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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F02C |
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管理番号 | 1283911 |
審判番号 | 不服2012-7880 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-04-27 |
確定日 | 2014-01-22 |
事件の表示 | 特願2010-205931「航空機のガスタービンエンジンを洗浄するためのシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 1月13日出願公開、特開2011- 7196〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯及び本願発明 本件は、2005年6月8日を国際出願日とする特願2007-515936号(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年6月14日、スウェーデン王国)の一部を、平成22年9月14日に新たに特願2010-205931号として分割した出願であって、平成23年7月25日付けで拒絶理由通知がなされ、平成23年10月25日付けで意見書が提出されたが、平成23年12月22日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年4月27日付けで拒絶査定に対する審判請求がなされると同時に、同日付けで特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出され、その後、当審において、平成24年7月26日付けで書面による審尋がなされ、平成24年10月25日付けで回答書が提出され、当審において、平成25年3月13日付けで前記平成24年4月27日付けの手続補正書による手続補正を却下する補正の却下の決定がなされ、平成25年3月29日付けで拒絶理由通知(以下、「当審拒絶理由」という。)がなされ、平成25年6月28日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものであり、その請求項1ないし17に係る発明は、平成25年6月28日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに出願当初の明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし17に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。 「【請求項1】 エンジンシャフトと吸気口カウリングを有する航空機(40)のガスタービンエンジン(1)を洗浄するためのスプレイ装置(33;90)であって、このスプレイ装置は非接触にマニホールドを位置決めする位置決め装置を含み、これは (a)中心軸(501)、 (b)中心本体(50;91)、および (c)洗浄動作中に前記ガスタービンエンジン内へこのエンジンを通る空気流の方向に液体を注入するように適合される少なくとも1つのノズル(54)を有する少なくとも1つのパイプ(61)を備え、 (d)前記スプレイ装置は、前記スプレイ装置と前記吸気口カウリングとの接触なしに前記ガスタービンエンジンの吸気口(301)に対する洗浄動作位置に配置されるように適合され、 (e)前記スプレイ装置が洗浄動作位置にあるときに、前記中心軸(501)が実質的に前記エンジンシャフトに整列させられて、前記中心本体(50;91)が前記エンジンシャフトの前および/または前記エンジンのノーズブレット(83)の前に配置される、スプレイ装置。」 2.引用刊行物 (1)引用文献 当審拒絶理由において引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特表平11-507583号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の事項が記載されている。 ア)「例えば、航空機のエンジンを洗浄するための従来の方法は、直径約2.5inchの孔からエンジン内への冷水噴霧である。これは、非常に多量の水(一基あたり300?400l )が噴射されること、および、以下に説明する欠点を意味している。 -エンジンのファンやコンプレッサブレードに大きな応力が負荷される。 -エンジンの起動装置に大きな応力が負荷される。 -液体が遠心力の効果により分離され、洗浄作用が弱くなる。 -航空機の周囲に多量の液体がまき散らされる。 -この方法は、一年の寒冷期には用いることができず、かつ、付着したグリースを洗い落とす水の能力は非常に限られている(なぜなら、必要な水の量が非常に大きく、かつ、特殊な洗浄液または洗浄剤は経済的ではないため)ので、水では良好な洗浄結果が得られない。 本発明の目的は、上述した欠点および他の欠点を除去すると共に、資源の使用が少なく、かつ、効果的なコンプレッサ洗浄を得る条件を提供し、健康を害し環境に有害な液体の使用を低減し、洗浄目的のために環境を害さない液体を用いながら非常に少量の液体で効果的にタービンモータを洗浄可能とすることである。 図面の簡単な説明 添付図面を参照して本発明をより詳細に説明するが、添付図面において、 図1は、ガイドベーンを含む航空機エンジンの洗浄を示し、 図2は、ガイドベーンを含まない航空機エンジンの洗浄を示し、 図3は、航空機のコックピットから遠隔制御される洗浄装置を示し、 図4は、ガスタービンエンジンを通過する粒子/液滴の移動経路または移動ルートを示している。」