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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04W
管理番号 1283757
審判番号 不服2012-5774  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-03-29 
確定日 2014-01-15 
事件の表示 特願2008-545939「順方向リンクの偏波の最適化」拒絶査定不服審判事件〔平成19年10月 4日国際公開、WO2007/111734、平成21年 5月14日国内公表、特表2009-519686〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成18年12月12日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年12月12日、米国)を国際出願日とする特許出願であって、平成23年4月7日付けで拒絶理由が通知されたことに対して、平成23年7月7日に手続補正がなされ、平成23年7月27日付けで拒絶理由が通知され、平成23年11月25日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成24年3月29日に審判請求がなされ、平成25年3月21日付けで当審が拒絶理由を通知したものである。


2.本願発明
本願発明は、平成23年7月7日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであって、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
アンテナと、
前記アンテナに結合されたトランシーバであって、前記アンテナへの、および前記アンテナからの信号伝送を管理するように構成された、トランシーバと、
前記トランシーバに通信可能に結合された処理ユニットであって、
第1の偏波を有する第1の信号を受信し、
前記第1の偏波とは異なる第2の偏波を有する第2の信号を受信し、
前記第1および第2の信号に関連する信号強度情報と、前記第1および第2の信号の間の位相角とをゲートウェイに送信し、
前記ゲートウェイからコンテンツ運搬信号を受信する
ように構成される、処理ユニットと
を備え、
前記コンテンツ運搬信号は、第1の送信信号および第2の送信信号を含み、
前記第1の送信信号および前記第2の送信信号はそれぞれ信号強度を有し、
前記信号強度は、少なくとも部分的に、前記信号強度情報に比例的に基づき、
前記第1の送信信号および前記第2の送信信号は、前記第1の送信信号および前記第2の送信信号の間に位相差を有し、
前記位相差は、少なくとも部分的に、前記位相角に基づき、
それによって、前記コンテンツ運搬信号は、前記アンテナの偏波の向きに実質的に一致する
通信装置。」


3.引用文献
これに対して、当審において引用した本願の優先日前に公開された特開2003-244046号公報(以下「引用文献1」という。)には,図面とともに次の事項が記載(下線は当審が付与。)されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、直接拡散符号分割多元接続方式(DS-CDMA:Direct Sequence - Code Division Multiple Access)を用いて複数の移動局と通信を行うCDMA基地局装置に関するものであり、基地局から移動局へ送信する下りリンクにおいて、偏波ダイバーシティアンテナをアダプティブアレイアンテナのエレメントとして用いるものである。」

(2)「【0021】基地局1は、下りリンクにおいて、垂直ブランチおよび水平ブランチのアレイアンテナを用いて、偏波ダイバーシティで送信する。移動局3は、垂直偏波送信波5Vおよび水平偏波送信波5Hを移動局アンテナ4で受信する。線状の移動局アンテナ4は、一般に傾いた状態で使用されるので、垂直,水平の両偏波を受信できる。 」

