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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1283648
審判番号 不服2013-1458  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-25 
確定日 2014-01-08 
事件の表示 特願2008-208677「半導体デバイスの製造方法及びエンハンスメント型III族窒化物デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成20年11月 6日出願公開,特開2008-270847〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成17年1月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年1月23日,米国,2005年1月21日,米国)を国際出願日とする特願2006-551390号(以下「原出願」という。)の一部を,平成20年8月13日に新たな出願としたものであって,平成24年3月9日付けで拒絶理由が通知され,同年8月13日に手続補正がされ,同年9月18日付けで拒絶査定がされ,これに対して平成25年1月25日に審判請求がされたものである。

2 本願発明について
(1)本願発明
本願の請求項1?36に係る発明は,平成24年8月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?36に記載されている事項により特定されるとおりのものであり,そのうち請求項19に係る発明は,特許請求の範囲の請求項19に記載されている事項により特定される以下のとおりのもの(以下「本願発明」という。)である。

「【請求項19】
第1のIII族窒化物材料と第2のIII族窒化物材料との間の界面に形成され,前記2つのIII族窒化物材料は異なる面内格子定数又は異なる禁止帯を有する伝導チャンネルと,
傾斜する側壁を含む凹部を備え,前記伝導チャンネル中に遮断領域を形成するために,前記第1のIII族窒化物材料と前記第2のIII族窒化物材料のいずれかの内側に形成される修正部分と,
前記伝導チャンネルに接続され,チャンネル電流を伝達する電流伝達電極と,
前記遮断領域上を覆うように配置され,前記伝導チャンネル中における電流の伝達を行なうように前記遮断領域を元に戻すことを可能にするゲート電極と
を備えたことを特徴とするエンハンスメント型III族窒化物デバイス。」

(2)刊行物に記載された発明
引用例: 特開2000-277724号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2000-277724号公報(以下「引用例」という。)には,図2,11とともに,次の記載がある。(下線は当合議体において付加。以下同様。)

ア 発明の属する技術分野
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,電界効果トランジスタとそれを用いた半導体装置及びその製造方法に関し,特に,窒化ガリウム系化合物半導体を用いることにより高速・高温で動作可能な電界効果トランジスタとそれを備えた半導体装置及びその製造方法に関するものである。」

イ 第2の実施形態
「【0037】[第2の実施形態]図2は本発明の第2の実施形態のGaN系化合物半導体を用いた順HEMTを示す断面図であり,二次元電子ガスの濃度を制御するためのゲート電極をAlGaN/GaNヘテロ接合のAlGaN側に形成した構造である。この順HEMTは,ノーマリオン型のもので,サファイア基板1の(0001)面上に,膜厚が30nmの低温GaNバッファ層21,膜厚が2.4μmのアンドープGaN層22,膜厚が50nmで不純物濃度が1×10^(18)cm^(-3)のSiドープn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31(0≦x≦1),膜厚が20nmで不純物濃度がn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31より高い5×10^(18)cm^(-3)でありかつAl組成比がn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31より小さいSiドープn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32(0≦y≦1,y≦x)が順次積層されている。なお,33はアンドープGaN層22中に形成される二次元電子ガス層である。
【0038】このn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32上にはソース電極25及びドレイン電極26が形成され,ゲート領域直下のn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32が除去されてn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域が露出され,このゲート領域にはゲート電極27が形成されている。ソース電極25,ドレイン電極26及びゲート電極27それぞれの組成は,上述した第1の実施形態の組成と全く同様である。
【0039】次に,この順HEMTの製造方法について説明する。MOCVDを用いて,サファイア基板1の(0001)面上に,550℃の成長温度で低温GaNバッファ層21を成長させる。次いで,この低温GaNバッファ層21上に,1080℃の成長温度でアンドープGaN層22,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31,n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32を順次成長させる。次いで,このn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32上にソース電極25及びドレイン電極26を形成し,ゲート領域直下のn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32をエッチングしてn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域を露出させ,このゲート領域にゲート電極27を形成し,順HEMTとする。
【0040】本実施形態の順HEMTによれば,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31上に,不純物濃度がn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31より高いn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32を形成したので,ソース電極-ゲート電極間及びドレイン電極-ゲート電極間の寄生抵抗,及びソース電極及びドレイン電極における接触抵抗を低減することができ,順HEMTとしての特性及び信頼性を向上させることができる。
【0041】また,本実施形態の順HEMTの製造方法によれば,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31上に,不純物濃度がn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31より高いn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32を連続して形成するので,特性及び信頼性に優れた順HEMTを作製することができる。また,従来の製造工程を殆ど変更することなく用いることができるので,製造工程が複雑になる虞が無く,製造コストが高くなってしまうことも無い。なお,本実施形態では,ノーマリオン型の順HEMTとしたが,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域の膜厚を変えることにより,ノーマリオフ型の順HEMTとすることもできる。」

