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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G10L
管理番号 1284634
審判番号 不服2013-12307  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-06-28 
確定日 2014-02-25 
事件の表示 特願2008-207501「無線通信モジュールおよび無線端末、無線通信方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 2月25日出願公開、特開2010- 44175、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成20年8月11日に出願したものであって、手続きの概要は以下のとおりである。

拒絶理由通知 :平成24年 6月26日(起案日)
意見書 :平成24年 9月 3日
手続補正 :平成24年 9月 3日
拒絶査定 :平成25年 3月29日(起案日)
拒絶査定不服審判請求 :平成25年 6月28日
手続補正 :平成25年 6月28日
審尋 :平成25年 9月18日(起案日)
回答書 :平成25年11月25日
拒絶理由通知 :平成25年12月27日(起案日)
意見書 :平成26年 1月16日
手続補正 :平成26年 1月16日

第2 本願発明

本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成26年 1月16日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。(以下、本願の請求項1に係る発明を「本願発明」という。)

「 【請求項1】
基地局から無線通信を介して受信した符号化音声データを復号し、音声再生ユニットに該復号した音声データを伝送する無線通信モジュールであって、
ADPCM方式である、第1の音声コーデック及び該第1の音声コーデックよりも変換レートが高い第2の音声コーデックの2種類を備え、そのいずれかの音声コーデックによって基地局からの前記符号化音声データを復号する復号部と、
前記音声再生ユニットとの接続端子に音声データを伝送する複数の伝送経路であって、該音声データのデータ形式を変換するデータ形式変換部、該音声データのノイズを抑制するノイズ抑制部、フィルタ及び当該音声データのデータ形式を前記データ形式変換部による変換前の形式に再変換する再変換部の順にそれぞれが設けられた第1の伝送経路と、前記データ形式変換部、前記ノイズ抑制部、前記フィルタ及び前記再変換部のいずれも設けられていない第2の伝送経路と、を含む複数の伝送経路と、
前記第1の音声コーデックが選択された場合に前記第1の伝送経路を選択し、前記第2の音声コーデックが選択された場合に前記第2の伝送経路を選択する経路選択部と、
を備えることを特徴とする無線通信モジュール。
【請求項2】
複数の変調方式を切り換えて基地局と通信可能であり、
前記復号部は、通信を行う基地局との間で用いる変調方式に応じて、前記複数の音声コーデックのうちのいずれかを選択することを特徴とする請求項1に記載の無線通信モジュール。
【請求項3】
前記経路選択部は、ハンドオーバする際に、切換先基地局において使用する音声コーデックに対応した伝送経路を再選択することを特徴とする請求項2に記載の無線通信モジュール。
【請求項4】
前記音声再生ユニットとの接続端子は、該音声再生ユニットに対する音声データとしてPCMデータが出力されることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の無線通信モジュール。
【請求項5】
操作部および音声出力部を有する音声再生ユニットと、当該音声再生ユニットに対して着脱可能、かつ基地局から無線通信を介して受信した符号化音声データを復号して前記音声再生ユニットに該復号した音声データを伝送する無線通信モジュールと、を有する無線端末であって、
前記無線通信モジュールは、
ADPCM方式である、第1の音声コーデック及び該第1の音声コーデックよりも変換レートが高い第2の音声コーデックの2種類を備え、そのいずれかの音声コーデックによって基地局からの前記符号化音声データを前記音声出力部にて再生可能な形式に復号する復号部と、
前記音声再生ユニットとの接続端子に音声データを伝送する複数の伝送経路であって、該音声データのデータ形式を変換するデータ形式変換部、該音声データのノイズを抑制するノイズ抑制部、フィルタ及び当該音声データのデータ形式を前記データ形式変換部による変換前の形式に再変換する再変換部の順にそれぞれが設けられた第1の伝送経路と、前記データ形式変換部、前記ノイズ抑制部、前記フィルタ及び前記再変換部のいずれも設けられていない第2の伝送経路と、を含む複数の伝送経路と、
前記操作部により通信の開始が指示された場合あるいはハンドオーバを行う場合、前記第1の音声コーデックが選択されると前記第1の伝送経路を選択し、前記第2の音声コーデックが選択されると前記第2の伝送経路を選択する経路選択部と、
を備えることを特徴とする無線端末。
【請求項6】
音声を再生可能な音声再生ユニットに接続された無線通信モジュールが、
ADPCM方式である、第1の音声コーデック及び該第1の音声コーデックよりも変換レートが高い第2の音声コーデックの2種類を備え、そのいずれかの音声コーデックによって基地局からの符号化音声データを復号し、
前記音声再生ユニットとの接続端子に復号した音声データを伝送する複数の伝送経路から、前記第1の音声コーデックが選択された場合に前記音声データのデータ形式を変換するデータ形式変換部、該音声データのノイズを抑制するノイズ抑制部、フィルタ及び当該音声データのデータ形式を前記データ形式変換部による変換前の形式に再変換する再変換部の順にそれぞれが設けられた第1の伝送経路を選択し、前記第2の音声コーデックが選択された場合に前記データ形式変換部、前記ノイズ抑制部、前記フィルタ及び前記再変換部のいずれも設けられていない第2の伝送経路を選択することを特徴とする無線通信方法。」

