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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H01L
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1283877
審判番号 無効2011-800258  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-12-16 
確定日 2014-02-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第3511970号発明「窒化物半導体発光素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第3511970号(以下「本件特許」という。平成16年1月16日登録、請求項の数は5である。なお、本件特許に係る出願である特願2000-67673号は、平成7年6月15日に出願した特願平7-148470号〔以下「原出願」という。〕の一部を分割して平成12年3月10日に新たな出願としたものである。)の請求項1ないし5に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

第2 手続の経緯
本件審判の経緯は、以下のとおりである。

平成23年12月16日 審判請求
平成24年 3月 9日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成24年 7月 5日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成24年 7月 9日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成24年 7月19日 口頭審理

第3 本件発明
1 本件特許の請求項に係る発明は、次の各請求項に記載されたとおりのものと認められる。
「【請求項1】 導電性基板上に、電極を介して光の取り出し側とする窒化物半導体が接着してなり、該窒化物半導体の最下層はp型層であり、最上層がn型層であって、該n型層には部分電極が設けられていることを特徴とする窒化物半導体発光素子。
【請求項2】 前記電極が、窒化物半導体表面に形成されたオーミック電極及び/又は導電性基板表面に形成されたオーミック電極を含むことを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項3】 前記導電性基板を接着する窒化物半導体層面が、前記p型層であり、前記電極及び/又は導電性材料が、p型層のほぼ全面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項4】 前記電極が導電性材料を多層構造に積層されたことを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体発光素子。
【請求項5】 前記電極及び/又は導電性材料が、窒化物半導体の発光波長を反射できることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の窒化物半導体発光素子。」
(以下、請求項1ないし5のそれぞれに係る発明を、「本件発明1」ないし「本件発明5」といい、これらを総称して「本件発明」という。)

2 本件発明1を分説すると、次のとおりである。
1-A 導電性基板上に、
1-B 電極を介して光の取り出し側とする窒化物半導体が接着してなり、
1-C 該窒化物半導体の最下層はp型層であり、
1-D 最上層がn型層であって、
1-E 該n型層には部分電極が設けられている
1-F ことを特徴とする窒化物半導体発光素子。

第4 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由1
本件発明1ないし5は、甲第1号証(特開平5-251739号公報)に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

2 無効理由2
本件発明1ないし5は、甲第2号証(特開平2-288371号公報)に記載された発明及び甲第1号証(特開平5-251739号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

3 甲号証
請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。

(1)甲第1号証 特開平5-251739号公報
(2)甲第2号証 特開平2-288371号公報
(以上、審判請求書に添付して提出。)

第5 被請求人の主張の概要
1 無効理由1に対して
甲第1号証には本件発明1ないし5と同一の発明は記載されていない。

2 無効理由2に対して
甲第2号証には、本件特許発明とは技術思想が異なる発明が開示されているのであって、構成要件1B以外の要件が開示されているものではなく、さらに構成要件1Bも甲第1号証に開示されていないので、甲第2号証に甲第1号証を組み合わせることはできない。

第6 無効理由についての当審の判断
1 無効理由1について
(1)甲号証の記載
原出願の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(特開平5-251739号公報)には、以下の記載がある(下線は、審決で付した。以下同じ。)。

ア 「【0044】次に本発明の実施例1を図面を参照して説明する。図4は本発明の実施例1に係る半導体発光素子である発光ダイオードの概略構造を示す断面図である。図4に示すように基本的構造は一方の電極を有する化合物半導体結晶14と、この結晶の他方の面上にオーミック電極13、更にそのオーミック電極13の上の共晶合金12及び発光層2の両側に電流拡散層3、厚膜層10を有する光半導体ウェーバ15の厚膜層10側にオーミック電極11と電流拡散層側3にオーミック電極5が存在し、前記化合物半導体結晶14と光半導体結晶15とが前記共晶合金によって機械的にも電気的にも結合されている。」

