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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04R |
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管理番号 | 1284107 |
審判番号 | 不服2013-12141 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-06-26 |
確定日 | 2014-02-18 |
事件の表示 | 特願2008-206012「静電型トランスデューサ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月25日出願公開、特開2010- 45430、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成20年8月8日の出願であって、原審において平成24年9月24日付けで拒絶理由が通知され、同年12月3日付けで手続補正がされ、平成25年3月18日付けで拒絶査定がされ、これに対し、同年6月26日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成24年12月3日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 単結晶のシリコン基板と、前記シリコン基板の一表面側に形成された真空封止用多孔質層と、前記真空封止用多孔質層における前記シリコン基板側とは反対側に積層されたキャップ層とを備え、前記真空封止用多孔質層と前記シリコン基板の前記一表面との間に真空層が形成され、前記真空層の前記シリコン基板側にコンデンサの一方の電極となる固定電極が形成され、前記真空層の前記シリコン基板側とは反対側に前記コンデンサの他方の電極となる可動電極が形成されてなり、前記真空封止用多孔質層は、多孔質ポリシリコン層からなり、前記シリコン基板の前記一表面側には、前記多孔質ポリシリコン層に連続して形成されたポリシリコン層があることを特徴とする静電型トランスデューサ。」 (以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。) 第3 原査定の理由の概要 本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 刊行物1:特開2007-203420号公報 刊行物2:特開2006-88124号公報 刊行物3:特表2004-512190号公報 第4 当審の判断 1.刊行物の記載事項 A 原査定の拒絶の理由に主たる引用例として引用された特開2007-203420号公報(刊行物1)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【技術分野】 【0001】 本発明は、MEMS構造体を含む半導体装置およびその製造方法に関し、特にMEMS構造体の構築、高精度化に適用して有効な技術に関する。」(3頁) ロ.「【0037】 本実施例は、本発明をMEMS構造体で構成した静電容量型圧力センサに適用し、デジタル回路、センサ信号を増幅するアンプや無線送受信等のアナログ回路、フラッシュメモリ回路等を1チップに混載したMEMS構造体混載半導体装置を構成した物である。 【0038】 図4は本実施の形態の圧力センサ混載半導体装置の圧力検知部を含む主要部断面図である。シリコン基板1の上部に拡散領域2、locos3を配置し、その上部にゲート酸化膜4、ゲート電極5、キャップ絶縁膜6、サイドウォール7等で構成するMOSトランジスタが形成されている。トランジスタの最短のゲート長は0.35μmである。 トランジスタ上部には酸化シリコン膜8が配置されており、拡散層上部には、コンタクトホール9が形成され、その内部は窒化チタン膜とタングステン膜からなるプラグ10となっている。 【0039】 プラグ10には、窒化チタンバリア膜を有するアルミニウム合金からなる第一配線層11が接続されている。第一配線層11の上部には、スルーホール12を介して第二配線層13、スルーホール14を介して第二配線層13に接続する第三配線層15、スルーホール16を介して第三配線層15に接続する第四配線層17、スルーホール18を介して第四配線層17に接続する第五配線層19が形成されている。第二配線層13?第五配線層19のそれぞれは、第一配線層11と同様に窒化チタンバリア膜を有するアルミニウム合金からなる。また第一配線層11?第五配線層19のそれぞれは、酸化シリコン膜8で絶縁されている。