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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1284429
審判番号 不服2013-13320  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-11 
確定日 2013-12-11 
事件の表示 特願2012-279758「微細空間内に導体を形成する方法」拒絶査定不服審判事件〔請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1. 手続の経緯
本願は、平成24年12月21日の出願であって、平成25年3月14日付けの拒絶理由通知に対して、同年4月1日に意見書が提出されたが、同年5月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月11日に拒絶査定を不服とする審判請求がなされるとともに手続補正書が提出され、同年8月27日付けの審尋に対して、同年9月13日付けで回答書が提出されたものである。


第2.平成25年7月11日付けでなされた手続補正について
1.補正の内容
平成25年7月11日付けでなされた手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本願の出願当初の特許請求の範囲の記載を補正するものであって、その内容は以下のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1における「前記導電性微粉末に含まれる金属酸化物微粉末を還元する工程」との記載を、「前記導電性微粉末に含まれる金属酸化物微粉末を、前記微細空間内で還元する工程」と補正する。

(2)補正事項2
補正前の請求項1に、「前記対象物は、ウエハ、回路基板、積層基板、又は、半導体チップの何れかである」との事項を加入する。

(3)補正事項3
補正前の請求項2?請求項5を削除する。

2.新規事項の追加の有無及び補正の目的
(1)補正事項1について
補正事項1は、補正前の請求項1における、「前記導電性微粉末に含まれる金属酸化物微粉末を還元する工程」を、「前記微細空間内」で行うことを限定するものである。
よって、補正事項1の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、補正事項1の補正は、本願の願書に最初に添付した明細書における、段落【0018】の「この方法によれば、本来、充填の困難な金属/合金微粉末を、分散系機能性材料の流動性を利用して、微細空間内に確実に充填することができる。液状分散媒を蒸発させた後、還元処理が実行される。」との記載に基づいていると認められる。
したがって、補正事項1の補正は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとすることはできない。
よって、補正事項1の補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

(2)補正事項2について
補正事項1は、補正前の請求項1に「前記対象物は、ウエハ、回路基板、積層基板、又は、半導体チップの何れかである」との事項を加入することで、補正前の請求項1の「前記対象物」を「ウエハ、回路基板、積層基板、又は、半導体チップの何れか」に限定するものである。
よって、補正事項2の補正は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、補正事項2の補正は、本願の願書に最初に添付した明細書における、段落【0024】の「対象物1には、ウエハ、回路基板、積層基板、半導体チップ、または、MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)等、微細空間を有するものが広く含まれる。」との記載に基づいていると認められる。
したがって、補正事項2の補正は、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとすることはできない。
よって、補正事項2の補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

(3)補正事項3について
補正事項3の補正は、特許法第17条の2第5項第1号に規定する請求項の削除を目的とするものに該当する。
そして、補正事項3の補正が、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲または図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものとすることはできないことは明らかである。
よって、補正事項3の補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

以上から、本件補正は、特許法第17条の2第3項及び第5項の規定に適合する。

3.独立特許要件
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を包含している。
そこで、前記特許請求の範囲の減縮を目的とする補正がなされた、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「補正後の発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかを検討する。

(1)補正後の発明
補正後の発明は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載した事項により特定される、以下のとおりのものである。

「対象物に設けられた微細空間内に導体を形成する方法であって、
前記微細空間内に充填された導電性微粉末を加熱し、加圧しながら硬化させる工程を含み、
前記工程前に、前記導電性微粉末に含まれる金属酸化物微粉末を、前記微細空間内で還元する工程を含んでおり、
前記対象物は、ウエハ、回路基板、積層基板、又は、半導体チップの何れかである、
方法。」

(2)引用された刊行物
原査定の根拠となった拒絶理由通知において引用された刊行物は以下のとおりである。
1.特開平05-167262号公報(以下「引用例1」という。)
2.特開2012-209537号公報(以下「引用例2」という。)
3.特開2007-220882号公報(以下「引用例3」という。)
4.特開2011-228571号公報(以下「引用例4」という。)
5.特許第4563506号公報(以下「引用例5」という。)

