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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08G |
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管理番号 | 1284576 |
審判番号 | 不服2012-14681 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-07-31 |
確定日 | 2014-02-06 |
事件の表示 | 特願2007-246045「プリント配線板用エポキシ樹脂組成物、そのプリント配線板用エポキシ樹脂組成物を用いたプリント配線板用プリプレグ及びプリント配線板用金属張積層板」拒絶査定不服審判事件〔平成21年4月9日出願公開、特開2009-73997〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成19年9月21日の出願であって、平成23年12月9日付けで拒絶理由が通知され、平成24年1月27日に意見書とともに手続補正書が提出されたが、同年6月11日付けで拒絶査定がなされ、それに対して、同年7月31日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年10月29日付けで前置報告がなされ、それに基づいて当審において平成25年3月13日付けで審尋がなされ、同年5月14日に回答書が提出され、同年7月10日に拒絶理由が通知され、同年9月12日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明について 本願の請求項1?6に係る発明は、平成25年9月12日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲及び明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「一分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する臭素化エポキシ化合物、数平均分子量が10000以下のポリフェニレンエーテル、シアネートエステル化合物、硬化触媒、及び遊離ハロゲン吸着材を含有し、 前記遊離ハロゲン吸着材が、粒子径0.01?50μmの粉末状であることを特徴とするプリント配線板用エポキシ樹脂組成物。」 第3 当審における拒絶理由の概要 当審において、平成25年7月10日付けで通知した拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)の概要は、 「本願発明は、その出願日前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 というものであり、刊行物として、 「・特開平5-140419号公報 ・特開平10-265669号公報 ・特開2005-97524号公報」 を引用するものである。 第4 当審拒絶理由の妥当性についての判断 1.本願発明 本願発明は、上記第2 に記載したとおりのものである。 2.刊行物 ・特開平5-140419号公報(平成23年12月9日付け拒絶理由通知書に記載の引用文献3。以下、「引用例1」という。) ・特開平10-265669号公報(平成23年12月9日付け拒絶理由通知書に記載の引用文献1。以下、「引用例2」という。) ・特開2005-97524号公報(平成24年10月29日付け前置報告書に記載の引用文献5。以下、「引用例3」という。) 3.引用例1?3の記載事項 (1)引用例1の記載事項 ア 「エポキシ樹脂に硬化剤及び無機イオン交換体を配合して成ることを特徴とするプリント配線板用エポキシ樹脂組成物。」(特許請求の範囲) イ 「無機イオン交換体はイオン性物質を捕捉して固定化する性質を有するものであり」(段落0005) ウ 「・・・ (実施例1)ビスフェノールA型臭素化エポキシ樹脂100gに、予めジシアンジアミド2.0gを溶解したDMFとメチルセロソルブの1:1混合溶媒50gを加えると共に2-エチル-4-メチルイミダゾール0.1gを混合し、さらに無機イオン交換体「IXE-300」(東亜合成化学株式会社製アンチモン系陽イオン交換体)3gを混合し、これらをディスパー刃を有する攪拌機で分散させてエポキシ樹脂組成物のワニスを得た。 (実施例2)無機イオン交換体として「IXE-600」(東亜合成化学株式会社製アンチモン・ビスマス系両イオン交換体)を用いるようにした他は、実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物のワニスを得た。・・・」(段落0010?0011) エ 「上記のようにして実施例1,2及び比較例で得たエポキシ樹脂組成物のワニスを厚さ0.1mmのガラス布(旭シュエーベル社製「216L」)に含浸して150℃で5分間乾燥することによって、樹脂含有率が43%のプリプレグを作成した。このプリプレグを8枚重ねると共にその両側の最外層に厚み18μmの銅箔を重ね、これを170℃、40kg/cm2で90分間加熱加圧して積層成形することによって、0.8mm厚の両面銅張り積層板を得た。」(段落0012) オ 「【発明の効果】上記のように本発明は、エポキシ樹脂に硬化剤及び無機イオン交換体を配合してプリント配線板用エポキシ樹脂組成物を調製するようにしたので、エポキシ樹脂中に存在する不純イオンや加水分解性塩素を無機イオン交換体に捕捉させることができ、これら不純イオンや加水分解性塩素の存在に起因する電食やCAFを低減して、プリント配線板の絶縁不良を低減することができるものである。」(段落0014) (2)引用例2の記載事項 カ 「一分子中にエポキシ基を少なくとも2個以上有するエポキシ化合物と、ポリフェニレンエーテルをフェノール類とラジカル開始剤の存在下で再分配反応させて得られたフェノール変性ポリフェニレンエーテルと、シアネート化合物と、を必須成分として含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。」(特許請求の範囲、請求項1) キ 「上記フェノール変性ポリフェニレンエーテルの数平均分子量が500?7000の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項5いずれか記載のエポキシ樹脂組成物。」(特許請求の範囲、請求項6) ク 「・・・本発明は、エポキシ樹脂組成物に関し、詳しくはプリント配線板等の電子材料用途に有用なエポキシ樹脂組成物に関するものである。」(段落0001) ケ 「・・・本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、耐熱性と電気特性をより向上させたエポキシ樹脂組成物を提供することにある。」(段落0003) コ 「上記フェノール変性PPEは、PPEをフェノール類とラジカル開始剤の存在下でトルエン等の溶媒中で加熱し再分配反応させて得られるもので、その骨格の末端がフェノール類により変性され、同時にその数平均分子量は出発原料であるPPEのそれよりも小さいものとなる。このフェノール変性PPEの数平均分子量は10000以下であることが好ましく、より好ましくは500?7000である。・・・」(段落0013) サ 「本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記エポキシ化合物およびフェノール変性PPEとシアネート化合物との反応を促進させるために、オクタン酸、ステアリン酸、アセチルアセトネート、ナフテン酸、サリチル酸等の有機酸のZnやCu等の金属塩や、トリエチルアミン、トリエタノールアミン等の3級アミン、2-エチル-4-イミダゾール、4-メチルイミダゾール等のイミダゾール類などを反応触媒として含んでいても構わないものである。・・・」(段落0017) シ 「本発明のエポキシ樹脂組成物は、その硬化反応において、上記フェノール変性PPEが有するフェノール性水酸基がエポキシ化合物のエポキシ基と反応し、さらにそれらとシアネート化合物が反応して架橋構造を形成し、各成分が硬化構造中に取り込まれていく。上記シアネート化合物による硬化物は、電気特性に優れる上に耐熱性にも優れるものであり、そのようなシアネート化合物が、上記エポキシ及びフェノール変性PPEの硬化反応に関与し、これらと架橋構造を形成して硬化系にとりこまれるため、電気特性が向上するとともにガラス転移温度が上昇し耐熱性が向上する。」