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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08L |
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管理番号 | 1283972 |
審判番号 | 不服2013-7758 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-04-26 |
確定日 | 2014-01-23 |
事件の表示 | 特願2007-271195「被覆用樹脂組成物およびその積層成形品」拒絶査定不服審判事件〔平成21年5月7日出願公開、特開2009-96913〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯・本願発明 本願は,平成19年10月18日の特許出願であって,平成24年3月9日付けで拒絶理由が通知され,同年5月14日に意見書とともに手続補正書が提出されたが,平成25年1月22日付けで拒絶査定がなされ,これに対して,同年4月26日に拒絶査定不服審判が請求され,その後,当審において平成25年8月6日付けで拒絶理由が通知され,同年10月9日に意見書が提出されたものである。 そして,本願の請求項1?3に係る発明は,平成24年5月14日付け手続補正書により補正された明細書及び特許請求の範囲(以下,「本願明細書等」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下,「本願発明」ともいう。)は,以下のとおりのものである。 「メタクリル酸メチル単位を主成分とするメタクリル酸メチル系重合体(I)1?80質量%と,ポリオルガノシロキサン(b-1)の存在下にポリアルキルアクリレート(b-2)用単量体を重合し,質量平均粒子径50nm?400nmである重合体(A)を得て,その重合体(A)100質量部の存在下に,アルキル基の炭素数が1?4のメタクリル酸アルキルエステル50?100質量%,アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステル0?50質量%,および,その他の共重合可能な単量体0?20質量%からなり,FOXの式で計算されるガラス転移温度(Tg)が20?80℃となる単量体成分(B)30?100質量部を重合して得られるグラフト共重合体(II)20?99質量%とを含有する被覆用樹脂組成物。」 第2 平成25年8月6日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由の概要 平成25年8月6日付け拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由の概要は, 「本願の請求項1?3に係る発明は,下記の刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献A:国際公開第2006-134973号 引用文献B:特開2003-335912号公報」 というものである。 第3 合議体の判断 1.刊行物の記載事項 (1)引用文献A(国際公開第2006-134973号)には,次の記載がある。 (1-1)「[1] 樹脂基材上に表層を形成するために積層されるメタクリル系樹脂組成物からなる被覆用樹脂組成物であって, 前記メタクリル系樹脂組成物が,メタクリル酸メチル単位を主成分とするメタクリル酸メチル系重合体(I)80?20質量%と,内層重合体(A)及び外層重合体(B)を有する多段重合グラフト共重合体(II)20?80質量%とを含有し, 内層重合体(A)は,アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステル70?90質量%,芳香族ビニル化合物10?30質量%,及びその他の共重合可能な単量体0?20質量%からなる単量体混合物100質量部と,多官能単量体0.1?2質量部とからなる単量体成分を重合して得られ,質量平均粒子径が200?300nmである1段目の重合体であり, 外層重合体(B)は,内層重合体(A)の存在下に,アルキル基の炭素数が1?4のメタクリル酸アルキルエステル50?100質量%,アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステル0?50質量%,及びその他の共重合可能な単量体0?20質量%からなる単量体成分を重合して得られ,ガラス転移温度(Tg)が20?80℃である2段目の重合体であり, 内層重合体(A)を100質量部としたときの外層重合体(B)の含有量が30?100質量部である被覆用樹脂組成物。 [6] 樹脂基材と,この樹脂基材上に積層された請求項1?5のいずれかに記載の被覆用樹脂組成物からなる表層とを有する積層成形品。 [7] 前記樹脂基材が塩化ビニル系樹脂からなる請求項6に記載の積層成形品。」(請求の範囲請求項1,6,7) (1-2)「本発明は,上記の従来技術の問題点を考慮してなされたものであって,耐候性及び耐衝撃性に優れた積層成形品並びにその表層に使用される被覆用樹脂組成物を提供することを目的とする。」(段落[0006]) (1-3)「多段重合グラフト共重合体(II)は,段階的な重合で得られる内層重合体(A)および外層重合体(B)の2層を少なくとも有するものであり,その多段重合グラフト共重合体における各層は以下に示される組成からなる単量体成分によって構成される。 内層重合体(A)は,アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステル70?90質量%(好ましくは75?85質量%),芳香族ビニル化合物10?30質量%(好ましくは15?25質量%),及びその他の共重合可能な単量体0?20質量%(好ましくは0?10質量%)からなる単量体混合物100質量部と,多官能単量体0.1?2質量部(好ましくは0.1?1質量部)とからなる単量体成分を重合して得られるものである(1段目重合)。 単量体成分の組成を上述の各範囲内にすることにより優れた耐衝撃性及び透明性を持つ樹脂組成物が得られる。特に,上記単量体混合物におけるアルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステルの使用量が少なすぎると,十分な耐衝撃性を持つ樹脂組成物が得られないため,上記範囲内の使用量とすることが必要である。また,芳香族ビニル化合物の使用量を上記範囲内にすることで優れた透明性が得られ,多官能単量体の使用量を上記範囲内にすることにより優れた耐衝撃性が得られる。」(段落[0022]?[0024]) (1-4)「内層重合体(A)の質量平均粒子径は200?300nmであり,230?260nmが好ましい。内層重合体(A)の質量平均粒子径が小さすぎると樹脂組成物の十分な耐衝撃性が得にくくなり,この質量平均粒子径が大きすぎると樹脂組成物の透明性が低下しやすい。」(段落[0029]) (1-5)「外層重合体(B)は,上述した内層重合体(A)の存在下に,アルキル基の炭素数が1?4のメタクリル酸アルキルエステル50?100質量%(好ましくは60?85質量%),アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステル0?50質量%(好ましくは15?40質量%),及びその他の共重合可能な単量体0?20質量%(好ましくは0?10質量%)からなる単量体成分を重合して得られるものである(2段目重合)。また,この単量体成分を重合した時のガラス転移温度(以下「Tg」と称する)が20?80℃である必要がある。このTgは20?70℃であることが好ましい。Tgが低すぎると,粉体として回収した時にブロッキングしやすいため,取り扱い性が低下する。一方,Tgが高すぎると,十分な耐衝撃性を持つ樹脂組成物が得られない。上記単量体成分の使用量を上記の組成範囲にすることにより,生産性・加工性ならびに耐衝撃性に優れた樹脂組成物を得ることができる。アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステルを使用することにより,所望のTgが得やすくなり,結果,生産性・加工性ならびに耐衝撃性により優れた樹脂組成物を得ることができる。」(段落[0030]) (1-6)「なお,本発明で言う重合体のTgとは,一般に知られているFOXの式: 1/Tg=a1/Tg1+a2/Tg2+a3/Tg3+・・・ に従い計算により求めたものである。式中のTg1,Tg2およびTg3は,重合体を形成させるのに用いた単量体成分に含まれる各単量体を単独で重合した際に得られるそれぞれのホモポリマーのTgを表し,「ポリマーハンドブック第3版」(POLYMER HANDBOOK, THIRD EDITION),John Wiley & Sons, Inc. (1989)に記載されている値を引用した。また,上記FOXの式中のa1,a2およびa3は,重合体を形成させるのに用いた単量体成分に含まれる各単量体のそれぞれの質量分率を表す。」(段落[0034]) (2)引用文献B(特開2003-335912号公報)には,次の記載がある。 (2-1)「【請求項1】 ポリオルガノシロキサン(a-1)とポリアルキルアクリレート(a-2)からなる複合ゴム(A)に,芳香族アルケニル,シアン化ビニル化合物およびアルキル(メタ)アクリレートから選ばれた少なくとも1種以上の単量体あるいは単量体混合物(B)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(X)と, アルキル(メタ)アクリレートを主成分とする(共)重合体(Y)と, グラフト共重合体(X)および(共)重合体(Y)からなる熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して,アルキル(メタ)アクリレートを主成分とする平均粒子径1?20μmの架橋微粒子1?20質量部とを含有することを特徴とする共押出成形用アクリル樹脂組成物。 【請求項4】 請求項1ないし3いずれか一項に記載の共押出成形用アクリル樹脂組成物と塩化ビニル系樹脂とを共押出し,成形してなることを特徴とする積層成形品。」(特許請求の範囲請求項1,4) (2-2)「【発明が解決しようとする課題】特開平5-93122号公報には,メタクリル酸アルキルエステルおよびアクリル酸アルキルエステルから成り,特定の還元粘度を有するアクリル系共重合体(I)と,アクリル樹脂を主成分とする多層構造重合体(II)とを混合した樹脂組成物に対し,メタクリル酸メチルを主成分とする平均粒径1?20μmの架橋微粒子(III)が混合されたアクリル樹脂組成物が記載され,このアクリル樹脂組成物を塩化ビニル系樹脂と異型押出することにより,サイジングダイの汚れ付着(プレートアウト)が発生することなく,良好な成形性と良好な耐衝撃性を示すとある。 しかしながら,このアクリル樹脂組成物を用いた積層成形品は,良好な成形性を有すものの,耐衝撃性,特に低温雰囲気下での耐衝撃性が不足し,例えば成形品を窓枠用形材として使用する場合に,JIS K6785に準拠した衝撃試験の性能を満足することが困難であった。そして,このように耐衝撃性に劣る積層成形品は,使用できる用途に制限があった。 ・・・・ よって,本発明の目的は,JIS K6785に準拠した衝撃試験の性能を満足する低温雰囲気下での良好な耐衝撃性と,良好な耐候性および成形性を有する共押出成形品を得るための共押出成形用アクリル樹脂組成物,およびこれを用いた積層成形品を提供することにある。」(段落【0005】?【0011】) (2-3)「ポリオルガノシロキサン(a-1)とポリアルキルアクリレート(a-2)からなる複合ゴム(A)は,ポリオルガノシロキサン(a-1)のラテックス中へ上記アルキルアクリレートと多官能性アルキル(メタ)アクリレートからなる混合物を添加し,通常のラジカル重合開始剤を作用させて重合することによって調製できる。該アクリレート成分を添加する方法としては,ポリオルガノシロキサン(a-1)のラテックスと一括で混合する方法と,ポリオルガノシロキサン(a-1)のラテックス中に一定速度で滴下する方法とがある。中でも,アクリル樹脂組成物の耐衝撃性を考慮すると,ポリオルガノシロキサン(a-1)のラテックスと一括で混合する方法が好ましい。 重合に用いるラジカル重合開始剤としては,過酸化物,アゾ系開始剤,または酸化剤・還元剤を組み合わせたレドックス系開始剤が用いられる。この中では,レドックス系開始剤が好ましく,特に,硫酸第一鉄・エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩・ロンガリット・ハイドロパーオキサイドを組み合わせたスルホキシレート系開始剤が好ましい。 複合ゴム(A)の重量平均粒子径は,0.08?0.16μmであることが好ましい。重量平均粒子径が0.08μm未満の場合には,アクリル樹脂組成物の耐衝撃性が低くなる傾向にあり,0.16μmを超える場合には,アクリル樹脂組成物の顔料着色性が低下する傾向にある。より好ましい重量平均粒子径は,0.1?0.15μmである。」(段落【0031】?【0033】) (2-4)「【発明の効果】以上説明したように,本発明の共押出成形用アクリル樹脂組成物は,上述した特定のグラフト共重合体(X)と,アルキル(メタ)アクリレートを主成分とする(共)重合体(Y)と,グラフト共重合体(X)および(共)重合体(Y)からなる熱可塑性樹脂組成物100質量部に対して,アルキル(メタ)アクリレートを主成分とする平均粒子径1?20μmの架橋微粒子1?20質量部とを含有するものであるので,JIS K6785に準拠した衝撃試験の性能を満足する低温雰囲気下での良好な耐衝撃性と,良好な耐候性および成形性を有する共押出成形品を得ることができる。 