(2-1)引用例1の記載事項
引用例1には、「セラミック多層配線基板およびその製造方法(発明の名称)」について、図1?図2とともに、以下の記載がある(下線は、参考のため、当審において付した。)。
a.「【0011】
【実施例】(実施例1)以下本発明の一実施例について、図面を参照しながら説明する。
……(中略)……
【0014】基板材料のガラス・セラミックにはホウ珪酸鉛ガラス粉末にセラミック材料としてのアルミナ粉末を重量比で50対50とした組成物(日本電気硝子社製 MLS-19)を用いた。このガラス・セラミック粉を無機成分とし、有機バインダとしてポリビニルブチラール、可塑剤としてヂ-n-ブチルフタレート、溶剤としてトルエンとイソプロピルアルコールの混合液(30対70重量比)を混合しスラリーとした。
【0015】このスラリーをドクターブレード法で有機フィルム上にシート成形した。この時、造膜から乾燥、打ち抜き、さらには必要に応じてビアホール加工を行う各工程を連続的に行うシステムを使用した。このグリーンシートに銀ペーストを用いて導体パターンの形成およびビアホール埋め印刷をスクリーン印刷法によって行った。
……(中略)……
【0017】前記基板用グリーンシートに印刷を行なったものを所定の枚数積み重ね、 この状態で熱圧着して積層体を形成した。熱圧着条件は、温度が80℃、圧力は200Kg/cm^(2)であった。 熱圧着後、グリーンシート積層体にフェライト・ビーズコアを形成するためにNCパンチ機により積層体を貫通する孔開け加工を行った。孔径は、1mmであった。この孔開け加工はドリルやCO_(2)レーザーまたその他の方法を用いてももちろん問題ない。
……(中略)……
【0020】この様に作成したフェライト・ペーストを前記グリーンシート積層体の加工孔にスクリーン印刷法により充填した。ペースト充填は、加工孔の下方より吸引し、積層体の表裏面まで十分にペーストが充填される条件で行った。フェライト・ペースト充填後、前記グリーンシート多層体を乾燥機に入れフェライト・ペーストの乾燥を行った。前記フェライト・ペーストの乾燥後、NCパンチ機にてフェライト中に0.2mmの貫通孔を開けた。ここで、フェライト貫通孔の孔径は前記グリーンシートの加工孔径より小さく、また、孔開け方法は、NCパンチ以外の方法でももちろん問題ない。
【0021】次に、前記フェライト貫通孔に前記ビア埋め用のAgペーストを、グリーンシート積層体表裏面まで十分に充填した。ここで作成した、積層体の構成を、図1に示す。1は多層基板の内部電極層、2はビア電極、3はセラミックグリーンシート層、4はフェライト、5はフェライトの内部導体である。
【0022】次に前記積層体をアルミナ96%基板上に乗せ焼成する。条件はベルト炉によって空気中の900℃で1時間焼成で行なった。(900℃の保持時間は約12分である。)この時、基板の反りと厚み方向の焼結収縮を助けるためアルミナ焼結基板を乗せて加圧するようにして焼成を行なった。」

b.「【0027】(実施例2)基板材料のガラス・セラミックグリーンシートは実施例1と同様の組成の物を用いた。このグリーンシートにCuOペーストを用いて導体パターンの形成およびビアホール埋め印刷をスクリーン印刷法によって行った。…(中略)…
【0028】前記基板用グリーンシートに印刷を行なったものを所定の枚数積み重ね、 この状態で熱圧着して積層体を形成した。熱圧着条件は、温度が80℃、圧力は200Kg/cm^(2)であった。熱圧着後、グリーンシート積層体にフェライト・ビーズコアを形成するために電動ドリルにより積層体を貫通する孔開け加工を行った。孔径は、1mmであった。この孔開け加工はNCパンチ機やCO_(2)レーザーまたその他の方法を用いてももちろん問題ない。
……(中略)……
【0030】この様に作成したフェライト・ペーストを前記グリーンシート積層体の加工孔にスクリーン印刷法により充填した。ペースト充填には、加工孔の下方より吸引し、積層体の表裏面まで十分にペーストが充填されるような条件で行った。フェライト・ペースト充填後、前記グリーンシート多層体を乾燥機に入れフェライト・ペーストの乾燥を行った。前記フェライト・ペーストの乾燥後、NCパンチ機にてフェライト中に0.3mmの貫通孔を開けた。ここで、フェライト貫通孔の孔径は前記グリーンシートの加工孔径より小さく、また、孔開け方法は、NCパンチ以外の方法でももちろん問題ない。
【0031】次に、前記フェライト貫通孔に前記ビア埋め用のCuOペーストを、グリーンシート積層体表裏面まで十分に充填した。ここで作成した、積層体の構成を、図1に示す。1は多層基板の内部電極層、2はビア電極、3はセラミックグリーンシート層、4はフェライト、5はフェライトの内部電極である。
【0032】次に、焼成の工程を説明する。まず最初は、脱バインダ工程である。発明に使用したグリーンシート、CuOペーストの有機バインダは、PVB及びエチルセルロースである。したがって空気中での分解温度は、500℃以上あれば良いので、600℃の温度で行なった。その後前記積層体を水素ガス100%雰囲気中で200℃ー5時間で還元した。この時のCu層をX線回折により分析したところ100%Cuであることを確認した。
【0033】次に焼成工程は、純窒素中900℃であるメッシュベルト炉で焼成した。焼成後、前記多層基板の両面に銅ペーストによって最上層パターンをスクリーン印刷し、乾燥の後焼成を前記と同様の方法で行ない、前記多層基板中に形成したフェライト・ビーズコアの銅内部電極両端との導通を取った。」

