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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60W
管理番号 1283738
審判番号 不服2013-4961  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-03-14 
確定日 2014-01-16 
事件の表示 特願2011- 1365「アクセル・ブレーキ踏み間違い判定装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月 2日出願公開、特開2012-144053〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年1月6日の出願であって、平成24年8月30日付けで拒絶理由通知がされ、平成24年10月24日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、平成24年12月12日付けで拒絶査定がなされ、平成25年3月14日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成24年10月24日付け提出の手続補正書によって補正された明細書及び特許請求の範囲並びに出願当初の図面からその特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるとおりのものと認めるところ、その請求項6の記載は以下のとおりである。

「 【請求項6】
車両に搭載されるアクセルペダル踏み間違い判定装置であって、
前記車両のステアリング角に基づいて車両が旋回中であるか否かを判定し、旋回中である場合には、アクセルペダルの踏み間違いであると判定するアクセル開度の変化量の範囲が大きくなるよう、または、アクセルペダルの踏み間違いであると判定するアクセル開度の範囲が大きくなるよう、判断基準データを選択する選択手段と、
選択された前記判断基準データに、現在のアクセル開度の変化量または現在のアクセル開度を適用することで、アクセルペダルの踏み間違いであるか否かを判定する判定手段(140)と、を備えたアクセルペダル踏み間違い判定装置。」
(以下、請求項6に係る発明を「本願発明」という。)


第3 引用文献
1 引用文献の記載
本願の出願前に頒布された刊行物であって、原査定の拒絶の理由に引用された特開2009-57893号公報(以下、「引用文献」という。)には、図面とともに次の記載がある(以下、順に「記載a」ないし「記載f」という。)。なお、下線は当審が付したものである。

a 「【請求項1】
車両が所定の状態の場合に、アクセル開度検出部からの情報に基づき、所定のアクセル開度におけるアクセルの踏み込み速度が所定の閾値以上であると判定した場合は、前記車両の被制御部を制御して車速制限を実行する制御部を備えた車両の電子制御装置であって、
前記制御部は、車両の状態を取得する状態取得部からの情報に基づいて、前記車両を駐車させるために操作する駐車操作であるか否かを判定し、その判定結果により前記閾値を変更して前記車速制限を実行することを特徴とする車両の電子制御装置。」
(【請求項1】)

b 「【0001】
本発明は車速制御装置および車速制御方法、特に車両に用いられる車速制御装置および車速制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両を運転する際、運転者が誤ってアクセル操作とブレーキ操作とを間違える可能性がある。この場合、特に車両を駐車させる場合においては、停止させる予定の車両が逆に加速してしまうことから、車両の障害物への衝突事故が生じるおそれがある。
【0003】
このような運転者の誤操作が生じた場合に、車両の速度を制限する車速制御装置に関する技術が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1に係る車速制御装置によれば、シフトレバーが後退位置(リバース)以外からリバースへ変更された後、ブレーキ操作が一度も行われておらず、かつアクセル開度およびアクセルの踏み込み速度が共に所定値以上である場合には、アクセルおよびブレーキが誤操作されたと判断される。アクセルおよびブレーキが誤操作されたと判断された場合には、車速制御装置は車速制限制御を実行する。具体的には、車速制御装置は、スロットルの開度を制限する制御、スロットルの開度速度を制限する制御および内燃機関への燃料供給をカットする制御の少なくとも一つを実行する。それにより、車速の上昇が抑制されることから、衝突事故が防止される。
【0004】
【特許文献1】特開2003-56371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような車速制御装置では、車両を駐車のために後退させるのではなく、例えば運転者の意思に基づいて車両を後退走行で急発進させようとするような場合等においても、車速制限制御が実行されてしまうという問題点がある。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、車両の車速制限制御を的確に行うことができる車両の電子制御装置および車両の制御方法を提供することを目的とする。」
(段落【0001】ないし【0006】)

c 「【0018】
本発明の第1実施例に係る車両の電子制御装置100(ECU)について説明する。図1は、本発明の第1実施例に係るECU100が用いられる車両200の全体構成を示す模式図である。図1に示すように、車両200は、内燃機関10と、変速機20と、運転室30と、運転者が乗降するためのドア40と、ナビゲーション装置50と、ECU100と、を備える。

