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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1284545
審判番号 不服2012-19139  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-01 
確定日 2014-02-03 
事件の表示 特願2007-523541「横方向成長活性領域を有する窒化物ベースのトランジスタ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 3月 2日国際公開,WO2006/022872,平成20年 3月13日国内公表,特表2008-507853〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,2005年3月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年7月26日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成23年11月10日付けで拒絶理由が通知され,平成24年5月10日に手続補正がされ,同年5月28日付けで拒絶査定がされ,これに対して,同年10月1日に審判請求がされるとともに手続補正がされ,その後,同年12月17日付けで審尋がされ,平成25年6月17日に回答書が提出されたものである。

2 平成24年10月1日にされた手続補正(以下「本件補正という。」)について
(1)本件補正の内容
本件補正は,特許請求の範囲を補正するものであって,補正前の請求項1?101のうち,補正前の請求項6,7,9,10,12,13,25,26,57,58,60,61,63,64及び79を削除して,補正後の請求項1?86とするものである。

(2)補正の目的の適否及び新規事項の追加の有無についての検討
本件補正は,補正前の請求項6,7,9,10,12,13,25,26,57,58,60,61,63,64及び79を削除するものであるから,特許法第17条の2第4項(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項を言う。以下同じ。)第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。また,当該請求項の削除が,特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすことは明らかである。
(3)小括
上記(2)において検討したとおり,本件補正は,特許法第17条の2第3項に規定された要件を満たすものであり,また,特許法第17条の2第4項第1号に掲げる事項を目的とするものであるから,適法になされたものである。

3 本願発明
上記のとおり,本件補正は適法になされたものであるから,本願の請求項1?86に係る発明は,平成24年10月1日にされた手続補正により補正された明細書,特許請求の範囲及び図面(以下「本願明細書等」という。)の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?86に記載された事項により特定されるとおりのものであり,それらのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,その請求項1に記載されている事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
垂直成長領域と,隣接する前記垂直成長領域間の横方向成長領域と,隣接する前記横方向成長領域間の融合領域を有する第1のIII族窒化物層と,
該第1のIII族窒化物層上に設けられたIII族窒化物チャネル層と,
該III族窒化物チャネル層上に設けられたIII族窒化物バリア層と,
該III族窒化物バリア層上に設けられたドレインコンタクトと,
前記III族窒化物バリア層上に設けられたソースコンタクトと,
前記III族窒化物バリア層上に設けられたゲートコンタクトと
を備え,前記ゲートコンタクトは,前記第1のIII族窒化物層の横方向成長領域上の前記III族窒化物バリア層の一部分上に配置され,前記ソースコンタクト及び/又は前記ドレインコンタクトのうちの一方の少なくとも一部分は,前記第1のIII族窒化物層の垂直成長領域上の前記III族窒化物バリア層の一部分上に配置され,前記ゲートコンタクトが配置される前記横方向成長領域は,少なくとも2次元電子ガスの空乏領域が,予想される動作条件下で前記ゲートコンタクトから延びている限り,前記ドレインコンタクトに向かって延びているが前記ドレインコンタクトまで延びていないことを特徴とする高電子移動度トランジスタ。」

4 刊行物に記載された発明
(1)特開2003-178976号公報
原査定の拒絶の理由に引用され,本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-178976号公報(以下「引用例」という。)には,図5?8とともに以下の記載がある。

ア 発明の属する技術分野
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はSi系基板を用いた窒化物半導体からなる電子素子,受発光素子等を構成するトランジスタ,ダイオード等の半導体素子に関するものであり,特に基板と窒化物半導体との界面の構造に関する。」

イ 課題を解決するための手段
「【0007】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために,本発明による半導体構造は,Si系基板上に,少なくともIII族元素およびNを含む層を有し,該基板表面上に少なくともInを含む層を有する。前記構成においては,少なくともInを含む層がInNであることが好ましい。前記構成においては,少なくともInNを含む層がAlInNであることが好ましい。前記構成においては,AlInN層の組成がSi系基板表面からの距離に応じてIn含有量が減少することが好ましい。また,Si系基板の面方位が{100}であることが好ましい。さらに,Si系基板の表面が周期的なリセス状ストライプからなる段差形状を有しており,リセス部がエアギャップとなっていることが好ましい。」