また,アルキル(メタ)アクリレートを主成分とする(共)重合体(Y)が,JIS K7210に準拠して測定したメルトマスフローレイト(MFR)の値が15?25g/10minの範囲のものであれば,厚みが均一で,耐衝撃性がさらに向上したアクリル樹脂層を有する共押出成形品を得ることができる。また,アクリル系樹脂をバインダーとした着色剤マスターバッチを用いて着色されたものであれば,着色剤のプレートアウトをさらに抑えることができる。 また,本発明の積層成形品は,本発明の共押出成形用アクリル樹脂組成物と塩化ビニル系樹脂とを共押出し,成形してなるものであるので,JIS K6785に準拠した衝撃試験の性能を満足する低温雰囲気下での良好な耐衝撃性と,良好な耐候性および成形性を有する。このような積層成形品は,窓枠用形材として使用され,この用途において,優れた意匠性,耐衝撃性,耐久性を示すことができ,工業的利用価値が極めて高い。」(段落【0079】?【0081】) 2.刊行物に記載された発明 摘示(1-1)の記載からみて,引用文献Aには, 「樹脂基材上に表層を形成するために積層されるメタクリル系樹脂組成物からなる被覆用樹脂組成物であって, 前記メタクリル系樹脂組成物が,メタクリル酸メチル単位を主成分とするメタクリル酸メチル系重合体(I)80?20質量%と,内層重合体(A)及び外層重合体(B)を有する多段重合グラフト共重合体(II)20?80質量%とを含有し, 内層重合体(A)は,アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステル70?90質量%,芳香族ビニル化合物10?30質量%,及びその他の共重合可能な単量体0?20質量%からなる単量体混合物100質量部と,多官能単量体0.1?2質量部とからなる単量体成分を重合して得られ,質量平均粒子径が200?300nmである1段目の重合体であり, 外層重合体(B)は,内層重合体(A)の存在下に,アルキル基の炭素数が1?4のメタクリル酸アルキルエステル50?100質量%,アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステル0?50質量%,及びその他の共重合可能な単量体0?20質量%からなる単量体成分を重合して得られ,ガラス転移温度(Tg)が20?80℃である2段目の重合体であり, 内層重合体(A)を100質量部としたときの外層重合体(B)の含有量が30?100質量部である被覆用樹脂組成物。」に係る発明(以下,「引用発明」という。)が記載されている。 3.本願発明と引用発明との対比 本願発明と引用発明とを対比する。 両発明は,耐候性及び耐衝撃性に優れた表層を得る為に有用な被覆用樹脂組成物の提供という点で,共通の課題を有するものであり(本願明細書等段落【0006】及び摘示(1-2)),引用発明のガラス転移温度(Tg)は,摘示(1-5)及び(1-6)並びに本願明細書等の段落【0035】及び【0036】の記載からみて,本願発明のFOXの式で計算されるガラス転移温度(Tg)に相当する。 したがって,両者は,「メタクリル酸メチル単位を主成分とするメタクリル酸メチル系重合体(I)1?80質量%と,重合体(A)100質量部の存在下に,アルキル基の炭素数が1?4のメタクリル酸アルキルエステル50?100質量%,アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステル0?50質量%,および,その他の共重合可能な単量体0?20質量%からなり,FOXの式で計算されるガラス転移温度(Tg)が20?80℃となる単量体成分(B)30?100質量部を重合して得られるグラフト共重合体(II)20?99質量%とを含有する被覆用樹脂組成物。」の点で一致し,以下の相違点において相違している。 <相違点> グラフト共重合体(II)の内層部分である重合体(A)が,本願発明1では,「ポリオルガノシロキサン(b-1)の存在下にポリアルキルアクリレート(b-2)用単量体を重合し,質量平均粒子径50nm?400nmである重合体(A)」であるのに対し,引用発明では,「アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステル70?90質量%,芳香族ビニル化合物10?30質量%,及びその他の共重合可能な単量体0?20質量%からなる単量体混合物100質量部と,多官能単量体0.1?2質量部とからなる単量体成分を重合して得られ,質量平均粒子径が200?300nmである1段目の重合体」(以下,「内層重合体(A)」という。)