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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12P
管理番号 1284506
審判番号 不服2011-27916  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-12-26 
確定日 2014-02-05 
事件の表示 特願2007-538326「キラルアルコールの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 5月 4日国際公開、WO2006/045598、平成20年 5月29日国内公表、特表2008-517612〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2005年10月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年10月27日、オーストリア)を国際出願日とする出願であって、その後の手続の経緯は、次のとおりである。

平成19年 4月26日付け 国内書面、34条補正の翻訳文提出書
平成23年 3月29日付け 拒絶理由通知書
平成23年 7月 5日付け 意見書
同日付け 手続補正書
平成23年 8月11日付け 拒絶査定
平成23年12月26日付け 審判請求書
同日付け 手続補正書
平成25年 2月15日付け 審尋

第2 本願発明
本願の請求項1?14に係る発明は、平成23年12月26日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、各々「本願発明1」?「本願発明14」という。)。

「【請求項1】
一般式IaまたはIb
【化1】



(ここで、R1、R2、R3、R4、R5およびR6はそれぞれ、水素、ハロゲン元素、メチル基またはエチル基を表し、R1、R2、R3、R4、R5およびR6の少なくとも1つは、残りの5つと異なり、さらにR1、R2、R3、R4、R5およびR6の少なくとも1つは、ハロゲン元素を表す)
で表される95%以上の光学純度のアルコールを製造する方法であって、
一般式II
【化2】



(ここで、R1、R2、R3、R4、R5およびR6は上記と同様である)
で表されるケトンが、補酵素としてNADHまたはNADPHを利用するS体またはR体に特異的なデヒドロゲナーゼ/オキシドレダクターゼの存在下において、酵素的に還元され、還元の間に形成されるNADまたはNADPは、第2級アルコールによりさらにNADHまたはNADPHそれぞれに還元されることを特徴とする方法。
【請求項2】
R_(1)=R_(2)=Clであり、R_(3)=R_(4)=R_(5)=R_(6)=Hであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R_(1)=R_(2)=R_(4)=Clであり、R_(3)=R_(5)=R_(6)=Hであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
R_(1)=CH_(3)であり、R_(2)=Clであり、R_(3)=R_(4)=R_(5)=R_(6)=Hであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
R_(1)=Clであり、R_(2)=R_(3)=R_(4)=R_(5)=R_(6)=Hであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
Lactobacilliales属の乳酸菌由来、またはジュードモナス由来の第2級アルコールデヒドロゲナーゼが、上記R体に特異的なデヒドロゲナーゼとして用いられることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
Lactobacillus kefir、Lactobacillus brevisまたはLactobacillus minor由来の第2級アルコールデヒドロゲナーゼが、上記R体に特異的なデヒドロゲナーゼとして用いられることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
Pichia属またはCandida属由来の第2級アルコールデヒドロゲナーゼが、上記S体に特異的なデヒドロゲナーゼとして用いられることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
Candida boidinii ADH、Candida parasilosisまたはPichia capsulata由来の第2級アルコールデヒドロゲナーゼが、上記S体に特異的なデヒドロゲナーゼとして用いられることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
上記オキシドレダクターゼの重量活性は、10?5,000U/mlの範囲であることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
上記オキシドレダクターゼの重量活性は、100?1,000U/mlの範囲であることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記ケトン1kgを還元するための上記オキシドレダクターゼの使用量は、5,000?10,000,000Uであることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
上記ケトン1kgを還元するための上記オキシドレダクターゼの使用量は、10,000?1,000,000Uであることを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
上記第2級アルコールとして、2-プロパノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-オクタノールおよびシクロヘキサノールからなる群のアルコールを用いることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の方法。


第3 刊行物及び刊行物に記載された事項
1 原査定の拒絶理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である「特表平7-505770号公報」(原査定の引用文献1。以下、「刊行物1」という。)には、次の事項が記載されている。
なお、下線は、当審にて付したものである。以下、同様である。

