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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C08L
管理番号 1284464
審判番号 訂正2013-390205  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2013-11-28 
確定日 2014-02-06 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5395179号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5395179号に係る明細書及び特許請求の範囲を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第5395179号(以下「本件特許」という。)は、平成21年9月3日(パリ条約による優先権主張 2010年9月5日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願に係るものであって、平成25年10月25日に特許権の設定登録がなされ、その後、同年11月28日に本件訂正審判が請求され、同年12月18日付け手続補正指令書(方式)により特許法第133条第1項の規定に基づく補正が命じられ、その指定期間内である同年同月26日に手続補正書(方式)が提出されたものである。

第2.請求の趣旨及び理由
1.請求の趣旨
平成25年12月26日に提出された手続補正書(方式)によって補正された審判請求書に記載された本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第5395179号の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。

2.訂正の内容
本件訂正審判の請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項4に「ナフタレン(鉱物油)」とあるのを、「ナフテン(鉱物油)」に誤訳訂正する。

訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0041】及び【0058】にそれぞれ記載された「ナフタレン」とあるのを「ナフテン」に誤訳訂正する。

訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0009】、【0011】、【0035】、【0044】、【0060】、【0064】、及び【0068】(当審注:【0069】の誤記と認められる。)にそれぞれ記載された「パスカル/秒」とあるのを「パスカル・秒」に誤記訂正し、【0055】及び【0056】にそれぞれ記載された「パスカル」を「パスカル・秒」に誤記訂正する。

第3.当審の判断
1.訂正の目的、新規事項の追加、及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
本件特許に係る出願(特願2011-526187号)は、特許法第184条の4第1項の「外国語特許出願」である国際出願PCT/US/2009/055847(国際出願日2009年9月3日;国際公開第2010/028119号参照。上記国際出願を、以下「本件国際出願」あるいは「本件外国語特許出願」ともいう。)が、同法第184条の3第1項の規定により特許出願とみなされたものである。
したがって、本件審判に係る訂正事項のうち、特許法第126条第1項ただし書き第2号に掲げる事項を目的とするものについて、同条第5項を適用する際の「外国語書面出願」及び「外国語書面」は、同法第184条の19の規定により、それぞれ「第184条の4第1項の外国語特許出願」及び「第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面」となるので、同法第126条第5項で規定する「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」は、「第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面」となる。すなわち、本件審判に係る訂正事項のうち、特許法第126条第1項ただし書き第2号に掲げる事項を目的とするものについて、同条第5項を適用する際の「願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」は、国際出願日における本件国際出願の明細書、請求の範囲又は図面となる(「国際出願日における本件国際出願の明細書、請求の範囲又は図面」を、以下単に「基準明細書」という。)。
以下、これを踏まえて検討する。

1-1.訂正事項1について
(1)訂正の目的
訂正事項1は、上記第2 2.訂正事項1のとおりであり、これは、基準明細書における「ナフタレン(鉱物油)」に対応する箇所(基準明細書、請求項4)には、「naphthenic mineral oils」と記載されており、これは本来、「ナフテン(鉱物油)」と翻訳されるものであるところ、訂正前は「ナフタレン(鉱物油)」と誤訳していたので、「ナフテン(鉱物油)」と訂正するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書き第2号に掲げる「誤訳の訂正」を目的とするものである。

(2)新規事項の追加 及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項1は、上記のとおり、基準明細書に記載した事項においてしたものである。
また、訂正事項1は、誤訳のあった文言である「ナフタレン」を本来正しく翻訳されるべきであった文言である「ナフテン」に置き換えるのみで、その他の変更はなされていない。そして、審判請求書に添付された参考資料1(志田正二編集代表、化学辞典 第1版第3刷、森北出版、昭和56年10月30日)、及び、参考資料2(国際科学振興財団編、第2版 科学大辞典、丸善株式会社、平成17年2月18日)の記載からみて、(i)「ナフタレン」は常温で固体であり、「液体可塑剤」とはいえないこと、(ii)「鉱物油」の代表的なものとして請求項4に列挙されている「パラフィン」、「芳香族炭化水素」とならんで「ナフテン」が挙げられること、は技術常識であることを考慮すると、訂正事項1は、そもそも「液体可塑剤」とはいえない「ナフタレン(鉱物油)」を、正しい訳である「ナフテン(鉱物油)」に置き換えるものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

1-2.訂正事項2について
(1)訂正の目的
訂正事項2は、上記第2 2.訂正事項2のとおりであり、これは、基準明細書における「ナフタレン」に対応する箇所(基準明細書、第9頁第16行及び第12頁第15行)には、「naphthenic(・・・mineral oil(s))」と記載されており、これは本来、「ナフテン」と翻訳されるものであるところ、訂正前は「ナフタレン」と誤訳していたので、「ナフテン」と訂正するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第1項ただし書き第2号に掲げる「誤訳の訂正」を目的とするものである。

(2)新規事項の追加 及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項1は、上記のとおり、基準明細書に記載した事項においてしたものである。
また、訂正事項2は、上記1-1(2)での検討と同様、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

1-3.訂正事項3について
(1)訂正の目的
訂正事項3は、上記第2 2.訂正事項3のとおりであり、これは、粘度の単位について「パスカル/秒」又は「パスカル」を「パスカル・秒」と訂正するものである。
ここで、粘度の単位は、審判請求書に添付された参考資料3(二村隆夫監修、丸善 単位の辞典、丸善株式会社、平成14年3月25日)に記載されるように、「パスカル秒[Pa・s]」と表記される。してみると、願書に添付した明細書における粘度の単位「パスカル/秒」又は「パスカル」が、「パスカル・秒」を誤記したものであることは明らかであるということができる。
したがって、訂正事項3は、特許法第126条第1項ただし書き第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものである。

(2)新規事項の追加 及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否について
訂正事項3である「パスカル・秒」について、基準明細書には、「Pascal per second」又は「Pascals」と記載されている。そして、これらの記載がいずれも粘度の単位である「パスカル・秒」を指すことは、当業者にとって自明の事項である。よって、訂正事項3は、基準明細書に記載した事項においてしたものである。
また、訂正事項3について、特許請求の範囲における粘度の単位はすべて「パスカル・秒」であり、願書に添付した明細書の粘度の単位を「パスカル/秒」又は「パスカル」から「パスカル・秒」に訂正しても、特許請求の範囲の技術的事項はなんら変更されるものではないことから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

2.独立特許要件について
訂正事項1?3は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであるから、訂正後の特許請求の範囲のうち、実質的な訂正がなされている請求項である請求項4、並びに同請求項において引用される請求項である請求項1に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明4」、「本件訂正発明1」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるかについて検討する。

2-1.本件訂正発明1
本件訂正発明1は、次のとおりのものである。
「a)150℃における融解粘度が100パスカル・秒以上であることを特徴とする、高分子量を有する第1のエチレンビニルアセテートコポリマーと、
b)150℃における融解粘度が50パスカル・秒以下であることを特徴とする、低分子量を有する第2のエチレンビニルアセテートコポリマーであって、前記第1のエチレンビニルアセテートコポリマーの量(重量%)以下の量(重量%)で存在する、第2のエチレンビニルアセテートコポリマーと、
c)粘着付与樹脂の重量%と、前記第1及び第2のエチレンビニルアセテートコポリマーの重量%の合計との比が0.8?2.5であるような量で存在する、少なくとも1種の粘着付与樹脂と、
d)組成物の0.5重量%?10重量%の量で存在する少なくとも1種の炭化水素ワックスと、
e)組成物の20重量%以下の量で存在する少なくとも1種の液体可塑剤と、を含む、組成物。」

2-2.引用文献
本件の審査における拒絶理由通知において、本件訂正前の請求項1に係る発明が特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとして引用された引用文献は、以下のとおりである。
引用文献1:特表2005-538220号公報
引用文献2:国際公開第2008/58781号
引用文献3:特開2002-188068号公報
上記拒絶理由通知において、引用文献1又は3に記載された発明を主たる引用発明とし、引用文献2に記載された発明を従たる引用発明として、これら引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、とされている。

2-3.判断
以下では、本件訂正発明1が、引用文献1又は3に記載された発明を主たる発明とした場合について、特許法第29条第2項に規定する特許要件を満たすかを検討する。

