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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B65D
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 B65D
管理番号 1283663
審判番号 不服2013-8660  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-10 
確定日 2014-01-28 
事件の表示 特願2009-65240「缶蓋」拒絶査定不服審判事件〔平成22年9月30日出願公開、特開2010-215274、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成21年3月17日の出願であって、平成25年2月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年5月10日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされ、同時に同日付けで特許請求の範囲と明細書を対象とする手続補正がなされたものである。

2.補正の適法性
(1)補正の内容
ア.補正前後の請求項
平成25年5月10日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)により、下記《補正前の請求項》が、下記《補正後の請求項》に補正された。
《補正前の請求項》
【請求項1】
公称径が204の缶蓋であって、タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、前記カウンターシンク部の内底面の曲率半径が0.75mm以下であり、かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上11.03%以下でかつ缶蓋の全体高さが7.02mm以下であることを特徴とする缶蓋。
【請求項2】
前記パネル部から前記カウンターシンク部に至るコーナー部は、前記パネル部に隣接状態の内側屈曲部と、前記カウンターシンク部の内側壁部に隣接状態の外側屈曲部と、これら両屈曲部の間を連結する傾斜部とから構成されていることを特徴とする請求項1記載の缶蓋。

《補正後の請求項》
【請求項1】
公称径が204の缶蓋であって、缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径に対するパネル部の外径の比率が70.7%以上83.0%以下であり、タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、前記カウンターシンク部の内底面の曲率半径が0.75mm以下であり、かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上11.03%以下でかつ缶蓋の全体高さが7.02mm以下であることを特徴とする缶蓋。
【請求項2】
前記パネル部から前記カウンターシンク部に至るコーナー部は、前記パネル部に隣接状態の内側屈曲部と、前記カウンターシンク部の内側壁部に隣接状態の外側屈曲部と、これら両屈曲部の間を連結する傾斜部とから構成されていることを特徴とする請求項1記載の缶蓋。
(以下、補正後の請求項1、2に記載された事項によって特定される発明をそれぞれ「本願発明1」、「本願発明2」という。)

イ.明細書の補正
明細書の段落0006に、「缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径に対するパネル部の外径の比率が70.7%以上83.0%以下であり、」との記載が導入されている。

(2)補正の目的及び適法性
ア.補正の目的
請求項1についての補正は、補正前の請求項1に記載された発明特定事項である「パネル部」について、「缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径に対するパネル部の外径の比率が70.7%以上83.0%以下であり」との限定事項を付加するものである。請求項2は、請求項1を引用する形式で発明特定事項を定めているから、請求項1を引用して特定している「パネル部」について、請求項1についての補正と同じ限定事項を付加するものである。そして、補正前後の請求項に記載された発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。したがって、請求項1及び請求項2についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に適合する。

イ.新規事項でないこと
「缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径に対するパネル部の外径の比率が70.7%以上83.0%以下であり」との限定事項は、願書に最初に添付した明細書(以下、「当初明細書」という。同様に、当初の特許請求の範囲又は図面は、「当初特許請求の範囲」又は「当初図面」といい、これら全てを合わせて呼ぶときは「当初明細書等」という。)の段落0023に記載された表1に示された「缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径」であるD2が56.6mmであること、及び表1に示された本願発明1及び本願発明2の実施例に該当する缶蓋(「判定」が「○」であるもの)の「パネル部の外径」D1の最小値が40.0mm(試料No.6)、最大値が47.00mm(試料No.18)であることに基づいている。
当初明細書等には、「缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径(D2)に対するパネル部の外径(D1)の比率」という文言は記載されていない。しかしながら、本願発明1は、「公称径が204の缶蓋」の発明であるところ、当初明細書段落0017の記載、及び段落0023の表1の記載などから、当初明細書でいう「公称径が204の缶蓋」とは、「缶体21に缶蓋1を巻き締めた後の巻締め部25の最外径D2が56.5?56.7mm」、D2の中央値が56.6mmであることを前提としているものである。ここで、「D2が56.5?56.7mm」であることは、中央値が56.6mmに対して製造上の誤差を±0.1mmまで許容する意味と認められる。
そうすると、「缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径に対するパネル部の外径の比率が70.7%以上83.0%以下であり」との限定事項は、実質的には、製造上の誤差を許容しつつ、「D1が40.0?47.00mm」であることを定めている特定事項といえる。すると、この限定事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるとまではいえない。よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

