• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C02F
管理番号 1283843
審判番号 不服2013-938  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-18 
確定日 2014-02-04 
事件の表示 特願2007-558253「スラリの脱水乾燥方法および脱水乾燥装置」拒絶査定不服審判事件〔平成18年12月28日国際公開、WO2006/137502、平成20年12月25日国内公表、特表2008-546511、請求項の数(25)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年6月16日(優先権主張 平成17年6月21日)を国際出願日とする出願であって、平成23年11月9日付けで拒絶理由が通知され、平成24年1月12日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年10月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年1月18日に拒絶査定不服審判が請求され、同年8月28日付けで当審により拒絶理由が通知され、同年10月31日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成25年10月31日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?25に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ、「本願発明1」?「本願発明25」という。)。
「【請求項1】
濾布とダイアフラムと熱媒体室とを備える第1の濾板と、濾布と金属製の伝熱部材と熱媒体室とを備える第2の濾板を、前記第1の濾板と前記第2の濾板の間に濾室を形成するように配置し、
前記濾室にスラリを供給し、
前記第1の濾板および前記第2の濾板の濾布により前記濾室内のスラリを濾過し、
前記第1の濾板に形成された前記熱媒体室に熱媒体を供給して前記第1の濾板の前記ダイアフラムを前記濾室内のスラリに押し付けて圧搾することによって、脱水されたスラリからなるケーキを形成し、
前記第2の濾板に形成された前記熱媒体室に熱媒体を供給して該熱媒体の熱を前記第2の濾板の前記伝熱部材を通じて前記ケーキに伝達し、
所定の飽和蒸気温度よりも高い設定温度に前記ケーキを加熱した後に、瞬時に、前記ケーキを前記所定の飽和蒸気温度に対応する圧力に導いて、前記設定温度と前記所定の飽和蒸気温度との温度差により前記ケーキに含まれる水分を突沸させることによって前記ケーキをひび割れさせることを特徴とするスラリの脱水乾燥方法。
【請求項2】
前記濾過時または前記圧搾時から前記スラリを加熱し、
前記ケーキの水分の突沸を複数回繰り返すことを特徴とする請求項1に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項3】
前記濾過中、前記圧搾中、前記濾過後、前記圧搾後、前記ケーキの水分の突沸中、および前記ケーキの水分の突沸後の少なくとも1つにおいて、前記濾室に加圧気体を通過させることを特徴とする請求項1または2に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項4】
前記加圧気体の前記濾室への前記通過において、
前記濾室内に加圧気体を吹き込むためのブローラインを介して前記加圧気体を前記濾室に供給し、
前記濾室から濾液を排出する濾液排出ラインを介して前記加圧気体を前記濾室から排出することを特徴とする請求項3に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項5】
前記加圧気体の前記濾室への前記通過において、
前記濾室から濾液を排出する複数の濾液排出ラインの少なくとも1つを介して前記加圧気体を前記濾室に供給し、
前記複数の濾液排出ラインの他の少なくとも1つを介して前記加圧気体を前記濾室から排出することを特徴とする請求項3に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項6】
前記所定の飽和蒸気温度に対応する圧力以下に保持された複数の真空タンクに前記濾室を順次接続して、前記ケーキの水分の突沸を複数回繰り返すことを特徴とする請求項1または2に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項7】
前記濾室内のケーキの温度に応じた物性値を測定し、
前記物性値に基づいて前記ケーキの水分の突沸の開始と停止を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項8】
前記物性値として、前記濾室内のケーキの温度と、熱媒体室の入口温度と前記熱媒体室の出口温度との温度差を測定し、
前記ケーキの水分の突沸の開始と停止の制御において、
前記測定された前記濾室内のケーキの温度が所定の値以上となったときに、前記ケーキの水分の突沸を開始し、
前記測定された前記熱媒体室の入口温度と前記熱媒体室の出口温度との温度差が所定の値となったときに、前記ケーキの水分の突沸を停止することを特徴とする請求項7に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項9】
前記物性値として、前記熱媒体室の入口温度と前記熱媒体室の出口温度との温度差を測定し、
前記測定された前記熱媒体室の入口温度と前記熱媒体室の出口温度との温度差が所定の値になったときに、前記ケーキの水分の突沸の開始と停止を行うことを特徴とする請求項7に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項10】
