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審決分類 |
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 C08G |
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管理番号 | 1283974 |
審判番号 | 不服2013-11453 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-06-18 |
確定日 | 2014-01-23 |
事件の表示 | 特願2008-127486「ガスバリア性組成物の製造方法およびガスバリア性積層フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月26日出願公開、特開2009-275111〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願は、平成20年5月14日を出願日とする特許出願であって、平成24年12月11日付けで拒絶理由が通知され、平成25年2月15日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年3月22日付けで拒絶査定がなされ、同年6月18日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続き補正書が提出され、同年7月23日付けで前置報告がなされ、当審で同年8月12日付けで審尋がなされ、同年10月18日に回答書が提出されたものである。 第2.本願発明 本願の請求項5に係る発明は、平成25年6月18日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲及び明細書(以下、「本願明細書」という。)並びに図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。 「基材フィルムの一方の面に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を設け、該蒸着膜上に、一般式R^(1)nM(OR^(2 ))m (ただし、式中、R^(1 )、R^(2 )は、炭素数1?8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物の製造方法であって、 前記アルコキシドと水と反応触媒とからなる原料を、複数のスタティックミキサーと前記複数のスタティックミキサーを連設する配管とからなり、前記スタティックミキサーは、外周を加熱または冷却するとともに、前記配管によって前記原料がアップフローで流れるように連設されたアルコキシドの加水分解物製造装置に導入して前記アルコキシドの加水分解物を得て、前記加水分解物に前記ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有させ、ゾルゲル法によって加水分解および重縮合するものであり、 前記加水分解製造装置は、前記アルコキシドと水と反応触媒とからなる原料の加熱部と、前記加熱された原料が導入され、前記アルコキシドが加水分解される反応部と、前記反応部から排出されるアルコキシド加水分解物が冷却される冷却部と、前記アルコキシド、水、反応触媒とからなる原料の加熱部との間に分散部を有し、 該分散部を構成する前記スタティックミキサーの配管径は、前記加熱部を構成する前記スタティックミキサーの配管径の0.1?0.8倍とし、前記加熱部を温度30?100℃に加熱し、前記反応部を温度30?100℃に制御し、前記冷却部を温度-5?20℃に冷却するとともに、前記アルコキシドと水と反応触媒とからなる原料の単位時間の供給量(L/Hr)と加水分解時間(Hr)との積が、前記反応部の容量(L)の合計の1.0?1.5倍であるように原料を供給することからなるガスバリア性組成物の製造方法によって製造したガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたことを特徴とするガスバリア性積層フィルム。 」 第3.原査定の拒絶の理由の概要 原査定の拒絶の理由は、要するに、「本願発明は、その出願日前に日本国内において頒布された下記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 引用文献1:特開2007-216504号公報」 というものを含むものである。 なお、以下、引用文献1を「刊行物A」という。 第4.刊行物Aの記載事項 本願の出願日前に頒布された刊行物Aには、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。 