(刊1-1)「【特許請求の範囲】
1.β-、γ-及びδ-ケトエステルをNADH-依存酵素反応して対応する光学的に活性なβ-、γ-及びδ-ヒドロキシ酸エステルにすることができる、ケトエステル-還元酵素であり、これはカンジダ パラプシロシス(Candida Parapsilosis)、ヤローヴィニア セロビオサ(Yarrowinia cellobiosa)、ロードコッカス エリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)又はシュードモナス アシドボランス(Pseudomonas acidovorans)の菌株から単離することができる、上記ケトエステル-還元酵素。
・・・
4.精製された形で次のパラメーターを有する;
-pH-最適条件は、ケトエステル-還元に関してpH7.8ないし8.0及び逆反応に関して約pH9.5.である、
-ケトエステル-還元に最適な温度は、36℃ないし40℃及び逆反応に最適な温度は50℃ないし56℃である、
-Hg^(2)-、Pb^(2)-、Ag-、Cu^(2)-、Ni^(2)-、Sn^(2)-及びCo^(2)-イオンによる急速な脱活性化、p-ヒドロキシ安息香酸水銀、5.5′-ジチオビス(2-ニトロベンゾアート)及びヨードアセトアミドによる並びにキレート化された2.2′-ビピリジル及びo-フエナントロリンによる著しい阻害及びSH-保護試薬、たとえばジチオトレイトールによる安定化、
-脂肪族、脂環式及び芳香族ケトン、ジケトン、ケタール及びアルデヒドの還元のための並びに第一及び第二アルコールの酸化のための更なる能力、
ことを特徴とする、請求の範囲1ないし3のいずれかに記載のケトエステル-還元酵素。
5.オキソ-化合物を酵素還元して光学的に活性なS-ヒドロキシ化合物とするにあたり、オキソ-化合物をNADHの存在下に請求の範囲1ないし4のいずれかに記載のケトエステル-還元酵素によって変換することを特徴とする、上記酵素還元方法。
・・・」

(刊1-2)「したがって本発明の目的は、NADHによって共触媒反応を生じる、β-γ-及びδ-ケトエステルの酵素反応及びこれに適する酵素である。これは驚くべきことに特定の酵母及び細菌中に、すなわちカンジダ パラブシロシス及びヤローヴイニア セロビオサ中に並びにロードコツカス エリスロポリス及びシュードモナス アシドボランス中に見い出され、これらはn-アルカン又はn-アルカン酸を利用することができる。カンジダ パラブシロシス及びロードコッカス エリスロポリスから単離されたケトエステル-還元酵素は広範囲にわたって研究されている。
長鎖アルカン酸又はアルカン、すなわち特にドデカン酸及びテトラデカンを炭素源として含有する栄養培地上でカンジダ パラブシロシス又はロードコッカスエリスロポリスを増殖した場合、新規ケトエステル-還元酵素(KERed)の特に高い活性が得られる。
カンジダ パラブシロシスDMS 70125によるKERedの形成及びこの菌株から酵素の単離及び精製が特に著しく研究されている。
精製されたKERedは次のパラメーターの点で優れている。:
・・・
-脂肪族、脂環式及び芳香族ケトン、ジケトン、ケタール及びアルデヒドの還元ための並びに第一及び第二アルコールの酸化のための更なる能力。」(2頁左下欄下から3行?右下欄23行)

(刊1-3)「β-、γ-及びδ-ケトエステルを、酵素還元反応に付して対応する光学的活性ヒドロキシカルボン酸エステルとすることは、次の反応式に従って行われる。



式中R及びR゛は幅広い意味を有することができ、それはたとえば表4から明らかである。」(2頁右下欄24行?3頁左上2行)

(刊1-4)「





(刊1-5)「次に、本発明を例によって詳述する。その際、ここでの説明は添付の図面を参照して述べられている。図面は下記の通りである:
・・・
図6(a)ラセミ混合物に対する及び(b)本発明によるKERed-反応生成物に対する(R)-及び(S)-3-ヒドロキシ酪酸メチルエステルのクロマトグラフィー分離。
・・・」(3頁右上欄9?22行)

(刊1-6)「



」(8頁右下)

2 原査定の拒絶理由に引用された本願の優先日前に頒布された刊行物である「特表2004-527251号公報」(原査定の引用文献2。以下、「刊行物2」という。)には、次の事項が記載されている。