第3 原査定の理由の概要

この出願の請求項1ないし6に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2001-318694号公報
刊行物2:特開平03-104332号公報
刊行物3:特表2002-523806号公報
刊行物4:特開2007-116277号公報
刊行物5:特開2008-180996号公報
刊行物6:特開2002-051110号公報
刊行物7:国際公開第2008/078798号

第4 当審の判断

1.刊行物

刊行物1には、図面と共に、以下の記載がある。(なお、下線は当審で付与した。)

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、ディジタル携帯電話システムなどをはじめ、種々のディジタル通信方式の無線通信機器に用いられ、送受話音声に重畳される雑音を軽減するノイズサプレッサ(ノイズキャンセラ)に関する。」

(2)「【0014】この発明は上記の問題を解決すべくなされたもので、モードおよびレートの切り替え、あるいはハンズフリー/非ハンズフリーの切り替えなど、使用設定を変化させた場合でも、ノイズサプレッサが十分な機能を発揮し、高品質な音声を送受信することが可能な信号処理装置、信号処理方法および記録媒体を提供することを目的とする。」

(3)「【0018】また、上記の目的を達成するために、請求項8に係わる本発明は、圧縮された符号化音声データを音声信号に復号する復号手段と、この復号手段により復号された音声信号に含まれる雑音成分を抑圧する雑音抑圧手段とを備える信号処理装置であって、復号手段は、復(当審注.正しくは「符」)号化音声データに応じて複数の異なる復号化処理が可能であり、雑音抑圧手段は、復号手段にて実施される復号処理に応じた雑音抑圧特性を有するようにした。」

(4)「【0142】次に、この発明の第4の実施形態に係わる信号処理装置について説明する。図7は、その構成を示すものである。401は、ユーザの送話音声を電気信号に変換して取り込むマイクロフォン、402は、上記マイクロフォン401にて得たアナログ音声信号をディジタル信号の音声データに変換するA/D変換器、410は、ディジタル信号処理により、上記音声データに含まれる背景雑音を抑圧するノイズサプレッサ、403は、ノイズサプレッサ410により背景雑音が抑圧された音声データ、420は、403のディジタルデータを圧縮符号化する音声符号化器、404は、音声符号化器420によってデータ圧縮された符号化データである。
【0143】音声符号化器420は、互いに異なる符号化レートで音声データを符号化する3つの回路として、Aレート符号化部421、Bレート符号化部422、Cレート符号化部423を備えるほかに、符号化レート切換制御部424を備える。
【0144】ここで例えば、Aレート符号化部421は、符号化を行う上記3つの回路のうち、最も符号化レートは低いものであり、Cレート符号化部423は、符号化を行う上記3つの回路のうち、最も符号化レートが高いものであり、またBレート符号化部422は、Aレート符号化部421とCレート符号化部423の中間の符号化レートとする。
【0145】符号化レート切換制御部424は、外部からの符号化レート選択コマンド405に応じて、Aレート符号化部421、Bレート符号化部422、Cレート符号化部423のうち、いずれか1つが機能するように切換制御するとともに、この切換制御により機能するレートを示す情報を、符号化レート選択情報406として、ノイズサプレッサ410に出力する。
【0146】ノイズサプレッサ410は、ノイズサプレス部415と、パラメータテーブル416と、パラメータ切換制御部417とを備える。ノイズサプレス部415は、A/D変換器402が出力する音声データに含まれる背景雑音を抑圧するもので、その抑圧特性は、パラメータテーブル416より入力されるパラメータによって制御される。
【0147】パラメータテーブル416は、ノイズサプレス部415にて行われる背景雑音の抑圧処理の特性を設定するパラメータを記憶するテーブルで、Aレート符号化部421、Bレート符号化部422、Cレート符号化部423の各符号化レートにそれぞれ最適な抑圧特性となるような3つのパラメータセットを記憶し、パラメータ切換制御部417の制御によりパラメータセットをノイズサプレス部415に入力する。
【0148】パラメータ切換制御部417は、パラメータテーブル416を制御して、符号化レート選択情報406に基づき、音声符号化器420にて機能する符号化部(421,422,423のいずれか)に最適なパラメータセットを選択的にノイズサプレス部415に設定するものである。
【0149】このような符号化部とノイズサプレス部のパラメータ設定(抑圧特性設定)との対応を最適なものにするために、例えば、Aレート符号化部421に対応するパラメータセットとしては、ノイズ抑圧量を強めに設定し、若干音声部分に歪みが生じても、極力ノイズを抑えるような特性が得られるパラメータセットととし、またCレート符号化部423に対応するパラメータセットとしては、ノイズ抑圧量は軽めに設定し、自然に聞こえる程度のノイズは透過させるような特性が得られるパラメータセットとする。
【0150】また、Bレート符号化部422に対応するパラメータセットとしては、Aレート符号化部421用の特性とCレート符号化部423用の特性の中間の特性が得られるパラメータセットとする。」