(段落0018) ス 「[実施例1]まず、フェノール変性PPEとして、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレンエーテル)(GE社製)60gとビスフェノールA8.2gとベンゾイルパーオキシド4.5gとをトルエン50g中に配合し加熱して再分配反応させることにより、数平均分子量(スチレン換算)約4000のフェノール変性PPEを作製した。 そして、エポキシ化合物としてビスフェノールA型エポキシ樹脂とその臭素化物の混合物(ダウケミカル社製、DER542)を205g、上記フェノール変性PPEを60g、シアネート化合物として2,2-ビス(4-シアナートフェニル)プロパン(チバガイギー社製)を62.5g、触媒としてアセチルアセトネート亜鉛を0.016g及び2-エチル-4-イミダゾールを0.6g用いて、これらをトルエン100g中で混合し、樹脂ワニスを作製した。」(段落0020?0021) セ 「 表1に見られるように、実施例1?6においてはシアネート化合物を配合しなかった比較例1に比べて、ガラス転移温度が上昇し、且つ誘電率及び誘電正接がともに低減していることがわかる。このことから、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を材料として用いた樹脂硬化物の成形品等は、従来のエポキシ樹脂組成物に比べてより高耐熱化、低誘電率化、低誘電正接化を図ることができると言える。」(段落0031) (3)引用例3の記載事項 ソ 「基材に含浸させてシート状のプリプレグを形成するために用いる樹脂組成物であって、シアネート樹脂および/またはそのプレポリマーと、イオン交換体とを含有することを特徴とする樹脂組成物。」(特許請求の範囲、請求項1) タ 「本発明は、樹脂組成物、プリプレグおよび積層板に関する。」(段落0001) チ 「・・・ 無機イオン交換体としては、具体的には、Si、Ti、Nb、Sn、Zr、Al、Sb、Fe等の含水酸化物、Zr、Sn、Ti等の4価の金属とのリン酸塩、合成ゼオライト等があげられる。・・・」(段落0015) ツ 「これに対して、本発明者らは、シアネート樹脂とイオン交換体とを併用すると、シアネート樹脂が硬化して生成するトリアジン環が、酸性物質(例えば、フェノール樹脂など)によって分解されるのを抑制することができることを見いだした。従って、シアネート樹脂とイオン交換体を併用することにより、従来の技術では得られなかった高温多湿化での機械的、電気的接続信頼性を保持することができるものである。」(段落0017) テ 「本発明で用いられる無機イオン交換体の平均粒径としては特に限定されないが、0.02?5μmであることが好ましい。さらに好ましくは0.02?3μmである。これにより、上記効果を有効に発現させることができる。・・・」(段落0020) ト 「・・・ (実施例1) (1)樹脂ワニスの調製 ノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン株式会社製、プリマセット PT-30、重量平均分子量約700)15重量部、ノボラック型シアネート樹脂(ロンザジャパン株式会社製、プリマセット PT-60、重量平均分子量約2600)5重量部、ビフェニルジメチレン型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製、NC-3000H、エポキシ当量275)11重量部、ビフェニルジメチレン型フェノール樹脂(明和化成株式会社製、MEH-7851-3H、水酸基当量230)9重量部、およびエポキシシラン型カップリング剤(日本ユニカー株式会社製、A-187)0.3重量部をメチルエチルケトンに常温で溶解し、球状溶融シリカ(株式会社アドマテックス社製、球状溶融シリカ、SO-32R、平均粒径1.5μm)60重量部を添加し、高速攪拌機を用いて10分攪拌した。これに、無機イオン交換体(東亜合成株式会社製、IXE-700F、アルミニウム-マグネシウム系無機イオン交換体、平均粒径約1μm)を1.5重量部添加し、高速攪拌機を用いて10分間攪拌して、樹脂ワニスを得た。 (2)プリプレグの製造 上述の樹脂ワニスをガラス織布(厚さ94μm、日東紡績製、WEA-2116)に含浸し、150℃の加熱炉で2分間乾燥して、プリプレグ中のワニス固形分が約50重量%のプリプレグを得た。 (3)積層板の製造 上述のプリプレグを2枚重ね、両面に18μmの銅箔を重ねて、圧力4MPa、温度200℃で2時間加熱加圧成形することによって、厚さ0.2mmの両面銅張積層板を得た。」(段落0039?0041) ナ 「(実施例5) 樹脂ワニスの配合を以下のようにした以外は、実施例1と同様にした。 無機イオン交換体として東亜合成社製、IXE-600、アンチモンービスマス系無機イオン交換体(平均粒径約1μm)1.5重量部を用いた。その他は実施例1と同様にした。」(段落0045) 4.引用例1に記載された発明 引用例1に記載された発明(以下、「引用発明」という。)は、摘示ア及びウより、次のとおりのものであると認められる。 「ビスフェノールA型臭素化エポキシ樹脂、硬化剤及び無機イオン交換体を含有してなるプリント配線板用エポキシ樹脂組成物。」 5.対比 本願発明は、上記1.のとおりの「プリント配線板用エポキシ樹脂組成物」であって、その発明を特定するために必要な事項(以下、「発明特定事項」という。)として「遊離ハロゲン吸着材」を含有することを備えるものであり、「前記遊離ハロゲン吸着材が、ゼオライト、活性炭、イオン交換体、及び、シリカゲルから選ばれる少なくとも1種である」と規定する、請求項1を引用する請求項2の記載からみて、前記「遊離ハロゲン吸着材」が「イオン交換体」である態様を包含することは明らかである。 したがって、引用発明における「ビスフェノールA型臭素化エポキシ樹脂」及び「無機イオン交換体」は、それぞれ、本願発明における「一分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する臭素化エポキシ化合物」及び「遊離ハロゲン吸着材」(イオン交換体)に該当する。 また、両者は「プリント配線板用エポキシ樹脂組成物」である点でも一致している。 よって、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 一分子中に少なくとも2個のエポキシ基を有する臭素化エポキシ化合物、及び遊離ハロゲン吸着材を含有するプリント配線板用エポキシ樹脂組成物。 <相違点1> 「エポキシ樹脂組成物」において、本願発明は、「数平均分子量が10000以下のポリフェニレンエーテル」及び「シアネートエステル化合物」を含有し、かつ、「シアネートエステル化合物」を含有する硬化系の「硬化触媒」を含有するものであるのに対して、引用発明では、前記各成分を配合していない点。 <相違点2> 本願発明は、「前記遊離ハロゲン吸着材が、粒子径0.01?50μmの粉末状である」ものであるのに対して、引用発明では、「無機イオン交換体」の粒径について特段の規定がない点。 6.判断 以下、上記相違点について検討する。 (1)相違点1について 引用例2には、摘示ケ及びセより、「従来のエポキシ樹脂組成物に比べてより高耐熱化、低誘電率化、低誘電正接化を図ることができる」エポキシ樹脂組成物の提供を目的として、摘示クより、「プリント配線板等の電子材料用途に有用なエポキシ樹脂組成物」が記載され、引用発明の「プリント配線板用エポキシ樹脂組成物」とその適用用途において同じであり、しかも、プリント配線板用途にかかる引用発明において、高耐熱化、低誘電率化、低誘電正接化は周知の課題であるといえるから、引用例2に記載の技術的事項を引用発明に適用する点に、何らの阻害要因はないものである。 そして、引用例2には、摘示カ及びキより、「一分子中にエポキシ基を少なくとも2個以上有するエポキシ化合物」と、「ポリフェニレンエーテルをフェノール類とラジカル開始剤の存在下で再分配反応させて得られたフェノール変性ポリフェニレンエーテル」であって、その「数平均分子量が500?7000の範囲である」ものと、「シアネート化合物」とを含む「エポキシ樹脂組成物」が記載されている。 また、摘示サ及びシより、上記「エポキシ化合物」、「フェノール変性ポリフェニレンエーテル」及び「シアネート化合物」からなる硬化反応系、並びに、硬化反応触媒について記載され、さらに、摘示スより、上記「エポキシ化合物」及び「シアネート化合物」として、摘示スより、「ビスフェノールA型エポキシ樹脂とその臭素化物の混合物」及び「2,2-ビス(4-シアナートフェニル)プロパン」が具体的に記載されている。 