• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1284469
審判番号 不服2010-27835  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-12-08 
確定日 2014-01-14 
事件の表示 特願2005-509564号「髄内釘」拒絶査定不服審判事件〔平成17年 4月28日国際公開、WO2005/037116号、平成19年 4月12日国内公表、特表2007-508852号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本件に係る出願(以下「本願」という。)は、2003年10月21日を国際出願日とする出願であって、平成22年8月16日付けで拒絶査定がなされ(発送日:同年8月25日)、これに対し、同年12月8日に拒絶査定不服の審判の請求がなされたものである。

2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、平成22年3月19日付け手続補正書により補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「特に脛骨用の髄内釘(1)であって、近位端部(2)と、髄腔への導入に適した遠位端部(3)と、中心軸(6)とを有し、
A)200?500mmの範囲の全長Lを有し、かつB)長さG≦Lの湾曲部(4)を有する髄内釘(1)において、C)前記長さGの湾曲部(4)が300?1300mmの範囲の曲率半径を有し、D)比L/Rが0.2?0.8の範囲にあり、かつE)遠位端部(3)が、長さ「l」≦Lの直線部(5)として構成されており、F)前記湾曲部(4)の両終点の接線が、7°?12°の範囲の角度アルファを含むことを特徴とする髄内釘(1)。」

