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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M |
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管理番号 | 1284519 |
審判番号 | 不服2012-17224 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-09-05 |
確定日 | 2014-02-05 |
事件の表示 | 特願2008-545510「燃料電池システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月 7日国際公開,WO2008/016217,平成21年 5月 7日国内公表,特表2009-518820〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は,平成19年5月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年7月31日,韓国)を国際出願日とする出願であって,平成24年5月2日付けで拒絶査定がなされ,平成24年9月5日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,平成25年5月2日付けで当審の拒絶理由が通知され,同年8月1日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。 2.本願発明 本願の請求項2に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成25年8月1日付けの手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項2に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。 「水素と酸素の電気化学反応によって電力を生産する燃料電池スタックと; 前記燃料電池スタックに水素が含まれた改質ガスを供給するように連結され,発電原料を水素が含まれた改質ガスに改質する燃料処理装置と; 前記燃料電池スタックに酸素を供給するように連結される酸素供給装置と; 前記燃料処理装置から前記燃料電池スタックに前記改質ガスを供給する改質ガス供給配管と; 前記燃料電池スタックで消費されない残余改質ガスが前記燃料処理装置の燃焼器に再び導入されるように前記燃料電池スタックと前記燃料処理装置の間に設けられる残余改質ガス排出配管と; 前記改質ガスが前記燃料電池スタックに供給されずに前記残余改質ガス排出配管に供給されるように,前記改質ガス供給配管と前記残余改質ガス排出配管とを連結するバイパス配管と; 前記残余改質ガス排出配管の,前記バイパス配管が連結された部分と前記燃料処理装置との間に設けられて,当該残余改質ガス排出配管内のガスに含まれた熱を低減させる吸熱器と; 前記燃料電池スタックを冷却させる冷却装置を含み, 前記吸熱器は前記冷却装置に連結され,前記冷却装置から供給される冷却水が前記残余改質ガスと熱交換し, 前記吸熱器には前記冷却装置の冷却水が流入するように前記燃料電池スタックと前記冷却装置の間に設けられる冷却水供給配管が連結され, 前記残余改質ガス排出配管には前記吸熱器の作動によって前記残余改質ガスから分離された水分を排出する水分排出器が設けられ,且つ, システム起動時に,前記バイパス配管を用いて,前記改質ガスを,前記燃料電池スタックに供給せずに前記残余改質ガス排出配管に供給する, ことを特徴とする燃料電池システム。」 なお,特許請求の範囲の請求項2には「前記バイパス管を用いて,」(下から3行目)と記載されているが,「前記改質ガス供給配管と前記残余改質ガス排出配管とを連結するバイパス配管」及び「前記バイパス配管が連結された部分」の記載からして,「前記バイパス配管を用いて,」の誤記と認め,上記のとおり認定した。 3.引用例 本願の優先日である平成18年7月31日前に頒布され,当審の拒絶理由に引用した,特開2000-173639号公報(以下,「引用例」という。)には,図面と共に次の事項が記載されている。 ・「【0002】 【従来の技術】燃料電池発電システムにおいては,通常,燃料電池のアノードに水素リッチなガスを供給すると共にカソ-ドに空気を供給し,電気化学的に反応させて発電を行う。