c.「【0037】
【発明の効果】以上のように本発明は、セラミック配線基板中に、前記セラミック配線基板を貫通するフェライトと、前記フェライトの内部に前記フェライトを貫通し前記セラミック多層配線基板の表裏面に両端がある内部導体を備えた構成、および、セラミックグリーンシートに孔開け加工をし、フェライト粉を主成分とする無機成分と有機ビヒクルからなる磁性体ペーストを、前記加工孔に充填、乾燥後、前記磁性体に前記加工孔より小さい孔を開け、前記フェライトの加工孔に、CuOを主成分とする無機成分と有機ビヒクルからなる導体ペーストと充填することにより、前記セラミックグリーンシート中にフェライト内部にライン状の内部導体を有する未焼結体を形成する工程と、有機バインダを除去する熱処理工程と、CuOを金属銅にする還元工程と窒素雰囲気中での焼結工程とからなる構成により、セラミック多層配線基板の高周波ノイズ対策が容易で、しかも部品実装面積を最大限に利用できるセラミック多層配線基板およびその製造方法を実現できるものである。」

したがって、引用例1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「セラミック多層配線基板の製造方法であって、
ホウ珪酸鉛ガラス粉末とアルミナ粉末と有機バインダから形成したガラス・セラミックグリーンシートを所定の枚数積み重ね、この状態で熱圧着して積層体を形成し、前記積層体の加工孔にフェライト・ペーストを充填し乾燥させる工程と、
前記フェライト中に0.3mmの貫通孔を開ける工程と、
前記貫通孔にビア埋め用のCuOペーストを、前記積層体表裏面まで十分に充填する工程と、
前記グリーンシート、前記CuOペーストの有機バインダを分解させる脱バインダ工程の後、前記積層体を水素ガス雰囲気中で還元して、前記CuOを100%CuのCu層とする工程と、
前記積層体を純窒素中で焼成する焼成工程と、
を含み、セラミック配線基板中に、前記セラミック配線基板を貫通するフェライトと、前記フェライトの内部に前記フェライトを貫通する内部導体を備えた構成を形成することを特徴とするセラミック多層配線基板の製造方法。」