ウ 第6の実施形態
「【0064】[第6の実施形態]図11は本発明の第6の実施形態のGaN系化合物半導体を用いた順HEMTが複数個形成された半導体デバイスを示す断面図であり,本実施形態の順HEMTが上述した第2の実施形態の順HEMTと異なる点は,サファイア基板1上に複数個(図11では2個)のノーマリオン型順HEMT71,72を形成し,これらノーマリオン型順HEMT71,72が形成される部分以外を選択的にアンドープGaN層22の途中までエッチング53することにより素子間分離を行った点である。ソース電極25,ドレイン電極26及びゲート電極27の構造及び組成は,上述した第2の実施形態と全く同様である。
【0065】この順HEMTを作製するには,サファイア基板1上に,低温GaNバッファ層21?n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32を順次成長させた後に,n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32の全面にSiO_(2)絶縁膜54を形成し,RIEにより素子間分離を行い,n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32上にソース電極25及びドレイン電極26を形成し,RIEによりゲート領域直下のn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32を除去してn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域を露出させ,このゲート領域の上にゲート電極27を形成する。
【0066】本実施形態の順HEMTにおいても,第2の実施形態の順HEMTと同様に,ソース電極25-ゲート電極27間及びドレイン電極26-ゲート電極27間の寄生抵抗,及びソース電極25及びドレイン電極26における接触抵抗を低減することができ,順HEMTとしての特性及び信頼性を向上させることができる。また,本実施形態の順HEMTの製造方法によれば,ゲート領域直下のn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32を除去してn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域を露出させ,このゲート領域の上にゲート電極27を形成するので,特性及び信頼性の向上した順HEMTを作製することができる。なお,本実施形態では,ノーマリオン型順HEMT71,72としたが,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域の膜厚を変えることにより,ノーマリオフ型の順HEMTとすることもできる。」

エ 第8の実施形態
「【0070】[第8の実施形態]本実施形態の半導体デバイスは,第6の実施形態の半導体デバイスにおいて,ゲート領域直下のn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31を所望の厚みにエッチングし,厚みが制御されたn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31上にゲート電極27を形成し,順HEMTとしたものである。本実施形態の順HEMTでは,厚みが制御されたn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31上にゲート電極27を形成したので,ノーマリオン型あるいはノーマリオフ型の順HEMTを同一サファイア基板1上に形成することができ,半導体デバイスの機能を大幅に拡大することができる。」


ここにおいて,段落【0041】の「本実施形態では,ノーマリオン型の順HEMTとしたが,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域の膜厚を変えることにより,ノーマリオフ型の順HEMTとすることもできる。」と記載されているところ,当該「ゲート領域」とは,段落【0038】の「ゲート領域直下のn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32が除去されてn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域が露出され」との記載から,「ゲート領域直下のn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32が除去されてn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31」が「露出され」た部分を指すことは明らかである。
また,上記各記載とともに図2を参照すると,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31の膜厚は,n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32下にある部分よりも,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31が露出されている部分(すなわち前記「ゲート領域」)の方が薄くなっており,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31には,前記「ゲート領域」において凹部が形成されていることが見て取れる。
そして,上記イ及び図2に示された第2の実施形態と異なる点が,「サファイア基板1上に複数個(図11では2個)のノーマリオン型順HEMT71,72を形成し,これらノーマリオン型順HEMT71,72が形成される部分以外を選択的にアンドープGaN層22の途中までエッチング53することにより素子間分離を行った点であ」って,「ソース電極25,ドレイン電極26及びゲート電極27の構造及び組成は,上述した第2の実施形態と全く同様である」(いずれも段落【0064】)第6の実施形態について,さらに,「ゲート領域直下のn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31を所望の厚みにエッチングし,厚みが制御されたn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31上にゲート電極27を形成し,順HEMTとしたものである」(段落【0070】)第8の実施形態においては,「厚みが制御されたn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31上にゲート電極27を形成したので,ノーマリオン型あるいはノーマリオフ型の順HEMTを同一サファイア基板1上に形成することができ」るものである。この際,「ゲート領域直下のn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31を所望の厚みにエッチング」するのであるから,「ノーマリオン型あるいはノーマリオフ型の順HEMT」のいずれにおいても,前記図2に示されているように,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31には,前記「ゲート領域」において凹部が形成され,当該凹部の膜厚を制御することにより,「ノーマリオン型あるいはノーマリオフ型の順HEMT」としているものといえる。