イ 「【0045】次に上記半導体発光素子の製造方法について具体的に説明する。
【0046】各半導体層は有機金属気相成長法(MOVPE法)により成長させた。
【0047】原料にはトリメチルインジウム(TMI)、トリメチルガリウム(TMG)、トリメチルアルミニウム(TMA)をIII 族元素のソースとして、アルシン(AsH_(3 ))とフォスフィン(PH_(3) )をV族元素のソースとして用いた。
【0048】またP型ドーパントとしてZn、n型ドーパントとしてSiを用いたが、これらはそれぞれジメチル亜鉛(DMZ)、シラン(SiH_(4 ))をソースとしてドープした。
【0049】これらの反応性ガスを水素をキャリアガスとして石英製反応管に輸送して、SiCコーティングしたグラファイトサセプタ上に設置したp-GaAs光半導体結晶基板にエピタキシャル結晶成長をさせた。
【0050】反応管内部の圧力は30?100Torrであり、基板は800℃程度に加熱される。
【0051】p-GaAs基板にはZnをドープした、キャリア濃度が1×10^(19)cm^(-3)程度のものを用いた。基板の面方位は(100)である。初めにp-GaAs基板の上にp-GaAs(Znドープ、3×10^(18)cm^(-3))バッファ層を0.5μm程度成長させる。この上に順次p-In_(0.5) Ga_(0.2 )Al_(0.3 )P保護膜層(Znドープ、5×10^(17)cm^(-3))を0.15μm、p-GaAsコンタクト層(Znドープ、3×10^(18)cm^(-3))を0.1μm,p-Ga_(0.2) Al_(0.8) As電流拡散層(Znドープ 4×10^(18)cm^(-3))3を7μm程度、p-In_(0.5) Al_(0.5) P)、クラッド層(Znドープ、5×10^(17)cm^(-3))22を1μm程度、アンドープIn_(0.5 )Ga_(0.21)Al_(0.29)P活性層20を0.6μm程度、n-In_(0.5 )Al_(0.5 )Pクラッド層(Siドープ、5×10^(17)cm^(-3))を1μm程、n-Ga_(0.2) Al_(0.8 )As厚膜層(Siドープ、4×10^(18)cm^(-3))を7μ程度、n-GaAsコンタクト層(Siドープ 4×10^(18)cm^(-3))を0.1μm成長させ、最後にn-In_(0.5 )Ga_(0.2 )Al_(0.3) P保護膜層(Siドープ、4×10^(18)cm^(-3))を0.15μm成長させる。
【0052】次にこのようにして得られたInGaAlP緑色LED用光半導体結晶15のn-In_(0.5 )Ga_(0.2 )Al_(0.3) P保護膜層(オーミック電極形成を容易にするためのn-GaAsコンタクト層の面を清浄に保つために設けている)をリン酸で70℃30秒エッチングして除去し(リン酸はGaAsをエッチングしないので制御良くInGaAlP保護膜層のみエッチ・オフできる)、真空蒸着法によりn-GaAsコンタクト層にAuGe合金層(Ge濃度0.5wt%)11を0.5μm蒸着した後に480℃10分間Ar雰囲気中でシンタリングしてオーミックコンタクトを形成する。
【0053】ついでこれを写真触刻法により所定の形状(例えば直径70μm,ピッチが180μmの電極パターン)にエッチングして電極11を形成する。また、電極11以外の露出しているn-GaAsコンタクト層をアンモニア水と過酸化水素水からなるエッチング液で除去する。
【0054】一方、厚さ250μm程度のn-GaP結晶(Sドープ 3×10^(17)cm^(-3))の両面にAuGe合金層(Ge濃度0.5wt%)9,13を0.5μm蒸着した後500℃20分間Ar雰囲気中でシンタリングしてオーミックコンタクトを形成する。そして一方のAuGe合金層13の上に真空蒸着法によりAuGe共晶合金12(Ge濃度12wt%)を1μm程度蒸着する。ついで両面のAuGe合金を写真触刻法により前記電極11と同じパターンに成形する。
【0055】このようにして電極形成された光半導体結晶15のn側電極11とGaP半導体結晶14の共晶合金12を密着させた後、水素雰囲気中で400℃5分熱処理をする。この処理によりAuGe共晶合金12が溶け(共晶温度356℃)電極11と融着する。
【0056】次にこのAuGe合金の融着により接着一体化したウェーハをアンモニア水と過酸化水素水のエッチング液によりp-GaAs半導体結晶基板のみを除去する。更にリン酸で70℃30秒エッチングしてp-In_(0.5) Ga_(0.2 )Al_(0.3 )P保護膜層を除去し、真空蒸着法によりp-GaAsコンタクト層にAuBe合金層を0.3μm蒸着した後、480℃10分間Ar雰囲気中でシンタリングしてオーミックコンタクトを形成する。更にワイヤポンディングが容易にならしめるためにAuBe合金層の上にAuを1μm程度蒸着した後、所定の形状にエッチングしてP側電極5を形成する。
【0057】また電極5以外の露出しているp-GaAsコンタクト層はアンモニア水と過酸化水素水からなるエッチング液で除去する。しかる後に所定のピッチでダイシングして個々のペレットに分離する。
【0058】このようにしてGaAs基板を除去してなる高効率InGaAlP緑色LED・半導体発光素子が完成する。このLEDではダブルヘテロ構造部の活性層で発生した光はP側電極5側、n-厚膜層10側及び側面に向うことになる。n-厚膜層10側に向かった光はn-厚膜層10と空気との界面で1部が反射され、残りは半導体結晶14に向う。半導体結晶14に入射した光も半導体結晶が透明であるので有効に外に放射される。この効果は電極11,13、及び9の面積が小さい程有効となる(電極は光を吸収するので)。これにより輝度が著しく向上し、2cd程度の緑色LEDが実現する。」
ここで、図4は次のものである。


ウ 「【0059】なお、上記実施例において、InGaAlP保護膜層、GaAsコンタクト層を形成してあるが、これらの層は本発明においては本質的な事項ではなく、これらの層がなくても特性上問題ない。また半導体結晶としてn-GaPを採用しているが、p-GaPを使用しても良い。この場合は図4に示されている導電型はすべて逆になる。またn型電極としてはAuGeの他にAuSi、AuSn等としても良く、P型電極としてはAuBeの他にAuZnがある。共晶合金としてはAuGe以外にAuSiがある。またAu系以外の金属や合金のうち適切なものを使用しても本発明の効果を阻害するものではない。更にGaAlAs厚膜層についても同様でなくても良い。」