(2-2)引用例2の記載事項
引用例2には、「照明装置、ディスプレイ、及び信号灯(発明の名称)」について、図1?図11とともに、以下の記載がある。
a.「【0036】
図2?図4には上記の発光デバイス2が詳細に示されている。支持基板1は、いわゆるパッケージとなるものであって、複数の貫通電極12a,12bと、複数の柱状ヒートシンク11とを含み、板面に凹部10を有している。支持基板1は、Siを主成分とするものを採用すると好適であるが、これに限られず、絶縁樹脂基板、又は絶縁性セラミック基板を採用してもよい。更には、金属基板等の導電性基板であってもよい。本実施形態では、支持基板1がシリコン層の場合を例にとって説明する。」
b.「【0042】
貫通電極12a,12bは、例えば、凝固金属体でなる。凝固金属体を用いることの利点は、支持基板1に設けられた縦孔内に溶融金属を流し込み、凝固させる溶融金属充填法を適用できることである。溶融金属充填法は、特許第4278007号公報に開示されている。この溶融金属充填法を適用することにより、縦孔内に流し込まれた溶融金属に、機械的な力、例えばプレス板を用いたプレス圧、射出圧または転圧を印加しながら、冷却し、凝固させ、それによって、巣、空隙、空洞のない緻密な構造を持つ貫通電極12a,12bを、短時間で、効率よく形成することができる。
【0043】
貫通電極12a,12bを、溶融金属充填法を用いて形成する場合に用いられる金属材料の主なものとしては、Bi、In、Sn及びCuを例示することができる。特に、Biを含有させると、Biの持つ凝固時の体積膨張特性により、縦孔の内部で、空洞や空隙を生じることのない緻密な貫通電極12a,12bを形成することができる。もっとも、Bi等を含有させると、電気抵抗が増大する傾向にあるので、要求される電気抵抗値を満たす限度で、Biを使用することが好ましい。
【0044】
溶融金属としては、上述した金属材料を用いて、粒径1μm以下の多結晶体の集合体でなるナノコンポジット結晶構造をもつナノ粒子の粉体を溶融したものを用いることができる。このように、大きさが、ナノレベルに制限されたナノ粒子を含むことにより、微細な縦孔内に溶融金属を充填して貫通電極12a,12bを形成することができる。…(中略)…
【0045】
さらに、溶融金属充填法の他に、上述した金属材料の金属微粉末を、液状分散媒に分散した液状分散系を、縦孔内に充填し、液状分散媒を蒸発させた後に、熱処理によって金属微粉末を熱溶解させ、加圧しながら硬化させる方法(液状分散系充填法)を採用することもできる。」

(2-3)引用例3の記載事項
引用例3には、「埋込配線の形成方法(発明の名称)」について、図1?図8とともに、以下の記載がある。
a.「【0004】
電極材料や配線材料として銅を用いる場合、銅が選択エッチングの困難な材料であることから、電極や配線はダマシン法により埋込電極或いは埋込配線として形成されることになるが、この場合は、形成される電極や配線のアスペクト比を高くすることによって、半導体装置の微細化、高速化を実現することが可能になる。
【0005】
このような電極材料や配線材料として用いられる銅は、酸化されやすい性質を有しているため、半導体装置の製造過程においては、電極や配線として形成した銅の表面に、酸化銅(CuO)や亜酸化銅(Cu_(2) O)といった銅酸化物が生成する。」
b.「【0015】
このように、配線溝孔3をメッキ法により導電体層4で埋め込んだのち、気体状態の有機系ガス5により導電体層4の熱処理を行うことにより、表面における有機系ガス5との反応により、ボイドや不純物の内部拡散が加速され導電体層4の表面に集積されることになり、このボイドや不純物の集積した表面部を埋込配線6を形成する際のCMP工程で除去することにより、ボイドや不純物を効果的に除去することができる。
【0016】
即ち、有機系ガス5のアニール時にめっき銅表面が還元され、そのため銅酸化物の表面濃度が薄くなり、めっき内部の銅酸化物が粒界を通して表面に移動する。
この時、導電体層4内部のボイドは元来粒界に分布していることから、銅酸化物の移動と共に表面に移動することとなる。
……(中略)……
【0018】
また、熱処理工程において使用する有機系ガス5としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸或いは酪酸等のカルボン酸を有するガスが望ましく、それによって、層間絶縁膜2等の他の部材にダメージを与えることがない。
なお、カルボン酸の分子量が大きくなるほど反応がソフトになる。」

