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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61K
管理番号 1284118
審判番号 不服2009-11445  
総通号数 171 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-03-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2009-06-22 
確定日 2014-01-29 
事件の表示 特願2002-590926「噴霧可能な美容組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成14年11月28日国際公開、WO02/94205、平成16年10月14日国内公表、特表2004-531554〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成14年5月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2001年5月18日、アメリカ合衆国(US))を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は次のとおりのものである。

平成19年 6月11日付け 拒絶理由通知
平成21年 3月11日付け 拒絶査定
平成21年 6月22日付け 審判請求書
平成21年 7月22日付け 手続補正書
平成21年 7月22日付け 手続補正書(方式)
平成23年 2月22日付け 審尋
平成24年 4月26日付け 拒絶理由通知(当審1回目)
平成24年11月 7日付け 意見書・手続補正書
平成24年12月21日作成 応対記録
平成24年12月25日付け 拒絶理由通知(当審2回目)
平成25年 7月 8日付け 意見書・手続補正書

第2 本願発明
本願の請求項1?17に係る発明は、平成25年7月8日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?17に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「【請求項1】
欠点を隠しかつ生来の容貌を引きたたせる方法であって、
塗布しようとする皮膚の領域に加圧容器のノズルを向ける工程と、
皮膚表面に周囲の皮膚になじむ、均一で、薄い塗膜が形成される化粧品組成物を皮膚に噴霧する工程とを含む方法であり、
前記加圧容器が、皮膚表面での厚さが均一となる、薄い、耐水性の塗膜で、かつ、塗布している間に噴霧対象領域の周縁部に向かって厚さが漸減する塗膜を形成し得る化粧品組成物を保持しており、
前記化粧品組成物が、
水5.0?70.0重量%と、
電解質0.1?3.0重量%と、
シクロメチコーン/ジメチコーン・コポリオール混合物1.0?20.0重量%と、
ポリグリセリル-4オレエート/PEG(ポリエチレン グリコール)-8プロピレングリコール・ココエート混合物0.5?10.0重量%と、
クオタニウム-18ヘクトライト、シクロメチコーンおよびプロピレンカーボネート混合物0.5?10.0重量%と、
超微粉二酸化チタンの典型的な粒径0.15から0.3オングストロームである超微粉砕二酸化チタンを含有する、C12?15安息香酸アルキルと超微粉二酸化チタンの混合物;シクロメチコーンと超微粉二酸化チタンの混合物;水と超微粉二酸化チタンの混合物;パルミチン酸エチルヘキシルと超微粉二酸化チタンの混合物;カプリル/カプリン酸トリグリセリドと鉱油と超微粉二酸化チタンの混合物;および/またはカプリル/カプリン酸トリグリセリドと超微粉二酸化チタンの混合物1.0?20.0重量%と、
合成ワックス0.1?5.0重量%と、
シクロメチコーン0.5?50.0重量%と、
パンテノール0.1?3.0重量%と、
金属酸化物3.0?20.0重量%と、
防腐剤とを含んでおり、ここで 前記組成物は傷んだ皮膚を乾燥させることなく、またレーザー治療した皮膚にも付着する組成物である、
方法。」(注:下線は原文のとおり)

第3 記載不備(36条4項違反)について
1 拒絶理由通知(当審2回目)の概要
(1)拒絶理由通知(当審2回目)は、「本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。」という理由を含むものである。

(2)その概要は、平成24年11月7日付けの手続補正書の請求項1(以下、「補正前の請求項1」という。)について、補正前の請求項1に記載されている「『粒径が0.015?0.03ナノメートルの超微粉砕二酸化チタンを含有する、・・・超微粉二酸化チタンの混合物』は、明細書の記載及び技術常識を参酌しても、『粒径が0.015?0.03ナノメートルの超微粉砕二酸化チタン』を製造すること、あるいは、入手することができるとはいえないため、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない」というものである。

(3)そして、上記指摘とともに、意見書において、「粒径が0.015?0.03ナノメートルの超微粉砕二酸化チタン」を製造する方法を示すか、入手できることが理解できるカタログなどを提示して、実施可能であることを釈明するよう指摘するとともに、チタン原子の原子半径は0.15nm程度であり、Ti^(3+)又はTi^(4+)とO^(2-)との原子間距離は0.2nm程度であること、市販の二酸化チタン微粒子の粒子サイズは小さくても1nmを下回るものは見あたらないことを考慮すると、粒径が最大でも0.03nmの超微粉砕二酸化チタンが現実に存在するとは認めがたいため、誤記であった可能性もあるが、明細書の記載をそのままとし、誤記であったと主張するだけでは、この拒絶の理由は解消しない旨も指摘している。

(4)また、「平成24年2月26日付けでした当審の拒絶の理由(当審注:拒絶理由通知(当審1回目))の判断は、今回通知した理由2(当審注:『第3 記載不備(36条4項違反)について』で検討する理由)が解消されるまで保留する」と付記している。

2 審判請求人の主張
(1)これに対し、審判請求人は、平成25年7月8日付けの手続補正により、補正前の請求項1の「粒径が0.015?0.03ナノメートルの超微粉砕二酸化チタンを含有する、・・・超微粉二酸化チタンの混合物」を、本願発明の「超微粉二酸化チタンの典型的な粒径0.15から0.3オングストロームである超微粉砕二酸化チタンを含有する、・・・超微粉二酸化チタンの混合物」と補正した(前記「第2 本願発明」を参照)。

(2)そして、上記補正を行うとともに、同日付けの意見書において、補正前の請求項1の記載は誤記であると認め、そのうえで、「超微粉二酸化チタンの典型的な粒径である超微粉砕二酸化チタンを含有する、・・・」のように、具体的な粒径を削除した補正を希望すると主張している。
その理由として、「当業者であれば当然、典型的な粒径の超微粉砕二酸化チタンのサイズはしていますし、常識でありますので、当業者に取って、『粒径が0.015?0.03ナノメートルの超微粉砕二酸化チタン』が誤記であることは明らかであります。」、「実際に、米国特許事務所と会社の研究社は、誤記であることは自明であり、実施するには特別に調べる必要なく問題はないのではないかと主張しています。当業者は、典型的な粒径である超微粉砕二酸化チタンを簡単に入手するので、実施できないということはあり得ないとのことです。」と説明している。