である点。 4.相違点についての検討 まず,本願発明1の重合体(A)と引用発明の内層重合体(A)の質量平均粒子径は,重複一致することは明らかである。 そして,上記したように引用発明は,耐候性及び耐衝撃性に優れた表層を得るために有用な被覆用樹脂組成物の提供という課題を有するものであり(摘示(1-2)),その耐衝撃性は,多段グラフト共重合体(II)の物性に影響されるものと認められる(摘示(1-3),(1-4))。 これに対し,刊行物Bには,樹脂基材表面上の積層(表層)に用いられる,メタアクリル酸メチル単位を主成分とするメタクリル酸メチル系重合体とグラフト共重合体とを含有する被覆用樹脂組成物において,そのグラフト共重合体として,「ポリオルガノシロキサン(a-1)とポリアルキルアクリレート(a-2)からなる複合ゴム(A)に,芳香族アルケニル,シアン化ビニル化合物およびアルキル(メタ)アクリレートから選ばれた少なくとも1種以上の単量体あるいは単量体混合物(B)をグラフト重合してなるグラフト共重合体(X)」(以下,「グラフト共重合体(X)」という。)を用いることが記載されており(摘示(2-1)),これにより従来の(メタ)アクリル樹脂を主成分とする多層構造重合体を用いる場合よりも耐衝撃性が優れた積層成形品が得られることが記載されているものと認められる(摘示(2-2)?(2-4))。 そして,当該複合ゴム(A)は,「ポリオルガノシロキサン(a-1)とポリアルキルアクリレート(a-2)からなる複合ゴム(A)は,ポリオルガノシロキサン(a-1)のラテックス中へ上記アルキルアクリレートと多官能性アルキル(メタ)アクリレートからなる混合物を添加し,通常のラジカル重合開始剤を作用させて重合することによって調製できる。」ものであること(摘示(2-3)),すなわち,「ポリオルガノシロキサンの存在下にポリアルキルアクリレート用単量体を重合した重合体」であることが記載されている。 また,グラフト共重合体(X)の外層部分は,「芳香族アルケニル,シアン化ビニル化合物およびアルキル(メタ)アクリレートから選ばれた少なくとも1種以上の単量体あるいは単量体混合物(B)」であり,これは引用発明の外層重合体(B)とその組成において重複するものである。 そうであれば,刊行物Bの記載に接した当業者であれば,(メタ)アクリル樹脂を主成分とする多層重合体である引用発明の多段重合グラフト共重合体(II)において,その内層重合体(A)に代えて,刊行物Bに記載されているような「ポリオルガノシロキサンの存在下にポリアルキルアクリレート用単量体を重合した重合体」を適用することにより,耐衝撃性の向上を図ることは容易に想到し得る事項であり,適用を試みることに格別な困難があるものとも認められない。 さらに,耐衝撃性は,内層重合体(A)の単量体成分の組成及び質量平均粒子径に影響される(摘示(1-3),(1-4))ものであるから,内層重合体(A)として「ポリオルガノシロキサンの存在下にポリアルキルアクリレート用単量体を重合した重合体」を用いた場合に,引用発明の質量平均粒子径を指標として,その前後範囲についても,耐衝撃性を確認し,その最適な範囲を決定することは,当業者が容易になし得る事項にすぎない。そして,その効果についても,予測し得る範囲内のものであって,格別顕著なものとは認められない。 5.まとめ よって,本願発明1は,引用文献Aに記載された発明及び引用文献Bに記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 審判請求人の主張について 1.審判請求人の主張 審判請求人は,平成25年10月9日付け意見書において,以下のア?ウの主張(以下、それぞれ「主張ア」?「主張ウ」という。)をしている。 ア.外層部分の組成について: 引用発明(引用文献Aに記載の発明)の外層重合体(B)の組成は,その請求項1に記載の通り「アルキル基の炭素数が1?4のメタクリル酸アルキルエステル50?100質量%,アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステル0?50質量%,及びその他の共重合可能な単量体0?20質量%」です。 一方,引用文献Bに記載のグラフト共重合体(X)の外層部分の組成は,その請求項1に記載の通り,「芳香族アルケニル,シアン化ビニル化合物およびアルキル(メタ)アクリレートから選ばれた少なくとも1種以上の単量体あるいは単量体混合物(B)をグラフト重合してなる」です。