ウ 実施の形態2
「【0024】(実施の形態2)実施の形態1で述べたように,Si系基板上の窒化物半導体結晶には高密度の転位が発生するが,横方向選択成長を行うと転位密度を数桁低減でき,容易に高品質結晶を得ることができる。図5?8は本発明による半導体構造を製造手順に従って模式的に示す断面図である。これらの図において,101はSi(100)基板,103はGaN層,105はAlInN層,106はエアギャップ,107はAlGaNスペーサ層,108はn型AlGaN電子供給層,109はAlGaNキャップ層,110はソース電極,111はゲート電極,112はドレイン電極である。
【0025】以下,各層の構造およびその製造方法について説明する。ここでは,基板101として周期的なリセス状ストライプからなる段差形状を有する基板を用いた。
【0026】本実施の形態では,窒化物半導体結晶の成長方法としてMOVPE法を用いているが,本発明による半導体構造の製造方法はMOVPE法に限定されるものではなく,水素化物気相成長法等,窒化物半導体結晶を選択成長させるためにこれまで提案されている全ての方法が適用できる。
【0027】まず,Si基板101上にレジストを塗布し,フォトリソグラフィによってレジストをストライプ幅約1μm,周期約4μmで[-1-12]と平行な方向にストライプ状に加工する。レジストをマスクとし,ウェットエッチングによって基板101をリセス状(凹状)に加工する。このとき,リセス部の幅は約3μm,リッジ部(レジストのある部分)の幅は約1μmである。また,リセスの深さは約30?800nmである。この後,ストライプ状のレジストを除去し,段差形状を有する基板101を得る(図5)。なお,ストライプの長さ(図5において紙面に垂直な方向の長さ)はストライプ幅に比べて十分長くてもよいが,クラックの発生を抑制するためには,ストライプ幅の数?100倍程度が好ましい。
【0028】脱脂洗浄,酸化膜除去した基板101を反応室内のサセプタ上に設置し,真空排気した後,1μTorr未満の水素雰囲気中700℃で5分間程度加熱し,基板表面のクリーニングを行う。
【0029】次に,基板温度を650℃,圧力を100Torrとし,窒素をキャリアガスとしてTMI,TMAおよびアンモニアをV/III比が70000となるように供給し,AlInN層105を堆積させる。これにより基板の段差はAlInN層105で覆われる(図6)。膜厚は30nm程度であり,堆積速度は10nm/min程度である。
【0030】その後,基板温度を1060℃とし,水素をキャリアガスとしてTMGおよびアンモニアをV/III比が8000となるように供給する。この工程で,リセス部にもGaN層103が成長するが,膜厚方向の成長速度が遅く,リッジ頂部に形成されたGaN層の横方向成長速度が速いため,両隣から横方向成長してきたGaNと合体し,主面がC面のみからなり,表面が平坦化されたGaN層103が得られる(図7)。また,リセス部の上方にはエアギャップ106が形成される。GaN層103の膜厚は1μm程度である。
【0031】図7において,エアギャップ106の中央付近から上方に伸びる縦線は,左右のリッジ頂部から横方向成長してきたGaN層103が合体した部分を示す。合体部以外の選択成長領域では貫通転位が10^(6)cm^(-2)未満の密度で観察されるのに対して,合体部ではC面内に水平な転位が10^(7)cm^(-2)未満の密度で観察される。また,基板101に接触している領域のC軸とエアギャップ106上領域のC軸とのチルト角は0.01?0.03度である。このように高品質の窒化物半導体層を形成できたのは,リセス状段差の存在により,横方向選択成長したGaN層103の下面が下方のGaN層103と接触しないためである。
【0032】選択成長終了後引き続き,例えば水素および窒素をキャリアガスとして,1060℃,300Torrでヘテロ接合電界効果トランジスタ(以下,HFETと略す)構造の成長を行う。すなわち,GaN層103(膜厚2μm),AlGaNスペーサ層107(膜厚5?7nm),n型AlGaN電子供給層108(膜厚15?20nm),AlGaNキャップ層109(膜厚3?5nm)を順次形成する(図8)。Al組成は例えば30%である。n型のドーピングには例えばシランを用い,キャリア濃度は5×10^(18)cm^(-3)とする。
【0033】以上の結晶成長で得られた半導体ウェハに対して,フォトリソグラフィ,電子ビームリソグラフィ,ドライエッチング,素子分離,表面パッシベーション,電極蒸着等のプロセスを経てFET素子を作製する。表面パッシベーションには,例えばSiN_(X) ,SiO_(2)を用いる。ゲート電極111としては,例えばNi/Au膜を,ソース電極110,ドレイン電極112としては,例えばTi/Al膜を蒸着等により形成する。転位に沿った界面準位によるリーク電流を抑制するため,ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置することが好ましい。特にゲート電極111直下が転位密度の少ない領域上となるよう配置することが好ましい。」

