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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02M
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02M
管理番号 1284575
審判番号 不服2012-14152  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-24 
確定日 2014-02-06 
事件の表示 特願2006-531765「供給電力調節装置、半導体製造装置および電力制御方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 2月23日国際公開、WO2006/019056〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、平成17年8月12日(優先権主張平成16年8月19日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成24年4月19日付で拒絶査定がなされ(発送日:平成24年4月24日)、これに対し、平成24年7月24日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに手続補正書が提出され、当審より平成25年7月12日付で拒絶の理由が通知され(発送日:平成25年7月16日)、これに対し、平成25年9月17日付で意見書及び手続補正書が提出されたものである。


2.本願
平成25年9月17日付手続補正によって特許請求の範囲及び明細書は、以下のように補正されている。
『【請求項1】所定の炉内温度に設定された反応炉内に複数の基板を搬入した後、熱処理温度まで昇温させて前記基板を処理する基板処理装置の供給電力調節装置であって、交流電源からヒータに電力を供給する供給電力調節装置において、
前記交流電源から供給される交流を直流に整流する整流回路と、
前記整流回路で整流された直流を、前記交流電源の交流電圧のゼロクロス点を基準として生成される制御信号に応じた交流に変換して前記ヒータに交流電力を供給するIGBTインバータと、
前記ヒータの温度変動を検出する温度変動検出回路と、
前記整流回路から出力される電流と前記整流回路に印加されている電圧とに基づいて前記交流電源の電源変動を検出し、この検出結果に応じたフィードフォワード信号を出力する電源電圧/電流フィードフォワード回路を有する電源変動検出回路と、
前記ヒータに供給される電流と電圧とに基づいて前記ヒータの負荷変動を検出し、この検出出力に応じたフィードバック信号を出力する電源電圧/電流フィードバック回路を有する負荷変動検出回路と、
前記温度変動検出回路の検出結果と、前記電源変動検出回路の検出結果と、前記負荷変動検出回路の検出結果と、に応じて、前記温度変動に対するフィードバック制御に、前記電源変動に対するフィードフォワード制御及び前記負荷変動に対するフィードバック制御を取り込み、前記制御信号のデューティ比を制御する電力制御信号発生回路と、
を備え、
前記負荷変動検出回路は、
前記ヒータに供給される電流を測定するカレントトランスと、
前記ヒータに供給される電圧を測定する電圧測定ラインと、
を更に備え、
前記カレントトランスの測定電流と前記電圧測定ラインの測定電圧とを乗算し、測定電力量を算出し、この測定電力量と前記ヒータの設定電力量との差を求めることにより前記ヒータの負荷変動を検出し、この検出結果を前記フィードバック信号として出力して前記ヒータに供給すべき電力量を制御し、
前記反応炉内を熱処理温度に調節して前記基板を処理する基板処理装置の供給電力調節装置。
【請求項2】所定の炉内温度に設定された反応炉内に、複数の基板を装填した基板保持具を搬入した後、熱処理温度まで昇温して前記基板に熱処理を行う半導体製造装置において、
前記反応炉の周囲に設けられたヒータと、
前記ヒータへの供給電力を個別に調整する供給電力調節装置と、
を有し、
前記供給電力調節装置は、
交流電源から供給される交流を直流に整流する整流回路と、
前記整流回路で整流された直流を、前記交流電源の交流電圧のゼロクロス点を基準として生成される制御信号に応じた交流に変換して前記ヒータに交流電力を供給するIGBTインバータと、
前記ヒータの温度変動を検出する温度変動検出回路と、
前記整流回路から出力される電流と前記整流回路に印加されている電圧とに基づいて前記交流電源の電源変動を検出し、この検出結果に応じたフィードフォワード信号を出力するフィードフォワード回路を有する電源変動検出回路と、
前記ヒータに供給される電流と電圧とに基づいて前記ヒータの負荷変動を検出し、この検出出力に応じたフィードバック信号を出力するフィードバック回路を有する負荷変動検出回路と、
前記温度変動検出回路の検出結果と、前記電源変動検出回路の検出結果と、前記負荷変動検出回路の検出結果と、に応じて、前記温度変動に対するフィードバック制御に、前記電源変動に対するフィードフォワード制御及び前記負荷変動に対するフィードバック制御を取り込み、前記制御信号のデューティ比を制御する電力制御信号発生回路と、を備え、
前記負荷変動検出回路は、
前記ヒータに供給される電流を測定するカレントトランスと、
前記ヒータに供給される電圧を測定する電圧測定ラインと、
を更に備え、
前記カレントトランスの測定電流と前記電圧測定ラインの測定電圧とを乗算し、測定電力量を算出し、この測定電力量と前記ヒータの設定電力量との差を求めることにより前記ヒータの負荷変動を検出し、この検出結果を前記フィードバック信号として出力して前記ヒータに供給すべき電力量を制御し、
前記反応炉内を熱処理温度に調節して前記基板を処理する半導体製造装置。
【請求項3】所定の炉内温度に設定された反応炉内に複数の基板を搬入した後、熱処理温度まで昇温させて前記基板を処理する基板処理装置における電力制御方法であって、交流電源の交流電圧を、この交流電圧のゼロクロス点を基準に生成される制御信号に応じた交流電力に変換し、この変換出力をヒータに供給する基板処理装置の電力制御方法において、
前記ヒータの温度変動を検出し、
前記整流回路で整流された直流から前記交流電源の電源変動を検出し、
前記ヒータに供給される電流及び電圧を乗算し電力量を測定し、この測定した電力量と前記ヒータの設定電力量との差を求めることにより前記ヒータの負荷変動を検出し、
前記温度変動の検出結果と、前記電源変動の検出結果と、前記負荷変動の検出結果と、に応じて、前記温度変動に対するフィードバック制御に、前記電源変動に対するフィードフォワード制御及び前記負荷変動に対するフィードバック制御を取り込み、前記制御信号のデューティ比を制御して前記ヒータに供給すべき電力量を調節し、前記ヒータに電力を供給する基板処理装置の電力制御方法。』