3 当審の判断
(1)しかしながら、審判請求人がした補正は、補正前の「粒径」という記載の前に「超微粉二酸化チタンの典型的な」という用語を付し、「0.015?0.03ナノメートル」を「0.15から0.3オングストローム」と数値の単位を書き換えたものであって、“1nm=10Å”であることから理解できるとおり、この補正の前後で超微粉砕二酸化チタンの具体的な粒径自体はかわっていない。
そして、上記審判請求人の主張は、「0.015?0.03ナノメートル」は、「典型的な粒径」の誤記であると解されるところ、「典型的な粒径」の具体的な粒径を特定するものではなく、かつ、請求項の記載は誤記のままであるのだから、この主張を検討しても、本願発明の「超微粉二酸化チタンの典型的な粒径0.15から0.3オングストロームである超微粉砕二酸化チタンを含有する、・・・超微粉二酸化チタンの混合物」は、依然として製造することや入手できることが説明されたものではなく、当業者が実施可能なものとはいえない。

(2)特に、上記「1(3)」のとおり、明細書の記載をそのままとし、誤記であったと主張するだけでは、この拒絶の理由は解消しない点も指摘しているのであるから、粒径について、実質的には特許請求の範囲も明細書の記載も補正せず、誤記であったとする主張だけでは、本願明細書の記載及び審判請求人の主張を参酌しても実施可能であるということはできない。

(3)また、仮に審判請求人の主張する補正の提案を採用したとしても、「超微粉二酸化チタンの典型的な粒径である超微粉砕二酸化チタン」の具体的な粒径については明らかにしていないから、本願明細書段落【0037】に「対照的に、超微粉二酸化チタンの典型的な粒径は0.15から0.3オングストロームである。」(優先権の基礎となる書類にも「Micronized titanium dioxide, in contrast, has a typical size of between 0.15 and 0.3 angstroms」とある)とあったことに照らし、典型的な粒径は、0.15?0.3Å(すなわち、0.015?0.03nm)としか理解できないし、技術常識からみて明らかな誤記であるとしても、本願発明の意図する典型的な粒径が具体的にどの程度なのかもわからず、また、それをどのように製造するのかや、どのような入手方法があるのかも明らかにされていない。

4 まとめ
以上のとおり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。

第4 審判請求人が希望する補正について
ところで、審判請求人は、平成25年7月8日付けの意見書において、「超微粉二酸化チタンの典型的な粒径である超微粉砕二酸化チタンを含有する、・・・」のように、具体的な粒径を削除することも希望しているが、次の理由でその要請は受け入れられない。
(A)拒絶理由通知に対応して補正できる期間が指定されているところ、既にその期間内に手続補正がされているのであり、それ以上の補正の機会を与えることは法律の予定するところではない。
(B)仮にそのような補正を加味した想定される発明を検討してみたところで、(a)前述のとおり、具体的な粒径は明らかにされておらず、指摘された記載不備は解消しないし、(b)典型的な粒径が「0.15?0.3オングストローム」ではなく、従来から製造、販売されている超微粒子二酸化チタンと同じ粒径を意味すると解したところで、以下に検討するように、保留していた拒絶理由通知(当審1回目)の理由にある特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

1 想定される発明
既に検討したとおり、本願は拒絶すべきものであるが、念のため、先のように審判請求人が希望する具体的な粒径を削除した場合を想定して、以下に検討する。
ここで念のため検討することとした想定される発明(以下、「補正案発明」という。)は、次のとおりのものである。

「欠点を隠しかつ生来の容貌を引きたたせる方法であって、
塗布しようとする皮膚の領域に加圧容器のノズルを向ける工程と、
皮膚表面に周囲の皮膚になじむ、均一で、薄い塗膜が形成される化粧品組成物を皮膚に噴霧する工程とを含む方法であり、
前記加圧容器が、皮膚表面での厚さが均一となる、薄い、耐水性の塗膜で、かつ、塗布している間に噴霧対象領域の周縁部に向かって厚さが漸減する塗膜を形成し得る化粧品組成物を保持しており、
前記化粧品組成物が、
水5.0?70.0重量%と、
電解質0.1?3.0重量%と、
シクロメチコーン/ジメチコーン・コポリオール混合物1.0?20.0重量%と、
ポリグリセリル-4オレエート/PEG(ポリエチレン グリコール)-8プロピレングリコール・ココエート混合物0.5?10.0重量%と、
クオタニウム-18ヘクトライト、シクロメチコーンおよびプロピレンカーボネート混合物0.5?10.0重量%と、
超微粉二酸化チタンの典型的な粒径である超微粉砕二酸化チタンを含有する、C12?15安息香酸アルキルと超微粉二酸化チタンの混合物;シクロメチコーンと超微粉二酸化チタンの混合物;水と超微粉二酸化チタンの混合物;パルミチン酸エチルヘキシルと超微粉二酸化チタンの混合物;カプリル/カプリン酸トリグリセリドと鉱油と超微粉二酸化チタンの混合物;および/またはカプリル/カプリン酸トリグリセリドと超微粉二酸化チタンの混合物1.0?20.0重量%と、
合成ワックス0.1?5.0重量%と、
シクロメチコーン0.5?50.0重量%と、
パンテノール0.1?3.0重量%と、
金属酸化物3.0?20.0重量%と、
防腐剤とを含んでおり、ここで 前記組成物は傷んだ皮膚を乾燥させることなく、またレーザー治療した皮膚にも付着する組成物である、
方法。」

2 拒絶理由通知(当審1回目)の概要
判断を保留していた拒絶理由通知(当審1回目)の理由は、「この出願の請求項1?17に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」という理由を含むものである。

そして、拒絶理由通知(当審1回目)に「下記の刊行物1」として引用した、本願の優先権主張の日前である2000年12月7日に頒布された刊行物である「国際公開第00/73374号」(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。なお、引用例は英文のためその記載事項は翻訳文で示す。翻訳文は、特表2003-501505号公報(以下、「対応公表公報」という。)を参考にしたので、対応箇所も併記する。また、以下、下線は当審で付した。

