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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1284502
審判番号 不服2010-25639  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2010-11-15 
確定日 2014-02-05 
事件の表示 特願2006-503918「ヒト乳癌の臨床的に意義のある動物モデル及び、線維形成反応におけるVEGFの関与」拒絶査定不服審判事件〔平成16年 9月10日国際公開、WO2004/076648、平成18年 8月24日国内公表、特表2006-519018〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本願は、平成16年(2004年)2月26日(パリ条約による優先権主張 2003年2月26日、米国)を国際出願日とする出願であって、その請求項1に係る発明は、平成22年11月15日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
a.VEGF分子の発現を誘導可能なシステムを含有し、さらに次の特徴:すなわち、エストロゲン受容体発現が陽性であること、VEGF発現がない場合に侵襲性がごく小さいこと、エストロゲン応答性増殖及び抗エストロゲン治療に対して感受性があること、のうち少なくとも1つを有する、ヒト乳癌細胞株を得ることと;
b.異種移植片を作製するために前記細胞株を非ヒト哺乳類に導入することと;
c.該細胞株による前記VEGFの前記発現を誘導することにより増殖及び転移が起こるように前記異種移植片を刺激し、前記VEGFが全細胞タンパク質の0.22ng/mg以上発現すること、
を含む、増殖及び原発部位から第二の部位への転移を誘導することが可能で、さらに非ヒト哺乳類において線維形成反応を誘導することが可能な、前記非ヒト哺乳類においてヒト乳癌を模倣するヒト乳癌異種移植片を作製する方法。」(以下、「本願発明」という。)

第2 引用例の記載事項
1.原審の拒絶理由において引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物であるProc.Am.Assoc.Cancer Res., vol.43, p.1056, #5230 (2002)(以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、引用例は英語で記載されているため、以下、日本語訳で記載する。下線は当審で付した。)

ア.「乳癌異種移植片における増加した血管新生により仲介されるタモキシフェン耐性のメカニズムの研究のための、改良されたドキシサイクリンにより制御されたトランスアクチベーターの使用。」(表題)

イ.「エストロゲン受容体陽性(ER+)腫瘍を有する乳癌患者において、獲得タモキシフェン耐性は一般的である。・・・発症機序を研究するため、我々は、ドキシサイクリン(Dox)により制御される方法でVEGF-Aの165アミノ酸型を過剰発現するように操作されたER+乳癌細胞を開発した。我々は、VP16毒性を低下させ、定常活性を低下させ、ヒト細胞におけるDox感受性を上昇させる、多くの改変を組み込んだ、”tet on”トランスアクチベーターrtTA2(S)-M2の型を使用した。安定したタンパク質の発現を維持するようにトランスフェクトされた細胞の集団を増加させるため、我々は、ブラスチシジンに対する耐性を与えるコード配列の第二のセットと結合された下流の内部リボソーム侵入部位を含むバイシストロン性メッセージの一部として、rtTA2(S)-M2cDNAを発現させた。・・・従来のベクターと比較すると、このバイシストロン性発現ベクターの使用は、トランスアクチベータータータンパク質を機能的なレベルで発現する形質転換MCF-7クローンの頻度を増加した。・・・rtTA2(S)-M2でトランスフェクトされ、TRE-VEGF又はTRE-hrGFPベクターにより安定して再びトランスフェクトされたMCF-7細胞のクローンが得られ、Doxで誘導可能なVEGF-A及びhrGFP発現について特徴付けられた。・・・TRE-VEGF-Aでトランスフェクトされ、80?500倍の発現をDoxで誘導可能なMCF-7クローンは、タモキシフェン処理ヌードマウス中でDoxにより腫瘍成長や退縮を制御しうるかについて現在試験中である。」(左欄下から16行?右欄20行)

引用例1の記載事項イには、バイシストロン性ベクターであるrtTA2(S)-M2でトランスフェクトされたMCF-7細胞をTRE-VEGFベクターを用いて再トランスフェクトすることにより、DoxによりVEGFの発現を誘導可能にしたことが記載されているところ、これらのベクターを用いた発現システムは、「VEGF分子の発現を誘導可能なシステム」であるといえる。また、引用例1に記載された「ER+」とは、「エストロゲン受容体発現が陽性である」ことを意味するものであり、引用例1に記載された「MCF-7」細胞は、「ヒト乳癌細胞株」であり、引用例1に記載された「ヌードマウス」は、「非ヒト哺乳類」である。
そして、引用例1は、乳癌の発症機序を研究することを目的として、VEGFの発現を誘導可能にした、ヒト乳癌細胞であるMCF-7細胞をヌードマウスに移植して、ヒト乳癌異種移植片における腫瘍の成長について試験しているものであるから、引用例1に記載されたヒト乳癌異種移植片は、「非ヒト哺乳類においてヒト乳癌を模倣する」ものである。
そうすると、引用例1には、以下の発明が記載されているに等しいものと認められる。

