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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K |
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管理番号 | 1284117 |
審判番号 | 不服2009-1995 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2009-01-26 |
確定日 | 2014-01-29 |
事件の表示 | 特願2001-552936「一部の癌の治療における抗フェリチンモノクローナル抗体の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 7月26日国際公開、WO01/52889、平成15年 7月 2日国内公表、特表2003-520250〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、2001年1月19日(パリ条約による優先権主張 2000年1月20日 仏国)を国際出願日とする出願であって、平成20年10月20日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、平成21年1月26日に拒絶査定不服審判が請求され、その後、平成24年8月6日付けで拒絶理由が通知されたのに応答して、平成25年2月7日付けで意見書及び手続補正書が提出された。そして、本願の請求項1?21に係る発明は、平成25年2月7日付け手続補正書の特許請求の範囲に記載されたとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は以下のとおりである。 「【請求項1】 膵臓腺癌の治療のための薬剤の製造における、抗フェリチンモノクローナル抗体またはその断片またはそのような断片を含む構築物の使用であって、前記抗体または前記断片は、以下の特徴を有する使用: -酸性及び塩基性ヒトフェリチンに共通のエピトープを認識し、 -反復性であるエピトープを認識し、 -抗原に対する親和性が10^(-9)モル/リットル以上であり、且つ -ヒト以外の全ての細胞または組織に対して、ネガティブな反応性を有する。」 2.拒絶の理由の概要 これに対し、当審が通知した平成24年8月6日付けの拒絶の理由の概要は、本願発明における「当該抗フェリチンモノクローナル抗体」の入手方法が十分に開示されているとはいえないから、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないので、本願は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない、というものである。 3.判断 (1) 特許法第36条第4項に規定する要件について 本願発明は、「膵臓腺癌の治療のための薬剤の製造における、抗フェリチンモノクローナル抗体またはその断片またはそのような断片を含む構築物の使用」に関する発明であって、前記抗体又は断片は、以下の(a)?(d)の性質を有することによって特定されるものである。 (a)酸性及び塩基性ヒトフェリチンに共通のエピトープを認識すること (b)反復性であるエピトープを認識すること (c)抗原に対する親和性が10^(-9)モル/リットル以上であること (d)ヒト以外の全ての細胞または組織に対して、ネガティブな反応性を有すること 当業者が本願発明を実施するためには、上記抗体又は断片を入手する必要があるので、本件出願時の当業者が、上記抗体又は断片を本件明細書の発明の詳細な説明に基づいて、入手可能であるかどうかについて検討する。 (2)本願明細書の記載事項 本願明細書には、「当該抗フェリチンモノクローナル抗体」の製造方法に関連して次の事項が記載されている。 (ア)「使用するフェリチンの抽出‐精製手法からは、酸性と塩基性の2つの形態のフェリチンを極めて高い純度で得ることができる。本発明で用いる抽出‐精製手法は、特に小球状赤血球性貧血を発症した患者から抽出して精製したヒトフェリチンの抽出、および精製を含む。意外にも、KolherとMilsteinの古典的手法を使用して得られる一部のモノクローナル抗体は、もっぱらヒトの酸性及び塩基性のすべてのイソフェリチンに共通なエピトープを認識する(……)。モノクローナル抗体のスクリーニングは2段階で行われる:i)動物の免疫に使用したものと同じフェリチンで被覆した固相上で抗フェリチン抗体を捕獲することによって選択する、ii)ヨウ素125で放射標識した同じフェリチンを穴に添加して、この固相上に固定された抗フェリチン特異的抗体が固定されたことを明らかにする。