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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C08L
管理番号 1283914
審判番号 不服2012-8663  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-11 
確定日 2014-01-22 
事件の表示 特願2007-523081「厚肉成形製品または厚肉被覆の製造のための光活性化された硬化性のシリコン組成物の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月 2日国際公開、WO2006/010763、平成20年 3月21日国内公表、特表2008-508382〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成17年7月27日(パリ条約による優先権主張 2004年7月28日 ドイツ連邦共和国(DE))を国際出願日とする特許出願であって平成19年5月29日に手続補正書が提出され、平成23年6月1日付けで拒絶理由が通知され、同年12月7日に意見書とともに手続補正書が提出され、同年同月27日付けで拒絶査定がなされ、平成24年5月11日に拒絶査定不服審判が請求され、同年7月4日に上申書が提出されたものである。


第2.本願発明
本願の請求項1?22に係る発明は、平成23年12月7日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。

「直径が少なくとも3mmの球体を収容または包囲できる容積を有する厚肉の成形製品の製造のための、
a)3?99重量%の少なくとも1種のアルケニル基含有ポリシロキサン、
b)0.2?60重量%の少なくとも1種のSiH官能性ポリシロキサン、
c)0.1?60重量%の、BET表面積が50?400m^(2)/gの酸化物充填剤から選ばれる、少なくとも1種の充填剤、
d)金属含有量1?500ppmに相当する少なくとも1種の光活性化可能な触媒、および
e)0?30重量%の1種もしくはそれ以上の助剤、
をいずれも成分a)?c)の合計量に対して含んでなる光活性化性で硬化性のシロキサン組成物の使用。」


第3.原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、要するに、本願発明は、その優先日前に日本国内において、頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開平10-95920号公報

というものを含むものである。
以下、引用文献1を「刊行物A」という。


第4.刊行物Aの記載事項
本願の優先日前に頒布された刊行物Aには、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

A1「【請求項1】 光照射により硬化する光硬化性液状シリコーンゴム組成物であって、硬化後のショアーA硬さが20?60の範囲であり、かつ10mm厚さに硬化させたときの光の透過率が10%以上である硬化物を形成することを特徴とする光硬化性液状樹脂型取り母型用の光硬化性液状シリコーンゴム組成物。

・・・

【請求項5】 光硬化性液状シリコーンゴム組成物が、オルガノポリシロキサンを含有し、上記オルガノポリシロキサンが、(C)下記平均組成式(2)
R_(c)R^(2)_(d)SiO_((4-c-d)/2) (2)
(式中、Rは同一又は異種の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基又はアルコキシ基、R^(2)はアルケニル基及び酸素原子含有脂肪族不飽和基より選ばれる同一又は異種の脂肪族不飽和基、c,dは1.90≦c<2.40、0.0003≦d≦0.10、1.90<c+d≦2.40を満足する正数を示す。)で表され、一分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和基を含む25℃における粘度が100?1,000,000センチポイズであるオルガノポリシロキサン30?100重量%と、(D)R_(p)R^(2)_(q)SiO_(1/2)単位(M)と、SiO_(2)単位(Q)及び/又はYSiO_(3/2)単位(T)を含み(但し、R,R^(2)は上記と同様の意味を示し、p,qはそれぞれ0,1,2又は3であって、p+q=3を満足する整数、YはR及びR^(2)から選択される)、かつM/(Q+T)=0.6?1.2、R^(2)/Si=0.01?0.10(但し、いずれもモル比)であり、上記(C)成分に可溶なシリコーンレジン0?70重量%とからなり、かつ(F)下記平均組成式(3)
R_(e)H_(f)SiO_((4-e-f)/2) (3)
(式中、Rは同一又は異種の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基又はアルコキシ基、e,fは0.70≦e≦2.69、0.01≦f≦1.20、1.5≦e+f≦2.7を満足する正数を示す。)で示され、一分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを上記(C)及び(D)成分から供給される脂肪族不飽和基1個に対してSiH基が0.4?10となる量、及び
(G)光照射によって上記(C)及び(D)成分の脂肪族不飽和基と(F)成分のSiH基とをヒドロシリル化反応させる白金触媒を触媒量を配合してなる請求項1又は2記載の組成物。」