「VEGF分子の発現を誘導可能なシステムを含有し、さらに、エストロゲン受容体発現が陽性である特徴を有する、ヒト乳癌細胞株を得ること;
異種移植片を作製するために前記細胞株を非ヒト哺乳類に導入すること;
該細胞株による前記VEGFの前記発現を誘導すること;
を含む、前記非ヒト哺乳類においてヒト乳癌を模倣するヒト乳癌異種移植片を作製する方法。」(以下、「引用発明」という。)

2.原審の拒絶理由において引用文献2として引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物であるProc.Am.Assoc.Cancer Res., vol.38, p.525, #3521 (1997)(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている(なお、引用例は英語で記載されているため、以下、日本語訳で記載する。下線は当審で付した。)

ア.「MCF-7乳癌細胞における血管内皮増殖因子(VEGF)の過剰発現は、タモキシフェン処理ヌードマウスにおける成長及び腫瘍細胞の播種を促進する。」(表題)

イ.「エストロゲン依存的に増加した血管新生の効果を決定するために、lacZを発現するMCF-7細胞を、内皮細胞特異的増殖因子であるVEGFの165アミノ酸型の発現ベクターにより再トランスフェクトした。生物学的に活性なVEGFを上昇したレベルで発現する細胞株について、インビトロ及びインビボでの増殖に対する効果を特徴付けた。・・・しかし、VEGF過剰発現は、タモキシフェンペレットを注入した卵巣切除マウスにおいて、腫瘍の増殖をもたらした。・・・VEGF過剰発現細胞の微小転移が、エストロゲンまたはタモキシフェンのいずれかで処理された担癌マウスの肺及びリンパ節において X-gal染色細胞の沈着物として頻繁に観察されたが、エストロゲン処理された、類似の又は大きなサイズのコントロール腫瘍を持つマウスでは、観察されなかった。」(1行?17行)

第3 対比
本願発明と引用発明を対比すると、両者は、
「a.VEGF分子の発現を誘導可能なシステムを含有し、さらに次の特徴:エストロゲン受容体発現が陽性であることを有する、ヒト乳癌細胞株を得ることと;
b.異種移植片を作製するために前記細胞株を非ヒト哺乳類に導入することと;
c.該細胞株による前記VEGFの前記発現を誘導すること、
を含む、前記非ヒト哺乳類においてヒト乳癌を模倣するヒト乳癌異種移植片を作製する方法。」である点で一致する。
ここで、本願発明の「c.」には、「c.該細胞株による前記VEGFの前記発現を誘導することにより増殖及び転移が起こるように前記異種移植片を刺激し、前記VEGFが全細胞タンパク質の0.22ng/mg以上発現すること」と記載されているが(下線は当審で付した。)、この下線を付した部分の記載は、VEGFの発現を誘導された異種移植片が刺激されて「増殖及び転移」するという性質を有すること、及び、当該異種移植片は、「VEGFが全細胞タンパク質の0.22ng/mg以上発現する」という性質を有するものであることを特定したものであると認められる。
そうすると、両者は以下の点で相違する。

相違点:異種移植片が、本願発明では、
(1)VEGFが全細胞タンパク質の0.22ng/mg以上発現する
(2)増殖及び原発部位から第二の部位への転移を誘導することが可能である
(3)非ヒト哺乳類において線維形成反応を誘導することが可能である
という性質を有するものであるのに対し、引用発明では、このような性質を有することは特に記載されていない点。

第4 判断
1.相違点について
(1)VEGFの発現量について
乳癌においてVEGFの発現量が悪性度に関連することは技術常識である。例えば、本願優先日前における技術常識を示す文献であるThe Oncologist, 2000,vol.5(suppl.1), p.37-44 (平成24年6月5日付け審尋における「参考文献1」)は、乳癌におけるVEGF値に関する総説であって、細胞タンパク質あたりのVEGFの発現量に関して、39頁右欄16-29行には、浸潤性乳癌の早期段階の260検体において、VEGF発現量は5.0-6,523pg/mg細胞タンパク質(ngに換算すると、0.005-6.523ng/mg細胞タンパク質)の範囲にあり、中央値が126.25pg/mg細胞タンパク質(ngに換算すると、0.12625ng/mg細胞タンパク質)であることが記載されている。また、本願優先日前における技術常識を示す文献であるInt.J.Cancer,1997, vol.74, p.455-458(同「参考文献2」)には、VEGF濃度平均値が、正常乳組織(8例)では0、線維腫(23例)では9.8、浸潤癌(89例)では130.4pg/mg細胞タンパク質(ngに換算すると、それぞれ0、0.098、0.1304ng/mg細胞タンパク質)であったこと(要約)、癌における値のうち高いものでは200-700pg/mg細胞タンパク質(0.2-0.7ng/mg細胞タンパク質)程度のものもあること(表1)が記載されており、これらの記載から、乳癌においては、およそ数百pg/mg細胞タンパク質(0.数ng/mg細胞タンパク質)程度のVEGFレベルが一般的であることがわかる。
そうすると、ヒト乳癌異種移植片を含む非ヒト動物モデルを構築するにあたって、ヒト乳癌異種移植片におけるVEGFの発現量を乳癌における一般的レベルの範囲内である0.22ng/mg細胞タンパク質に設定することに、格別の困難性は見いだせない。