(1a)「本発明は局所用のシリコーン・ゲルまたは当該ゲルを含有している組成物(例えば、シリコーン中水形(ウォーター-イン-シリコーン形)の化粧品用ファンデーション)に関する。このゲルはアクネ症および脂漏症の治療用のサリチル酸を含有している。さらに、このゲルは油分吸収性という付加的な作用効果を有している。この油分吸収性は過剰な皮脂を吸収することによりアクネ症および脂漏症の両方の治療に役立つ。加えて、このゲルは皮膚の治療領域において望ましい滑らかな艶消しの仕上げ状態を形成する。」(1頁24行?2頁2行;対応公表公報段落【0003】)

(1b)「別の態様において、本発明は(a)上記のシリコーン・ゲル、および(b)化粧品用として許容可能なキャリアを含有している組成物を特徴としている。実施形態の一例において、上記化粧品用として許容可能なキャリアは酸性化剤、アルカリ性化剤、エアゾール噴射剤、抗菌剤、酸化防止剤、緩衝剤、キレート化剤、着色用添加物、皮膚科学的活性薬剤、分散剤、軟化剤、乳化剤、保湿剤、芳香剤、保存剤、糖、サンスクリーン剤、界面活性剤、懸濁剤、増粘剤、およびビヒクルから成る群から選択される1種類以上の材料を含有している。
実施形態の一例において、上記組成物は、重量%において、・・・(e)約0.001%乃至約50%(例えば、約0.001%乃至約20%)のサンスクリーン剤(例えば、二酸化チタン)を含有している。」(3頁12行?4頁4行;対応公表公報段落【0006】?【0007】)

(1c)「別の態様において、本発明は(例えば、人間の皮膚における)アクネ症および脂漏症を治療(例えば、減少または消去)または予防する方法を特徴としており、この方法は有効量の上記のシリコーン・ゲルまたは組成物を対象者の皮膚に供給することを含む。実施形態の一例において、上記ゲルまたは組成物は毎日1回乃至3回皮膚に対して供給される。アクネ症の治療において使用する場合に、上記組成物はこのアクネ症が効果的に治療される(例えば、消去する)まで供給できる。アクネ症に対する予防薬として使用する場合には、上記組成物はアクネ症の可能性が見られなくなるまで毎日供給することができる。さらに、上記のゲルおよび組成物はシワ、乾癬、および色素過剰の治療、皮膚を滑らかにすること、皮膚線の減少、皮膚の透明性および色調の改善、および(例えば、頭皮用クリーム、シャンプー、またはヘア・コンディショナー等における)ふけ症および脂漏性皮膚炎の治療のために使用することもできる。」(4頁5?21行;対応公表公報段落【0008】)

(1d)「本発明は化粧品用として許容可能なキャリアを含有している、例えば、対象者の顔面の皮膚に供給するための化粧品用組成物を特徴としている。このキャリアにおけるそれぞれの成分は多数および多様であるが、当該技術分野の熟練者において周知でもある。態様の一例において、上記キャリアは酸性化剤、アルカリ性化剤、エアゾール噴射剤、抗菌剤、酸化防止剤、緩衝剤、キレート化剤、着色用添加物、皮膚科学的活性薬剤、分散剤、軟化剤、乳化剤、保湿剤、芳香剤、マスキング剤、保存剤、糖、サンスクリーン剤、界面活性剤、懸濁剤、増粘剤、およびビヒクルから成る群から選択される1種類以上の材料を含有している。」(7頁30行?8頁12行;対応公表公報段落【0017】)

(1e)「エアゾール噴射剤は組成物を加圧下においてエアゾールとして投与することが必要な場合に使用する。このエアゾール噴射剤の例はジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、およびトリクロロモノフルオロメタン等のハロゲン化炭化水素、窒素、およびブタン、プロパン、イソブタン等の揮発性炭化水素、またはこれらの混合物を含む。」(8頁30行?9頁2行;対応公表公報段落【0019】)

(1f)「抗菌剤は組成物を供給する領域が、例えば、バクテリア、真菌類、または原生動物等による細菌感染を生じやすい場合に使用する。このような薬剤の例はベンジル・アルコール、クロロブタノール、フェニルエチル・アルコール、酢酸フェニル水銀、ソルビン酸カリウム、およびソルビン酸、安息香酸、ブチル・パラベン、エチル・パラベン、メチル・パラベン、プロピル・パラベン、および安息香酸ナトリウムを含む。」(9頁4?11行;対応公表公報段落【0020】)

(1g)「保湿剤は例えば加湿剤の水分の維持を助長する薬剤である。この保湿剤の例はソルビトール、マトリカリア抽出物、アロエ・バルバデンシス・ゲル、グリセリン、グリセレス-5・ラクテート、グリセレス-7・トリアセテート、グリセレス-7・ジイソナノエート、ヘキサントリオール、ヘキシレン・グリコール、プロピレン・グリコール、ジプロピレン・グリコール、アルコキシル化グルコース、D-パンテノール、1,2-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、およびこれらの誘導体、およびヒアルロン酸を含む。
・・・
保存剤は組成物を劣化から保護するために使用する。保存剤の例はリキパー油(liquipar oil)、フェノキシエタノール、メチル・パラベン、プロピル・パラベン、ブチル・パラベン、イソプロピル・パラベン、イソブチル・パラベン、ジアゾリジニル尿素、イミダゾリジニル尿素、ジアゾリジニル尿素、塩化ベンズアルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、およびこれらの混合物(例えば、リキパー油)を含む。」(12頁22行?13頁17行;対応公表公報段落【0029】?【0031】)

(1h)「サンスクリーン剤は皮膚を照射する紫外光を遮断または光線の量を減少する(例えば、紫外光線の吸収、散乱、および反射による)ために使用する。・・・このようなサンスクリーン剤の例はオクチル・メトキシシンナメート、・・・等の有機化合物およびそれらの塩、並びに酸化亜鉛、シリカ、酸化鉄、二酸化チタン等の無機粒子状材料の両方、および2-エチル-ヘキシル-p-メトキシシンナメートを含む。」(13頁25行?14頁5行;対応公表公報段落【0033】)