ここで,上記段落【0029】?【0031】の記載とともに図6及び図7を参照すると,基板101がリセス部(すなわち凹状とされた部分)とリッジ頂部とを有し,基板101上に形成されたAlInN層105についても,基板101のリセス部とリッジ頂部とに対応して,リセス部とリッジ頂部を有することがわかる。また,図7からは,「両隣から横方向成長してきたGaNと合体し,主面がC面のみからなり,表面が平坦化されたGaN層103」(段落【0030】)がAlInN層105に接触しており,基板101とは接触していないことが見て取れる。
それゆえ,「図7において,エアギャップ106の中央付近から上方に伸びる縦線は,左右のリッジ頂部から横方向成長してきたGaN層103が合体した部分を示す。合体部以外の選択成長領域では貫通転位が10^(6)cm^(-2)未満の密度で観察されるのに対して,合体部ではC面内に水平な転位が10^(7)cm^(-2)未満の密度で観察される。また,基板101に接触している領域のC軸とエアギャップ106上領域のC軸とのチルト角は0.01?0.03度である。」段落【0031】との記載における「基板101に接触している領域のC軸とエアギャップ106上領域のC軸とのチルト角は0.01?0.03度である」は,左右のリッジ頂部から横方向成長してきたGaN層103に係る記載であることは明らかである。また,図7の記載から,当該「基板101に接触している領域」は,「AlInN層105に接触している領域」の誤記であることも明らかである。
したがって,「両隣から横方向成長してきたGaNと合体し,主面がC面のみからなり,表面が平坦化されたGaN層103」には,「AlInN層105に接触している領域」と「エアギャップ106上領域」があることがわかる。そして,「このように高品質の窒化物半導体層を形成できたのは,リセス状段差の存在により,横方向選択成長したGaN層103の下面が下方のGaN層103と接触しないためである。」(段落【0031】),及び「転位に沿った界面準位によるリーク電流を抑制するため,ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置することが好ましい。」(段落【0033】)との記載から,「エアギャップ106上領域」のGaN層103の転位密度が少ないことは明らかである。
さらに,「この工程で,リセス部にもGaN層103が成長するが,膜厚方向の成長速度が遅く,リッジ頂部に形成されたGaN層の横方向成長速度が速い」(段落【0030】)との記載から,GaN層103には,リッジ頂部からは,横方向成長された部分と,成長速度が遅いながら膜厚方向に成長された部分があり,当該膜厚方向に成長された部分が前記「AlInN層105に接触している領域」に含まれるということができる。