3 刊行物について
原査定の拒絶の理由において提示された、本願の出願前に頒布された刊行物であるスイス国特許出願公開第674613号明細書(以下「刊行物」という。)には、図面と共に次の技術事項が記載されている(下線は当審にて付与。)。
ア 「2.特許請求の範囲
1.「PATENTANSPRUECHE
1.Einstueckig ausgebildeter Tibia-Marknagel mit gegen den Mittelteil(1) abgewinkelten proximalen(2) und distalen(3) Endteilen, dadurch gekennzeichnet, dass der proximale Endteil (2) um einen Winkelm-10°≦α≦-20°von der zentralen Achse(4) des Mittelteils (1) abweicht und dass das distale Endteil(3) um den Winkel +2゜≦β≦+4゜von der zentralen Achse(4) des Mittelteils(1) abweicht, und dass der proximale Endteil(2) eine Laenge A von 122-162 mm aufweist.
2.Tibia-Marknagel nach Anspruch 1, dadurch gekennzeichnet, dass der proximale Endteil(2) aus einem endstaendigen geradlinigen Stueck(5) der Laenge A' und einem an den Mittelteils(1) anschliessenden gekruemmten Stueck(6) der Laenge A'' besteht.
3.Tibia-Marknagel nach Anspruch 1 oder 2, dadurch gekennzeichnet, dass das Laengenverhaeltnis des endstaendigen geradlinigen Stueck(5) zur Gesamtlaenge L=A'+A''+B+C des Marknagels A':L im Bereich zwischen 0,33 und 0,40, vorzugsweise zwischen 0,350 und 0,377 liegt.(訳:中央部1に対して折れ曲がった近端部2と遠端部3を有し、一体に形成された脛骨髄内釘において、近端部2が中央部1の中心軸4から角-10゜≦α≦-20゜、好ましくは-13゜≦α≦-17゜だけ偏り、遠端部3が中央部1の中心軸4から角+2゜≦β≦+4゜だけ偏り、近端部2が122?162mm、好ましくは137?147mmの長さAを有することを特徴とする脛骨髄内釘。
2.近端部2が長さA′の末端直線片5と、中央部1に接続する長さA″のわん曲片6から成ることを特徴とする、特許請求の範囲第1項に記載の脛骨髄内釘。
3.末端直線片5と髄内釘の全長L=A′+A″+B+Cとの長さの比A′:Lが0.33ないし0.40、好ましくは0.350ないし0.377の範囲内であることを特徴とする、特許請求の範囲第1項または第2項に記載の脛骨髄内釘。)」(第2ページ左欄第1?20行。訳文は、上記刊行物のファミリー文献である特開平1-277551号公報の第1ページ左下欄第5行?同右下欄第1行。以下同様。)
イ 「BESCHREIBUNG
Die Erfindung bezieht sich auf einen einstueckig ausgebildeten Tibia-Marknagel mit gegen den Mittelteil B abgewinkelten proximalen(A) und distalen(C) Endteilen.(訳:[産業上の利用分野]
本発明は、中央部Bに対して折れ曲がった近端部(A)と遠端部(C)を有し、一体に形成された脛骨髄内釘に関する。」(第2ページ左欄第58?61行。訳文は、特開平1-277551号公報の第2ページ左上欄第8?11行)
ウ 「Hier will die Erfindung Abhilfe schaffen. Der Erfindung liegt die Aufgabe zugrunde, einen Marknagel zu schaffen fuer die Behandlung von Unterschenkelfrakturen saemtlicher Indikationen mit einer optimal an die Anatomie der Markhoehle und der Implantationsmethodik angepassten Form. Insbesondere wird die Aufgabe geloest einen Tibia-Marknagel zu schaffen, welcher einerseits ohne plastische Deformation in die Markhoehle eingefuehrt werden kann und anderseits nach Einfuehrung eine stabile Schienung bewirkt.
Die Erfindung loest die gestellte Aufgabe mit einem Tibia-Maknagel, welcher die Merkmale des Anspruchs 1 aufweist.
Der erfindungsgemaesse Tibia-Marknagel besitzt einen gegenueber der zentralen Achse des Mittelteils abgewinkelten distalen Endteil, der beim Einschlagen des Marknagels auf der posterioren Kortikalis als Gleitschlitten dient. Der Auftreffwinkel der Marknagelspitze ist dadurch spitzer und der Marknagel hat eine verstaerkte Tendenz der Markhoehlengeometrie zu folgen. Das proximale, sehr viel laenger -im Vergleich zum Stand der Technik-ausgebildete Endteil(Herzogkruemmung) taucht schon viel frueher in die Markhoehle ein, und verhindert dadurch eine zu starke Durchbiegung oder Biegebeanspruchung des Marknagels. Die Dreipunktverspannung des Marknagels beim Einschlagen wird dadurch stark vermindert. Wird der Marknagel ganz eingeschlagen, legt sich diese ueberlange Herzogkruemmung der anterioren Kortikalis an. Das hat den Vorteil, dass die Tibia auch ohne Zusatzelemente am Nagel, optimal geschient wird.(訳:[発明が解決しようとする課題]
本発明はこの点で対策と講じようとするものである。本発明の根底にある課題は、髄腔と植え込み方法との解剖学的条件に最適の形状を有し、かつすべての症状の下腿骨折の治療に使用するための髄内釘を提供することである。特に一方では塑性変形せずに髄腔に導入することができ、他方では導入の後に安定な副木固定をもたらす脛骨髄内釘を提供する課題が解決される。
[課題を解決するための手段]
本発明は、特許請求の範囲第1項の特徴を有する脛骨髄内釘によって上記の課題を解決する。
本発明に基づく脛骨髄内釘は、中央部の中心軸に対して屈折した遠端部を有する。この遠端部は髄内釘を後部皮質に打ち込む時にスライダの役割をする。このため髄内釘先端部の進入角は一層鋭角をなし、髄内釘は髄腔の幾何学的形状に従う傾向が強い。遥かに長く一先行技術と比較して一形成された近端部(ヘルツォークのわん曲部)は遥かに早期に髄腔内に没入するから、髄内釘の過度のたわみまたは曲げ応力を防止する。髄内釘を完全に打ち込むと、この適長のへルツォークわん曲部が前部皮質に当接する。それは、骨釘に補助部材を付けなくても、脛骨が最適に副木固定される利点がある。)」(第2ページ右欄第58行?第3ページ左欄第17行。訳文は、特開平1-277551号公報の第2ページ右下欄第7?第3ページ左上欄第11行)