(1i)「化粧品用として許容可能なキャリアは、例えば、スプレー、ミスト、エアゾール、シャンプー、ヘア・コンディショナー、ムース、半固形クリーム、溶液、エマルジョン、または懸濁液等の液体、ローション、ゲル、パウダー、粘着スティック、柔軟性マスク、自己硬化型液体またはゲル等の固体、または対象物(例えば、人間)の皮膚に対して供給する目的のその他の適当な形態にすることができる。」(15頁11?18行;対応公表公報段落【0036】)

(1j)「本発明のゲルまたは組成物は当該技術分野の通常の熟練者において周知であるコンテナの中に包装することができ、例えば、シリコーン・ゲルは分配用の先端ヘッド部を有する低密度ポリエチレン・チューブの中に包装でき、本発明の化粧品用ファンデーションはガラスまたはプラスチックのビンの中に包装できる。」(16頁16?22行;対応公表公報段落【0039】)

(1k)「実施例2:シリコーン・ゲルを含有しているシリコーン中水形化粧品用スキン・ファンデーション
以下の表2に実施例2の化粧品用の全体の組成物における各成分およびそれぞれの重量%値を記載した。
・・・
上記の各成分の供給元は以下の通りである。マトリカリア抽出物(テキサス州ルイスビルのActive Oraganics社)、・・・、C_(12-15)アルキル・ベンゾエート(および)二酸化チタン(および)ポリヒドロキシステアリン酸(および)シリカ(英国、ダーハムのTioveil社)、・・・。」(17頁下から4行?19頁16行;対応公表公報段落【0043】?【0044】)

(1l)「実施例3:シリコーン・ゲルを含有しているスキン・ファンデーション
以下の表3に実施例3の化粧品用の全体の組成物における各成分およびそれぞれの重量%値を記載した。・・・
【表3】

得られた組成物は0.55%のサリチル酸を含有しており、12,000cpsの粘度を有していた。」(22頁11行?23頁最終行;対応公表公報段落【0053】?【0054】)

3 引用発明
引用例の上記(1a)、及び(1l)からみて、引用例には、
「脱イオン水 31.50重量%、塩化ナトリウム 0.50重量%、パンテノール 1.00重量%、メリビオース 0.25重量%、マトリカリア抽出物 1.00重量%、アロエ・バルバデンシス・ゲル 0.01重量%、ジアゾリジニル尿素 0.20重量%、ジプロビレン・グリコール 4.00重量%、メチル・パラベン 0.15重量%、トコフェリル・アセテート 0.01重量%、レチニル・パルミテート 0.01重量%、ポリグリセリル-4・オレエート(および)PEG-8・プロピレン・グリコール・ココエート(80:20) 2.00重量%、シクロメチコーン(および)ジメチコーン・コポリオール(90:10) 13.00重量%、プロピル・パラベン 0.20重量%、シクロメチコーン(および)クォーターニウム-18(および)ヘクトライト(および)プロピレン・カーボネート(35:60:5) 1.50重量%、エチレン・ブラシレート(Ethylene Brassylate) 0.20重量%、合成ワックス 1.20重量%、シクロメチコーン(および)ジメチコーン(および)サリチル酸(および)ポリシリコーン-11(31.5:31.5:31.5:5.5) 8.80重量%、シクロメチコーン 10.89重量%、タルク 6.00重量%、シリカ・シリエート(Silica Silyate) 0.50重量%、C_(12-15)アルキル・ベンゾエート(および)二酸化チタン(および)アルミナ(および)ポリヒドロキシステアリン酸(および)シリカ(60:30:5:2.5:2.5) 8.00重量%、ポリメチル・メタクリレート(および)トコフェリル・アセテート(および)パントテン酸(および)アスコルビン酸(および)レチニル・パルミテート(90:7:1:1:1) 0.10重量%、二酸化チタン 7.36重量%、及び酸化鉄 0.49重量%からなるスキン・ファンデーションを用いて、皮膚のアクネ症及び脂漏症の治療領域において望ましい滑らかな艶消しの仕上げ状態を形成する方法。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

4 対比
そこで、補正案発明と引用発明を対比する。

(1)補正案発明の化粧品組成物と、引用発明のスキン・ファンデーションについて
ア 本願明細書段落【0012】には、「このような化粧品は、ファンデーション、シマー、ブロンザー、グリッター、セルフ・タンニング組成物、保湿剤、トナー、口紅、眉墨、頬紅および/またはアイ・カラーとなるように設計され得る。」と記載されていることから、引用発明の「スキン・ファンデーション」は、補正案発明の「化粧品組成物」に相当する。

イ 引用発明の「脱イオン水 31.50重量%」、「塩化ナトリウム 0.50重量%」、「シクロメチコーン(および)ジメチコーン・コポリオール(90:10) 13.00重量%」、「ポリグリセリル-4・オレエート(および)PEG-8・プロピレン・グリコール・ココエート(80:20) 2.00重量%」、「シクロメチコーン(および)クォーターニウム-18(および)ヘクトライト(および)プロピレン・カーボネート(35:60:5) 1.50重量%」、「合成ワックス 1.20重量%」、「シクロメチコーン 10.89重量%」、「パンテノール 1.00重量%」、「二酸化チタン 7.36重量%及び酸化鉄 0.49重量%(計7.85重量%)」、及び「ジアゾリジニル尿素 0.20重量%、メチル・パラベン 0.15重量%及びプロピル・パラベン 0.20重量%」は、
それぞれ、
補正案発明の「水 5.0?70.0重量%」、「電解質 0.1?3.0重量%」、「シクロメチコーン/ジメチコーン・コポリオール混合物 1.0?20.0重量%」、「ポリグリセリル-4オレエート/ペガ(ポリエチレン グリコール)-8プロピレングリコール・ココエート混合物 0.5?10.0重量%」、「クオタニウム-18ヘクトライト、シクロメチコーンおよびプロピレンカーボネート混合物 0.5?10.0重量%」、「合成ワックス 0.1?5.0重量%」、「シクロメチコーン 0.5?50.0重量%」、「パンテノール 0.1?3.0重量%」、「金属酸化物 3.0?20.0重量%」、及び「防腐剤」と、成分において一致し、かつ、引用発明の各成分の配合量は補正案発明の対応する成分の配合範囲に包含される。
なお、本願明細書段落【0034】には、「電解質は・・・、塩化ナトリウム、・・・が含まれる。酸化金属は、・・・、二酸化チタンおよび酸化鉄が含まれる。」と記載され、また、引用例の上記(1f)及び(1g)には、抗菌剤又は保存剤として、ジアゾリジニル尿素、メチル・パラベン及びプロピル・パラベンが例示されており、これらは当業者に防腐剤として広く知られたものである。