(3)「【0023】図2は、本発明のCDMA基地局装置の実施の一形態を説明するためのブロック構成図である。図中、図4,図1と同様な部分には同じ符号を付している。11は送信部であり、送信ウエイト付加および符号拡散を行う。12は送信ウエイト制御部であるが、図示しない受信部や受信ウエイト制御部の機能の一部を利用する場合がある。13は拡散符号発生部であり、所望の移動局3に割り当てられた拡散符号を出力する。図2では、所望の1つの移動局3に対するブロック構成を示しているが、個々の移動局について同様のブロックが設けられる。複数の移動局に対する同時送信時には、送信部11において、送信ウエイト制御部12で計算された個々の移動局に対する送信ウエイトが乗算され、個々の移動局に割り当てられた拡散符号を用いて拡散され、各移動局に対する拡散信号が合成されて、各偏波ダイバーシティアンテナの垂直偏波アンテナ21V?24Vと水平偏波アンテナ21H?24Hに供給される。上述した構成は、従来技術で説明した空間ダイバーシティを用いたアダプティブアレイアンテナ用のブロック構成をそのまま用いることができる。
【0024】送信部11は、所望の移動局3に送信する送信信号に、各偏波ダイバーシティアンテナの垂直偏波アンテナ21V?24Vに対する、垂直ブランチウエイトwV0および個々の送信アレイウエイトwV1?wV4を乗算し、かつ、各偏波ダイバーシティアンテナの水平偏波アンテナ21H?24Hに対する、水平ブランチウエイトwH0および個々の送信アレイウエイトwH1?wH4を乗算するとともに、拡散符号発生部13から出力され、所望の移動局3に割り当てられた拡散符号で符号拡散を行って、対応する垂直偏波アンテナ21V?24Vおよび水平偏波アンテナ21H?24Hに出力する。送信ウエイト制御部12は、所望の移動局3から送信された信号を受信して得られた受信信号に基づいて、垂直ブランチウエイトwV0、水平ブランチウエイトwH0、および、前記個々の送信アレイウエイトwV1?wV4,wH1?wH4を計算し、制御する。所望の移動局3から送信された信号は、各垂直偏波アンテナ21V?24Vおよび各水平偏波アンテナ21H?24Hの少なくとも一方の偏波アンテナを用いて受信する。ここで、少なくとも一方と限定した理由は、通常の構成であれば、各垂直偏波アンテナ21V?24Vおよび各水平偏波アンテナ21H?24Hの両方からの信号に基づいて受信信号を出力するが、後述するように、必ずしも両方の信号がなくても、垂直ブランチウエイトwV0、水平ブランチウエイトwH0、および、前記個々の送信アレイウエイトwV1?wV4,wH1?wH4が得られる場合があるからである。
【0025】W-CDMA方式に本発明を適用する具体例を説明する。送信ウエイト制御部12は、少なくとも一方の各偏波アンテナ、例えば、垂直偏波アンテナ21V?24Vに対する最適な受信アレイウエイトに基づいて、垂直偏波アンテナ21V?24Vおよび水平偏波アンテナ21H?24Hに対する個々の送信アレイウエイトwV1?wV4,wH1?wH4を計算し、制御する。また、所望の移動局3から送信されたフィードバック制御メッセージを受信し、これに基づいて、垂直ブランチウエイトwV0および水平ブランチウエイトwH0を制御する。
【0026】図3は、図2に示した送信部11の内部構成の一具体例を説明するブロック構成図である。図中、図4,図1,図2と同様な部分には同じ符号を付している。図中、21は偏波ブランチウエイト付加部、22はS-CPICH(Secondary-Common Pilot Channel:第2共通パイロットチャネル)パイロットパターン発生器、23は送信アレイウエイト付加部、24は符号拡散部である。図2に示した送信信号は、DPCH(Dedicated Physical Channel:個別物理チャネル、すなわちユーザ毎に割り当てられるチャネル)送信データおよびS-CPICHパイロットパターン信号に対応する。DPCH送信データは、偏波ブランチウエイト付加部21内の各乗算器において、それぞれ、垂直ブランチウエイトwH0および水平ブランチウエイトwV0を乗算され、垂直、水平の2系統の出力となる。 」

(4)【0028】一方、S-CPICHパイロットパターン発生器22は、互いに直交するパターンである第1,第2のパイロットパターンを発生する。移動局3においては、この第1,第2のパイロットパターンを用いて、垂直偏波アンテナ21V?24Vからの送信波と水平偏波アンテナ21H?24Hからの送信波を識別する。 」