『【0031】電力制御用半導体インバータ11は、整流回路10で整流された直流を第2の交流電力に変換してヒータ7に供給する。この高速スイッチング電力制御用半導体インバータは、電力制御信号発生回路15から加えられる制御信号の周波数又はデューティ比に応じた交流電力をヒータ7に供給する。高速スイッチング電力制御用半導体インバー11で用いる半導体素子は、高周波かつ大容量の素子であり、オン電圧がMOSFET(SSR)より大幅に小さい半導体素子、例えばIGBT素子を用いている。』

『【0033】電源変動検出回路22は、整流回路10の出力電力の変動を検出して、その変動に応じたフィードフォワード信号を電力制御信号発生回路15に出力する。この電源変動検出回路22は、整流回路10の出力に流れる電流を測定するカレントトランス12と、整流回路10の出力線間電圧を測定する電圧測定ライン13と、電源電圧・電流フィードフォワード回路14とを有する。出力電力の変動を検出するために、電源電圧・電流フィードフォワード回路14は、カレントトランス12で測定したインバータ1次側の測定電流と電圧測定ライン13で測定したインバータ1次側の供給電圧を求める。この算出された変動分を、現在のフィードバック制御で用いられている電力設定値に加減算することで、電源側の変動を素速く検知し、負荷側への影響を最小限にすることが可能となる。この電源変動に応じて、ヒータ7に供給すべき電力量を演算し、電力制御信号発生回路15に演算結果をフィードフォワード信号として出力する。なお、電源変動検出回路22は、整流回路10の出力側ではなく、入力側、すなわち、交流電源1と整流回路10との間に設けることもできる。』