・・・(中略)・・・

【0030】
ECU100は、燃料噴射制御装置110(EFI-ECU)と、ブレーキ制御装置120(ブレーキECU)と、を備える。図2は、ECU100のハードウェア構成と車両200の電気ブロック図とを示す模式図である。図2に示すように、EFI-ECU110およびブレーキECU120は、それぞれ、CPU111,121(Central Processing Unit)と、ROM112,122(Read Only Memory)と、RAM113,123(Random Access Memory)と、EEPROM114,124(Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)と、入力インターフェイス回路115,125と、出力インターフェイス回路116,126と、を備える。
【0031】
EFI-ECU110は、ナビゲーション装置50、スロットル開度センサ62、クランク角センサ64、車速センサ66、アクセルポジションセンサ68、シフトポジションセンサ70、ハンドル角センサ72、バキュームセンサ76、シートベルト装脱センサ78、ドア開閉センサ80、およびブレーキポジションセンサ74からの検出結果を、入力インターフェイス回路115を介して取り込む。EFI-ECU110のCPU111は、取り込んだこれらの検出結果と、ROM112、RAM113およびEEPROM114に記憶された情報と、を基にして、計算を行う。EFI-ECU110は、計算結果に基づいて、出力インターフェイス回路116を介して、インジェクタ12、点火プラグ14、スロットル16、ISCV18、警報装置36およびブレーキブースター37の各アクチュエータを制御する。
【0032】
ブレーキECU120は、ブレーキポジションセンサ74の検出結果を、入力インターフェイス回路125を介して取り込む。ブレーキECU120のCPU121は、取り込んだ検出結果と、ROM122、RAM123およびEEPROM124に記憶された情報と、を基にして、計算を行う。ブレーキECU120は、計算結果に基づいて、出力インターフェイス回路126を介して、ブレーキブースター37を制御する。
【0033】
なお、図2において、CPU111,121は、ECU100の制御部に相当する。EEPROM114,124は、ECU100の記憶部に相当する。また、ナビゲーション装置50、スロットル開度センサ62、クランク角センサ64、車速センサ66、アクセルポジションセンサ68、シフトポジションセンサ70、ハンドル角センサ72、バキュームセンサ76、シートベルト装脱センサ78、ドア開閉センサ80、およびブレーキポジションセンサ74は、車両200の状態を取得する状態取得部に相当する。また、インジェクタ12、点火プラグ14、スロットル16、ISCV18、警報装置36およびブレーキブースター37の各アクチュエータは、被制御部に相当する。
【0034】
本実施例においては、ECU100の制御部は、車両200の状態を取得する状態取得部からの情報に基づいて、車両200を駐車させるために操作する駐車操作であるか否かを判定し、その判定結果に基づいて、車両200の被制御部を制御して車速制限を実行する。具体的には、ECU100の制御部は、シフトレバー32の位置が所定時間内に前進位置と後退位置との間を所定回数以上変更されたと判定した場合に、駐車操作であると判定する。そして、ECU100の制御部は、駐車操作であるか否かの判定結果に基づいて、車速制限を実行する。
【0035】
まず、ECU100の制御部の駐車操作であるか否かの判定を行う際の動作について説明する。図3は、ECU100の制御部の駐車操作であるか否かの判定を行う際の動作の一例を示すフローチャートである。まずECU100の制御部は、駐車操作チェック中か否か、すなわち、駐車操作チェック中フラグがセットされているか否かを判定する(ステップS1)。具体的には、ECU100の制御部は、駐車操作チェック中フラグが0であるか1にセットされているかを判定する。駐車操作チェック中フラグが0である場合には、ECU100の制御部は駐車操作チェック中でない、すなわち、駐車操作であるか否かの判定を開始していないと判定する。一方、駐車操作チェック中フラグが1にセットされている場合には、ECU100の制御部は駐車操作チェック中である、すなわち、駐車操作であるか否かの判定を開始していると判定する。
【0036】