精製フェリチンとヨウ素125で標識したフェリチンを使用する固相上での抗体の選択は、すべてのヒト酸性及び塩基性イソフェリチンに共通で反復性のエピトープに対する抗体を選択することを可能にする。「反復性エピトープ」とは、1つの分子上に複数存在する同じエピトープを意味する。」(【0020】) (イ)「本発明に使用可能なモノクローナル抗体の品質とは、一方は免疫法のために使用される抗原の品質であり、他方はその純度である。 モノクローナル抗体の獲得プロセスにおいてマウスの免疫化のために使用したフェリチンは、Minkowski-Chauffard病を罹患した脾臓から得られ、Granick法によって硫酸アンモニウムおよび変性硫酸カドミウムで抽出した。下記の実施例1内に記したプロトコルに基づいて、抽出して精製されたこのフェリチンを、モノクローナル抗体を生産するハイブリドーマを得るためのマウスの免疫に使用した。」(【0032】?【0033】) (ウ)「下記の表1では、本発明による抽出精製および免疫化の技術に基づいて得られたハイブリドーマをクローニングした後に得られた、いくつかの抗体の特徴を要約している。 この表には、試験したモノクローナル及びポリクローナルの呼称、それらのアイソタイプ特性、それらのフェリチンに対する親和性、並びに、Ouchterlonyの免疫拡散技術による析出によって測定された一連の全てのフェリチンに対する反応性が示されている。本発明に使用可能な抗体は、ヒト以外の全ての細胞または組織、例えば馬の脾臓やLIA(レミア抑制活性に関して)に対して、ネガティブな反応性を有する必要がある。ただし、ポリクローナル抗体またはM211モノクローナルに関してはこの限りではない。 本発明に使用可能な抗体の他の特徴は、それらの一定の親和性にある。この表にある抗体の中では、B8とM29のみが本発明に使用可能なように思われる。」(【0034】?【0036】) (エ)「従って、これらのマウス抗体のFc部位をヒト化するなり、再編成するなりによって回避することが好ましい。キメラ抗体を産生させることによる解決法がたびたび採用された(……)。今後は、ハイブリドーマによって産生されたモノクローナル抗体の2本鎖をコードする遺伝子をクローニングすることが可能になり、これらの生産はin vitroで操作可能であり、続いて、選択された細胞に適した発現ベクター内に再挿入した後に、リンパ系、その他の分泌細胞内に再び導入される。かくして、マウスまたはラットの可変領域とヒトの定常領域とを備えた新しいモノクローナル抗体が編成される。種々のタイプの免疫グロブリンを得ることができる。全ての事例において、これら免疫グロブリンの特異性は、使用した可変領域のものと同じであると思われるが、編成中に選択されたアイソタイプによってはヒトの免疫グロブリンに対して有効な特性を備えている。」(【0038】) (オ)「2番目のアプローチは、抗体の再編成にある(……)。概略的には、このアプローチの出発点は、抗体が自己を認識する抗原のエピトープと接触する部位は、ハイパーバリアブルと呼ばれる可変領域の所定の配列に局在しているという観察である。この技術は、「抗原との補完性を決定する領域」または「CDR」と呼ばれるマウスの免疫グロブリンのハイパーバリアブル領域を、ヒト免疫グロブリンのクラスGの可変領域に移植するものである。 つまり、Ckacksonら(……)および、Lemer Huseら(……)の方法では、免疫グロブリンGの重鎖のV遺伝子を発現マウスにおいて増産させるために、PCR技術を利用した。このようにして免疫されたマウスの脾臓から抽出された遺伝子DNAから、種々のレパートリーが作り出された。抗体の可変な遺伝子配列の全体を備えたベクターのライブラリーが実現された。一つのλバクテリオファージをE.coli内の発現ベクターとして使用した。この技術によって、抗体の単一鎖のVHドメインを得ることができる。次に、PCR技術を利用して、リンカーによりVK領域と連結されたVHドメインから得られた単一鎖Fv断片を生産する。すなわち、この方法によって、非免疫原性の環境下において、特異的な断片を簡単で安価に生産することが可能となる。 つまり、本発明によるモノクローナル抗体は、IgGまたはIgMのいずれかのタイプであろうが、単一特異性、二特異性、或いは多特異性であり得る。上記の遺伝子操作技術は、一方はフェリチンに対して、他方では、標的としたい細胞表面に特異的なレセプタまたは抗原に対する特異性を伴わせることを可能にする。」(【0039】?