(5)「【0185】また、この発明は、このような送話音声を符号化する場合にのみ適用が限定されるものではなく、図12に示すような符号化音声データを復号する場合にも適用可能である。
【0186】なお、この図において、3はスピーカであり、2はD/A変換器で、40は、複数の復号方式、あるいは複数の符号化レートを選択的に用いて音声データを復号する復号器で、ノイズサプレッサ30が音声復号器40の復号処理に合わせ、最適な背景雑音の抑圧処理を行う。
【0187】このように、復号側にも適用する場合においても、前述の符号化の例と同様に、4つの形態を構成することが可能であり、このような各構成において、復号方式や符号化レートの切り替えた場合でも、ノイズサプレッサが十分な機能を発揮し、高品質な音声を受信することができる。」

(6)「【0193】さらにまた、第4の実施形態において、ノイズサプレッサ410の構成を、特定の符号化レート情報が検出された時に、全部の周波数帯域または一部の周波数帯域で雑音抑圧をOFFとする(雑音抑圧を行わない)構成にすることも可能である。
【0194】図14は、このような雑音抑圧を行う場合の構成をノイズサプレッサ410に適用したもので、以下、この図を参照して詳細に説明する。なお、ここでは、音声信号をM個の周波数帯域に分割し、スペクトルサブトラクション法(SS法)により雑音抑圧を行う方法を例に挙げて説明する。雑音抑圧の方式によっても異なるが、Mの値は通常6?32程度が用いられる。
【0195】パラメータ切換制御部417は、音声符号化器420で用いる符号化の符号化レートを、符号化レート選択情報406から検出し、この検出した符号化レートに応じて、このレートに対応するパラメータテーブル416のパラメータセットをパラメータテーブル416より、ノイズサプレス部415の帯域別抑圧係数計算部460に出力させる。
【0196】この時、パラメータテーブル416より帯域別抑圧係数計算部460に入力されるパラメータセットは、L個の制御パラメータよりなる。この際、全周波数帯域で等しい程度の雑音抑圧を制御する場合は、1つの符号化レートに対しL=1個の制御パラメータを出力する。
【0197】一方、M個の周波数帯域毎に異なる雑音抑圧を制御するためには、1つの符号化レートに対しL=M個の制御パラメータを発生する。Lの値はこれに限られるものではない。
【0198】ここでは以降の説明の簡単化のため、符号化レートはA,B,Cの3種類、L=Mとする。この時、符号化レートAに対する制御パラメータはC(A,0)、C(A,1)、…、C(A,M-1)と表すことができる。
【0199】C(A,k)は、符号化レートAに対し、M個に分割した周波数帯域のうちK番目の帯域を制御するための制御パラメータを表す。これをまとめたものを図15に示す。
【0200】ノイズサプレス部415は、第4の実施形態でも説明したように、パラメータテーブル416からの制御パラメータに応じて、入力信号の雑音抑圧を行うもので、FFT部440、帯域別雑音量推定部450、帯域別抑圧係数計算部460、雑音抑圧部470、逆FFT部480から構成される。
【0201】FFT部440は、入力音声信号をFFT(高速フーリエ変換)により時間領域から周波数領域に変換する。なお、その他、周波数領域への変換法としてはDFT,DCTなど他の変換法を用いることができる。
【0202】帯域別雑音量推定部450は、周波数領域に変換された音声信号を所定M個の帯域に分割し、音声信号に含まれる雑音量を帯域別に推定する。帯域別抑圧係数計算部460は、帯域別雑音量推定部450で推定された帯域別の雑音量を基に、帯域別の雑音抑圧係数を計算する。
【0203】なお、ここでは、帯域別の雑音抑圧係数をD(0),D(1),…,D(M-1)とする。D(k)は、M個に分割した周波数帯域のうちk番目の帯域を制御するために用いる雑音抑圧係数を表す。
【0204】本発明では、入力信号の分析だけで求められた上記雑音抑圧係数以外に、符号化レート情報から求められる制御パラメータを用いて雑音抑圧処理を制御する。これを実現する1つの方法は、制御パラメータを雑音抑圧係数に乗算したものを新たな雑音抑圧係数として使用できるように制御パラメータを設定することである。