ステップS1において、駐車操作チェック中でないと判定された場合には、ECU100の制御部は、シフトレバー32の位置が前進位置(Dレンジ)から後退位置(Rレンジ)へ変更されたか否かを判定する(ステップS2)。具体的には、ECU100の制御部は、シフトポジションセンサ70の検出結果を基に、シフトレバー32の位置が前進位置から後退位置へ変更されたか否かを判定する。
【0037】
ステップS2において、シフトレバー32の位置が前進位置から後退位置へ変更されたと判定された場合には、ECU100の制御部は駐車操作チェック中フラグをセットする(ステップS3)。具体的には、ECU100の制御部は駐車操作チェック中フラグを1にセットする。それにより、ECU100の制御部は、駐車操作であるか否かの判定を開始する。
【0038】
次いで、ECU100の制御部は、シフトレバー32の位置が前進位置から後退位置へ、あるいは後退位置から前進位置へ変更されたか否かを判定する(ステップS4)。ステップS4において、シフトレバー32の位置が前進位置から後退位置へ、あるいは後退位置から前進位置へ変更されたと判定された場合には、ECU100の制御部は、シフトレバー32の位置の変更回数(シフトチェンジ回数)を取得する(ステップS5)。例えば、ECU100の制御部は、シフトポジションセンサ70の検出結果を基に、シフトチェンジ回数をインクリメントする。それにより、ECU100の制御部はシフトチェンジ回数を取得することができる。
【0039】
次いで、ECU100の制御部は、シフトレバー32の位置が所定時間内に所定回数以上変更されたか否かを判定する(ステップS6)。具体的には、ECU100の制御部は、ステップS5において取得したシフトチェンジ回数が所定時間内に所定回数以上であったか否かを判定する。
【0040】
ステップS6において、シフトレバー32の位置が所定時間内に所定回数以上変更されたと判定された場合には、ECU100の制御部は駐車操作であると判定する(ステップS7)。シフトレバー32の位置が前進位置から後退位置へ所定時間内に所定回数以上変更されれば、駐車操作であると判定することができるからである。なお、所定時間および所定回数については、特に限定されないが、例えば所定時間を30秒とし、所定回数を3回とすればよい。
【0041】
次いで、ECU100の制御部は、シフトレバー32の位置が前進位置となっている状態が所定時間以上継続しているか否かを判定する(ステップS8)。ステップS8において、シフトレバー32の位置が前進位置となっている状態が所定時間以上継続していると判定された場合には、ECU100の制御部は、ステップS5において取得したシフトチェンジ回数を消去するとともに、ステップS3においてセットした駐車操作チェック中フラグを消去する(ステップS9)。次いで、ECU100の制御部はフローチャートの実行を終了する。一方、ステップS8において、シフトレバー32の位置が前進位置となっている状態が所定時間以上継続していると判定されなかった場合には、ECU100の制御部は、フローチャートの実行を終了する。なお、ステップS8において、シフトレバー32の位置が前進位置となっている状態が所定時間以上継続していると判定された場合とは、車両200が既に駐車操作を終了し、駐車場から発進する場合に相当する。ステップS8における所定時間については、特に限定されないが、例えば30秒程度を用いればよい。
【0042】
一方、ステップS1において、駐車操作チェック中であると判定された場合には、ECU100の制御部はステップS4を実行する。また、ステップS2において、シフトレバー32の位置が前進位置から後退位置へ変更されたと判定されなかった場合には、ECU100の制御部はステップS4を実行する。
【0043】
ステップS4において、シフトレバー32の位置が前進位置から後退位置へ、あるいは後退位置から前進位置へ変更されたと判定されなかった場合には、ECU100の制御部はステップS6を実行する。ステップS6において、シフトレバー32の位置が所定時間内に所定回数以上変更されたと判定されなかった場合には、ECU100の制御部は、駐車操作でないと判定する(ステップS10)。次いでECU100の制御部は、ステップS8を実行する。なお、駐車操作でない場合とは、車両200を駐車させる場合以外の場合に相当する。例えば、運転者の意思に基づいて車両200を後退走行または前進走行で急発進させようとする場合、運転者の意思に基づいて車両200をある程度の距離まで後退走行または前進走行させる場合等に相当する。」
(段落【0018】ないし【0043】)