2-3-1.引用文献1を主たる引用発明とした場合について
(1)引用文献1の記載事項
引用文献1には、以下の記載が認められる。

(摘示1a)
「【請求項1】
高い極性含有率と低いメルトフローインデックスを有するエチレンコポリマー、低い極性含有率と高いメルトフローインデックスを有するエチレンコポリマー、極性粘着付与剤、及びワックスを含み、高い耐熱性と耐寒性を有する、ホットメルト接着剤配合物。
【請求項2】
前記粘着付与剤がテルペンフェノール樹脂である、請求項1に記載の接着剤配合物。
【請求項3】
前記配合物中の、高い極性含有率と低いメルトフローインデックスを有する前記エチレンコポリマーの量が、低い極性含有率と高いメルトフローインデックスを有する前記エチレンコポリマーの量よりも多い、請求項1に記載の接着剤配合物。
【請求項4】
約33?約60重量%のビニル含有率及び約400g/10分未満のメルトフローインデックスを有するエチレンビニルアセテートを約20?約45重量%、並びに約32重量%未満のビニル含有率及び約400g/10分より大きいメルトフローインデックスを有するエチレンビニルアセテートを約1?約30重量%の量で含む、請求項1に記載の接着剤配合物。」(特許請求の範囲、請求項1?4)

(摘示1b)
「本発明は、優れた耐寒性と耐熱性を有するホットメルト接着剤を提供するものである。その接着剤は、ポリマーがラミネートされた板紙(paperboard)を結合するのに特に有用である。」(段落【0001】)

(摘示1c)
「本発明における使用に適したワックスには、・・・微結晶性ワックス、高密度低分子量ポリエチレンワックス、・・・フィッシャー‐トロプシュ(Fischer-Tropsch)ワックス、・・・のような機能性ワックスが含まれる。・・・そのワックス成分は、その接着剤の重量基準で約10重量%より多い、典型的には約20?40重量%のレベルで使用される。」(段落【0025】)

(摘示1d)
「その接着剤の意図された最終使用者に応じて、慣例的にホットメルト接着剤添加される、可塑剤、・・・のような他の添加剤が含有されても良い。加えて、少量の追加の・・・水素化されたひまし油・・・も、少量で、即ち約10重量%以下で、本発明の配合物中に導入されても良い。」(段落【0033】)

(摘示1e)
「実施例1
表1に示す成分を有するホットメルト接着剤サンプル1?6を、350°Fで均質になるまで全ての成分を混合することによって調整した。・・・
【表1】


」(段落【0047】?【0049】)

(2)引用文献1に記載された発明
引用文献1には、摘示1aからみて、「高い極性含有率と400g/10分未満のメルトフローインデックスを有するエチレンビニルアセテートコポリマー、低い極性含有率と400g/10分より大きいメルトフローインデックスを有するエチレンビニルアセテートコポリマー、極性粘着付与剤、及びワックスを含み、高い耐熱性と耐寒性を有する、ホットメルト接着剤配合物であって、前記配合物中の、高い極性含有率と低いメルトフローインデックスを有する前記エチレンコポリマーの量が、低い極性含有率と高いメルトフローインデックスを有する前記エチレンコポリマーの量よりも多い、接着剤配合物。」が記載されている。
そして、ワックスについて、摘示1cの記載からみて、「微結晶性ワックス、高密度低分子量ポリエチレンワックス、フィッシャー‐トロプシュワックス」が含まれるものであって、「ワックス成分は、その接着剤の重量基準で約10重量%より多い」レベルで使用されることが記載されている。

したがって、引用文献1には、
「高い極性含有率と400g/10分未満のメルトフローインデックスを有するエチレンビニルアセテートコポリマー、低い極性含有率と400g/10分より大きいメルトフローインデックスを有するエチレンビニルアセテートコポリマー、極性粘着付与剤、及び、微結晶性ワックス、高密度低分子量ポリエチレンワックス、フィッシャー‐トロプシュワックス等のワックスを含み、高い耐熱性と耐寒性を有する、ホットメルト接着剤配合物であって、前記配合物中の、高い極性含有率と低いメルトフローインデックスを有する前記エチレンコポリマーの量が、低い極性含有率と高いメルトフローインデックスを有する前記エチレンコポリマーの量よりも多く、前記ワックスの量が接着剤の重量基準で約10重量%より多い、接着剤配合物。」
なる発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比
本件訂正発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1における「微結晶性ワックス、高密度低分子量ポリエチレンワックス、フィッシャー‐トロプシュワックス等のワックス」は、本件訂正発明1における「炭化水素ワックス」に相当する。
そして、引用発明1における「400g/10分未満のメルトフローインデックスを有するエチレンビニルアセテートコポリマー」及び「400g/10分より大きいメルトフローインデックスを有するエチレンビニルアセテートコポリマー」について、メルトフローインデックスが小さいポリマーはメルトフローインデックスが大きいポリマーに比べて高分子量であるといえることから、本件訂正発明1における「高分子量のエチレンビニルアセテートコポリマー」及び「低分子量のエチレンビニルアセテートコポリマー」に相当するといえる。
また、引用発明1における「極性粘着付与剤」について、摘示1aからみて、テルペンフェノール樹脂を包含するものであり、本願訂正発明1における「粘着付与樹脂」に相当することは明らかである。そして、摘示1eからみて、粘着付与樹脂に相当する成分である、テルペンフェノール、炭化水素粘着付与剤、及びロジンエステルは、エチレンビニルアセテートコポリマーの総量に対して、0.9?1.3の比で存在する実施例が記載されており、かかる比は、本件訂正発明1における「粘着付与樹脂の重量%と、前記第1及び第2のエチレンビニルアセテートコポリマーの重量%の合計との比が0.8?2.5であるような量」に重複包含されている。

したがって、両発明は、
「a)高分子量を有する第1のエチレンビニルアセテートコポリマーと、
b)低分子量を有する第2のエチレンビニルアセテートコポリマーと、
c)粘着付与樹脂の重量%と、前記第1及び第2のエチレンビニルアセテートコポリマーの重量%の合計との比が0.8?2.5であるような量で存在する、少なくとも1種の粘着付与樹脂と、
d)炭化水素ワックスと、を含む、組成物。」
の点で一致し、以下の相違点で相違するものと認められる。

相違点(1)
2種のエチレンビニルアセテートの融解粘度について、本件訂正発明1においては、「150℃における融解粘度が100パスカル・秒以上である第1のエチレンビニルアセテートコポリマー」と、「150℃における融解粘度が50パスカル・秒以下である第2のエチレンビニルアセテートコポリマー」と特定するのに対し、引用発明1においては、融解粘度について特定していない点

相違点(2)
2種のエチレンビニルアセテートの量について、本件訂正発明1においては、「低分子量を有する第2のエチレンビニルアセテートコポリマーが、高分子量を有する第1のエチレンビニルアセテートコポリマーの量(重量%)以下の量(重量%)で存在する」であるのに対し、引用発明1においては、「高分子量を有するエチレンビニルアセテートコポリマーの量が、低分子量を有するエチレンビニルアセテートコポリマーの量よりも多い」ものである点

相違点(3)
ワックスの量について、本件訂正発明1においては、「組成物の0.5?10重量%」の量で存在しているに対し、引用発明1においては、「接着剤の重量基準で約10重量%より多い」ものである点

相違点(4)
液体可塑剤について、本件訂正発明1においては、「組成物の20重量%以下の量で存在する」、すなわち、量比が特定された必須成分であるのに対し、引用発明1においては、液体可塑剤について特定していない点

(4)相違点についての検討
上記相違点(1)、(2)について検討するに、引用発明1は、摘示1bの記載からみて、優れた耐寒性と耐熱性を有するホットメルト接着剤を提供することを課題とするものであり、ポリマーがラミネートされた板紙(paperboard)を結合するのに特に有用である、とされている。これに対し、本件明細書には、「プラスチック及びプラスチック多孔質基材上における粘着力及び接着力の改善されたホットメルト接着剤組成物」(段落【0001】)を提供することを課題とするものであり、「1つは高分子量かつ高粘度で高い粘着力に対して有利であり、1つは低分子量かつ低粘度で多孔質基材への浸透に対して有利である」(段落【0019】)として、上記課題解決のために、上記相違点(1)、(2)に係る事項である融解粘度及び配合量を有する2種の異なるエチレンビニルアセテートコポリマーを含有させることが記載されている。
してみると、引用文献1には、上記本件訂正発明1の課題、並びにかかる課題解決のための技術的事項である2種のエチレンビニルアセテートコポリマーの融解粘度及び配合量を相違点(1)、(2)に係る事項とすることについて開示はない。そして、引用文献2についても、前記課題及びかかる課題解決のための技術的事項について何ら記載されておらず、また、本件優先日において、これらの点について、当業者に知られていたと認めるに足りる根拠もない。
そうすると、上記相違点(1)、(2)に係る事項は、当業者が容易に想到しうるということはできない。