エ 「【0061】つぎに図5を参照して本発明の実施例2を説明する。
【0062】これは金属反射層18を設けるという点が先に説明した図4の実施例1とは基本的に異なるが、効果は同様である。光半導体発光素子15の光半導体結晶であるnー厚膜層10側に本発明の実施例1で記載した通りの方法で所定の形状をもった電極11を形成した後、真空蒸着法にてAgを1μm程度蒸着し、このAgを光の反射そうとして利用する。一方、半導体結晶14には実施例1での説明したのと同様に、オーミック電極14と16とを共晶合金12で接合構造を形成するが、この場合は発光層2から放射された光が金属反射層18で反射するので特定の形状にする必要はなく、写真触刻法にてパターニングしない。
【0063】それ以外の工程は本発明の実施例1と同様である。
【0064】本発明の実施例2の特徴は従来例2で説明した半導体反射層と同じ効果を金属反射層18により出現させるという点で、半導体反射層よりも製造バラツキを少なくさせることが出来ることが優れている。
【0065】金属反射層18の材料としては前記のAgの他にAu Al Ni等の他に金属を用いても良いがAgは反射率の点で優れており、Auは化学的安定性で優れている。
・・・
【0068】そこで図5に示す発明実施例2によって構成された半導体発光デバイスは、一方を光半導体結晶基板14例えばn-GaPと、もう一方をnー厚膜層10例えばn-GaP結晶若しくは、光半導体エピタキシャル結晶成長層・p-GaPエピタキシャル層の上にnーIn_(0.5 )(Ga_(1-x )Al_(x) )_(0.5) P・グラッド層21,pーIn_(0.5) (Ga_(1-x) Al_(x) )_(0.5) P・グラッド層22を成長させ、活性層20とにより発光層を形成する。更にpー電流拡散層を構築した、光半導体発光素子(LEDウェーハー)15とで、半導体発光デバイスを構成するわけであるが、nー厚膜層10に、所定の形に形状化したオーミック電極11(水玉電極)を形成し、該オーミック電極面上全面に金属若しくは合金から成る金属反射層18を形成、更に、この金属反射層18と光半導体結晶基板14上に形成したオーミック電極・全面電極17とを合金熱溶融により共晶合金化したオーミック電極上構築物が形成される。そこでnー厚膜層10例えば光半導体エピタキシャル結晶成長層上に形成された前記オーミック電極の形状は、前記共晶合金化したオーミック電極上構築物が特定の形状を有する必要がなく、且つ前記オーミック電極形成面上全面に施された金属若しくは合金から成る反射層がAu,Al,Ag又は、反射率の高い金属並びに合金であることを特徴とする半導体発光デバイスである。」
ここで、図5は、次のものである。


オ 「【0069】第三の発明は少なくとも一つ以上の発光層を構成する半導体エピタキシャル結晶成長層を有する半導体発光素子同志若しくは少なくとも一つ以上の発光層を構成する半導体エピタキシャル結晶成長層発光層を有する半導体発光素子と光半導体結晶基板をベースとした半導体発光素子との接合を金属によって共晶合金接合によって成る半導体発デバイスの各発光層により中間色を発光するものである。そこで、次に図6を参照して発明実施例3ついて説明する。
【0070】これは図4の光半導体結晶14のかわりに、GaAsP赤色LED(ピーク波長650nm程度)ウェーハ・半導体発光素子23を接合するという点が先に説明した図4の実施例とは基本的に異なっている。
【0071】このGaAsP赤色LED(ピーク波長650nm程度)ウェーハ・半導体発光素子23は例えば図6で示すように、このGaAsP赤色LEDウェーハ・半導体発光素子23を構成するベースとなるn-GaP光半導体結晶基板24上に図6-25n-GaAsPエピ層と図6-26のp-GaAsPエピ層を積層成長させ、図6-25n-GaAsPエピ層と図6-26のp-GaAsPエピ層とで発光層を形成する。
【0072】このGaAsP赤色LEDウェハー・半導体発光素子23は図4で先に説明した方法によりGaP緑色LED(ピーク波長565nm程度)ウェハー・半導体発光素子27と接合される。」
ここで、図6は、次のものである。