ウ.一群の発明であること
本件補正前に受けた拒絶理由通知において特許をすることができないものか否かについての判断が示された発明は、上記《補正前の請求項》の請求項1、2に記載された発明であり、補正後の特許請求の範囲に記載される事項により特定される発明は、上記《補正後の請求項》の請求項1、2に記載された本願発明1及び本願発明2である。これら発明は、特許法第37条の発明の単一性の要件を満たす一群の発明に該当するものとなっているから、本件補正は、特許法第17条の2第4項の規定に適合する。

エ.独立特許要件を有すること
本願発明1及び本願発明2については、後記3で指摘する理由により、拒絶にすべき理由を発見しない。よって、本願発明1及び本願発明2は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

(3)まとめ
上記のとおりであって、本件補正は適法であるから、本件補正を認める。

3.本願発明を拒絶すべき理由の存否
(1)本願発明
本願の請求項1ないし2に係る発明は、上記2.(1)ア.の《補正後の請求項》に記載されたとおりの、本願発明1及び本願発明2である。

(2)原査定の拒絶の理由
原審が平成24年9月5日付けで通知した拒絶理由通知書、及び平成25年2月27日付けの拒絶査定に記載した事項から見て、原査定の拒絶の理由の要旨は、次のとおりと認める。
[理由1]この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記《引用文献等一覧》の刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
[理由2]この出願の請求項1ないし2に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記《引用文献等一覧》の刊行物1又は刊行物2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
《引用文献等一覧》
刊行物1.特表2004-524226号公報
刊行物2.特表2009-502677号公報