次に、相違点(3)について検討するに、本件明細書には、「大量のワックスは組成物を硬化させるが、全体的な粘着力は実質的に改善されない。更に、ワックスは接着剤の破断点伸びを低下させることが見出されており、これは対象となる多くの用途で非常に問題である。より重要なことには、大量のワックスを添加すると、多孔質基材、特に不織布上におけるこれら製剤の接着力が著しく低下することが見出されている。」(段落【0016】)という問題点があり、「ワックスの量が多すぎることにより、当該技術分野においてこれまで悩まされてきた幾つかの問題点を避けるために、接着剤組成物中のワックス含量は、約0.5?10重量%の範囲に限定されることが有利である」(段落【0040】)ことが記載されている。
しかしながら、引用文献1には、上記問題点及びかかる問題点解決のための技術的事項である「ワックス含量を0.5?10重量%」とすることについて開示はない。そして、引用文献2には、ワックス含量ついて「少量のワックスを、ホットメルト感圧接着剤に必要に応じて添加し得る。その量は、接着剤に悪影響を与えないようにすべきである。・・・その量は10%未満とすべきである。」(第6頁第9?12行、訳文は、パテントファミリーである特表2010-509474号公報の該当記載を援用する。)旨記載されているが、前記問題点について何ら記載されておらず、引用文献1に記載された発明に引用文献2記載の技術的事項であるワックス含量を採用する動機付けはないといえる。また、本件優先日において、前記問題点及びかかる問題点解決のための技術的事項について、当業者に知られていたと認めるに足りる根拠もない。
そうすると、上記相違点(3)に係る事項は、当業者が容易に想到しうるということはできない。

続いて、上記相違点(4)について検討するに、引用文献1には、摘示1dの記載からみて、接着剤組成物に添加剤として可塑剤を含有しうること、また、本件訂正発明1の液体可塑剤に相当する水素化されたひまし油を約10重量%以下で導入しうる、すなわち、液体可塑剤を任意成分として約10重量%以下含有しうることが記載されているといえる。これに対し、本件明細書には、液体可塑剤について、「組成物の粘度調整を可能にするため、また比較的低温における組成物の加工性を改善するために、少なくとも1種の可塑剤を含有する」(段落【0041】)ことが記載されており、液体可塑剤を含有しない実施例3(比較例)では、「粘度対温度曲線の非常に急な勾配により概説されるように、非常に浸透力が低いため、特に不織布材料上において、加工するには粘度が高すぎ、非常に接着力が低い」(段落【0070】)という結果が得られたことが記載されている。
しかしながら、引用文献1には、粘度対温度曲線の勾配と接着力との関係、並びに液体可塑剤を必須成分とすることについて開示はない。そして、引用文献2についても、これらの点について何ら記載されておらず、また、本件優先日において、これらの点について、当業者に知られていたと認めるに足りる根拠もない。
そうすると、上記相違点(4)に係る事項は、当業者が容易に想到しうるということはできない。
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、引用文献1に記載された発明を主たる引用発明とし、引用文献2に記載された発明を従たる引用発明として、これら引用発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

2-3-2.引用文献3を主たる引用発明とした場合について
(1)引用文献3の記載事項
引用文献3には、以下の記載が認められる。

(摘示3a)
「【請求項1】 エチレン-酢酸ビニル系共重合体を主体とするベースポリマー20?70重量%、粘着付与樹脂25?50重量%及びワックス5?30重量%を必須成分とし、熱溶融粘度が1,000?10,000mPa・s/180℃である電磁誘導加熱に適したホットメルト接着剤組成物。
【請求項2】 粘着付与樹脂がロジン系樹脂及び/又はテルペンフェノール系樹脂であり、ワックスがマイクロクリスタルワックス及び/又はフィシャートロプシュワックスである請求項1に記載の電磁誘導加熱に適したホットメルト接着剤組成物。
【請求項3】 エチレン-酢酸ビニル系共重合体がメルトインデックス値10?100と100?1,000のエチレン-酢酸ビニル系共重合体を組み合わせて使用する請求項1又は請求項2に記載の電磁誘導加熱に適したホットメルト接着剤組成物。」(特許請求の範囲、請求項1?3)

(摘示3b)
「【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、電磁誘導加熱により短時間で確実に接着させ、優れた接着性能、耐ブロッキング性及び作業性を得、また解体の際にも材料の回収が容易な電磁誘導加熱に適したホットメルト接着剤組成物を提供することである。」(段落【0004】)

(摘示3c)
「以下、本発明の構成を詳細に説明する。本発明に使用するエチレン-酢酸ビニル系共重合体としては、エチレン-酢酸ビニル共重合体やエチレン-酢酸ビニル-カルボン酸共重合体等が挙げられる。好ましくはエチレン-酢酸ビニル共重合体(以下「EVA樹脂」と称す)である。・・・EVA樹脂を使用するにあたり、酢酸ビニルの共重合割合の異なるEVA樹脂やメルトインデックス値の異なるEVA樹脂を少なくとも2種以上混合して使用することが基材への密着性や接着強度のバランスが取れて好ましい。更に、メルトインデックス値が10?100の溶融粘度の高いEVA樹脂と、100?1,000の溶融粘度の低いEVA樹脂を組み合わせて使用することが特に好ましい。このことにより、加熱溶融時に被着材への濡れを良くし、また涸結時に凝集力を高め、高い接着力を得ることができる・・・」(段落【0007】)

(摘示3d)
「本発明のホットメルト接着剤組成物には、発泡剤や発泡させる装置を使用することもできる。そのほか、公知の添加剤である可塑剤、充填剤、顔料、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、防炎剤、難燃剤等を本発明の効果を損なわない範囲で使用することができる。」(段落【0014】)

(2)引用文献3に記載された発明
引用文献3には、摘示3aからみて、「エチレン-酢酸ビニル系共重合体を主体とするベースポリマー20?70重量%、ロジン系樹脂及び/又はテルペンフェノール系樹脂である粘着付与樹脂25?50重量%、及び、マイクロクリスタルワックス及び/又はフィシャートロプシュワックスであるワックス5?30重量%を必須成分とし、熱溶融粘度が1,000?10,000mPa・s/180℃である電磁誘導加熱に適したホットメルト接着剤組成物であって、エチレン-酢酸ビニル系共重合体がメルトインデックス値10?100と100?1,000のエチレン-酢酸ビニル系共重合体を組み合わせて使用する、ホットメルト接着剤組成物。」が記載されている。

したがって、引用文献3には、
「エチレン-酢酸ビニル系共重合体を主体とするベースポリマー20?70重量%、ロジン系樹脂及び/又はテルペンフェノール系樹脂である粘着付与樹脂25?50重量%、及び、マイクロクリスタルワックス及び/又はフィシャートロプシュワックスであるワックス5?30重量%を必須成分とし、熱溶融粘度が1,000?10,000mPa・s/180℃である電磁誘導加熱に適したホットメルト接着剤組成物であって、エチレン-酢酸ビニル系共重合体がメルトインデックス値10?100と100?1,000のエチレン-酢酸ビニル系共重合体を組み合わせて使用する、ホットメルト接着剤組成物。」
なる発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。