カ 「【0074】次に図7を参照して本発明実施例4について説明する。
【0075】これは図4の半導体結晶14のかわりに、n-GaAsPエピ層光半導体エピタキシャル結晶成長層34をGaAs半導体結晶上に成長させた後エッチングによりGaAs半導体結晶を除去し、n-GaAsPエピ層光半導体エピタキシャル結晶成長層34上にn-GaAsPエピ層光半導体エピタキシャル結晶成長層25とp-GaAsPエピ層光半導体エピタキシャル結晶成長層26とを積層させ発光層を形成させる。これによりGaAsP赤色LEDウエーハー36を形成する点が、先に説明した図4の本発明実施例1とは、基本的に異なっており、もう1方のn-GaPエピ層・光半導体エピタキシャル結晶成長層33をベースとしてなるGaP緑色LEDウエーハー(ピーク波長565nm程度)35は、図6の本発明実施例3でのn-GaP結晶基板28から構成された(GaP)緑色LEDウエーハー27とは基本的にn-GaP結晶基板28とn-GaPエピ層光半導体エピタキシャル結晶成長層33並びにn-GaP結晶基板24とn-GaAsPエピ層光半導体エピタキシャル結晶成長層34との対比点で異なっている。
【0076】そこで、図7の本発明実施例4でのGaAsP赤色LED(ピーク波長650nm程度)ウェーハ36はn-GaPエピタキシャル結晶成長層34からなり、図6の実施例3でのn-GaP結晶基板24から構成されたGaAsP赤色LED(ピーク波長650nm程度)ウェーハ23とは基本的に特性も異なっくる。
【0077】図7の本発明実施例4での半導体発光素子・GaAsP赤色LED(ピーク波長650nm程度)ウェーハ36は、n-GaAsPエピタキシャル結晶成長層34上に成長・積層構成された図7-25のn-GaAsPエピタキシャル結晶成長層と図7-26のp-GaAsPエピタキシャル結晶成長層とで発光層を形成する。
【0078】又このGaAsP赤色LEDウェハー36である半導体発光素子ともう1方の半導体発光素子・(GaP)緑色LED(ピーク波長565nm程度)ウェーハ35はn-GaP光半導体エピタキシャル結晶成長層33上に積層で構成された図7のn-GaPエピタキシャル結晶成長層29と図7のp-GaAsPエピタキシャル結晶成長層30とで発光層を形成する。
【0079】この様にして構成したGaAsP赤色LEDウェハー36(ピーク波長650nm程度)である半導体発光素子とGaP緑色LEDウエ-ハー(ピーク波長565nm程度)35である半導体発光素子とを金属間結合による共晶合金接合で半導体発光素子同志の結合を行なつた半導体発光デバイスを製造した。
【0080】該半導体発光デバイス製造方法は第7の発明である前記半導体発光素子の光半導体エピタキシャル結晶成長層33上に形成したオーミック電極ともう一方の前記半導体発光素子の光半導体エピタキシャル結晶成長層・p-GaAsPエピタキシャル層26上にオーミック電極を形成し、更に各オーミック電極上に共晶合金化構築物を形成するため、該共晶合金化構築物と同形に形状化させたp-GaAsPエピタキシャル層26とnーGaPエピタキシャル層33のオーミック電極とを熱処理によって融着させることになる。
【0081】これによって該オーミック電極同志を金属間結合により共晶合金接合させ成る半導体発光デバイス製造方法である。図4,図6,図7の11,12,13の共晶合金化構築物の形成方法がこれである。
【0082】図7で先に説明した方法によりGaP緑色LED(ピーク波長565nm程度)ウェハーである光半導体発光素子(LEDウェーハー)35は、図7の光半導体エピタキシャル結晶成長層・p-GaPエピタキシャル層33上にn-GaPエピタキチャル結晶成長層29,p-GaPエピタキチャル結晶成長層30で挟んだいわゆる薄い光導波路であるN/GaP発光層を形成する。
【0083】このようにして得られた半導体発光デバイス・チップは赤と緑の中間色のLEDとなる。そして接合面から第3の電極を取り出すことにより1個のチップで赤から緑色までの光を任意に取り出すことができるという特徴を持つ。又 青色LEDではGaN,SiCエピタキチャル結晶成長層を使用する。」
ここで、図7は、次のものである。


(2)甲第1号証に記載された発明
ア 前記(1)アによれば、甲第1号証には、実施例1として「一方の電極を有する化合物半導体結晶14と、この結晶の他方の面上にオーミック電極13、更にそのオーミック電極13の上の共晶合金12及び発光層2の両側に電流拡散層3、厚膜層10を有する光半導体ウェーハ15の厚膜層10側にオーミック電極11と電流拡散層側3にオーミック電極5が存在し、前記化合物半導体結晶14と光半導体結晶15とが前記共晶合金によって機械的にも電気的にも結合されている、半導体発光素子である発光ダイオード。」が記載されているものと認められる。
そして、同イによれば、上記発光ダイオードにおける、「一方の電極」、「化合物半導体結晶14」、「オーミック電極13」、「共晶合金12」、「発光層2」、「電流拡散層3」、「厚膜層10」、「『光半導体ウェーバ15』ないし『光半導体結晶15』」、「オーミック電極11」及び「オーミック電極5」は、具体的にはそれぞれ、「n側電極9」、「n-GaP半導体結晶14」、「オーミック電極13」、「共晶合金12」、「p-In_(0.5) Al_(0.5) Pクラッド層22、アンドープIn_(0.5 )Ga_(0.21)Al_(0.29)P活性層20及びn-In_(0.5 )Al_(0.5 )Pクラッド層21からなる発光層2」、「p-Ga_(0.2) Al_(0.8) As電流拡散層3」、「n-Ga_(0.2) Al_(0.8 )As厚膜層10」、「InGaAlP緑色LED用光半導体結晶15」、「オーミック電極11」及び「所定の形状にエッチングして形成したP側電極5」であるものと認められる。
更に同ウによれば、半導体結晶14としてp-GaPを使用してもよいこと、この場合は、導電型はすべて逆になることが理解できる。

イ 前記(1)エによれば、甲第1号証には、金属反射層18を設けるという点が実施例1と異なる実施例2が記載されており、同実施例においては、光半導体ウェーハ15の厚膜層10側に形成したオーミック電極11(水玉電極)の面上全面に金属反射層18が形成され、更に、この金属反射層18と光半導体結晶基板14上に形成した全面電極であるオーミック電極17とが共晶合金12によって結合されているものと認められる。

