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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B21D
管理番号 1284603
審判番号 不服2013-12376  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-28 
確定日 2014-02-06 
事件の表示 特願2010-535795「曲げ加工製品の製造方法及び製造装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月 6日国際公開、WO2010/050460〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成21年10月27日(優先権主張平成20年10月28日、日本国)を国際出願日とする特許出願であって、同24年11月16日付けで拒絶の理由が通知され、同24年12月27日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同25年3月28日付けで拒絶をすべき旨の査定がされ、これに対し、同25年6月28日に本件審判の請求がされたものである。
その後、当審の平成25年8月9日付けの拒絶理由に対して同25年10月15日付けで意見書及び手続補正書が提出された。

第2 本願発明
本件出願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明は、平成25年10月15日付け手続補正書によって補正された特許請求の範囲、明細書、及び図面の記載からみて、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に記載された発明は、次のとおりである。(以下「本願発明」という。)
「 【請求項1】
閉じた断面形状を有する長尺の金属材を、その長手方向へ送りながら第1の位置において支持するとともに、
該金属材の送り方向について前記第1の位置よりも下流の第2の位置において送られる金属材を部分的に加熱し、金属材の送り方向について前記第2の位置よりも下流の第3の位置において前記第2の位置で加熱された部分を冷却するとともに、金属材の送り方向について前記第3の位置よりも下流の領域で、前記金属材の外面または内面に当接して配置されることにより前記金属材を把持する把持手段であるチャック機構の位置を、前記第3の位置よりも前記金属材の送り方向の上流側の空間を含むワークスペース内において少なくとも金属材の送り方向を含む三次元の方向へ変更して、前記金属材における前記加熱された部分に曲げモーメントを与えることによって、
三次元に屈曲する曲げ加工部を、長手方向へ向けて断続的又は連続的に備える、自動車または自動車車体の構成部品である曲げ加工製品を製造すること
を特徴とする曲げ加工製品の製造方法。」

第3 引用刊行物記載の発明
これに対して、当審での平成25年8月9日付けの拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前である昭和59年9月13日に頒布された特公昭59-38048号公報(以下「刊行物」という。)には、以下の記載がある。
ア 第2欄第15行?第20行
「本発明は管やその他の長尺材を特別なロール型等を用いないで単一曲率に曲げ加工できるばかりでなく、異なつた任意曲率の曲げ部を連続的又は断続的に形成する複数曲げ加工を一工程で行なうことのできる方法とこの方法を実施するための装置に関するものである。」
イ 第3欄第15行?第4欄第10行
「本発明は上述のような従来方法の難点に鑑み、管やその他の長尺材を単一半径の曲げ加工は勿論、異なつた任意曲率の曲げ部分を連続的又は断続的に形成する複数曲げ加工を一工程で行なうことのできる曲げ加工方法及びその方法を実施するための装置を提供することを目的としてなされたもので、その方法は、曲げ加工すべき管等の長尺材を、その適宜中程の長手方向に於て、ローラ等の支持案内手段を介して自由に支持案内すると共に、その長手方向前端側に於て、平面上を自由に移動でき且つ動力により回転力を与えられるようにしたクランプ等による把持手段によつて把持した後、前記把持手段に適宜角速度の回転力を加えて該長尺材に単純曲げモーメントを付与すると共に、該長尺材の支持案内された部分と把持された部分の間の適宜個所を、前記曲げモーメントにより塑性変形させるべく誘導加熱又はガス加熱等による加熱手段により狭い帯域で局部的に加熱し、同時に前記長尺材の加熱帯域を長尺材の軸方向に相対的に適宜速度で移動させることを特徴とするもので、この方法を実施するための装置は、曲げ加工すべき管等の長尺材の適宜中程を、その長手方向に直交する両側から支持案内する装置と、該支持案内装置の前方に於て、前記長尺材の長手方向に直交または略直交して