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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B |
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管理番号 | 1284189 |
審判番号 | 不服2003-18030 |
総通号数 | 171 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-03-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2003-09-17 |
確定日 | 2005-12-08 |
事件の表示 | 特願2000-132824「有機EL素子及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成13年11月 9日出願公開、特開2001-313170〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成12年5月1日の出願であって、平成15年8月12日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成15年9月17日に審判請求がなされるとともに、平成15年10月16日付けで手続補正がなされたものである。 2.本願発明 本願の請求項1に係る発明は、平成15年10月16日付けの手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。) 「基板と、該基板の表面に、陽極、有機EL薄膜及び陰極が、この順に積層され、形成された有機EL積層体とを備える有機EL素子において、上記陰極の厚さが700?900Åであり、該陰極の表面のうちの上記陽極と接触している部分及び該陽極と近接している部分が酸化されていることを特徴とする有機EL素子。」 3.引用刊行物に記載された発明 原査定の拒絶の理由に引用された特開平11-40346号公報(以下、「引用刊行物」という。)には、「有機エレクトロルミネセンス表示装置」の発明に関して、以下の事項が記載されている。 <記載事項1> 「【請求項1】1以上の有機化合物からなるエレクトロルミネセンス機能層が互いに積層された有機化合物層群が陰極及び陽極間に配された有機エレクトロルミネセンス素子が基板上に形成されてなる有機エレクトロルミネセンス表示装置であって、前記有機化合物層群並びに前記陰極及び陽極を空間を介して囲繞しかつこれらを外気から遮断する気密ケースと、前記気密ケース内の空間を満す少なくとも1種類の支燃性ガスを含む封入ガスと、を有することを特徴とする有機エレクトロルミネセンス表示装置。」(【請求項1】) <記載事項2> 「【0005】しかしながら、Alなどからなる陰極にピンホール7があると、そこから水分や酸素などが浸入し陰極界面との抵抗が高くなったり(陰極の剥離も含む)、有機エレクトロルミネセンス機能層が変質することにより発光しない領域、すなわち黒点(ダークスポット)8が発生する。また、図1に示すように、有機エレクトロルミネセンス機能層は膜厚がサブミクロンオーダと薄いためゴミ15により、透明電極2の陽極と陰極の背面電極6とがショート(短絡)しやすい。これを防ぐために、基板表面の洗浄及び平滑化を行っている。しかし、完全にはきれいにできないため、ショートが発生してしまう。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、ショート発生を抑制した信頼性の高いエレクトロルミネセンス表示装置を提供することを目的とする。」(段落【0005】?【0006】) <記載事項3> 「【0012】本発明の様な構造にすることにより、支燃性ガスによって、陰極のピンホールや不連続な箇所の周辺は酸化され、また、短絡している部位は発熱するため、陰極材料が容易に酸化して絶縁体となり、ショートの発生を抑止できる。支燃性ガスは気体酸化剤であって、自燃性がなく、他の物質の燃焼を助ける物質をいう。」(段落【0012】) <記載事項4> 「【0013】 【発明の実施の形態】以下に本発明の実施例を図面を参照しつつ説明する。図2は本実施例のエレクトロルミネセンス表示装置を示す。ガラス透明基板1上にて、両電極間に積層された正孔輸送層及び有機発光層の有機エレクトロルミネセンス機能層からなるエレクトロルミネセンス素子10を空間を介して囲繞するように気密ケース20がガラス透明基板1上に気密的に接着されている。気密ケース20が有機化合物層群を水分を多く含む外気から遮断する。気密ケース20内の空間が少なくとも酸素などの少なくとも1種類の支燃性ガスを含む封入ガスで満たされている。混合するガスはN2,Ar,Neなどの不活性ガスでもよく、また、これらを混合させたガスでもよい。 【0014】かかる実施例のエレクトロルミネセンス素子10は、図3に示すように、ガラス透明基板1上に、ITO等の複数のストライプ陽極の透明電極2、正孔輸送層3、有機発光層4、透明電極2に交差する複数のAlのストライプ陰極の背面電極6を順に積層、形成した2層構造のエレクトロルミネセンス表示装置である。正孔輸送層3及び有機発光層4は互いに積層された有機化合物層群をなす。 【0015】実施例として、ストライプ状にパターニングされたITOの陽極付きガラス基板を十分に洗浄し、真空蒸着により、この基板上の陽極ストライプ上にTPDの正孔輸送層を膜厚700Åで、Alq3の発光層を膜厚550Åで、ストライプ状にパターニングされたAlの陰極を膜厚1000Åで順に成膜した。最後に気密ケースにより気密的に接着し、各種の封入ガスで満たし、封止を行った。また、気密ケースの内壁には吸湿のためにCaOを配した。」(段落【0013】?【0015】) したがって、上記記載事項1ないし4、及び図2、3に基づけば、引用刊行物には、 「ガラス透明基板1と、該ガラス透明基板1の表面に、ストライプ陽極の透明電極2、有機発光層4、ストライプ陰極の背面電極6が、この順に積層され、形成された有機エレクトロルミネセンス素子10とを備える有機エレクトロルミネセンス表示装置において、上記ストライプ陰極の背面電極6の厚さが1000Åであり、ストライプ陰極の背面電極6の短絡している部分が酸化されていることを特徴とする有機エレクトロルミネセンス表示装置」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 4.