ウ 以上によれば、甲第1号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「p側電極を有するp-GaP半導体結晶と、この結晶の他方の面上にオーミック電極、更にそのオーミック電極の上の共晶合金、並びに、n-In_(0.5) Al_(0.5) Pクラッド層、アンドープIn_(0.5 )Ga_(0.21)Al_(0.29)P活性層及びp-In_(0.5 )Al_(0.5 )Pクラッド層からなる発光層の両側にn-Ga_(0.2) Al_(0.8) As電流拡散層、p-Ga_(0.2) Al_(0.8 )As厚膜層を有するInGaAlP緑色LED用光半導体結晶の厚膜層側にオーミック電極と金属反射層がこの順に存在するとともに、電流拡散層側に所定の形状にエッチングして形成したn側電極が存在し、前記p-GaP半導体結晶のオーミック電極とInGaAlP緑色LED用光半導体結晶の厚膜層側に存在する金属反射層とが前記共晶合金によって機械的にも電気的にも結合されている、半導体発光素子である発光ダイオード。」(以下「甲1発明」という。)

エ(ア)請求人は、審判請求書(10頁?14頁)において以下のように主張し、甲第1号証には本件特許発明の構成要件の全てが開示されており、本件特許発明と甲第1号証との間に相違点はない旨主張する。

a 構成要件1-Aについて
構成要件1-Aは、「導電性基板上に、」である。
甲第1号証の図5には、「半導体結晶14」が開示されており、「半導体結晶14」は、「光半導体結晶基板14例えばn-GaP」とも記載されているから(段落【0068】2?3行)、導電性を有する基板であることは明らかである。
従って、甲第1号証には構成要件1-Aが開示されている。

b 構成要件1-Bについて
構成要件1-Bは、「電極を介して光の取り出し側とする窒化物半導体が接着してなり、」である。
甲第1号証の図5には、「オーミック電極11(水玉電極)」、「金属反射層18」、「共晶合金12」及び「全面電極17」を介して「光半導体結晶15」が「半導体結晶14」上に接着している。「光半導体結晶15」の下層に「金属反射層18」が設けられていることから明らかなとおり、「光半導体結晶15」は「オーミック電極11(水玉電極)」、「金属反射層18」、「共晶合金12」及び「全面電極17」を介して光の取り出し側に設けられている。また、甲第1号証には、「又 青色LEDではGaN、SiCエピタキチャル結晶成長層を使用する」と記載されているとおり(【0083】)、「光半導体結晶15」はGaN、即ち、窒化物半導体であってもよい旨が記載されている。
従って、甲第1号証には構成要件1-Bが開示されている。

c 構成要件1-Cについて
構成要件1-Cは、「該窒化物半導体の最下層はp型層であり、」である。
甲第1号証の図5において、「光半導体結晶15」の最下層は「n-厚膜層10」、即ち、n型層である。しかしながら、図5において「半導体結晶14」として「n-GaP」に代えて「p-GaPを使用」する場合、「導電型はすべて逆になる」(段落【0059】4?7行)、即ち、p型層及びn型層がすべて逆になるのであるから、甲第1号証には、図5において「光半導体結晶15」の最下層である「n-厚膜層10」をp型層とすることも開示されているのである。
従って、甲第1号証には構成要件1-Cが開示されている。

d 構成要件1-Dについて
構成要件1-Dは、「最上層がn型層であって、」である。
甲第1号証の図5において、「光半導体結晶15」の最上層は「p-電流拡散層3」、即ち、p型層である。しかしながら、上記cと同様に、「半導体結晶14」として「n-GaP」に代えて「p-GaP」を使用すれば、p型層及びn型層が逆になるのだから、甲第1号証には、図5において「p-電流拡散層3」をn型層とすることも開示されている。
従って、甲第1号証には構成要件1-Dが開示されている。

e 構成要件1-Eについて
構成要件1-Eは、「該n型層には部分電極が設けられている」である。
甲第1号証の図5において、「光半導体結晶15」の最上層である「p-電流拡散層3」には、部分的に「p側電極5」が設けられている。しかしながら、上記dで述べたとおり、甲第1号証には、図5において該電極が設けられる「p-電流拡散層3」をn型層とすることも開示されている。
従って、甲第1号証には構成要件1-Eが開示されている。

f 構成要件1-Fについて
構成要件1-Fは、「ことを特徴とする窒化物半導体発光素子」である。
甲第1号証には、「光半導体結晶15」はGaN、即ち、窒化物半導体であってもよい旨が記載されている(【0083】)。
従って、甲第1号証には構成要件1-Fが開示されている。