この請求項1の範囲には,アルキル(メタ)アクリレートを80質量%以上使用して外層部分を構成する場合も含まれるので,その場合は,審判長殿のご指摘の通り引用発明(引用文献Aに記載の発明)の外層重合体(B)の組成と重複します。 しかしながら,引用文献Bの[0036]段落には,以下の記載が有ります。 「グラフト共重合に用いられる単量体の使用量は,芳香族アルケニル化合物65?85質量%,シアン化ビニル化合物15?35質量%,およびこれらと共重合可能なその他の単量体0?15質量%(合計100質量%)であることが好ましい。これらの使用量から外れると,アクリル樹脂組成物の耐衝撃性を損なうおそれがでてくる。」 以上の記載から,引用文献Bの発明において耐衝撃性を向上させる為には,グラフト共重合体(X)の内層部分だけでなく外層部分の組成も変更する必要が有ることを理解出来ます。つまり,引用文献Bの発明を他の発明に適用して耐衝撃性を向上させる為には,その内層部分の適用だけでは不十分であり,外層部分の主成分として「芳香族アルケニル化合物65?85質量%」及び「シアン化ビニル化合物15?35質量%」を使用しなければならない,と当業者は理解するのです。そして,このような外層部分の組成は本願発明の外層部分の組成範囲から大きく外れています。 したがって,仮に当業者が,引用発明(引用文献Aに記載の発明)においてさらなる耐衝撃性の向上のために引用文献Bに記載の発明を適用するのであれば,それはグラフト共重合体(X)の内層部分だけでなく外層部分の組成も制限する必要が有ると理解し,外層部分の主成分として「芳香族アルケニル化合物65?85質量%」及び「シアン化ビニル化合物15?35質量%」を使用するのであり,決して内層部分だけを適用しようとはしません。引用発明の解決課題は耐候性及び耐衝撃性に有り([0006]段落),耐衝撃性を損なうおそれが有るような構成を採用することは,引用発明の本来の目的に反するからです。 以上の理由から,たとえ引用発明(引用文献Aに記載の発明)に引用文献Bの発明を適用したとしても,本願発明に至ることが出来ないことが分かります。 イ.外層部分のTgについて: 引用発明(引用文献Aに記載の発明)の外層重合体(B)のTgは,その請求項1に記載の通り「20?80℃」であり,この点は本願発明と同じです。 一方,引用文献Bのグラフト共重合体(X)の外層部分のTgに関しては,具体的な記載が有りません。 先に述べた通り,当業者は,引用発明においてさらなる耐衝撃性の向上のために引用文献Bに記載の発明を適用する場合は,外層部分の主成分として「芳香族アルケニル化合物65?85質量%」及び「シアン化ビニル化合物15?35質量%」を使用しなければならないと理解します。また引用文献Bの[0035]段落には,芳香族アルケニル化合物の具体例としてスチレン及びα-メチルスチレンが挙げられ,シアン化ビニル化合物の具体例としてアクリロニトリルが挙げられています。これら各単量体の単独重合体のTgは良く知られており,スチレンの単独重合体のTg=100℃,α-メチルスチレンの単独重合体のTg=168℃,アクリロニトリルの単独重合体のTg=125℃です。これらTgは,本願発明に用いるグラフト共重合体(II)の外層部分のTg=20?80℃よりもかなり高い値です。 なお,引用文献Bの[0036]段落の説明では,「その他の単量体0?15質量%」の使用を許容しているので,「その他の単量体」の種類や量によっては,Tgが本願発明の「20?80℃」の範囲内になる場合は理論上あり得ます。しかしながら,芳香族アルケニル化合物(スチレン等)とシアン化ビニル化合物(アクリロニトリル等)を多量(合計85質量%以上)に使用する必要がある以上,Tgが80℃以下になるケースは実際には稀であろうと考えられます。 実際,引用文献Bの実施例では,グラフト共重合体(X-1)の外層部分はスチレン/アクリロニトリル=3/1の割合で形成されており([0060]段落),このような組成の外層部分のTgは「106℃」程度と考えられます。」 ウ.(3-3)外層部分の構成と効果の関係について: 以上説明した通り,たとえ引用発明(引用文献Aに記載の発明)に引用文献Bの発明を適用したとしても,そのグラフト共重合体の外層部分の組成は「芳香族アルケニル化合物65?85質量%」及び「シアン化ビニル化合物15?35質量%」を主成分として含むので,本願発明に用いるグラフト共重合体(II)の外層部分とは全く異なる組成になります。しかも,その外層部分のTgが本願発明の「20?80℃」になる場合は理論上あり得ますが,実際にはそのTgが80℃以下になるケースは稀であろうと考えられます。 そして本願明細書[0034]?