(3)対比
本件訂正発明1と引用発明3とを対比すると、引用発明3における「ロジン系樹脂及び/又はテルペンフェノール系樹脂である粘着付与樹脂」及び「マイクロクリスタルワックス及び/又はフィシャートロプシュワックスであるワックス」はそれぞれ、本件訂正発明1のける「粘着付与樹脂」及び「炭化水素ワックス」に相当する。
そして、引用発明3における「メルトインデックス値10?100のエチレン-酢酸ビニル系共重合体」及び「メルトインデックス値100?1,000のエチレン-酢酸ビニル系共重合体」について、メルトインデックス値が小さいポリマーはメルトインデックス値が大きいポリマーに比べて高分子量であるといえることから、本件訂正発明1における「高分子量のエチレンビニルアセテートコポリマー」及び「低分子量のエチレンビニルアセテートコポリマー」に相当するといえる。
また、引用発明3における「エチレン-酢酸ビニル系共重合体を主体とするベースポリマー20?70重量%、ロジン系樹脂及び/又はテルペンフェノール系樹脂である粘着付与樹脂25?50重量%、及び、マイクロクリスタルワックス及び/又はフィシャートロプシュワックスであるワックス5?30重量%」なる組成割合について、粘着付与樹脂の重量%とベースポリマーとの比が0.4?2.8であることから、本件訂正発明1における「粘着付与樹脂の重量%と、前記第1及び第2のエチレンビニルアセテートコポリマーの重量%の合計との比が0.8?2.5であるような量で存在する、少なくとも1種の粘着付与樹脂」及び「組成物の0.5重量%?10重量%の量で存在する少なくとも1種の炭化水素ワックス」とその割合が重複一致している。

したがって、両発明は、
「a)高分子量を有する第1のエチレンビニルアセテートコポリマーと、
b)低分子量を有する第2のエチレンビニルアセテートコポリマーと、
c)粘着付与樹脂の重量%と、前記第1及び第2のエチレンビニルアセテートコポリマーの重量%の合計との比が0.8?2.5であるような量で存在する、少なくとも1種の粘着付与樹脂と、
d)「組成物の0.5重量%?10重量%の量で存在する少なくとも1種の炭化水素ワックスと、を含む、組成物。」
の点で一致し、以下の相違点で相違するものと認められる。

相違点(1)
2種のエチレンビニルアセテートの融解粘度について、本件訂正発明1においては、「150℃における融解粘度が100パスカル・秒以上である第1のエチレンビニルアセテートコポリマー」と、「150℃における融解粘度が50パスカル・秒以下である第2のエチレンビニルアセテートコポリマー」と特定するのに対し、引用発明3においては、融解粘度について特定していない点

相違点(2)
2種のエチレンビニルアセテートの量について、本件訂正発明1においては、「低分子量を有する第2のエチレンビニルアセテートコポリマーが、高分子量を有する第1のエチレンビニルアセテートコポリマーの量(重量%)以下の量(重量%)で存在する」であるのに対し、引用発明3においては、2種のエチレンビニルアセテートの量について特定していない点

相違点(3)
液体可塑剤について、本件訂正発明1においては、「組成物の20重量%以下の量で存在する」、すなわち、量比が特定された必須成分であるのに対し、引用発明3においては、液体可塑剤について特定していない点

(4)相違点についての検討
上記相違点(1)、(2)について検討するに、引用発明3は、摘示3b、3cの記載からみて、「電磁誘導加熱により短時間で確実に接着させ、優れた接着性能、耐ブロッキング性及び作業性を得、また解体の際にも材料の回収が容易な電磁誘導加熱に適したホットメルト接着剤組成物」を提供することを課題とするものであり、「EVA樹脂を使用するにあたり、酢酸ビニルの共重合割合の異なるEVA樹脂やメルトインデックス値の異なるEVA樹脂を少なくとも2種以上混合して使用することが基材への密着性や接着強度のバランスが取れて好ましい。更に、メルトインデックス値が10?100の溶融粘度の高いEVA樹脂と、100?1,000の溶融粘度の低いEVA樹脂を組み合わせて使用することが特に好ましい。このことにより、加熱溶融時に被着材への濡れを良くし、また涸結時に凝集力を高め、高い接着力を得ることができる」という効果を有するものである。
これに対し、本件明細書には、「プラスチック及びプラスチック多孔質基材上における粘着力及び接着力の改善されたホットメルト接着剤組成物」(段落【0001】)を提供することを課題とするものであり、「1つは高分子量かつ高粘度で高い粘着力に対して有利であり、1つは低分子量かつ低粘度で多孔質基材への浸透に対して有利である」(段落【0019】)として、上記課題解決のために、上記相違点(1)、(2)に係る事項である融解粘度及び配合量を有する2種の異なるエチレンビニルアセテートコポリマーを含有させることが記載されている。
してみると、引用文献3には、上記本件訂正発明1の課題、並びにかかる課題解決のための技術的事項である2種のエチレンビニルアセテートコポリマーの融解粘度及び配合量を相違点(1)、(2)に係る事項とすることについて開示はない。そして、引用文献2についても、前記課題及びかかる課題解決のための技術的事項について何ら記載されておらず、また、本件優先日において、これらの点について、当業者に知られていたと認めるに足りる根拠もない。
そうすると、上記相違点(1)、(2)に係る事項は、当業者が容易に想到しうるということはできない。

次に、上記相違点(3)について検討するに、引用文献3には、摘示3dの記載からみて、公知の添加剤である可塑剤を接着剤組成物に含有しうること、すなわち、任意成分として含有しうることが記載されているといえる。これに対し、本件明細書には、液体可塑剤について、「組成物の粘度調整を可能にするため、また比較的低温における組成物の加工性を改善するために、少なくとも1種の可塑剤を含有する」(段落【0041】)ことが記載されており、液体可塑剤を含有しない実施例3(比較例)では、「粘度対温度曲線の非常に急な勾配により概説されるように、非常に浸透力が低いため、特に不織布材料上において、加工するには粘度が高すぎ、非常に接着力が低い」(段落【0070】)という結果が得られたことが記載されている。
しかしながら、引用文献3には、粘度対温度曲線の勾配と接着力との関係、並びに液体可塑剤を必須成分とすることについて開示はない。そして、引用文献3についても、これらの点について何ら記載されておらず、また、本件優先日において、これらの点について、当業者に知られていたと認めるに足りる根拠もない。
そうすると、上記相違点(3)に係る事項は、当業者が容易に想到しうるということはできない。
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、引用文献3に記載された発明を主たる引用発明とし、引用文献2に記載された発明を従たる引用発明として、これら引用発明に基いて、当業者が容易に発明できたものであるということはできない。

2-3-3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、引用文献1又は3に記載された発明を主たる引用発明とし、引用文献2に記載された発明を従たる引用発明として、これら引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとすることができない。また、他に本件訂正発明1について特許を受けることができないとする理由を発見しない。
したがって、訂正後の請求項1に係る発明について、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明であるとすることはできない。

2-4.本件訂正発明4
本件訂正発明4も、上記の相違点に係る事項を含んでおり、本件訂正発明1と同様に、特許出願の際独立して特許を受けることができない発明であるとすることはできない。