前記物性値として、熱媒体を供給する熱媒体室の入口温度と前記熱媒体室の出口温度との温度差を測定し、
前記ケーキの水分の突沸の開始と停止の制御において、
前記測定された前記熱媒体室の入口温度と前記熱媒体室の出口温度との温度差が所定の値になったときに、前記ケーキの水分の突沸を開始し、一定時間経過後に前記ケーキの水分の突沸を停止することを特徴とする請求項7に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項11】
前記物性値として、前記濾室から排出される濾液の温度と、前記熱媒体室の入口温度と前記熱媒体室の出口温度との温度差を測定し、
前記ケーキの水分の突沸の開始と停止の制御において、
前記測定された前記濾室から排出される濾液の温度が所定の値以上になったときに、前記ケーキの水分の突沸を開始し、
前記測定された前記熱媒体室の入口温度と前記熱媒体室の出口温度との温度差が所定の値となったとき、または前記ケーキの水分の突沸から一定時間経過後に前記ケーキの水分の突沸を停止することを特徴とする請求項7に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項12】
前記物性値として、前記濾室内のケーキの温度を測定し、
前記ケーキの水分の突沸の開始と停止の制御において、
前記測定された前記濾室内のケーキの温度が所定の値以上となったときに、前記ケーキの水分の突沸を開始し、一定時間経過後に前記ケーキの水分の突沸を停止することを特徴とする請求項7に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項13】
一定時間ごとに前記ケーキの水分の突沸の開始と停止とを複数回繰り返すことを特徴とする請求項1または2に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項14】
前記設定温度と前記所定の飽和蒸気温度との温度差は20℃から70℃の範囲にあり、
前記所定の飽和蒸気温度に対応する圧力は絶対圧0.03MPa以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のスラリの脱水乾燥方法。
【請求項15】
ダイアフラムと、前記ダイアフラムと濾室との間に配置される濾布と、供給される熱媒体によって前記ダイアフラムを前記濾室内のスラリに押し付けて圧搾することによって、
脱水されたスラリからなるケーキを形成する熱媒体室とを備える第1の濾板と、伝熱面を有する金属製の伝熱部材と、前記伝熱部材の伝熱面と前記濾室との間に配置される濾布と、供給される熱媒体の熱を前記伝熱面を通じて前記ケーキに伝達する熱媒体室とを備える第2の濾板と、前記第1の濾板と前記第2の濾板の間に挟まれた少なくとも1つの濾室を有するフィルタプレスと、
前記ケーキを所定の飽和蒸気温度よりも高い設定温度に加熱する加熱機構と、
前記加熱機構により加熱されたケーキを前記所定の飽和蒸気温度に対応する圧力に瞬時に導いて該ケーキに含まれる水分を突沸させることによって前記ケーキをひび割れさせる減圧機構と、
を備えたことを特徴とするスラリの脱水乾燥装置。
【請求項16】
前記第2の濾板は、前記伝熱部材の前記伝熱面の周縁部に樹脂製の枠体を備え、
前記第2の濾板の伝熱部材は、枠体と一体に形成されていることを特徴とする請求項15記載のスラリの脱水乾燥装置。
【請求項17】
前記濾室に加圧気体を通過させる通気機構をさらに備えたことを特徴とする請求項15または16に記載のスラリの脱水乾燥装置。
【請求項18】
前記通気機構は、前記濾室内に加圧気体を吹き込むためのブローラインを介して前記加圧気体を前記濾室に供給し、前記濾室から濾液を排出する濾液排出ラインを介して前記加圧気体を前記濾室から排出することを特徴とする請求項17に記載のスラリの脱水乾燥装置。
【請求項19】
前記通気機構は、前記濾室から濾液を排出する複数の濾液排出ラインの少なくとも1つを介して前記加圧気体を前記濾室に供給し、前記複数の濾液排出ラインの他の少なくとも1つを介して前記加圧気体を前記濾室から排出することを特徴とする請求項17に記載のスラリの脱水乾燥装置。
【請求項20】
前記減圧機構は、
(i)前記所定の飽和蒸気温度に対応する圧力以下に保持され、前記フィルタプレスの前記濾室に並列に接続される複数の真空タンクと、
(ii)前記複数の真空タンクと前記フィルタプレスの前記濾室との接続を切り替える複数の弁と、
を備え、
前記複数の真空タンクは冷却機構を有することを特徴とする請求項15または16に記載のスラリの脱水乾燥装置。
【請求項21】
前記濾室内のケーキの温度に応じた物性値を測定する少なくとも1つの検出器をさらに備え、
前記少なくとも1つの検出器により測定された物性値に基づいて前記減圧機構を制御することを特徴とする請求項15または16に記載のスラリの脱水乾燥装置。
【請求項22】
前記少なくとも1つの検出器は、前記濾室内のケーキの温度を測定する検出器を含むことを特徴とする請求項21に記載のスラリの脱水乾燥装置。
【請求項23】
前記少なくとも1つの検出器は、熱媒体室の入口温度を測定する第1の検出器と、前記熱媒体室の出口温度を測定する第2の検出器とを含むことを特徴とする請求項21に記載のスラリの脱水乾燥装置。
【請求項24】
前記少なくとも1つの検出器は、前記濾室から排出される濾液の温度を測定する検出器を含むことを特徴とする請求項21に記載のスラリの脱水乾燥装置。
【請求項25】
前記設定温度と前記所定の飽和蒸気温度との温度差は20℃から70℃の範囲にあり、
前記所定の飽和蒸気温度に対応する圧力は絶対圧0.03MPa以下であることを特徴とする請求項15または16に記載のスラリの脱水乾燥装置。」