(3)引用刊行物の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である刊行物1(特表2004-524226号公報)には、次の記載がある。
a「【0001】本発明は一般には飲料缶端部に関し、より詳細には飲料缶本体に相互接続して用いられる金属飲料缶端部に関する。
【背景技術】【0002】飲料容器およびさらに具体的には金属飲料缶は、典型的には飲料缶端部を飲料容器本体の上に相互接続することによって製造される。……炭酸化飲料によって潜在的に高い内圧が生み出されるために、飲料缶本体と飲料缶端部の両者ともに典型的には突発的および永久的変形を起こすことなく、約6.21×10^(5)Pa(90psi)を超える内圧に耐えることが要求される。さらに、熱、過充填、高CO_(2)含有および振動などの様々な環境条件によっては、飲料缶内の内圧は約6.90×10^(5)Pa(100psi)に近い内圧を超えることもこともある。
【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】【0003】したがって、飲料缶端部は、製造プロセスの全体コストと最終製品の重量を抑えるためにアルミニウムなどの非常に薄い材料を用いて製造しながらも、高い内圧に耐えるだけの耐久性を有していなければない。したがって、耐久性で軽量かつ非常に薄い金属材料から形成されながらも、炭酸化飲料によって生じる高い内圧および輸送中にかかる外圧に耐えうる耐久性飲料缶端部の需要は非常に高い。以下の特許出願では、飲料缶本体に相互接続されるように構成され、大きい内圧に耐えることができるとともに、材料費を著しく節約できる、改良された皿穴と、中央パネルと、ユニット深さとを有した改良型飲料缶端部について記載する。
………
【0006】本発明の別の態様において、飲料缶端部の形成方法が提供され、これにより、皿穴の曲率半径が約0.038cm(0.015インチ)以下の缶端部が得られる。より詳細には、製造方法は一般に2段階のプロセスを含む。該方法において、まず従来の缶端部「プレシェル(pre-shell)」が形成されて、2つの対向するツールの間に捕捉され、ここで、飲料缶皿穴を圧縮下に置く前の締め付け作用が実施される。シェルの下側に配置されたリフォーミングツールは、必要に応じて、所望のパネル直径、パネル曲率半径、壁タイプおよび外側の好ましい幾何学的寸法を含んでいる。次にプレシェルをリフォーミングツール内に押し込むと、該リフォーミングツールは皿穴領域をパネルツールに対して圧迫してパネルを巻き上げ、これによりパネルツールの形状を取り、下側の湾曲部をパネルツールに対して緊密に巻き付ける。好ましくは、プレシェルのリフォーミングは、皿穴領域内に向けて下方に向けられたパンチを用いずに行われる。」
b「【0011】ここで図1?17を参照すると、本発明の多数の実施形態の正面断面図が提供されている。より具体的には、円形端壁4と、チャック壁6と、皿穴12と、中央パネル14と、該中央パネル14を皿穴12に相互接続する内側パネル壁16とを一般的に含む典型的な金属飲料缶端部2について説明する。チャック壁6はさらに上側チャック壁8と下側チャック壁10とを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、内側パネル壁16は、内側パネル壁上端18および内側パネル壁下端20とをさらに含んでいてもよい。さらに、円形端壁4の上部は、飲料缶技術において一般にクラウン22と呼ばれるものによって画定される。
………
【0014】次に図2を参照すると、飲料缶端部202のプレシェルが示されているが、この図には図3に示される実施形態にリフォームされる前の「プレシェル」缶端部の寸法が示されている。………」
c「【0016】次に図4を参照すると、本発明の代替実施形態が示されており、この実施形態は従来の缶端部から材料ブランクを約4.5%削減することでき、約7.72×10^(5)Pa(約112psi)の平均内圧座屈強度を有することが示されている。より具体的には、チャック壁6は、明確に区別できる上側チャック壁部分8と下側チャック壁部分10とを有する。さらに具体的には、図示したように、上側チャック壁8は約20°?30°の角度θ_(1)を有し、下側チャック壁10は約20°?30°の角度θ_(2)を有する。さらに、内側パネル壁16は内側パネル壁の下端20がほぼ垂直であり、上端18が約7°?15°の角度で配向されるような僅かな湾曲を有している。さらに、皿穴12は約0.038cm(0.015インチ)未満の曲率半径を有し、中央パネル14はクラウンから約0.419?0.483cm(約0.165?約0.190インチ)、または皿穴12の底部から約0.216?0.254cm(約0.085?約0.100インチ)の位置にある。図4にさらに示されるように、クラウン22から皿穴12の底部までの全ユニット深さは約0.673?0.699cm(約0.265?0.275インチ)である。」
d 図4は、次に示すとおりである。
【図4】

e 段落0006、0014、0016の記載を参酌すると、図4に示された缶端部は、公称径202の缶端部であると認められる。そして、図4には、中央パネルのパネル横断径が1.785インチであり、皿穴12の曲率半径Rが0.015インチ未満であり、クラウン22から中央パネル14までの深さが0.190インチであり、全ユニット深さが0.275インチであるものが開示されている。段落0016の記載及び図4から、図4に示された缶端部には、皿穴12の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径する、上側チャック壁部分8と下側チャック壁部分10とを有するチャック壁6が形成されていること、チャック壁6から半径方向外方に広がるクラウン22を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなる円形端壁4が連続形成されていることが見て取れる。

(4)引用発明
刊行物1の上記記載事項から見て、刊行物1に開示されている発明を、本願発明1に倣って整理すれば、刊行物1には次の発明が記載されている。(以下、「引用発明」という。)
《引用発明》
公称径が202の金属飲料缶端部であって、
中央パネルのパネル横断径が1.785インチであり、
中央パネルの外周縁に、皿穴が形成されるとともに、
該皿穴の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁が形成され、
該チャック壁から半径方向外方に広がるクラウンを介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなる円形端壁が連続形成された金属飲料缶端部において、
前記皿穴の内底面の曲率半径が0.015インチ未満であり、
かつ、クラウンから中央パネルまでの深さが0.190インチであり、
かつ、全ユニット深さが0.275インチである
金属飲料缶端部。