また、本実施形態の半導体装置の製造プロセス中では必要に応じてCMP(Chemical Mechanical Polishing)を用いて、各配線層表面はほぼ平坦化されている。 本実施例1のMEMS構造体である、圧力センサ・圧力検知部は、スルーホール18に接続された下部電極19a上部に、一部に空洞21を有する、酸化シリコン膜20を形成する。空洞25の内部は窒素を主成分とするほぼ1気圧の気体で満たされている。 酸化シリコン膜20上に形成されたタングステンシサイド膜22には、図中には記載ないが、複数の孔22aが開口され、そこからフッ酸を導入することにより、酸化シリコン膜20に空洞21を形成する。 【0040】 酸化シリコン膜20の上に形成されたタングステンシリサイド膜22は、半導体上への成膜時の温度T1を350℃とし、その温度は、以降の製造工程で経験する熱処理温度T2・450℃よりも低く、かつその熱処理温度T2は、タングステンシリサイド膜の結晶化温度T3・650℃よりも低く調整することで、完成時の膜応力が500Mpaになるように制御し、形状のよい空洞・ダイアフラム部を形成した。 【0041】 タングステンシリサイド膜22上には、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成された酸化シリコン膜23と窒化シリコン膜24が積層されている。酸化シリコン膜23は孔22aを塞ぐ、窒化シリコン膜24は外部からの水分の浸入を防止する、役割をそれぞれ有する。」(8?9頁) 上記刊行物1の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ロ.の【0038】における「図4は本実施の形態の圧力センサ混載半導体装置の圧力検知部を含む主要部断面図である。シリコン基板1の上部に拡散領域2、locos3を配置し」との記載、及び図4によれば、圧力センサ混載半導体装置は、シリコン基板(1)を備えている。 また、上記ロ.の【0039】における「本実施例1のMEMS構造体である、圧力センサ・圧力検知部は、スルーホール18に接続された下部電極19a上部に、一部に空洞21を有する、酸化シリコン膜20を形成する。空洞25の内部は窒素を主成分とするほぼ1気圧の気体で満たされている。酸化シリコン膜20上に形成されたタングステンシリサイド膜22には、図中には記載ないが、複数の孔22aが開口され、そこからフッ酸を導入することにより、酸化シリコン膜20に空洞21を形成する。」との記載、及び図4によれば、圧力センサ混載半導体装置は、前述のシリコン基板(1)の一表面側に形成されたタングステンシリサイド膜(22)を備えている。また、圧力センサ混載半導体装置は、酸化シリコン膜(20)に空洞(21)を形成している。すなわち、前述のタングステンシリサイド膜(22)と前述のシリコン基板(1)の一表面との間に空洞(21)を形成している。また、圧力センサ混載半導体装置は、前述の空洞(21)のシリコン基板(1)側に下部電極(19a)を形成している。また、圧力センサ混載半導体装置は、前述の空洞(21)のシリコン基板(1)側とは反対側にタングステンシリサイド膜(22)が形成されている。ここで、タングステンシリサイド膜(22)は、下部電極(19a)と対になって圧力センサ・圧力検知部を構成しているから、上部電極であることは明らかである。また、圧力センサ混載半導体装置は、酸化シリコン膜(20)上にタングステンシリサイド膜(22)を形成しているから、前述のシリコン基板(1)の一表面側には、タングステンシリサイド膜(22)に連続して形成された酸化シリコン膜(20)があるということができる。 また、上記ロ.の【0041】における「タングステンシリサイド膜22上には、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって形成された酸化シリコン膜23と窒化シリコン膜24が積層されている。」との記載、及び図4によれば、圧力センサ混載半導体装置は、前述のタングステンシリサイド膜(22)における前述のシリコン基板(1)側とは反対側に積層された酸化シリコン膜(23)及び窒化シリコン膜(24)とを備えている。 したがって、上記刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「シリコン基板(1)と、前記シリコン基板(1)の一表面側に形成されたタングステンシリサイド膜(22)と、前記タングステンシリサイド膜(22)における前記シリコン基板(1)側とは反対側に積層された酸化シリコン膜(23)及び窒化シリコン膜(24)とを備え、前記タングステンシリサイド膜(22)と前記シリコン基板(1)の前記一表面との間に空洞(21)が形成され、前記空洞(21)のシリコン基板(1)側に下部電極(19a)が形成され、前記空洞(21)の前記シリコン基板(1)側とは反対側に上部電極が形成されてなり、前記シリコン基板(1)の前記一表面側には、前記タングステンシリサイド膜(22)に連続して形成された酸化シリコン膜(20)がある圧力センサ混載半導体装置。」 