第3 拒絶理由の概要
1.原査定の拒絶理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


刊行物1:国際公開第03/013687号
刊行物2:特開2001-232109号公報

2.当審の拒絶理由の概要
本願発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物3:特開2004-361006号公報
刊行物4:特開2004-101130号公報

第4 当審の判断
1.原査定の拒絶理由の理由1について
(1)刊行物1の記載事項
刊行物1には、「FILTER PRESS AND FILTER PRESS METHOD(フィルタプレス及びフィルタプレス方法)」(発明の名称)(英文の後の括弧内は当審による訳。以下同じ。)について、次の記載がある。
ア 「Technical Field
The present invention relates to a filter press for effecting liquid-solid separation of sludge contained within a fluid introduced between a plurality of filter plates, and more particularly to a filter press and a filter press method for minimizing the moisture content of a produced cake and if necessary, for completely drying the cake.(技術分野
この発明は、複数の濾板間に導入された流体の内部に含まれるスラッジの固液分離を行うフィルタプレスに関する。より具体的には、生成されるケーキの湿分を最小化させ、必要であれば完全にケーキを乾燥させる、フィルタプレス及びフィルタプレス方法に関する。)」(明細書2頁2?9行)

イ 「Fig. 2 is a schematic view of a filter press in accordance with the present invention, and Fig. 3 is an enlarged view of Fig . 2.
As shown in Figs. 2 and 3, the filter press 1 of the present invention comprises a housing 100, a filter chamber 110 installed within the housing 100, and a plurality of filter plates 50. The filter plate 50 includes a plate 55 with an air supply hole 52, a pressing diaphragm 56 formed outside the plate 55, a filter screen 58 covering the pressing diaphragm 56, a central feed inlet 55a for feeding a fluid, and an outward drainage outlet 55b for discharging the liquid of the fluid to the outside.
A heat supply pipe 10 is installed on the upper end of the housing 100, and a heat exhaust pipe 10a is installed on the lower end of the housing 100. A heating plate 20 made of a metal is interposed between the filter plates 50 so as to be connected to the heat supply pipe 10 and the heat exhaust pipe 10a via a connection pipe 12. The heating plate 20 includes a discharge path 22 formed between a plurality of protrusions so as to correspond to the filter plate 50, a filter screen 24, a feed hole 26 corresponding to the feed inlet 55a for feeding the fluid, a drainage hole 28 corresponding to the drainage outlet 55b for discharging the liquid of the fluid, and a heat supply path 20a formed within the heating plate 20.(図2は、本願発明のフィルタプレスの概略図であり、図3は図2の拡大図である。
図2、3に示されるように、この発明のフィルタプレス1は、ハウジング100、ハウジング100内に備えられた濾室110及び複数の濾板50を含んでいる。濾板50は、空気供給孔52を有する板55、板55に形成された圧搾ダイヤフラム56、圧搾ダイヤフラム56を覆う濾布58、流体が通る中央にある供給口55a、及び、液体を外部に排出するための外向排出口55bを有している。