[0035]段落に記載の通り,本願発明では,グラフト共重合体(II)の外層部分として「アルキル基の炭素数が1?4のメタクリル酸アルルエステル50?100質量%,アルキル基の炭素数が1?8のアクリル酸アルキルエステル0?50質量%,および,その他の共重合可能な単量体0?20質量%からなり,FOXの式で計算されるガラス転移温度(Tg)が20?80℃となる単量体成分(B)」を使用することによって,生産性,加工性,耐衝撃性,流動性の各点において格別な効果を奏します。 具体的には,本願明細書の実施例によってその格別な効果が実証されています。例えば製造例2は,スチレン/アクリロニトリル=3/1の割合でTg=106℃の外層部分を形成したグラフト共重合体(II-2)の例であり,この外層部分は引用文献Bの実施例の外層部分に対応します。そして表2に記載の通り,本願発明の各実施例は,製造例2のグラフト共重合体(II-2)を使用した比較例1及び2よりも耐候性,成形厚み安定性,流動性において優れています。このような本願発明の効果は,引用文献A及び引用文献Bを組合わせても想到出来ない格別な効果と言うことができます。 2.各主張に対して ア.主張アについて まず,引用文献Bの[0036]段落の記載は,好ましいものを記載したにすぎず,これ以外のものの使用を妨げるものではないことは,その請求項1の記載から明らかである(摘示(2-1))。 そして,請求人も認めているように,引用文献Bに記載のグラフト共重合体(X)の外層部分の組成は,アルキル(メタ)アクリレートを80質量%以上使用して外層部分を構成する場合も含まれるのであるから,引用発明の内層重合体(A)として引用文献Bの「ポリオルガノシロキサンの存在下にポリアルキルアクリレート用単量体を重合した重合体」を適用することに阻害要因があるものとは認められない。 イ.主張イについて 上記主張アについてで述べたように,引用発明の内層重合体(A)として引用文献Bの「ポリオルガノシロキサンの存在下にポリアルキルアクリレート用単量体を重合した重合体」を適用することに阻害要因があるものとは認められない以上,問題となるのは引用発明の外層重合体(B)のTgであって,引用文献Bのグラフト共重合体(X)の外層部分のTgを考慮する必要は認められない。 ウ.主張ウについて 実施例1?2と比較例2?5とを対比すると,グラフト共重合体(II)の外層部分のガラス転移温度(Tg)が80℃を超えると,超過温度に比例して流動性が低下することが読み取れるが、引用発明の外層重合体(B)のTgは,本願発明のTgに相当するものであるから,流動性において差異があるものとは認められない。 また,耐候性,生産性,加工性等についても,流動性と同様に,主にグラフト共重合体の外層重合体に影響されるものと認められるところ,本願発明と引用発明の外層重合体(B)とに差異がないことから,これらの性質において格別な差異が生ずるものとも認められない。 さらに,実施例1?2と比較例1?5とを対比すると,グラフト共重合体の内層重合体の差異によって,低温耐衝撃性に差異が生ずるものと認められるが,この点については,引用文献Bの「ポリオルガノシロキサンの存在下にポリアルキルアクリレート用単量体を重合した重合体」を適用することにより,低温耐衝撃性の向上が図られることは,当業者が容易に予測し得る事項である。 したがって,本願発明が,格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 よって,上記審判請求人の主張は採用できない。 第5 むすび 以上のとおりであるから,本願の請求項1に係る発明についての平成25年8月6日付け拒絶理由通知書で通知した拒絶の理由は妥当なものであり,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願はこの理由により拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-11-25 |
結審通知日 | 2013-11-26 |
審決日 | 2013-12-09 |
出願番号 | 特願2007-271195(P2007-271195) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C08L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川上 智昭 |
特許庁審判長 |
田口 昌浩 |
特許庁審判官 |
大島 祥吾 加賀 直人 |
発明の名称 | 被覆用樹脂組成物およびその積層成形品 |
代理人 | 緒方 雅昭 |
代理人 | 宮崎 昭夫 |
代理人 | 石橋 政幸 |