2-5.まとめ
したがって、本件訂正は特許法第126条第7項の規定に適合する。

第4.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書き第2号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ホットメルト接着剤組成物
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック及びプラスチック多孔質基材上における粘着力及び接着力の改善されたホットメルト接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト接着剤は、化学的接着により、また一部の表面に対しては機械的かみ合いにより、塗布される表面に接着する。化学的接着は、2つの物質間を分子レベルで非常に密接に接触させる、接着剤と基材との間の良好な相互湿潤の結果として生じる。このレベルでは、分散力、双極子-双極子相互作用、及び水素結合等の分子間力が、接着剤の分子と基材の分子との間で活性化されて、化学的接着の基礎を形成する。機械的かみ合いは、接着剤組成物が、接着剤が塗布される表面の孔、凹凸、及び表面の輪郭に浸透するとき生じる。繊維質基材等の多孔質基材、例えば、プラスチック不織布材料上では、観察される全体的な接着力は、常に、化学的接着と機械的かみ合いとの合計である。
【0003】
エチレンビニルアセテートコポリマーに基づくホットメルト接着剤組成物は、長い間当該技術分野において知られている。これらの接着剤は、紙、木、ガラス、及び布地等の基材上における強力な接着力、良好な弾性、及び疲れ破損に対する耐性等の幾つかの利点をもたらす。エチレンビニルアセテートコポリマーに基づく製剤は、書籍及び雑誌の製本、アマチュアによる使用(amateur use)の分野における紙の糊付け、並びにカード紙、又は板紙カートン、箱等の糊付け用の接着剤として広く用いられている。
【0004】
しかし、1種の材料に対して有用なホットメルト接着剤は、他の用途に対して全く使用できない場合もあることが知られている。米国特許第4,299,745号を参照のこと。ダンボール箱及び他の紙系表面の接合に好適なホットメルト接着剤組成物は、プラスチックフィルム及び繊維等の他の表面と強力に接合しない。
【0005】
例えば、乳幼児及び成人用おむつ、生理用ナプキン等の衛生物品の製造において、プラスチックフィルム、典型的には、ポリオレフィンフィルム同士を及び/又は他のプラスチック若しくはポリオレフィン繊維で作製された不織布材料と糊付けしなければならない、より重要かつ要求の厳しい用途では、エチレンビニルアセテートコポリマーに基づく現在の接着剤製剤は満足に使用することができない。これらの用途では、エチレンビニルアセテートコポリマーに基づくホットメルト接着剤の従来の製剤は、粘着力が低く、破断点伸びが少なく、特にポリオレフィン等の大部分の疎水性プラスチック上において、プラスチックに対する接着力が低く、かつ不織布材料等のプラスチック多孔質基材に対する浸透力及び接着力が低い。
【0006】
これらの幾つかの問題点のために、衛生物品は、これまで、コストが高く、加工が困難であり、軟化点が高く、また他の問題となる特性を有するにもかかわらず、スチレンブロックコポリマーに基づくホットメルト接着剤を使用することが必要とされてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,299,745号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スチレンブロックコポリマーの現在の製剤は、固有の問題を有しているため、これら問題点は、接着剤の原材料、加工及び輸送のコストが増加するにつれてより厳しくなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般的に、2つの異なるエチレンビニルアセテートコポリマー、少なくとも1種の粘着付与剤、少なくとも1種の可塑剤、及び比較的少量の少なくとも1種の炭化水素ワックスを含む、接着剤組成物に関する。より具体的には、接着剤組成物は、150℃における融解粘度が100パスカル・秒以上であることを特徴とする、高分子量の第1のエチレンビニルアセテートコポリマーと、150℃における融解粘度が50パスカル・秒以下であることを特徴とする、低分子量の第2のエチレンビニルアセテートコポリマーと、を含み、第2の低分子量エチレンビニルアセテートコポリマーは、第1の高分子量エチレンビニルアセテートコポリマーの量(重量%)以下である量(重量%)で存在する。組成物はまた、粘着付与樹脂の重量%と、第1及び第2のエチレンビニルアセテートコポリマーの重量%の合計との比が0.8?2.5であるような量で存在する、少なくとも1種の粘着付与樹脂を含む。組成物はまた、組成物の0.5重量%?10重量%の量で存在する少なくとも1種の炭化水素ワックスと、組成物の20重量%以下の量で存在する少なくとも1種の液体可塑剤とを含む。
【0010】
第1のエチレンビニルアセテートコポリマーと第2のエチレンビニルアセテートコポリマーとの重量比は、好ましくは、0.8以上、より好ましくは、1以上である。種々の実施形態では、組成物中の第1及び第2のエチレンビニルアセテートコポリマーの合計重量%は、15重量%?40重量%の範囲内である。各第1及び第2のエチレンビニルアセテートコポリマーは、個々に、単一コポリマーの30重量%以下のビニルアセテート含量を有する。組成物の種々の実施形態では、組成物中のビニルアセテートの総含量は、組成物の10重量%以下、好ましくは、組成物の8重量%以下である。換言すれば、個々のビニルアセテート含量と、組成物中の各エチレンビニルアセテートコポリマーの割合との乗算の2つの結果の合計が、組成物の10重量%以下である。
【0011】
組成物の種々の実施形態では、第1のエチレンビニルアセテートコポリマーの150℃における融解粘度は、150パスカル・秒以上であり得る。第2のエチレンビニルアセテートコポリマーの150℃における融解粘度は、25パスカル・秒以下であり得る。120℃における組成物の種々の実施形態の粘度は、好ましくは、2,000?10,000ミリパスカル・秒である。
【0012】
組成物の種々の実施形態は、酸化防止剤、ミネラル充填剤、色素、染料、安定剤、揮発性液体、及びこれらの組み合わせ等の1種以上の添加剤を含み得る。添加剤は、接着剤組成物の30重量%以下含まれ得る。例えば、酸化防止剤は、存在する場合、組成物の0.03?1重量%の量含まれ得る。
【0013】
本発明の組成物は、プラスチック上及び不織布等のプラスチック多孔質基材上において優れた粘着力、接着力の独自のかつ最適なバランスをもたらす、新規かつバランスのとれた一連の特性を有する。驚くべきことに、本明細書に記載される製剤により提供される特性のバランスにより、エチレンビニルアセテートコポリマーに基づくホットメルト接着剤を、衛生物品等において用いられるポリオレフィンフィルム及び不織布等の、プラスチック材料、特に疎水性プラスチックフィルム及びプラスチック不織布材料の接着による接合に用いることが可能になることが見出された。接着剤組成物は、かかる表面上においてエチレンビニルアセテートに基づく接着剤が過去に悩まされてきた問題を克服する。
【0014】
例えば、エチレンビニルアセテートに基づくホットメルトの粘着力を改善するための当該技術分野における過去の試みは、製剤中のポリマー含量を増加させることを配合者に強いていた。しかし、ポリマーの増加は、ホットメルトの軟化点に非常に悪影響を与え、軟化点を上昇させる。更に、ポリマー含量の増加は、融解粘度にも悪影響を与え、融解粘度が高くなりすぎて、特に衛生物品用ライン等の高速で稼働している工業ライン上で押出及び塗布を行うのが非常に困難になる。エチレンビニルアセテートコポリマーの分子量を増加させることにより、接着剤の粘着力を改善することを試みた場合にも、同様のことが生じる。しかし、例えば、大量の硬質及びクリスタリンワックスを添加することにより組成物が硬化した場合、組成物は脆弱になり、特に低い破断点伸び値を呈する傾向がある。粘着力及び破断点伸びが低いという両方の特性は、使用中類似の問題を生じさせる、即ち、使用中に中程度の応力又は伸長下でさえも接着剤が容易に破断する。
【0015】
エチレンビニルアセテートの分子は、原則としてポリオレフィン基材上において良好な接合をもたらすことができるはずであるポリエステルで構成されるセグメントだけではなく、極性が高く、かつポリオレフィン上における接着力が低いビニルアセテートのセグメントも含む。ビニルアセテートの製剤中の含量のバランスをとり、制御するだけで、主に衛生物品の製造中に接触する、フィルム及び繊維(不織布)の両方の形態の、疎水性プラスチック、特にポリオレフィン上において、満足できる接合が得られることが見出された。
【0016】
実は、これまで入手可能であったエチレンビニルアセテートの製剤、特に大量のワックスを含有する製剤も、粘度と粘着力とのバランス、及びプラスチック上における接着力の低さの問題に部分的に取り組んでいる。しかし、大量のワックスは組成物を硬化させるが、全体的な粘着力は実質的に改善されない。更に、ワックスは接着剤の破断点伸びを低下させることが見出されており、これは対象となる多くの用途で非常に問題である。より重要なことには、大量のワックスを添加すると、多孔質基材、特に不織布上におけるこれら製剤の接着力が著しく低下することが見出されている。
【0017】
不織布等の多孔質基材上で強力な接着を形成するためには、一旦塗布された溶融ホットメルトを十分に長い時間液体かつ比較的低粘性状態に保つことが必須であり、その結果できる限り多くの接着剤が不織布材料の繊維と単一繊維の周囲との間の空間に浸透することができる。溶融接着剤が繊維間に深く浸透することができない場合、接着剤と不織布材料との間の接触領域が、最も外側の繊維の一部の非常に小さな上部の領域に限定され、これにより接着力が非常に低くなる。多孔質基材を強力に接合させるために好適な接着剤は、比較的平坦な融解粘度対温度曲線を有しなければならないことが見出されている。これは、多孔質基材内部に接着剤が容易に流れ得るように、接着剤が基材上に塗布された後自然冷却により温度が低下する間、比較的長時間にわたって、接着剤組成物を液体かつ低粘度に保たなければならないことを意味する。
【0018】
本発明の組成物は、不織布材料に十分に深く浸透するため、接着剤組成物と不織布繊維との間に十分強力な機械的かみ合いが得られ、不織布材料に優れた接合強度をもたらす。この要件は、加工温度付近で粘度対温度曲線が比較的平坦な形状を有するという事実により表される。つまり、多孔質基材上において良好な浸透力及び接着力を得るために、溶融ホットメルト接着剤を比較的に緩徐に固化させる。エチレンビニルアセテートコポリマーに基づく従来の製剤は、ワックスを含有しない場合でさえも、一般的に、多孔質基材に十分浸透させるには粘度対温度曲線の勾配が急すぎる。ワックスは、極めて急な粘度対温度曲線を有するため、非常に急速に固化し、更にエチレンビニルアセテートコポリマーに基づく接着剤が不織布材料等の多孔質基材に浸透する能力に悪影響を与える。
【0019】
本発明の組成物は、上述の問題を解決する。組成物は、少なくとも2つのエチレンビニルアセテートコポリマーを含有し、1つは高分子量かつ高粘度で高い粘着力に対して有利であり、1つは低分子量かつ低粘度で多孔質基材への浸透に対して有利である。本発明の組成物は、塗布温度、例えば、120℃において明確な範囲の融解粘度を有し、また冷却の関数として確定される「固化率」を有する。これら2つのパラメータは、多孔質基材内部への優れた浸透力、及び機械的かみ合いの発生に寄与する。
【0020】
組成物は、プラスチック上、特にポリオレフィン等の大部分の疎水性プラスチック上における強力な接着に有利であるように、限定量の極性成分ビニルアセテートを含有する。組成物は、限定量のワックスも含有する。組成物は、限定量添加された場合に破断点伸びを増加させ、プラスチック基材上における接着を補助する幾つかの液体可塑剤、例えば、鉱物油若しくは植物油又はこれらの組み合わせを含有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本明細書に記載されるさまざまな実施形態は、次の添付図面を用いた以下の説明を参照することにより理解され得る。
【図1】本明細書に記載される接着剤組成物の実施形態を用いて得られる良好な結果と、実施例3(△)等の比較例の組成物から得られる許容できない結果とを示す、実施例1(□)及び比較例の粘度対温度曲線のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0022】
A.定義
本明細書で使用するとき、「the」、「a」及び「an」を包含する冠詞は、特許請求の範囲又は明細書で使用されるときには、請求又は記載されるものの1以上を意味するものと理解される。
【0023】
本明細書で使用するとき、「含む(comprising)」という用語は、本開示の組成物の調製において共に使用される種々の構成成分を意味する。したがって、用語「から本質的に成る(consisting essentially of)」及び「から成る(consisting of)」は用語「含む(comprising)」に包含される。
【0024】
本明細書で使用するとき、用語「衛生物品」は、おむつ、他の着用可能かつ吸収性物品、例えば、失禁用パンツ、失禁用下着、吸収性挿入物、おむつカバー及びライナ、女性用衛生衣類、パンティーライナ、パッド、吸収性ベビーベッド、ベッドライナ及びベッドパッド、靴の中敷き、包帯等を指す。