(刊2-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式I
R^(1)-C(O)-R^(2) (I)
[式中、R^(1)及びR^(2)は相互に無関係に、同じ又は異なり、次のものを表す
1. 水素原子、
2. -(C_(1)?C_(20))-アルキル、この場合にアルキルは直鎖又は分枝鎖である、
3. -(C_(2)?C_(20))-アルケニル、この場合にアルケニルは直鎖又は分枝鎖であり、かつ場合により1、2、3又は4個の二重結合を含有する、
4. -(C_(2)?C_(20))-アルキニル、この場合にアルキニルは直鎖又は分枝鎖であり、かつ場合により1、2、3又は4個の三重結合を含有する、
5. -(C_(6)?C_(14))-アリール、
6. -(C_(1)?C_(8))-アルキル-(C_(6)?C_(14))-アリール、又は
7. R^(1)及びR^(2)は-C(O)-基と一緒になって-(C_(6)?C_(14))-アリール又は-(C_(5)?C_(14))-ヘテロ環を形成し、
その際、上記の1?7に挙げられた基は非置換であるか、又は相互に無関係に次の基により1?3箇所置換されてる、
a) -OH、
b) ハロゲン、たとえばフッ素、塩素、臭素又はヨウ素、
c) -NO_(2)、
d) -C(O)-O-(C_(1)?C_(20))-アルキル、この場合にアルキルは直鎖又は分枝鎖であり、非置換であるか又はハロゲン、ヒドロキシ、アミノ又はニトロにより1?3箇所置換されている、又は
e) -(C_(5)?C_(14))-ヘテロ環、このヘテロ環は非置換であるか又はハロゲン、ヒドロキシ、アミノ又はニトロにより1?3箇所置換されている]
のケト化合物をエナンチオ選択的に還元する方法において、
a) 式Iの化合物、アルコール-デヒドロゲナーゼ、水、補因子及びlogP 0.5?4.0の有機溶剤を、
b) 二相系の形でインキュベートし、かつ
c) 生成したキラルのヒドロキシ化合物を単離することを特徴とする、ケト化合物のエナンチオ選択的還元方法。
・・・
【請求項9】
補因子としてNADPH又はNADHを、水相に対して0.05mM?0.25mM、特に0.06mM?0.2mM添加することを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
・・・
【請求項11】
イソプロパノールを添加することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
・・・」

(刊2-2)「【技術分野】
【0001】
本発明は、有機ケト化合物を酵素を用いてエナンチオ選択的に還元して相応するキラルのヒドロキシ化合物にする方法、Lactobacillus minorからのアルコール-デヒドロゲナーゼ、及び酵素を用いてラセミ体から(S)-ヒドロキシ化合物をエナンチオ選択的に得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性ヒドロキシ化合物は、多数の薬理学的に重要な化合物を製造するための有用な合成原料である。この化合物は古典的な化学的方法によって製造が困難であることが多く、薬理学的用途に必要なエナンチオマー純度が達成できるのはまれである。従って、キラル化合物の製造のために、一般にバイオテクノロジーによる方法が用いられ、この場合に立体選択的反応は完全な微生物か又は単離された酵素を用いて実施される。
【0003】
この場合に、単離された酵素を使用することが有利であることが多い、それというのもこの酵素を用いると一般的に比較的高い収率ならびに比較的高いエナンチオマー純度が達成できるためである。
【0004】
デヒドロゲナーゼ及び特にアルコール-デヒドロゲナーゼは、有機ケト化合物を相応するキラルのアルコールにする立体化選択的還元により、キラルの生成物を得るために有用な触媒である。主に酵母、ウマの肝臓又はThermoanaerobium brockiiからの相応する酵素が公知である。これらの酵素は補酵素としてNADH(ニコチンアデニンジヌクレオチド)又はNADPH(ニコチンアデニンジヌクレオチドホスフェート)が必要である。他の公知のアルコール-デヒドロゲナーゼは、たとえばRhodococcus erythropolisからの(S)-特異的アルコール-デヒドロゲナーゼ又はLactobacilius属からの(R)-特異的アルコール-デヒドロゲナーゼである。2つの酵素タイプは、ケト化合物に関して広い基質スペクトルを有し、かつ高いエナンチオ選択性を示す。Lactobacillus kefir(ドイツ連邦共和国特許第4014573号明細書)及びLactobacillus brevis(ドイツ連邦共和国特許第19610984号明細書)からのアルコール-デヒドロゲナーゼは、特にキラルの(R)-アルコールを得るために適している。
【0005】
アルコール-デヒドロゲナーゼを使用する欠点は、もちろん有機溶剤中でこのアルコール-デヒドロゲナーゼの酵素安定性及び酵素活性がわずかであることであり、かつ還元すべきケト化合物の水溶性がわずかなことが多いことである。さらに、有機溶剤中でアルコール-デヒドロゲナーゼを使用することに対して他の制限的要因は補因子需要としてのNADP又はNADの使用が必要であることである、それというのもこの補因子(NADP又はNAD)は水溶性であり、かつ経済的方法で再生されるためである。
【0006】
本発明は、プロセス条件を変更することにより前記の欠点を改善することを目的とする。この課題は、本発明の場合に、有機溶剤、アルコール-デヒドロゲナーゼ、水、補因子及びケト化合物を含有する二相系を使用することにより解決される。
【0007】
本発明によるこの方法は、溶剤の酵素安定化作用による高い耐用時間、製造されたキラルのヒドロキシ化合物の99.9%を越えるエナンチオマー純度及び使用したケト化合物の量に対する高い収率を示す。」