この水素リッチなガスは,比較的容易かつ安価に入手することができる天然ガスのような軽質炭化水素やメタノール等のアルコール類の燃料を原料とし,これに水蒸気を混合して,改質器で水蒸気改質を行うことにより生成している。」 ・「【0011】 【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明の燃料電池発電システムは,原燃料を水蒸気改質反応させることにより,水素リッチな改質ガスを生成する改質器と,改質器で生成された改質ガス中の一酸化炭素を二酸化炭素に変成させるCO変成器と,CO変成器を経た改質ガスと,酸化剤とを用いて発電を行う燃料電池とを備えた燃料電池発電システムであって,前記CO変成器は,CO変成触媒部と,バッファ部を介して当該CO変成触媒部と熱伝達可能に設けられた熱供給部とからなり,少なくとも起動時においては,熱供給部から供給される熱により前記CO変成触媒部が加熱されることを特徴とする。」 ・「【0014】 【発明の実施の形態】以下に図面を参照しながら本発明に係る燃料電池発電システムについて説明する。 「実施の形態1」 〔システム全体の構成〕図1は,実施の形態に係る燃料電池発電システム1(以下,単に「発電システム」という。)の構成を示す平面図である。 【0015】当該発電システム1は,天然ガス,都市ガス等の燃料ガスを用いて発電を行うものであって,脱硫器100,水蒸気改質器200,CO変成器300,CO除去器400,燃料電池500等の主要機器と,熱交換器600,燃料加湿器700,空気加湿器710,燃料側気水分離器800,空気側気水分離器810,水タンク900,各種ファンF1,F2,F3,F4,冷却水ポンプP1,全体の動作を制御するシステム制御装置1000等から構成される。 【0016】脱硫器100は,燃料ガス中の硫黄成分を除去する反応器であり,脱硫用の触媒が充填された触媒層を備えている。用いる触媒の種類によって運転温度は異なるが,高温用の触媒を用いる場合は,当該脱硫器をヒータ等で加熱しながら高温(200?300℃)で運転する。水蒸気改質器200は,脱硫された燃料ガスを水素リッチな改質ガスに水蒸気を用いて改質する反応器であり,水蒸気改質反応用の触媒が充填された改質触媒槽210と,高温の燃焼ガスを発生してこの改質触媒槽を加熱するためのバーナ220と,バーナ220により発生された燃焼ガスが通過する,改質触媒槽210の接して中央部に設けられた燃焼ガス通過槽230とから構成されている。ここで,燃焼ガス通過槽230内に導入された燃焼ガスはここでは,そのまま外気中に排出される。なお,改質触媒槽210と燃焼ガス通過槽230との位置関係は,例えば,改質触媒槽210を内側としてその外周部に燃焼ガス通過槽230を設けても良い。 【0017】CO変成器300は,CO変成反応用の触媒が充填された変成触媒槽310と,その周囲に設けられた水が導入されるバッファ槽320と,更にその周囲に設けられた所定のガスを空気と反応させて燃焼させるためのアルミナなどの伝熱性の高い担体に貴金属が担持された触媒(燃焼触媒)が充填された燃焼触媒槽330とからなる,近接する槽間で熱伝達が可能なように金属製の板体により筒管状に設計した多重筒管構造の反応器であって,変成触媒槽310が所定の温度範囲(180℃?250℃程度)に保たれて運転される。 【0018】このCO変成器300では,改質ガスに含まれている一酸化炭素を上記化1式のように水蒸気を用いて二酸化炭素に変成して,一酸化炭素の濃度を1%(10,000ppm)程度まで低減させる。また,変成触媒槽310におけるCO変成反応によって生じる反応熱及び燃焼触媒槽330における燃焼反応の反応熱によってバッファ槽320内の水を水蒸気に転換する。この水蒸気は,水蒸気改質器200に供給され,水蒸気改質反応に用いられる。 【0019】CO除去器400は,改質ガス中の一酸化炭素を,上記化2式のように選択酸化することによって,更にその濃度レベルを落として燃料電池500に供給する。燃料電池500は,CO除去器400からの改質ガスをアノード510に取り入れると共に空気をカソード520に取り入れて発電を行なう固体高分子型の燃料電池であり,このように各電極にガスが取り入れられる前に,改質ガスは燃料加湿器700により,空気は空気加湿器710により加湿され,燃料電池500での発電に供される。 【0020】燃料電池500から排出される未反応改質ガスは,気水分離器800で,ガスと水とに分離される。