B 原査定の拒絶の理由に引用された特開2006-88124号公報(刊行物2)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ハ.「【技術分野】 【0001】 本発明は、例えば、スピーカを対象とした音波や、超音波や単パルス的な粗密波などの圧力波を発生する圧力波発生素子に関するものである。」(2頁) ニ.「【0022】 (実施形態1) 本実施形態の圧力波発生素子は、図1(a),(b)に示すように、半導体基板1と、半導体基板1の一表面(図1(b)における上面)側に形成された熱絶縁層2と、熱絶縁層2上に形成された発熱体層3と、半導体基板1の上記一表面側で発熱体層3の両端部(図1(a)における左右両端部)それぞれと接する形で形成された一対のパッド4,4と、発熱体層3への通電時に発熱体層3と反応せず且つ各パッド4,4とは異なる材料からなりパッド4,4の熱を放熱させる一対の放熱層5,5とを備えている。本実施形態では、半導体基板1が支持基板を構成している。 【0023】 なお、本実施形態の圧力波発生素子は、発熱体層3への通電(電気エネルギの供給)に伴う発熱体層3と媒体(例えば、空気)との熱交換により圧力波(例えば、超音波など)を発生する。例えば、交流電源から一対のパッド4,4を介して発熱体層3へ正弦波状の交流電圧を印加した場合には、発熱体層3の温度がジュール熱の発生によって変化し、発熱体層3の温度変化に伴って圧力波(音波)が発生する。 【0024】 本実施形態の圧力波発生素子では、半導体基板1としてp形のシリコン基板を用いており、熱絶縁層2を多孔質シリコン層により構成している。ここで、熱絶縁層2を構成する多孔質シリコン層は、半導体基板1としてのp形シリコン基板の一部を電解液中で陽極酸化処理することにより形成されており、陽極酸化処理の条件を適宜変化させることにより、多孔度を変化させることができる。多孔質シリコン層は、多孔度が高くなるにつれて熱伝導率および熱容量が小さくなり、多孔度を適宜設定することにより熱伝導率を単結晶シリコンに比べて十分に小さくすることができる。上記特許文献1には、熱伝導率が168W/(m・K)、熱容量が1.67×10^(6)J/(m^(3)・K)の単結晶のシリコン基板を陽極酸化処理して形成される多孔度が60%の多孔質シリコン層は、熱伝導率が1W/(m・K)、熱容量が0.7×10^(6)J/(m^(3)・K)となることが報告されている。なお、熱絶縁層2は、多孔質シリコン層に限らず、例えば、SiO_(2)膜やSi_(3)N_(4)膜などにより構成してもよい。 【0025】 ここに、半導体基板1は単結晶のp形シリコン基板に限らず、多結晶あるいはアモルファスのp形シリコン基板でもよいし、また、p形に限らず、n形あるいはノンドープであってもよく、半導体基板1の種類に応じて陽極酸化処理の条件を適宜変更すればよい。したがって、熱絶縁層2を構成する多孔質半導体層も多孔質シリコン層に限らず、例えば、多結晶シリコンを陽極酸化処理することにより形成した多孔質多結晶シリコン層や、シリコン以外の半導体材料からなる多孔質半導体層でもよい。」(4?5頁) 上記刊行物2の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ニ.の【0024】における「本実施形態の圧力波発生素子では、半導体基板1としてp形のシリコン基板を用いており、熱絶縁層2を多孔質シリコン層により構成している。」との記載によれば、圧力波発生素子は、多孔質シリコン層からなる熱絶縁層(2)を備えている。 したがって、上記刊行物2には、以下の発明(以下、「技術事項1」という。)が記載されているものと認められる。 「多孔質シリコン層からなる熱絶縁層(2)を備える圧力波発生素子。」 C 原査定の拒絶の理由に引用された特表2004-512190号公報(刊行物3)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 ホ.「【0001】 背景技術 本発明は、第1のドーピングを備えた基板材料と、基板内に設けられたマイクロメカニックな機能組織と、マイクロメカニックな機能組織を少なくとも部分的に覆うためのカバー層とを備えているマイクロメカニックな構造エレメントに関する。本発明はやはり相応する製法に関する。」(4頁) ヘ.