『【0034】負荷変動検出回路23は、ヒータ7に供給される出力電力の変動を検出して、その変動に応じたフィードバック信号を電力制御信号発生回路15に出力する。この負荷変動検出回路23は、IGBTインバータ11aの出力線間電圧を測定する電圧測定ライン17と、IGBTインバータ11aの出力に流れる電流を測定するカレントトランス18と、制御電圧・電流フィードバック回路16とを有する。負荷変動を検出するために、制御電圧・電流フィードバック回路16は、電圧測定ライン17で測定した測定電圧とカレントトランス18で測定した測定電流を乗算し、現時点の測定電力量を求める。この測定電力量と設定されている電力量を比較し、電力フィードバック制御を行う。この負荷変動に応じて、ヒータ7に供給すべき電力量を演算し、電力制御信号発生回路15に演算結果をフィードバック信号として出力する。
なお、カレントトランス18は負荷電流の変動を精度良く測定するために、分配用端子台6よりも外側(出力側)のヒータ7側に設けるのが好ましいが、分配用端子台6の入力側に設けることもできる。』

『【0035】電力制御信号発生回路15は、温度変動検出回路24、電源変動検出回路22、及び負荷変動検出回路23の変動結果に応じてIGBTインバータ11aを周波数又はデューティ比制御する。具体的には、電力制御信号発生回路15は、温度変動検出回路24の温度調節計9、電源変動検出回路22の電源電圧・電流フィードフォワード回路14、及び負荷変動検出回路23の制御電圧・電流フィードバック回路16から出力される信号から、ヒータ7に供給するべき電力量を演算して、その演算結果に応じた周波数又はデューティ比をもつゲート制御信号をIGBTインバータ11aに加える。
IGBTを周波数制御する場合は、出力周波数を連続的に変化させることで、ヒータ7に投入される電力を制御している。周波数可変幅が大きいほど電力の制御性が良くなる。このため電力制御信号発生回路15から出力されるゲート制御信号は、周波数ゼロから電源周波数より高い周波数(例えば300Hz)に連続的に変化させることが可能になっている。なお、交流電源1の交流を整流回路10で一旦直流に変換し、IGBTで再度交流に変換する場合は、周波数が300Hzよりも高くなると、負荷のインダクタンス要素に起因して発生する逆起電力の影響が無視できなくなるため好ましくない。また、電力制御信号発生回路15による周波数制御は、周波数を変化させるという点で、VVVF制御のVF(可変周波数)制御と同じである。』

『【0038】このような温度変動検出→制御演算→出力値の出力→温度の変化→温度変動の検出→…という閉じたループによりフィードバック制御を行う。温度状態を検出してから、温度調節計9及び電力制御信号発生回路15により出力量を決定するので、良好にフィードバック制御することができる。したがって、ヒータの温度変動が補正されてヒータ7に安定した電力を供給し、ヒータ7を所定の温度に保持できる。』

『【0039】上述したようにヒータ温度が良好にフィードバック制御されているときに、交流電源1の電圧が変動すると、その電圧変動は整流回路10の出力に、電流変動及び電圧変動となってあらわれる。この電流変動及び電圧変動は、カレントトランス12と電圧測定ライン13で測定され、電源電圧・電流フィードフォワード回路14で交流電源1の変動が電力変動として検出される。電源電圧・電流フィードフォワード回路14から、その電力変動に応じた制御信号が電力制御信号発生回路15に入力される。電力制御信号発生回路15は、電源電力と設定電力との差に応じた周波数又はデューティ比のゲート制御信号を出力する。そのゲート制御信号をIGBTインバータ11aに加えてIGBTインバータを周波数制御又はデューティ比制御する。したがって、交流電源1の電圧変動が補正されてヒータ7に安定した電力を供給できる。』