位置し且つ該長手方向にのみ移動できるように配設した基台と、該基台に前記長尺材の先端側を強固に把持するクランプを適宜駆動源により回転力を与えられるようにして設けた摺動台を、前記基台の長手方向に移動できるように装設して成るトルク発生装置と、曲げ加工すべき長尺材を前記トルク発生装置と共に前方へ送り出す装置と、前記支持案内装置とトルク発生装置の間に位置し、長尺材の長手方向軸に直交又は略直交する面を局部加熱する誘導加熱或はガスを利用した加熱装置と、前記加熱装置に近接した前方に位置して長尺材の塑性変形した直後を冷却する冷却装置とから成り、必要に応じては、上記構成の装置に曲げ加工すべき長尺材の長手方向から圧縮力を付与するための圧縮力装置を付設して成ることを特徴とするものである。」
ウ 第4欄第13行?第5欄第11行
「1は本発明装置によつて複数曲げ加工すべき長尺材たる直状の管、2、2’、3、3’は該管1をその長手方向に平行に支持案内する2対の案内ローラで、支持台21上に設けられて支持案内装置Aを構成する。
4、4’は、前記装置Aに於ける各ローラ2、2’、3、3’の間に、管1を挟持するように対設し適宜動力により回転されるピンチローラで、管1を前方へ送り出す装置Bを構成する。
5は、案内装置Aの前方に位置し、管1の長手方向に直交して配設された平面長方形の基台で、前記管1の長手方向にのみ移動できるように、該管1の長手方向に平行に敷設された案内レール51、51’上に、取附脚54、54’に装設されて該レール51、51’上を転動する車輪52、52’と、取附脚55、55’に装設されて前記レール51、51’の側面に当接し乍ら基台5の回転反力を支持する支持輪53、53’とを介して載架されており、該基台5の上面には長手方向両側に案内枠56、56’を形成してある。
6は、前記基台5の案内枠56、56’に案内されて転動する転動輪61、61’を四隅に設けて、前記基台5の長手方向に殆んど摩擦なく自由に移動できるように形成した摺動台、7は、前記摺動台6の略中央上面に、電動機71により強制的に回転されるように設けた回転台で、この回転台7の上面には前記管1の先端側を強固に把持するクランプ8が設けられており、以上の6乃至8によりトルク発生装置Cを構成する。
9は前記支持案内装置Aに於ける案内ローラ3、3’に近接した前方に設けられた環状の高周波誘導子又はガスバーナから成る加熱部材で、管1の長手方向軸と直角又は略直角に配設されて該管1の加熱領域即ち、塑性変形されるべき領域を特定し、該加熱部材9に高周波エネルギ等の加熱源を供給する供給装置10と共に加熱装置Dを構成する。
11は前記加熱部材9の前方に近接して設けた環状の冷却液又は冷却気体供給ノズルを具えたジヤケツトで、管1が加熱され塑性変形された直後の該変形部分を冷却するように冷却液又は気体の供給源(図示せず)に接続して冷却装置Eを構成し、以上のA乃至Eにより本発明方法を実施するための基本的な本発明装置を構成する。」
エ 第6欄第21行?第38行
「上記第1図の装置に於ては、送り装置Bによつて管1を送る際、該管1が支持案内される支持案内装置Aに於ける各ローラ2、2’、3、3’と管1との摩擦抵抗をできるだけ小さくするようにそれらローラを装設し、また、このようにして管1を送り乍らトルク発生装置Cのクランプ8を回転して管1にトルクによる曲げモーメントを与える際、該装置Cに於ける基台5及び摺動台6に生じる前記トルクの反力をできるだけ小さくするために、支持輪53、53’の取附脚55、55’を長く形成し、且つ摺動台6そのものを長目に形成してその四隅に転動輪61、61’を装設したから、管1及びこれを把持したトルク発生装置Cの移動時に前記の各ローラ或は各輪には反力による摩擦抵抗は殆んど生ぜず、従つてクランプ8の回転による曲げモーメントが管1の曲げられた部分に均等に分布し、然もこれによる剪断力の生じることは殆んどない。」
オ 第10欄第2行?第24行
「本発明は上述の通りであつて、曲げ加工すべき管等に曲げモーメントが作用する際、その塑性変形すべき領域を局部加熱手段を利用して特定し、且つ該領域を適宜速度で移動させる一方、管等の側端を把持するクランプ等の把持手段に適切な方向の回転力を与えることにより曲げモーメントを生起せしめると共に、前記加熱領域の移動速度と把持手段の回転角速度との関係及び回転角を調整して曲げ半径及び曲げ角度を自由に決定、変更し得るようにしたから、曲げ加工すべき長尺材を本発明装置に一旦セツトすれば、単一半径、単一曲げ角度の単純曲げ加工は勿論のこと、同一長尺材上に曲げ半径及び/又は曲げ角度の異なる或は曲率の変化する複数の曲げ加工をクランプし直すことなく連続的に或は断続的に一工程で行なうことができ、従つて、本発明方法又はその装置を比較的短区間に多くの曲げ部分を有する化学プラントに代表される各種プラント内の配管用複数曲げ管、伸縮ベンドとして利用される所謂タコベンド或はジグザグベンド等の管、地中配管に多用されるターンピース等の曲げ加工に使用すれば、作業能率は著しく向上し、加工コストの低下に資するところ極めて大きく、産業上極めて有用である。」