d 「【0044】
続いて、ECU100の制御部の車速制限を実行する際の動作について説明する。まず、ECU100の記憶部は、車速制限を実行するか否かの判定を行う際の判定基準となる閾値を記憶しておく。具体的には、ECU100の記憶部は、車速制限を実行するか否かの判定を行う際の判定基準となるアクセル31の開度およびアクセル31の踏み込み速度のマップを記憶しておく。そして、ECU100の制御部は、駐車操作であるか否かの判定結果に基づいて、車速制限を実行するか否かの判定基準となる閾値を変更する。図4は、ECU100の制御部が車速制限を実行するか否かの判定を行う際の判定基準となる閾値を示すマップの一例である。図4において、縦軸はアクセル31の開度(°)を示し、横軸はアクセル31の踏み込み速度(°/0.1s)を示す。」
(段落【0044】)

e 「【0045】
図4において、判定線130は、車速制限を実行するか否かの判定基準となる判定線である。つまり、判定線130に相当する閾値よりもアクセル31の開度が大きく、かつアクセル31の踏み込み速度が大きい場合に、車速制限が実行される。
【0046】
そして、ECU100の制御部は、駐車操作であるか否かの判定結果に基づいて、判定線130を変更する。例えば、ECU100は、駐車操作であると判定された場合には、判定線130を判定線132の位置まで移動させる。すなわち、より小さいアクセル31の開度およびより小さいアクセル31の踏み込み速度であっても、車速制限が実行されるように、判定線130を判定線132の位置まで移動させる。この場合、判定線132に相当する閾値よりもアクセル31の開度が大きく、かつアクセル31の踏み込み速度が大きい場合に、車速制限が実行される。例えば、ECU100の制御部は、判定線132に相当する閾値よりもアクセル31の開度が大きく、かつアクセル31の踏み込み速度が大きい場合に、スロットル16の開度またはスロットル16の開度速度が制限されるようにスロットル16を制御する。あるいは、ECU100の制御部は、内燃機関10への燃料供給がカットされるようにインジェクタ12を制御する。それにより、駐車操作において、車両が加速されることが抑制されることから、運転者の誤操作による衝突事故が防止される。
【0047】
なお、判定線132よりもアクセル31の開度が小さい場合、またはアクセル31の踏み込み速度が小さい場合には、運転者によりブレーキ34とアクセル31とが誤操作されたとしても、車両200が急発進または急後退するおそれはない。よって、衝突事故の生じる可能性は低いと考えられる。
【0048】
一方、駐車操作であると判定されなかった場合には、ECU100の制御部は、判定線130を判定線134の位置まで移動させる。例えば、ECU100の制御部は、アクセル31の開度が最大開度の場合であっても、車速制限が実行されないような判定線134の位置まで、判定線130を移動させる。この場合、駐車操作であると判定されなかった場合には、車速制限の実行は行われないことになる。」
(段落【0045】ないし【0048】)

f 「【0049】
図5は、ECU100の制御部の車速制限を実行する際の動作の一例を示すフローチャートである。まず、ECU100の制御部は、駐車操作であるか否かを判定する(ステップS11)。例えば、ECU100の制御部は、図3に示すフローチャートを実行することにより、駐車操作であるか否かを判定することができる。ステップS11において、駐車操作であると判定された場合には、ECU100の制御部は車速制限を実行するか否かの判定の基準となる閾値を下げる(ステップS12)。例えば、ECU100の制御部は、図4に示す判定線130を判定線132の位置まで下げる。
【0050】
次いで、ECU100の制御部は、図4に示すマップを参照して、アクセル31の開度が閾値より大きくかつアクセル31の踏み込み速度が閾値より大きいか否かを判定する(ステップS13)。ステップS13において、アクセル31の開度が閾値より大きくかつアクセル31の踏み込み速度が閾値より大きいと判定された場合には、ECU100の制御部は車速制限を実行する(ステップS14)。次いでECU100の制御部は、フローチャートの実行を終了する。
【0051】
一方、ステップS11において、駐車操作であると判定されなかった場合には、ECU100の制御部は車速制限を実行するか否かの判定の基準となる閾値を上げる(ステップS15)。例えば、ECU100の制御部は、図4に示す判定線130を判定線134の位置まで上げる。次いでECU100の制御部は、ステップS13を実行する。
【0052】
ステップS13において、アクセル31の開度が閾値より大きくかつアクセル31の踏み込み速度が閾値より大きいと判定されなかった場合には、ECU100の制御部は、車速制限を解除する(ステップS16)。この場合、車速制限は行われない。次いでECU100の制御部は、フローチャートの実行を終了する。
【0053】
続いて、シフトレバー32が前進位置から後退位置へ変更されてから車速制限が実行されるまでのECUの処理の具体例について説明する。図6は、シフトレバー32が前進位置から後退位置へ変更されてから車速制限が実行されるまでのECU100の処理の一例を示すタイミングチャートである。」
(段落【0049】ないし【0053】)