また,段落【0037】の「なお,33はアンドープGaN層22中に形成される二次元電子ガス層である。」の記載とともに図2を参照すると,アンドープGaN層22中には,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31との界面において二次元電子ガス層33が形成されていることがわかる。

以上を総合し,第2の実施形態において「n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域の膜厚を変えることにより,ノーマリオフ型の順HEMTと」したものに注目すると,引用例には以下の発明が記載されているものと認められる。(以下「引用発明」という。)

「GaN系化合物半導体を用いたノーマリオフ型の順HEMTであって,
二次元電子ガスの濃度を制御するためのゲート電極27をAlGaN/GaNヘテロ接合のAlGaN側に形成した構造を有し,
サファイア基板1の(0001)面上に,膜厚が30nmの低温GaNバッファ層21,膜厚が2.4μmのアンドープGaN層22,膜厚が50nmで不純物濃度が1×10^(18)cm^(-3)のSiドープn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31(0≦x≦1),膜厚が20nmで不純物濃度がn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31より高い5×10^(18)cm^(-3)でありかつAl組成比がn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31より小さいSiドープn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32(0≦y≦1,y≦x)が順次積層されて,アンドープGaN層22には,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31との界面において二次元電子ガス層33が形成されており,
n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32上にはソース電極25及びドレイン電極26が形成されており,ゲート領域直下のn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32は除去されてn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のゲート領域となり,前記ゲート領域においては,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31に凹部が形成されるとともに,ゲート電極27が形成されているものであって,
n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31の前記凹部における膜厚が制御されて,ノーマリオフ型とされた,
GaN系化合物半導体を用いたノーマリオフ型の順HEMT。」

(3)対比
本願発明と引用発明とを対比する。

・引用発明の「膜厚が2.4μmのアンドープGaN層22,膜厚が50nmで不純物濃度が1×10^(18)cm^(-3)のSiドープn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31(0≦x≦1),膜厚が20nmで不純物濃度がn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31より高い5×10^(18)cm^(-3)でありかつAl組成比がn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31より小さいSiドープn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32(0≦y≦1,y≦x)が順次積層されて」いる点において,「Siドープn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31(0≦x≦1)」とされてはいるが,「Al組成比がn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31より小さいSiドープn^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32(0≦y≦1,y≦x)」を設けるためには,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31のAl組成比xは0とはなり得ないこと,すなわち,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31が,Al組成比xが0であるGaNからなるものではないことは明らかである。さらに,「アンドープGaN層22には,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31との界面に二次元電子ガス層33が形成されて」いることから見ても,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31が,アンドープGaN層22と同じGaNから構成されるものではないといえる。そして,GaNとAlGaNとは面内格子定数及び禁止帯が異なることは周知の事項である。また,引用発明は「GaN系化合物半導体を用いたノーマリオフ型の順HEMT」であるから,前記二次元電子ガス層33がチャンネルを構成することも明らかである。
それゆえ,引用発明の「アンドープGaN層22」及び「n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31」は,本願発明の「第1のIII族窒化物材料と第2のIII族窒化物材料」に相当し,引用発明の「アンドープGaN層22」の「n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31との界面において」形成される「二次元電子ガス層33」は,本願発明の「第1のIII族窒化物材料と第2のIII族窒化物材料との間の界面に形成され,前記2つのIII族窒化物材料は異なる面内格子定数又は異なる禁止帯を有する伝導チャンネル」に相当する。