【0205】具体的には、例えば、以下のような操作を行うことにより、符号化レート情報から求められる制御パラメータC(k)を用いて雑音抑圧係数D(k)を更新する。更新後の雑音抑圧係数D(k)は、雑音抑圧部470へ出力される。
【0206】
D(k)←D(k)×C(k) (k=0,…,M-1)
雑音抑圧部470は、入力音声信号から求められた周波数領域の音声スペクトルに対し、帯域別抑圧係数計算部460で求められた更新後の抑圧係数を用いて1-D(k)を帯域別に乗じることで雑音抑圧された音声スペクトルが生成される。逆FFT部480は、雑音抑圧部470で生成された音声スペクトルを時問領域の音声信号に変換する。
【0207】ここで、例えば、最も符号化レートが高い符号化レートCの時に、全周波数帯域で雑音抑圧をOFF(雑音抑圧を行わない)とするには、図16のようにビットレートCが検出された時に使用する帯域別制御パラメータを全て「0」に設定すればよい。
【0208】また、符号化レートBの時に、周波数帯域M-1でだけ雑音抑圧をOFF(雑音抑圧を行わない)とするには、図17のように符号化レートBが検出された時に使用する帯域M-1用の制御パラメータを「0」に設定すればよい。このような構成によれば、これ以外にも様々な設定が可能であることは言うまでも無い。
【0209】このように、符号化レート情報から生成される制御パラメータを用いてノイズサプレス部415で行う雑音抑圧処理を制御することにより、従来よりも雑音抑圧と可変レート音声符号化のトータル的なバランスを考慮した可変レート音声処理装置を実現できる。
【0210】公知の雑音抑圧処理では、入力音声信号に含まれる雑音だけを完全に取り除くことはできないことは周知の事実である。雑音を完全に取り去ろうとすると音声信号の一部が雑音と共に取り去られてしまうことで、音が欠けたり、雑音と異なる異音が混入するなどが原因で、雑音抑圧後の音声の自然が失われるという劣化を引き起こす。
【0211】一方、音声符号化にとっては、できるだけ雑音が混入していないクリーンな音声信号の方が、符号化の分析がうまく行くこと、符号化モデルにあっていることなどの理由で、符号化による音質の劣化が一般的に小さいことが知られている。
【0212】逆に、背景雑音が多く含まれる音声信号を符号化すると、特に低符号化レートの音声符号化では、非音声部分の符号化が著しく劣化するため、背景雑音をある程度抑圧した後の音声信号を符号化した方が品質が向上する。
【0213】一方、高い符号化レートの音声符号化では、背景雑音が多少多く含まれる音声であっても、符号化自体の能力が高いために背景雑音による音質の劣化が小さく、音質も比較的自然なものが得られる。
【0214】このように、ある程度の雑音抑圧をすることは低い符号化レートの音声符号化を用いる場合に、トータルの音声品質に良い影響をもたらす可能性が高い傾向にあるが、高い符号化レートの音声符号化を用いる場合には自然性の高い音質が要求されるアプリケーションにおいては、必ずしも通常の雑音抑圧が必要とは限らない。
【0215】このような場合に、図16で説明した特定の符号化レート(1つの符号化レートとは限らない)で帯域別の制御パラメータを全て「0」に設定することにより、全周波数帯域で雑音抑圧をOFF(雑音抑圧を行わない)とする方法が有効になる。
【0216】このため、図14に示したノイズサプレッサ420を用いることにより、符号化レートに応じて雑音抑圧機能を従来よりも柔軟に制御できるため、背景雑音が多く混入するような実環境下で可変レート音声処理装置を使用する際の音声品質を改善できる。
【0217】なお、ここでは、図7に示すような符号化側で符号化レートを可変する構成のノイズサプレッサ410に適用する場合について説明したが、復号側にて符号化レートに応じた雑音抑圧を行うノイズサプレッサに適用したり、あるいは符号化方式あるいは復号方式に応じた雑音抑圧を行うノイズサプレッサに適用することも可能で、その場合にも同様の効果を奏することはいうまでもない。」