また,「両隣から横方向成長してきたGaNと合体し,主面がC面のみからなり,表面が平坦化されたGaN層103が得られる(図7)。また,リセス部の上方にはエアギャップ106が形成される。GaN層103の膜厚は1μm程度である。」(段落【0030】)及び,「選択成長終了後引き続き,例えば水素および窒素をキャリアガスとして,1060℃,300Torrでヘテロ接合電界効果トランジスタ(以下,HFETと略す)構造の成長を行う。すなわち,GaN層103(膜厚2μm),・・・を順次形成する(図8)。」(段落【0032】)との記載から,横方向成長時には厚さ1μm程度のGaN層103が形成され,その後の成長時にはGaN層が少なくとも1μm程度積み増しされて,少なくとも合計2μmのGaN層103が形成されることがわかる。すなわち,GaN層103は,横方向成長時に形成された厚さ1μm程度の部分と,その後の成長時に成長された,少なくとも厚さ1μm程度の部分から成るといえる。このことは,図8におけるGaN層103が,図7におけるGaN層103よりも明らかに厚いものとして記載されていることにも整合する。

また,段落【0024】,【0032】?【0033】の記載,及び図8から,AlGaNキャップ層109上に,ソース電極110及びドレイン電極112が設けられ,当該ソース電極110及びドレイン電極112の間にゲート電極111が設けられていることがわかる。それゆえ,「転位に沿った界面準位によるリーク電流を抑制するため,ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置することが好ましい。」(段落【0033】)との記載において,「ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置する」ことにより,ゲート電極111直下も転位密度の少ない領域上となることは明らかである。

以上を総合すると,引用例には以下の発明が記載されているものと認められる。(以下「引用発明」という。)
「ヘテロ接合電界効果トランジスタであって,
リセス状(凹状)に加工され,リセス部とリッジとを有する基板101,
基板101の段差を覆い,リセス部とリッジとを有するAlInN層105,
横方向成長速度時に両隣のリッジ頂部から横方向成長してきたGaNと合体し,主面がC面のみからなり,表面が平坦化された,GaN層103のうち横方向成長時に形成された部分,
GaN層103のうち横方向成長時に形成された部分上に形成された,GaN層103のうち横方向成長の後に成長された部分,及び
リセス部の上方に形成されたエアギャップ106とを有し,
GaN層103のうち横方向成長時に形成された部分は,横方向成長された,エアギャップ106上領域と,リッジ頂部において,膜厚方向に成長された部分を含むAlInN層105に接触している領域とからなり,
GaN層103のうち横方向成長の後に成長された部分上にはさらに,AlGaNスペーサ層107,n型AlGaN電子供給層108,及びAlGaNキャップ層109がこの順に形成された構造を備え,
AlGaNキャップ層109上には,ゲート電極111,ソース電極110,及びドレイン電極112を備え,
ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,ゲート電極111直下も含んで,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置された,
ヘテロ接合電界効果トランジスタ。」

5 本願発明と引用発明との対比
本願発明と引用発明とを対比する。

・引用発明における「横方向成長速度時に両隣のリッジ頂部から横方向成長してきたGaNと合体し,主面がC面のみからなり,表面が平坦化されたGaN層103のうち,横方向成長時に形成された部分」は,「横方向成長された,エアギャップ106上領域と,リッジ頂部において,膜厚方向に成長された部分を含むAlInN層105に接触している領域とからな」るところ,「膜厚方向に成長された部分を含むAlInN層105に接触している領域」のうち「膜厚方向に成長された部分」は,本願発明の「垂直成長領域」に相当する。また,引用発明の「両隣のリッジ頂部から横方向成長してきたGaNと合体」した,「エアギャップ106上領域」は,本願発明の「隣接する前記垂直成長領域間の横方向成長領域」に相当する。さらに引用発明において「GaN層103のうち,横方向成長時に形成された部分」には「横方向成長速度時に両隣のリッジ頂部から横方向成長してきたGaNと合体」しているところ,当該合体した部分は,本願発明の「隣接する前記横方向成長領域間の融合領域」に相当する。
そうすると,引用発明の「横方向成長速度時に両隣のリッジ頂部から横方向成長してきたGaNと合体し,主面がC面のみからなり,表面が平坦化されたGaN層103のうち,横方向成長時に形成された部分」であって「GaN層103のうち横方向成長時に形成された部分は,横方向成長された,エアギャップ106上領域と,リッジ頂部において,膜厚方向に成長された部分を含むAlInN層105に接触している領域とからな」るものは,本願発明の「垂直成長領域と,隣接する前記垂直成長領域間の横方向成長領域と,隣接する前記横方向成長領域間の融合領域を有する第1のIII族窒化物層」に相当するといえる。