A1「【請求項1】 基材上に無機酸化物の蒸着膜を設け、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜を設けてなるガスバリア性積層フィルムであって、 前記ガスバリア性塗布膜のヤング率が15?40MPaであることを特徴とするガスバリア性積層フィルム。 ・・・ 【請求項6】 前記ガスバリア性塗布膜が、一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、Mは金属原子を表し、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基を表し、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価を表す)で表される少なくとも1種以上のアルコキシド、ポリビニルアルコール、および/またはエチレン・ビニルアルコールを含んでなる組成物を、ゾルゲル法によって重縮合して得るアルコキシドの加水分解物またはアルコキシドの加水分解縮合物であることを特徴とする請求項1?5のいずれか一項に記載のガスバリア性積層フィルム。」 A2「【0036】 蒸着膜 次に、本発明のガスバリア性積層フィルムを構成する蒸着膜について説明する。本発明においては、蒸着膜は、化学気相成長法または物理気相成長法により形成することができる。 【0037】 化学気相成長法による蒸着膜の形成 化学気相成長法として、具体的には、例えば、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)を用いて無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。 【0038】 さらに具体的には上記の樹脂のフィルムないしシートの一方の面に、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キヤリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、さらに酸素を供給ガスとして使用し、かつ低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。」 A3「【0124】 本発明においては、上記の組成物は第三級アミンに代えて、またはさらに酸を含んでいてもよい。酸は、ゾル-ゲル法の触媒、主としてアルコキシドやシランカップリング剤などの加水分解のための触媒として用いられる。酸としては、硫酸、塩酸、硝酸などの鉱酸、ならびに酢酸、酒石酸などの有機酸が用いられる。酸の使用量は、アルコキシドおよびシランカップリング剤のアルコキシド分(例えばシリケート部分)の総モル量に対して、0.001?0.05モルであり、好ましくは約0.01モルである。 【0125】 本発明においては、上記ガスバリア性塗布膜形成用組成物中に、アルコキシドの合計モル量1モルに対して0.1?100モル好ましくは0.8?2モルの割合の水を含んでなることが好ましい。水の量が2モルを上回ると、上記アルコキシシランと金属アルコキシドとから得られるポリマーが球状粒子となり、さらに、この球状粒子同士が3次元的に架橋し、密度の低い、多孔性のポリマーとなる。多孔性のポリマーは、基材フィルムのガスバリア性を改善することができない。水の量が0.8モルを下回ると、加水分解反応が進行しにくくなる。」 A4「【実施例】 【0170】 [実施例1] (1)基材フィルムとして、厚さ12μmの2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを使用し、まず、上記の2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを巻き取り式の真空蒸着装置の送り出しロールに装着した。次いで、これを繰り出し、その2軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムのコロナ放電処理面に、アルミニウムを蒸着源に用いて、酸素ガスを供給しながら、エレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、以下の蒸着条件により、膜厚200Åの酸化アルミニウムの蒸着膜を形成した。 (蒸着条件) 酸素ガス導入後の蒸着チヤンバー内の真空度:2×10^(-4)mbar 巻き取りチヤンバー内の真空度:2×10^(-2)mbar 電子ビーム電力:25kW フィルムの搬送速度:240m/分 蒸着面:コロナ放電処理面 【0171】 その後、酸化アルミニウムの蒸着膜面に、グロー放電プラズマ発生装置を使用し、パワー9kw、酸素ガス:アルゴンガス=7.0:2.5(単位:slm)からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧6×10^(-2)mbar、処理速度420m/minで酸素/アルゴン混合ガスプラズマ処理を行って、酸化アルミニウムの蒸着膜面の表面張力を54dyne/cm以上向上させたプラズマ処理面を形成した。 【0172】 (2)他方、表1に示す組成に従って、組成a.