熱供給管10がハウジング100の上端に設けられ、熱排出管10aがハウジング100の下端に設けられている。金属製の加熱板20は、濾板50と濾板50との間に挿入されていて、熱供給管10と熱排出管10aに接続管12により接続されている。加熱板20は、複数の突起の間に形成された放出経路22を有し、この放出経路22は濾板50と通じていて、さらに、加熱板20は、濾布24、流体が通る供給口55aと対応する供給孔26、流体の液体部分を排出する排出口55bに対応する排出孔28、及び、加熱板20の内部に形成された熱供給経路20aを有している。)」(同9頁9行?10頁8行)

ウ 「Fig. 4 is an enlarged cross-sectional view of the filter press in the used state of Fig. 3.
As shown in Fig. 4, the filter plates 50 and the heating plates 20 are closely attached to each other in the filter chamber 110, and then the fluid is introduced into the filter chamber 110. Air is supplied to the filter chamber 110 via the air supply holes 52 of the plates 55 of the filter plates 50. Then, as shown in the one-dot chain line in Fig. 4, the pressing diaphragms 56 and the filter screens 58 are expanded by the supplied air, thereby pressing the fluid between the filter plates 50 and the heating plates 20 so as to enable the liquid to be discharged and allow the solid to be formed as a cake .
Then, air or warm blast is injected into the filter chamber 110 via the feed inlet 55a, thereby discharging the air or the warm blast accompanied with the moisture contained within the cake. Next, the filter chamber 110 is maintained under vacuum, thereby minimizing the moisture content of the cake .
Heat is supplied to the heating plates 20 interposed between the filter plates 50 via the heat supply path 20a to heat the heating plates 20. Heat generated by the heating plates- 20 is transferred to the cake, thereby drying the cake so as to have almost no moisture content of approximately 0%.
Therefore, the aforementioned filter press allows the cake to be dehydrated so as to have the minimum moisture content, and then if necessary, to be dried.
After the filter pressing and drying steps are completed, the filter plates 50 are separated from the heating plates 20 and the dried cake is discharged to the outside. Then, the filter pressing process of the present invention is completed.(図4は、図2のフィルタプレスの使用時の断面図である。
図4に示されるように、濾板50と加熱板20はお互いに近接して濾室110に取り付けられる。そして、次に流体は濾室110に導入される。濾板50の板55の空気供給孔52を通って濾室110に空気が供給される。それから、図4中の1点鎖線に示されるように、圧搾ダイヤフラム56と濾布58が、供給された空気によって膨張する。それによって、濾板50と加熱板20との間の流体は圧搾され、流体から水が放出されて、固形物をケーキとすることができる。
そして、空気又は暖い風が、供給口55aを通って濾室110に吹き込まれる。それによって、その空気又は暖い風は、ケーキに含まれた湿分を含んで放出される。
次に、濾室110は真空に置かれる。それによって、ケーキの湿分は最小化される。
加熱板20を加熱するために、熱供給経路20aを介して、濾板50の間に置かれた加熱板20に熱が供給される。加熱板20によって生成された熱は、ケーキに伝達され、それによって、ケーキは湿分がほぼ0%になるように乾燥される。
したがって、上記のフィルタプレスは、最小の湿分となるようにケーキを脱水することができる。そして、もし、必要であれば乾燥することができる。
フィルタ圧搾と乾燥工程が終了した後は、濾板50は加熱板20から引き離され、乾燥したケーキは外部に取り出される。そして、この発明の圧搾ブレスの工程は終了する。)」(同10頁下から5行?12頁3行)