・引用発明に係る「ヘテロ接合電界効果トランジスタ」においては,「ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置され」ていることから,「電子」がキャリアとして用いられていることは明らかである。そして,GaN層103を構成するGaNに比して,AlGaNスペーサ層107,n型AlGaN電子供給層108,及びAlGaNキャップ層109を構成するAlGaNの方が禁制帯幅が広く,GaN層103における電子に対してバリアとして作用することは明らかである。そして,引用発明は「n型AlGaN電子供給層108」は,「n型AlGaN電子供給層108」に比較的近い,「GaN層103のうち横方向成長時に形成された部分上に形成された,GaN層103のうち横方向成長の後に成長された部分」に対して電子を供給し,また,当該供給された電子をキャリアとして,GaN層103の当該部分が「電子走行領域」,すなわちチャネル層となることも明らかである。
そうすると,引用発明の「GaN層103のうち横方向成長時に形成された部分上に形成された,GaN層103のうち横方向成長の後に成長された部分」は,本願発明の「該第1のIII族窒化物層上に設けられたIII族窒化物チャネル層」に相当し,引用発明の「GaN層103のうち横方向成長の後に成長された部分上に」備える「AlGaNスペーサ層107,n型AlGaN電子供給層108,及びAlGaNキャップ層109がこの順に形成された構造」は,併せて本願発明の「該III族窒化物チャネル層上に設けられたIII族窒化物バリア層」に相当するといえる。

・引用発明の,「AlGaNキャップ層109上に」「備え」る「ゲート電極111,ソース電極110,及びドレイン電極112」は,それぞれ,本願発明の「前記III族窒化物バリア層上に設けられたゲートコンタクト」,「前記III族窒化物バリア層上に設けられたソースコンタクト」,及び「該III族窒化物バリア層上に設けられたドレインコンタクト」に相当する。

・引用発明においては,「ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,ゲート電極111直下も含んで,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置された」ものであるところ,「エアギャップ106上」の部分は「両隣のリッジ頂部から横方向成長してきた」部分である。それゆえ,引用発明の「ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,ゲート電極111直下も含んで,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置された」ことは,本願発明の「前記ゲートコンタクトは,前記第1のIII族窒化物層の横方向成長領域上の前記III族窒化物バリア層の一部分上に配置され」ることに相当する。

・引用発明の「ヘテロ接合電界効果トランジスタ」と,本願発明の「高電子移動度トランジスタ」とは,「トランジスタ」である点で一致する。

よって,引用発明と本願発明とは,以下の点で一致する。
「垂直成長領域と,隣接する前記垂直成長領域間の横方向成長領域と,隣接する前記横方向成長領域間の融合領域を有する第1のIII族窒化物層と,
該第1のIII族窒化物層上に設けられたIII族窒化物チャネル層と,
該III族窒化物チャネル層上に設けられたIII族窒化物バリア層と,
該III族窒化物バリア層上に設けられたドレインコンタクトと,
前記III族窒化物バリア層上に設けられたソースコンタクトと,
前記III族窒化物バリア層上に設けられたゲートコンタクトと
を備え,前記ゲートコンタクトは,前記第1のIII族窒化物層の横方向成長領域上の前記III族窒化物バリア層の一部分上に配置されたことを特徴とするトランジスタ。」

一方,両者は,以下の各点で相違する。
《相違点1》
本願発明は「高電子移動度トランジスタ」であるが,引用発明は「ヘテロ接合電界効果トランジスタ」であり,「高電子移動度トランジスタ」とまでは特定されていない点。

