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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1284503
審判番号 不服2011-17601  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-08-12 
確定日 2014-02-05 
事件の表示 特願2001-507472「治療剤」拒絶査定不服審判事件〔平成13年 1月11日国際公開、WO01/01979、平成15年 1月28日国内公表、特表2003-503452〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯・本願発明
本願は、平成12年6月21日(パリ条約による優先権主張 1999年7月5日,イギリス)を国際出願日とする出願であって、平成22年9月9日付けで拒絶理由が通知され、平成23年3月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたが、同年4月5日付けで拒絶査定がなされた。これに対し、同年8月12日に拒絶査定不服審判が請求され、同年9月26日に審判請求書の請求の理由の手続補正(方式)がなされたものである。

本願の請求項1?18に係る発明は、平成23年3月14日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項11に係る発明は、次のとおりである。
「【請求項11】 式IIIの化合物および薬剤として許容されるそれらの塩;


[上式で、mは、0、1または2であり、
nは、2、3、4または5であり、
Xは、カルボニルまたは式IIの基であり、


(R_(5)は、Hまたは1から4個の炭素原子を含むアルキル基である)
Yは、任意選択で1から3個の炭素原子を含む1個または複数個のアルキル基によって置換されている、1または2個の炭素原子を含むアルキレン鎖であり、
Zは、任意選択で1から3個の炭素原子を含む1個または複数個のアルキル基によって置換されている、2から5個の炭素原子を含むアルキレン鎖であり、
R_(1)およびR_(2)は、同一または異なって、H、1から4個の炭素原子を含む直鎖または分枝鎖アルキル基、アルキル基が1から3個の炭素原子を含むアリールアルキル基であるが、ただし、R_(1)がベンジルの場合には、R_(2)はHまたはメチルであり、
R_(3)は、ハロであり、R_(4)は、Hまたはハロであるか、R_(3)およびR_(4)が、それらが接続する炭素と一緒になって縮合ベンゼン環を形成する。]」(以下、「本願発明」という。)

2.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である特表平8-510222号公報(以下、「引用例」という。)には、次の事項が記載されている。

(a)「【特許請求の範囲】・・・
11.式III


〔式中
mは0,1または2であり;
nは2,3,4または5であり;
Xはカルボニルまたは式II


(ここでR_(5)はHまたは1?4個の炭素原子を有するアルキル基である)の基であり;
Yは場合により1?3個の炭素原子を有する1個または数個のアルキル基により置換された1個または2個の炭素原子を有するアルキレン鎖であり;
Zは場合により1?3個の炭素原子を有する1個または数個のアルキル基により置換された2?5個の炭素原子を有するアルキレン鎖であり;
R_(1)およびR_(2)は同じかまたは異なり、H、1?4個の炭素原子を有する直鎖または枝分れ鎖アルキル基、アルキル基が1?3個の炭素原子を有するアリールアルキル基である、ただしR_(1)がベンジルである場合には、R_(2)はHまたはメチルであり;R_(3)はハロであり、R_(4)はHまたはハロであるか、またはR_(3)およびR_(4)はそれの結合している炭素原子と一緒に縮合ベンゼン環を形成する〕の化合物およびその薬学的に受容しうる塩。」(特許請求の範囲の請求項11)