(5)「【0030】移動局3においては、図示を省略するが、複数M個のS-CPICHのうち、希望波信号電力対干渉電力比(SIR)の最も高いS-CPICHを選択する。選択されたS-CPICHを用いて、垂直偏波アンテナ21V?24Vから送信された第1のパイロットパターンと水平偏波アンテナ21H?24Hから送信された第2のパイロットパターンとを識別比較する。第1,第2のパイロットパターンは、そのパターンの相違によって区別される。比較結果は、フィードバック信号メッセージ(FSM: Feedback Signaling Message)などのフィードバック情報として、上りリンクで基地局1に送信する。基地局1では、このフィードバック信号に基づいて垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0を制御する。この垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0の値は、例えば、移動局3の受信部において、第1,第2のパイロットパターンの信号の位相差、または、位相差および振幅差、を比較することにより、受信電力が大きくなるように計算され、基地局1への制御情報としてフィードバックされる。
【0031】一般に、ダイバーシティブランチのウエイトをフィードバック制御する方法として、種々の方法がある。この垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0についても、任意の方法を採用することができる。 」

以上によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「 送信信号として、DPCH送信データおよびS-CPICHパイロットパターン信号を含み、
移動局が上りリンクで送信した、フィードバック信号メッセージなどのフィードバック情報に基づいて垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0を制御し、
所望の移動局に送信する送信信号に、各偏波ダイバーシティアンテナの垂直偏波アンテナ21V?24Vに対する、垂直ブランチウエイトwV0を乗算し、かつ、各偏波ダイバーシティアンテナの水平偏波アンテナ21H?24Hに対する、水平ブランチウエイトwH0を乗算するとともに、拡散符号発生部13から出力され、所望の移動局3に割り当てられた拡散符号で符号拡散を行って、対応する垂直偏波アンテナ21V?24Vおよび水平偏波アンテナ21H?24Hに出力することにより送信し、
DPCH送信データは、偏波ブランチウエイト付加部内の各乗算器において、それぞれ、垂直ブランチウエイトwH0および水平ブランチウエイトwV0を乗算され、垂直、水平の2系統の出力となる基地局
と通信を行う移動局であって、

垂直偏波送信波5Vおよび水平偏波送信波5Hを移動局アンテナで受信し、線状の移動局アンテナは、一般に傾いた状態で使用されるので、垂直,水平の両偏波を受信でき、
複数M個のS-CPICHのうち、希望波信号電力対干渉電力比(SIR)の最も高いS-CPICHを選択し、選択されたS-CPICHを用いて、垂直偏波アンテナ21V?24Vから送信された第1のパイロットパターンと水平偏波アンテナ21H?24Hから送信された第2のパイロットパターンとを識別比較し、
第1,第2のパイロットパターンは、そのパターンの相違によって区別され、
比較結果は、フィードバック信号メッセージなどのフィードバック情報として、上りリンクで基地局1に送信し、
この垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0の値は、例えば、移動局3の受信部において、第1,第2のパイロットパターンの信号の位相差、または、位相差および振幅差、を比較することにより、受信電力が大きくなるように計算され、基地局1への制御情報としてフィードバックされる
移動局」

また、引用文献1には、上記した引用発明のほか、
(6)「【0013】第1,第2のダイバーシティブランチは、フェージング相関が小さくなるように、空間的に離れて設置され、通常10波長以上離隔される。移動局3において、一方の空間ダイバーシティブランチからの送信波の受信レベルが低下したときに、他方のダイバーシティブランチからの送信波の受信レベルは、必ずしも低下しない。そのため、何らかの方法で、移動局3における、第1,第2の空間ダイバーシティブランチからの送信波の受信レベルやキャリア位相を測定したり、推定したりする。この測定結果あるいは推定結果に基づいて、送信ダイバーシティ用ブランチウエイト制御部44において、第1,第2のブランチウエイト(複素ウエイト)w10,w20を計算し、制御する。 」
なる事項が記載されている。