A2「【0009】この場合、この組成物は光硬化後の硬さがショアーA硬さで20?60の範囲にあることが必要であり、好ましくは30?50の硬さとされる。20未満より軟らかいと複製物の精度が十分なものとならず、また60より硬い場合には逆テーパー等を有する複雑な成型品を脱型することが困難となる。更に、硬化後の型は内部に注入した光硬化性の液状樹脂を硬化させるため、この光硬化性液状樹脂の活性線を透過することが必要であり、型の厚みが10mmで、活性線の透過率が10%T以上であることが必要である。10%T未満であると、シリコーンゴム母型の厚みが数十mm以上の場合に光が十分透過せず、内部に充填した光硬化性液状樹脂の硬化が不十分なものとなり、シリコーンゴム母型から脱型できない。なお勿論、このようにして作成したシリコーンゴム母型は、従来の真空注型法における熱硬化性樹脂を充填して複製製品の作成に供することは十分可能である。」

A3「【0045】この成分の添加量は(iii)成分100重量部に対して0.01?5重量部とされるが、本組成物は硬化後も光を透過させるという役割を担うため、基本的に光を吸収する本成分の添加は光を透過するという目的においてマイナス要因である。このため、本成分の添加は本組成物が硬化する最小限度の量がよく、好ましくは(iii)成分100重量部に対して0.01?0.5重量部の範囲が好適とされる。0.01重量部未満では本組成物そのものが硬化せず型を成型し得ない。一方、5重量部を超えると硬化したシリコーンゴム型の光透過性に劣り、内部の光硬化性樹脂を硬化させる際に多大の時間を要し、光透過型として適さなくなる。」

A4「【0052】第3の組成物には、更に(G)成分として白金触媒を配合する。この白金触媒は、上記成分がすべて混合された時点で混合及び注型作業などシリコーンゴム母型を作成するのに必要な準備作業を完了するまでは硬化しないためのポットライフを有する光官能性白金触媒であるものが好ましい。このものとして具体的には、特開昭59-168061号公報に示されているような(η-ジオレフィン)(σ-アリール)白金錯体、特公昭63-50375号公報に開示されているアゾジカルボン酸エステルで制御した白金化合物などが挙げられる。更にはベンゾイルアセトン、アセチレンジカルボン酸エステルの如き光活性ジケトンで制御された白金化合物、光崩壊性有機樹脂に包摂された白金触媒などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0053】この(G)成分の配合量は触媒量であり、通常、白金金属として1?2,000ppm、特に10?200ppm程度である。」

A5「【0054】なお、上記の第1?第3の組成物には、光透過性の効果を損なわない範囲で煙霧質シリカ、透明ガラスビーズ、石英ガラス粉や、特に第3の組成物に対してはヒドロシリル化反応の制御剤などを配合してもよい。」

A6「【0060】このようにシリコーンゴム母型を作成する工程で得られたシリコーンゴム母型内に導通路を通じて前記した光硬化性液状有機樹脂を充填する。この後、先のシリコーンゴムを硬化させた照射装置と同様の装置によってシリコーンゴム母型の外側から数mm?数百mmの厚みを通して内部の光硬化性液状有機樹脂に光を照射し、光硬化性液状有機樹脂を硬化させる。」

A7「【0068】〔実施例3〕両末端がビニルジメチルシロキシ基で封鎖された25℃での粘度が100,000センチポイズのジメチルポリシロキサン75重量部、CH_(2)=CH(CH_(3))_(2)SiO_(1/2)単位、(CH_(3))_(3)SiO_(1/2)単位及びSiO_(2)単位を含み、CH_(2)=CH(CH_(3))_(2)SiO_(1/2)単位と(CH_(3))_(3)SiO_(1/2)単位との合計のSiO_(2)単位に対するモル比が0.8であり、ビニル基当量が0.9モル/100gであるジメチルポリシロキサンに可溶のシリコーンレジン25重量部、H(CH_(3))_(2)SiO_(1/2)単位、H(CH_(3))SiO_(1/2)単位、(CH_(3))_(3)SiO_(1/2)単位及びSiO_(2)単位を含み、SiH基当量が0.005モル/gであるオルガノポリシロキサン7重量部、及び(1,5-シクロオクタジエン)ジメチル白金(II)を白金量としてシロキサンの30ppmとなるように配合して組成物3を調製した。