刊行物1の【発明の実施の形態】は、主に、発明を、送話音声を符号化する場合に適用した例について説明しているが、図12に示すような符号化音声データを復号する場合にも適用可能である旨の記載(摘示事項(5))があることを踏まえて、「符号化」に関する記載を「復号」に関する記載として捉えると、上記摘示事項及び図面の記載から以下のことがいえる。

(a)刊行物1には、「ディジタル携帯電話システムなどをはじめ、種々のディジタル通信方式の無線通信機器に用いられ、送受話音声に重畳される雑音を軽減するノイズサプレッサ(ノイズキャンセラ)」が記載されている(摘示事項(1))。

(b)圧縮された符号化音声データを音声信号に復号する復号手段と、この復号手段により復号された音声信号に含まれる雑音成分を抑圧する雑音抑圧手段とを備える信号処理装置であって、復号手段は、符号化音声データに応じて複数の異なる復号化処理が可能であり、雑音抑圧手段は、復号手段にて実施される復号処理に応じた雑音抑圧特性を有する(摘示事項(3))。

(c)データ圧縮された符号化データが音声復号器に入力され、音声復号器から出力される音声データがノイズサプレッサに入力され、ノイズサプレッサから出力される背景雑音が抑圧された音声データがD/A変換器に入力され、D/A変換器から出力されるアナログ音声信号がスピーカに入力される。音声復号器が複数の符号化レートを選択的に用いて音声データを復号し、ノイズサプレッサが音声復号器の復号処理に合わせ、最適な背景雑音の抑圧処理を行う(摘示事項(5)、図12)。

(d)音声復号器は、互いに異なる符号化レートで音声データを復号する3つの回路として、最も符号化レートが低いAレート復号部、符号化レートが中間のBレート復号部、最も符号化レートが高いCレート復号部を備えるほかに、Aレート復号部、Bレート復号部、Cレート復号部のうち、いずれか1つが機能するように切換制御するとともに、この切換制御により機能するレートを示す情報を、符号化レート選択情報として、ノイズサプレッサに出力する符号化レート切換制御部を備える(摘示事項(4)、(5)、図12)。

(e)ノイズサプレッサは、ノイズサプレス部と、パラメータテーブルと、パラメータ切換制御部とを備え、ノイズサプレス部は、音声復号器が出力する音声データに含まれる背景雑音を抑圧するもので、その抑圧特性は、符号化レート選択情報に基づき、パラメータテーブルより入力されるパラメータによって制御される(摘示事項(4)、(5)、図12)。

(f)最も符号化レートが高い符号化レートCの時に、全周波数帯域で雑音抑圧をOFF(雑音抑圧を行わない)とするには、図16のようにビットレートCが検出された時に使用する帯域別制御パラメータを全て「0」に設定すればよい(摘示事項(6))。

以上を総合勘案すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認める。

「ディジタル携帯電話システムの無線通信機器に用いられ、圧縮された符号化音声データを復号し、D/A変換器及びスピーカに復号した音声データを出力する信号処理装置であって、
互いに異なる符号化レートで音声データを復号する3つの回路として、最も符号化レートが低いAレート復号部、符号化レートが中間のBレート復号部、最も符号化レートが高いCレート復号部を備えるほかに、Aレート復号部、Bレート復号部、Cレート復号部のうち、いずれか1つが機能するように切換制御するとともに、この切換制御により機能するレートを示す情報を、符号化レート選択情報として、ノイズサプレッサに出力する符号化レート切換制御部を備える音声復号器と、
ノイズサプレス部と、パラメータテーブルと、パラメータ切換制御部とを備え、ノイズサプレス部は、音声復号器が出力する音声データに含まれる背景雑音を抑圧するもので、その抑圧特性は、符号化レート選択情報に基づき、パラメータテーブルより入力されるパラメータによって制御されるノイズサプレッサと
を備え、
最も符号化レートが高い符号化レートCの時に、全周波数帯域で雑音抑圧をOFF(雑音抑圧を行わない)とするために、ビットレートCが検出された時に使用する帯域別制御パラメータを全て「0」に設定した信号処理装置。」