4.対比
技術常識に照らして、本願発明と引用発明とを対比すると、以下のことがいえる。

(ア)引用発明の移動局アンテナは、本願発明の「アンテナ」に相当する。

(イ)引用発明の移動局は、「垂直偏波送信波5Vおよび水平偏波送信波5Hを移動局アンテナで受信し、線状の移動局アンテナは、一般に傾いた状態で使用されるので、垂直,水平の両偏波を受信でき」るとともに、「フィードバック信号メッセージなどのフィードバック情報として、上りリンクで基地局1に送信」することから、引用発明の移動局は、「前記アンテナに結合されたトランシーバであって、前記アンテナへの、および前記アンテナからの信号伝送を管理するように構成された、トランシーバ」を当然に備えているといえる。

(ウ)引用発明の移動局は、「垂直偏波送信波5Vおよび水平偏波送信波5Hを移動局アンテナで受信し、線状の移動局アンテナは、一般に傾いた状態で使用されるので、垂直,水平の両偏波を受信でき」るものである。
また、引用発明の基地局は、「DPCH送信データおよびS-CPICHパイロットパターン信号を」「各偏波ダイバーシティアンテナの垂直偏波アンテナ21V?24Vに対する、垂直ブランチウエイトwV0を乗算し、かつ、各偏波ダイバーシティアンテナの水平偏波アンテナ21H?24Hに対する、水平ブランチウエイトwH0を乗算」「することにより、移動局へ送信し」ていることからみて、引用発明の移動局は基地局が送信した垂直偏波成分及び水平偏波成分を含むDPCH送信データおよびS-CPICHパイロットパターン信号を受信するものといえる。
引用発明の基地局は、本願発明の「ゲートウェイ」に相当するといえ、DPCHはコンテンツを伝送することが可能なチャネルであるから、引用発明でいうDPCH送信データは本願発明の「コンテンツ運搬信号」に相当するといえる。
してみると、引用発明の移動局は、「前記トランシーバに通信可能に結合された処理ユニットであって、第1の偏波を有する第1の信号を受信し、前記第1の偏波とは異なる第2の偏波を有する第2の信号を受信し」、「前記ゲートウェイからコンテンツ運搬信号を受信するように構成される、処理ユニット」を備えているといえる。

(エ)引用発明の基地局は、「DPCH送信データおよびS-CPICHパイロットパターン信号を」「各偏波ダイバーシティアンテナの垂直偏波アンテナ21V?24Vに対する、垂直ブランチウエイトwV0を乗算し、かつ、各偏波ダイバーシティアンテナの水平偏波アンテナ21H?24Hに対する、水平ブランチウエイトwH0を乗算」「することにより、移動局へ送信し」ていることからみて、引用発明の基地局が送信するDPCH送信データは垂直偏波成分及び水平偏波成分を含んでいるものといえる。
DPCH送信データが含む垂直偏波成分及び水平偏波成分が信号強度を有し、該垂直偏波成分及び水平偏波成分は、該成分の信号の間に位相差を有していることは明らかである。
してみると、引用発明の「前記コンテンツ運搬信号は、第1の送信信号および第2の送信信号を含み、前記第1の送信信号および前記第2の送信信号はそれぞれ信号強度を有し、前記第1の送信信号および前記第2の送信信号は、前記第1の送信信号および前記第2の送信信号の間に位相差を有し」ているといえる。

したがって、本願発明と引用発明とを対比すると、次の点で一致する。
「アンテナと、
前記アンテナに結合されたトランシーバであって、前記アンテナへの、および前記アンテナからの信号伝送を管理するように構成された、トランシーバと、
前記トランシーバに通信可能に結合された処理ユニットであって、
第1の偏波を有する第1の信号を受信し、
前記第1の偏波とは異なる第2の偏波を有する第2の信号を受信し、
前記ゲートウェイからコンテンツ運搬信号を受信する
ように構成される、処理ユニットと
を備え、
前記コンテンツ運搬信号は、第1の送信信号および第2の送信信号を含み、
前記第1の送信信号および前記第2の送信信号はそれぞれ信号強度を有し、
前記第1の送信信号および前記第2の送信信号は、前記第1の送信信号および前記第2の送信信号の間に位相差を有する
通信装置。」