正珪酸エチル(多摩科学社製)、イソプロピルアルコール、0.5規定塩酸水溶液、イオン交換水、シランカップリング剤からなる加水分解液に、予め調製した組成b.のポリビニルアルコール水溶液を加えて攪拌し、無色透明のガスバリア性塗工液を得た。 (表1)バリアコート液組成: a 正珪酸エチル(多摩科学社製) 16.00 イソプロピルアルコール 3.90 0.5規定塩酸水溶液 0.50 H_(2)O 21.80 シランカップリング剤 1.60 (γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン) b ポリビニルアルコール 2.30 (RS-110:株式会社クラレ製、ケン化度=99%、重合度=1,000) イソプロピルアルコール 2.700 H_(2)O 51.20 合 計 100.000 (wt%) 【0173】 次に、上記の(1)で形成したプラズマ処理面に、上記で製造したガスバリア性塗工液をグラビアロールコート法によりコーティングして、次いで、150℃で60秒間、加熱処理して、厚さ0.2μm(乾操状態)のガスバリア性塗布膜を形成して、本発明のガスバリア性積層フィルムを製造した。 【0174】 [実施例2] ガスバリア性組成物コーティング後の加熱処理を180℃で行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、本発明のガスバリア性積層フィルムを製造した。 【0175】 [実施例3] ガスバリア性組成物コーティング後の加熱処理を200℃で行ったこと以外は、実施例1と同様の方法で、本発明のガスバリア性積層フィルムを製造した。 【0176】 [実施例4] 厚さ12μmの2軸延伸ポリエステルフィルムを使用し、これをプラズマ化学気相成長装置の送り出しロールに装着し、以下に示す条件で、上記の2軸延伸ポリエステルフィルムのコロナ放電処理面に、厚さ200Åの酸化珪素の蒸着膜を形成した。 (蒸着条件) 反応ガス混合比;へキサメチルジシロキサン:酸素ガス:ヘリウム=1.2:5.0:2.5(単位:Slm) 到達圧力;5.0×10^(-5)mbar 製膜圧力;7.0×10^(-2)mbar ライン速度;150m/min パワー;35kW 【0177】 その後、酸化珪素の蒸着膜面に、グロー放電プラズマ発生装置を使用し、パワー9kW、酸素ガス:アルゴンガス=7.0:2.5(単位:slm)からなる混合ガスを使用し、混合ガス圧6×10^(-2)mbar、処理速度420m/minで酸素/アルゴン混合ガスプラズマ処理を行って、酸化珪素の蒸着膜面の表面張力を54dyne/cm以上向上させたプラズマ処理面を形成した。 【0178】 次に、ガスバリア性組成物コーティング後の加熱処理を200℃で行ったこと以外は、実施例1の(2)と同様の方法で、酸化珪素の蒸着膜上にガスバリア性塗布膜を形成して、本発明のガスバリア性積層フィルムを製造した。」 A5「【0189】 2.酸素透過度の測定 実施例1?4、および比較例1?3で製造したガスバリア性積層フィルムを、シーラントフィルムと張り合わせ、さらに製袋機で四方シールパウチを作製した。さらに、上記各ガスバリア性積層フィルムの耐熱水性を評価するために、上記のとおり作成した四方シールパウチを各120℃、30分間高圧釜で煮沸処理(レトルト処理)した。 次に、実施例1?4、および比較例1?3で製造したガスバリア性積層フィルム、上記のとおり作成した各四方シールパウチ、ならびにレトルト処理後の各四方シールパウチについて、温度23℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の測定機〔機種名、オクストラン(OXTRAN)〕を用い、JIS規格 K7126に従い、酸素透過度を測定した。 結果を以下の表4?表6に示す。 【0190】 3.水蒸気透過度の測定 実施例1?4、および比較例1?3で製造したガスバリア性積層フィルム、上記「2.酸素透過度の測定」で作成した各四方シールパウチ、ならびにレトルト処理後の各四方シールパウチについて、温度40℃、湿度90%RHの条件で、米国、モコン(MOCON)社製の測定機〔機種名、パーマトラン(PERMATRAN)〕を用い、JIS規格 K7129に従い、水蒸気透過度を測定した。 結果を以下の表4?表6に示す。 【0191】 【表3】 」 第5.刊行物Aに記載された発明 無機酸化物の蒸着膜が、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とした酸化珪素等の無機酸化物の蒸着膜であるとの記載(摘示A2)があること及び摘示A1からみて、刊行物Aには以下の発明(以下「刊行物A発明」という。)が記載されている。 