【0041】) (カ)「b)マウスの免疫: マウスを免疫することによるモノクローナル抗体の獲得、およびクローニングは、KolherおよびMilsteinの古典的な方法によって実施した。 c)ハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体の生産と精製: ハイブリドーマは、マルチトレイ上のin vitroの細胞培養システム内で培養した(……)。 細胞は、RPMI4+TCH中でインキュベーターに置かれた。接種材料は、200mlのTCH内に5×10^(7) で構成されている。RPMI培地(約100から200ml)を2日間にわたって合流まで添加した。細胞が死んでから約1週間後に浮遊物を採集した。 浮遊物を、10倍に濃縮し、次にプロテインGセファロースFF(Pharmasia)クロマトグラフィーのカラムを充填し、半分に希釈した後に、20mM、pH7のリン酸ナトリウムの緩衝液でクロマトグラフィーした後、抗体は0.1MでpH7のHCLグリシン緩衝液で溶出し、カラムをすぐに0.2M、pH7のリン酸カリウムの緩衝液で脱塩した。得られた純度のパーセンテージは少なくとも95%であった。次にアイソタイプ、等電位点、免疫拡散による反応性を、これらの精製されたプレパラート上で調査した。 得られた下記の表Iに示されている種々の抗体の中で、B8とM29のモノクローナル抗体が、ヒト細胞に対する親和性と特異性の点で最も興味深いものと思われる。これらの2つの抗体はIgG1カッパーのアイソタイプである。」(【0066】?【0070】) (キ)「b)膵臓の腺癌。アルカリホスファターゼを用いた古典的な技術によって、PBS緩衝液で1/250で希釈されたAMB8LK抗体による免疫組織化学の調査を実施した。 4%のパラフォルムアルデヒド、0.1MでpH7.4のエタノールアミドのバスによって、組織を固定して、パラフィン内に流した。5μの切片が得られた。キシレンエタノールのバスにおいて脱パラフィン化した後、牛血清アルブミンと保温することによって非特異的反応をブロックした。切片は、1/25溶液のAMB8LK抗体で、室温において1時間保温した。AMB8LKの固定の可視化は、ペロキシダーゼのシステムによって行った(……)。 得られた結果を図1に示す。 写真AとBの観察によって、Reed Sternbergの全ての腫瘍細胞では、フェリチン発現に関して陽性であることが示された。 同様に、写真Cの観察によって、腫瘍自身は、フェリチン発現に関して強い陽性であることが示された。」(【0072】?【0076】) (ク)「本発明のモノクローナル抗体AMB8LKが、ヒトフェリチンを検出するためのELISAサンドイッチ試験を実施するために使用された。 より正確には、ELISA試験は以下のプロトコルに沿って実施した: a)保温: 50μlの標準または患者の血清を各ウエルにのせた。ペルオキシダーゼ結合AMB8LK抗フェリチン抗体を200μl添加した。次に、各ウエルにAMB8LK抗体で被覆されたボールを加えた。混合物を攪拌しながら室温で2時間保温した。次に、1.5ml の9%NaCl、2%Tween20の溶液で3回洗浄した。 b)着色反応: 300μlの基質(OPD)を各チューブ内に配置した。混合物を遮光状態で室温にて30分間保温した。各チューブに1MのHClを2ml添加した。 c)解釈: フェリチンによって固定された抗体量を反映する492nmの吸収を測定した。尚、フェリチン自身も固相の抗体に固定されている。 図3は、試験の結果を示している。 この試験によって元のヒトフェリチンを検出することができる: -脾臓の -肝臓の -心臓の -胎盤の ここに示された結果は、AMB8LK抗体によるサンドイッチ試験が実施可能であることを示している。これらの結果はこれらの抗体がヒト・イソフェリチンにおける反復性の共通のエピトープを認識することを示している。」(【0079】?【0084】) (3)判断 上記(ア)は、モノクローナル抗体をKolherとMilsteinの古典的手法を使用して得、スクリーニングを2段階で行うとの一般的な記載のみで、具体的入手方法は記載されていない。 上記(イ)は、モノクローナル抗体を得るための抗原の入手方法及び抗原をハイブリドーマを得るためのマウスの免疫に使用したことが記載されているが、ハイブリドーマを得たことは記載されていない。 上記(ア)、(イ)は、モノクローナル抗体を作る一般的な手法を述べるにすぎないものであり、また、この記載によるまでもなく、ある抗原に対して単に親和性を有するというだけであれば、そのような特性のモノクローナル抗体を得ることは、本件出願時の当業者にとって周知の事項であったと認められる。