《相違点2》
本願発明は,「前記ソースコンタクト及び/又は前記ドレインコンタクトのうちの一方の少なくとも一部分は,前記第1のIII族窒化物層の垂直成長領域上の前記III族窒化物バリア層の一部分上に配置され,前記ゲートコンタクトが配置される前記横方向成長領域は,少なくとも2次元電子ガスの空乏領域が,予想される動作条件下で前記ゲートコンタクトから延びている限り,前記ドレインコンタクトに向かって延びているが前記ドレインコンタクトまで延びていない」構成を備えるが,引用発明はこのような構成を備えない点。

6 判断
上記各相違点について検討する。
《相違点1について》
前記「5 本願発明と引用発明との対比」で述べたとおり,引用発明は,「ヘテロ接合電界効果トランジスタであって,」「GaN層103のうち横方向成長の後に成長された部分」,「AlGaNスペーサ層107,n型AlGaN電子供給層108,及びAlGaNキャップ層109がこの順に形成された構造を備え,AlGaNキャップ層109上には,ゲート電極111,ソース電極110,及びドレイン電極112を備え」るところ,「GaN層103のうち横方向成長の後に成長された部分」には,「n型AlGaN電子供給層108」から電子が供給されて,「電子走行領域」,すなわちチャネル層となることは明らかである。このような構造を有するヘテロ接合電界効果トランジスタにおいては,電子走行領域に2次元電子ガスが形成されて,高電子移動度トランジスタとなることは,以下の周知例にも示されているように,従来より周知の事項である。

周知例1: 特開2003-229439号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-229439号公報には次の記載がある。

・「【0002】
【従来の技術】近年,高周波用等に普及している高速半導体デバイスに,HEMT(High Electron Mobility Transistor)がある。
・・・(中略)・・・
このポテンシャル井戸内において電子はドナー不純物と空間的に分離された形で閉じ込められ,不純物散乱の影響を受け難い二次元電子ガス(以下,本明細書では「2DEG」と記載する)層を形成する。その結果,i-GaAsチャネル層内の電子は,ヘテロ接合界面に沿って非常に高い電子移動度を示し,高速電界効果型トランジスタが実現できる
【0003】他方,近年では,GaAs系化合物に代えてGaN系化合物を用いたHEMT(以下,GaN系HEMTという)が,次世代型の高速FETとして注目されている。GaN系化合物はバンドギャップが広く,電子有効質量から見積もられる飽和電子移動度も高いことから,より大出力で高耐圧かつ高温動作可能な高周波デバイスを実現できる可能性があり,研究が重ねられている。GaN系化合物を用いたHEMT構造としては,n型にドープしたAlGaN電子供給層に,GaNあるいはInGaNチャネル層をヘテロ接合したものが多く試みられている。チャネル層は不純物による電子散乱の影響がなるべく生じないように,ノンドープの化合物半導体により構成される。この場合,これにヘテロ接合される電子供給層には比較的多量のn型ドーパントが添加されているから,層成長時等において電子供給層側からチャネル層に不純物拡散することを防止するとともに,チャネル層を不純物から空間的に分離するために,薄いノンドープのAlGaN層がスペーサ層として挿入されることが多い。これにより,チャネル層とのヘテロ接合界面に沿ったキャリアの移動が不純物により散乱されにくくなり,ひいてはキャリアの移動度が向上するので,デバイスの高出力化のみならず,動作速度や周波数特性の向上も期待できる。
【0004】
・・・(中略)・・・
【0006】電子供給層とチャネル層との間にスペーサ層を配置する場合,チャネル層側に2DEG層を形成するためのヘテロ接合は,実質的にはスペーサ層とチャネル層との間に形成される。素子の大出力化を図るには,図2に示すように,ヘテロ接合部に形成される三角ポテンシャルをなるべく深くして電子閉じ込め効果を高め,形成される2DEG層の電子濃度を増加させることが重要である。」

ここで,「HEMT(High Electron Mobility Transistor)」(段落【0002】)が高電子移動度トランジスタのことであることは明らかである。

周知例2: 特開2003-243424号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2003-243424号公報には,図5とともに次の記載がある。