エ 「Ein Ausfuehrungsbeispiel der Erfindung, welches zugleich das Funktionsprinzip erlaeutert, ist in der Zeichnung dargestellt und wird im folgenden naeher beschrieben.
Fig.1 stellt einen sagittalen Laengsschnitt durch den erfindungsgemaessen Tibia-Maknagel dar;
Fig.2 stellt einen Schnitt laengs der linie II-II in Fig.1 dar;
Fig.1 und 2 zeigen einen rohrfoermigen Tibia-Marknagel aus einem ueblichen metallischen Implantatmaterial mit einem Aussendurchmesser D von 12 mm und einer Wandstaerke d von 12 mm und einer Wandstaerke d von 1,2 mm.
Die Wandstaerke d des hohlen Marknagels kann zwischen 0,9 und 1,3 mm, vorzugsweise zwichen 1,15 und 1,25 mm variieren.
An das geradlinige Mittelteil 1 schliessen sich abgewinkelte proximale und distale Endteile 2 und 3. Das proximale Endteil 2 ist um einen Winkel α=-15°von der zentralen Achse 4 des Mittelteils 1 abgewinkelt und das distale Endteil 3 ist um den Winkel β=+3°von der zentralen Achse 4 des Mittelteils 1 abgewinkelt.
Der Winkel αkann innerhalb eines Bereiches von -10°≦α≦-20°,vorzugsweise -13°≦α≦-17°variieren. Auch der Winkel β kann innerhalb eines Bereiches von +2゜≦β≦+4°variieren.
Der proximale Endteil 2 besitzt eine Laenge A von 142 mm und besteht aus einem endstlaendigen geradlinigen Stueck 5 der Laenge A'=80 mm und einem an den Mittelteil 1 anshliessenden gekruemmten Stueck 6 der Laenge A''=62 mm. Der Kruemmungsradius r des an den Mittelteil 1 anshliessenden gekruemmten Stuecks 6 betraegt 200 mm und kann im Bereich zwischen 180 und 220 mm vorzugsweise zwichen 195 und 205 mm variiert werden.
Zu beachten ist, dass die Laenge A des proximalen Endteils 2, bzw, die Teillaengen A' und A'' der Teilstuecke 5 und 6 auf eine Gesamtlaenge des Marknagels L=A'+A''+B+C von 220 mm abgestimmt sind. Fuer Marknaegel mit einer anderen Gesamtlaenge L - ueblich sind Gesamtlaengen bis zu 420 mm - werden die Teilstuecke 5 und 6 zweckmaessigerweise proportional verlaengert. Im uebrigen kann die Laenge A des proximalen Endteils 2 auch bei einer Gesamtlaenge L des Nagels von 220 mm innerhalb eines Bereiches von 122-162mm, vorzugsweise von 137-147 mm variiert werden.
Das Laengenverhaeltnis des endstaendigen geradlinigen Stueck 5 zur Gesamtlaenge L des Marknagels A':L kann im Bereich zwichen 0,33 und 0,40. vorzugsweise zwichen 0,350 und 0,377 variieren, waehrenddem das Laengenverhaeltnis des gekruemmten Stuecks 6 zur Gesamtlaenge L des Marknagels A'':L im Bereich zwischen 0,25 und 0,31, vorzugesweise zwischen 0,270 und 0,294 variieren kann.(訳:[実施例]
同時に機能原理を説明する本発明の実施例を図面に示し、以下で詳述する。
第1図は本発明に基づく脛骨髄内釘の矢状縦断面を示す。第2図は第1図II-II線に沿った断面を示す。
第1図と第2図は外径Dが12mm、肉厚dが1.2mmの慣用の金属植込材料から成る管状脛骨髄内釘を示す。
中空髄内釘の肉厚は0.9ないし1.3mm、好ましくは1.15ないし1.25mmの範囲で変動する。
直線状中央部1に折れ曲がった近端部2と遠端部3が接続する。近端部2は中央部1の中心軸4から角α=-15°だけ折れ曲がり、遠端部3は中央部1の中心軸4から角β=+3°だけ折れ曲がる。
角αは一10°≦α≦-20°、好ましくは-13°≦α≦-17°の範囲内で変動する。角βも+2゜≦β≦+4°の範囲で変動する。
近端部2は142mmの長さAを有し、長さA′=80mmの末端直線片5と、中央部1に接続する長さA″=62mmのわん曲片6から成る。中央部1に接続するわん曲片6の曲率半径rは200mmであり、180ないし220mm、好ましくは195ないし205mmの範囲で変動することができる。
近端部2の長さAまたは部分片5および6の部分長A′およびA″を髄内釘の全長L=A′+A″+B+C 220mmに合わせて調整するように注意しなければならない。他の全長Lを有する髄内釘-420mm以下の全長が普通である-に対しては、部分片5および6を比例して延長することが好ましい。なお骨釘の全長が220mmの場合でも近端部2の長さを122?162mm、好ましくは137?147mmの範囲内で変更することができる。
末端直線片5と髄内釘の全長Lの長さの比A′:Lは0.33ないし0.40、好ましくは 0.350ないし0.377の範囲で変動し、一方、わん曲片6と髄内釘の全長Lの長さの比A′:Lは0.25ないし0.31、好ましくは0.270ないし0.294の範囲で変動する。)」(第3ページ右欄第23行?第4ページ左欄第4行。訳文は、特開平1-277551号公報の第3ページ右下欄第12行?第4ページ右上欄第10行)
オ 上記エには、髄内釘の全長Lが220mmの実施例について記載され、さらに、全長Lを420mm以下とすることが普通であると記載されていることから、全長Lについて、220?420mmの範囲のものが示されているといえ、また、全長Lと曲率半径rとの比は、全長L/曲率半径r=(220/220)?(420/180)=1.0?2.33の範囲となることが示されている。
カ 上記エの記載事項及びFig1の図示内容によると、中央部1と中央部1に接続されるわん曲片6とを併せた部分は、頸骨髄内釘の一部を構成する部分であることから、頸骨髄内釘の全長Lよりも短いことは明らかである。
キ 上記エの記載事項及びFig1の図示内容によると、遠端部3は直線状中央部1の中心軸4から角βだけ折れ曲がったものであることから、遠端部3は直線状に形成されているといえる。
ク 上記エの記載事項及びFig1の図示内容によると、近端部2が中央部1の中心軸4から角αだけ折れ曲がり、遠端部3が中央部1の中心軸4から角βだけ折れ曲がり、角α、角βはそれぞれ、-10°≦α≦-20°、+2°≦β≦+4°の範囲で変動することから、近端部2と遠端部3とは、中央部1の中心軸4を介して12°?24°の範囲で偏っているといえる。