ウ 引用発明の「C_(12-15)アルキル・ベンゾエート(および)二酸化チタン(および)アルミナ(および)ポリヒドロキシステアリン酸(および)シリカ(60:30:5:2.5:2.5) 8.00重量%」と、補正案発明の「超微粉二酸化チタンの典型的な粒径である超微粉砕二酸化チタンを含有する、C12?15安息香酸アルキルと超微粉二酸化チタンの混合物;シクロメチコーンと超微粉二酸化チタンの混合物;水と超微粉二酸化チタンの混合物;パルミチン酸エチルヘキシルと超微粉二酸化チタンの混合物;カプリル/カプリン酸トリグリセリドと鉱油と超微粉二酸化チタンの混合物;および/またはカプリル/カプリン酸トリグリセリドと超微粉二酸化チタンの混合物1.0?20.0重量%」とは、「二酸化チタン含有混合物の所定量」である点で共通する。

エ 引用発明は、さらに、「メリビオース 0.25重量%」、「マトリカリア抽出物 1.00重量%」、「アロエ・バルバデンシス・ゲル 0.01重量%」、「ジプロビレン・グリコール 4.00重量%」、「トコフェリル・アセテート 0.01重量%」、「レチニル・パルミテート 0.01重量%」、「エチレン・ブラシレート(Ethylene Brassylate) 0.20重量%」、「シクロメチコーン(および)ジメチコーン(および)サリチル酸(および)ポリシリコーン-11(31.5:31.5:31.5:5.5) 8.80重量%」、「タルク 6.00重量%」、「シリカ・シリエート(Silica Silyate) 0.50重量%」、「ポリメチル・メタクリレート(および)トコフェリル・アセテート(および)パントテン酸(および)アスコルビン酸(および)レチニル・パルミテート(90:7:1:1:1) 0.10重量%」を含む。
一方、補正案発明の化粧品組成物は、補正案発明の記載から明らかなとおり他の成分を含んでよいものである。
また、本願明細書段落【0032】?【0034】には、「図3から分かる通り、この組成物は、水;・・・酸化金属、保存料、および種々の植物性薬品を含むことができる。この組成物はまた、パンテノール、ジプロピレングリコール、酢酸トコフェロール、レチニルパルミテート、タルク、および/またはシリカシリレートを含むこともある。・・・この組成物の種々の成分は種々の目的に役立つ。パンテノールはスキンコンディショナーであり保湿剤である。ジプロピレングリコールは湿潤剤である。酢酸トコフェロールとレチニルパルミテート、ビタミンEとAは、抗酸化剤と保湿剤である。・・・シリカシリレートは懸濁化剤である。・・・タルクはフィルターとして使用され、使用することによりメイキャップに所望の感触を与えることができる。『植物性薬品』には、これらだけに限定するものではないが、アロエおよびカモミール抽出物が含まれる。」のように説明されており、引用発明と重複する物質も例示されており、本願明細書の記載からも他の成分を含むものであってよいことが理解できる。
ここで、引用発明では、「シクロメチコーン(および)ジメチコーン(および)サリチル酸(および)ポリシリコーン-11(31.5:31.5:31.5:5.5)」を、アクネ症および脂漏症の治療のための成分として含有しているが、本願明細書段落【0012】には、「また、この化粧品を、薬物(処方薬および大衆薬のどちらも)を送るため、ビタミンやスキン・ケア組成物を送るため、皮膚を太陽から保護するため、太陽に曝された後に皮膚を処置するため、および/またはアロマテラピー処置を提供するように設計してもよい。この方法で皮膚に送られる薬物には、それだけには限定されないが、ざ瘡(審決注:アクネ症も含まれる)用医薬品およびαヒドロキシ酸が含まれる」のように説明されていることから、アクネ症や脂漏症の治療用の薬剤を添加することも許容している。
よって、引用発明にさらに含まれている上記成分は、補正案発明の化粧品組成物に包含され、この点は相違点とはならない。

(2)方法について
ア 引用発明は、ファンデーションにより「皮膚のアクネ症及び脂漏症の治療領域において望ましい滑らかな艶消しの仕上げ状態を形成する」方法である。しかしながら、そもそもファンデーションは、下記文献Aに示すとおり、肌色を整え、皮膚の欠点を隠して肌を滑らかに見せるためのものであり、一連の仕上げ化粧、すなわち眼や脣などの容貌を引き立たせる仕上げ化粧のはじめに使われるものである。よって、引用発明も、補正案発明と同様に「欠点を隠しかつ生来の容貌を引きたたせる」ものといえる。
そして、上記(1)エでも検討したとおり、補正案発明は、アクネ症の治療のため薬品を含んだ化粧品組成物も包含しているから、引用発明のスキン・ファンデーションが、アクネ症及び脂漏症の治療領域に適用することを排除しないものである。

文献A:日本化粧品技術者会編、最新化粧品科学-改訂増補II-、平成4年7月10日、株式会社薬事日報社、69?70頁
「3・1 ファンデーション
ファンデーションは,肌色を整え,皮膚の欠陥をかくして滑らかに見せるという機能をもった製品で,一連の仕上化粧行動の中ではじめに使われるものである。」(69頁下から2行?70頁1行)