(b)「例1
ヨウ化メチルマグネシウムを、エーテル(100ml)中のマグネシウムリボン(93.8g)の撹拌懸濁液にエーテル(100ml)中のヨウ化メチルの溶液を、始めに外界温度で、つぎに発熱反応が始まったら還流温度で、窒素下に滴下することにより製造した。添加が完了した後、混合物を30分間撹拌し、次ぎにエーテル(80ml)中の1-(3,4-ジクロロフェニル)-シクロブタンカルボニトリル(100g)の溶液を外界温度で滴加した。得られる懸濁液を撹拌し、3時間還流下に加熱し、次いで外界温度で窒素下に16時間撹拌した。得られる固体を濾過により集め、エーテルでよく洗浄し、次ぎに水(400ml)と濃塩酸(250ml)の氷冷混合物に少量ずつ加えた。得られる混合物を95℃で1時間時々撹拌しながら加熱し、次いで外界温度に冷却した。生成物をエーテル(6×150ml)に抽出し、抽出物を硫酸マグネシウム上で乾燥し、溶剤を真空中で除去して油状物(105g)を得、これを蒸留して1-[1-(3,4-ジクロロフェニル)-シクロブチル]エタノン(89.6g;沸点116?118℃/0.13mbar)を得る。
クロロホルム(80ml)中の臭素(18ml)の溶液を、メタノール(120ml)およびクロロホルム(20ml)の混合物中の上記1-[1-(3,4-ジクロロフェニル)-シクロブチル]エタノン(89.6g)の撹拌溶液に10?15℃で1.5時間にわたり滴加した。添加が完了したら、混合物を外界温度で1時間撹拌し、次ぎに過剰の氷-水上に注いだ。水層を分離し、生成物をジクロロメタン(2×150ml)に抽出した。合した有機溶液を、炭酸水素ナトリウムの飽和水溶液(2×200ml)、次に水で洗浄し、塩化カルシウム上で乾燥し、溶剤を真空中で除去して、油状物を得る。油状物を蒸留して2-ブロモー1-[1-(3,4-ジクロロフェニル)-シクロブチル]エタノン(88.31g;沸点148?154℃/0.66mbar)を得る。
ナトリウムエトキシドの溶液[ナトリウム(0.69g)およびエタノール(60ml)から製造した]を、エタノール(30ml)中の2-(ジメチルアミノ)エタンチオール塩酸塩(2.12g)の撹拌懸濁液に加え、混合物を外界温度で1時間撹拌した。エタノール(30ml)中の2-ブロモ-1-[1-(3,4-ジクロロフェニル)シクロブチル]エタノン(4.8g,上述したように製造した)の溶液を1度に加え、混合物を外界温度でさらに2時間撹拌した。次ぎに、混合物を50℃で1時間撹拌し、溶剤を真空中で除去した。残留物を水(30ml)で希釈し、生成物をエーテル(2×50ml)に抽出した。抽出物を硫酸マグネシウム上で乾燥し、溶剤を真空中で除去して油状物(5.1g)を得た。上記油状物をエーテルに溶かし、溶液を塩化水素で飽和した。溶剤を真空中で除去して油状物(5.1g)を得、これを溶離剤としてジクロロメタン、次いで酢酸エチルとメタノールの1:1混合物を使用するシリカ上でのフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。適当な画分を合し、溶剤を真空中で除去して1-[1-(3,4-ジクロロフェニル)シクロブチル]-2-[2-(ジメチルアミノ)エチルチオ]エタノン塩酸塩を油状物(2.9g)として得る。
例2
1-[1-(3,4-ジクロロフェニル)シクロブチル]-2-[2-(ジメチルアミノ)エチルチオ]エタノン(例1に記載したと類似の方法で得た塩酸塩の塩基性化により製造した)をエタノール(10ml)に溶かし、水(75ml)中のモノペルオキシフタル酸マグネシウム6水和物(1.6g,純度87%)の溶液を加えた。さらにエタノール(20ml)を加え、混合物を外界温度で1時間撹拌した。
溶剤を真空中で除去し、残留物を水で希釈し、生成物を酢酸エチルに抽出した。抽出物を硫酸マグネシウム上で乾燥し、溶剤を真空中で除去して油状物(1.8g)を得る。
上記の油状物をエタノールに溶かし、溶液を塩化水素で飽和して固形物を得、これを濾過により集め、エタノールから結晶化して1-[1-(3,4-ジクロロフェニル)シクロブチル]-2-[2-(ジメチルアミノ)エチルスルフィニル]エタノン塩酸塩を白色固体(0.5g;融点184?185℃)として得る。」(23頁1行?25頁2行)