上記ア?エの記載事項、上記オ?クの認定事項、及び、図面の図示内容を総合勘案すると刊行物には、次の発明が記載されていると認められる。
「脛骨髄内釘であって、中央部1に対して、近端部2と、後部皮質に打ち込まれる時にスライダの役割をする遠端部3とを有し、管状であり、
220?420mmの範囲の全長Lを有し、
全長Lよりも短い、直線状中央部1と、中央部1に接続されるわん曲片6からなる部分を有し、
わん曲片6と中央部1とからなる部分のうち、わん曲片6は、その部分長A″が全長Lに合わせて調整され、180?220mmの曲率半径rを有し、
全長L/曲率半径rが1.0?2.33の範囲であり、
遠端部3が直線状に形成されており、
近端部2と遠端部3とが中央部1の中心軸4に対して折れ曲がることにより、近端部2と遠端部3とは中央部1を介して12°?24°だけ偏る、
解剖学的条件に最適の形状を有する脛骨髄内釘。」

4 対比
本願発明と刊行物に記載された発明とを対比する。
刊行物に記載された発明の「脛骨髄内釘」は、その構成及び機能からみて、本願発明の「特に脛骨用の髄内釘(1)」に相当し、以下同様に、
「近端部2」は、「近位端部(2)」に、
「後部皮質に打ち込む時にスライダの役割をする遠端部3」は、「髄腔への導入に適した遠位端部(3)」に、
「管状であ」ることは、中央部は中心軸4を有するものであり、その中央部1に近端部2と遠端部3とが接続されるものであるから、全体としてみても、管状の頸骨髄内釘は、中心軸を有するといえるから、「中心軸(6)」を有することに、
「全長Lよりも短い、直線状の中央部1と、中央部1に接続されるわん曲片6からなる部分」は、わん曲片6と直線状の中央部1とは併せて湾曲部を形成するとみなせることから、「長さG≦Lの湾曲部(4)」に、
「遠端部3が直線状に形成され」ることは、遠端部3が全長Lより短い長さを有することは明らかであるから、「遠位端部(3)が、長さ「l」≦Lの直線部(5)として構成され」ていることに、
それぞれ相当する。