【0025】
「使い捨て」は、通常の意味では、様々な期間にわたって限定された使用回数、例えば、約20回未満、約10回未満、約5回未満、又は約2回未満の後に、処分される又は廃棄されることを意味する物品に使われる。
【0026】
「おむつ」とは、着用者の腰部及び脚部を取り巻くように、胴体下部の周囲で幼児及び失禁症状のある人によって一般に着用され、特に尿及び糞便を受け取り収容するように構成されている吸収性物品を指す。本明細書で使用するとき、用語「おむつ」は、以下で定義されている「パンツ」も包含する。
【0027】
「パンツ」又は「トレーニングパンツ」とは、本明細書で使用されるとき、幼児又は成人の着用者用に設計された腰部開口部及び脚部開口部を有する使い捨て衣類を指す。パンツは、着用者の脚を脚部開口部に挿入し、パンツを着用者の胴体下部の周囲の位置にまで滑らせることによって着用者の所定位置に配置されてよい。
【0028】
特に記載のない限り、成分又は組成物の濃度はすべて、当該成分又は組成物の活性部分に関するものであり、かかる成分又は組成物の市販の供給源に存在し得る不純物、例えば残留溶媒又は副生成物は除外される。
【0029】
百分率及び比率はすべて、特に指示しない限り、重量で計算される。百分率及び比率はすべて、特に指示しない限り、組成物全体を基準にして計算される。
【0030】
本明細書全体にわたって記載されるあらゆる最大数値限定は、それより小さいあらゆる数値限定を、そのような小さい数値限定が本明細書に明示的に記載されたものとして包含すると理解されるべきである。本明細書全体を通じて記載される最小数値限定は、それより大きいあらゆる数値限定を、そのような大きい数値限定が本明細書に明示的に記載されたものとして包含する。本明細書全体を通じて記載される数値範囲は、そのようなより広い数値範囲内に入るそれよりも狭いあらゆる数値範囲を、そのようなより狭い数値範囲が全て本明細書に明確に記載されているかのように含む。
【0031】
本明細書に開示される寸法及び値は、列挙された正確な数値に厳しく制限されるものとして理解されるべきでない。それよりむしろ、特に指定されない限り、各こうした寸法は、列挙された値とその値周辺の機能的に同等の範囲の両方を意味することを意図する。例えば、「40mm」として開示された寸法は、「約40mm」を意味することを意図する。
【0032】
B.種々の実施形態の説明
驚くべきことに、規定されたビニルアセテート含量及び分子量を有するエチレンビニルアセテートコポリマーと、規定された量のポリオレフィンワックスと、ある量の液体可塑剤と、をバランスよく含むポリマー組成物は、粘着付与剤と共に、組成物の接着力又は低粘度を改善し、同時に、固化時間の増加は、プラスチック上、特にポリオレフィン上における良好な粘着力、良好な破断点伸び、比較的低い粘度、良好な接着力と、プラスチック不織布上における優れた浸透力及び接着力との間のバランスに優れ、十分に満足のいくものであるエチレンビニルアセテートコポリマーに基づくホットメルト接着剤を導き得ることが見出されている。このような組成物は、ホットメルト接着剤として適用でき、また驚くべきことに、大部分の基材、特にプラスチックフィルムに対し良好な接着力も有する。この特性の組み合わせにより、重要な用途、特に衛生物品の製造でさえも、新規エチレンビニルアセテートコポリマーに基づくホットメルト接着剤組成物が選択接着剤となる。
【0033】
本発明の種々の実施形態のホットメルト接着剤組成物は、一般的に、1つは高分子量を有し、もう1つが低分子量を有する2つのエチレンビニルアセテートコポリマーと、比較的限定された量の炭化水素ワックスと、少なくとも1種の好適な粘着付与剤と、少なくとも1種の可塑剤とを含む。接着剤組成物の種々の実施形態の構成は、プラスチック、特にプラスチック多孔質基材、例えば、不織布材料等に対する粘着力、並びに化学的及び機械的接着力に関する驚くべき有効な特性を組成物に付与する、明確な特徴及び比を有する。本発明の組成物の改善された特徴により、その組成物は、衛生物品の製造に用いるのに特に有利になる。
【0034】
本発明の組成物は、塗布温度、例えば、120℃において明確な範囲の融解粘度を有し、また例えば、規定の値より低い粘度対温度曲線の傾斜により求められる温度の関数としての固化率を有する。
【0035】
エチレンビニルアセテートコポリマーの分子量は、150℃における融解粘度により特徴付けられる。より具体的には、高分子量エチレンビニルアセテートコポリマーは、150℃において100パスカル・秒以上、好ましくは150パスカル・秒以上の融解粘度を有することを特徴とする。低分子量エチレンビニルアセテートコポリマーは、150℃において50パスカル・秒以下、好ましくは25パスカル・秒以下の融解粘度を有することを特徴とする。
【0036】
良好な粘着力に有利なように、高分子量コポリマーと低分子量コポリマーとの重量比(全組成物中の重量の相対比及び含量%の比)は、好ましくは少なくとも0.8、より好ましくは1以上である。融解粘度を容易に加工可能な値に限定するために、組成物中における2種のエチレンビニルアセテートコポリマーの重量による合計全含量は、約15重量%?約40重量%である。
【0037】
種々の実施形態では、各第1及び第2のエチレンビニルアセテートコポリマーは、個々に、単一コポリマーの30重量%以下のビニルアセテート含量を有する。組成物の種々の実施形態では、組成物中のビニルアセテートの総含量は、組成物の10重量%以下、好ましくは、組成物の8重量%以下である。換言すれば、個々のビニルアセテート含量と、組成物中の各エチレンビニルアセテートコポリマーの割合との乗算の2つの結果の合計が、組成物の10重量%以下である。
【0038】
好適なエチレンビニルアセテートコポリマーは、商業的に入手することができ、例えば、DupontによりElvax(商標)として、ArkemaによりEvathane(商標)として、Exxon MobilによりEscorene(商標)として、BayerによりLevapren(商標)及びLevamelt(商標)として販売されている。
【0039】
粘着付与樹脂又は樹脂のブレンドは、以下の化学的分類の粘着付与剤から選択され得る:芳香族炭化水素粘着付与剤、脂肪族炭化水素粘着付与剤、脂肪族-芳香族炭化水素粘着付与剤(C5?C9粘着付与剤としても知られている)、テルペン性粘着付与剤、ロジン、ロジンエステル粘着付与剤、及び前述の粘着付与剤のいずれかの組み合わせ及びブレンド。組成物中に含有される粘着付与剤はそれぞれ、45℃?130℃の軟化点を有する。接着剤組成物中の粘着付与剤又は粘着付与剤のブレンドは、好ましくは、2種のエチレンビニルアセテートコポリマーの合計の重量による全含量に対して約0.8?2.5の重量比で存在する。
【0040】
組成物の種々の実施形態はまた、約90℃?140℃の滴点を有する少なくとも1種の炭化水素ワックス、好ましくはポリオレフィンワックスを含有する。ワックスは、組成物の粘度を低下させて、比較的低温、例えば、120℃で組成物を加工するのを補助し、また組成物の結晶化を促進することにより組成物の機械的接着特性を上昇させる。しかし、ワックスの量が多すぎることにより、当該技術分野においてこれまで悩まされてきた幾つかの問題点を避けるために、接着剤組成物中のワックス含量は、約0.5?10重量%の範囲に限定されることが有利である。好ましい炭化水素ワックスは、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、及びマイクロクリスタリンワックスから選択される。
【0041】
組成物はまた、組成物の粘度調整を可能にするため、また比較的低温における組成物の加工性を改善するために、少なくとも1種の可塑剤を含有する。可塑剤も、組成物の破断点伸びを増加させる。可塑剤の量は、良好な粘着力を維持するために20重量%以下である。本発明に好適な油可塑剤は、ナフテン、芳香族、又はパラフィン鉱物油、植物油、及びそれぞれの誘導体若しくは混合物から選択される。液体可塑剤は、組成物中に、総組成物の約3重量%?20重量%の量で存在する。
【0042】
本発明の組成物の種々の実施形態では、酸化防止剤、ミネラル充填剤、色素、染料、安定剤、及び揮発性物質等の他の添加剤が、所望により、30重量%以下の量で存在してもよい。組成物は、例えば、0.03?1.0重量%の好適な酸化防止剤を含有してもよい。
【0043】
本発明で使用できる揮発性物質は、例えば、防臭剤、芳香、防虫剤(repelling agents)、及び香料である。本明細書で使用するとき、香料という用語は、いかなる発香性物質をも意味する。本発明で使用できる典型的な香料は、例えば、ビャクダン油、シベット及びパチョリ油などのような外国産の材料を含有する木質/土壌性のベースを含む。他の好適な香料は、例えば淡い、花の芳香剤、例えば、バラ抽出物、スミレ抽出物などである。香料は、望ましい果実の香り、例えば、ライム、レモン、オレンジなどの香りをもたらすように配合することができる。要するに、心地よい香り又は他の望ましい香りを発する、化学的に適合するいかなる材料も、本発明において香料として使用することができる。香料物質については、S.Arctander,Perfume Flavors and Chemicals,Vols.I and II,Aurthor,Montclair,N.J.,and the Merck Index,8th Edition,Merck & Co.,Inc.Rahway,N.J.に更に記載されている。
【0044】
本発明の接着剤組成物は、120℃において、2000?10,000ミリパスカル・秒の融解粘度を有する。不織布材料等の多孔質基材への浸透を更に促進するために、本発明の組成物は、加工温度周辺、好ましくは90℃?130℃に含まれる温度で比較的平坦な形状を示す「粘度対温度」曲線を有する。融解粘度は、パスカル・秒で表される90℃における粘度Eta(90℃)、及びパスカル・秒で表される130℃における粘度Eta(130℃)について、以下の関係が有効であるという事実により表される:
(Eta(90℃)-Eta(130℃))/(130-90)≦100、好ましくは(Eta(90℃)-Eta(130))/(130-90)≦50、より好ましくは、(Eta(90℃)-Eta(130℃))/(130-90)≦20。
【0045】
組成物の改善された特徴、特に低融解粘度により、150?160℃、及び更に高い温度で加工される他の現在のホットメルトの良好な特性を全て維持しながら、重要なエネルギーを節約しつつ、現在のエチレンビニルアセテートコポリマー及びスチレンブロックコポリマーホットメルトよりも著しく低い温度、例えば120℃において、組成物を加工することが可能になる。
【0046】
本発明のポリマー組成物は、好ましくは熱可塑性ポリマー組成物である。これらは、熱可塑性ポリマー組成物を製造するいずれの既知の方法を用いても製造でき、典型的には、ポリマーを融解させ、次いで、可塑剤、粘着付与剤、及び任意の添加剤を均質にブレンドして、均一な塊を形成し、それを冷却して本発明に係るポリマー組成物を得る工程を含む。
【0047】
本発明のポリマー組成物は、そのレオロジー及び接着特性により、選択された基材に溶融状態で塗布して、基材に直接接着するのに特に有用である。本発明の組成物は、任意の好適な基材に対して接着剤として用いることができる。複数の基材を互いに接着させることができる、及び/又は、1枚の基材をそれ自体に接着させることができる(例えば、同じ基材上の少なくとも2つの異なる点が互いに接着するように折り畳まれた基材)。例えば、組成物は、コーティングの塗布、フィルム、積層体に用いられ、衛生物品(例えば、おむつ、生理用ナプキン及びタンポン等の女性用保護製品、失禁パッド等の成人用失禁製品)、流体吸収性清浄化製品、創傷包帯、涎掛け等の使い捨て吸収性物品に対して最も有利である。特に、接着剤組成物は、衛生物品等の種々の物品に含まれるプラスチック不織布材料に塗布するのに非常に有益である。
【実施例】
【0048】
本発明の組成物を以下の実施例を用いて説明する。
【0049】
試験方法
製剤の内部粘着力は、以下の方法で評価されている。組成物のサンプルを、厚さ約3mm及び長さ80mmの「犬の骨」形状の平板に成形した。サンプルを動力計に入れ、材料が破断するまで0.26MPaの一定負荷を印加した。破断に必要な時間(クリープ時間)を、良好な粘着力の第1の指標として用いた(クリープ時間が長いほど粘着力が高い)。
【0050】
内部粘着力の第2の種類の評価を以下の方法で行った。上記と同じ犬の骨形サンプルを、0.8mm/sの一定の伸長速度で、標準的な応力/歪試験に供した。破断点伸び及びサンプルを破断させるために吸収される総エネルギーを、粘着力の更なる指標とした。
【0051】
プラスチック上、特にポリオレフィンフィルム及び不織布上における接着特性を、以下の方法で評価した。ポリオレフィンフィルム上における接着については、試験中の製剤を35g/m^(2)のコーティング重量で間に押し出すことにより、2枚のポリプロピレンフィルムを糊付けした。接着力は、50mm/分において、標準的なT字剥離により試験した。不織布上における接着力は、2枚のポリプロピレンフィルムを、15g/m^(2)の坪量を有するSMSポリプロピレン不織布に置換したことを除いて上記の通り評価した。
【0052】
重要な特徴は、以下の非網羅的かつ非限定的な実施例に更に示す。
【0053】
実施例1:接着剤組成物及び特性
材料:
以下の原材料を、本発明に従って配合した(bw=重量基準):
【0054】
【表1】