・「【0002】
【従来の技術】半導体素子の一つであるトランジスタには,種々のものが知られているが,近年では,低電圧・高速動作が可能で,低雑音性能が得られることから,ヘテロ接合電界効果トランジスタが注目されている。ヘテロ接合電界効果トランジスタは,III-V族化合物半導体基板上にノンドープIII-V族化合物半導体層とn型III-V族化合物半導体層とを形成したときに,そのヘテロ接合面に発生する高い移動度の二次元電子ガス濃度をゲート電極により制御する構成となっている。
【0003】
・・・(中略)・・・
【0006】図5に,上記文献を参考にしたヘテロ接合電界効果トランジスタのAl_(0.26)Ga_(0.74)N/GaN積層構造を示す。その構造としては,サファイア(Al_(2)O_(3))からなる基板101上に,GaN層(低温バッファ層)102,ノンドープGaN層(チャネル層)103,ノンドープAl_(0.26)Ga_(0.74)N層(スペーサ層)104,n型のAl_(0.26)Ga_(0.74)N層(電子供給層)105およびノンドープAl_(0.26)Ga_(0.74)N層(キャップ層)106が順次形成されたものとなっている。」

それゆえ,引用発明に係る「ヘテロ接合電界効果トランジスタ」についても「高電子移動度トランジスタ」であるということができる。
よって,相違点1は実質的な相違点ではない。

《相違点2について》
上記《相違点1について》において検討したとおり,引用発明に係る「ヘテロ接合電界効果トランジスタ」についても,「電子走行領域」となる「GaN層103のうち横方向成長の後に成長された部分」と,その上の「AlGaNスペーサ層107」との界面に2次元電子ガスが形成され,「高電子移動度トランジスタ」であるということができる。そして,当該トランジスタは,「トランジスタ」として動作するために,ゲート電極により当該2次元電子ガス濃度が制御されるものであり,「トランジスタ」に流れる電流を遮断することも想定される動作範囲に当然に入るものといえるところ,当該電流を遮断するには,当該2次元電子ガス濃度を0にする,すなわち空乏化するようにゲート電極に電圧を加える必要があることは明らかである。そうすると,引用発明においても「少なくとも2次元電子ガスの空乏領域が,予想される動作条件下で前記ゲートコンタクトから延びている」ものといえる。
また,引用例に記載された「ヘテロ接合電界効果トランジスタ」は,引用例の段落【0024】,【0032】?【0033】の記載,及び図8からわかるように,AlGaNキャップ層109上に,ソース電極110及びドレイン電極112が設けられ,当該ソース電極110及びドレイン電極112の間にゲート電極111が設けられている。それゆえ,「転位に沿った界面準位によるリーク電流を抑制するため,ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置することが好ましい。特にゲート電極111直下が転位密度の少ない領域上となるよう配置することが好ましい。」(段落【0033】)との記載において,「ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置する」ことにより,ゲート電極111直下はおのずと転位密度の少ない領域上となるものであるから,当該記載において,「ゲート電極111直下が転位密度の少ない領域上となるよう配置すること」は,「ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置」した上で,さらに設定されることではなく,「ゲート電極111直下が転位密度の少ない領域上となるよう配置すること」が特に好ましいことであって,その上で「ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置する」ことが好ましいと解することが相当である。
そうすると,引用発明においては,「ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域が,ゲート電極111直下も含んで,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置され」ているところ,これに代えて,ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域のうち,ゲート電極111直下については,エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置するとともに,ゲート電極111直下以外の部分については,「GaN層103のうち横方向成長時に形成された部分」のうち,「リッジ頂部において,膜厚方向に成長された部分を含むAlInN層105に接触している領域」上にも配置できることは当業者に明らかなことといえる。

ところで,一般に,動作時における電界効果トランジスタ内の電界強度は,ゲート電極のドレイン電極側端部及びその周辺において高くなることは,以下の周知例にも示されているように,従来より周知の事項である。

周知例3: 特開平7-130991号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平7-130991号公報には,図7とともに次の記載がある。

・「【0010】FET において,チャネル層の電界が最も大きくなる位置は,図7^(1))に示されるようにドレイン側のゲート端の直下である。図7はチャネル電界強度のドレイン方向への距離依存を示す図である。」