そして、刊行物に記載された発明の「220?420mmの範囲の全長L」と、本願発明の「200?500mmの範囲の全長L」とは、「220?420mmの範囲の全長L」で共通し、同様に、
刊行物に記載された発明の「わん曲片6と中央部1とからなる部分のうち、わん曲片6は、その部分長A″が全長Lに合わせて調整され、180?220mmの曲率半径rを有」することと、本願発明の「長さGの湾曲部(4)が300?1300mmの範囲の曲率半径を有」することとは、わん曲片6は所定の長さを有するものであり、また、上記したようにわん曲片6と中央部1とは併せて湾曲部を形成するとみなせ、わん曲片6と中央部とはそれぞれ所定の長さを有するものであるから、両者は、「長さGの湾曲部が所定の曲率半径を有する部分を有」することで共通する。
刊行物に記載された発明の「近端部2と遠端部3とが中央部1の中心軸4に対して折れ曲がることにより、近端部2と遠端部3とは中央部1を介して12°?24°だけ偏る」ことと、本願発明の「湾曲部(4)の両終点の接線が、7°?12°の範囲の角度アルファを含むこと」とは、「湾曲部の両終点の接線が、12°の角度アルファを含むこと」で共通する。

したがって、上記両者の一致点および相違点は、次のとおりである。
[一致点]
「特に脛骨用の髄内釘であって、近位端部と、髄腔への導入に適した遠位端部と、中心軸とを有し、A)220?420mmの範囲の全長Lを有し、かつB)長さG≦Lの湾曲部を有する髄内釘において、C)長さGの湾曲部が所定の曲率半径を有する部分を有し、E)遠位端部が、長さ「l」≦Lの直線部として構成されており、F)前記湾曲部の両終点の接線が、12°の角度アルファを含むことを特徴とする髄内釘(1)。」

[相違点1]
全長Lが、本願発明では、200?500mmの範囲であるのに対して、刊行物に記載された発明では、220?420mmの範囲である点。

[相違点2]
湾曲部が、本願発明では、300?1300mmの範囲の曲率半径を有し、比L/Rが0.2?0.8の範囲にあるのに対して、刊行物に記載された発明では、中央部1とわん曲片6とからなる部分のうち、わん曲片6は、その部分長A″が全長Lに合わせて調整され、180?220mmの曲率半径rを有し、全長L/曲率半径rが1.0?2.33の範囲である点。

[相違点3]
湾曲部の両終点の接線が、本願発明では、7°?12°の範囲の角度アルファを含むのに対して、刊行物に記載された発明では、近端部2と遠端部3とが中央部1の中心軸4に対して折れ曲がることにより、近端部2と遠端部3とは中央部1を介して12°?24°だけ偏る点。