【0055】
Escorene UL 15019 CCは、エチレンビニルアセテートコポリマーであり、Exxon Mobilから入手可能であり、ビニルアセテート含量が19重量%、かつ150℃における融解粘度が262パスカル・秒であることを特徴とする。
【0056】
Escorene MV 2528 EH2は、エチレンビニルアセテートコポリマーであり、Exxon Mobilから入手可能であり、ビニルアセテート含量が28重量%、かつ150℃における融解粘度が9.6パスカル・秒であることを特徴とする。
【0057】
Sylvalite RE100 Lは、ロジンエステル粘着付与剤であり、Arizona Co.から入手可能であり、軟化点が100℃であることを特徴とする。
【0058】
Nytex 820は、Nynas Co.から入手可能な、可塑化ナフテン鉱物油である。
【0059】
Vestowax H2050は、Evonik Degussaから入手可能な合成フィッシャー・トロプシュワックスであり、滴点は約117℃である。
【0060】
ホットメルトを得るために当該技術分野において周知である手順により、上記成分を溶融状態で配合した。例えば、接着剤組成物は、成分をシグマブレードミキサ(例えば、IKA MIXER HD 0.6T)に供給し、成分を融解させ、150℃で60分間混合して、均質なブレンドを作製することにより調製できる。得られた組成物は、以下の特性を示した:
120℃における粘度=4990ミリパスカル・秒
破断点伸び=272%
破断に必要なエネルギー=388ミリジュール
クリープ時間=2180秒
Eta(90)-Eta(130)/(130-90)=9.80
フィルムとフィルムとのT字剥離=54.3g/cm(138g/インチ)
フィルムと不織布とのT字剥離=16.1g/cm(41g/インチ)
【0061】
上述の特性は、衛生物品を製造するため、特にポリオレフィン上で良好な粘着力及び接着力により不織布をフィルムに接合させるための接着剤組成物として優れている。
【0062】
実施例2:比較例
実施例1で用いたのと同じ成分を、先行技術により教示されているものと類似の配合基準に従って配合した。組成物を作製する手順は、上記手順と同じである。具体的には、以下の配合に従ってより多量のワックスを用いた:
【0063】
【表2】