(5)本願発明1と引用発明との対比
ア.本願発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「金属飲料缶端部」、「中央パネル」は、それぞれ、本願発明1の「缶蓋」、「パネル部」に相当する。そして、金属飲料缶端部の中央のパネルには、タブが取り付けられることが通常であり、技術常識といえるから、引用発明の「中央パネル」は、本願発明1の「タブが取り付けられるパネル部」との要件を満たすといえる。
イ.本願明細書段落0018の記載によれば、公称径が202の缶蓋は、缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径D2が、53.6?54.4mmである。すると、引用発明の「中央パネルのパネル横断径が1.785インチ」は、缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径に対するパネル部の外径の比率が、83.34%?84.59%に相当する。したがって、引用発明の「中央パネルのパネル横断径が1.785インチ」は、本願発明1の「缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径に対するパネル部の外径の比率が70.7%以上83.0%以下であり」との要件を満たさない。
ウ.引用発明の「皿穴」は、本願発明1の「上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部」に相当する。そして、金属飲料缶端部の「皿穴」は、連続して形成されることが通常であり、技術常識といえるから、引用発明の「皿穴」は、「上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成される」との要件を満たすといえる。
エ.引用発明の「チャック壁」、「クラウン」、「円形端壁」は、それぞれ、本願発明1の「チャック壁部」、「ショルダー部」、「カール部」に相当する。引用発明の「チャック壁」、「クラウン」、「円形端壁」は、連続形成されている(上記(3)e)から、本願発明1の「チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された」との要件を満たす。
オ.引用発明の「皿穴の内底面の曲率半径が0.015インチ未満」は、本願発明1の「0.75mm以下」との要件を満たす。
カ.引用発明の「クラウンから中央パネルまでの深さ」は、本願発明1の「ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法」及び「パネル深さ」に相当する。
キ.引用発明は、「パネル横断径が1.785インチ」であり「クラウンから中央パネルまでの深さが0.190インチ」であるから、これらの比率は、10.64%である。すると、引用発明は、本願発明1の「パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上11.03%以下」との要件を満たす。
ク.引用発明の「全ユニット深さ」は、本願発明1の「缶蓋の全体高さ」に相当し、引用発明の「全ユニット深さが0.275インチ」は、本願発明1の「缶蓋の全体高さが7.02mm以下」との要件を満たす。

(5)本願発明1と引用発明との一致点、相違点
そうすると、本願発明1と引用発明との一致点、相違点は、次のとおりである。
《一致点》
缶蓋であって、
タブが取り付けられるパネル部の外周縁に、上方に向けた環状凹部を形成するカウンターシンク部が連続して形成されるとともに、
該カウンターシンク部の外周縁から上方に向かうにしたがって漸次拡径するチャック壁部が形成され、
該チャック壁部から半径方向外方に広がるショルダー部を介して外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなるカール部が連続形成された缶蓋において、
前記カウンターシンク部の内底面の曲率半径が0.75mm以下であり、
かつ、前記ショルダー部からカール部にかけた部分の頂点からパネル部表面までの鉛直方向寸法をパネル深さとしたときの前記パネル部の外径に対する前記パネル深さの比率が10.17%以上11.03%以下で
かつ缶蓋の全体高さが7.02mm以下である
缶蓋。

《相違点1》
本願発明1は、公称径が204の缶蓋であるのに対して、引用発明は、公称径が202の缶蓋である点。

《相違点2》
本願発明1は、「缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径に対するパネル部の外径の比率が70.7%以上83.0%以下」であるのに対し、引用発明は、この比率が83.34%?84.59%である点。

(6)原査定の拒絶の理由の[理由1]の検討
ア.相違点1について
(ア)公称径が204の缶蓋と、公称径が202の缶蓋は、本願明細書段落0017に「公称径が204(缶体21に缶蓋1を巻き締めた後の巻き締め部25の最外径D2が56.5?56.7mm、巻き締め前の缶蓋1のカール部8の最外径が62.0?62.4mm)」と記載され、同段落0018に「公称径が202(巻き締め部25の最外径D2が53.6?54.4mm、巻き締め前の缶蓋1のカール部8の最外径が59.2?59.6mm)」と記載されているように、規格が異なる缶蓋である。公称径が204の缶蓋と、公称径が202の缶蓋とは、文言上異なるだけでなく、技術的にも相違するから、両者が同一であるとはいえない。