『【0040】また、上述したようにヒータ温度が良好にフィードバック制御されているときに、ヒータ7に外乱(例えば外気が当たる等)が生じたり、ヒータの性質が多少変化したりして負荷が変動すると、それはIGBTインバータ11aの出力電力の変動として現れる。すなわちヒータ7に流れる負荷電流、及びヒータ7に加わる負荷電圧が変動する。この電流変動及び電圧変動は、カレントトランス18と電圧測定ライン17で検出され、制御電圧・電流フィードバック回路16で負荷(ヒータ7)の変動が電力変動として測定される。制御電圧・電流フィードバック回路16から、その電力変動に応じた制御信号が電力制御信号発生回路15に入力される。電力制御信号発生回路15は、電源電力と設定電力との差に応じた周波数又はデューティ比のゲート制御信号を出力する。そのゲート制御信号をIGBTインバータ11aに加えて周波数制御又はデューティ比制御する。したがって、負荷変動が補正されてヒータ7に安定した電力を供給できる。
この負荷変動制御は、外乱→ヒータ温度変化→熱電対検出の3ステップを経る温度変動制御と比べて、外乱→電力変動検出と2ステップであり、熱電対検出のステップが省略できるので、応答特性が速い。』


3.拒絶の理由
平成25年7月12日付で通知した当審の拒絶の理由Iの概要は以下のとおりである。
『I この出願は、明細書、特許請求の範囲及び図面の記載が下記の点で、特許法第36条第4項及び第6項に規定する要件を満たしていない。


(1)この出願の発明の構成が不明である。例えば、【0004】に無効電力期間Bとあるが、無効電力とは「交流で電圧と電流に位相のズレθがあるとき、皮相電力とsinθの積」を意味するが、負荷が抵抗負荷(直流負荷)で何故無効電力が発生するのか不明であり、そもそもサイリスタに点弧信号が与えられる前の期間である無効電力期間Bではサイリスタは消弧しているから消費電力が存在せず、無効電力とはどの様な電力を意味するのか不明である。

更に、【0004】、【図3】で、サイリスタは半波ごとに点弧しているが、【図2】に記載のあるようなサイリスタ(記号はダイオード)であれば、一方向にしか導通しない(半波は順方向で残りの半波は逆方向)にもかかわらず何故半波ごとに点弧するのか不明である。

更に、【0006】に「ゼロクロス制御は、電源をオン/オフするだけなので、原理的に無効電力は生じない。」とあるが、無効電力が生じるか否かは負荷の問題であり、何故ゼロクロス制御を行うと無効電力が生じないのか原理が不明である。

更に、【0026】に「整流された直流をIGBTインバータを用いて周波数制御またはデューティ比制御して得た電力をヒータに供給し、無効電力をほとんどゼロにして電源を有効利用できる。」とあるが、【図1】を参照すると、負荷は抵抗負荷のヒータ(金属線に電流を流して加熱するもので直流負荷)であり、何故直流を交流に変換してヒータに供給する必要があるのか不明(ヒータの温度制御は直流電源の導通期間の制御を行えばよいのではないか。直流を供給するなら無効電力の問題は発生しない。)であり、周波数制御とはインバータから出力される交流の周波数を変えるものであり、デューティ比制御とはインバータから出力される交流波形相当の直流電圧のデューティ(オンオフの期間の比)を変えるものであり、何れの制御を単独で行っても無効電力をゼロにすることはできず、どの様な制御を行うのか不明(周波数制御、デューティ比制御の定義はどの様なものか。)であり、負荷は抵抗負荷あって、誘導負荷や容量負荷ではないから、そもそも無効電力は発生せず、無効電力をほとんどゼロにするの意味が不明である。

更に、【0031】に「このIGBTインバータ11aは無効電力を低減するために周波数変換する。」とあるが、何故IGBTインバータで直流を交流に変換すると無効電力を低減できるのか原理が不明である。