(刊2-3)「【0020】
使用されたNADH又はNADPHの再生のために、本発明による方法の場合に付加的にイソプロパノールを添加することができる。例えば、イソプロパノール及びNADPはアルコール-デヒドロゲナーゼによりNADPH及びアセトンに変換される。使用したイソプロパノール量は、全体のバッチの体積に対して5%?30%である。イソプロパノールの有利な量は10%?20%、特に10%である。
・・・
【0022】
本発明による方法において、例えば酵母、ウマの肝臓、Thermoanaerobium brockii又はRhodococcus erythropolisからのアルコール-デヒドロゲナーゼを使用する場合には、式Iの化合物から相応する(S)-ヒドロキシ化合物が得られる。本発明による方法において、例えばLactobacillus kefir又はLactobacillus brevisからのアルコール-デヒドロゲナーゼを使用する場合には、式Iの化合物から相応する(R)-ヒドロキシ化合物が得られる。
・・・
【0029】
本発明は、さらにLactobacillus minorからの高い最適温度を示すアルコール-デヒドロゲナーゼに関する。・・・Lactobacillus minorからのこのアルコール-デヒドロゲナーゼはR特異的であり、この場合に、式Iの化合物から相応する(R)-ヒドロキシ化合物を得ることができる。・・・」

第4 刊行物1に記載された発明
刊行物1には、(刊1-1)のとおり、カンジダ パラプシロシス(・・・)、シュードモナス アシドボランス(・・・)の菌株から、ケトエステルをNADH依存的に還元する酵素を単離することができること、当該酵素は、脂肪族ケトンを還元する能力と、第一及び第二アルコールを酸化する能力とを有すること、当該酵素は、NADHの存在下にオキソ化合物を酵素還元して光学的に活性なS体のヒドロキシ化合物とすることが記載されており、その脂肪族ケトンとして、具体的に、(刊1-4)のとおりのものも開示されている。
したがって、刊行物1には、脂肪族ケトンを不斉還元する方法として、次の発明(以下、「刊行物1発明」という。)が記載されているということができる。

(刊行物1発明):
「NADHの存在下、カンジダ パラプシロシス(Candida Parapsilosis)、シュードモナス アシドボランス(Pseudomonas acidovorans)の菌株から単離した酵素によって、次式(A)で表される脂肪族ケトンを酵素的に還元し、光学的に活性なS体のヒドロキシ化合物を得る方法。
式(A):



ここで、R_(1)=R_(2)=Cl、R_(3)=R_(4)=R_(5)=R_(6)=Hであるか、R_(1)=CH_(3)、R_(2)=Cl、R_(3)=R_(4)=R_(5)=R_(6)=Hであるか、または、R_(1)=Cl、R_(2)=R_(3)=R_(4)=R_(5)=R_(6)=Hである。」

第5 対比・判断
1 本願発明1と刊行物1発明の対比
ア 刊行物1発明において式(A)で表される脂肪族ケトンは、本願発明2,4,5に係るケトンに対応するものでもあり、本願発明1の一般式IIで表されるケトンに包含されるものである。