そうすると、高耐熱化、低誘電率化、低誘電正接化を目的として、引用例2に記載の上記「数平均分子量が500?7000の範囲である」、「フェノール変性ポリフェニレンエーテル」と、「シアネート化合物」と、硬化触媒とを、「ビスフェノールA型臭素化エポキシ樹脂」を含む引用発明に適用して、相違点1に係る本願発明の発明特定事項となすことは、その発明の技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に想到し得ることにすぎない。 (2)相違点2について 引用例3には、摘示ソ、タ及びトより、プリプレグ及び銅張積層板の用途、すなわち引用発明の「プリント配線板用」と同じ適用用途に供される、シアネート樹脂、エポキシ樹脂及び「イオン交換体」を含有する樹脂組成物が記載されており、エポキシ樹脂組成物である点でも共通するものといえるから、引用例3に記載の技術的事項を引用発明に適用する点に、何らの阻害要因はないものである。 そして、引用例3には、摘示チ及びテより、平均粒径が「0.02?5μm」、「さらに好ましくは0.02?3μm」である「無機イオン交換体」を用いることが記載されており、また、摘示ナより、「東亜合成社製、IXE-600、アンチモンービスマス系無機イオン交換体(平均粒径約1μm)」を用いることが具体的に記載されている。 さらに付言すると、前記「IXE-600」は、摘示ウのとおり、引用例1の「実施例2」で用いている無機イオン交換体と同じものである。 そうすると、上記相違点2に係る、「無機イオン交換体」の粒径を「粒子径0.01?50μmの粉末状」となす点は、引用例1に記載されているに等しいといえることから、上記相違点2は、本願発明と引用発明との実質上の相違点ではないか、あるいは、引用例3の記載に基づいて、当業者が適宜設定し得る程度のものである。 (3)効果について 引用例2には、摘示ケより、「耐熱性と電気特性をより向上」させること、また、摘示セより、「ガラス転移温度が上昇し、且つ誘電率及び誘電正接がともに低減」した硬化成形品が得られることが具体的に記載されており、これらの耐熱性と誘電率及び誘電正接は、本願の明細書において評価している項目と一致している。 そして、刊行物1には、摘示イ及びオより、「エポキシ樹脂中に存在する不純イオンや加水分解性塩素を無機イオン交換体に捕捉させることができ」と記載されていることから、引用発明においては、当然に、組成物中に存在するビスフェノールA型臭素化エポキシ樹脂に由来する加水分解性臭素は無機イオン交換体に捕捉されるものであるといえる。そうすると、本願発明における「エポキシ樹脂組成物中に遊離ハロゲン吸着材を含有させることにより、高温時において臭素化エポキシ化合物から発生する遊離臭素(臭素イオンまたは臭素ラジカル)を、吸着材が捕捉して樹脂骨格を分解する作用を抑制する」(本願の明細書の段落0009)という作用は、引用発明においても、組成物中に臭素化エポキシ化合物及び遊離ハロゲン吸着材を含有するものであることから、同様に達成されているものといわざるをえない。 また、難燃性についても、引用発明においては、ビスフェノールA型臭素化エポキシ樹脂を含有するものであることから、当然に奏している効果にすぎない。 そうすると、本願発明が、引用例1?3と比較して、予期し得ない格別顕著な作用・効果を奏するものとはいえない。 7.まとめ 上記検討のとおり、本願発明は、引用例1?3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 第5 請求人の主張についての検討 請求人は、平成25年9月12日提出の意見書において、概略、 「(1)引用例1に記載の発明と引用例2に記載の発明とは、プリント配線板用として用いることができるという点で、適用用途が共通するものの、引用例1に記載の樹脂組成物と引用例2に記載の樹脂組成物とは、審判官殿が認定されております<相違点1>からもわかりますように、樹脂系等の樹脂配合が大きく相違します。 (2)引用例1と引用例2とには、本願請求項1に係る発明における発明特定事項について共通して開示する事項は少なく、課題の共通性も見当たらないことから、引用例1に記載の発明に、引用例2に記載の技術的事項を適用しようとする動機付けは、特に存在しないものと思料致します。 (3)引用例2は、本願発明の出願人による出願であって、本願の出願時の明細書において、背景技術として記載しているものであります。