2.対比

そこで、本願発明と引用発明とを対比する。

(1)無線通信モジュール
引用発明は、ディジタル携帯電話システムの無線通信機器に用いられる信号処理装置であるから、「符号化音声データ」は、基地局から無線通信を介して受信したものである。引用発明の「無線通信機器」は、「無線端末」といえる。引用発明の「D/A変換器及びスピーカ」は、「無線端末」の「音声再生部」といえる。引用発明の「信号処理装置」は、「無線端末」の「一部」といえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「基地局から無線通信を介して受信した符号化音声データを復号し、無線端末の音声再生部に該復号した音声データを伝送する無線端末の一部」である点で一致し、
「無線端末の音声再生部」、「無線端末の一部」が、本願発明は、それぞれ、「音声再生ユニット」、「無線通信モジュール」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。

(2)復号部
引用発明の「復号部」は、圧縮された符号化音声データを復号するから、「音声コーデック」といえる。引用発明の「音声復号器」は、互いに異なる符号化レートで音声データを復号する3つの回路として、最も符号化レートが低いAレート復号部、符号化レートが中間のBレート復号部、最も符号化レートが高いCレート復号部を備えるほかに、Aレート復号部、Bレート復号部、Cレート復号部のうち、いずれか1つが機能するように切換制御する切換制御部を備えるから、「Aレート復号部」若しくは「Bレート復号部」、「Cレート復号部」を、それぞれ、「第1の音声コーデック」、「第2の音声コーデック」ということができる。引用発明の「音声復号器」は、「復号部」といえる。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「第1の音声コーデック及び該第1の音声コーデックよりも変換レートが高い第2の音声コーデックの2種類を備え、そのいずれかの音声コーデックによって基地局からの前記符号化音声データを復号する復号部」を備える点で一致し、
「音声コーデック」が、本願発明は、「ADPCM方式」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点で相違する。

(3)複数の伝送経路
引用発明の「ノイズサプレッサ」は、「ノイズ抑制部」といえる。引用発明の、音声復号器から出力される音声データがノイズサプレッサに入力され、ノイズサプレッサから出力される背景雑音が抑圧された音声データがD/A変換器に入力される経路を、「伝送経路」ということができる。
したがって、本願発明と引用発明とは、
「前記無線端末の音声再生部に音声データを伝送する伝送経路であって、該音声データのノイズを抑制するノイズ抑制部が設けられた伝送経路」を備える点で一致し、
「伝送経路」が、
本願発明は、「前記音声再生ユニットとの接続端子に音声データを伝送する」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点、
本願発明は、「複数の伝送経路であって、該音声データのデータ形式を変換するデータ形式変換部、該音声データのノイズを抑制するノイズ抑制部、フィルタ及び当該音声データのデータ形式を前記データ形式変換部による変換前の形式に再変換する再変換部の順にそれぞれが設けられた第1の伝送経路と、前記データ形式変換部、前記ノイズ抑制部、前記フィルタ及び前記再変換部のいずれも設けられていない第2の伝送経路と、を含む複数の伝送経路」であるのに対し、引用発明は、「その抑圧特性は、符号化レート選択情報に基づき、パラメータテーブルより入力されるパラメータによって制御されるノイズサプレッサ」が設けられた伝送経路である点
で相違する。

(4)経路選択部
本願発明と引用発明とは、音声データのノイズを抑制するか否かを選択する構成が、本願発明は、「前記第1の音声コーデックが選択された場合に前記第1の伝送経路を選択し、前記第2の音声コーデックが選択された場合に前記第2の伝送経路を選択する経路選択部」であるのに対し、引用発明は、「最も符号化レートが高い符号化レートCの時に、全周波数帯域で雑音抑圧をOFF(雑音抑圧を行わない)とするために、ビットレートCが検出された時に使用する帯域別制御パラメータを全て「0」に設定した」ことである点で相違する。