また、次の点で相違する。

(相違点1)
本願発明は、処理ユニットが「前記第1および第2の信号に関連する信号強度情報と、前記第1および第2の信号の間の位相角とをゲートウェイに送信し」ているのに対して、引用発明は、第1,第2のパイロットパターンの信号の位相差および振幅、を比較することにより、受信電力が大きくなるように計算された垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0の値を送信している点。

(相違点2)
本願発明は、第1の送信信号および第2の送信信号の信号強度が「少なくとも部分的に、前記信号強度情報に比例的に基づき」、第1の送信信号および第2の送信信号の間の位相差が「少なくとも部分的に、前記位相角に基づ」いているのに対して、引用発明は、第1の送信信号および第2の送信信号の信号強度と信号強度情報との関係、および、第1の送信信号および第2の送信信号の間の位相差と位相角との関係が特定されていない点。

(相違点3)
本願発明は、「前記コンテンツ運搬信号は、前記アンテナの偏波の向きに実質的に一致する」のに対して、引用発明にはこのような構成とはなっていない点。


5.判断
(相違点1、2)
引用発明における、移動局が基地局へフィードバック情報として送信する垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0の値は、第1,第2のパイロットパターンの信号の位相差および振幅差に基づいて計算された値であることは、引用文献1の段落【0030】の「この垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0の値は、例えば、移動局3の受信部において、第1,第2のパイロットパターンの信号の位相差、または、位相差および振幅差、を比較することにより、受信電力が大きくなるように計算され、基地局1への制御情報としてフィードバックされる。」なる記載から明らかである。
そして、受信局が送信局にフィードバックするフィードバック情報を、測定値から計算して求めた制御値とすることと同様に、フィードバック情報を測定値として、送信局でフィードバックされた測定値を基に制御値を計算することは、当業者にとって周知な構成である。
そして、周知な構成における測定値と制御値は、引用発明における第1,第2のパイロットパターンの信号の位相差および振幅差と、水平ブランチウエイトwV0,wH0の値に相当することは明らかである。
してみると、引用発明において、垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0の値をフィードバック情報として送信する構成に代えて、第1,第2のパイロットパターンの信号の位相差および振幅差とし、「前記第1および第2の信号に関連する信号強度情報と、前記第1および第2の信号の間の位相角とをゲートウェイに送信」するようにすることは、当業者であれば容易になし得るものといえる。

また、引用文献1の段落【0013】の「この測定結果あるいは推定結果に基づいて、送信ダイバーシティ用ブランチウエイト制御部44において、第1,第2のブランチウエイト(複素ウエイト)w10,w20を計算し、制御する。」なる記載にみられるように、通常、ブランチウエイトは複素ウエイトであり、複素ウエイトである垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0を乗算することにより、信号強度及び信号位相が制御されることは明らかである。
そして、引用発明では、垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0の値は、第1,第2のパイロットパターンの信号の位相差および振幅差に基づいて計算されており、垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0の値が乗算されるDPCH送信データの垂直偏波送信波及びDPCH送信データの水平偏波送信波の信号強度及び位相は、垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0の値の計算の基となる、第1,第2のパイロットパターンの信号の位相差および振幅差に少なくとも部分的には基づいたものとなることは明らかであって、その基づき方として比例的なものとすることは当業者にとって慣用されているものである。
してみると、引用発明には、DPCH送信データの垂直偏波送信波及びDPCH送信データの水平偏波送信波の信号強度を、少なくとも部分的に、第1,第2のパイロットパターンの信号の振幅に比例的に基づき、DPCH送信データの垂直偏波送信波及びDPCH送信データの水平偏波送信波の位相差を、少なくとも部分的に、第1,第2のパイロットパターンの信号の位相差に基づくようにする、すなわち、「前記信号強度は、少なくとも部分的に、前記信号強度情報に比例的に基づき」、「前記位相差は、少なくとも部分的に、前記位相角に基づ」くようにすることは、当業者であれば容易になし得るものといえる。