そして,分離されたガスは改質器の加熱用バーナ220の燃料に使用され,水は,水タンク900に一旦貯蔵され,燃料電池の冷却板530に導入させる冷却水として,また水蒸気改質反応に適宜,用いられる。燃料電池500から排出される未反応空気は,気水分離器810で,空気と水とに分離される。そして,分離された水は,水タンク900に一旦貯蔵される。 【0021】なお,図示しないが燃料電池500から気液分離器800,810にいたる配管経路には,熱交換器が設けられていて,電池冷却用の冷却水と熱交換されるようになっている。 〔配管系及び弁の構成〕図1に示すように,上記各要素間には燃料ガス系,水系,空気系の配管が設けられている。 【0022】燃料ガス系の配管としては,主に以下のものがある。燃料ガスを脱硫器100に導入する配管Lg1,燃料ガスを脱硫器100から改質器200に導入するために水蒸気供給用の水系配管Lw8と合流された配管Lg2,燃料ガスをバーナー220のガス取り入れ口(不図示)に供給する配管Lg3,CO変成器300の燃焼触媒槽330の燃料取り入れ口330Aに導入する配管Lg4,燃焼触媒槽330で燃焼された排ガスを排ガス取り出し口330Bから外部に導出する配管Lg5,改質器200からCO変成器300の燃料取り入れ口300Aに熱交換器600を経て改質ガスを導く配管Lg6,CO変成器300の燃料取り出し口300BからCO除去器400に改質ガスを導く配管Lg7,CO除去器400から燃料電池500に改質ガスを加湿器700を経由して導く配管Lg8,燃料電池500から排出された未反応改質ガスを気水分離器800に導く配管Lg9,配管Lg8から弁Bn5を介して分岐され,改質ガスを燃料電池500に導入することなく気水分離器800に導入する配管Lg10,及び気水分離器800で分離された未反応改質ガスを改質器を加温するバーナ220の燃料として用いるために,バーナ220のガス取り入れ口(不図示)に供給する配管Lg11である。 【0023】また,水系の配管としては,以下のものがある。CO変成器300におけるバッファ槽320の水取り入れ口320Aに水タンク900内の水を水ポンプP1により導く配管Lw1,水タンク900内の水を水ポンプP1により燃料電池500における冷却板530に導く配管Lw2,冷却板530を経た冷却水を各加湿器700,710に導く配管Lw3,加湿器700における過剰量の水を水タンク900に導くLw4,加湿器710における過剰量の水を水タンク900に導く配管Lw5,気水分離器800,810で分離された水を水タンクに導く配管Lw6及びLw7,CO変成器300におけるバッファ槽320で発生した水蒸気を取り出し口320Bから熱交換器600で配管Lg6内を流れる改質ガスと熱交換させてから改質器200に導く配管Lw8,並びに配管Lw8から弁Bn7を介して分岐され,水タンク900に水を導入するための配管Lw9である。」 ・「【0026】このような弁の開閉,各種ファン,ポンプ等の動作がシステム制御装置1000により統一的に制御されて本発電システム1は,運転される。 〔運転動作〕ここで運転動作とは,起動時と発電を行う通常運転時を含めた動作をいう。 1(審決注:○の中に1) 起動時について システムの起動は以下のようにして行う。」 ・「【0032】なお,この起動初期には,各システム要素の昇温が不十分なため,改質ガス中の水素濃度が低く,また一酸化炭素も十分に低減されていないので,このままでは燃料電池500の発電に供することはできない。従って,弁Bn5は配管Lg10が選択される状態に設定しておき,燃料電池500へは,高温の水蒸気を含む改質ガスが流入しないようにする。 【0033】なお,燃焼触媒槽330へ燃料を供給し,変成触媒外部からも同時に加熱すれば,起動をより迅速に行えるので,ここでは,起動初期における予熱が完了しても,弁Bn3は開いたままの状態にして燃焼触媒槽330への燃料の供給を継続するようにしてある。 2(審決注:○の中に2) 通常運転時について このようにして,各要素の昇温が完了すれば,次に,通常運転に入る。 【0034】通常運転時には,改質触媒槽210は650?750℃に保たれ,CO除去器400は空気量調整による温度制御によって,その触媒層は180?250℃に保たれ,燃料電池500は,弁Bn6の状態の制御によって冷却水の流量を調整することで所定の温度(例えば,70?80℃)で運転を行い,燃料電池500から外部負荷(不図示)への電力供給を行う。