そうすると、本願発明と引用発明とは、次の点で一致する。

<一致点>

「基地局から無線通信を介して受信した符号化音声データを復号し、無線端末の音声再生部に該復号した音声データを伝送する無線端末の一部であって、
第1の音声コーデック及び該第1の音声コーデックよりも変換レートが高い第2の音声コーデックの2種類を備え、そのいずれかの音声コーデックによって基地局からの前記符号化音声データを復号する復号部と、
前記無線端末の音声再生部に音声データを伝送する伝送経路であって、該音声データのノイズを抑制するノイズ抑制部が設けられた伝送経路と、
を備える無線端末の一部。」の点。

そして、次の点で相違する。

<相違点>

(1)「無線端末の音声再生部」、「無線端末の一部」が、本願発明は、それぞれ、「音声再生ユニット」、「無線通信モジュール」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

(2)「音声コーデック」が、本願発明は、「ADPCM方式」であるのに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

(3)「伝送経路」が、本願発明は、「前記音声再生ユニットとの接続端子に音声データを伝送する」のに対し、引用発明は、そのような特定がない点。

(4)「伝送経路」が、本願発明は、「複数の伝送経路であって、該音声データのデータ形式を変換するデータ形式変換部、該音声データのノイズを抑制するノイズ抑制部、フィルタ及び当該音声データのデータ形式を前記データ形式変換部による変換前の形式に再変換する再変換部の順にそれぞれが設けられた第1の伝送経路と、前記データ形式変換部、前記ノイズ抑制部、前記フィルタ及び前記再変換部のいずれも設けられていない第2の伝送経路と、を含む複数の伝送経路」であるのに対し、引用発明は、「その抑圧特性は、符号化レート選択情報に基づき、パラメータテーブルより入力されるパラメータによって制御されるノイズサプレッサ」が設けられた伝送経路である点。

(5)音声データのノイズを抑制するか否かを選択する構成が、本願発明は、「前記第1の音声コーデックが選択された場合に前記第1の伝送経路を選択し、前記第2の音声コーデックが選択された場合に前記第2の伝送経路を選択する経路選択部」であるのに対し、引用発明は、「最も符号化レートが高い符号化レートCの時に、全周波数帯域で雑音抑圧をOFF(雑音抑圧を行わない)とするために、ビットレートCが検出された時に使用する帯域別制御パラメータを全て「0」に設定した」ことである点。

3.判断

上記相違点(4)に係る本願発明の構成である、「複数の伝送経路であって、該音声データのデータ形式を変換するデータ形式変換部、該音声データのノイズを抑制するノイズ抑制部、フィルタ及び当該音声データのデータ形式を前記データ形式変換部による変換前の形式に再変換する再変換部の順にそれぞれが設けられた第1の伝送経路と、前記データ形式変換部、前記ノイズ抑制部、前記フィルタ及び前記再変換部のいずれも設けられていない第2の伝送経路と、を含む複数の伝送経路」と、上記相違点(5)に係る本願発明の構成である、「第1の音声コーデックが選択された場合に前記第1の伝送経路を選択し、第1の音声コーデックよりも変換レートが高い第2の音声コーデックが選択された場合に前記第2の伝送経路を選択する経路選択部」とは、両者をともに備えることによって技術的意義が生じるものであるから、上記相違点(4)、(5)を一つの相違点、

本願発明は、「複数の伝送経路であって、該音声データのデータ形式を変換するデータ形式変換部、該音声データのノイズを抑制するノイズ抑制部、フィルタ及び当該音声データのデータ形式を前記データ形式変換部による変換前の形式に再変換する再変換部の順にそれぞれが設けられた第1の伝送経路と、前記データ形式変換部、前記ノイズ抑制部、前記フィルタ及び前記再変換部のいずれも設けられていない第2の伝送経路と、を含む複数の伝送経路」と、「第1の音声コーデックが選択された場合に前記第1の伝送経路を選択し、第1の音声コーデックよりも変換レートが高い第2の音声コーデックが選択された場合に前記第2の伝送経路を選択する経路選択部」とを備えるのに対し、引用発明は、「その抑圧特性は、符号化レート選択情報に基づき、パラメータテーブルより入力されるパラメータによって制御されるノイズサプレッサ」が設けられた伝送経路を備え、「最も符号化レートが高い符号化レートCの時に、全周波数帯域で雑音抑圧をOFF(雑音抑圧を行わない)とするために、ビットレートCが検出された時に使用する帯域別制御パラメータを全て「0」に設定した」ものである点。

