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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L |
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管理番号 | 1284629 |
審判番号 | 不服2013-20584 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-10-23 |
確定日 | 2014-02-25 |
事件の表示 | 特願2007-307147「複数個の空洞を有する積層構造ウエーハ及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 6月11日出願公開、特開2009-130328、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成19年11月28日を出願日とする出願であって、平成24年11月19日付けで拒絶理由が通知され、平成25年1月21日付けで意見書が提出され、同年4月22日付けで拒絶理由が通知され、同年6月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され、同年7月19日付けで拒絶査定がなされた。 そして、平成25年10月23日に拒絶査定不服審判が請求された。 第2 本願発明 本願の請求項1乃至請求項4に係る発明は、それぞれ、平成25年6月7日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1乃至請求項4に記載された事項により特定されるものであって、そのうち、請求項1及び請求項3に係る発明は、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 第一の層、該第一の層の平坦な表面上に配設された第二の層、及び該第二の層の表面上に配設され且つ平坦な裏面を有する第三の層を含み、該第二の層には厚さ方向に貫通した複数個の貫通開口が形成されており、該貫通開口の各々は下面が該第一の層の平坦な表面によって閉じられ上面が該第三の層の平坦な裏面によって閉じられた空洞を構成している、ことを特徴とする複数個の空洞を有する積層構造ウエーハ。 【請求項3】 第一の層の平坦な表面上に第二の層を配設する第一の積層工程と、 該第一の積層工程の後に、該第二の層に厚さ方向に貫通した複数個の貫通開口を形成する開口形成工程であって、該第二の層の表面上にレジスト膜を塗布し、該貫通開口に対応したパターンで該レジスト膜を露光して現像し、レジスト膜非存在領域において該第二の層をその厚さ全体に渡って、該第二の層に対しては活性であるが該第一の層に対しては非活性であるエッチング液を使用するエッチングによって除去することを含む開口形成工程と、 該開口形成工程の後に、該第二の層の表面上に平坦な裏面を有する第三の層を配設し、これによって該貫通開口の各々は下面が該第一の層の平坦な表面によって閉じられ上面が該第三の層の平坦な裏面によって閉じられた空洞を構成するようになす第二の積層工程と、 を含む、ことを特徴とする複数個の空洞を有する積層構造ウエーハの製造方法。」 (以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明1」という。また、本願の請求項2?4に係る発明を、それぞれ「本願発明2」?「本願発明4」という。) 第3 原査定の理由の概要 この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項1?5 ・引用文献等 1 ・備考 引用文献1の段落0052?0057及び図1?5に、シリコンである第一の層(2)の上に二酸化シリコンである第二の層(6)を形成し、厚さ方向に貫通した複数個の貫通開口を形成し、第二の層の上にシリコンである第三の層(10)を接合して、下面が第一の層によって閉じられ上面が第三の層によって閉じられた空洞を構成することが記載されている。 引 用 文 献 等 一 覧 1.特表2006-511075号公報 第4 当審の判断 1 引用例1の記載事項、及び、引用発明 (1)引用例1の記載事項 本願の優先権主張日前に日本国内において頒布され、平成25年4月22日付けで通知された拒絶理由において引用文献1として引用された刊行物である、特表2006-511075号公報(以下「引用例1」という。)