図2「


図3「


図4「


アの記載によれば、刊行物1には、複数の濾板間に導入された流体の内部に含まれるスラッジを固液分離及び乾燥を行うフィルタプレス及びフィルタプレス方法に関する発明が記載されている。

そして、イの記載によれば、刊行物1に記載されたフィルタプレスについて、次のことがいえる。
・フィルタプレス1は、ハウジング100、ハウジング100内に備えられた濾室110、及び複数の濾板50を有している。
・濾板50は、空気供給孔52を有する板55、板55に形成された圧搾ダイヤフラム56、圧搾ダイヤフラム56を覆う濾布58、流体が通る中央にある供給口55a、及び、液体を外部に排出するための外向排出口55bを有している。
・濾板50と濾板50との間には、金属製の加熱板20が挿入されており、加熱板20は、熱供給管10と熱排出管10aに接続管12により接続され、内部に形成された熱供給経路20aを有しており、さらに、加熱板20は、濾布24、流体を供給する供給口55aに対応する供給孔26、流体の液体部分を排出する排出口55bに接続された排出孔28を有している。

また、ウの記載によれば、刊行物1に記載されたフィルタプレス方法は、次のa?eの順で行われるものである。
a 流体が濾室110に導入される。
b 濾板50の板55の空気供給孔52を通って、濾板50に空気を供給することで、圧搾ダイヤフラム56と濾布58とが、供給された空気によって膨張し、濾板50と加熱板20との間の流体が圧搾され、流体から水が放出されて、固形物をケーキとする。
c 空気又は暖い風が、供給口55aを経由して濾室110に吹き込まれることで、空気又は暖い風は、ケーキに含まれた湿分を含んで放出される。
d 濾室110は真空に置かれ、ケーキの湿分は最小化される。
e 熱供給経路20aを介して、濾板50の間に置かれた加熱板20に熱が供給され、加熱板20が加熱され、熱がケーキに伝達されることで、ケーキの湿分がほぼ0%になるように乾燥される。

そして、図3、4から、空気供給孔52を有し、圧搾ダイヤフラム56と濾布58を有する濾板50と、加熱板20とは、ハウジング100内に交互に配置され、濾板50と加熱板20との間に濾室110が形成されることが看取される。