2 引用文献の記載事項
引用文献の記載aないし記載f並びに図面の記載から、引用文献には、次の事項が記載されていることが分かる(以下、順に「記載事項A」ないし「記載事項F」という。)。

A 引用文献の記載aの【請求項1】の「車両が所定の状態の場合に、アクセル開度検出部からの情報に基づき、所定のアクセル開度におけるアクセルの踏み込み速度が所定の閾値以上であると判定した場合は、前記車両の被制御部を制御して車速制限を実行する制御部を備えた車両の電子制御装置であって、
前記制御部は、車両の状態を取得する状態取得部からの情報に基づいて、前記車両を駐車させるために操作する駐車操作であるか否かを判定し、その判定結果により前記閾値を変更して前記車速制限を実行することを特徴とする車両の電子制御装置。」という記載によると、引用文献には、車両に搭載される車両の電子制御装置であって、制御部は、車両の状態を取得する状態取得部からの情報に基づいて、前記車両を駐車させるために操作する駐車操作であるか否かを判定し、その判定結果により閾値を変更して車速制限を実行し、車両が所定の状態の場合に、アクセル開度検出部からの情報に基づき、所定のアクセル開度におけるアクセルの踏み込み速度が所定の閾値以上であると判定した場合は、前記車両の被制御部を制御して車速制限を実行する前記制御部を備えた車両の電子制御装置が記載されていることが分かる。

B 引用文献の記載bの段落【0002】の「車両を運転する際、運転者が誤ってアクセル操作とブレーキ操作とを間違える可能性がある。この場合、特に車両を駐車させる場合においては、停止させる予定の車両が逆に加速してしまうことから、車両の障害物への衝突事故が生じるおそれがある。」という記載、記載bの段落【0003】の「このような運転者の誤操作が生じた場合に、車両の速度を制限する車速制御装置に関する技術」という記載、記載bの段落【0005】の「このような車速制御装置では、車両を駐車のために後退させるのではなく、例えば運転者の意思に基づいて車両を後退走行で急発進させようとするような場合等においても、車速制限制御が実行されてしまうという問題点がある。」という記載、及び記載bの段落【0006】の「本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、車両の車速制限制御を的確に行うことができる車両の電子制御装置および車両の制御方法を提供することを目的とする。」という記載によると、引用文献には、車両を駐車させる場合において、運転者が誤ってアクセル操作とブレーキ操作とを間違えた場合に、車両が加速しないように車両の速度を制限する車速制御装置であって、車両を駐車のために後退させるのではなく、運転者の意思に基づいて車両を後退走行で急発進させようとするような場合等においては、車両の車速制限制御を的確に行うことができる車両の電子制御装置が記載されていることが分かる。

C 引用文献の記載cの段落【0018】の「本発明の第1実施例に係る車両の電子制御装置100(ECU)について説明する。図1は、本発明の第1実施例に係るECU100が用いられる車両200の全体構成を示す模式図である。図1に示すように、車両200は、内燃機関10と、変速機20と、運転室30と、運転者が乗降するためのドア40と、ナビゲーション装置50と、ECU100と、を備える。」という記載、記載cの段落【0030】の「ECU100は、燃料噴射制御装置110(EFI-ECU)と、ブレーキ制御装置120(ブレーキECU)と、を備える。」という記載、及び記載cの段落【0034】の「本実施例においては、ECU100の制御部は、車両200の状態を取得する状態取得部からの情報に基づいて、車両200を駐車させるために操作する駐車操作であるか否かを判定し、その判定結果に基づいて、車両200の被制御部を制御して車速制限を実行する。具体的には、ECU100の制御部は、シフトレバー32の位置が所定時間内に前進位置と後退位置との間を所定回数以上変更されたと判定した場合に、駐車操作であると判定する。そして、ECU100の制御部は、駐車操作であるか否かの判定結果に基づいて、車速制限を実行する。」という記載、並びに図1及び図2によると、引用文献には、車両の電子制御装置100(ECU)の制御部は、車両200の状態を取得する状態取得部からの情報に基づいて、車両200を駐車させるために操作する駐車操作であるか否かを判定し、その判定結果に基づいて、車両200の被制御部を制御して車速制限を実行することが記載されていることが分かる。