(イ)また、請求人は、口頭審理陳述要領書(6頁?10頁)において、以下のように主張するとともに、仮に、甲第1号証には、甲1の図5の実施例にGaNを適用することが記載されていないとしても、本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであることは明らかであると主張する。

a 構成要件1-Bについて
甲第1号証の図5の実施例において、「光半導体発光素子15」は「LEDウェハー」とも称されているところ(甲第1号証【0068】9?10行)、甲第1号証の段落【0083】において、「又 青色LEDではGaN、SiCエピタキチャル結晶成長層を使用する」との記載が示すとおり、『光半導体発光素子たる青色「LED」では、「GaN」を使用すること』が開示されている。
そうだとすれば、甲第1号証の図5において、『「光半導体発光素子15」を、GaNから構成すること』は、甲第1号証に記載されている、と解される。

b 構成要件1-C及び1-Dについて
サファイア基板に成長させたn-Gan層、p-Gan及び「18 金属反射層」を甲第1号証の実施例4にしたがって、「12 共晶合金」及び「17 全面電極」を解して「14 半導体結晶」と接合させ、その後、サファイア基板を除去する。そうすると、「最下層はp型層」(構成要件1-C)であり、「最上層がn型層」であるGan系半導体発光素子が形成される。
上記技術は、実施例(図1)に関する甲第1号証の【0056】、【0059】で開示されており、『同技術が、実施例2(図5)に適用されること」は、甲第1号証の【0063】で開示されている。

オ 上記エの請求人の主張について検討する。

(ア)請求人が上記エ(ア)c及び(イ)aにおいて指摘する、甲第1号証の【0083】(前記(1)ア(カ)を参照。)に記載された「GaN,SiCエピタキチャル結晶成長層」を使用する「青色LED」について検討するに、「エピタキチャル結晶成長層」との表現に照らすならば、図5の実施例においてp-GaAs光半導体結晶基板にエピタキシャル結晶成長をさせて得られた、InGaAlP緑色LED用光半導体結晶15(前記(1)ア(イ)、【0049】?【0052】を参照。)、すなわち、甲1発明における「InGaAlP緑色LED用光半導体結晶」や、GaP緑色LEDウェハー・半導体発光素子27(前記(1)ア(オ)、【0072】を参照。)と同様に用いることを意図したものとひとまず推測できる。

(イ)しかし、「GaN,SiCエピタキチャル結晶成長層」を使用する「青色LED」をどのように用いて、化合物半導体結晶14(前記(1)ア(ア)を参照。)と結合するのかなどについての具体的な説明は甲第1号証には認められない。
請求人が上記エ(イ)bにおいて指摘する、甲第1号証の【0056】、【0059】において説明されるのは、GaAs半導体結晶基板にInGaAlP緑色LED用光半導体結晶15を成長させ、半導体結晶としてGapを用いるものであり(前記(1)イを参照。)、かかる甲第1号証の記載に基づいて、「GaN,SiCエピタキチャル結晶成長層」を使用する「青色LED」を用いる場合に、甲1発明の各層がどのようなものとされ、p、nの導電型がどのようなものとされるのか当業者が理解し得るものとは認められない。
したがって、甲第1号証に、光半導体結晶14と接合される半導体発光素子15が、GaN半導体発光素子である構成が開示されているということもできない。

(ウ)以上によれば、甲第1号証に本件発明1の構成1-Bないし1-Dが開示されているとの請求人の主張は、採用できない。

(3)本件発明1と甲1発明との対比、判断
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明における「p-GaP半導体結晶」は、本件発明1の「導電性基板」に相当する。

(イ)甲1発明は、「InGaAlP緑色LED用光半導体結晶」が「発光層の両側」に「n-Ga_(0.2) Al_(0.8) As電流拡散層」、「p-Ga_(0.2) Al_(0.8 )As厚膜層」を有し、「厚膜層側」に「金属反射層」が存在するものであるから、「電流拡散層」側が「光の取り出し側」になるものと認められる。
そして、甲1発明は、「p-GaP半導体結晶のオーミック電極とInGaAlP緑色LED用光半導体結晶の厚膜層側に存在する金属反射層とが前記共晶合金によって機械的にも電気的にも結合されている」ものであるから、甲1発明は「導電性基板上に、電極を介して光の取り出し側とする半導体が接着してな」るものといえ、この点において、本件発明1と甲1発明とは、共通するものといえる。

(ウ)甲1発明の「p-Ga_(0.2) Al_(0.8 )As厚膜層」、「n-Ga_(0.2) Al_(0.8) As電流拡散層」及び「所定の形状にエッチングして形成したn側電極」は、それぞれ、本件発明1の「(最下層である)p型層」、「(最上層である)n型層」及び「(n型層に設けられた)部分電極」に相当する。

(エ)甲1発明の「半導体発光素子である発光ダイオード」は、「半導体発光素子」である点において、本件発明1と共通するものといえる。

(オ)以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「導電性基板上に、電極を介して光の取り出し側とする半導体が接着してなり、該半導体の最下層はp型層であり、最上層がn型層であって、該n型層には部分電極が設けられている半導体発光素子。」
である点において一致し、
「半導体が、本件発明1では、『窒化物半導体』であるのに対して、甲1発明では、『InGaAlP緑色LED用光半導体結晶』である点」(以下「相違点」という。)
で相違するものと認められる。

イ 判断
(ア)相違点について検討するに、相違点は実質的な相違と認められるから、本件発明1が甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(イ)また、甲1発明において、「InGaAlP緑色LED用光半導体結晶」を「窒化物半導体」に置換することについて、当業者が容易に想到し得たと認めるに足る根拠は、本件各証拠を通じてみても、見いだすことができないから、本件発明1が、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。