そうすると、刊行物1には、
「濾室110を有するハウジング100、交互に配置された複数の濾板50、及び、金属製の加熱板20を有するフィルタプレス1において、
濾板50は、空気供給孔52を有する板55、液体を外部に排出するための外向排出口55b、圧搾ダイヤフラム56及び圧搾ダイヤフラム56を覆う濾布58を有し、
加熱板20は、熱供給管10と熱排出管10aに接続管12により接続され、内部に形成された熱供給経路20aを有しており、さらに、加熱板20は、濾布24、流体を供給する供給口55aに対応する供給孔26、流体の液体部分を排出する排出口55bに接続された排出孔28を有しており、
スラッジを含む流体は濾室110に導入され、
濾板50の圧搾ダイヤフラム56と濾布58が、供給された空気によって膨張して、濾板50と加熱板20との間の流体は圧搾され、流体から水が排出口55bを通って放出されて、スラッジを含む流体はケーキとなり、
空気又は暖かい風が、流体が通る濾板50の中央にある供給口55aを経由して濾室110に吹き込まれて、空気又は暖かい風は、ケーキに含まれた湿分を含んで放出され、
濾室110は真空に置かれ、ケーキの湿分は最小化され、
熱供給経路20aを介して、濾板50の間に置かれた加熱板20に熱を供給することで加熱板20を加熱し、加熱板20によって生成された熱は、ケーキに伝達され、それによって、湿分がほぼ0%になるように、ケーキが乾燥される、スラッジを含む流体の固液分離及び乾燥を行うフィルタプレス及びフィルタプレス方法」(以下「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(2)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「スラッジを含む流体」「濾板50」、「金属製の加熱板20」、「圧搾ダイアフラム」及び「スラッジを含む流体の固液分離及び乾燥を行うフィルタプレス方法」は、本願発明1の「スラリ」、「第1の濾板」、「第2の濾板」、「ダイアフラム」及び「スラリの脱水乾燥方法」にそれぞれ相当する。
また、引用発明では、濾板50の濾布、加熱板20の濾布を介して、スラッジを含む流体から水が排出されていることから、濾板50及び加熱板20の濾布により濾室内のスラッジを含む流体が濾過されていることは明らかである。
そして、引用発明では、金属製の加熱板20は、熱供給管10と熱排出管10aに接続管12により接続され、加熱板20の内部に形成された熱供給経路20aを有し、熱供給管10から供給された熱で加熱されることから、熱供給管10からは熱媒体が供給されること、及び、加熱板20は熱媒体を収容する熱媒体室を有していることは明らかである。
また、金属製の加熱板20が加熱され、熱がケーキに伝達されるのであるから、加熱板は、金属製の伝熱部材を有しているということができる。

そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「濾布とダイアフラムを備える第1の濾板と、濾布と金属製の伝熱部材と熱媒体室とを備える第2の濾板を、前記第1の濾板と前記第2の濾板の間に濾室を形成するように配置し、
前記濾室にスラリを供給し、
前記第1の濾板および前記第2の濾板の濾布により前記濾室内のスラリを濾過し、
前記第1の濾板の前記ダイアフラムを前記濾室内のスラリに押し付けて圧搾することによって、脱水されたスラリからなるケーキを形成し、
前記第2の濾板に熱媒体を供給して該熱媒体の熱を前記第2の濾板の前記伝熱部材を通じて前記ケーキに伝達し、
濾室の圧力を変化させるスラリの脱水乾燥方法。」

である点で一致し、次の点で相違する。
(相違点1)
本願発明1の第1の濾板は、熱媒体室を備えていて、前記第1の濾板に形成された前記熱媒体室に熱媒体を供給して前記第1の濾板の前記ダイアフラムを前記濾室内のスラリに押し付けて圧搾するのに対し、引用発明の濾板50は、熱媒体室を備えておらず、圧搾はするものの、圧搾は空気による膨張によって行われていて、熱媒体の供給によるものでない点。

(相違点2)
本願発明1は、所定の飽和蒸気温度よりも高い設定温度に前記ケーキを加熱した後に、瞬時に、前記ケーキを前記所定の飽和蒸気温度に対応する圧力に導いて、前記設定温度と前記所定の飽和蒸気温度との温度差により前記ケーキに含まれる水分を突沸させることによって前記ケーキをひび割れさせるのに対し、引用発明では、真空にして乾燥しているが、ケーキに含まれる水分を突沸させることによって前記ケーキをひび割れさせているかどうかは不明な点