カ ここで、図面の第1図を参照すると、管1は、第1図において右側に送られることが明らかであるから、支持案内装置Aの下流に加熱装置Dが設けられ、その下流に冷却装置Eが設けられ、その下流にトルク発生装置Cが設けられているものであることが理解できる。
キ 刊行物記載の発明
以上アないしオの記載事項、及びカの認定事項から、刊行物には、以下の発明が記載されていると認められる。
「長尺材たる直状の管1を、2対の案内ローラ2、2’、3、3’からなる支持案内装置Aで支持案内するとともに、支持案内装置Aにおける各案内ローラ2、2’、3、3’の間にピンチローラ4、4’を管1に対して挟持するように対設して送り装置Bとし、適宜動力によりピンチローラ4、4’を回転して管1を前方に送り出し、
支持案内装置Aにおける案内ローラ2、2’、3、3’の近接した下流に設けられ、環状の加熱部材9からなる加熱装置Dにより該管1を加熱し、加熱部材9の下流に近接して設けられた冷却液供給ノズル11からなる冷却装置Eにより管1を冷却し、
案内レール51、51’により管1の長手方向に移動できるようにした基台5を設け、該基台5上に、基台5の案内枠56、56’に案内されて基台5の長手方向に移動できるようにした摺動台6を設け、該摺動台6の略中央上面に、電動機71により強制的に回転される回転台7を設け、該回転台7の上面に設けたクランプ8により管1の下流を把持し、該摺動台6と該回転台7と該クランプ8とによりトルク発生装置Cを構成し、
管1の下流をクランプ8の把持手段により適切な方向の回転力を与えることにより管1に曲げモーメントを生起せしめ、管1の加熱領域の移動速度と把持手段の回転角速度との関係及び回転角を調整して管1の曲げ半径及び曲げ角度を自由に決定、変更し、
管1の曲げ加工をクランプし直すことなく連続的或は断続的に一工程で行なう化学プラントにおける各種プラント内の配管に用いる管1の曲げ加工方法。」(以下、「引用発明」という。)

第4 対比
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「長尺材たる直状の管1」は、「閉じた断面形状を有する長尺材」という限りで本願発明の「閉じた断面形状を有する長尺の金属材」と共通する。
引用発明の「(管1を)2対の案内ローラ2、2’、3、3’からなる支持案内装置Aで支持案内するとともに、支持案内装置Aにおける各案内ローラ2、2’、3、3’の間にピンチローラ4、4’を管1に対して挟持するように対設して送り装置Bとし、適宜動力によりピンチローラ4、4’を回転して管1を前方に送り出」すことは、「長尺材をその長手方向へ送りながら第1の位置において支持する」という限りで、本願発明の「(金属材を)その長手方向へ送りながら第1の位置において支持する」ことと共通する。
引用発明の「支持案内装置Aにおける案内ローラ3、3’の近接した下流に設けられ、環状の加熱部材9からなる加熱装置Dにより管1を加熱」することは、「該長尺材の送り方向について第1の位置よりも下流の第2の位置において送られる長尺材を部分的に加熱」するという限りで、本願発明の「該金属材の送り方向について第1の位置よりも下流の第2の位置において送られる金属材を部分的に加熱」することと共通する。
引用発明の「加熱部材9の下流に近接して設けられた冷却液供給ノズル11からなる冷却装置Eにより管1を冷却」することは、「長尺材の送り方向について第2の位置よりも下流の第3の位置において前記第2の位置で加熱された部分を冷却」するという限りで、本願発明の「金属材の送り方向について第2の位置よりも下流の第3の位置において前記第2の位置で加熱された部分を冷却」することと共通する。
引用発明の「クランプ8」は、「長尺材の外面または内面に当接して配置されることにより前記長尺材を把持する把持手段であるチャック機構」という限りで、本願発明の「金属材の外面または内面に当接して配置されることにより前記金属材を把持する把持手段であるチャック機構」と共通する。したがって、引用発明の「案内レール51、51’により管1の長手方向に移動できるようにした基台5を設け、該基台5上に、基台5の案内枠56、56’に案内されて基台5の長手方向に移動できるようにした摺動台6を設け、該摺動台6の略中央上面に、電動機71により強制的に回転される回転台7を設け、該回転台7の上面に設けたクランプ8により管1の下流を把持し、該摺動台6と該回転台7と該クランプ8とによりトルク発生装置Cを構成し、管1の下流をクランプ8の把持手段により適切な方向の回転力を与えることにより管1に曲げモーメントを生起せしめ、管1の加熱領域の移動速度と把持手段の回転角速度との関係及び回転角を調整して管1の曲げ半径及び曲げ角度を自由に決定、変更」することは、「長尺材の送り方向について第3の位置よりも下流の領域で、前記長尺材の外面または内面に当接して配置されることにより前記長尺材を把持する把持手段であるチャック機構により、前記長尺材における加熱された部分に曲げモーメントを与える」という限りで、本願発明の「金属材の送り方向について第3の位置よりも下流の領域で、前記金属材の外面または内面に当接して配置されることにより前記金属材を把持する把持手段であるチャック機構の位置を、前記第3の位置よりも前記金属材の送り方向の上流側の空間を含むワークスペース内において少なくとも金属材の送り方向を含む三次元の方向へ変更して、前記金属材における加熱された部分に曲げモーメントを与える」ことと共通する。