なお,通常運転中は,弁Bn5はCO除去器400から燃料電池500へ到る配管Lg8が流路として選択されるようにその状態を切替える。」 ・また,図1には,燃料電池発電システムの構成を示す平面図が図示されている。 ・段落【0022】の記載内容と図1の図示内容とから,燃料電池500のアノード510から排出された未反応改質ガスが,配管Lg9と気水分離器800と配管Lg11とを介して,水蒸気改質器200のバーナ220へ供給されるように構成されており,配管Lg9と配管Lg11とは燃料電池500と水蒸気改質器200のバーナ220との間に設けられていることが看てとれる。 ・段落【0022】の記載内容と図1の図示内容とから,配管Lg8から弁Bn5を介して分岐され,改質ガスを燃料電池500に導入することなく配管Lg9を介して気水分離器800に導入する配管Lg10は,配管Lg8と配管Lg9とを連結しており,さらに,配管Lg10は改質ガスを配管Lg9に導入することが看てとれる。 これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。 「水素と空気を電気化学的に反応させて発電を行う燃料電池500と; 前記燃料電池500に水素リッチな改質ガスを供給するように構成され,燃料ガスを水素リッチな改質ガスに改質する脱硫器100,水蒸気改質器200,CO変成器300及びCO除去器400等と; 前記燃料電池500に空気を供給するように構成される空気ファンF4及び配管La4等と; 前記CO除去器400から前記燃料電池500に前記改質ガスを導く配管Lg8と; 前記燃料電池500から排出される未反応改質ガスが前記水蒸気改質器200のバーナ220の燃料に使用されるように前記燃料電池500と水蒸気改質器200のバーナ220の間に設けられる配管Lg9と配管Lg11と; 前記改質ガスが前記燃料電池500に導入されずに前記配管Lg9に導入されるように,前記配管Lg8と前記配管Lg9とを連結する配管Lg10と; 前記燃料電池500から気液分離器800にいたる配管Lg9経路に設けられて,電池冷却用の冷却水と熱交換されるようになっている熱交換器と; 前記燃料電池500を電池冷却用の冷却水の流量を調整することで所定の温度で運転を行わせる弁Bn6及び冷却水ポンプP1等を備え, 前記熱交換器は,電池冷却用の冷却水と熱交換され, 前記燃料電池500から排出される未反応改質ガスは,燃料電池500から気水分離器800にいたる配管Lg9経路に設けられた熱交換器で,電池冷却用の冷却水と熱交換されるようになっており,配管Lg9によって気水分離器800に導かれて,未反応改質ガスと水とに分離され,分離された未反応改質ガスは改質器の加熱用バーナ220の燃料に使用され,水は,配管Lw6で導かれて水タンク900に一旦貯蔵され,燃料電池の冷却板530に導入させる冷却水として,また水蒸気改質反応に適宜,用いられ,且つ, システムの起動時に,前記配管Lg10が選択される状態に設定し,高温の水蒸気を含む前記改質ガスを,前記燃料電池500へ流入しないように前記配管Lg9に導入する, 燃料電池発電システム1」 3.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 機能・構成からして,引用発明の「空気」は本願発明の「酸素」に相当し,後者の「電気化学的に反応させて」との態様は前者の「電気化学反応によって」との態様に,後者の「発電を行う」態様は前者の「電力を生産する」態様に,後者の「燃料電池500」は前者の「燃料電池スタック」に,それぞれ相当しているから,結局,後者の「水素と空気を電気化学的に反応させて発電を行う燃料電池500」は前者の「水素と酸素の電気化学反応によって電力を生産する燃料電池スタック」に相当している。 同様に,後者の「水素リッチな改質ガス」は前者の「水素が含まれた改質ガス」に相当し,後者の「供給するように構成され」た態様は前者の「供給するように連結され」た態様に相当し,後者の「燃料ガス」は前者の「発電原料」に相当し,後者の「脱硫器100,水蒸気改質器200,CO変成器300及びCO除去器400等」は燃料ガスを処理して水素リッチな改質ガスに改質する装置といえるから前者の「燃料処理装置」に相当し,その上,後者の該装置を構成している「CO除去器400」,「水蒸気改質器200」及び「水蒸気改質器200のバーナ220」も前者の「燃料処理装置」に相当し,後者の「空気ファンF4及び配管La4等」は前者の「酸素供給装置」に相当し,後者の「導く」態様は前者の