には、「無応力複合基板及びその製造方法」(発明の名称)に関して、図1?5とともに、次の記載がある。(なお、下線は当合議体が付加したものである。以下同様。) ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、キャリア材料から成るキャリアと、第一の材料から成る第一の層と、第二の材料から成りキャリアと第一の層との間に位置する中間層とを具備する複合基板に関する。 【0002】 本発明はさらに、かかる複合基板の製造方法に関する。 (・・・途中省略・・・) 【0005】 今日、いくつかの制約がSOIウェハの主流としての応用可能性を制限している。 【0006】 第一に、シリコンの熱膨張(26×10^(-7)/℃)と熱二酸化シリコンの熱膨張(5×10^(-7)/℃)とが互いに大きく異なるため、SOIウェハの二酸化シリコン層にかなりの量の圧縮応力と、薄いシリコンデバイス層にかなりの量の引張応力とが見られる。SOIウェハが大きくなればなるほど、この問題は重大となる。直径300mmのSOIウェハでは、これが深刻な問題となる。この張力/応力特性のため、SOI上の集積回路が重度の応力腐食を多大にこうむることは、実験で明らかとなっている。とりわけW.P. Maszaraらによる“Role of surface morphology in wafer bonding” (ウェハ貼合せにおける表面形態の役割), J. Appl. Phys. 69(1), p.257-p.260,January 1991には、SOIウェハでの貼合せに起因する応力の問題が記載されている。同文献においては、貼合せ処理に起因する局所応力が1x10^(8)ダイン/cm^(2)程度と推定される。薄い(0.5μm)SOI膜ならこの応力が100分の1程度まで減少する。」 イ 「【発明が解決しようとする課題】 (・・・途中省略・・・) 【0010】 冒頭の段落で述べたタイプの本発明の目的は、ほぼ無応力の複合基板を得ることである。 【課題を解決するための手段】 【0011】 本発明の目的は、第一の材料がキャリア材料のそれと概ね同じ膨張挙動を有し、第二の材料に対して拡散不整合を有し、その拡散不整合から生じる応力を吸収するための第二の材料から成る構造を中間層が有することで達成される。 【0012】 中間層の第二の材料の拡散がキャリア材料と第一の材料とから異なる場合には、拡散不整合が生じる。その拡散不整合は応力を引き起こす。かかる応力は通常、膨張の不整合がある材料から材料にかけての変わり目の近くで最も強くなる。かかる応力は、中間層内における構造で緩和される。その構造は弾性的に変形でき、そのため応力を吸収できる。第一の層の欠陥は皆無もしくは微少であり、そこで製造されるデバイスの電気的特性は向上する。 【0013】 キャリア材料と中間層の第二の材料との間の拡散不整合から生じる応力の吸収を向上させるため、中間層の厚み通り抜けて構造を延在させることが好ましい。その構造は、弾性的に変形できる空いた表面を有する。かかる空き表面で応力と歪力を容易に緩和できる。転位は表面へ移り、構造から消滅する。その結果、第一の層は無応力となる。 【0014】 この構造をキャリアで拡大することで、応力・歪力の緩和が向上する。応力は通常、コーナで特に高い。コーナをキャリア材料で埋設することで、コーナにおける高い応力はもはやキャリアと中間層との界面近くに位置しない。さらに、構造の空き表面が増えれば応力緩和が向上する。 【0015】 キャリア材料が第一の材料と同じである時、無応力複合基板を得ることができる。その複合基板はもはや反りを被らない。 【0016】 キャリア材料と第一の材料は半導体でよく、例えばシリコン等でもよいが、それに限定はされない。 【0017】 中間層の第二の材料はアモルファス材料でもよい。第二の材料は、二酸化シリコン等の酸化半導体材料を包含してもよい。第二の材料は、熱成長二酸化シリコン等、熱酸化半導体材料を包含してもよい。そのようにすることで、無応力構造の上で無応力の第一の層が得られる。通常、絶縁材料の膨張は半導体材料よりも格段に小さいため、絶縁材料上では通常、第一の層における応力は引張応力である。 (・・・途中省略・・・) 【0021】 構造の寸法が10μmと10nmとの間、好ましくは100nmと25nmとの間であれば、応力緩和にとって有利である。