・・・

【0075】次いで、370nmに中心波長を有する40W紫外線蛍光灯を上下左右前後六方向に配置した露光機の中に置き、10分間の紫外線照射を行ってシリコーンゴム型を作成した。硬化したシリコーンゴム型及びマスターモデルをアクリル枠内から取り出し、手術用メスを用いてシリコーンゴム型を切開し、マスターモデルを脱型した。更に、切開したシリコーンゴム型のキャビティ及びコア型のそれぞれを再度紫外線蛍光灯によって5分間照射し、硬化を促進した。」


第5.刊行物Aに記載された発明
摘示A4に触媒の金属含有量が、摘示A5に噴霧質シリカ等を配合することが記載されていることをふまえ、摘示A1の記載及びその組成物を使用することは明らかであることからみて、刊行物Aには以下の発明(以下「刊行物A発明」という。)が記載されている。

光照射により硬化する光硬化性液状シリコーンゴム組成物であって、硬化後のショアーA硬さが20?60の範囲であり、かつ10mm厚さに硬化させたときの光の透過率が10%以上である硬化物を形成する光硬化性液状樹脂型取り母型用の光硬化性液状シリコーンゴム組成物において、
光硬化性液状シリコーンゴム組成物が、オルガノポリシロキサンを含有し、上記オルガノポリシロキサンが、(C)下記平均組成式(2)
R_(c)R^(2)_(d)SiO_((4-c-d)/2) (2)
(式中、Rは同一又は異種の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基又はアルコキシ基、R^(2)はアルケニル基及び酸素原子含有脂肪族不飽和基より選ばれる同一又は異種の脂肪族不飽和基、c,dは1.90≦c<2.40、0.0003≦d≦0.10、1.90<c+d≦2.40を満足する正数を示す。)で表され、一分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和基を含む25℃における粘度が100?1,000,000センチポイズであるオルガノポリシロキサン30?100重量%と、(D)R_(p)R^(2)_(q)SiO_(1/2)単位(M)と、SiO_(2)単位(Q)及び/又はYSiO_(3/2)単位(T)を含み(但し、R,R^(2)は上記と同様の意味を示し、p,qはそれぞれ0,1,2又は3であって、p+q=3を満足する整数、YはR及びR^(2)から選択される)、かつM/(Q+T)=0.6?1.2、R^(2)/Si=0.01?0.10(但し、いずれもモル比)であり、上記(C)成分に可溶なシリコーンレジン0?70重量%とからなり、かつ(F)下記平均組成式(3)
R_(e)H_(f)SiO_((4-e-f)/2) (3)
(式中、Rは同一又は異種の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基又はアルコキシ基、e,fは0.70≦e≦2.69、0.01≦f≦1.20、1.5≦e+f≦2.7を満足する正数を示す。)で示され、一分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを上記(C)及び(D)成分から供給される脂肪族不飽和基1個に対してSiH基が0.4?10となる量、及び
(G)光照射によって上記(C)及び(D)成分の脂肪族不飽和基と(F)成分のSiH基とをヒドロシリル化反応させる白金触媒を白金金属として10?200ppmを配合し、
光透過性の効果を損なわない範囲で煙霧質シリカ、透明ガラスビーズ、石英ガラス粉の少なくとも1種を配合した
光硬化性液状樹脂型取り母型用の光硬化性液状シリコーンゴム組成物の使用。