5 当審による判断
(1)上記相違点1について
本願発明の目的は、「脛骨の?その長さに対する?解剖学的比率を考慮し、特にその髄管経路に最適化されている髄内釘を提供することである。」(本願明細書の段落【0003】を参照。)。
次に、本願発明が、全長Lを200?500mmの範囲とすることの臨界的意義について検討する。本願明細書には、全長Lについて、「髄内釘1の全長Lは255mmである。」(段落【0008】)と記載されている。しかしながら、本願明細書には、全長Lを200?500mmとすることの臨界的意義については、記載も示唆もされていない。
そうすると、本願発明において、全長Lを200?500mmとすることの臨界的意義は認められない。
一方、刊行物に記載された発明の脛骨髄内釘は、解剖学的条件に最適の形状を有するものである。
そして、髄内釘の技術分野において、髄内釘を解剖学的条件に最適の形状とするために、年齢や個人差により異なる患者の骨形状に対応する広い範囲の形状の髄内釘を予め作成しておき、治療に際して患者に最適の髄内釘を選択可能とすることは、本願出願前に周知の技術事項である(例えば、特表2002-524189号公報の段落【0002】や、特表平11-506346号公報の「2.発明の背景」の項を参照。以下「周知の技術事項1」という。)。
そうすると、刊行物に記載された発明において、解剖学的条件に最適の形状を有する髄内釘を得るために、上記周知の技術事項1を考慮して、骨折に伴う治療に際して、年齢や個人差により異なる患者の脛骨に対して解剖学的条件に最適な形状の脛骨髄内釘を幅広く選択できるように、全長Lを220?420mmの範囲から、200?500mmの範囲に広げて作成することは当業者が適宜なし得たものである。

(2)上記相違点2について
本願発明の目的は、上記(1)において検討したとおりである。
次に、本願発明が、湾曲部(4)が300?1300mmの範囲の曲率半径を有し、比L/Rが0.2?0.8の範囲を有することの臨界的意義について検討する。本願明細書には、湾曲部(4)の曲率半径及び比L/Rについて、「別の実施形態においては、湾曲部の曲率半径Rは350?1200mmの範囲、好ましくは、400?1100mmの範囲にある。比L/Rは、適切に0.3?0.7の範囲、好ましくは、0.4?0.6の範囲にある。」(段落【0005】)こと、「髄内釘は、…380mmの曲率半径を有する。したがって、比L/Rは0.67である。」(段落【0008】)ことが記載されている。しかしながら、本願明細書には、湾曲部(4)が300?1300mmの範囲の曲率半径を有し、比L/Rが0.2?0.8の範囲を有することの臨界的意義については、記載も示唆もされていない。
そうすると、本願発明において、湾曲部(4)が300?1300mmの範囲の曲率半径を有し、比L/Rが0.2?0.8の範囲を有することの臨界的意義は認められない。
そして、刊行物に記載された発明は、わん曲片6と直線状の中央部1とから湾曲部を構成するとみなせる部分のうち、わん曲片6が180?220mmの曲率半径rを有するものである。ここで、わん曲片6と中央部1とからなる部分を円弧で近似した場合、わん曲片6と中央部1とからなる部分の曲率半径は、わん曲片6の有する曲率半径180?220mmよりも大きな曲率半径を有することとなる。
また、上記特表2002-524189号公報の段落【0034】に、自由端13と16との間に位置する部分の曲率半径D2を2450mmとした脛骨釘10について記載されているように、脛骨用の髄内釘の曲率半径の上限を1300mmより大きくすることは、本願出願前に普通に行われていた技術事項である。
そうすると、刊行物に記載された発明において、解剖学的条件に最適の形状を有する髄内釘を得るために、上記普通に行われていた技術事項及び前記周知の技術事項1を考慮して、骨折に伴う治療に際して、年齢や個人差により異なる患者の脛骨に対して解剖学的条件に最適な形状の脛骨髄内釘を幅広く選択できるように、わん曲片6と中央部1とからなる部分を円弧で近似し、その部分の曲率半径を300?1300mmの範囲にすることは当業者が適宜なし得たものである。
そして、その際、わん曲片6の部分長A″を全長Lに応じて調整し、全長Lとわん曲片6と中央部1とからなる部分の曲率半径との比を0.2?0.8の範囲となるように調節することも当業者が容易になし得たものである。