(4)本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1の特定事項をすべて含み、更に特定事項を付加したものであるところ、上記(3)で検討したとおり、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできないから、本件発明2ないし5が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできないことは明らかである。

2 無効理由2について
(1)甲号証の記載
ア 甲第2号証
原出願の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証(特開平2-288371号公報)には、以下の記載がある。

(ア)「第9図は、超格子構造の反射層とコンタクト層を持ち、かつ発光層を構成するpn接合部分に混晶層を用いた実施例のLEDを示す断面図である。この実施例ではp型GaP基板91を用い、この上に先の実施例と同様にGaAlN/BP超格子層からなる反射層92が形成され、この反射層上にp型GaAlBNP混晶層93,n型GaAlBNP混晶層94が順次形成され、更にGaNコンタクト層95が形成されている。素子両面にオーミック電極96,97が形成されている。p型混晶層93は、例えば、Mgドープ,キャリア濃度1×10^(17)/cm^(3),厚さ3μmのGa_(0.25)Al_(0.3)B_(0.4)N_(0.6)P_(0.4)であり、n型混晶層94は、Siドープ,キャリア濃度2×10^(16)/cm^(3),厚さ3μmのGa_(0.25)Al_(0.25)B_(0.5)N_(0.5)P_(0.5)である。
この実施例によっても、GaP基板を用いているが超格子構造反射層92が良好なバッファ層として働く結果、良好なpn接合が得られ、また高い光取出し効率が得られて、高輝度青色発光が認められる。」(7頁右上欄1行?左下欄1行)

(イ)「第10図は、混晶を用いた第9図の実施例を変形してDH構造とした実施例のLEDである。第9図と同様にGaP基板91上に超格子構造の反射層92が形成された後、この上にp型GaAlN/BP混晶層101,アンドープGaAlN/BP混晶層102およびn型GaAlN/BP混晶層103が順次形成されている。p型混晶層101は、バンドギャップ3eV,厚さ2μm,キャリア濃度1×10^(17)/cm^(3)のGa_(0.3)Al_(0.3)B_(0.4)N_(0.6)P_(0.4)であり、アンドープ混晶層102は、バンドギャップ2.7eV,厚さ0.5μmのGa_(0.25)Al_(0.25)B_(0.5)N_(0.5)P_(0.5)であり、n型混晶層103はバンドギャップ3eV、厚さ2μm,キャリア濃度5×10^(17)/cm^(3)のGa_(0.3)Al_(0.3)B_(0.4)N_(0.6)P_(0.4)である。
この実施例によっても、先の実施例と同様に高輝度の青色発光が得られる。」(7頁左下欄2行?下から2行)

(ウ)第10図は次のものである。


イ 甲第1号証
甲第1号証(特開平5-251739号公報)には、前記1(1)の記載のほか、以下の記載がある。

「【0013】そこで従来例図2では、光半導体結晶基板による光の吸収を防いで発光効率を上げると同時に光半導体結晶基板材料の選択の範囲を広げるために、発光層と光半導体結晶基板の間に化合物半導体材料からなる光反射層を形成し、発光層から出た光は下方の光半導体結晶基板1の方向に向かっても光反射層によって反射されて光半導体結晶基板による光の吸収が防がれる。
【0014】しかし、前記光反射層はそれ自体の光吸収及び反射率が50?60%と低いため十分な効果が得られない。」、
「【0018】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決し目的を達成するため、第一の発明の半導体発光デバイスは光半導体結晶基板上に少なくとも一つ以上の発光層で構成された半導体発光素子同志若しくは光半導体結晶基板上に少なくとも一つ以上の発光層で構成された半導体発光素子と光半導体結晶基板とを金属によって接合して成ることを特徴とする。」

(2)甲第2号証に記載された発明
ア 前記(1)ア(ア)ないし(イ)によれば、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「GaP基板91上にGaAlN/BP超格子層からなる超格子構造の反射層92が形成された後、この上にp型GaAlN/BP混晶層101,アンドープGaAlN/BP混晶層102及びn型GaAlN/BP混晶層103が順次形成され、更にGaNコンタクト層95が形成され、素子両面にオーミック電極96,97が形成されたLED。」

イ 第10図を見ると、GaNコンタクト層95は、n型であり、この上面の略中央部にオーミック電極96が形成されていること、GaP基板91の下面にオーミック電極97が形成されていることが理解できる。

ウ 以上によれば、甲第2号証には、次の発明が記載されているものと認められる。
「GaP基板91上にGaAlN/BP超格子層からなる超格子構造の反射層92が形成された後、この上にp型GaAlN/BP混晶層101,アンドープGaAlN/BP混晶層102及びn型GaAlN/BP混晶層103が順次形成され、更にn型GaNコンタクト層95が形成され、この上面の略中央部にオーミック電極96が形成されるとともに、GaP基板91の下面にオーミック電極97が形成されたLED。」(以下「甲2発明」という。)

(3)本件発明1と甲2発明との対比、判断
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。

(ア)甲2発明における「GaP基板91」は、本件発明1の「導電性基板」に相当する。

(イ)甲2発明において、「n型GaNコンタクト層95」が光の取り出し側になることは当業者において明らかである。
そして、甲2発明における「p型GaAlN/BP混晶層101,アンドープGaAlN/BP混晶層102及びn型GaAlN/BP混晶層103」並びに「n型GaNコンタクト層95」は、GaP基板91上に形成したものであるから、導電性基板上に形成した半導体といえる。
他方、本件発明1も「導電性基板上に半導体を形成した」ものといえるから、この点において、甲2発明と一致する。