第6.対比・判断
1.本願発明と刊行物A発明との対比

刊行物A発明における「オルガノポリシロキサンを含有し、上記オルガノポリシロキサンが、(C)下記平均組成式(2)
R_(c)R^(2)_(d)SiO_((4-c-d)/2) (2)
(式中、Rは同一又は異種の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基又はアルコキシ基、R^(2)はアルケニル基及び酸素原子含有脂肪族不飽和基より選ばれる同一又は異種の脂肪族不飽和基、c,dは1.90≦c<2.40、0.0003≦d≦0.10、1.90<c+d≦2.40を満足する正数を示す。)で表され、一分子中に少なくとも2個の脂肪族不飽和基を含む25℃における粘度が100?1,000,000センチポイズであるオルガノポリシロキサン30?100重量%と、(D)R_(p)R^(2)_(q)SiO_(1/2)単位(M)と、SiO_(2)単位(Q)及び/又はYSiO_(3/2)単位(T)を含み(但し、R,R^(2)は上記と同様の意味を示し、p,qはそれぞれ0,1,2又は3であって、p+q=3を満足する整数、YはR及びR^(2)から選択される)、かつM/(Q+T)=0.6?1.2、R^(2)/Si=0.01?0.10(但し、いずれもモル比)であり、上記(C)成分に可溶なシリコーンレジン0?70重量%」は、本願発明における「少なくとも1種のアルケニル基含有ポリシロキサン」に相当する。

刊行物A発明における「(F)下記平均組成式(3)
R_(e)H_(f)SiO_((4-e-f)/2) (3)
(式中、Rは同一又は異種の非置換又は置換の脂肪族不飽和結合を含有しない一価炭化水素基又はアルコキシ基、e,fは0.70≦e≦2.69、0.01≦f≦1.20、1.5≦e+f≦2.7を満足する正数を示す。)で示され、一分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン」は、本願発明における「少なくとも1種のSiH官能性ポリシロキサン」に相当する。

そして、刊行物A発明における「一分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを上記(C)及び(D)成分から供給される脂肪族不飽和基1個に対してSiH基が0.4?10となる量」に関して、本願発明は、成分a)、成分b)の配合割合を規定しているが、本願明細書段落【0078】には、成分b)の成分a)に対する比として、0.5?20:1である旨の記載があることからすると、刊行物A発明における「一分子中に少なくとも2個のSiH基を含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンを上記(C)及び(D)成分から供給される脂肪族不飽和基1個に対してSiH基が0.4?10となる量」は、本願発明における成分a)?c)の合計量に対して「a)3?99重量%」「b)0.2?60重量%」と重複一致しているといえる。

刊行物A発明における「(G)光照射によって上記(C)及び(D)成分の脂肪族不飽和基と(F)成分のSiH基とをヒドロシリル化反応させる白金触媒」は、本願発明における「少なくとも1種の光活性化可能な触媒」に相当する。
そして、刊行物A発明における(G)成分の樹脂組成物中の配合割合が「白金金属として10?200ppm」は、本願発明における「金属含有量1?500ppm」と重複一致する。

刊行物A発明における「煙霧質シリカ、透明ガラスビーズ、石英ガラス粉の少なくとも1種」は、本願発明における「酸化物充填剤から選ばれる、少なくとも1種の充填剤」に相当する。

刊行物A発明における「光硬化性液状樹脂型取り母型」は、本願発明における「成形製品」に相当することから、刊行物A発明における「光硬化性液状樹脂型取り母型用」は、本願発明における「成形製品の製造のための」に相当する。

刊行物A発明における「光硬化性液状シリコーンゴム組成物」は、本願発明における「光活性化性で硬化性のシロキサン組成物」に相当する。

以上をまとめると、本願発明と刊行物A発明との一致点及び相違点は次のとおりである。

〔一致点〕
成形製品の製造のための
a)3?99重量%の少なくとも1種のアルケニル基含有ポリシロキサン、
b)0.2?60重量%の少なくとも1種のSiH官能性ポリシロキサン、
c)酸化物充填剤から選ばれる、少なくとも1種の充填剤、
d)金属含有量1?500ppmに相当する少なくとも1種の光活性化可能な触媒、および
e)0?30重量%の1種もしくはそれ以上の助剤、
をいずれも成分a)?c)の合計量に対して含んでなる光活性化性で硬化性のシロキサン組成物の使用。

〔相違点1〕
本願発明は、成形製品が「直径が少なくとも3mmの球体を収容または包囲できる容積を有する厚肉」と規定しているのに対し、刊行物A発明は、そのような規定を有していない点。