それらの構造は弾性的に容易に変形できる。」 ウ 「【0044】 ナノ・インプリント・リソグラフィーは、寸法が100nm未満の構造を有するデバイスを生産するプロセスであり、それは2段階からなるプロセスである。すなわち、まずはインプリント段階を実行し、その後に、例えばウエットまたはドライエッチングにより基板材料内へのパターンの転写を達成する。インプリント段階では、表面にナノ構造を有するモールドを使用し、薄いレジストフィルムを、または基板上に沈着した能動材料を変形する。レジストは、サーマルプラスチック、UV硬化または熱硬化ポリマー、その他何らかの適宜に変形可能な材料である。その影像転写システムは熱源もしくはUV光源のみからなり、それは、例えば極紫外線リソグラフィー、イオンビーム投射リソグラフィー、X線リソグラフィー、電子ビームリソグラフィー等、小さな構造を作製する他のプロセスの生成源(光または粒子)やレンズに比べて非常に簡素であり廉価である。パターン転写段階では、反応性イオンエッチング(RIE)等の異方性エッチング処理を用いてマイクロ構造パターンを基板材料内に移し、さらにインプリントによってレジスト全体の中に作製された厚み多様性パターン、すなわち最も低い部分のため完全に基板ウェハ材料に移しつつ、圧縮領域内の残留レジストを取り除く。 【0045】 ナノインプリントリソグラフィーでは最初に、例えば電子ビームパターンジェネレータ(EBPG)を用いて、モールドを作製する。EBPGは電子ビーム技術を使用し、真空内で電子ビームをオン及びオフに切り替えることにより、そしてドローイングオブジェクト(マスク)が設定されたステージを動かすことにより、モールド材料上でパターンを描く。 (・・・途中省略・・・) 【0050】 本発明の実施形態によれば、ナノインプリントリソグラフィーと直接貼合せの組み合わせから、ほどよく廉価な無引張応力SOI製造方法が提供される。」 エ 「【0051】 図1から図5に示すように、本発明の方法の一実施形態は次の通りである。 【0052】 第一の段階では、図1に示すように、基板やシリコンウェハ等のキャリア2がある。本発明の実施形態における用語「基板」は、あらゆる基礎材料、あるいは使用し得る材料、またはその上で絶縁層を形成し得る材料を含み得る。他の代替実施形態においてこの「基板」は、例えば添加シリコン、ガリウム砒素(GaAs)、ガリウム砒素燐(GaAsP),ゲルマニウム(Ge)、またはシリコンゲルマニウム(SiGe)基板等の半導体基板を含み得る。用語「基板」は、対象となる絶縁層の下にある層のための要素を概括的に定義するために用いられる。「基板」はまた、その上で層が形成される、例えばガラスや金属の層が形成される他の何らかの土台であってもよい。以下では主にシリコン処理に言及しつつ処理を説明するが、当業者であれば、他の半導体材料系に基づいて本発明を実施し得ることを理解するであろうし、当業者であれば、以下で述べる誘電性材料や半導性材料や導電性材料の等価物として適宜な材料を選ぶことができる。 【0053】 図2に示すように、シリコンウェハを熱酸化する。その結果、シリコンウェハ2の空き表面4の上に二酸化シリコン層6が形成される。 【0054】 第二の段階では、図3に表すように、酸化表面6をパターン化し、その結果、上で説明したナノインプリントリソグラフィーによって構造8を形成する。その構造は、例えば柱の形や先端が切り取られたピラミッド形状等、任意の適宜な形状でよい。構造8は、好ましくは10μmと10nmとの間程度の直径を有し、さらに好ましくは100nmと25nmとの間の直径を有する。 【0055】 このナノインプリントパターンは、例えば反応性イオンエッチングにより、まずはSiO_(2)層6内に、また次にSiO_(2)層6を通じて基板ウェハ2のシリコン内にまでインプリントする。これは、構造8が基板シリコン2の上で独立したSiO_(2)柱となることを意味する。 【0056】 図4に示すように、ダイレクト貼合せか共有貼合せによりこのパターン化されたウェハをデバイスウェハ10に貼合せる。貼合せの前には、デバイスウェハの表面を清浄化する。自然酸化物は、バキュームチャンバーにてオゾンによって取り除く。 【0057】 その後、貼合せされたデバイスウェハ10を所要のSOI厚みとなるまで薄膜化し(図4の破線を参照)、図5に示すSOIのデバイス層12を形成する。