(2-4)引用例4の記載事項
引用例4には、「充填用基材及びそれを用いた充填方法(発明の名称)」について、図1?図2とともに、以下の記載がある。
a.「【0029】
更に、微細空間に形成された金属導体を他の金属導体と接続する際、金属導体に形成されることのある酸化膜を還元し、電気抵抗の低い接合を形成するため、金属層2は、貴金属層を含んでいてもよい。貴金属層は、Au、Ag、Pt、Pd、Rh、Ir、Ru又はOsから選択された少なくとも一種によって構成することができる。これらの元素のうちでも、Au、Pt又はPdから選択された少なくとも一種を含むことが好ましい。」
b.「【0030】
次に、図2を参照し、図1に示す充填用基材を用いた充填方法について説明する。まず、図2(a)に示すように、真空チャンバの内部に設けられた支持具4の上に、処理対象となる基板3を設置する。基板3は、その厚み方向に延びる微細空間(縦孔)30を有している。微細空間30は、基板3の外面に開口している必要はあるが、その口形、経路及び数等は任意である。図示の貫通孔である必要はないし、非貫通孔であってもよい。あるいは、図示の縦方向のみならず、これと直交する横方向に連なるような複雑な形状であってもよい。
【0031】
基板3の代表例は、半導体デバイス用ウエハであるが、これに限定されない。本発明は、基板3に存在する微細空間30に金属を充填し固化する必要のある場合に、広く適用できるもので、例えば、他の電子デバイスや、マイクロマシン等において、内部に微細な金属導体充填構造又は機能部分を形成する場合に、広く適用することができる。
【0032】
また、基板3は、溶融処理時に加わる熱に対する耐熱性を有するものであれば、金属、合金、金属酸化物、セラミックス、ガラス、プラスチックもしくはそれらの複合材、又は、それらの積層体の別を問わず、広く用いることができる。
……(中略)……
【0034】
次に、真空チャンバに対して真空引きを実行し、真空チャンバの内圧を、例えば真空度10-3Pa程度まで減圧する。もっとも、この真空度は一例であって、これに限定されるものではない。
……(中略)……
【0036】
次に、図2(c)に示すように、充填用基材5を加熱し、かつ、加圧F1して、金属層2を溶融させつつ、微細空間30内に押込む。充填用基材5の加熱・加圧は、例えば、熱プレスによって実行することができる。図2(c)までの工程は、真空チャンバの内部の減圧雰囲気内で実行されることを基本とする。これにより、溶融金属4が微細空間30内に真空吸入され、微細空間30の内部に溶融金属20が充填されることになる。
【0037】
溶融のための熱処理温度は、例えば、200?300℃の範囲に設定される。本発明に係る充填用基材において、第1金属層21は、膜厚の微細サイズ効果又は量子サイズ効果により、熱処理温度200?300℃よりも低い温度で溶融させることができる。しかも、この第1金属層21の溶融熱を受けて、第2金属層22が溶融し、微細空間30内に加圧充填される。したがって、既に形成された半導体回路要素や、付帯する有機物に対する熱的劣化を生じさせることなく、縦導体を形成することが可能になる。
【0038】
加圧F1は、機械的なプレス手段を用いたプレス圧として与えてもよいし、転圧によって与えてもよいし、真空チャンバ内の雰囲気ガス圧を、減圧状態から増圧することによって与えてもよい。
【0039】
加圧F1の大きさは、基板3の機械的強度及び微細空間30のアスペクト比などを考慮して定める。一例として、基板3がシリコンウエハである場合、加圧F1は、大気圧超?2Kgf/cm^(2)以下の範囲で設定することが好ましい。基板3の機械的強度及び微細空間30のアスペクト比が大きい場合には、更に高い圧力を印加することができる。」

(2-5)引用例5の記載事項
引用例5には、「電極材料(発明の名称)」について、図1とともに、以下の記載がある。
a.「【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の金属粒子と、第2の金属粒子とを混合した粉体からなる電極材料であって、
前記第1の金属粒子は、その融点よりも低い温度で溶融可能な100nm以下の平均粒径を有しており、
前記第2の金属粒子は、前記第1の金属粒子の溶融熱を受けて溶融する、
電極材料。」

(3)対比
補正後の発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「前記積層体を純窒素中で焼成する焼成工程」において、「前記積層体」の「前記貫通孔」に「充填」された「ビア埋め用のCuOペースト」の「CuO」が「水素ガス雰囲気中で還元」されて形成された、「100%Cu」も「焼成」される。
そして、「CuOペースト」において、「CuO」は「ペースト」中で微粒子状で分散しているから、前記「100%Cu」も微粒子状であると認められる。
したがって、引用発明の「100%Cu」は、補正後の発明の「導電性微粉末」に相当する。
一般に「焼成」とは、「調合された原料を加熱し、焼塊をつくること。」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版)を指す。そうすると、「100%Cu」を「焼成する」とは、微粒子状の前記「100%Cu」を加熱し結合・硬化させて「焼塊」にするということである。
そして、引用発明の「前記貫通孔」は、補正後の発明の「微細空間」に相当する。
以上から、引用発明の「前記積層体を純窒素中で焼成する焼成工程」と、補正後の発明の「前記微細空間内に充填された導電性微粉末を加熱し、加圧しながら硬化させる工程」とは、「前記微細空間内に充填された導電性微粉末を加熱」しながら「硬化させる工程」である点で共通する。