「基材上に有機珪素化合物を原料とした無機酸化物の蒸着膜を設け、その蒸着膜上にガスバリア性塗布膜を設けてなるガスバリア性積層フィルムであって、 前記ガスバリア性塗布膜のヤング率が15?40MPaであり、 前記ガスバリア性塗布膜が、一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、Mは金属原子を表し、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基を表し、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価を表す)で表される少なくとも1種以上のアルコキシド、ポリビニルアルコール、および/またはエチレン・ビニルアルコールを含んでなる組成物を、ゾルゲル法によって重縮合して得るアルコキシドの加水分解物またはアルコキシドの加水分解縮合物である、 ガスバリア性積層フィルム。」 第6.対比・判断 1.本願発明について 本願発明と刊行物A発明とを比較する。 刊行物A発明における「基材上」「有機珪素化合物を原料とした無機酸化物の蒸着膜を設け」「一般式R^(1)_(n)M(OR^(2))_(m)(式中、Mは金属原子を表し、R^(1)、R^(2)は炭素数1?8の有機基を表し、nは0以上の整数であり、mは1以上の整数であり、n+mはMの原子価を表す)で表される少なくとも1種以上のアルコキシド」「ポリビニルアルコール、および/またはエチレン・ビニルアルコール」「ゾルゲル法によって重縮合して得るアルコキシドの加水分解物またはアルコキシドの加水分解縮合物」「ガスバリア性塗布膜」「ガスバリア性積層フィルム」は、それぞれ、本願発明における「基材フィルムの一方の面」「有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を設け」「一般式R^(1)nM(OR^(2 ))m (ただし、式中、R^(1 )、R^(2 )は、炭素数1?8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシド」「ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体」「ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物」「ガスバリア性塗布膜」「ガスバリア性積層フィルム」に相当する。 以上をまとめると、本願発明と刊行物A発明との一致点及び相違点は次のとおりである。 〔一致点〕 基材フィルムの一方の面に有機珪素化合物、金属または金属酸化物を蒸着してなる蒸着膜を設け、該蒸着膜上に、一般式R^(1)nM(OR^(2 ))m (ただし、式中、R^(1 )、R^(2 )は、炭素数1?8の有機基を表し、Mは、金属原子を表し、nは、0以上の整数を表し、mは、1以上の整数を表し、n+mは、Mの原子価を表す。)で表される少なくとも1種以上のアルコキシドと、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有し、更に、ゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物の製造方法によって製造した、 ガスバリア性組成物によるガスバリア性塗布膜を設けたことを特徴とするガスバリア性積層フィルム。 〔相違点1〕 本願発明において、原料を「アルコキシドと水と反応触媒とからなる」と特定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定がない点。 〔相違点2〕 本願発明において、製造方法として、「前記アルコキシドと水と反応触媒とからなる原料を、複数のスタティックミキサーと前記複数のスタティックミキサーを連設する配管とからなり、前記スタティックミキサーは、外周を加熱または冷却するとともに、前記配管によって前記原料がアップフローで流れるように連設されたアルコキシドの加水分解物製造装置に導入して前記アルコキシドの加水分解物を得て、前記加水分解物に前記ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体とを含有させ、ゾルゲル法によって加水分解および重縮合するものであり、 前記加水分解製造装置は、前記アルコキシドと水と反応触媒とからなる原料の加熱部と、前記加熱された原料が導入され、前記アルコキシドが加水分解される反応部と、前記反応部から排出されるアルコキシド加水分解物が冷却される冷却部と、前記アルコキシド、水、反応触媒とからなる原料の加熱部との間に分散部を有し、 該分散部を構成する前記スタティックミキサーの配管径は、前記加熱部を構成する前記スタティックミキサーの配管径の0.1?0.8倍とし、前記加熱部を温度30?100℃に加熱し、前記反応部を温度30?100℃に制御し、前記冷却部を温度-5?20℃に冷却するとともに、前記アルコキシドと水と反応触媒とからなる原料の単位時間の供給量(L/Hr)と加水分解時間(Hr)との積が、前記反応部の容量(L)の合計の1.0?1.5倍であるように原料を供給する」と規定しているのに対し、刊行物A発明においてそのような特定がない点。 2.