(第3ページ第17行ないし第4ページ第11行) イ)「発明の詳細な説明 請求項1の特徴の記載部分に明確に定義される本発明の方法は、微粒化された少量の液体を洗浄すべき物体へ、かつ、物体を通過させて噴霧することにより実施される。前記液体は、同液体が物体へ 、かつ、物体を通過させて噴霧されるとき、既に物体を通して空気により輸送された汚染物質が通過した経路と同じ経路を液体粒子が辿ることができる程度まで微粒化される。 …(中略)… この新規な方法は完全に新しい原理に基づいている。液体粒子が所定のサイズ、速度を有しており、このサイズ、速度があいまって遠心力の作用を克服するので、物体の到達可能な全ての表面が効果的、効率的に洗浄される。 本発明の物体洗浄方法は、特に「コンプレッサ洗浄」に適用されるとき、数あるなかで以下の利点をもたらす。すなわち、本発明による洗浄に関連して: -効率増大 -燃料消費低減 -タービン入口温度低減 -排気の低減 -短く、かつ、「より低い温度」での起動シーケンス -振動低減 -腐食低減 -液体量の低減、延労働時間の低減がもたらされる。 殊に、必要な液体の量が低減されることは有利である。と言うのは、例えば、タービンブレードが多量の水により、有害な機械的荷重が負荷されるからである。 実地試験によれば「コンプレッサ洗浄」に関する近時の環境規制を最もよく満足する液体が商品名R-MCで市販され、表面の汚れを浸食、除去する表面活性剤である液体であること示されている。 図1は、ガイドベーンを備えた航空機エンジンの洗浄を示している。ホース10がリングフィーダ11に接続され、該リングフィーダには、ノズル開口部がエンジン内に向けられた6つのノズル111、112、113...116が接続されている。前記ホースが地上に支持された水タンク(図示せず)に接続され、そこから水の供給が遠隔制御される。前記ノズルの各々に70bar の圧力で0.1l /sec の流量の液体が30秒間供給される。この条件の下で液体粒子のサイズ(直径)は約200μm である。」(第4ページ第12行ないし第5ページ第20行) (2)引用文献の記載から分かること 図1に記載された航空機エンジンの洗浄に係る斜視図について、航空機エンジンの全体構成に係る図2に記載された航空機エンジンの斜視図及び図4に記載されたガスタービンエンジンの断面図をあわせて参照すると、次のことが分かる。 カ)洗浄手段が、エンジンシャフトと吸気口カウリングを有する航空機のガスタービンエンジンを洗浄するための噴霧装置であることが分かる。 キ)噴霧装置におけるリングフィーダ11は、エンジンのノーズ外周に配置され且つノーズ外形と略一致した円形状であることが分かり、円形状のリングフィーダ11が(仮想の)中心軸を備えることは自明である。 ク)噴霧装置は、ノズル111,112、113...116を有するパイプを含むものであり、洗浄に係るノズル111,112、113...116及びパイプの配置態様からみて、洗浄動作中にガスタービンエンジン内へこのエンジンを通る空気流の方向に液体を注入するように適合されるノズル111,112、113...116を有するパイプであることが分かる。 ケ)噴霧装置は、パイプと吸気口カウリングとの接触なしにガスタービンエンジンの吸気口に対する洗浄動作位置に配置されるように適合されるものであることが分かる。 コ)リングフィーダ11を外周に配置するノーズは、エンジンシャフトと同軸に配置されるものであるから、洗浄位置におけるリングフィーダ11の中心軸が実質的にエンジンシャフトに整列させられることが分かる。 (3)引用文献に記載された発明 上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献には、次の発明(以下、「引用文献に記載された発明」という。)が記載されている。 「エンジンシャフトと吸気口カウリングを有する航空機のガスタービンエンジンを洗浄するための噴霧装置であって、 この噴霧装置は、 (a)中心軸、 (b)リングフィーダ11、および (c)洗浄動作中にガスタービンエンジン内へこのエンジンを通る空気流の方向に液体を注入するように適合されるノズル111,112、113...116を有するパイプを備え、 (d)噴霧装置は、パイプと吸気口カウリングとの接触なしにガスタービンエンジンの吸気口に対する洗浄動作位置に配置されるように適合され、 (e)噴霧装置が洗浄動作位置にあるときに、中心軸が実質的にエンジンシャフトに整列させられて、リングフィーダ11がエンジンのノーズ外周に配置される、噴霧装置。」 3.対比 本願発明と引用文献に記載された発明とを対比すると、引用文献に記載された発明の「エンジンシャフト」は、その形状、構造又は技術的意義からみて、本願発明の「エンジンシャフト」に相当し、以下同様に、「吸気口カウリング」は「吸気口カウリング」に、「航空機」は「航空機(40)」に、「ガスタービンエンジン」は「ガスタービンエンジン(1)」に、「噴霧装置」は「スプレイ装置」に、「中心軸」は「中心軸(501)」に、「リングフィーダ11」は「中心本体(50;91)」に、「液体」は「液体」に、「ノズル111,112、113...116」は「少なくとも1つのノズル(54)」に、「パイプ」は「少なくとも1つのパイプ(61)」に、「吸気口」は「吸気口(301)」にそれぞれ相当する。 