(イ)なお、上記本願明細書段落0017、0018の記載から明らかなとおり、公称径が204の缶蓋と、公称径が202の缶蓋は、最外径D2の寸法とカール部8の最外径の寸法とが、比例していない。すなわち、公称径が204の缶蓋と、公称径が202の缶蓋は、「缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径」が異なるだけでなく、形状も異なっている。したがって、公称径が204の缶蓋と、公称径が202の缶蓋との相違は、実質的な相違であり、単なる設計上の微差ということはできないから、本願発明1と引用発明とが実質的に同一であるということもできない。

イ.相違点2について
相違点2は、技術的な相違であるから、本願発明1と引用発明とが同一であるとはいえない。
なお、相違点2は、実質的な相違であり、単なる設計上の微差ということはできないから、本願発明1と引用発明とが実質的に同一であるということもできない。

ウ.まとめ
以上のとおり、本願発明1と引用発明とは同一ではないから、原査定の拒絶の理由の[理由1]によって、本願発明1を拒絶することはできない。

(7)原査定の拒絶の理由の[理由2]の検討
ア.相違点1について
(ア)刊行物1には、「クラウン(ショルダー部からカール部にかけた部分)の頂点から中央パネル(パネル部)表面までの鉛直方向寸法(パネル深さ)を、パネル部の外径(D1)に対するパネル深さ(P)の比率(P/D1)を10.17%以上11.03%以下」にするという技術的思想は、記載も示唆もされていない。また、刊行物2(特表2009-502677号公報)にも、このような技術的思想は、記載も示唆もされていない。

(イ)そして、上記(6)ア.(イ)で指摘したとおり、公称径が204の缶蓋と公称径が202の缶蓋は、「缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径」が異なるだけでなく、形状も異なっているから、公称径202の缶蓋を、公称径204に変更する際には、公称径の相違に合わせて全体の寸法を比例変更することによって、公称径204の缶蓋に変更できるわけではない。そうすると、公称径202の缶蓋を、公称径204に変更することそれ自体には動機付けがあったとしても、公称径204に変更した際に、「クラウン(ショルダー部からカール部にかけた部分)の頂点から中央パネル(パネル部)表面までの鉛直方向寸法(パネル深さ)を、パネル部の外径(D1)に対するパネル深さ(P)の比率(P/D1)」を、公称径202の缶蓋と同じ比率にする動機付けや技術的理由があるとはいえない。
したがって、公称径が202の缶蓋である引用発明を、公称径が204の缶蓋に変更して、本願発明1の構成の缶蓋を得ることが、当業者にとって容易に推考し得ることであるとはいえない。

イ.相違点2について
刊行物1には、「缶体に缶蓋を巻き締めた後の巻締め部の最外径に対するパネル部の外径の比率が70.7%以上83.0%以下」にするという技術的思想は、記載も示唆もされていないし、その範囲に該当するパネル部の外径も、記載も示唆もされていない。また、刊行物2にも、このような技術的思想やパネル部の外径は、記載も示唆もされていない。
したがって、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が相違点2に係る本願発明1の構成を容易に想到し得たとはいえない。

ウ.本願発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて、当業者が本願発明1を容易に発明することができたとはいえない。よって、原査定の拒絶の理由の[理由2]は、本願発明1については、理由がない。

エ.本願発明2について
本願発明2は、本願発明1を引用して発明特定事項を規定している発明であり、本願発明1の構成要件を全て備える発明である。したがって、上記ア、イと同様の理由により、当業者が、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて本願発明2を容易に発明することができたとはいえない。よって、原査定の拒絶の理由の[理由2]は、本願発明2についても、理由がない。

(8)むすび
以上のとおり、原査定の拒絶の理由には、いずれも理由がない。また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-01-16 
出願番号 特願2009-65240(P2009-65240)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B65D)
P 1 8・ 113- WY (B65D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 会田 博行  
特許庁審判長 栗林 敏彦
特許庁審判官 河原 英雄
紀本 孝
発明の名称 缶蓋  
代理人 青山 正和  
代理人 青山 正和  

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