「供給する」態様に相当し,後者の「配管Lg8」は前者の「改質ガス供給配管」に相当し,後者の「燃料電池500から排出される」態様は前者の「燃料電池スタックで消費されない」態様に相当し,後者の「未反応改質ガス」は前者の「残余改質ガス」に相当し,後者の「バーナ220」は前者の「燃焼器」に相当し,後者の「バーナ220の燃料に使用される」態様は前者の「燃焼器に再び導入される」態様に相当し,後者の「配管Lg9と配管Lg11」及び「配管Lg9」は前者の「残余改質ガス排出配管」に相当し,後者の「導入され」る態様は前者の「供給され」る態様に相当し,後者の「配管Lg10」は前者の「バイパス配管」に相当し,後者の「燃料電池500を電池冷却用の冷却水の流量を調整することで所定の温度で運転を行わせる」態様は前者の「燃料電池スタックを冷却させる」態様に相当し,後者の「弁Bn6及び冷却水ポンプP1等」は前者の「冷却装置」に相当し,後者の「備え」との態様は前者の「含み」との態様に相当し,後者の「システムの起動時」は前者の「システム起動時」に相当し,後者の「配管Lg10が選択される状態に設定し」との態様は前者の「バイパス配管を用いて」との態様に相当し,後者の「高温の水蒸気を含む改質ガス」は前者の「改質ガス」に相当し,後者の「燃料電池500へ流入しないように」との態様は前者の「燃料電池スタックに供給せずに」との態様に相当し,後者の「導入する」態様は前者の「供給する」態様に相当し,後者の「燃料電池発電システム1」は前者の「燃料電池システム」に相当している。 また,後者の「燃料電池500から気液分離器800にいたる配管Lg9経路に設けられて,電池冷却用の冷却水と熱交換されるようになっている熱交換器」と,前者の「残余改質ガス排出配管の,バイパス配管が連結された部分と燃料処理装置との間に設けられて,当該残余改質ガス排出配管内のガスに含まれた熱を低減させる吸熱器」とは,「残余改質ガス排出配管に設けられた熱交換器」の概念で共通している。 さらに,後者の「熱交換器は,電池冷却用の冷却水と熱交換され」る態様と,前者の「吸熱器は冷却装置に連結され,前記冷却装置から供給される冷却水が残余改質ガスと熱交換し,前記吸熱器には前記冷却装置の冷却水が流入するように前記燃料電池スタックと前記冷却装置の間に設けられる冷却水供給配管が連結され」る態様とは,「熱交換器は,冷却水と熱交換され」る態様の概念で共通している。 そして,後者の「燃料電池500から排出される未反応改質ガスは,燃料電池500から気水分離器800にいたる配管Lg9経路に設けられた熱交換器で,電池冷却用の冷却水と熱交換されるようになっており,配管Lg9によって気水分離器800に導かれて,未反応改質ガスと水とに分離され,分離された未反応改質ガスは改質器の加熱用バーナ220の燃料に使用され,水は,配管Lw6で導かれて水タンク900に一旦貯蔵され,燃料電池の冷却板530に導入させる冷却水として,また水蒸気改質反応に適宜,用いられ」る態様と,前者の「残余改質ガス排出配管には吸熱器の作動によって残余改質ガスから分離された水分を排出する水分排出器が設けられ」る態様とは,後者の「分離され」た「水」を「一旦貯蔵」し別の用途に「用い」ることと,前者の「分離された水分を排出する」こととは「分離された水分を処理する」との概念で共通するから,後者の「気水分離器800」と前者の「水分排出器」とは「水分処理器」の概念で共通し,後者の「気水分離器800」は配管Lg9に設けられているといえるから,結局,「残余改質ガス排出配管には残余改質ガスから分離された水分を処理する水分処理器が設けられ」る態様の概念で共通している。 したがって,両者は, 「水素と酸素の電気化学反応によって電力を生産する燃料電池スタックと; 前記燃料電池スタックに水素が含まれた改質ガスを供給するように連結され,発電原料を水素が含まれた改質ガスに改質する燃料処理装置と; 前記燃料電池スタックに酸素を供給するように連結される酸素供給装置と; 前記燃料処理装置から前記燃料電池スタックに前記改質ガスを供給する改質ガス供給配管と; 前記燃料電池スタックで消費されない残余改質ガスが前記燃料処理装置の燃焼器に再び導入されるように前記燃料電池スタックと前記燃料処理装置の間に設けられる残余改質ガス排出配管と; 前記改質ガスが前記燃料電池スタックに供給されずに前記残余改質ガス排出配管に供給されるように,前記改質ガス供給配管と前記残余改質ガス排出配管とを連結するバイパス配管と; 前記残余改質ガス排出配管に設けられた熱交換器と; 前記燃料電池スタックを冷却させる冷却装置を含み, 前記熱交換器は,冷却水と熱交換され, 前記残余改質ガス排出配管には残余改質ガスから分離された水分を処理する水分処理器が設けられ,且つ, システム起動時に,前記バイパス配管を用いて,前記改質ガスを,前記燃料電池スタックに供給せずに前記残余改質ガス排出配管に供給する, 燃料電池システム。」 