相違点について 〔相違点1〕について 刊行物Aには、正珪酸エチル(「テトラエトキシシラン」であり(参照:http://www.tama-chem.co.jp/products/si/index.html)、本願発明における「アルコキシド」に相当。)、塩酸水溶液、水を原料とする例が記載(摘示A4)されていることから、刊行物A発明は、アルコキシドと水と反応触媒とからなる原料という態様を含んでおり、この点は相違点とはならない。 〔相違点2〕について 本願発明は、「物」に関する発明であり、かつ、製造方法によって生産物を特定しようとする記載のある発明であるが、そのような場合、本願発明が特定する「物」は、最終的に得られた生産物自体を意味しているところ、製造方法によって生産物を特定することによっていかなる点で最終的に得られた生産物が相違しているかに関して、本願発明の具体例である製造例1のフィルムと比較例に相当する製造例2のフィルムとを比較することで検討するとともに、本願発明のフィルムが刊行物A発明のフィルムと「物」として相違するかについても検討する。 上記製造例1のフィルムと製造例2のフィルムに関し、両者の原料成分は同一であるものの、混合方法が異なるため、得られた加水分解縮合物の吸光度が異なっている。そして、吸光度が高い加水分解縮合物を用いたガスバリア性積層フィルムの酸素透過度及び水蒸気透過度は、吸光度が低い加水分解縮合物を用いたガスバリア性フィルムの酸素透過度及び水蒸気透過度より好適なものとなっている。 加水分解縮合物の吸光度が異なることは加水分解縮合反応の程度が異なることを意味すること、並びに、加水分解縮合反応の程度が酸素透過度及び水蒸気透過度に反映されることは技術常識であるから、製造例1と2のフィルムのガスバリア性が異なるのは、混合方法が異なることで加水分解縮合反応物の反応の程度が異なることによるものといえる。 そうすると、本願発明における製造方法によって生産物を特定するということは、加水分解縮合反応の程度を特定することといえ、そして、加水分解縮合反応の程度は、酸素透過度と水蒸気透過度とを比較することで識別可能である。 ここで、刊行物A発明の原料は、上記「〔相違点1〕について」で述べたとおり本願発明の原料成分と同一のものであるから、上記製造例1、2と同様に刊行物A発明の酸素透過度と水蒸気透過度との値を本願発明の値と比較することにより加水分解縮合物の反応の程度を識別できるところ、刊行物Aには、本願発明と同様の手法により酸素透過度と水蒸気透過度とを測定する方法が記載(摘示A5)されており、刊行物A発明により得られたガスバリア性フィルムの酸素透過度と水蒸気透過度が本願実施例程度の値を有することからすると、刊行物A発明の物は、本願発明の物と同程度に加水分解縮合反応が進んだ物である点において差異はなく、本願発明の「物」と刊行物A発明の「物」とは最終的に得られた生産物自体において差異はないといえ、この点は相違点ではない。 よって、本願発明と刊行物A発明との間に差異はない。 第7.請求人の主張について 請求人は、平成25年10月18日提出の回答書において、本願発明は、液の作り方が違うことによって、同じ条件で塗布乾燥させた場合、バリアコート層の縮合がより進んだものとなったため、高いバリア性を発現しており、この点で「物」として異なる旨の主張をしている。 しかし、最終的に得られた生産物自体において差異がないことは上記「〔相違点2〕について」で述べたとおりであるし、出願人自らの意思で、特定の方法によって製造された物のみに限定しようとしていることが明白な場合であっても、最終的に得られた生産物自体において差異がない場合、新規性が否定されることは、「審査基準第II部第2章1.5.2(3)(注)」記載のとおりであることからすると、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。 第8.まとめ 以上のとおり、本願発明は、刊行物Aに記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないとする原査定の理由は妥当なものであり、その余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-11-20 |
結審通知日 | 2013-11-26 |
審決日 | 2013-12-09 |
出願番号 | 特願2008-127486(P2008-127486) |
審決分類 |
P
1
8・
113-
Z
(C08G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 岡▲崎▼ 忠 |
特許庁審判長 |
蔵野 雅昭 |
特許庁審判官 |
加賀 直人 大島 祥吾 |
発明の名称 | ガスバリア性組成物の製造方法およびガスバリア性積層フィルム |
代理人 | 深町 圭子 |
代理人 | 藤枡 裕実 |
代理人 | 立石 英之 |
代理人 | 伊藤 英生 |
代理人 | 後藤 直樹 |
代理人 | 伊藤 裕介 |