なお、審判請求人は、平成25年6月21日付け意見書において、「記載事項3:「…移動局3の受信部において、第1,第2のパイロットパターンの信号の位相差、または、位相差および振幅差、を比較することにより…」という記載があります。この記載は、「第1のパイロットパターンの信号の位相差」と、「第2のパイロットパターンの信号の位相差」とを比較することを意味しており、比較されるのは「位相差」であって「位相(の絶対値)」ではありません。すなわち、各信号それ自身について位相差が定義されていることを前提とし、この位相差どうしが比較されています。したがって、「第1のパイロットパターンの信号」と「第2のパイロットパターンの信号」とを直接比較して、これらの間の相対的な位相差を得ることは記載されておりません。」と主張している。
しかしながら、
(a)第1のパイロットパターンの信号の位相差、或いは、第2のパイロットパターンの信号の位相差と解釈する場合に、第1のパイロットパターンの信号や第2のパイロットパターンの信号と位相や振幅を比較して、その差を求める対象となるべき信号が必要となるが、そのような信号が引用文献1にはなんら開示されていないこと、
(b)引用文献1の段落【0030】に、「移動局3においては、図示を省略するが、複数M個のS-CPICHのうち、希望波信号電力対干渉電力比(SIR)の最も高いS-CPICHを選択する。選択されたS-CPICHを用いて、垂直偏波アンテナ21V?24Vから送信された第1のパイロットパターンと水平偏波アンテナ21H?24Hから送信された第2のパイロットパターンとを識別比較する。」なる記載があり、「第1のパイロットパターンの信号」と「第2のパイロットパターンの信号」とを直接比較することが開示されていること、
(c)第1,第2のパイロットパターンの位相差や振幅差は、第1,第2のパイロットパターンを比較することで求められることが可能であり、「第1,第2のパイロットパターンの信号の位相差、または、位相差および振幅差」なる記載における「位相差」或いは「振幅差」は、「第1のパイロットパターンの信号」と「第2のパイロットパターンの信号」との位相の差、或いは、振幅の差と解釈することが妥当であること、
などを考慮すると、審判請求人による上記主張は失当であるといえる。

(相違点3)
引用発明の垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0の値は受信電力が大きくなるように計算されており、移動局における受信電力が最も大きくなるのは、移動局で受信される「第1,第2のダイバーシティブランチからの送信波」が合成された信号が「アンテナの偏波の向きに実質的に一致」した場合であるから、引用発明においても、垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0は、DPCH送信データを含む送信信号が「アンテナの偏波の向きに実質的に一致」するように計算されるものといえる。
してみると、引用発明も、垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0の制御により、「コンテンツ運搬信号は、前記アンテナの偏波の向きに実質的に一致する」ものであるから、上記の相違点は実質的な相違点ではない。

また、仮に、上記の相違点が実質的な相違点となったとしても、受信しようとする信号の偏波の向きとアンテナの向きが一致する場合に受信強度が最大となることは技術常識であることから、引用発明において垂直,水平ブランチウエイトwV0,wH0の制御して「前記コンテンツ運搬信号は、前記アンテナの偏波の向きに実質的に一致する」ようにすることは、当業者であれば容易になし得るものといえる。

また、本願発明の構成によってもたらされる効果は、引用発明及び周知な事項から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものとはいえない。


6.まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知な事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく、拒絶すべきものである。
 
審理終結日 2013-08-14 
結審通知日 2013-08-20 
審決日 2013-09-03 
出願番号 特願2008-545939(P2008-545939)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原田 聖子  
特許庁審判長 加藤 恵一
特許庁審判官 佐藤 聡史
吉田 隆之
発明の名称 順方向リンクの偏波の最適化  
代理人 曾我 道治  
代理人 梶並 順  
代理人 田口 雅啓  

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