である点で一致し,次の点で相違する。 [相違点1] 熱交換器に関し,本願発明は,残余改質ガス排出配管の,バイパス配管が連結された部分と燃料処理装置との間に設けられて,当該残余改質ガス排出配管内のガスに含まれた熱を低減させる吸熱器であるのに対し,引用発明では,燃料電池500から気液分離器800にいたる配管Lg9経路に設けられて,電池冷却用の冷却水と熱交換されるようになっている熱交換器である点。 [相違点2] 冷却水との熱交換に関し,本願発明は,吸熱器は冷却装置に連結され,前記冷却装置から供給される冷却水が残余改質ガスと熱交換し,前記吸熱器には前記冷却装置の冷却水が流入するように前記燃料電池スタックと前記冷却装置の間に設けられる冷却水供給配管が連結されるのに対し,引用発明では,熱交換器は,電池冷却用の冷却水と熱交換される点。 [相違点3] 水分処理器に関し,本願発明は,残余改質ガス排出配管には吸熱器の作動によって残余改質ガスから分離された水分を排出する水分排出器が設けられるのに対し,引用発明では,燃料電池500から排出される未反応改質ガスは,燃料電池500から気液分離器800にいたる配管Lg9経路に設けられた熱交換器で,電池冷却用の冷却水と熱交換されるようになっており,配管Lg9によって気水分離器800に導かれて,未反応改質ガスと水とに分離され,分離された未反応改質ガスは改質器の加熱用バーナ220の燃料に使用され,水は,配管Lw6で導かれて水タンク900に一旦貯蔵され,燃料電池の冷却板530に導入させる冷却水として,また水蒸気改質反応に適宜,用いられる点。 4.判断 上記相違点について以下検討する。 ・相違点1及び3について 引用発明において,運転時の燃料電池500から排出される未反応改質ガスの温度は技術常識からして燃料電池500の温度と同程度であり,熱交換器に導入されたガスは,所定の温度(例えば,70?80℃)で運転を行う燃料電池500(引用例の段落【0034】参照。)を冷却する電池冷却用の冷却水と熱交換が行われるから,熱交換器においてガスは冷却,すなわち吸熱され,水蒸気が熱を奪われ水滴となりガスから分離されるから,熱交換器は吸熱器として機能し,その作動によって未反応改質ガスから水を分離している。そして,気水分離器800を経て,ガスは配管Lg11で導かれてバーナの燃料に使用され,水は配管Lw6に導かれて水タンク900に一旦貯蔵され,冷却水等として用いられるから,未反応改質ガスをバーナ220に導く配管Lg9及び配管Lg11の経路から,配管Lw6によって水が排出されているといえる。そうすると,上記相違点3は実質的な相違点ではない。 また,引用発明において,分離された水は燃料電池発電システム1において燃料電池の冷却水として,また水蒸気改質反応に適宜,用いられるから,できるだけ多くの水を回収することを示唆している(以下,「引用発明の示唆」という。)。 さらに,引用発明は「システムの起動時に,前記配管Lg10が選択される状態に設定し,高温の水蒸気を含む前記改質ガスを,前記燃料電池500へ流入しないように前記配管Lg9に導入する」のであるから,高温の水蒸気を含む改質ガスが配管Lg10を経て配管Lg9に導入される。したがって,上記引用発明の示唆からすると,高温の水蒸気を含む改質ガスも気水分離器800に導入される前に熱交換器を経てできるだけ多くの水を分離すべきといえる。すなわち,引用発明において,高温の水蒸気を含む改質ガスを導く配管Lg10は,配管Lg9経路に設けられる熱交換器を経るように,構成されるべきであり,熱交換器は未反応改質ガスと高温の水蒸気を含む改質ガスの両者と熱交換する構成とすべきである。したがって,熱交換器は配管Lg9の,配管Lg10が連結された部分と気水分離器800との間に設けられるか,或いは,配管Lg9と配管Lg10との2つの入り口のある熱交換器として,配管Lg9の,配管Lg10が連結された部分に設けられるか,これらどちらかの構成とすべきといえ,これら両構成のいずれとするかは,システムの機器や配管の配置等の構造等にも応じて,設計者が適宜選択し得るといえる。 