D 引用文献の記載dの段落【0044】の「続いて、ECU100の制御部の車速制限を実行する際の動作について説明する。まず、ECU100の記憶部は、車速制限を実行するか否かの判定を行う際の判定基準となる閾値を記憶しておく。具体的には、ECU100の記憶部は、車速制限を実行するか否かの判定を行う際の判定基準となるアクセル31の開度およびアクセル31の踏み込み速度のマップを記憶しておく。そして、ECU100の制御部は、駐車操作であるか否かの判定結果に基づいて、車速制限を実行するか否かの判定基準となる閾値を変更する。図4は、ECU100の制御部が車速制限を実行するか否かの判定を行う際の判定基準となる閾値を示すマップの一例である。図4において、縦軸はアクセル31の開度(°)を示し、横軸はアクセル31の踏み込み速度(°/0.1s)を示す。」という記載及び図4によると、引用文献には、ECU100の記憶部は、車速制限を実行するか否かの判定を行う際の判定基準となるアクセル31の開度(°)およびアクセル31の踏み込み速度(°/0.1s)のマップを記憶し、ECU100の制御部は、駐車操作であるか否かの判定結果に基づいて、車速制限を実行するか否かの判定基準となる閾値を変更すること記載されていることが分かる。

E 引用文献の記載eの段落【0045】の「図4において、判定線130は、車速制限を実行するか否かの判定基準となる判定線である。つまり、判定線130に相当する閾値よりもアクセル31の開度が大きく、かつアクセル31の踏み込み速度が大きい場合に、車速制限が実行される。」という記載及び記載eの段落【0046】の「そして、ECU100は、駐車操作であると判定された場合には、判定線130を判定線132の位置まで移動させる。すなわち、より小さいアクセル31の開度およびより小さいアクセル31の踏み込み速度であっても、車速制限が実行されるように、判定線130を判定線132の位置まで移動させる。この場合、判定線132に相当する閾値よりもアクセル31の開度が大きく、かつアクセル31の踏み込み速度が大きい場合に、車速制限が実行される。例えば、ECU100の制御部は、判定線132に相当する閾値よりもアクセル31の開度が大きく、かつアクセル31の踏み込み速度が大きい場合に、スロットル16の開度またはスロットル16の開度速度が制限されるようにスロットル16を制御する。あるいは、ECU100の制御部は、内燃機関10への燃料供給がカットされるようにインジェクタ12を制御する。それにより、駐車操作において、車両が加速されることが抑制されることから、運転者の誤操作による衝突事故が防止される。」という記載、並びに図4によると、引用文献には、ECU100は、駐車操作であると判定された場合には、より小さいアクセル31の開度およびより小さいアクセル31の踏み込み速度であっても、車速制限が実行されるように、車速制限を実行するか否かの判定基準となる判定線130を判定線132の位置まで移動させ、判定線132に相当する閾値よりもアクセル31の開度が大きく、かつアクセル31の踏み込み速度が大きい場合に、車速制限が実行されることが記載されていることが分かる。

F 引用文献の記載fの段落【0049】の「図5は、ECU100の制御部の車速制限を実行する際の動作の一例を示すフローチャートである。」という記載及び記載fの段落【0050】の「ECU100の制御部は、図4に示すマップを参照して、アクセル31の開度が閾値より大きくかつアクセル31の踏み込み速度が閾値より大きいか否かを判定する(ステップS13)。ステップS13において、アクセル31の開度が閾値より大きくかつアクセル31の踏み込み速度が閾値より大きいと判定された場合には、ECU100の制御部は車速制限を実行する(ステップS14)。」という記載、並びに図4及び図5によると、引用文献には、ECU100の制御部は、図4に示すマップを参照して、アクセル31の開度が閾値より大きくかつアクセル31の踏み込み速度が閾値より大きいか否かを判定し、アクセル31の開度が閾値より大きくかつアクセル31の踏み込み速度が閾値より大きいと判定された場合には、ECU100の制御部は車速制限を実行することが記載されていることが分かる。