ここで,図7を参照すると,ドレイン側のゲート端の直下及びその周辺部分の電界強度が高くなっていることが見て取れる。

周知例4: 特開平6-53252号公報
本願の優先権主張の日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平6-53252号公報には次の記載がある。

・「【0006】電界効果トランジスタの動作時には,ドレイン側のゲート端に大部分のドレイン電圧が印加されているので,その部分に高電界が発生する。・・・(以下略)」

そして,引用例の段落【0033】に記載されているとおり,「ゲート電極111直下」や,「ゲート電極111直下」を含む「ソース電極110端からドレイン電極112端までの電子走行領域」を,「エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置すること」は,「転位に沿った界面準位によるリーク電流を抑制するため」であるところ,転位に沿った界面準位が存在する部分に高い電界強度がかかることによって,リーク電流が流れやすくなることは当業者に自明なことである。それゆえ,「ゲート電極111直下」のみならず,ゲート電極のドレイン電極側端部の周辺についても「エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置すること」は,当業者が適宜になし得たことである。

また,前述のとおり,ゲート電極111直下以外の部分については,「GaN層103のうち横方向成長時に形成された部分」のうち,「リッジ頂部において,膜厚方向に成長された部分を含むAlInN層105に接触している領域」上にも配置できることは当業者に明らかなことであるから,ドレイン電極112を「GaN層103のうち横方向成長時に形成された部分」のうち,「リッジ頂部において,膜厚方向に成長された部分を含むAlInN層105に接触している領域」上となるよう配置することは,当業者が適宜になし得たことである。
また,本願明細書等の記載を見ても,「前記ソースコンタクト及び/又は前記ドレインコンタクトのうちの一方の少なくとも一部分は,前記第1のIII族窒化物層の垂直成長領域上の前記III族窒化物バリア層の一部分上に配置され,前記ゲートコンタクトが配置される前記横方向成長領域は,少なくとも2次元電子ガスの空乏領域が,予想される動作条件下で前記ゲートコンタクトから延びている限り,」「前記ドレインコンタクトまで延びていない」構成を備えることによる格別な作用効果は見いだせない。

したがって,引用発明において,ドレイン電極112を「GaN層103のうち横方向成長時に形成された部分」のうち,「リッジ頂部において,膜厚方向に成長された部分を含むAlInN層105に接触している領域」上となるよう配置して,相違点2に係る「前記ソースコンタクト及び/又は前記ドレインコンタクトのうちの一方の少なくとも一部分は,前記第1のIII族窒化物層の垂直成長領域上の前記III族窒化物バリア層の一部分上に配置され」ることに対応する構成を備えるものとし,また,引用発明においても「少なくとも2次元電子ガスの空乏領域が,予想される動作条件下で前記ゲートコンタクトから延びている」ものといえるところ,引用発明において,「ゲート電極111直下」のみならず,ゲート電極のドレイン電極側端部の周辺についても「エアギャップ106上の転位密度の少ない領域上となるよう配置」して,相違点2に係る「前記ゲートコンタクトが配置される前記横方向成長領域は,少なくとも2次元電子ガスの空乏領域が,予想される動作条件下で前記ゲートコンタクトから延びている限り,前記ドレインコンタクトに向かって延びているが前記ドレインコンタクトまで延びていない」ことに対応する構成を備えるものとすることは,当業者が適宜になし得たことである。

よって,相違点2は,当業者が適宜になし得たこと範囲に含まれる程度のものである。

7 まとめ
よって,本願発明は,周知技術を勘案することにより,引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

8 むすび
以上のとおりであるから,本願は,請求項2?86について検討するまでもなく拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-03 
結審通知日 2013-09-06 
審決日 2013-09-20 
出願番号 特願2007-523541(P2007-523541)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 瀧内 健夫  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 近藤 幸浩
恩田 春香
発明の名称 横方向成長活性領域を有する窒化物ベースのトランジスタ及びその製造方法  
代理人 特許業務法人浅村特許事務所  

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