3.引用発明及び対比・判断
引用例の記載事項(a)によれば、引用例には、式III(当審注;式及び式中の置換基の定義の記載は省略する。)の化合物およびその薬学的に受容しうる塩が記載されているところ、引用例の式IIIの化学構造式は、本願発明の式IIIの化学構造式と同じであり、式中のm、n、X、R_(5)、Y、Z、R_(1)、R_(2)、R_(3)およびR_(4)の定義も、ただし書きの記載も、Y,Zの定義において引用発明では「場合により」と記載されている箇所が本願発明では「任意選択で」と表現される等、置換基定義についての記載表現が異なることはあっても、いずれもその定義内容が同義であることは当業者に明らかであるし、引用発明の「薬学的に受容しうる塩」も、本願発明の「薬剤として許容される・・・塩」と同義である。
そして、引用例には、式IIIの化合物に該当する化合物の具体的な製造例も記載されている(例えば、例1(記載事項(b))では、式IIIにおいて、m=0、n=3、X=カルボニル、Y=1個の炭素原子を含むアルキレン鎖、Z=2個の炭素原子を含むアルキレン鎖、R_(1)=R_(2)、=1個の炭素原子を含むアルキル基、R_(3)=R_(4)=ハロである化合物(1-[1-(3,4-ジクロロフェニル)シクロブチル]-2-[2-(ジメチルアミノ)エチルチオ]エタノン)の塩酸塩の製造例が、例2には、m=1である点を除いて例1と同様の構造を有する1-[1-(3,4-ジクロロフェニル)シクロブチル]-2-[2-(ジメチルアミノ)エチルスルフィニル]エタノンの塩酸塩の製造例が記載されている)とおり、引用例の式IIIの化合物が製造可能なものであることは明らかである。
したがって、引用例には、「式III(当審注;式及び式中の置換基の定義の記載は省略する。)の化合物およびその薬学的に受容しうる塩」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
そして、上述のとおり、引用発明と本願発明の発明特定事項は一致しており、相違点はない。
よって、本願発明は引用例に記載された発明である。

なお、請求人は、本願請求項11に係る式IIIの化合物の発明に関しては、特に主張をしていない。ただし、審判請求書の請求の理由についての平成23年9月26日提出の手続補正書(方式)には、「本願発明と、引用文献1に記載の発明とは、以下の点で異なっています。(相違点)本願発明においては「薬物乱用または他の中毒障害を治療する際に用いるための」上記式Iの化合物であるのに対し、引用文献1においては、上記式Iの化合物における「薬物乱用または他の中毒障害の治療効果」について記載がない点。」(3頁)と記載されており、請求人は、式IIIの化合物の発明についても、化合物自体の発明の用途あるいは効果について、引用例に記載がないことを根拠に新規性がある旨を主張しているとも解し得るので、念のために言及する。
すでに述べたとおり、引用発明の発明特定事項と本願請求項11に係る発明の発明特定事項は一致しており、発明特定事項が同じである以上、本願発明で奏される効果は当然に引用発明でも奏されるのであるから、引用例に本願発明の効果についての明示的な記載がないことをもって、本願発明の新規性を認めることはできない。また、仮に、本願請求項11に、発明特定事項として「薬物乱用または他の中毒障害を治療する際に用いるための」なる限定が付されていた場合であっても、本願明細書の記載及び出願時の技術常識を考慮すると、「薬物乱用または他の中毒障害を治療する際に用いるための」なる記載は、式IIIの化合物自体の有用性を示しているに過ぎないから、「薬物乱用または他の中毒障害を治療する際に用いるための式IIIの化合物」は、かかる用途限定のない式IIIの化合物そのものであると解され、両者を別異の発明と解することはできない。

4.むすび
以上のとおり、本願請求項11に係る発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
それ故、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-05 
結審通知日 2013-09-10 
審決日 2013-09-24 
出願番号 特願2001-507472(P2001-507472)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 渕野 留香
岩下 直人
発明の名称 治療剤  
代理人 大崎 勝真  
代理人 特許業務法人川口國際特許事務所  

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