イ 引用発明のスキン・ファンデーションは、皮膚に塗布するものであるし、容器に保持されているものであることは自明である(上記(1j)参照)。

ウ よって、引用発明の「スキン・ファンデーションを用いて、皮膚のアクネ症及び脂漏症の治療領域において望ましい滑らかな艶消しの仕上げ状態を形成する」ことと、補正案発明の「欠点を隠しかつ生来の容貌を引きたたせる方法であって、塗布しようとする皮膚の領域に加圧容器のノズルを向ける工程と、皮膚表面に周囲の皮膚になじむ、均一で、薄い塗膜が形成される化粧品組成物を皮膚に噴霧する工程とを含む方法であり、前記加圧容器が、皮膚表面での厚さが均一となる、薄い、耐水性の塗膜で、かつ、塗布している間に噴霧対象領域の周縁部に向かって厚さが漸減する塗膜を形成し得る化粧品組成物を保持して」いることとは、「欠点を隠しかつ生来の容貌を引きたたせる方法であって、化粧品組成物を皮膚に塗布する工程を含む方法であり、所定の容器が、化粧品組成物を保持して」いる点で共通する。

(3)したがって、両発明は、以下の一致点及び相違点1?3を有する。

一致点:
「欠点を隠しかつ生来の容貌を引きたたせる方法であって、
化粧品組成物を皮膚に塗布する工程を含む方法であり、所定の容器が、化粧品組成物を保持しており、
前記化粧品組成物が、
水31.50重量%と、
電解質(塩化ナトリウム)0.50重量%と、
シクロメチコーン/ジメチコーン・コポリオール混合物13.00重量%と、
ポリグリセリル-4オレエート/PEG(ポリエチレン グリコール)-8プロピレングリコール・ココエート混合物2.00重量%と、
クオタニウム-18ヘクトライト、シクロメチコーンおよびプロピレンカーボネート混合物1.50重量%と、
二酸化チタン含有混合物の所定量と、
合成ワックス1.20重量%と、
シクロメチコーン10.89重量%と、
パンテノール1.00重量%と、
金属酸化物7.85重量%と、
防腐剤とを含んでいる、
方法。」

相違点1:
「二酸化チタン含有混合物の所定量」について、補正案発明では、「超微粉二酸化チタンの典型的な粒径である超微粉砕二酸化チタンを含有する、C12?15安息香酸アルキルと超微粉二酸化チタンの混合物;シクロメチコーンと超微粉二酸化チタンの混合物;水と超微粉二酸化チタンの混合物;パルミチン酸エチルヘキシルと超微粉二酸化チタンの混合物;カプリル/カプリン酸トリグリセリドと鉱油と超微粉二酸化チタンの混合物;および/またはカプリル/カプリン酸トリグリセリドと超微粉二酸化チタンの混合物1.0?20.0重量%」であるのに対し、引用発明では、「C12-15アルキル・ベンゾエート(および)二酸化チタン(および)アルミナ(および)ポリヒドロキシステアリン酸(および)シリカ(60:30:5:2.5:2.5) 8.00重量%」である点

相違点2:
「化粧品組成物」について、補正案発明では、「傷んだ皮膚を乾燥させることなく、またレーザー治療した皮膚にも付着する組成物」であるのに対し、引用発明ではこの点が明らかでない点

相違点3:
「化粧品組成物を皮膚に塗布する工程を含む方法であり、所定の容器が、化粧品組成物を保持して」いることについて、補正案発明では、「塗布しようとする皮膚の領域に加圧容器のノズルを向ける工程と、皮膚表面に周囲の皮膚になじむ、均一で、薄い塗膜が形成される化粧品組成物を皮膚に噴霧する工程とを含む方法であり、前記加圧容器が、皮膚表面での厚さが均一となる、薄い、耐水性の塗膜で、かつ、塗布している間に噴霧対象領域の周縁部に向かって厚さが漸減する塗膜を形成し得る化粧品組成物を保持して」いるのに対し、引用発明では、このように特定されていない点

5 判断
そこで、これらの相違点1?3について検討する。

(1)相違点1について
ア 本願明細書段落【0033】には、「超微粉二酸化チタン含有コンパウンドは当技術分野で知られた任意のものであることができ、これらだけに限定するものではないが、C12?15安息香酸アルキルと二酸化チタンのコンパウンドまたは組成物・・・が含まれる。」と記載されており、図3及び図4には、「C12?C15安息香酸アルキルと超微粉二酸化チタンのコンパウンド」が記載されている。

イ 本願明細書段落【0037】には、「二酸化チタンは組成物に被覆性と色彩を与える白色不透明の顔料である。小板形状の二酸化チタンの典型的な粒径は、典型的には1ミクロンより大きく、通常5?15ミクロンの範囲にある。対照的に、超微粉二酸化チタンの典型的な粒径は0.15から0.3オングストロームである。粒径がこのようにかなり大きく変化することによって二酸化チタンの形状を変化させることはない。本発明の二酸化チタンはさらなる利点、日焼け防止を与える。本発明の二酸化チタンは18?24のSPFを提供することができる。」と記載されている。

ウ ここで、上記「超微粉二酸化チタンの典型的な粒径は0.15から0.3オングストロームである」は誤記であるという前提を考慮すると、超微粉二酸化チタンの典型的な粒径の具体的な値は不明であるが、典型的な粒径が1ミクロンより大きい、白色不透明の顔料である二酸化チタンに対して「対照的に」と記載されていることから、少なくとも1ミクロン(1000nm)より小さいものと理解できる。
そして、SPF18?24の日焼け防止効果を与えるとあるから、いわゆる紫外線防御剤としての超微粉二酸化チタンであってよいと解される。
そうしてみると、補正案発明の「超微粉二酸化チタンの典型的な粒径である超微粉砕二酸化チタン」は、いわゆる紫外線防御剤として知られている超微粉二酸化チタンの典型的な粒径程度のものといえる。

エ 一方、引用例には、「C_(12-15)アルキル・ベンゾエート(および)二酸化チタン(および)アルミナ(および)ポリヒドロキシステアリン酸(および)シリカ(60:30:5:2.5:2.5)」について、「C12-15アルキル・ベンゾエート(および)二酸化チタン(および)ポリヒドロキシステアリン酸(および)シリカ(英国、ダーハムのTioveil社)」(上記(1k)参照)と記載されていることから、市販品を用いているといえる。
また、引用例には、二酸化チタンは、サンスクリーン剤として使用することが示されている(上記(1b)、(1h)参照)。