「【0011】 このような気孔性の基板材料、特に気孔性のケイ素、を使用することによって、比較的に簡単に、1つのプロセスステップ内で、その上に位置するダイヤフラムを備えた中空室を製作することができる。同じプロセスステップ内で、マイクロメカニックな組織を製作することができる。本発明によるマイクロメカニックな構造エレメント及び相応する製法の重要な利点は要するに: -マイクロメカニックな組織を製作すること、 -ただ1つのプロセスステップ内で、その上にダイヤフラムを備えている中空室内で、 -ウェーハ対ウェーハの調節を備えたキャップウェーハを必要としないこと、 -中空室内に真空を封入することが可能であること、 -複雑な深さプロフィールを備えた組織の製作が可能であること、 である。」(5頁) ト.「【0029】 図1a?cは、マイクロメカニックな構造エレメントを製作するための本発明による製法の1実施形を説明するための概略的な横断面図を示す。 【0030】 図1aにおいて、10はpドーピングされた、ケイ素から成るウェーハ基板を示し、15はnドーピングされた、基板10の範囲を示し、20は金属マスクを示し、かつ、21は金属マスク開口を示す。 【0031】 本実施形による方法では、基板10内のnドーピングされた範囲は、標準半導体プロセスにより、pドーピングされた基板10内に生ぜしめられる。このようなプロセスの例は、インプランテーション法であり、エネルギの調整によって浸入深さを相応する分配をもって固定することができる。nドーピングされた範囲15はこれにより基板表面の下側のある程度の深さのところにあり、かつ、可能ならば、図示されてはいないが、基板表面に配置されている。 【0032】 続くプロセスステップにおいて、基板表面の部分が金属マスク20でマスクされる。金属マスク20の代わりに、窒化物マスク、酸窒化物マスクあるいは類似物を使用することもできる。 【0033】 図1bに関して、マスク20によって規定された、基板10の範囲が、フッ化水素酸(HF)によって電気化学的に気孔性にエッチングされる。気孔性はこの場合電流密度によって制御される。最初はわずかな電流密度が印加され、これによって小さな気孔性を備えた層が生ぜしめられる。次いで電流密度が臨界値の上方に高められる。付加的にフッ化水素酸を減少させることができ、あるいは、H_(2)の形成を阻止する他の溶液を使用することができる。これにより気孔性の層30の下側の範囲内の気孔は大きくなり、基板材料が完全にエッチングされ、かつ、中空室50が残りの気孔性の層30の下方に形成される。このことは、電解研磨と呼ばれる。材料除去はこの場合気孔性の層30を通して行われる。 【0034】 このようにして形成された、範囲15によって形成された機能平面内の組織は、解放された組織60と固定の組織70とを有しており、及び特に支持範囲40によって気孔性の層30と結合されている組織エレメントも、要するにいわばダイヤフラム支持体を形成している組織エレメントも、有している。nドーピングされた組織の幅に応じて、組織は要するに特にアンダーエッチングをすることもでき、かつ、これにより解放することができる(図1bにおける符号60を見よ)。 【0035】 この実施形による本発明による製法では、半導体基板内の種々異なるドーピング、ここではnとp、が電気化学的なエッチング攻撃に異なって反応することが利用される。特に、半導体基板10内のpドーピングされた範囲は極めて良好に陽極酸化せしめることができ、nドーピングされた範囲15はこれに対しエッチング攻撃に対して極めて良好に抵抗する。埋められた、nドーピングされた範囲15はしたがって陽極酸化中に攻撃されない。nドーピングされた範囲15上の、万一表面に形成される、気孔性のフィルムはH2内での温度処理によって、あるいはケイ素をエッチングする溶液、例えばTMAH、あるいはKOHを含有する溶液内に短く漬けることによって、取り除くことができる。エッチングフロントはこの場合、nドーピングされた範囲15の回りを延びる。 【0036】 図1cに関して、気孔性のケイ素範囲30の、中空室50を上方に向かって制限する気孔は、種々のプロセスによって閉じることができる。可能なのは、閉鎖層75の形成のための、気孔性の層30の、酸化物、窒化物、金属、エピタクシーあるいは酸化による層分離である。H_(2)内での温度処理、例えば1000℃よりも上方の温度での温度処理も、真空密の閉鎖を生ぜしめることができる。閉鎖プロセス中の圧力比は中空室50内に生ずる内圧を定め、その際H_(2)は温度処理によって拡散することができる。 【0037】 図1cに示した組織は加速度センサとして役立つことができる。公知の形式で、解放された組織60が横加速度の場合に振動することができ、これによって、周期的に、解放されている組織60と固定の組織70との間の間隔が変化する。