イ 引用発明の「前記積層体を水素ガス雰囲気中で還元して、前記CuOを100%CuのCu層とする工程」は、前記「前記積層体を純窒素中で焼成する焼成工程」の前に実施される。
そして、引用発明の「前記CuO」は、「前記貫通孔」に「充填」された「CuOペースト」中で微粒子状で分散しているから、補正後の発明の「微細空間内」の「金属酸化物微粉末」に相当する。
したがって、引用発明の「前記積層体を水素ガス雰囲気中で還元して、前記CuOを100%CuのCu層とする工程」と、補正後の発明の「前記工程前に、前記導電性微粉末に含まれる金属酸化物微粉末を、前記微細空間内で還元する工程」とは、「前記工程前」に「金属酸化物微粉末を、前記微細空間内で還元する工程」である点で共通する。

ウ 引用発明において、「100%CuのCu層」からなる「内部導体」を形成する対象物は、「前記積層体の加工孔にフェライト・ペーストを充填し乾燥させ」、「前記フェライト中に0.3mmの貫通孔を開け」た「積層体」である。
したがって、引用発明の前記「積層体」に開けた「貫通孔」内の「100%CuのCu層」からなる「内部導体」を形成する「製造方法」は、補正後の発明の「対象物に設けられた微細空間内に導体を形成する方法」に相当する。

エ そして、引用発明の前記「積層体」によって「セラミック多層配線基板」が「製造」されることは、補正後の発明において、「前記対象物」は「ウエハ、回路基板、積層基板、又は、半導体チップの何れかである」こと、すなわち、「前記対象物」は「積層基板」であることに相当する。

オ してみれば、補正後の発明と引用発明とは、以下の点で一致するとともに、相違する。<<一致点>>
「対象物に設けられた微細空間内に導体を形成する方法であって、
前記微細空間内に充填された導電性微粉末を加熱しながら硬化させる工程を含み、
前記工程前に、金属酸化物微粉末を、前記微細空間内で還元する工程を含んでおり、
前記対象物は、ウエハ、回路基板、積層基板、又は、半導体チップの何れかである、
方法。」
<<相違点1>>
補正後の発明は、「硬化させる工程」において、前記微細空間内に充填された導電性微粉末を加熱し「加圧しながら硬化させる」のに対して、引用発明は、「焼成工程」において「前記積層体」を「焼成する」点。
<<相違点2>>
補正後の発明は、「前記微細空間内で還元する工程」において「導電性微粉末に含まれる金属酸化物微粉末」を「還元」するのに対して、引用発明は、「前記積層体を水素ガス雰囲気中で還元」する「工程」において「CuOペースト」の「前記CuOを100%Cu」に「還元」する点。

(4)判断
(4-1)相違点1について
ア 引用発明は、「前記積層体を純窒素中で焼成する焼成工程」において、「前記積層体」を加熱しながら硬化させていることは、「(3)対比」の「ア」で指摘したとおりである。

イ ところで、引用例1には、引用発明とは異なる「実施例1」として、段落【0017】?【0022】に、「基板用グリーンシートに印刷を行なったものを所定の枚数積み重ね、 この状態で熱圧着して積層体を形成し」、「熱圧着後、グリーンシート積層体にフェライト・ビーズコアを形成するためにNCパンチ機により積層体を貫通する孔開け加工を行」い、「フェライト・ペーストを前記グリーンシート積層体の加工孔にスクリーン印刷法により充填し……乾燥を行った」後に、「前記フェライト貫通孔に前記ビア埋め用のAgペーストを、グリーンシート積層体表裏面まで十分に充填し」、その後、「基板の反りと厚み方向の焼結収縮を助けるためアルミナ焼結基板を乗せて加圧するようにして焼成を行なった」と記載されている。
すなわち、引用例1には、「熱圧着」しただけで完全には硬化されていない「積層体」に「加工孔」を設け、該「加工孔」に「フェライト・ペースト」を「充填し」て「乾燥」しただけの柔軟な「フェライト」層に「貫通孔」を設け、該「貫通孔に前記ビア埋め用のAgペースト」を「充填し」て形成した「積層体」に、「基板の反りと厚み方向の焼結収縮を助けるためアルミナ焼結基板を乗せて加圧するようにして焼成を行なった」ことが記載されている。