オ そして、下記文献B?Eに記載されているように、Tioveilとして知られるC_(12-15)のアルキル安息香酸エステルと二酸化チタンの混合物は、紫外線防御剤として公知のものであり、シリカやアルミナなどが二酸化チタンの表面処理剤として使用されているものであることは当業者に自明な事項といえる。
また、紫外線防御剤としての二酸化チタンの粒径は、通常100nm以下であり、市販のもので、15?50nm程度であることや、表面処理して分散の向上や安定性を保持する必要があることも知られているように、通常の微粒子二酸化チタンに表面処理を行うことがあることは技術常識であり、本願明細書には、表面処理を行った二酸化チタンを排除する記載はない。

文献B:特開平7-145029号公報
「実施例4
・・・
13)C_(12-15)のアルキル安息香酸エステル中に40重量%の二酸化チタンのディスパージョン(商品名チオベイル(Tioveil)FINで販売されている。)
・・・
活性のあるUV吸収体として二酸化チタンだけを含有する製品Dは、生体外SPF値5.2を有していた。」(【0035】?【0036】)

文献C:特開2000-128755号公報
「実施例6
本発明の極微小二酸化チタン有機分散体により得られたSPF値とTioveil FinR(Tioxide,UK)分散体のSPF値の比較
・・・
配合物Bは、25%Tioveil FinR(Tioxide Chemicals,U.K.)、C_(12-15)アルコールベンゾエートを用いて調製された40/60分散体および分散助剤を含有する。本実施例からわかるように、本発明の分散体は、Tioveil FIN Rより良好なSPF値を与える。」(【0063】?【0065】)

文献D:特開平10-72328号公報
「処理された微小顔料としては、特に:
-シリカおよびアルミナで処理された酸化チタン、例えば、・・・およびチオキシド(Tioxide)社の製品で『ティオベイル(Tioveil)・IPM』、『ティオベイル・MOTG』、『ティオベイル・OP』、『ティオベイル・フィン(Fin)』」(【0029】)

文献E:蔵多淑子他編、化粧品ハンドブック、平成8年11月1日、日光ケミカルズ株式会社他、413?415頁
「可視光領域で透明になり紫外領域で光学的に遮断効果を発揮するには,粒子径が100nm以下であることが必要である.市販の微粒子酸化チタンは,粒子径が15?50nmに調整されている.この粒子径範囲では可視光は透過し,透明性が高く,紫外光は遮断し,製剤化した場合,高配合量でも白くなったり厚塗りに見えたりしない.」(414頁左欄下から10?3行)
「液状製品の場合は,機械的な力だけでは分散が充分でなく,経時で凝集が起こり,効果の減少を生ずることがある.このことを考慮して,微粒子の表面を処理して,分散の向上および安定性を保持するなどの対策が必要である.」(415頁左欄4行?右欄2行)

カ そうしてみると、本願明細書段落【0033】の「当技術分野で知られた任意ものであることができ」との記載からみて、本願明細書の実施の形態を示した図3及び図4では、市販品と解されるC12?15安息香酸アルキルと二酸化チタンの混合物を使用しており、引用例でもC_(12-15)アルキル・ベンゾエートと二酸化チタンの混合物(ここで、アルミナ、ポリヒドロキシステアリン酸、シリカは二酸化チタンの表面処理剤を記載したものと解される)である市販品が使用されており、両者は紫外線防御剤として機能する点でも共通していることから、引用発明で用いる二酸化チタンも、補正案発明でいうところの「超微粉二酸化チタンの典型的な粒径である超微粉砕二酸化チタン」であるというべきであり、「C12?15安息香酸アルキルと超微粉二酸化チタンの混合物」としての配合量も、補正案発明の配合範囲に包含され、相違点1は実質的な相違点ではない。

キ ここでさらに補足するに、二酸化チタン含有混合物を含め、引用発明のスキン・ファンデーションに配合する各成分の配合量を、具体的な処方として示された値からその近傍の値などに適宜変更することも、当業者が容易になし得たことであり、補正案発明の各成分の配合範囲が臨界的意義を有するものともいえない。

(2)相違点2について
ア 引用発明に配合されている「マトリカリア抽出物」、「アロエ・バルバデンシス・ゲル」、及び「ジプロビレン・グリコール」は保湿剤である(上記(1g)参照)。
保湿剤が皮膚の乾燥を防ぐためのものであることは、当業者に自明な事項である。
そして、引用発明は、アクネ症などの治療領域に適用するものであるから、傷んだ皮膚の乾燥を防止することも当業者に自明な事項である。

イ また、本願明細書段落【0018】には、「本発明により皮膚の損傷や刺激、特にレーザー手術に伴うものを有する使用者に提供される他の利点は、本発明が、当業界に知られたファンデーションやメーキャップ、特にレーザー手術の痕跡を覆うためのものに見られる多くの乾燥剤を有さないことである。このような試剤として、高濃度のタルクおよび/またはアルコールが挙げられる。・・・アルコール全量が非常に高い。アルコールなどの乾燥剤は、皮膚を乾燥させ、新たなしわを生じさせることによって、手術法の長期の成果を妨害する。それらはまた、損傷皮膚を刺激する作用もある」と記載されており、このことからすると、乾燥剤となるアルコールやタルクを含まないことが望ましい。
これについて引用発明をみると、引用発明には、アルコールは配合されていないが、「タルク 6.00重量%」が配合されている。
しかしながら、本願明細書段落【0034】には、「タルクはフィルターとして使用され、使用することによりメイキャップに所望の感触を与えることができる」と記載されており、図3では、タルクを0.0?15.0重量%、図4では、6.5重量%配合したものが示されている。
そうしてみると、引用発明が「タルク 6.00重量%」を含むことによって、引用発明が傷んだ皮膚を乾燥させるものであるということもできない。