更に、【0033】に「出力電力の変動を検出するために、電源電圧・電流フィードフォワード回路14は、カレントトランス12で測定した測定電流と設定電流との差、及び電圧測定ライン13で測定した測定電圧と設定電圧との差を求める。これらの差が電源変動となる。この電源変動に応じて、ヒータ7に供給すべき電力量を演算し、電力制御信号発生回路15に演算結果をフィードフォワード信号として出力する。」とあるが、電源変動検出回路が電力制御信号発生回路を用いて制御しようとする変数は、電圧・電流であるのか電力であるのか判然とせず不明であり、仮に電力(=電圧×電流)を制御するとすれば、測定電流と設定電流との差のみが検出された場合、電圧のみを制御するのか、電流のみを制御するのか、電圧と電流の両方を制御するのか不明であり、電圧と電流の両方を制御するとすればその割合はどの様に決定するのか不明(測定電圧と設定電圧との差のみが検出された場合、測定電流と設定電流との差及び測定電圧と設定電圧との差が同時に検出された場合も同様)であり、電源変動によって電源が所望の値より大きな値として発現するのならば制御可能であるが、所望の値より小さければ制御しても所望の値は発現せず、何をどの様に制御しようとしているのか不明であり、インバータに対してフィードフォワード制御を行っているが、当該制御で何故所望の電源の値となるように制御できるのか不明(電源は符号1であり、電源より下流側のインバータの制御を行っても電源は制御できない。電源の変動が起きる場合、所望の値より小さくなるのが一般的である。)である。

更に、【0034】に「負荷変動を検出するために、制御電圧・電流フィードバック回路16は、電圧測定ライン17で測定した測定電圧と設定電圧との差、及びカレントトランス18で測定した測定電流と設定電流との差を求める。これらの差が負荷変動となる。この負荷変動に応じて、ヒータ7に供給すべき電力量を演算し、電力制御信号発生回路15に演算結果をフィードバック信号として出力する。」とあるが、負荷変動検出回路が電力制御信号発生回路を用いて制御しようとする変数は、電圧・電流であるのか電力であるのか判然とせず不明であり、仮に電力(=電圧×電流)を制御するとすれば、測定電流と設定電流との差のみが検出された場合、電圧のみを制御するのか、電流のみを制御するのか、電圧と電流の両方を制御するのか不明であり、電圧と電流の両方を制御するとすればその割合はどの様に決定するのか不明(測定電圧と設定電圧との差のみが検出された場合、測定電流と設定電流との差及び測定電圧と設定電圧との差が同時に検出された場合も同様)である。

更に、【0035】に「ヒータ7に供給するべき電力量を演算して、その演算結果に応じた周波数又はデューティ比をもつゲート制御信号をIGBTインバータ11aに加える。」、「IGBTは、ベース周波数を一定としてデューティ比を制御するPWM制御をすることもできる。VF制御、PWM制御のいずれも、ゼロボルト時にIGBTがオンするのでゼロクロス制御となる。」とあるが、電力を制御するのに周波数制御またはデューティ比制御を行って何故電力が制御できるのか不明(電力は電圧と電流の積であり周波数を変えても電力は変化しない。デューティ比制御を行ってもゼロボルト時にIGBTをオンさせれば交流波形の導通期間は何ら制御されてはいない。)である。

更に、【図1】において、温度制御を行っているが、ヒータの温度はヒータの電流値を変えても直ぐには温度変化として現れない(温度の応答性は電圧・電流の応答性よりも格段に悪い)から、熱電対が温度変化を検出する前に、いずれかの電圧計又は電流計が変化を検出し、負荷変動検出回路、電源変動検出回路が動作し、結果として温度検出系の制御回路は使用しないものと考えられるがこの点不明であり、【0038】に「周波数制御又はデューティ比制御はゼロクロス制御であるため、無効電力がなく、効率の高い制御ができる。」とあるが、何故無効電力が無くなるのか原理が不明である