そして,例えば特開2005-116256号公報にも記載されている(段落【0028】,【0034】,【0035】等の記載内容及び図1等の図示内容参照。)ように,燃料電池コージェネレーションシステム(本願発明の「燃料電池システム」に相当する。)において,燃料電池1から燃焼器5までのアノードライン32(本願発明の「残余改質ガス排出配管」に相当する。)の,迂回通路36(本願発明の「バイパス配管」に相当する。)が連結された部分と燃焼器5(本願発明の「燃料処理装置」の一部に相当する。)との間に設けられて,当該燃料電池1から燃焼器5までのアノードライン32内のガスに含まれた熱を低減させるアノード凝縮器7(本願発明の「吸熱器」に相当する。)を備えるようにすることは,燃料電池システムの分野における周知技術である。 また,請求人が平成25年8月1日付け意見書において「システム起動時に,改質ガスを燃料電池スタックに供給せずに残余改質ガス排出配管に供給する際,吸熱器及び水分排出器を用いて二段階の水分分離・排出を行い,これによって,システム起動時の改質ガスの水分含有率を十分に低下させる。」と主張していることからすると,本願発明において,システム起動時に,改質ガスに含まれた熱を吸熱器で低減させるべく「残余改質ガス排出配管の,バイパス配管が連結された部分と燃料処理装置との間に設けられて,当該残余改質ガス排出配管内のガスに含まれた熱を低減させる吸熱器」としたものと解せる。 そうすると,引用発明に上記周知技術を適用することで,上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者にとって容易である。 ・相違点2について 例えば,当審の拒絶理由に提示した,特開2001-302204号公報(段落【0086】,【0087】,【0089】等の記載内容及び図1等の図示内容参照。)や特開2001-93550号公報(段落【0101】,【0102】,【符号の説明】等の記載内容及び図1等の図示内容参照。)にも開示されているように,本願発明の上記相違点2に係る,吸熱器は冷却装置に連結され,前記冷却装置から供給される冷却水が熱交換し,前記吸熱器には前記冷却装置の冷却水が流入するように燃料電池スタックと前記冷却装置の間に設けられる冷却水供給配管が連結されるように,冷却水の流路を具体化することは,燃料電池システムの分野における周知の技術である。 また,できるだけ多くの水を回収するとの上記引用発明の示唆からすると,引用発明の熱交換器が熱交換する電池冷却用の冷却水には,水蒸気が多く凝縮するように,その温度が低いことが要求されるから,燃料電池等を冷却して昇温した冷却水を用いないようにすべきである。 そうすると,引用発明の熱交換器が電池冷却用の冷却水と熱交換を行うための冷却水の流路を具体的に設定するに際し,上記周知の技術を適用することで,上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは当業者にとって容易である。 そして,本願発明の全体構成により奏される効果は,引用発明,上記周知技術及び上記周知の技術から当業者が予測し得る範囲内のものである。 したがって,本願発明は引用発明,上記周知技術及び上記周知の技術に基いて当業者が容易になし得たものである。 5.むすび 以上のとおり,本願発明は,引用発明,上記周知技術及び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないため,本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明について検討するまでもなく,本願は,同法第49条第2号の規定に該当し,拒絶をされるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-09-03 |
結審通知日 | 2013-09-10 |
審決日 | 2013-09-24 |
出願番号 | 特願2008-545510(P2008-545510) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H01M)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 清水 康 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
槙原 進 堀川 一郎 |
発明の名称 | 燃料電池システム |
代理人 | 石井 明夫 |
代理人 | 佐野 弘 |