触媒と添加し過酸化水素の反応速度を加速した条件で,澱粉を着色指示薬とするチオ硫酸塩を滴定溶液として使用した滴定法」によるものである。
滴定法は,そもそも,どれだけの容量の滴定試薬溶液を滴下すると所定の反応状態になるかを知るという,一般には時間とは無関係の方法である。刊行物5記載の方法では,滴定データが時間と共に収集されているものの,上記記載事項(5-ウ)に「過酸に対応する補正された滴定値は,時間に対して滴定値をプロットして,ゼロ時間に外挿することによって得ることができた。」と記載され,上記記載(5-エ)の各濃度の算出式に記載されているように,過酸の濃度を計算するための過酸濃度に対応する補正された滴定値x_(0)を求めるために,時間の関数としての滴定値が利用されているので,本願発明1における「y切片」に類似した形での値が求められているともいえないことはないが,過酸化物の濃度を決定するためには,そのヨウ化物との反応が終了した際の総滴定量が必要であって,反応速度に基づくいわゆるレート法とは関係がないといえる。
そうすると,引用発明に刊行物5記載の滴定法を適用して,過酢酸だけでなく,共存する過酸化水素の濃度を決定するように変更しようとする動機付けも,相違点2に係る構成を採用するように変更しようとする記載も示唆も存在しないといえる。
また,一般に化学反応を利用した濃度決定において,レート法(反応初速度法)とエンドポイント法とが適宜選択的に用られる均等な手段であることが技術常識であるとして引用されている刊行物6には,従来の技術として上記記載事項(6-ア)の記載があり,また,刊行物7には,上記記載事項(7-ア)からみて,「過塩素酸電極イオン選択性電極を用いて試料と試薬の混合組成物溶液の電位測定によって,反応速度論的方法と1回の電位測定による直接的ポテンショメトリー法による,エチレングリコール等の隣接グリコールを定量する」ことが記載されているとしても,「ヨウ化物と過酸および過酸化物を含む試料混合物の時間の関数として試料混合物の吸光度を示す応答データと過酸および過酸化物の濃度との関係」については何ら,記載も示唆もないといえる。
したがって,これらの刊行物5?7の記載を,先の刊行物1?3に記載された発明に勘案してみても,本願発明1を初めとして,本願発明2?9が刊行物1?7に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 むすび
以上のとおり,本願については,原査定の理由によって拒絶すべきものとすることができない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-01-16 
出願番号 特願2010-510918(P2010-510918)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G01N)
最終処分 成立  
前審関与審査官 伊藤 裕美▲高▼場 正光  
特許庁審判長 岡田 孝博
特許庁審判官 藤田 年彦
郡山 順
発明の名称 過酸および/または過酸化物の濃度の速度論的定量法  
代理人 青木 篤  
代理人 蛯谷 厚志  
代理人 石田 敬  
代理人 出野 知  
代理人 古賀 哲次  

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