として検討する。

刊行物2には、復号器側では、符号化ビットの廃棄・削除によって劣化した復号化音声信号の受聴品質を改善するためのフィルタリングを行ない、符号器側では、音声信号の符号化ビットの削減に際し、聴感上の品質に与える影響が少ない符号化ビットや区間を優先的に選択して廃棄・削除することが記載されている.
刊行物3には、音声信号を分類して雑音のフィルタリングが必要であったら、フィルタリングを実行することが記載されている。
刊行物4には、PHS端末等の移動通信端末の無線通信部分を小型化して独立させたモジュールが記載されている。
刊行物5には、16kbpsADPCMにおける音声データ再生時に、エラー検出部がエラーを検出した場合、再生バッファに格納された符号化音声データの前回値を維持し、エラー検出部が所定回数以上連続してエラーを検出した場合、復号すると無音または任意の音声となる符号化音声データを再生バッファに格納することが記載されている。
刊行物6には、ハンドオーバ時に音声圧縮方式を通知する前記信号を基地局又は回線交換局から再度受取り、受取った前記信号に基づいて音質モードを再設定することが記載されている。
刊行物7には、移動に伴い無線通信端末が他の無線通信ネットワークへのハンドオーバを行うことを余儀なくされた場合、ハンドオーバ先の無線通信ネットワークが提供できる帯域や遅延特性(平均遅延、ジッタなど)などのパラメータを通信相手に通知することが記載されている。

しかしながら、刊行物2ないし7のいずれにも、「複数の伝送経路であって、該音声データのデータ形式を変換するデータ形式変換部、該音声データのノイズを抑制するノイズ抑制部、フィルタ及び当該音声データのデータ形式を前記データ形式変換部による変換前の形式に再変換する再変換部の順にそれぞれが設けられた第1の伝送経路と、前記データ形式変換部、前記ノイズ抑制部、前記フィルタ及び前記再変換部のいずれも設けられていない第2の伝送経路と、を含む複数の伝送経路」と、「第1の音声コーデックが選択された場合に前記第1の伝送経路を選択し、第1の音声コーデックよりも変換レートが高い第2の音声コーデックが選択された場合に前記第2の伝送経路を選択する経路選択部」とを備えることは記載されていない。
また、刊行物2ないし7のいずれに記載された技術的事項を組み合わせても、「複数の伝送経路であって、該音声データのデータ形式を変換するデータ形式変換部、該音声データのノイズを抑制するノイズ抑制部、フィルタ及び当該音声データのデータ形式を前記データ形式変換部による変換前の形式に再変換する再変換部の順にそれぞれが設けられた第1の伝送経路と、前記データ形式変換部、前記ノイズ抑制部、前記フィルタ及び前記再変換部のいずれも設けられていない第2の伝送経路と、を含む複数の伝送経路」と、「第1の音声コーデックが選択された場合に前記第1の伝送経路を選択し、第1の音声コーデックよりも変換レートが高い第2の音声コーデックが選択された場合に前記第2の伝送経路を選択する経路選択部」とを備える構成にはならない。
したがって、引用発明に刊行物2ないし7に記載された技術的事項を適用しても本願発明には至らない。

ましてや、相違点(1)ないし(5)をすべて克服することが、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。

したがって、本願発明は、引用発明及び刊行物2ないし7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

請求項2ないし4は、請求項1を直接若しくは間接に引用する請求項であるから、請求項2ないし4に係る発明も、本願発明と同様に、引用発明及び刊行物2ないし7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

請求項5に係る発明は、本願発明の「無線通信モジュール」を備える「無線端末」であるから、請求項5に係る発明も、本願発明と同様に、引用発明及び刊行物2ないし7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

請求項6に係る発明は、本願発明とはカテゴリーは異なるものの、その内容は実質的に同じであるから、請求項5に係る発明も、本願発明と同様に、引用発明及び刊行物2ないし7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない

第5 むすび

以上のとおり、本願の請求項1ないし6に係る発明は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2ないし7に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-02-12 
出願番号 特願2008-207501(P2008-207501)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G10L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井上 健一  
特許庁審判長 石井 研一
特許庁審判官 乾 雅浩
関谷 隆一
発明の名称 無線通信モジュールおよび無線端末、無線通信方法  
代理人 特許業務法人 アクア特許事務所  
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