更に、【0039】に「電源電圧・電流フィードフォワード回路14から、その電力変動に応じた制御信号が電力制御信号発生回路15に入力される。電力制御信号発生回路15は、電源電力と設定電力との差に応じた周波数又はデューティ比のゲート制御信号を出力する。」とあるが、電源電圧・電流フィードフォワード回路から電力制御信号発生回路に出力される変数は電力であるのか否か不明(電力でないならば、電圧か、電流か、その他か)であり、電力制御信号発生回路は、電力のうち電圧のみを制御するのか、電流のみを制御するのか、電圧と電流の両方を制御するのか不明であり、電圧と電流の両方を制御するとすればその割合はどの様に決定するのか不明である。【0040】の制御電圧・電流フィードバック回路と電力制御信号発生回路についても同様に不明である。

更に、【図1】において、電力制御信号発生回路には、電源電圧・電流フィードフォワード回路、制御電圧・電流フィードバック回路、温度調節計の三者の各々から信号が入力されるが、同時に二者又は三者から信号を得た場合、その信号の優先順位又は各々の信号に対する重み付けはどの様にするのか何ら開示が無く不明であり、したがって電力制御信号発生回路がどの様な制御を行うのか不明である。

(2)更に、請求項1において、「交流電源から複数の領域に分割されたヒータ」とあるが、当初明細書のどの記載に対応するのか不明(【0028】では、ヒータを個別に制御できるようにインバータが複数用意されている。インバータに複数のヒータが接続されてはいない。交流電源に対して供給電力調整装置21が複数接続されるとの意味か。)であり、領域とは何を意味するのか不明である。

(3)請求項3は、半導体製造装置の製造方法にかかるものであるが、当該方法を実施しても半導体装置は製造できず、したがって発明の構成が不明であり、半導体装置とは曖昧な表現であってそもそも何を意味するのか不明である。』


4.当審の判断
(1)本願に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、位相制御は無効電力により電源として効率が悪く(【0004】)、ゼロクロス制御は原理的には無効電力は生じないが(【0006】)温度応答性が悪く(【0008】)、進相コンデンサは見かけ上の力率は向上するが(【0007】)電力調整が必要で使い勝手が悪い(【0008】)という課題が存在していることを前提としたものであって、その目的として「上述した従来技術の問題点を解消して、温度応答性に優れ、電源変動及び負荷変動に対する安定度も良好で、使い勝手のよい供給電力調節装置、半導体製造装置、ヒータへの電力制御方法、及び半導体装置の製造方法を提供することにある。」(【0010】)と記載されている。更に、「交流電源を一度直流に整流して、その整流された直流をIGBTインバータを用いて周波数制御またはデューティ比制御して得た電力をヒータに供給し、無効電力をほとんどゼロにして電源を有効利用できる。」(【0026】)とも記載されているから、本願発明は無効電力を減少させることを前提としている。
しかし、無効電力とは「交流で電圧と電流に位相のズレθがあるとき、皮相電力とsinθの積」を意味するものであり、【0027】に「抵抗加熱ヒータ」とあるように回路の負荷は抵抗負荷(直流負荷、図1符号7参照)であるから、電圧と電流の位相ズレを生じさせる負荷成分がないため、そもそも何故無効電力が生じるのか不明である。また、無効電力の説明として図3を用いているが(【0004】)、サイリスタに点弧信号を与えられる前の期間である無効電力期間Bでは、サイリスタは消弧しているからそもそも消費電力は存在せず、無効電力とはこの場合どの様な電力を意味するのか不明である。
したがって、無効電力がどの様な電力を意味するのか不明であるから、本願発明が減少させようとしている無効電力がどの様なものか不明であり、ひいては何故従来の課題が解決できるのか不明である。