〔相違点2〕
本願発明は、充填剤の含有量に関して、成分a)?c)の合計量に対して「c)0.1?60重量%」と規定しているのに対し、刊行物A発明は、そのような規定を有していない点。

〔相違点3〕
本願発明は、充填剤のBET表面積を「50?400m^(2)/g」と規定しているのに対し、刊行物A発明は、そのような規定を有していない点。

2.相違点について
〔相違点1〕について
刊行物Aには、成形製品であるシリコーンゴム母型の厚みが「数十mm」「数mm?数百mm」と記載(摘示A2、A6)されており、母型を光硬化させるため上下左右前後から光照射する旨の記載(摘示A7)があることから、母型の各方向の厚みは上記「数mm?数百mm」であり、かかる厚みは本願発明における「直径が少なくとも3mmの球体を収容できる容積を有する厚肉」と重複一致することから、この点は実質的な相違点とはならない。

〔相違点2〕について
刊行物Aには、光を吸収する化合物、つまり、光の透過を抑制する化合物を樹脂成分100重量部に対して0.01?5重量部配合可能の旨の記載(摘示A3)があるところ、刊行物A発明における光触媒の含有量は白金金属として10?200ppm(=0.001?0.02重量%)と微量である。そして、刊行物A発明に配合可能な噴霧質シリカ等は、組成物の光透過性の効果を損なわない範囲で配合可能(摘示A5)であり、さらに、光を吸収するような、光の透過を抑制する化合物を5重量部までなら配合可能(摘示A3)であるのだから、「組成物の光透過性の効果を損なわない範囲」とは、樹脂成分100重量部に対して約5重量部(=5-0.001)までで噴霧質シリカ等を配合可能であることを意味していると認められることからすると、刊行物A発明において、噴霧質シリカ等を0.1?5重量部程度配合することは、当該技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)において容易になし得る事項である。
また、この点を規定したことによる効果が格段優れているとも認められない。

〔相違点3〕について
シリコーンゴム組成物において、シリカ等のBET表面積と透明性との間に相関があることは知られているところ、透明性や粘度の関係からBET表面積が200程度のものを用いることは周知技術(要すれば、以下の文献を参照のこと、特開平5-202297号公報段落【0015】?【0016】には、BET表面積が150?600、好ましくは200?400である旨、特開2003-192898号公報段落【0033】には、BET表面積が160?250である旨の記載がある。)である。そうすると、刊行物A発明は、透明性が要求されることから、用いている充填剤のBET表面積も上記周知技術のものと同程度のものを用いる蓋然性が高く、この点は実質的な相違点ではない。
もしくは、透明性が要求されている刊行物A発明において、上記周知技術を考慮しBET表面積を規定することは、当業者において容易になし得る事項であるし、かかる規定により得られる効果が予測を超えた格段優れてたものとも認められない。


第7.請求人の主張について
請求人は、平成24年7月4日提出の上申書において、BET表面積が架橋速度に影響しており、本願発明の範囲とすることで好ましい結果が得られる旨の主張をしている。しかし、上記主張は、本願明細書の記載に基づかない主張であることから、上記主張を採用することは出来ない。
また、請求人は、平成24年6月28日提出の審判請求書において、刊行物Aに記載の発明は、10mm厚さに硬化させたときの光透過率が10%以上であることを必要としており、光透過率が10%未満であることを必要とする本願発明とは異なる旨の主張をしているが、「光透過率が10%未満」なる事項を本願発明は規定していないことからすると、本願発明の特許請求の範囲に記載のない事項に基づく主張を採用することは出来ない。
さらに、BET表面積と透明性との間に相関があることは、上記相違点3に記載のとおり周知の事項であり、その効果も予測可能な事項である。


第8.まとめ
本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないという原査定の理由は妥当なものであり、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-12 
結審通知日 2013-08-20 
審決日 2013-09-02 
出願番号 特願2007-523081(P2007-523081)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 岡▲崎▼ 忠  
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 大島 祥吾
加賀 直人
発明の名称 厚肉成形製品または厚肉被覆の製造のための光活性化された硬化性のシリコン組成物の使用  
代理人 特許業務法人小田島特許事務所  

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