(3)判断
原査定の拒絶理由に引用された刊行物2(特開2001-232109号公報)には、「汚泥の脱水乾燥装置及び方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】 一又は複数対のプレートと該プレート対の間に配置された汚泥を収容する濾布とを有するフィルタープレス型濾過機構と、
該濾布に当接し前記濾布の濾過水を排出する溝を備えたダイヤフラム型圧搾機構と、前記濾布内に汚泥を供給する機構と、
前記ダイヤフラム部に加熱媒体を供給し、濾布内に収容した汚泥を加圧及び加温する機構と、前記濾布外部を減圧する機構とを備えたことを特徴とする汚泥の脱水乾燥装置。
【請求項2】 前記請求項1記載の汚泥の脱水乾燥装置において、前記濾布内の汚泥をダイヤフラムを介して加圧しつつ加温すると共に、前記濾布外を減圧することを特徴とする汚泥の脱水乾燥方法。
【請求項3】 前記加圧用ダイヤフラムは、ポリエチレン等の熱伝導性のよい物質を混合した耐熱及び伸縮性に富んだ素材を使用することを特徴とする請求項2記載の汚泥の脱水乾燥方法。
【請求項4】 前記加圧用ダイヤフラムに0.5MPa以上の圧力が加わるようにしたことを特徴とする請求項2記載の汚泥の脱水乾燥方法。
【請求項5】 前記加温は、加熱媒体の温度を70乃至90℃程度の温度に保つものであることを特徴とする請求項2又は3に記載の脱水乾燥方法。」
「【0017】次に、背圧弁9で圧搾圧力を設定した後、温水循環ポンプ8を稼働して濾枠15とダイヤフラム18で仕切られた部屋に、温水ボイラ2で80℃に加温された温水を15分間圧送し、ダイヤフラム18を膨張させて汚泥の圧搾工程を行なう。」
「【0023】本発明の工程では、次に図4(b)に示すように、汚泥を濾室22内で加圧・加温しつつ、濾室外を減圧雰囲気とし、これにより汚泥の脱水乾燥を促進することが特徴である。即ち、ダイヤフラム18(18a)の外側に温水HWを加圧注入することで、濾室22内に例えば0.8MPaの圧力を加えると共に、温水により濾室内の汚泥を70?90℃に維持する。そして、真空ポンプ3を用いて真空排気することで、濾布の外側のダイヤフラムに設けられた溝18a内の圧力を-0.09MPa以下の減圧雰囲気に保つ。そして、このような状態を約1.3時間かけて汚泥の圧縮及び脱水乾燥を行う。これにより製造されたケーキの含水率は32.5%という値が得られ、目標の35%以下になる。この場合の濾過工程と脱水乾燥工程の合計時間は2.3時間であり、濾過速度は0.57kg/m^(2)hが得られる。」

これらの記載から、刊行物2には、フィルタープレス型濾過機構と、該濾布に当接し前記濾布の濾過水を排出する溝を備えたダイヤフラム型圧搾機構と、前記ダイヤフラム部に加熱媒体を供給し、濾布内に収容した汚泥を加圧及び加温する機構とを備えること及び、汚泥を濾室内で加圧・加温しつつ、濾室外を減圧雰囲気とし、汚泥の脱水乾燥を促進することについて記載されていると認められる。

また、刊行物2では、温水により濾室内の汚泥を70?90℃に維持し、濾布の外側のダイヤフラムに設けられた溝18a内の圧力を-0.09MPa以下の減圧雰囲気に保っている。
ここで、1気圧は0.10132MPaであるから、溝18a内の圧力は、1気圧-0.09MPa、すなわち、0.10132-0.09= 0.01132MPaにしているということができ、この0.01132MPaの飽和蒸気圧温度は約48℃であるから、刊行物2には、所定の飽和蒸気温度よりも高い設定温度に前記ケーキを加熱した後に、前記ケーキを前記所定の飽和蒸気温度以下の圧力に導くことが記載されているということはできる。