【0064】
配合は、以下の特性を示した:
120℃における粘度=2800ミリパスカル・秒
破断点伸び=30%
破断に必要なエネルギー=53ミリジュール
クリープ時間=40秒
Eta(90)-Eta(130)/(130-90)=9.39
フィルムとフィルムとのT字剥離=5.5g/cm(14g/インチ)
フィルムと不織布とのT字剥離=13.4g/cm(34g/インチ)
【0065】
衛生物品を作製する分野の当業者は、前述の特性が、特にフィルム上において粘着力が満足のいくものではなく、接着力が低いことを理解する。具体的には、ポリプロピレンフィルム上における接着力が僅か5.5g/cm(14g/インチ)であることは、かかる特性により、フィルムが剥離する恐れがあり、したがって、製品が使用中に広がってしまう恐れさえもあるため、乳幼児用おむつ又は女性用パッドの一部としては絶対に許容することができない。
【0066】
実施例3:比較例
以下の成分は、以下の式に従って可塑化油を全く用いずに配合した:
【0067】
【表3】

【0068】
YT 314は、Euro-Yser Companyから入手可能なロジンエステル粘着付与剤であり、軟化点が94℃であることを特徴とする。
【0069】
配合は、以下の特性を示した:
120℃における粘度=18,000ミリパスカル・秒
破断点伸び=234%
破断に必要なエネルギー=150ミリジュール
クリープ時間=>4,000秒
Eta(90)-Eta(130)/(130-90)=470
フィルムとフィルムとのT字剥離=3.0g/cm(7.6g/インチ)
フィルムと不織布とのT字剥離=1.2g/cm(3.0g/インチ)
【0070】
上述の特性は、粘度対温度曲線の非常に急な勾配により概説されるように、非常に浸透力が低いため、特に不織布材料上において、加工するには粘度が高すぎ、非常に接着力が低いことを示す。図1に示すように、実施例1及び比較例の粘度対温度曲線は、実施例1に記載される接着剤組成物の実施形態を用いて得られる良好な結果と、実施例3の組成物から得られる許容できない結果とを示す。
【0071】
実施例は、本発明の組成物が、従来の製剤と比較したとき、優れた結果を提供し、エチレンビニルアセテートコポリマーに基づく組成物が、プラスチック及び不織布材料、特に新規エチレンビニルアセテートコポリマーに基づく組成物で製造される衛生物品用のホットメルト接着剤として有用であることを示すが、一方先行技術の製剤は、かかる材料に対して接着剤として用いることができない。
【0072】
「発明を実施するための形態」で引用したすべての文書は、関連部分において本明細書に参考として組み込まれるが、いずれの文書の引用も、それが本発明に関して先行技術であることを容認するものとして解釈されるべきではない。この文書における用語の任意の意味又は定義が、参照として組み込まれる文献における用語の任意の意味又は定義と矛盾する範囲については、本文書における用語に与えられた意味又は定義が適用される。
【0073】
本発明の特定の実施形態について説明し記載したが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の様々な変更及び修正が可能であることが当業者には自明である。したがって、本発明の範囲内にあるそのようなすべての変更及び修正を、添付の特許請求の範囲で扱うものとする。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)150℃における融解粘度が100パスカル・秒以上であることを特徴とする、高分子量を有する第1のエチレンビニルアセテートコポリマーと、
b)150℃における融解粘度が50パスカル・秒以下であることを特徴とする、低分子量を有する第2のエチレンビニルアセテートコポリマーであって、前記第1のエチレンビニルアセテートコポリマーの量(重量%)以下の量(重量%)で存在する、第2のエチレンビニルアセテートコポリマーと、
c)粘着付与樹脂の重量%と、前記第1及び第2のエチレンビニルアセテートコポリマーの重量%の合計との比が0.8?2.5であるような量で存在する、少なくとも1種の粘着付与樹脂と、
d)組成物の0.5重量%?10重量%の量で存在する少なくとも1種の炭化水素ワックスと、
e)組成物の20重量%以下の量で存在する少なくとも1種の液体可塑剤と、を含む、組成物。
【請求項2】
前記組成物の120℃における前記粘度が2,000?10,000ミリパスカル・秒である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記粘着付与樹脂が、芳香族炭化水素粘着付与剤、脂肪族炭化水素粘着付与剤、脂肪族-芳香族炭化水素粘着付与剤、ロジン及びロジンエステル粘着付与剤、これらの部分的又は完全に水素化された誘導体、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記可塑剤が、ナフテン鉱物油、芳香族鉱物油、パラフィン鉱物油、植物油、並びにトランスエステル化植物油、部分水素化植物油、完全水素化植物油、及びこれらのトランスエステルからなる群から選択される植物油の誘導体、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記可塑剤が、前記組成物の3重量%?20重量%の量で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記炭化水素ワックスが、フィッシャー・トロプシュワックス、ポリエチレンワックス、及びマイクロクリスタリンワックスからなる群から選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
第1のエチレンビニルアセテートコポリマーと第2のエチレンビニルアセテートコポリマーとの重量比が0.8以上である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
a)90℃における前記組成物と130℃における前記組成物との粘度(パスカル・秒で測定される)の差と、b)130℃?90℃の温度差との比として定義される、前記組成物の固化率が100以下である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記炭化水素ワックスが90℃?140℃の滴点を有し、前記粘着付与樹脂が45℃?130℃の軟化点を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
請求項1に記載の接着剤組成物により結合される少なくとも1種のポリオレフィン基材を含む物品。
【請求項11】
前記各第1及び第2のエチレンビニルアセテートコポリマーは、個々に、単一コポリマーの30重量%以下のビニルアセテート含量を有する、請求項1に記載の組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2014-01-28 
出願番号 特願2011-526187(P2011-526187)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (C08L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 阪野 誠司  
特許庁審判長 田口 昌浩
特許庁審判官 塩見 篤史
須藤 康洋
登録日 2013-10-25 
登録番号 特許第5395179号(P5395179)
発明の名称 ホットメルト接着剤組成物  
代理人 特許業務法人谷・阿部特許事務所  
復代理人 田村 正  
復代理人 田村 正  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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