イ また、刊行物1発明における「カンジダ パラプシロシス(Candida Parapsilosis)の菌株から単離した酵素」は、本願明細書の段落【0023】の記載「好ましい実施形態において、酵素による還元に用いられるデヒドロゲナーゼは、微生物を出発原料として得られる。・・・」及び【0026】の記載「PichiaまたはCandida属由来、特にはCandida boidinii ADH、Candida parasilosisまたはPichia capsulata由来の第2級アルコールデヒドロゲナーゼは、S体に特異的なデヒドロゲナーゼとして用いられる。・・・」に照らしても明らかなように、本願発明8に係るデヒドロゲナーゼに対応するものでもあり、本願発明1の「S体・・・に特異的なデヒドロゲナーゼ」に包含されるものである。

ウ そして、刊行物1発明における「S体のヒドロキシ化合物を得る方法」は、本願発明1の「一般式IaまたはIbで表されるアルコールを製造する方法」に対応することは明らかである。

エ 以上から、本願発明1と刊行物1発明との間には、次の一致点・相違点があるということができる。

(一致点):一般式IaまたはIbで表されるアルコールを製造する方法であって、式(A)で表されるケトンが、補酵素としてNADHを利用するS体に特異的なデヒドロゲナーゼの存在下において、酵素的に還元される方法。

(相違点):NADHに関し、本願発明1は、「還元の間に形成されるNADまたはNADPは、第2級アルコールによりさらにNADHまたはNADPHそれぞれに還元されること」を特定するのに対して、刊行物1発明は、かかる事項を具備しない点。

2 相違点についての容易想到性の判断
ア 刊行物2には、前記第3の2のとおり、ケト化合物を、単離された酵素によりエナンチオ選択的に還元する方法として、アルコールデヒドロゲナーゼの存在下、補酵素としてNADHを添加する方法が記載されており、特に、(刊2-3)のとおり、「使用されたNADH又はNADPHの再生のために、本発明による方法の場合に付加的にイソプロパノールを添加することができる」ことも開示されている。ここで、イソプロパノール添加による補酵素NADHの再生はデヒドロゲナーゼの由来に依存するものではないことを踏まえれば、刊行物1発明においても、還元の間に補酵素であるNADHを再生するべく、還元の間にイソプロパノールを付加的に添加することは、その採用が強く動機付けられる、すなわち、前記相違点に係る構成は、当業者が容易に想到し得るところであるということができる。(なお、イソプロパノールは、CH_(3)CH(OH)CH_(3)で表される2-プロパノールであり、本願発明14において第2級アルコールとして列挙されたものの一つであることは当業者において自明である。)。

イ そして、本願発明1は、本願の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、当業者の予測を超えた格別顕著な効果を奏するものであるとはいえない。
特に、「95%以上の光学純度のアルコール」に関して、審判請求人は、刊行物1には記載されていない格別顕著な効果である旨主張するが、刊行物1には、本願発明1と同一の基質を用い、「補酵素としてNADHまたはNADPHを利用するS体またはR体に特異的なデヒドロゲナーゼ/オキシドレダクターゼの存在下で」反応させることが記載されており、その図6には、3-ヒドロキシ酪酸メチルエステルのクロマトグラフィー分離の結果ではあるが、補酵素としてNADHまたはNADPHを利用するS体またはR体に特異的なデヒドロゲナーゼ/オキシドレダクターゼの存在下で反応させることにより、実際に、光学純度が十分に高い(S)体が得られていることも示されている(刊1-5)(刊1-6)から、「95%以上の光学純度」は当業者が十分に予測し得る程度のものである。他方、本願の発明の詳細な説明の記載を参酌しても、付加的にイソプロパノール等のアルコールを添加することにより、エナンチオマー純度が向上するとは認められない(付加的にイソプロパノール等のアルコールを添加することが、還元の間に補酵素であるNADHを再生するという、刊行物2に記載された効果を超える予測し得ない効果を奏するものではない)。以上から、本願発明1と刊行物1発明との間で、エナンチオマー純度に格別の差異があるということはできない。

3 小活
以上のとおりであるから、本願発明1は、刊行物1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願発明2?14について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-04 
結審通知日 2013-09-10 
審決日 2013-09-26 
出願番号 特願2007-538326(P2007-538326)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 佑一藤井 美穂  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 田村 明照
郡山 順
発明の名称 キラルアルコールの製造方法  
代理人 特許業務法人原謙三国際特許事務所  

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