対比 本願発明と引用発明とを比較する。 引用発明の「ガラス透明基板1」、「ストライプ陽極の透明電極2」、「有機発光層4」、「ストライプ陰極の背面電極6」、「有機エレクトロルミネセンス素子10」、及び「有機エレクトロルミネセンス表示装置」は、本願発明の「基板」、「陽極」、「有機EL薄膜」、「陰極」、「有機EL積層体」、及び「有機EL素子」にそれぞれ相当する。 また、引用刊行物に記載された「ショート(短絡)」(記載事項2)、及び「短絡」(記載事項3)とは、有機エレクトロルミネセンス素子のストライプ陰極の背面電極6の表面とストライプ陽極の透明電極が接触することを意味していることは明らかであるので、引用発明の「ストライプ陰極の背面電極6の短絡している部分」は、本願発明の「陰極の表面のうちの陽極と接触している部分」に相当する。 したがって、両者は、 「基板と、該基板の表面に、陽極、有機EL薄膜及び陰極が、この順に積層され、形成された有機EL積層体とを備える有機EL素子において、該陰極の表面のうちの上記陽極と接触している部分が酸化されていることを特徴とする有機EL素子。」の点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点1] 陰極の厚さが、本願発明は、700?900Åであるのに対して、引用発明は、1000Åである点。 [相違点2] 本願発明は、陽極と近接している陰極の表面も酸化されているのに対して、引用発明が記載された引用刊行物には、その点について記載されていない点。 5.当審の判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点1 本願発明は、陰極の厚さが700?900Åであるが、便宜上900Å以下と700Å以上に分けて検討する。 イ.本願発明において、陰極の厚さを900Å以下と限定した点について検討する。 本願明細書において、陰極の、陽極と接触している部分及び陽極と近接している部分に酸素ガスが速やかに、且つ十分に到達し得なくなる陰極の厚さを、出願当初の「1000Åを超える場合」(段落【0008】)から、平成16年10月16日付けの手続補正により「900Åを超える場合」(段落【0008】)に補正されたが、本願の出願当初の明細書全体の記載からみて、上記「1000Åを超える場合」が誤記とはいえない以上、陰極の厚さが900?1000Åでも、本願発明のように厚さが700?900Åの陰極と同程度に、陽極に対向する側の陰極の表面に酸素ガスが速やかに、且つ十分に到達することができるものといえる。 また、本願明細書の表1には、15Vの逆バイアス電圧を有機EL素子に印加し、測定した電流量について、実施例2の電流量を1とした場合の本願発明の各実施例及び各比較例の電流比が示されているが、陰極の厚さが1500Åの各比較例に比して、800Åの本願発明の各実施例の方が、電流比がいずれも小さく良好であるとはいえる。 しかしながら、この表1及び本願明細書の記載からは、引用発明の1000Åの陰極の厚さに比して、本願発明のように900Å以下に限定したことで、格別顕著な作用があるとはいえず、陰極の厚さを900Å以上と限定した点に臨界的な意義があるとはいえない。 したがって、本願発明において陰極の厚さを900Å以下に限定した点は、陰極を酸化処理する酸素ガスの濃度、酸化時間、酸化方法等の酸化条件に応じて、当業者が通常の創作活動の範囲内で容易に設定し得る事項に過ぎない。 ロ.本願発明において、陰極の厚さを700Å以上と限定した点について検討する。 有機EL素子において、背面電極である陰極は有機EL薄膜で生じた光を透明電極からなる陽極透明基板の方向に反射する作用をすることは周知であり(特開平10-284257号公報の段落【0020】及び図2,並びに特開平11-288786号公報の段落【0003】、【0019】及び図1、11)、そのためには、陰極はある程度の厚みが必要であることは自明であるので、本願発明のように陰極の厚さを700Å以上と限定することは、有機EL薄膜で発光した光を陰極で反射させる効率等を考慮して適宜に設定し得る設計事項といえる。また、その陰極の厚みを700Å以上と限定している点に臨界的な意義があるとはいえない。 よって、上記イ.及びロ.で検討したことを踏まえると、陰極の厚さを700?900Åとすることは、引用刊行物に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得ることといえる。 (2)相違点2 引用刊行物の図3には、基板と、該基板の表面に、陽極、有機EL薄膜及び陰極が、この順に積層され、形成された有機EL積層体とを備える有機EL素子を製造する際に、ゴミ15が陽極の上に付着することが図示されている。 そして、有機EL素子を上記の順序で製造する過程でゴミが基板上に付着することがあり得ることは当業者の技術常識であり、その場合には、ゴミが基板に付着することにより陰極と陽極と間隔が狭くなるので、有機EL素子の電圧印加時に漏れ電流が生じることは明らかである。 したがって、陰極の表面のうちの陽極と接触している部分に加えて、陰極の表面の陽極と近接している部分も酸化することは、引用刊行物に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易になし得たものである。 また、本願発明の効果は、引用刊行物及び技術常識から当業者が予測し得る範囲内のものである。 よって、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。 6.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用刊行物に記載された発明及び技術常識に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2005-10-04 |
結審通知日 | 2005-10-11 |
審決日 | 2005-10-24 |
出願番号 | 特願2000-132824(P2000-132824) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H05B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 今関 雅子、東松 修太郎 |
特許庁審判長 |
江塚 政弘 |
特許庁審判官 |
末政 清滋 辻 徹二 |
発明の名称 | 有機EL素子及びその製造方法 |
代理人 | 小島 清路 |