そして、上記(ア)の、「意外にも、KolherとMilsteinの古典的手法を使用して得られる一部のモノクローナル抗体は、もっぱらヒトの酸性及び塩基性のすべてのイソフェリチンに共通なエピトープを認識する」ことを記載した論文を引用した記載から、本願発明の抗体又は断片の特性のうちの「(a)酸性及び塩基性ヒトフェリチンに共通のエピトープを認識すること」という特性を有するモノクローナル抗体については、古典的手法を使用して製造できた例が過去にあることは理解できる。 しかし、一般に、たとえ、免疫原、免疫方法、抗体のスクリーニング方法や確認手段等が記載されていても、ある特定の反応性を有する抗体を産生するようなハイブリドーマを再現性をもって得ることは困難であり、まして、本願発明の抗体又は断片は、請求項1の(a)?(d)という複数の特性を有する、高度に特異的な抗体であるのだから、たとえ、該特性(a)を有するモノクローナル抗体の製造が、当業者にとってさほど過度の試行錯誤を要しないものであったとしても、上記特性(a)に加えて、さらに、特性(b)?(d)を併せ持つようなモノクローナル抗体を製造することは、特性(a)?(d)のすべての条件を満たすモノクローナル抗体を、スクリーニングを多数繰り返し行う必要があり、つまり、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものと認められる。 なお、上記(ア)の「モノクローナル抗体のスクリーニングは2段階で行われる:i)動物の免疫に使用したものと同じフェリチンで被覆した固相上で抗フェリチン抗体を捕獲することによって選択する、ii)ヨウ素125で放射標識した同じフェリチンを穴に添加して、この固相上に固定された抗フェリチン特異的抗体が固定されたことを明らかにする。精製フェリチンとヨウ素125で標識したフェリチンを使用する固相上での抗体の選択は、すべてのヒト酸性及び塩基性イソフェリチンに共通で反復性のエピトープに対する抗体を選択することを可能にする。「反復性エピトープ」とは、1つの分子上に複数存在する同じエピトープを意味する。」との記載は、文脈からみて、「すべてのヒト酸性及び塩基性イソフェリチンに共通で反復性のエピトープに対する抗体」のスクリーニング方法を述べているものと理解できるが、内容的に疑義がある。 すなわち、固相に固定されているのは抗原であるフェリチンであり、「i)」の工程で、それと親和性のある抗体が捕獲されるが、「ii)」の工程では、標識されたフェリチンを添加しているのであるから、上記抗体は、固相に固定されたフェリチンに結合したままか、新たに添加された標識されたフェリチンに結合するかのいずれかとなり、フェリチン分子に「反復性エピトープ」があることが何ら利用されていない。「酸性及び塩基性イソフェリチンに共通」のエピトープであることも、このスクリーニング方法によっては選別できない。 上記(ウ)は、ハイブリドーマをクローニングしていくつかのモノクローナル抗体を得たこと及びモノクローナル抗体B8とM29が本発明に使用可能であることが記載されているが、それらと同一の抗体を入手する方法が、当業者が再現可能な程度には記載されていないから、この記載をもってしても、過度の試行錯誤を要する状況に変わりはない。 上記(エ)は、マウス抗体のFc部位をヒト化して、キメラ抗体を産生させること、今後の展望として、ハイブリドーマによって産生されたモノクローナル抗体の2本鎖をコードする遺伝子をクローニングすることが可能になり、続いて、選択された細胞に適した発現ベクター内に再挿入した後に、リンパ系、その他の分泌細胞内に再び導入され、マウスまたはラットの可変領域とヒトの定常領域とを備えた新しいモノクローナル抗体が編成されて、種々のタイプの免疫グロブリンを得ることができることが記載されているものの、「2本鎖をコードする遺伝子」の配列は記載されていない。 上記(オ)は、「CDR」領域を、PCR技術を利用して、単一鎖Fv断片を生産することが一般的な方法として記載されているが、本願発明におけるモノクローナル抗体の「CDR」領域の遺伝子配列を記載したものではない。 したがって、本件の詳細な説明の記載に基づいて、上記(エ)又は(オ)の手法により、本願発明の抗体又は断片を得ることは、当業者といえども困難である。 上記(カ)は、 「ハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体の生産と精製」について記載され、モノクローナル抗体B8とM29を得たことが記載されているが、1つのハイブリドーマが生産する抗体は1種類であることに鑑みれば、モノクローナル抗体B8とM29を生産することができるハイブリドーマを選別し特定する工程に試行錯誤が必要なものと認められるところ、ハイブリドーマを特定する記載はないのであるから、モノクローナル抗体B8とM29を、当業者が過度な試行錯誤を伴うことなく入手する方法が本願の発明の詳細な説明が記載されていない点に変わりはない。 