そして、VEGFの発現量が「0.22ng/mg以上」であることの臨界的意義について検討すると、本願明細書には、「0.22ng/mg」は、845例の乳癌患者を含む臨床試験から得られた中央値であることが記載されている(段落【0027】)ものの、ヒト乳癌異種移植片において、当該値以上のVEGFレベルであるのとそれより低いレベルの場合と比較して、格別顕著な効果を奏することが示されているわけではない。また、疾患における中央値はあくまで中央値にすぎず、それが必ずしも乳癌の悪性度に関して臨界的意義をもつわけではない。
よって、VEGFの発現量が「0.22ng/mg以上」であることに臨界的意義があるものとも認められない。

(2)増殖及び転移を誘導することについて
引用例2には、VEGFを過剰発現するMCF-7細胞をマウスに移植すると、腫瘍が増殖すること、及び、肺及びリンパ節に微小転移することが記載されていることを考慮すれば、引用発明のVEGFの発現が誘導されたヒト乳癌異種移植片が、「増殖及び原発部位から第二の部位への転移を誘導することが可能である」という性質を有することは、当業者が容易に想到し得ることである。

(3)線維形成反応を誘導することについて
線維形成は、乳癌でよく観察される間質反応であることは、本願優先日前における技術常識であるから(要すれば、例えば、Int. J. Cancer, 1992, vol.51, p.325-328の要約及び、Oncogene, 2000, vol.19, p.4337-4345の要約)、ヒト乳癌異種移植片において、線維化が生じるかどうか確認することは、当業者が当然行うことである。そして、実際に本願発明の方法で作製されたヒト乳癌異種移植片が線維形成反応を誘導可能であったことは、格別の技術的意義を有するとは認められない。

2.審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、平成22年12月28日付け手続補正書により補正された審判請求書において、以下の点を主張する。
ア.引用例1及び2は、いずれも本願発明の異種移植片によって発現されるVEGFレベルがヒト乳癌の生命予後と相関するものであることを記載していない。
本願発明は、VEGF発現が誘導され、当該発現が生命予後と関連する臨床レベルの目安となる非ヒト哺乳類モデルを提供することができるという点において意義のある発明である。「0.22ng/mg」という値は臨床的に極めて意義のある臨界的数値であるということができ、これを境に乳癌の悪性度が左右するという知見のもと真に有用な新規乳癌治療用薬剤の開発が的確に行えるようになるという点で多大の貢献をなすものである。

イ.本願発明は、転移を誘導することができ、且つ、線維形成反応を誘導することができるヒト乳癌を模倣するヒト乳癌異種移植片を作製する方法を提供するものである。引用例1及び2のいずれにもそのような記載はない。

(2)審判請求人の主張について検討する。
ア.主張アについて
上記1.(1)で述べたとおり、本願優先日前における技術常識を考慮すれば、ヒト乳癌異種移植片を含む非ヒト動物モデルを構築するにあたって、VEGFの発現量を乳癌における一般的レベルの範囲内である0.22ng/mg細胞タンパク質に設定することに、格別の困難性は見いだせない。
また、本願明細書には、「0.22ng/mg」は、845例の乳癌患者を含む臨床試験から得られた中央値であることが記載されているにすぎず、それが乳癌の悪性度に関して臨界的意義をもつことが示されているわけではないから、VEGFの発現量が「0.22ng/mg以上」であることに臨界的意義があるものとは認められない。

イ.主張イについて
上記1.(2)で述べたとおり、引用例2には、VEGFを過剰発現するMCF-7細胞をマウスに移植すると、肺及びリンパ節に微小転移することが記載されていることを考慮すれば、引用発明のVEGFが誘導されたヒト乳癌異種移植片が、「原発部位から第二の部位への転移を誘導することが可能である」という性質を有することは、当業者が容易に想到し得ることである。
また、上記1.(3)で述べたとおり、線維形成は、乳癌でよく観察される間質反応であることは、本願優先日前における技術常識であるから、ヒト乳癌異種移植片において、線維化が生じるかどうか確認することは、当業者が当然行うことである。そして、実際に本願発明の方法で作製されたヒト乳癌異種移植片が線維形成反応を誘導可能であったことは、格別の技術的意義を有するとは認められない。

よって、審判請求人の主張は採用することができない。

第5 まとめ
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用例1及び2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-05 
結審通知日 2013-09-10 
審決日 2013-09-24 
出願番号 特願2006-503918(P2006-503918)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長井 啓子  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 冨永 みどり
植原 克典
発明の名称 ヒト乳癌の臨床的に意義のある動物モデル及び、線維形成反応におけるVEGFの関与  
代理人 川口 義雄  
代理人 大崎 勝真  
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