間隔変化は公知の形式でインターデジタルコンデンサによって容量性に評価することができる。真空を閉鎖ダイヤフラムの下方で気孔性の範囲30と閉鎖層75との間に封入しておく場合には、これは前述の支持範囲40によって安定化することができる。」(7?8頁) 上記刊行物3の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、上記ト.の【0033】における「図1bに関して、マスク20によって規定された、基板10の範囲が、フッ化水素酸(HF)によって電気化学的に気孔性にエッチングされる。気孔性はこの場合電流密度によって制御される。最初はわずかな電流密度が印加され、これによって小さな気孔性を備えた層が生ぜしめられる。次いで電流密度が臨界値の上方に高められる。付加的にフッ化水素酸を減少させることができ、あるいは、H2の形成を阻止する他の溶液を使用することができる。これにより気孔性の層30の下側の範囲内の気孔は大きくなり、基板材料が完全にエッチングされ、かつ、中空室50が残りの気孔性の層30の下方に形成される。このことは、電解研磨と呼ばれる。」との記載、図1aないし1cによれば、構造エレメントは、基板(10)に気孔性の層(30)と中空室(50)とを形成する際に、フッ化水素酸で最初に電気化学的にエッチングすることで気孔性の層(30)を形成し、電流密度を高めて電解研磨することで中空室(50)を形成している。 したがって、上記刊行物3には、以下の発明(以下、「技術事項2」という。)が記載されているものと認められる。 「基板(10)に気孔性の層(30)と中空室(50)とを形成する際に、フッ化水素酸で最初に電気化学的にエッチングすることで気孔性の層(30)を形成し、電流密度を高めて電解研磨することで中空室(50)を形成する構造エレメント。」 2.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 a.引用発明の「タングステンシリサイド膜(22)」と、本願発明の「真空封止用多孔質層」とは、いずれも、「特定の真空封止用層」という点で一致する。 b.引用発明の「酸化シリコン膜(23)及び窒化シリコン膜(24)」は、上記刊行物1の上記ロ.の【0041】における「酸化シリコン膜23は孔22aを塞ぐ、窒化シリコン膜24は外部からの水分の浸入を防止する、役割をそれぞれ有する。」との記載によれば、タングステンシリサイド膜(22)にふた(キャップ)をしているから、「キャップ層」ということができる。 c.引用発明の「空洞(21)」と、本願発明の「真空層」とは、いずれも、「特定の空洞層」という点で一致する。 d.引用発明の「下部電極(19a)」及び「上部電極」は、両者が対となって圧力センサ・圧力検知部におけるコンデンサを構成しているから、それぞれ「コンデンサの一方の電極となる固定電極」及び「コンデンサの他方の電極となる可動電極」ということができる。 e.引用発明の「酸化シリコン膜(20)」と、本願発明の「ポリシリコン層」とは、いずれも、「特定のシリコン層」という点で一致する。 f.引用発明の「圧力センサ混載半導体装置」は、「下部電極(19a)」及び「上部電極」が対となって圧力センサ・圧力検知部におけるコンデンサを構成し、装置全体として圧力センサとなっているから、「静電型トランスデューサ」ということができる。 したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致ないし相違している。 (一致点) 「シリコン基板と、前記シリコン基板の一表面側に形成された特定の真空封止用層と、前記特定の真空封止用層における前記シリコン基板側とは反対側に積層されたキャップ層とを備え、前記特定の真空封止用層と前記シリコン基板の前記一表面との間に特定の空洞層が形成され、前記特定の空洞層の前記シリコン基板側にコンデンサの一方の電極となる固定電極が形成され、前記真空層の前記シリコン基板側とは反対側に前記コンデンサの他方の電極となる可動電極が形成されてなり、前記シリコン基板の前記一表面側には、前記特定の真空封止用層に連続して形成された特定のシリコン層がある静電型トランスデューサ。」 (相違点1) 「シリコン基板」に関し、 本願発明は、「単結晶の」シリコン基板であるのに対し、引用発明は、「単結晶の」との特定がない点。 (相違点2) 「特定の真空封止用層」に関し、 本願発明は、「真空封止用多孔質層」であり、「前記真空封止用多孔質層は、多孔質ポリシリコン層からなる」のに対し、引用発明は、「タングステンシリサイド膜(22)」である点。 (相違点3) 「特定の空洞層」に関し、 本願発明は、「真空層」であるのに対し、引用発明は、「空洞(21)」である点。 (相違点4) 「特定のシリコン層」に関し、 本願発明は、「ポリシリコン層」であるのに対し、引用発明は、「酸化シリコン膜(20)」である点。 3.判断 (1)請求項1について そこで、まず、上記相違点2について検討する。 引用発明の「タングステンシリサイド膜(22)」は、製造時にフッ酸を導入するために複数の孔(22a)が開口されているという構造上の役割以前に上部電極の役割を有するものであり、タングステンシリサイド膜(22)に換えて、抵抗の高い「多孔質ポリシリコン層」を採用する動機づけを見いだすことができない。 また、技術事項1は、「多孔質シリコン層」を開示しているものの、「多孔質シリコン層」を用いる目的は、上記刊行物2の上記ニ.の【0024】における「多孔質シリコン層は、多孔度が高くなるにつれて熱伝導率および熱容量が小さくなり、多孔度を適宜設定することにより熱伝導率を単結晶シリコンに比べて十分に小さくすることができる。」との記載によれば、熱伝導率を十分に小さくする目的に使用されるものであり、そもそも目的が異なる。 また、技術事項2は、「基板(10)に気孔性の層(30)と中空室(50)とを形成する際に、フッ化水素酸で最初に電気化学的にエッチングすることで気孔性の層(30)を形成し、電流密度を高めて電解研磨することで中空室(50)を形成する構造エレメント。」を開示しているものの、技術事項2の「基板(10)」は、上記刊行物3の上記ト.の【0030】における「図1aにおいて、10はpドーピングされた、ケイ素から成るウェーハ基板」との記載によれば、「pドーピングされたケイ素から成るウェーハ基板」であり、一方、引用発明は、前述のように「酸化シリコン膜(20)」であるから、電解研磨する対象となる物質が異なり、引用発明に技術事項2を採用する動機づけを見いだすことができない。 そして、本願発明は、「真空封止用多孔質層」を備えることにより、真空封止用多孔質層の微細孔を通してフッ酸系溶液により選択的にエッチングすることで真空層を形成するという製造上の意義があり、真空層の高真空化による高性能化が可能となるという作用効果を奏するものである。 次に、上記相違点1、3及び4について検討する。 引用発明の「空洞(21)」は、上記刊行物1の上記ロ.の【0039】における「空洞25の内部は窒素を主成分とするほぼ1気圧の気体で満たされている。」との記載によれば、1気圧の気体で満たされており、真空ではないから、そもそも、本願発明の前提を欠いている。また、上記刊行物3の上記ヘ.の【0011】における「中空室内に真空を封入することが可能である」との記載のように「真空」にするという記載があったとしても、引用発明の「空洞(21)」に換えて「真空層」(相違点3)にする動機づけを見いだすことができない。 加えて、引用発明及び技術事項1及び2には、本願発明の「単結晶のシリコン基板」及び「ポリシリコン層」について開示も示唆もされていない。仮に、「単結晶のシリコン基板」及び「ポリシリコン層」が当該技術分野において周知であったとしても、「シリコン基板」及び「酸化シリコン膜(20)」に換えて、それぞれ「単結晶のシリコン基板」(相違点1)及び「ポリシリコン層」(相違点4)を採用する動機づけを見いだすことができない。 したがって、本願発明は、引用発明及び技術事項1及び2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 (2)請求項2ないし5について 請求項2ないし5は、請求項1に従属する請求項であり、本願発明の発明特定事項をすべて含みさらに発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記(1)と同じ理由により、引用発明及び技術事項1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願の請求項1ないし5に係る発明は、刊行物1ないし3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-02-05 |
出願番号 | 特願2008-206012(P2008-206012) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H04R)
|
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 大石 剛 |
特許庁審判長 |
酒井 伸芳 |
特許庁審判官 |
萩原 義則 関谷 隆一 |
発明の名称 | 静電型トランスデューサ |
代理人 | 北出 英敏 |
代理人 | 坂口 武 |
代理人 | 西川 惠清 |
代理人 | 仲石 晴樹 |