(ウ)甲2発明の「p型GaAlN/BP混晶層101」及び「n型GaNコンタクト層95」は、それぞれ、本件発明1の「(最下層である)p型層」及び「(最上層である)n型層」に相当する。
また、甲2発明の「(n型GaNコンタクト層95の上面の略中央部に形成された)オーミック電極96」は、本件発明1の「(n型層に設けられた)部分電極」に相当する。

(エ)甲2発明の「LED」は、本件発明1の「半導体発光素子」に相当する。

(オ)以上によれば、本件発明1と甲2発明とは、
「導電性基板上に光の取り出し側とする半導体が形成されてなり、該半導体の最下層はp型層であり、最上層がn型層であって、該n型層には部分電極が設けられている半導体発光素子。」
である点において一致し、以下のa及びbの点で相違するものと認められる。

a 本件発明1は、導電性基板上に、電極を介して窒化物半導体が接着してなるものであるのに対して、甲2発明は、GaP基板91上にGaAlN/BP超格子層からなる超格子構造の反射層92が形成された後、この上にp型GaAlN/BP混晶層101,アンドープGaAlN/BP混晶層102及びn型GaAlN/BP混晶層103が順次形成され、更にn型GaNコンタクト層95が形成されたものである点(以下「相違点1」という。)。

b 本件発明1は、半導体が窒化物半導体である窒化物半導体発光素子であるのに対して、甲2発明は、窒化物半導体発光素子といえるかどうか明らかでない点(以下「相違点2」という。)。

イ 判断
相違点1について検討する。

(ア)請求人は、以下のように主張する(審判請求書16頁)。
「甲第1号証に記載された発明は、「発光層と光半導体結晶基板の間に化合物半導体材料からなる光反射層を形成」した従来技術が有していた、「光反射層はそれ自体の光吸収及び反射率が50?60%と低いため十分な効果が得られな」かったという課題(【0013】及び【0014】)を、「半導体発光素子と光半導体結晶基板とを金属によって接合」することによって解決したものである(【0018】)。
他方、甲第2号証の第10図に開示された「GaAlN/BP超格子層からなる反射層92」は、まさしく甲第1号証の従来技術における「光反射層」に相当するものであるから、かかる「GaAlN/BP超格子層からなる反射層92」に代えて、甲第1号証の図5に開示されている「オーミック電極11(水玉電極)」、「金属反射層18」、「共晶合金12」及び「全面電極17」(即ち、電極)を用いることは、当業者であれば誰しもが容易に成し得たことである。」

(イ)請求人の上記主張について検討する。
前記(1)イによれば、甲第1号証には、化合物半導体材料からなる光反射層はそれ自体の光吸収及び反射率が50?60%と低いこと、光半導体結晶基板上に少なくとも一つ以上の発光層で構成された半導体発光素子と光半導体結晶基板とを金属によって接合することが記載されているものと認められる。
そして、前記1(1)ア、イ及びエ(特に図4及び図5を参照。)によれば、上記金属とは、具体的には、例えば、n-水玉電極11、共晶合金12及びp-水玉電極13(図4の実施例)、あるいは、水玉電極11、金属反射層18、共晶合金12及び全面電極17(図5の実施例)であるものと認められる。
しかし、前記(1)ア(ア)によれば、甲2発明における「超格子構造の反射層92」は良好なバッファ層として働き、良好なpn接合が得られるようにするものと認められるところ、甲2発明において、「超格子構造の反射層92」を金属に代えることを想定するに、かかる金属が良好なバッファ層として働くものとは認められないから、そのようにすることを当業者が容易に想到するとはいえない。

(ウ)なお、甲2発明において、「超格子構造の反射層92」を金属に代えることについて、当業者が容易に想到し得たと認めるに足る根拠は、本件各証拠を通じてみても、見いだすことができない。

ウ 小括
以上によれば、甲2発明において相違点1に係る本件発明1の構成とすることは、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得たとはいえないから、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

(4)本件発明2ないし5について
本件発明2ないし5は、本件発明1の特定事項をすべて含み、更に特定事項を付加したものであるところ、上記(3)で検討したとおり、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、本件発明2ないし5が、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできないことは明らかである。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1ないし5が、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということもできない。
また、本件発明1ないし5が、甲第2号証に記載された発明及び甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
したがって、本件発明についての特許は、特許法第29条第1項第3号又は第29条第2項の規定に違反してなされたものということはできず、同法第123条第1項第2号に該当しないから、請求人が主張する理由によって、本件発明についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2012-07-31 
出願番号 特願2000-67673(P2000-67673)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (H01L)
P 1 113・ 113- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 幸浩吉野 三寛道祖土 新吾小原 博生  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 松川 直樹
吉野 公夫
登録日 2004-01-16 
登録番号 特許第3511970号(P3511970)
発明の名称 窒化物半導体発光素子  
代理人 吉澤 敬夫  
代理人 言上 恵一  
代理人 升永 英俊  
代理人 鮫島 睦  
代理人 佐藤 睦  
代理人 田村 啓  

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