3 引用文献に記載された発明
引用文献の記載aないしf、記載事項AないしF、及び図面の記載を整理すると、引用文献には、次の発明が記載されていると認める。

「車両200に搭載される車両の電子制御装置(ECU)100であって、
前記車両200の状態を取得する状態取得部からの情報に基づいて、車両200を駐車させるために操作する駐車操作であるか否かを判定し、駐車操作であると判定された場合には、より小さいアクセル31の開度(°)およびより小さいアクセル31の踏み込み速度(°/0.1s)であっても、車速制限が実行されるように、車速制限を実行するか否かの判定基準となるマップにおける閾値である判定線130を判定線132の位置まで変更する電子制御装置(ECU)100の制御部と、
変更された判定基準となるマップを参照して、閾値である判定線132に相当する値よりもアクセル31の開度が大きく、かつアクセル31の踏み込み速度が大きいと判定された場合には、速度制限を実行する電子制御装置(ECU)100の制御部と、を備えた車両の電子制御装置(ECU)100。」(以下、「引用発明」という。)。


第4 対比
本願発明と引用発明を対比する。

引用発明における「車両200」は、その構成、機能及び技術的意義からみて、本願発明における「車両」に相当し、以下同様に、「電子制御装置(ECU)100」は「アクセルペダル踏み間違い判定装置」に、「アクセル31の開度(°)」は「アクセル開度」に、それぞれ相当する。
引用発明の「アクセル31の踏み込み速度(°/0.1s)」は、本願明細書の段落【0048】の「アクセル開度の変化量(具体的には、アクセル開度の単位時間当たりの増加量。以下同じ)」なる記載からみて、本願発明の「アクセル開度の変化量」に相当する。

さらに、引用発明の「前記車両200の状態を取得する状態取得部からの情報に基づいて、車両200を駐車させるために操作する駐車操作であるか否かを判定し、駐車操作であると判定された場合には」は、本願発明の「前記車両のステアリング角に基づいて車両が旋回中であるか否かを判定し、旋回中である場合には」と、「前記車両の状態取得部からの情報に基づいて車両が特定の状態か否かを判定し、特定の状態である場合には」という限りにおいて一致する。
また、引用文献の図4に示されたマップ並びに上記記載d及び記載eからみて、引用文献においては、判定線130を判定線132の位置まで変更することによって、同じアクセル31の開度(°)の場合、車速制限が実行されるアクセル31の踏み込み速度(°/0.1s)の範囲は大きくなり、また、同じアクセル31の踏み込み速度(°/0.1s)の場合、車速制限が実行されるアクセル31の開度(°)の範囲も大きくなっている。さらに車速制限を実行するか否かを判定することは、アクセルペダルの踏み間違いであるか否かを判定しているのと実質的に同じなので、引用発明の「より小さいアクセル31の開度(°)およびより小さいアクセル31の踏み込み速度(°/0.1s)であっても、車速制限が実行されるように、車速制限を実行するか否かの判定基準となるマップにおける閾値である判定線130を判定線132の位置まで変更する電子制御装置(ECU)100の制御部」及び「変更された判定基準となるマップを参照して、閾値である判定線132に相当する値よりもアクセル31の開度が大きく、かつアクセル31の踏み込み速度が大きいと判定された場合には、速度制限を実行する電子制御装置(ECU)100の制御部」は、本願発明の「アクセルペダルの踏み間違いであると判定するアクセル開度の変化量の範囲が大きくなるよう、または、アクセルペダルの踏み間違いであると判定するアクセル開度の範囲が大きくなるよう、判断基準データを選択する選択手段」及び「選択された前記判断基準データに、現在のアクセル開度の変化量または現在のアクセル開度を適用することで、アクセルペダルの踏み間違いであるか否かを判定する判定手段(140)」と、「アクセルペダルの踏み間違いであると判定するアクセル状態(アクセル開度の変化量、アクセル開度)の範囲が大きくなるよう、判断基準データを選択する選択手段」及び「選択された前記判断基準データに、現在のアクセル状態(アクセル開度の変化量、アクセル開度)を適用することで、アクセルペダルの踏み間違いであるか否かを判定する判定手段(140)」という限りにおいて、それぞれ一致する。