上記(キ)は、膵臓の腺癌をAMB8LK抗体による免疫組織化学の調査を実施し、写真Cの観察によって、腫瘍自身は、フェリチン発現に関して強い陽性であることが示されているが、AMB8LK抗体を、当業者が過度な試行錯誤を伴うことなく入手する方法は記載されていない。 上記(ク)は、モノクローナル抗体AMB8LKが、ヒトフェリチンを検出するためのELISAサンドイッチ試験を実施するためのプロトコル及びこの試験によって元の脾臓、肝臓等のヒトフェリチンを検出することができることを示しているだけで、モノクローナル抗体AMB8LKを、当業者が過度の試行錯誤を伴うことなく入手する方法は記載されていない。 このように、発明の詳細な説明には、本願発明における「当該抗フェリチンモノクローナル抗体」として、モノクローナル抗体B8及びM29を得たこと(上記(ウ)及び(カ))及びAMB8LK抗体を用いて膵臓の腺癌の免疫組織化学の調査を行ったこと(上記(キ)及び(ク))が記載されているが、上記(ウ)、(カ)、(キ)、(ク)には、モノクローナル抗体を入手する一般的な方法が記載されているにすぎず、本願発明における特定の性質を有する「当該抗フェリチンモノクローナル抗体」を、当業者が過度の試行錯誤を伴うことなく入手する方法は記載されていない。 また、本願について、「当該抗フェリチンモノクローナル抗体」を生産するハイブリドーマの寄託を証明する書面も提出されていないのであるから、上記モノクローナル抗体を、それを産生するハイブリドーマの分譲によって入手することもできない。 したがって、本願明細書の発明の詳細な説明に、本願発明を当業者が実施できる程度に記載されているとは明確かつ十分に記載したものとはいえないので、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。 なお、請求人は意見書において、『本願明細書には、抗原の科学的入手方法に関して詳細に記載されています。すなわち、当該分野で既知の技術(例えば、硫酸アンモニウム沈殿、分離およびカラムクロマトグラフィー)を用いて、Minkowski-Chauffard脾臓から精製されることが記載されています。 最初に述べたように、KohlerおよびMilstein法(……)は、本願の優先日において周知であり、再現可能な方法でした。従って、本願出願時において、当業者は、特許請求の範囲に記載の抗体と同じ特性を有するモノクローナル抗体を問題なく産生することができました。 それ故、理由1と同様の理由により、本願の発明の詳細な説明は、当業者により容易に再現され、実施可能な程度に明確且つ十分に記載されていると思料致します。』と主張しているが、抗原の入手方法が記載が具体的に記載されているものの、それを用いたハイブリドーマ法による「当該抗フェリチンモノクローナル抗体」の製造方法は一般的な記載があるのみであるから、上記(3-1)に述べた理由により、請求人の主張は採用できない。 4.むすび 以上のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-08-30 |
結審通知日 | 2013-09-03 |
審決日 | 2013-09-17 |
出願番号 | 特願2001-552936(P2001-552936) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(A61K)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 菊池 美香 |
特許庁審判長 |
内田 淳子 |
特許庁審判官 |
中村 浩 前田 佳与子 |
発明の名称 | 一部の癌の治療における抗フェリチンモノクローナル抗体の使用 |
代理人 | 河野 哲 |
代理人 | 峰 隆司 |
代理人 | 白根 俊郎 |
代理人 | 河井 将次 |
代理人 | 野河 信久 |
代理人 | 岡田 貴志 |
代理人 | 風間 鉄也 |
代理人 | 幸長 保次郎 |
代理人 | 佐藤 立志 |
代理人 | 河野 直樹 |
代理人 | 蔵田 昌俊 |
代理人 | 福原 淑弘 |
代理人 | 勝村 紘 |
代理人 | 堀内 美保子 |
代理人 | 市原 卓三 |
代理人 | 竹内 将訓 |
代理人 | 山下 元 |
代理人 | 中村 誠 |
代理人 | 砂川 克 |
代理人 | 村松 貞男 |