ウ そして、「熱圧着」しただけで完全には硬化されていない「積層体」に「加工孔」を設け、該「加工孔」に「フェライト・ペースト」を「充填し」て「乾燥」しただけの柔軟な「フェライト」層に「貫通孔」を設け、該「貫通孔」に導電性微粉末のペーストを「充填し」て形成した「積層体」を「焼成」する点では、引用発明も、引用例1の「実施例1」も、同じである。

エ このように、引用発明と同じ前記「貫通孔」に導電性微粉末のペーストを「充填し」て形成した「積層体」を、「基板の反りと厚み方向の焼結収縮を助けるためアルミナ焼結基板を乗せて加圧するようにして焼成を行なった」ことが、他ならぬ引用例1に記載されているのであるから、引用発明において、前記「実施例1」の如く、「積層体」を「加熱し、加圧しながら硬化させる」ように「焼成工程」を変更することに、阻害要因があるとは認められない。

オ したがって、引用発明の「前記積層体を純窒素中で焼成する焼成工程」において、前記「実施例1」のように前記「積層体」の上に「アルミナ焼結基板を乗せて加圧するようにして焼成」すること、すなわち、前記「積層体」の「貫通孔」内の「100%Cu」も「加熱し、加圧しながら硬化させる」ことは、当業者であれば、必要に応じて適宜なし得たものと認められる。

(4-2)相違点2について
ア 引用発明は、「焼成」により形成する「フェライトを貫通する内部導体」の原料として「ビア埋め用のCuOペースト」を用いている。
前記「CuO」は「Cu」の酸化物であり、導電性の材料ではない。
一方、引用例1には、前記「実施例1」として、「フェライトを貫通する内部導体」の原料として「ビア埋め用のAgペースト」を用いることが、段落【0021】に記載されている。そして、「Ag」は導電性の材料である。しかしながら、前記「実施例1」には、段落【0021】?【0022】に記載されるように、酸化した「Ag」を「焼結」する前に還元することはもちろん、「焼結」する前に還元工程を設けることさえ、記載されていない。
したがって、引用例1には、導電性の材料に含まれる前記導電性の材料の酸化物を還元しようとすることは、記載されていない。

イ そして、引用例1には、「フェライトを貫通する内部導体」の原料として「CuOペースト」を用いた理由や、「Agペースト」を用いる場合(段落【0021】)と「CuOペースト」を用いる場合とで如何なる差異があるのかについて、記載されていない。

ウ ところで、本願の出願前に頒布された刊行物である特開昭61-292393号公報には、
a.「従来より、セラミック配線基板の導体ペースト用金属としては……安価で導電性が良く、ハンダ付け性の良好なCuペーストが用いられる様になって来た。」(第1頁の下左欄第17行?下右欄第11行)
b.「しかしながら、上記の様なCuペーストを用いた場合、セラミック配線基板の製造方法においていくつかの大きな問題点がある。まず第一に、焼成工程において、Cuを酸化させず、なおかつCuペースト中の有機成分を完全に燃焼させる様な酸素分圧に炉内を制御するという事が非常に困難であるという事である。」(第2頁上左欄第4?10行)
c.「また、金属Cuを用いた場合、たとえ脱バインダの工程と、Cu焼付けの工程を分けたとしても、金属Cuが脱バインダの工程で酸化され、体積膨張を起こすため、基板からの剥離等の問題を生ずる。第二に、多層にする場合、印刷、乾燥後、その都度焼成を行なうのでリードタイムが長くなる。さらに設備などのコストアンプにつながるという問題を有している。」(第2頁の上左欄第20行?上右欄第7行)
d.「そこで、特願59-147833において、酸化銅ペーストを用い、絶縁ペーストと導体ペーストの印刷を繰り返し行ない多層化し、炭素に対して充分な酸化雰囲気で、かつ内部の有機成分を熱分解させるに充分な温度で熱処理を行ない、しかる後、Cuに対して非酸化性となる雰囲気とし、印刷された酸化銅が金属Cuに還元され、焼結する事を特徴とするセラミック多層配線基板の製造方法について、すでに開示されている。この方法により焼成時の雰囲気制御が容易になり、同時焼成が可能となった。」(第2頁上右欄第7?17行)
と記載されている。