1 一致点について
したがって、両者は、

「車両に搭載されるアクセルペダル踏み間違い判定装置であって、
前記車両の状態取得部からの情報に基づいて車両が特定の状態か否かを判定し、特定の状態である場合には、アクセルペダルの踏み間違いであると判定するアクセル状態(アクセル開度の変化量、アクセル開度)の範囲が大きくなるよう、判断基準データを選択する選択手段と、
選択された前記判断基準データに、現在のアクセル状態(アクセル開度の変化量、アクセル開度)を適用することで、アクセルペダルの踏み間違いであるか否かを判定する判定手段(140)と、を備えたアクセルペダル踏み間違い判定装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。

2 相違点について
(1)車両の状態取得部からの情報に基づいて車両が特定の状態か否かを判定し、特定の状態である場合に関して、本願発明においては、車両のステアリング角に基づいて車両が旋回中であるか否かを判定し、旋回中である場合であるのに対し、引用発明においては、車両200の状態を取得する状態取得部からの情報に基づいて、車両200を駐車させるために操作する駐車操作であるか否かを判定し、駐車操作であると判定された場合、である点(以下、「相違点1」という。)。

(2)アクセルペダルの踏み間違いであると判定するアクセル状態(アクセル開度の変化量、アクセル開度)の範囲が大きくなるよう、判断基準データを選択する選択手段と、選択された判断基準データに現在のアクセル状態(アクセル開度の変化量、アクセル開度)を適用することに関して、本願発明においては、アクセル開度の変化量またはアクセル開度のどちらか一方であるのに対し、引用発明では、アクセル開度の変化量かつアクセル開度である点(以下、「相違点2」という。)。


第5 相違点の検討
そこで、上記相違点について、以下に検討する。

1 相違点1について
ペダル踏み間違いによる事故が発生する道路形状としては、駐車場やカーブ等があることは技術常識(例えば、「財団法人交通事故総合分析センター,ITARDA INFORMATION,2010年12月,No.86」の図5等、及び、特開2003-137001号公報の段落【0003】及び【0005】等参照。以下、「技術常識」という。)であり、また、車両のステアリング角に基づいて車両が旋回中であるか否かを判定することは周知技術(例えば、特開2007-170207号公報の段落【0044】等参照。以下、「周知技術」という。)であるので、引用発明において、駐車操作か否かを判定するかわりに旋回中であるか否かを判定し、その旋回中であるか否かの判定をステアリング角に基づいて行うことは、上記技術常識及び周知技術に基づいて当業者が容易になし得ることである。

2 相違点2について
アクセルペダルの踏み間違いであるか否かを判定する判断基準として、アクセル状態に関する情報である、アクセル開度の変化量とアクセル開度の両方を採用した場合と、どちらか一方を採用した場合とを比較すると、両方を採用した場合の方がより正確に判定できることは明らかである。したがって、本願発明のようにアクセル開度の変化量またはアクセル開度のどちらか一方を判断基準とすることは、アクセル開度の変化量とアクセル開度の両方を判断基準とする引用発明を簡略化したものにすぎない。
また、そのような判断基準は、適宜置換可能であることも本願明細書の段落【0089】の記載から明らかである。
してみると、どちらか一方を判断基準とすることは、当業者であれば必要に応じて容易になし得ることである。

3 本願発明の効果について
そして、本願発明が、引用発明、技術常識及び周知技術からは予想しえない格別の効果を奏するものとも認められない。

4 したがって、本願発明は、引用発明、技術常識及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。


第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、技術常識及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-13 
結審通知日 2013-11-19 
審決日 2013-12-02 
出願番号 特願2011-1365(P2011-1365)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (B60W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 寺川 ゆりか  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 加藤 友也
藤原 直欣
発明の名称 アクセル・ブレーキ踏み間違い判定装置  
代理人 碓氷 裕彦  
代理人 井口 亮祉  
代理人 伊藤 高順  

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