・引用発明の「前記ゲート領域において」「n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31に」「形成され」ている「凹部」については,「n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31の前記凹部における膜厚が制御されて,ノーマリオフ型とされた」のであるから,「前記凹部における膜厚」は修正されたものであり,「前記凹部」は修正部分といえる。
それゆえ,引用発明の「前記ゲート領域において」「n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31に」「形成され」ている「凹部」と,本願発明の「傾斜する側壁を含む凹部を備え,前記伝導チャンネル中に遮断領域を形成するために,前記第1のIII族窒化物材料と前記第2のIII族窒化物材料のいずれかの内側に形成される修正部分」とは,「凹部を備え,前記第1のIII族窒化物材料と前記第2のIII族窒化物材料のいずれかの内側に形成される修正部分」である点で一致する。

・引用発明の「n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32上に」形成されている「ソース電極25及びドレイン電極26」は,本願発明の「前記伝導チャンネルに接続され,チャンネル電流を伝達する電流伝達電極」に相当する。

・引用発明の「前記ゲート領域において」形成されている「ゲート電極27」は,HEMTのチャンネルを構成する「二次元電子ガスの濃度を制御するためのゲート電極27」であるから,本願発明の「前記遮断領域上を覆うように配置され,前記伝導チャンネル中における電流の伝達を行なうように前記遮断領域を元に戻すことを可能にするゲート電極」とは,「前記伝導チャンネル中における電流の伝達を行なうようにすることを可能にするゲート電極」である点で一致する。

・引用発明の「GaN系化合物半導体を用いたノーマリオフ型の順HEMT」は,本願発明の「エンハンスメント型III族窒化物デバイス」に相当する。

したがって,引用発明と本願発明とは次の点で一致する。
「第1のIII族窒化物材料と第2のIII族窒化物材料との間の界面に形成され,前記2つのIII族窒化物材料は異なる面内格子定数又は異なる禁止帯を有する伝導チャンネルと,
凹部を備え,前記第1のIII族窒化物材料と前記第2のIII族窒化物材料のいずれかの内側に形成される修正部分と,
前記伝導チャンネルに接続され,チャンネル電流を伝達する電流伝達電極と,
前記伝導チャンネル中における電流の伝達を行なうようにすることを可能にするゲート電極と
を備えたことを特徴とするエンハンスメント型III族窒化物デバイス。」

一方,両者は以下の各点で相違する。

《相違点1》
「前記第1のIII族窒化物材料と前記第2のIII族窒化物材料のいずれかの内側に形成される修正部分」について,本願発明においては「傾斜する側壁を含む凹部を備え」るのに対し,引用発明においては「凹部を備え」るものの,当該「凹部」が「傾斜する側壁を含む」ことまでは特定されていない点。

《相違点2》
本願発明においては,「前記第1のIII族窒化物材料と前記第2のIII族窒化物材料のいずれかの内側に形成される修正部分」が,「前記伝導チャンネル中に遮断領域を形成するため」のものであり,また,「ゲート電極」が「前記遮断領域上を覆うように配置され,前記伝導チャンネル中における電流の伝達を行なうように前記遮断領域を元に戻すことを可能にする」ものである。これに対して,引用発明においては,本願発明の「修正部分」に対応する「n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31の前記凹部」の「膜厚によって,ノーマリオフ型と」するものではあるものの,「前記伝導チャンネル中に遮断領域を形成するため」のものであるとまでは特定されておらず,また,「前記ゲート領域においては,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31に凹部が形成されるとともに,ゲート電極27が形成されて」はいるものの,「ゲート電極27」が「前記遮断領域上を覆うように配置され,前記伝導チャンネル中における電流の伝達を行なうように前記遮断領域を元に戻すことを可能にする」ことまでは特定されていない点。