すなわち、積層基板の内部導体の原料として「Cu」を用いると、焼成工程における炉内の酸素分圧制御が非常に困難であり、製造過程で金属「Cu」が酸化されて体積膨張を起こし、また、製造工程が複雑になる等の問題が生じることから、前記「Cu」に代えて「酸化銅」を用いることは、積層基板の製造技術において、きわめて周知な常套手段であった。

エ してみれば、積層基板の内部導体の原料として「Cu」からなる導電ペーストを用いることが周知技術であっても、「焼成」により形成する「フェライトを貫通する内部導体」の原料として特に「CuO」を用い、「焼成」直前に前記「CuO」を「100%Cu」に「還元」する引用発明において、前記「CuO」に代えて「Cu」を採用する動機付けが存在しない。

オ そして、本願明細書には、段落【0013】に「本発明では……対象物を還元雰囲気内において、金属/合金微粉末に含まれる金属酸化物微粒子を還元するから、金属/合金微粉末を構成する金属微粒子が、仮に酸化されていても、還元され、金属化される。したがって、微細空間内に電気伝導度の高い導体を形成することができる。」、段落【0028】に「高融点金属微粉末としては、Cuを用いることが好ましい。……ただ、高融点金属微粉末として、Cuを用いた場合、空気中で容易に酸化され、CuOとなってしまう。CuOのままであると、Cuが本来持っている低電気抵抗の利点を生かすことができない。本発明によれば、この問題を解決することができる。その手段が、図1(c)に示す還元工程である。」と記載されている。
したがって、本願明細書には、「微細空間内」に「形成」する「導体」の原料として「導電性微粉末」を用いるものの、当該「導電性微粉末」に、「仮に」あるいは不可避に含まれる「金属酸化物微粉末」を、「硬化」前に「微細空間内」で「還元」しておくという技術思想が開示されており、補正後の発明は、前記技術思想に基づいて「前記工程前に、前記導電性微粉末に含まれる金属酸化物微粉末を、前記微細空間内で還元する工程」を備えたものであり、これにより、「微細空間内に電気伝導度の高い導体を形成することができる」という本願明細書に記載された効果を奏するものである。

カ また、「ウエハ、回路基板、積層基板、又は、半導体チップの何れか」である「対象物」の製造において、「前記導電性微粉末に含まれる金属酸化物微粉末を、前記微細空間内で還元する工程」を設けることは、引用例2ないし引用例5にも記載されていない。

キ 以上のとおりであるから、相違点1に係る構成を当業者が容易に想到することができたとしても、補正後の発明が、引用例1ないし引用例5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとすることはできない。

(5)独立特許要件のまとめ
以上のとおり、補正後の発明は、引用例1ないし引用例5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとすることはできず、よって、補正後の発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないとすることはできない。
他に、補正後の発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を発見しない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

4.小括
以上から、本件補正は、特許法第17条の2に規定する要件を満たす適法なものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
以上のとおり、本件補正は特許法17条の2に規定する要件を満たす適法なものである。
したがって、本願の請求項1に係る発明は、本件補正により補正された補正後の請求項1に記載されるとおりのもの、すなわち、補正後の発明であると認められる。

2.判断
してみれば、前記「第2.平成25年7月11日付けでなされた手続補正について」の「3.独立特許要件」の項で述べたとおりの理由により、本願の請求項1に係る発明は、引用例1ないし引用例5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

3.まとめ
以上のとおりであるから、原審の拒絶理由により本願の請求項1に係る発明を拒絶すべきものとすることは妥当でない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2013-11-25 
出願番号 特願2012-279758(P2012-279758)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
P 1 8・ 575- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 右田 勝則  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 小野田 誠
西脇 博志
登録日 2014-01-10 
登録番号 特許第5450780号(P5450780)
発明の名称 微細空間内に導体を形成する方法  
代理人 阿部 美次郎  

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