本願発明者等が、引用例2に記載された技術的事項を背景として、耐熱特性のさらなる改善を鋭意検討した結果、本願請求項1に係る発明に想到したものであります。具体的には、本願発明者等が、耐熱特性のさらなる改善を鋭意検討した結果、高温時において臭素化エポキシ化合物から発生する遊離臭素が樹脂硬化物の樹脂骨格を分解して耐熱性を低下させているという知見を得、さらに検討を重ねた結果、遊離ハロゲン吸着材を配合することにより、臭素化エポキシ化合物から発生する遊離臭素を遊離ハロゲン吸着材が捕捉して、樹脂骨格を分解する作用を抑制し、耐熱性の低下を抑制することができる、という知見を得ることで本願発明を完成することができたものであります。 (4)引用例3には臭素化エポキシ化合物を配合することに関する記載が一切なく、臭素化エポキシ化合物から生じる遊離臭素がトリアジン環を分解する原因物質にあることを教示したものでもありません。 (5)これらに対して、本願請求項1に係る発明は、プリント配線板用のエポキシ樹脂組成物であり、高温時において臭素化エポキシ化合物から発生する遊離臭素を、遊離ハロゲン吸着材が捕捉して、樹脂骨格を分解する作用を抑制するために、耐熱性の低下を抑制することができる、という作用効果を奏するものであります。」 と主張している。 しかしながら、請求人の主張は、以下のとおり、いずれも採用することはできない。 (1)については、第4 6.(1)で述べたとおり、引用発明と引用例2に記載の発明とは、プリント配線板用という用途において共通するのみならず、「エポキシ樹脂組成物」である点でも共通するものであることから、樹脂系等の樹脂配合が大きく相違するものであるとはいえない。 (2)についても、(1)で述べたとおり、引用発明と引用例2に記載の発明とは、プリント配線板用という用途において共通するのみならず、「エポキシ樹脂組成物」である点でも共通するものであることから、本願発明における発明特定事項について共通して開示する事項が少ないとはいえないし、プリント配線板用途にかかる引用発明において、高耐熱化、低誘電率化、低誘電正接化は周知の課題であるといえるから、引用例2に記載の技術的事項を引用発明に適用するための動機付けは十分にあるといえる。 (3)については、第4 6.(3)で述べたとおり、「エポキシ樹脂組成物中に遊離ハロゲン吸着材を含有させることにより、高温時において臭素化エポキシ化合物から発生する遊離臭素(臭素イオンまたは臭素ラジカル)を、吸着材が捕捉して樹脂骨格を分解する作用を抑制する」という作用は、引用発明においても、組成物中に臭素化エポキシ化合物及び遊離ハロゲン吸着材を含有するものであることから、既に達成されていたことにすぎない。 (4)について、引用例3は、平均粒径が「0.02?5μm」、「さらに好ましくは0.02?3μm」である「無機イオン交換体」を用いること、また、「東亜合成社製、IXE-600、アンチモンービスマス系無機イオン交換体」が平均粒径約1μmであることが公知技術であることを示すために引用したものであるから、かかる主張は意味のないものである。 (5)についても、(3)で述べたとおり、かかる作用効果は、引用発明において既に達成されていたものにすぎず、それを確認したにすぎないものである。 第6 むすび 以上のとおり、当審において通知した拒絶理由は妥当なものであるから、本願は、この理由によって拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-11-21 |
結審通知日 | 2013-11-26 |
審決日 | 2013-12-09 |
出願番号 | 特願2007-246045(P2007-246045) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C08G)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 松岡 弘子、福井 美穂、柴田 昌弘 |
特許庁審判長 |
小野寺 務 |
特許庁審判官 |
加賀 直人 蔵野 雅昭 |
発明の名称 | プリント配線板用エポキシ樹脂組成物、そのプリント配線板用エポキシ樹脂組成物を用いたプリント配線板用プリプレグ及びプリント配線板用金属張積層板 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 治下 正志 |
代理人 | 小谷 昌崇 |