また、引用文献に記載された発明の「(d)噴霧装置は、パイプと吸気口カウリングとの接触なしにガスタービンエンジンの吸気口に対する洗浄動作位置に配置されるように適合され」は、本願発明の「(d)前記スプレイ装置は、前記スプレイ装置と前記吸気口カウリングとの接触なしに前記ガスタービンエンジンの吸気口(301)に対する洗浄動作位置に配置されるように適合され」に、「(d)スプレイ装置は、ガスタービンエンジンの吸気口に対する洗浄動作位置に配置されるように適合され」という限りにおいて一致し、同様に、引用文献に記載された発明の「(e)噴霧装置が洗浄動作位置にあるときに、中心軸が実質的にエンジンシャフトに整列させられて、リングフィーダ11がエンジンのノーズ外周に配置される」は、本願発明の「(e)前記スプレイ装置が洗浄動作位置にあるときに、前記中心軸(501)が実質的に前記エンジンシャフトに整列させられて、前記中心本体(50;91)が前記エンジンシャフトの前および/または前記エンジンのノーズブレット(83)の前に配置される」に、「(e)スプレイ装置が洗浄動作位置にあるときに、中心軸が実質的にエンジンシャフトに整列させられる」という限りにおいて一致する。 したがって、本願発明と引用文献に記載された発明は、 「エンジンシャフトと吸気口カウリングを有する航空機のガスタービンエンジンを洗浄するためのスプレイ装置であって、 このスプレイ装置は、 (a)中心軸、 (b)中心本体、および (c)洗浄動作中にガスタービンエンジン内へこのエンジンを通る空気流の方向に液体を注入するように適合される少なくとも1つのノズルを有する少なくとも1つのパイプを備え、 (d)スプレイ装置は、ガスタービンエンジンの吸気口に対する洗浄動作位置に配置されるように適合され、 (e)スプレイ装置が洗浄動作位置にあるときに、中心軸が実質的にエンジンシャフトに整列させられる、スプレイ装置。」の点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> 本願発明においては、スプレイ装置は非接触にマニホールドを位置決めする位置決め装置を含み、(d)前記スプレイ装置は、前記スプレイ装置と前記吸気口カウリングとの接触なしに前記ガスタービンエンジンの吸気口(301)に対する洗浄動作位置に配置されるように適合され、(e)前記スプレイ装置が洗浄動作位置にあるときに、前記中心軸(501)が実質的に前記エンジンシャフトに整列させられて、前記中心本体(50;91)が前記エンジンシャフトの前および/または前記エンジンのノーズブレット(83)の前に配置されるのに対し、 引用文献に記載された発明においては、(d)噴霧装置は、パイプと吸気口カウリングとの接触なしにガスタービンエンジンの吸気口に対する洗浄動作位置に配置されるように適合され、(e)噴霧装置が洗浄動作位置にあるときに、中心軸が実質的にエンジンシャフトに整列させられて、リングフィーダ11がエンジンのノーズ外周に配置されるものの、他の構成を有しない点(以下、「相違点」という。)。 4.判断 洗浄対象物に対し、独立した別個の洗浄装置を用いて洗浄することは、洗浄に係る通常態様であるし、非接触による位置決めが自明である位置決め装置を含む噴霧装置からなる洗浄手段は、航空機の技術分野を含め、種々の技術分野で広く採用される慣用技術(以下、「慣用技術」という。例として、特開平8-198198号公報[特に、段落【0016】及び図1、2、5及び6]、特開昭61-207298号公報[特に、第1ページ右下欄第14ないし18行及び第1図]、実願平5-38871号(実開平7-6100号)のCD-ROM[特に、段落【0009】並びに図1及び3]、及び、特開平8-60631号公報[特に、【0017】及び図5]参照。)であるから、引用文献に記載された発明の洗浄に関して、上記慣用技術を適用することの困難性はないというべきである。 また、上記「3.対比」において検討したとおり、本願発明及び引用文献に記載された発明は、その洗浄態様において、「(d)スプレイ装置は、ガスタービンエンジンの吸気口に対する洗浄動作位置に配置されるように適合され」ること、及び、「(e)スプレイ装置が洗浄動作位置にあるときに、中心軸が実質的にエンジンシャフトに整列させられる」ことで技術が共通するものである。 したがって、引用文献に記載された発明に上記慣用技術を採用する際に、リングフィーダ11(本願発明の「中心本体」に相当。)の中心軸が実質的にエンジンシャフトに整列する配置関係を維持しつつ、噴霧装置における非接触な洗浄動作位置としてごく自然な位置といえるエンジンシャフトの前および/またはノーズの前の配置とすることにより、上記相違点に係る本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得ることである。 そして、本願発明を全体としてみても、その奏する効果は、引用文献に記載された発明及び慣用技術から当業者が予測できる範囲内のものである。 5.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用文献に記載された発明及び慣用技術に基き、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-08-26 |
結審通知日 | 2013-08-27 |
審決日 | 2013-09-09 |
出願番号 | 特願2010-205931(P2010-205931) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(F02C)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 稲葉 大紀 |
特許庁審判長 |
伊藤 元人 |
特許庁審判官 |
中川 隆司 藤原 直欣 |
発明の名称 | 航空機のガスタービンエンジンを洗浄するためのシステム |
代理人 | 野田 久登 |
代理人 | 堀井 豊 |
代理人 | 仲村 義平 |
代理人 | 森田 俊雄 |
代理人 | 深見 久郎 |