引用発明の「管1の曲げ加工をクランプし直すことなく連続的或は断続的に一工程で行なう化学プラントにおける各種プラント内の配管に用いる管1の曲げ加工方法」は、「曲げ加工部を備える、曲げ加工製品を製造する曲げ加工製品の製造方法」という限りで、本願発明の「三次元に屈曲する曲げ加工部を、長手方向へ向けて断続的又は連続的に備える、自動車または自動車車体の構成部品である曲げ加工製品を製造する曲げ加工製品の製造方法」と共通する。
以上の点から、両者は以下の点で一致し、また、以下の点で相違している。
<一致点>
「閉じた断面形状を有する長尺材を、その長手方向へ送りながら第1の位置において支持するとともに、
該長尺材の送り方向について前記第1の位置よりも下流の第2の位置において送られる長尺材を部分的に加熱し、長尺材の送り方向について前記第2の位置よりも下流の第3の位置において前記第2の位置で加熱された部分を冷却するとともに、長尺材の送り方向について前記第3の位置よりも下流の領域で、前記長尺材の外面または内面に当接して配置されることにより前記長尺材を把持する把持手段であるチャック機構により、前記長尺材における前記加熱された部分に曲げモーメントを与えることによって、
曲げ加工部を備える、曲げ加工製品を製造する曲げ加工製品の製造方法。」
<相違点1>
曲げ加工される長尺材に関して、本願発明では、「長尺の金属材」を用いているのに対して、引用発明では、長尺材の材料に関して不明な点。
<相違点2>
曲げ加工方法に関して、本願発明では、「金属材の送り方向について第3の位置よりも下流の領域で、前記金属材の外面または内面に当接して配置されることにより前記金属材を把持する把持手段であるチャック機構の位置を、前記第3の位置よりも前記金属材の送り方向の上流側の空間を含むワークスペース内において少なくとも金属材の送り方向を含む三次元の方向へ変更して、前記金属材における前記加熱された部分に曲げモーメントを与える」ことにより行っているのに対して、引用発明では、案内レール51、51’により管1の長手方向に移動できるようにした基台5を設け、該基台5上に、基台5の案内枠56、56’に案内されて基台5の長手方向に移動できるようにした摺動台6を設け、該摺動台6の略中央上面に、電動機71により強制的に回転される回転台7を設け、該回転台7の上面に設けたクランプ8により管1の下流を把持し、該摺動台6と該回転台7と該クランプ8とによりトルク発生装置Cを構成し、管1の下流をクランプ8の把持手段により適切な方向の回転力を与えることにより管1に曲げモーメントを生起せしめ、管1の加熱領域の移動速度と把持手段の回転角速度との関係及び回転角を調整して管1の曲げ半径及び曲げ角度を自由に決定、変更して行っている点。
<相違点3>
曲げ加工製品に関して、本願発明では、「三次元に屈曲する曲げ加工部を、長手方向へ向けて断続的又は連続的に備える、自動車または自動車車体の構成部品である曲げ加工製品」であるのに対して、引用発明では、管1の曲げ加工をクランプし直すことなく連続的或は断続的に一工程で行なう化学プラントにおける各種プラント内の配管である点。

第5 当審の判断
上記相違点について検討する。
(1) <相違点1>について
プラントの配管として金属材は、例示するまでもなく従来周知のものであり、また、加熱することにより曲げ易くなり、冷却することにより曲げ加工が固定される点は金属材が当然有する性質であることからすると、引用発明においても、長尺材である管1が金属材である蓋然性は高い。
したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
(2) <相違点2>について