この薄膜化は、例えばスマートカットによって行ってもよく、あるいは当業者にとって周知の、薄いデバイス層12を得るための任意の適宜な方法で行ってもよい。 【0058】 その結果、基板シリコン2内に組み込まれた無応力絶縁マイクロ構造8の上に、無引張応力の薄いシリコン層12が出来上がる。無引張応力SOIは、従来技術から公知のSOIよりも格段に優れた電気的特性を有する絶縁シリコンを意味する。無応力SOIは応力腐食をこうむらない。無応力SOIは、上位シリコン層12の中の能動素子で特性を改良する、例えば線形化する見込みを提供する。p-n、p-i-n、及びp-s-n(sは「僅かにドープ」の意)等数種の半導体(Si、Ge)接合、トランジスタ、そしてダイオードの電気的特性に及ぶ静水・局所圧力の影響についてはこれまで、実験的かつ理論的に、綿密な研究がなされてきた。K. Bulthuisによる、Philips Res. Reports 20(1965)415-431、J. Appl. Phys. 37(1966)2066-2068、Philips Res. Reports 21(1966)85-103、ならびにPhilips Res. Reports 23(1968)25-47で発表された、広範囲に及ぶ調査を参照することができる。圧力との相関における (・・・途中省略・・・) 【図面の簡単な説明】 【0062】 【図1】シリコンウェハの概略垂直断面図。 【図2】熱酸化シリコンウェハの概略垂直断面図。 【図3】本発明の実施形態による構造を設けた熱酸化シリコンウェハの概略垂直断面図。 【図4】さらなるシリコン層が貼合せされた、図3の装置の概略垂直断面図。 【図5】デバイスウェハを薄膜化した後の、図4の構造を示す図。」 オ 摘記した上記段落【0054】の記載を参照すると、概略垂直断面図である図3から、二酸化シリコン層6はナノインプリントリソグラフィーによってパターン化されることにより、上記二酸化シリコン層6が除去された開口部と、上記二酸化シリコン層6が残留して形成された構造8が交互に配列している様子を見て取ることができる。ここで、上記構造8は、摘記した上記段落【0055】に記載されているように、「独立したSiO_(2)柱」であり、「独立」とは隣接する他のSiO_(2)柱とはつながっておらず、別体となっていることを表すものと認められるので、複数の独立したSiO_(2)柱が、その周囲を上記開口部によって囲まれるように配置されているものと認められる。このことは、逆に言えば、上記開口部は相互に連結しており、基板全面にわたって連続した単一の開口部が形成されているということができる。 カ 上記摘記した段落【0044】及び【0054】を参照すると、構造8は、二酸化シリコン層6を、ナノインプリントリソグラフィーすることによって、すなわち、レジストを用いたインプリント段階と、反応性イオンエッチング(RIE)によるパターン転写段階によって、形成されるものであるが、概略垂直断面図である図3から、上記反応性イオンエッチングによるパターン転写段階において、上記二酸化シリコン層6は、上記開口部にあたる部分が、その厚さ方向に除去されていることを見て取ることができる。 キ 図4から、構造8の表面に張り合わされれたデバイスウェハ10は、平坦な裏面を有していることが見て取れる。また、図5から、上記デバイスウェハ10を薄膜化したデバイス層12も、同様に、平坦な裏面を有していることが見て取れる。 (2)引用発明 以上、上記(1)のア?キの記載事項を総合すると、引用例1には、以下に示す無応力複合基板(以下「引用発明」という。)が開示されていると認められる。 「シリコンウェハ2と、 上記シリコンウェハ2の表面上に形成された二酸化シリコン層6をパターン化して得られた層(以下「パターン化層」という。)と、 デバイスウェハ10の平坦な裏面を上記パターン化層の表面に張り合わせるとともに、薄膜化して得られた、デバイス層12とを含み、 上記パターン化層には、上記二酸化シリコン層6を反応性イオンエッチングで厚さ方向に除去することによって、各々が10μmと10nmとの間程度の直径を有し、独立したSiO_(2)柱からなる複数の構造8と、基板全面にわたって連続した単一の開口部が形成されており、 上記開口部は、下面が上記シリコンウェハ2によって閉じられ、上面が上記デバイス層12の平坦な裏面によって閉じられている、ことを特徴とする、単一の開口部を有する無応力複合基板。」 