(2)上記(1)に関連し、【0006】に「ゼロクロス制御は、電源をオン/オフするだけなので、原理的に無効電力は生じない。」とあるが、ゼロクロス制御とは交流波形がゼロ点と交差するときに素子を点弧する制御(図4からはゼロクロス制御のうちサイクル制御を意図するものとも考えられる)であり、ゼロクロス制御を行っても、図4に示すように1サイクル交流が供給されるならば、1サイクル間は単に負荷に交流が印加されるだけであるから、負荷が特定されていないにもかかわらず何故ゼロクロス制御で無効電力が生じないのかその原理が不明である。
また、【0026】に「交流電源を一度直流に整流して、その整流された直流をIGBTインバータを用いて周波数制御またはデューティ比制御して得た電力をヒータに供給し、無効電力をほとんどゼロにして電源を有効利用できる。」とあるが、デューティ比制御とはインバータから出力される交流波形相当の直流電圧のデューティ(オンオフの期間の比)を変えるものであり、デューティ比制御を単独で行って仮に理想的な交流波形が出力できたとしても、無効電力をゼロにすることはできず、無効電力をほとんどゼロにできるデューティ比制御とはどの様な制御を行うのか不明であり、また、負荷は抵抗負荷あって、誘導負荷や容量負荷ではないから、そもそも無効電力は発生せず、無効電力をほとんどゼロにするとはどの様なことを意味するのか不明である。

(3)【0033】に「出力電力の変動を検出するために、電源電圧・電流フィードフォワード回路14は、カレントトランス12で測定したインバータ1次側の測定電流と電圧測定ライン13で測定したインバータ1次側の供給電圧を求める。この算出された変動分を、現在のフィードバック制御で用いられている電力設定値に加減算することで、電源側の変動を素速く検知し、負荷側への影響を最小限にすることが可能となる。この電源変動に応じて、ヒータ7に供給すべき電力量を演算し、電力制御信号発生回路15に演算結果をフィードフォワード信号として出力する。」とあるが、電源変動検出回路と電力制御信号発生回路を用いて制御しようとする変数が電力であるとしても、電圧の変動がなく測定電流と設定電流との差のみが検出された場合、電圧のみを制御するのか、電流のみを制御するのか、電圧と電流の両方を制御するのか何ら開示が無く不明であり、電圧と電流の両方を制御するとすればその割合はどの様に決定するのか何ら開示が無く不明(測定電圧と設定電圧との差のみが検出された場合、測定電流と設定電流との差及び測定電圧と設定電圧との差が同時に検出された場合も同様)であり、また、電源変動によって電源の電力が所望の値より大きな値として発現するのならば制御可能であるが、電源の電力が所望の値より小さければ制御しても所望の値は発現せず、何をどの様に制御しようとしているのか不明であり、また、インバータに対してフィードフォワード制御を行っているが、当該制御で何故所望の電源の値となるように制御できるのか不明(【図1】で、電源は符号1であり、電源より下流側のインバータ11の制御を行っても上流側の電源は制御できない。)である。

(4)【0034】に「負荷変動を検出するために、制御電圧・電流フィードバック回路16は、電圧測定ライン17で測定した測定電圧とカレントトランス18で測定した測定電流を乗算し、現時点の測定電力量を求める。この測定電力量と設定されている電力量を比較し、電力フィードバック制御を行う。この負荷変動に応じて、ヒータ7に供給すべき電力量を演算し、電力制御信号発生回路15に演算結果をフィードバック信号として出力する。」とあるが、負荷変動検出回路と電力制御信号発生回路を用いて制御しようとする変数が電力であるとしても、電圧の変動がなく測定電流と設定電流との差のみが検出された場合、電圧のみを制御するのか、電流のみを制御するのか、電圧と電流の両方を制御するのか何ら開示が無く不明であり、電圧と電流の両方を制御するとすればその割合はどの様に決定するのか何ら開示が無く不明(測定電圧と設定電圧との差のみが検出された場合、測定電流と設定電流との差及び測定電圧と設定電圧との差が同時に検出された場合も同様)である。