しかしながら、刊行物2に記載されたものでは、濾室外を減圧雰囲気とする際に、瞬時に、圧力を低下させているというものでないことから、ケーキに含まれる水分が突沸しているかどうかは明らかではなく、ケーキにひび割れさせているかどうかも明らかではない。
また、当審の拒絶理由で引用された特開2004-101130号公報に開示されるように、「真空乾燥装置において、ワークに付着した水の蒸発を促進するために、早く突沸を起こすために、ワークを高温の乾燥室内にセットしてワークを加熱し、真空室を用いて乾燥室内を急激に減圧して乾燥室内に突風を起こし、さらに減圧を進めて突沸を起こし、乾燥が終了しない場合は、乾燥室の圧力を大気圧まで上げた後に、真空室を用いて乾燥室内を急激に減圧することを繰り返す、ワークの乾燥装置及び乾燥方法」が記載されているとしても、乾燥対象物にひび割れを起こすことは記載されていないし、当業者にとって技術常識ないし周知技術であるとすることはできない。
そうすると、本願発明1の相違点2に係る構成については、当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

そして、本願発明1は、【0026】、【0027】に記載されているように、ケーキにひび割れさせることにより、蒸発面積が増加し、スラリの脱水と乾燥をより効率的かつ短時間で行うことができ、粘着性を持つケーキを濾布から容易に分離させることができて、脱水乾燥装置の維持管理にかかる労力を大幅に低減させるという、刊行物1、2及び周知技術からは当業者が予測し得ない格別な効果を奏するものであるから、本願発明1は、本願発明1は、引用発明、刊行物2の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとすることはできない。

(4)本願発明2?14について
本願発明2?14は、本願発明1を引用し、本願発明2の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明2と同様な理由から、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(5)本願発明15について
本願発明1は、スラリの脱水乾燥装置において、「加熱機構により加熱されたケーキを所定の飽和蒸気温度に対応する圧力に瞬時に導いて該ケーキに含まれる水分を突沸させることによって前記ケーキをひび割れさせる減圧機構」を備えたものであり、相違点2に係る本願発明1の構成である「所定の飽和蒸気温度よりも高い設定温度に前記ケーキを加熱した後に、瞬時に、前記ケーキを前記所定の飽和蒸気温度に対応する圧力に導いて、前記設定温度と前記所定の飽和蒸気温度との温度差により前記ケーキに含まれる水分を突沸させることによって前記ケーキをひび割れさせる」ことを実施するために直接使用する装置を備えたものであるということができる。
そうすると、本願発明1が引用発明、刊行物2の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないのであるから、本願発明14は、本願発明1と同様な理由から、引用発明、刊行物2の記載及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(6)本願発明16?25について
本願発明16?25は、本願発明15を引用し、本願発明15の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明15と同様な理由から、引用発明、刊行物2の記載及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2.当審拒絶理由について
刊行物3には、「脱水乾燥装置及び方法」(発明の名称)について記載され、刊行物4には、「真空乾燥装置」(発明の名称)について記載されている。
しかしながら、刊行物3及び4の記載からは、所定の飽和蒸気温度よりも高い設定温度に前記ケーキを加熱した後に、瞬時に、前記ケーキを前記所定の飽和蒸気温度に対応する圧力に導いて、前記設定温度と前記所定の飽和蒸気温度との温度差により前記ケーキに含まれる水分を突沸させることによって前記ケーキをひび割れさせることを当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-01-21 
出願番号 特願2007-558253(P2007-558253)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 谷水 浩一  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 真々田 忠博
吉水 純子
発明の名称 スラリの脱水乾燥方法および脱水乾燥装置  
代理人 廣澤 哲也  
代理人 渡邉 勇  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