ウ ところで、補正案発明は、レーザー治療した皮膚にも付着するものであるが、本願明細書を参酌しても、どのような理由でレーザー治療した皮膚にも付着する組成物となるのかは説明されていない。
そこで検討するに、本願明細書段落【0036】及び【0038】には、「皮膚を被覆することにより毛穴のない外観を与える。これは、皮膚表面にわたって薄く非常に均一な被膜を形成することによって実現する。この被膜は、合成ワックスと超微粉二酸化チタンとの間に見られる相乗効果によって主に生じる。」、「合成ワックスは超微粉二酸化チタンと一緒に作用して、皮膚の表面上に小板の薄く非常に均一な被膜を生じる。この被膜は耐水性であり、当技術分野でメイキャップをこすり落とすことが知られている力に影響されない。すなわち、この被膜は組成物に耐摩耗性を与える。」と説明されている。
そうすると、化粧用組成物に合成ワックスと超微粉二酸化チタンを配合したことにより、レーザー治療した皮膚にも付着する組成物となると理解するのが自然である。

エ この点を考慮して引用発明をみると、既に検討したとおり、引用発明のスキン・ファンデーションは、合成ワックスと補正案発明と同等の粒径と解される超微粉二酸化チタンを配合しているのであるから、同様に、レーザー治療した皮膚にも付着すると認められる。
よって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

(3)相違点3について
引用例には、エアゾール噴射剤をキャリアとして含有するものであってよく、これは、例えばスプレーやミスト、エアゾールなどの人の顔の皮膚に供給するのに適当な形態にできることが記載されている(上記(1b)、(1d)、(1e)、(1i)参照)。
すなわち、対象者の顔面の皮膚に、加圧下においてスプレーやエアゾールとして投与する態様も意図している。
そうしてみると、引用発明のスキン・ファンデーションを、噴霧装置を用いて塗布することとし、その際に、用いる噴霧装置に適した粘度に調節し、ノズルを有する加圧容器を用いて、塗布する領域に向けて噴霧する方法で塗布することは、引用例の記載に基づき当業者が適宜なし得たことであり、少なくとも当業者が容易に採用し得たことである。
そして、スキン・ファンデーションを噴霧により塗布することで、周囲の皮膚になじみ、均一で、薄く、周縁部に向かって厚さが漸減する塗膜となることは、当業者が容易に予測し得たことである。
また、耐水性の塗膜となることは、引用発明の組成からみて、当業者に自明な事項である。

(4)補正案発明の効果について
先に示したとおり、噴霧装置を用いることにより、周囲の皮膚になじみ、均一で、薄く、周縁部に向かって厚さが漸減するように塗布できること、耐水性の塗膜をあたえることは、当業者が容易に予測し得ることである。また、痛んだ皮膚を乾燥させることなく、レーザー治療した皮膚にも付着することも、合成ワックスと補正案発明の意図する超微粉二酸化チタンと同等と解される粒径の超微粉二酸化チタンを配合していること、他の成分も補正案発明と同等であることから、当然奏する効果と認められる。
また、本願明細書段落【0039】には、ワックス/二酸化チタン被膜は、シクロメチコーンにより固定することができ、組成物の摩耗時間を増大させるという効果を奏することも説明されている。
しかしながら、この点についても、引用発明でもシクロメチコーンも配合されていることから当然奏する効果といえる。
そして、本願明細書の記載を参酌しても、補正案発明の効果は具体的な実施例等を伴って確認されたものではなく、当業者が予測もし得ない効果を奏したということはできない。

(5)審判請求人の主張について
拒絶理由通知(当審1回目)の理由に対して、審判請求人は、平成24年11月7日付け意見書で、(i)引用発明は、サリチル酸を必須成分とし、アクネ症及び脂漏症の予防及び治療を目的とする点で相違する。(ii)引用発明の二酸化チタンは、補正案発明の二酸化チタンとは粒径が異なる。(iii)引用発明の二酸化チタン混合物は、アルミナやシリカも含む。(iv)二酸化チタンの粒径が異なるのであるから、レーザー治療した皮膚にも付着する点は、効果を確認したものに過ぎないとはいえない、旨主張しているが、これらの点については、既に、上記相違点1?3について検討したとおりであり、それらの主張は採用できるものではない。
さらに、審判請求人は、(v)メイキャップのより長い着用寿命が期待され、過剰塗布の必要性も軽減されるのに対し、引用発明は、アクネ症及び脂漏症の予防及び治療のために、日に1?3回適用するもので、メイキャップを長時間保持することを目的とするものではない、旨主張している。
確かに、引用例には、審判請求人の指摘するとおり、毎日1?3回適用することが記載されているが(上記(1c)参照)、1日1回でよいともいえるし、治療にくらべて予防の際には、日に複数回の処置を必要としないともいえる。さらに、引用例には、アクネ症及び脂漏症の治療以外に、「シワ、乾癬、および色素過剰の治療、皮膚を滑らかにすること、皮膚線の減少、皮膚の透明性および色調の改善、および(例えば、頭皮用クリーム、シャンプー、またはヘア・コンディショナー等における)ふけ症および脂漏性皮膚炎の治療のために使用することもできる」(上記(1c))と記載されているように、様々な使用も意図している。
そして、皮膚の透明性及び色調の改善のような、主にファンデーションに求められる効果を発揮すべく使用する際には、長時間の保持や過剰塗布の軽減の効果はファンデーションに当然求められる効果あるから、これを確認したに過ぎないものである。よって、(v)の主張も採用できない。

6 まとめ
したがって、仮に、審判請求人の主張する補正案を採用したとしても、補正案発明は、周知の事項を勘案し、引用発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおり、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願はその余の点について言及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-08-14 
結審通知日 2013-08-27 
審決日 2013-09-09 
出願番号 特願2002-590926(P2002-590926)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (A61K)
P 1 8・ 121- WZ (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 北畑 勝彦  
特許庁審判長 川上 美秀
特許庁審判官 板谷 一弘
関 美祝
発明の名称 噴霧可能な美容組成物  
代理人 山川 政樹  
代理人 山川 茂樹  
代理人 西山 修  
代理人 黒川 弘朗  

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