(5)【図1】に示すように、供給電力調節装置は温度制御を行っており、この温度制御の方法は「温度変動検出回路24は、ヒータ7の温度変動を検出して、その変動に応じたフィードバック信号を電力制御信号発生回路15に出力する。この温度変動検出回路24は、温度センサとしての温度測定用熱電対8と、ヒータ温度を調節するための温度調節計9とを有する。」(【0032】)とあるように、ヒータの温度を測定して当該変動に応じた信号を出力するものであるが、ヒータの温度はヒータの電流値を変えても直ぐには温度変化として現れない(温度の応答性は電圧・電流の応答性よりも格段に悪い)から、熱電対が温度変化を検出する前に、いずれかの電圧計又は電流計が変化を検出し、負荷変動検出回路、電源変動検出回路が動作し、結果として温度検出系の制御回路は使用しないものと考えられるが、温度変動検出回路の信号の応答性をどの様に考慮して供給電力調節装置に用いるのか何ら開示が無く不明である。

(6)【0039】に「電源電圧・電流フィードフォワード回路14から、その電力変動に応じた制御信号が電力制御信号発生回路15に入力される。電力制御信号発生回路15は、電源電力と設定電力との差に応じた周波数又はデューティ比のゲート制御信号を出力する。」とあるが、電力制御信号発生回路は、電力のうち電圧のみを制御するのか、電流のみを制御するのか、電圧と電流の両方を制御するのか不明であり、電圧と電流の両方を制御するとすればその割合はどの様に決定するのか不明である。【0040】の制御電圧・電流フィードバック回路と電力制御信号発生回路についても同様に不明である。

(7)【図1】に示すように、電力制御信号発生回路には、電源電圧・電流フィードフォワード回路、制御電圧・電流フィードバック回路、温度調節計の三者の各々から信号が入力され、この点は【0035】に「電力制御信号発生回路15は、温度変動検出回路24、電源変動検出回路22、及び負荷変動検出回路23の変動結果に応じてIGBTインバータ11aを周波数又はデューティ比制御する。」と説明されているにとどまり、同時に二者又は三者から電力制御信号発生回路が信号を得た場合、その信号の優先順位又は各々の信号に対する重み付けはどの様にするのか何ら開示が無く不明であり、したがって電力制御信号発生回路が具体的にどの様な制御を行うのか何ら開示が無く不明である。

したがって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1-3に記載された事項を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、又、請求項1-3に記載された事項は、発明の詳細な説明を参照しても構成が不明であるから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

なお、請求人は、平成25年9月17日付意見書で、
「図1、図2において負荷7は「抵抗」と記載されています。審判官殿は、この『負荷』が純抵抗を意味するものと誤認されたものと思います。しかしながら、図1,図2は、どちらも明確に『交流回路』であり、一般的には『分布定数回路』が想定されます。従い、この分布定数として現れてくるリアクトル成分、容量成分の影響により、電圧印可中に流れていた電流が遅れ(θ)を持ってずれてくることがあります。このずれが無効電流となり、この無効電流と現時点で印可されている印加電圧のsinθとして無効電力が現れます。」
と主張するが、通常、電源・整流回路・インバータ・負荷を有する回路は集中定数回路であって、特に断り書きが無い以上分布定数回路とは解することはできないから、かかる請求人の主張は採用できない。


5.むすび
したがって、特許請求の範囲の請求項1-3の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は、拒絶されるべきものである。
 
審理終結日 2013-12-03 
結審通知日 2013-12-04 
審決日 2013-12-17 
出願番号 特願2006-531765(P2006-531765)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (H02M)
P 1 8・ 537- WZ (H02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 服部 俊樹  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 新海 岳
槙原 進
発明の名称 供給電力調節装置、半導体製造装置および電力制御方法  
代理人 油井 透  
代理人 油井 透  
代理人 福岡 昌浩  
代理人 阿仁屋 節雄  
代理人 清野 仁  
代理人 福岡 昌浩  
代理人 清野 仁  
代理人 阿仁屋 節雄  

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