引用発明は、「案内レール51、51’により管1の長手方向に移動できるようにした基台5を設け、該基台5上に、基台5の案内枠56、56’に案内されて基台5の長手方向に移動できるようにした摺動台6を設け、該摺動台6の略中央上面に、電動機71により強制的に回転される回転台7を設け、該回転台7の上面に設けたクランプ8により管1の下流を把持し、該摺動台6と該回転台7と該クランプ8とによりトルク発生装置Cを構成し、管1の下流をクランプ8の把持手段により適切な方向の回転力を与えることにより管1に曲げモーメントを生起せしめ、管1の加熱領域の移動速度と把持手段の回転角速度との関係及び回転角を調整して管1の曲げ半径及び曲げ角度を自由に決定、変更」しているものである。ここで、刊行物1における第1図を参照すると、案内レール51、51’は冷却装置Eにおける管1の下流側である第1図右側だけでなく、冷却装置Eの左側にも延びているものであることから、摺動台6の案内枠56、56’による移動方向と相俟って、クランプ8が管1の下流側だけでなく、冷却装置Eにおける上流側を含む二次元の方向へ移動できるものであることは明らかである。してみれば、引用発明は、本願発明の用語にしたがって言い換えると「金属材の送り方向について第3の位置よりも下流の領域で、前記金属材の外面または内面に当接して配置されることにより前記金属材を把持する把持手段であるチャック機構の位置を、前記第3の位置よりも前記金属材の送り方向の上流側の空間を含むワークスペース内において少なくとも金属材の送り方向を含む二次元の方向へ変更して、チャック機構に回転力を与えることにより、前記金属材における前記加熱された部分に曲げモーメントを与える」ものである。
ところで、管からなる曲げ加工製品には、二次元に曲がったものだけでなく、三次元に曲がったものもあることは例示するまでもなく従来周知の事項である。してみると、引用発明において、管1を三次元方向に曲がったものとすること、すなわち、チャック機構の位置を、三次元方向に移動可能とすること、及び、チャック機構により回転力を与える方向を三次元方向とすることにより、曲げ加工も三次元方向に行えるようにすることは、当業者にとって格別困難なことではない。
請求人は、平成25年10月15日付け意見書において、「曲げモーメントを与える仕組みを、補正後請求項1に係る本願発明と引用発明1(当審注:刊行物である特公昭59-38048号公報による引用発明),2とを対比して説明すると、補正後請求項1に係る本願発明では『チャック機構の位置を変更すること』ですが、引用発明1では『把持手段に適宜角速度の回転力を加えること』(引用文献1の第3柱28行)であり、」と曲げモーメントを与える仕組みが異なる旨を主張している。
しかしながら、引用発明においては曲げモーメントを与える力はクランプ8自体の回転力により生じているものの、クランプ8が二次元に移動できるものであり、その結果、「チャック機構の位置を二次元の方向へ変更できる」ものであり、また、「加熱された部分に曲げモーメントを与える」ものでもあるから、チャック機構の位置を変更することで、曲げモーメントに対応していることは明らかである。
したがって、請求人の上記主張は採用することができない。
(3) <相違点3>について
上記(2)において言及したとおり、管からなる曲げ加工製品には、二次元に曲がったものだけでなく、三次元に曲がったものもあることは例示するまでもなく従来周知の事項であるところ、拒絶理由において引用した刊行物である国際公開第2008/123505号の段落[0001]?[0003]、[0155]、[0157]、図面の図35、37、或いは平成24年11月16日付け拒絶理由において引用した国際公開第2006/93006号の段落[0004]に記載されているように、自動車または自動車車体の構成部品であっても、当該三次元方向に曲がった管は従来周知の事項である。してみると、引用発明において、管1を三次元方向に曲げた場合、当該三次元方向に曲がった管1を自動車または自動車車体の構成部品に適用することは、格別困難なことではないというべきである。
また、曲げ加工製品において、曲げ加工部が断続的に設けらているか連続的に設けられているかは、要求される管の形状から適宜なし得る設計的事項にすぎない。
(4) 作用・効果について
作用ないし効果についても、引用発明から予想し得る範囲のものでしかない。

第6 むすび
したがって、本願発明は、刊行物に記載された発明及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、請求項2ないし8に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-02 
結審通知日 2013-12-03 
審決日 2013-12-16 
出願番号 特願2010-535795(P2010-535795)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B21D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 村山 睦  
特許庁審判長 野村 亨
特許庁審判官 長屋 陽二郎
刈間 宏信
発明の名称 曲げ加工製品の製造方法及び製造装置  
代理人 広瀬 章一  
代理人 広瀬 章一  
代理人 市原 政喜  
代理人 剱物 英貴  

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