2 対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「シリコンウェハ2」と本願発明1の「第一の層」は、いずれも、その上に形成される他の層を支持する層(以下「支持層」という。)である点で共通している。 イ 引用発明の「パターン化層」は、「上記シリコンウェハ2の表面上に形成された二酸化シリコン層6をパターン化して得られた層」であり、したがって、「上記シリコンウェハ2の表面上に形成された」ものであるということができるから、上記アの検討事項を勘案すれば、引用発明の「上記シリコンウェハ2の表面上に形成された二酸化シリコン層6をパターン化して得られた層」である「パターン化層」と、本願発明1の「該第一の層の平坦な表面上に配設された第二の層」とは、「該支持層の」「表面上に配設された第二の層」である点で共通している。 ウ 引用発明の「デバイスウェハ10の平坦な裏面を上記パターン化層の表面に張り合わせ」「た、デバイス層12」は、上記イの検討事項を勘案すれば、本願発明1の「該第二の層の表面上に配設され且つ平坦な裏面を有する第三の層」に相当している。 エ 引用発明の「開口部」は、「上記二酸化シリコン層6を反応性イオンエッチングで厚さ方向に除去することによって」形成されたものであり、摘記した上記段落【0055】の「SiO_(2)層6を通じて基板ウェハ2のシリコン内にまでインプリントする。」との記載から、上記「開口部」が「上記二酸化シリコン層6を」「貫通」していることは明らかである。したがって、引用発明の「上記パターン化層には、上記二酸化シリコン層6を反応性イオンエッチングで厚さ方向に除去することによって、」「基板全面にわたって連続した単一の開口部が形成されて」いることと、本願発明1の「該第二の層には厚さ方向に貫通した複数個の貫通開口が形成されて」いることは、「該第二の層には厚さ方向に貫通した」「貫通開口が形成されて」いる点で共通している。 オ 摘記した上記段落【0055】の「SiO_(2)層6を通じて基板ウェハ2のシリコン内にまでインプリントする。」との記載によれば、引用発明において、「上記二酸化シリコン層6を反応性イオンエッチングで厚さ方向に除去する」際に、二酸化シリコン層6のみでなく、その下方にある基板ウェハ2の表面部も除去されることによって、凹部が形成されているものと認められるから、パターン化層がその上に形成されているシリコンウェハ2は平坦な面を有するものではない。 また、引用発明1の「開口部」は「下面が上記シリコンウェハ2によって閉じられ、上面が上記デバイス層12の平坦な裏面によって閉じられている」から、本願発明1の「空洞」に相当する。 したがって、上記アの検討事項も勘案すれば、引用発明において「上記開口部は、下面が上記シリコンウェハ2によって閉じられ、上面が上記デバイス層12の平坦な裏面によって閉じられている」ことと、本願発明1において「該貫通開口の各々は下面が該第一の層の平坦な表面によって閉じられ上面が該第三の層の平坦な裏面によって閉じられた空洞を構成している」ことは、「該貫通開口」「は下面が該支持層の」「表面によって閉じられ上面が該第三の層の平坦な裏面によって閉じられた空洞を構成している」点で共通している。 カ 上記オで検討したように、引用発明の「開口部」は本願発明1の「空洞」に相当するから、引用発明の「単一の開口部を有する」と、本願発明1の「複数個の空洞を有する」とは、「空洞を有する」点で共通する。 キ 引用発明の「無応力複合基板」は、「シリコンウェハ2」と「パターン化層」と「デバイス層12」が積層して形成された基板またはウェハであるから、本願発明1の「積層構造ウエーハ」に相当している。 そうすると、本願発明1と引用発明の一致点と相違点は以下のとおりとなる。 ≪一致点≫ 支持層、該支持層の表面上に配設された第二の層、及び該第二の層の表面上に配設され且つ平坦な裏面を有する第三の層を含み、該第二の層には厚さ方向に貫通した貫通開口が形成されており、該貫通開口は下面が該支持層の表面によって閉じられ上面が該第三の層の平坦な裏面によって閉じられた空洞を構成している、ことを特徴とする空洞を有する積層構造ウエーハ。 ≪相違点≫ ≪相違点1≫ 本願発明1と引用発明はいずれも「支持層」を有しているが、本願発明1では、「支持層」である「第一の層」は「平坦な表面」を有しているのに対して、引用発明では、「支持層」である「シリコンウェハ2」は「平坦な表面」を有していない点。 ≪相違点2≫ 本願発明1では、「貫通開口」及び「空洞」は「複数個」形成されているのに対して、引用発明では、本願発明1の「貫通開口」及び「空洞」に相当する「開口部」は「単一」個のみ形成されている点。 3 判断 上記相違点のうち、相違点2について検討する。 引用例1の摘記した上記イに記載されているように、引用例1の発明は、ほぼ無応力の複合基板を得ることを目的としており、第一の材料と第二の材料が拡散不整合(当審注:引用例1では、原文に記載された「dilatation mismatch」の翻訳として「拡散不整合」と記載しているが、正しくは「(熱)膨張不整合」と翻訳されるべきものであるので、以下「膨張不整合」と記載する。)を有する場合に、膨張不整合から生じる応力を吸収するために、複合基板の中間層として、第二の材料からなる構造を設け、当該構造が弾性的に変形することで、上記応力を吸収するようにしたものである。また、摘記した段落【0021】には、構造の寸法が10μmと10nmの間であれば、構造が弾性的に容易に変形できるとも記載されている。 そして、引用発明においては、上記「構造」として、「各々が10μmと10nmとの間程度の直径を有し、独立したSiO_(2)柱」を複数形成することにより、各「独立したSiO_(2)柱」が弾性的に変形して、応力の吸収を行うものと認められる。 ここで、仮に、引用発明において、「開口部」を「基板全面にわたって連続した単一の開口部」ではなく、複数個の孤立した開口部として設けるようにする、すなわち、本願の図4に記載された第2の層4のように、二酸化シリコン層内に多数の貫通開口を設ける構成にすると、「SiO_(2)柱」はもはや「独立した柱」ではなくなり、隣接した柱同士が連結して、より強固な構造物となり、また、隣接した柱同士が次々に連結すると、そのような構造の寸法は10μmを超えるものとなることは明らかであるから、そのような構造は弾性的に容易に変形できるものではなくなり、十分な応力の吸収能力を有さないものになるものと推定される。 したがって、引用発明において、「単一」個のみ形成されている「開口部」を、「複数個」設けるようにすることには、阻害要因が存在する。 以上から、引用発明において、「開口部」を「複数個」設けるようにすること、すなわち、上記相違点2に係る本願発明1の構成を採用することが、当業者が容易になし得たことであるということはできない。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 また、本願発明2は、請求項1を引用し、これをさらに限定する発明であるところ、本願発明1が、上記のように、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことから、本願発明2も、本願発明と同様に、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 また、本願発明3と本願発明4は、積層構造ウエーハの製造方法に係る発明であり、いずれも、「複数個の空洞を有する積層構造ウエーハ」という発明特定事項を有するものであるところ、引用例1には、「複数個の空洞を有する積層構造ウエーハ」について記載されておらず、また、引用例1の記載に基づいて「複数個の空洞を有する積層構造ウエーハ」とすることが当業者によって容易になし得ることができたものではないことは、上述のとおりである。 したがって、本願発明3と本願発明4も、引用例1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明1?本願発明4に係る発明はいずれも、引用発明もしくは引用例1の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-02-12 |
出願番号 | 特願2007-307147(P2007-307147) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(H01L)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 加藤 俊哉 |
特許庁審判長 |
鈴木 匡明 |
特許庁審判官 |
池渕 立 近藤 幸浩 |
発明の名称 | 複数個の空洞を有する積層構造ウエーハ及びその製造方法 |
代理人 | 奥貫 佐知子 |
代理人 | 小野 尚純 |