(3)上記相違点3について
本願発明の目的は、上記(1)において検討したとおりである。
次に、本願発明が、湾曲部の両終点の接線が7°?12°の範囲の角度アルファを含むことの臨界的意義について検討する。本願明細書には、湾曲部の両終点の接線の角度アルファについて、「 特定の実施形態においては、湾曲部が髄内釘の直線部とともに、7°?12°、好ましくは、8°?10°の範囲の角度アルファを含む。」(段落【0004】)こと、「湾曲部4は、直線部5とともに8°の角度アルファを含む。」(段落【0008】)ことが記載されている。しかしながら、本願明細書には、湾曲部の両終点の接線が7°?12°の範囲の角度アルファを含むことの臨界的意義については、記載も示唆もされていない。
そうすると、本願発明において、湾曲部の両終点の接線が7°?12°の範囲の角度アルファを含むことの臨界的意義は認められない。
そして、頸骨用髄内釘の技術分野において、近位端部と遠位端部とのそれぞれの中心軸の偏りを7°?12°の範囲とすることは、本願の出願前に周知の技術事項である(例えば、拒絶査定時に提示した特開平4-221548号公報には、折れ曲がった2つの端部、近位端部3と遠位端部4のそれぞれの縦軸が5°ないし13°、好ましくは7°ないし11°の角を挟むことが記載され、上記特表2002-524189号公報の段落【0034】には、ヘッド部分12が、約168?176度の鈍角を形成する(接線が約4?12度の角を形成する)第1部分24と第2部分25とからなる脛骨に用いる釘装置について、特表2002-521121号公報の段落【0006】には、末端部分5の軸線30との間の角度αを5°乃至30°の範囲とした脛骨釘について、特表2002-521121号公報の段落【0006】には、管28の軸線9と末端部分5の軸線30との間の角度αを5°乃至30°の範囲とした脛骨釘について記載されている。以下「周知の技術事項2」という。)。
したがって、刊行物に記載された発明において、上記周知の技術事項1及び3に倣って、12°?24°の角度を有する、近端部2と遠端部3との中心軸4に対する角度を7°?12°の範囲の角度アルファを含むようにすることは、当業者が適宜なし得たものである。
そうすると、刊行物に記載された発明において、解剖学的条件に最適の形状を有する髄内釘を得るために、前記周知の技術事項1及び上記周知の技術事項2を適用して、骨折に伴う治療に際して、年齢や個人差により異なる患者の脛骨に対して解剖学的条件に最適な形状の脛骨髄内釘を幅広く選択できるように、わん曲片6と中央部1とからなる部分の両終点の接線のなす角度アルファを12°?24°の範囲から、7°?12°の範囲の角度アルファの範囲を有するようにに変更することは当業者が適宜なし得たものである。

(4)小括
本願発明の奏する効果についてみても、刊行物に記載された発明及び周知の技術事項から当業者が予測できた効果の範囲内のものである。

6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2012-03-14 
結審通知日 2012-03-16 
審決日 2012-03-27 
出願番号 特願2005-509564(P2005-509564)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 川端 修寺澤 忠司  
特許庁審判長 岡本 昌直
特許庁審判官 青木 良憲
長崎 洋一
発明の名称 髄内釘  
代理人 浜田 治雄  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