(4)判断
《相違点1について》
引用例について前記2(2)ウに摘記した第6の実施形態の記載とともに,引用例の図11を参照すると,ゲート電極27が形成されている部分において,n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32からn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31にかけて,傾斜する側壁を有する凹部が形成されていることが見て取れる。
ところで,前記2(2)で検討したとおり,引用例において,第6の実施形態のものと第2の実施形態のものとが異なる点は,「サファイア基板1上に複数個(図11では2個)のノーマリオン型順HEMT71,72を形成し,これらノーマリオン型順HEMT71,72が形成される部分以外を選択的にアンドープGaN層22の途中までエッチング53することにより素子間分離を行った点であ」る。
それゆえ,「サファイア基板1上に複数個(図11では2個)のノーマリオン型順HEMT71,72を形成し,これらノーマリオン型順HEMT71,72が形成される部分以外を選択的にアンドープGaN層22の途中までエッチング53することにより素子間分離を行った点」を除いては実施形態2と同じものといえる実施形態6において,上述のように,ゲート電極27が形成されている部分について,n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32からn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31にかけて,傾斜する側壁を有する凹部が形成されているから,引用例には,実施形態2に係る順HEMTについても,n^(+)-Al_(y)Ga_(1-y)Nコンタクト層32からn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31にかけて,傾斜する側壁を有する凹部が形成することが記載されているに等しいといえる。
仮に,そうではないとしても,HEMTを含むFET一般において,ゲート電極を形成する部分に,傾斜する側壁を有する凹部を形成することは周知の技術であるから,引用発明において「凹部」を「傾斜する側壁を含む」ものとすることは当業者が適宜になし得たことである。また,本願明細書を見ても,「凹部」が「傾斜する側壁を含む」ことに関しては,「この凹部20は,傾斜する側壁22を含むが,何らかの特定な形状に従って構成されることを必要とはしない。」(段落【0039】)と記載されているのみであり,当該構成により格別な作用効果が奏される旨の記載も示唆もない。
よって,相違点1は,実質的な相違点とはいえず,仮にそうでないとしても,当業者が適宜になし得た範囲に含まれる程度のものである。

《相違点2について》
引用発明においては,「アンドープGaN層22には,n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31との界面において二次元電子ガス層33が形成され」ているところ,二次元電子ガス層33が,アンドープGaN層22とn-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31との界面の全面において形成されていると,ソース電極25及びドレイン電極26間において常に電流経路が形成された状態となり,「ノーマリオフ型」とはなり得ないものであるから,「n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31の前記凹部における膜厚が制御されて,ノーマリオフ型とされ」る際に,二次元電子ガス層33が形成されない部分を生ぜしめていることは明らかである。
そうすると,引用発明においても,本願発明の「修正部分」に対応する「n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31の前記凹部」の「膜厚が制御されて,ノーマリオフ型と」することにより,二次元電子ガス層33が形成されない部分を生ぜしめるのであるから,「n-Al_(x)Ga_(1-x)N電子供給層31の前記凹部」は,相違点2に係る「前記伝導チャンネル中に遮断領域を形成する」ためのものといえる。
また,引用発明の「ノーマリオフ型の順HEMT」をトランジスタ動作させるべく,その動作時にはゲート電極27に印加する電圧によって電流経路の回復・消滅を制御することは当然であるところ,「ゲート電極27」は「二次元電子ガスの濃度を制御するための」ものであることから,前記二次元電子ガス層33が形成されない部分においてゲート電極27を形成し,「二次元電子ガスの濃度を制御」して電流経路の制御を図っていることは明らかである。
それゆえ,引用発明に係る「ゲート電極27」は,「前記遮断領域上を覆うように配置され,前記伝導チャンネル中における電流の伝達を行なうように前記遮断領域を元に戻すことを可能にする」ものであるといえる。
よって,相違点2は実質的なものではなく,仮にそうでないとしても,当業者が適宜になし得た範囲に含まれる程度のものである。

(5)まとめ
以上検討したとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,仮にそうではないとしても,周知技術を勘案して,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

3 むすび
以上のとおりであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-02 
結審通知日 2013-08-13 
審決日 2013-08-28 
出願番号 特願2008-208677(P2008-208677)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 113- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村岡 一磨  
特許庁審判長 藤原 敬士
特許庁審判官 近藤 幸浩
小野田 誠
発明の名称 半導体デバイスの製造方法及びエンハンスメント型III族窒化物デバイス  
代理人 大倉 昭人  
代理人 杉村 憲司  

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