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審決分類 審判 査定不服 特174条1項 特許、登録しない。 C10L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C10L
管理番号 1284685
審判番号 不服2012-13382  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-07-12 
確定日 2014-02-13 
事件の表示 特願2011-251378「バイオガスの付臭設備」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月 6日出願公開、特開2013-107923〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成23年11月17日の出願であって、平成24年1月16日(以下の日付はいずれも平成24年のものである。)に早期審査に関する事情説明書が提出され、2月8日付けの拒絶理由通知に対して、3月26日に意見書及び手続補正書が提出され、4月11日付けで拒絶査定がされ、7月12日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同日付けで手続補正書が提出され、10月29日付けの審尋に対して、12月11日に回答書が提出されたものである。

第2 平成24年7月12日付け手続補正の補正却下の決定について
[補正却下の決定の結論]
平成24年7月12日付け手続補正を却下する。

[理由]
1.補正の内容
平成24年7月12日付け手続補正(以下、「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲の請求項1である、
「不活性ガスを供給する不活性ガス供給源と、
付臭剤を貯留する付臭剤タンクと、
前記不活性ガス供給源と前記付臭剤タンクとを接続し、前記不活性ガス供給源からの前記不活性ガスを前記付臭剤タンク内に導く不活性ガス配管と、
前記付臭剤タンク内から前記付臭剤を送り出す定量ポンプと、
前記定量ポンプが送り出した前記付臭剤を、バイオガスが流通するバイオガス配管内に注入する付臭剤配管と、
前記不活性ガス配管に設けられ、前記付臭剤タンク内に供給される前記不活性ガスの圧力を一定に保つ減圧弁と、
前記付臭剤配管に設けられ、前記定量ポンプの出口側の圧力を一定に保つ背圧弁と、
を有し、
前記背圧弁は、前記バイオガス配管の直近に配置されていることを特徴とするバイオガスの付臭設備。」
を、
「不活性ガスを供給する不活性ガス供給源と、
付臭剤を貯留する付臭剤タンクと、
前記不活性ガス供給源と前記付臭剤タンクとを接続し、前記不活性ガス供給源からの前記不活性ガスを前記付臭剤タンク内に導く不活性ガス配管と、
前記付臭剤タンク内から微量の前記付臭剤を送り出す定量ポンプと、
前記定量ポンプが送り出した微量の前記付臭剤を、バイオガスが流通するバイオガス配管内に注入する付臭剤配管と、
前記不活性ガス配管に設けられ、前記付臭剤タンク内に供給される前記不活性ガスの圧力を一定に保つ減圧弁と、
前記付臭剤配管に設けられ、前記定量ポンプの出口側の圧力を一定に保つ背圧弁と、
を有し、
前記背圧弁は、前記バイオガス配管の直近に配置されており、
前記背圧弁の設定圧力が、前記バイオガス配管を流通する前記バイオガスの最大圧力の1.8倍以上にされていることを特徴とするバイオガスの付臭設備。」
とする補正、補正前の特許請求の範囲の請求項3を削除し補正前の請求項4を請求項3とする補正、及び、それらの特許請求の範囲の補正の内容に発明の詳細な説明の段落【0007】、【0008】の記載を対応させる補正を含むものである。
そこで、これらの補正のうち、特許請求の範囲の請求項1についての補正が適法になされたものであるか否かについて検討する。

特許請求の範囲の請求項1についての補正は、
・「前記付臭剤タンク内から前記付臭剤を送り出す定量ポンプ」を「前記付臭剤タンク内から微量の前記付臭剤を送り出す定量ポンプ」とする補正事項(補正事項1)
・「前記定量ポンプが送り出した前記付臭剤」を「前記定量ポンプが送り出した微量の前記付臭剤」とする補正事項(補正事項2)
・「前記背圧弁の設定圧力が、前記バイオガス配管を流通する前記バイオガスの最大圧力の1.8倍以上にされていること」との事項を加える補正事項(補正事項3)
を含むものである。

2.新規事項の追加について
上記補正事項1?3のうち、補正事項3が、新規事項の追加にあたるか否かについて検討する。
補正事項3は、背圧弁の設定圧力の大きさとバイオガス配管を流通するバイオガスの最大圧力の大きさとの関係を規定するものであるが、本件出願の当初の明細書(以下、「当初明細書」という。)の発明の詳細な説明において、背圧弁の設定圧力とバイオガス配管を流通するバイオガスの最大圧力について如何なる記載がされていたかをみると、次のa?eの記載がされていたものと認められる。

a「【0007】
本発明におけるバイオガスの付臭設備は、…前記付臭剤配管に設けられ、前記定量ポンプの出口側の圧力を一定に保つ背圧弁と、を有することを特徴とする。
【0008】
上記の構成によれば、…背圧弁により、定量ポンプの出口側の圧力は、バイオガス配管を流れるバイオガスの圧力変化の影響を受けることなく、一定となる。…」

b「【0010】
また、本発明におけるバイオガスの付臭設備において、前記背圧弁の設定圧力が、前記バイオガス配管を流通する前記バイオガスの最大圧力よりも高くてよい。上記の構成によれば、バイオガス配管を流通するバイオガスの流量が変動し、バイオガス配管を流通するバイオガスの圧力が、バイオガス配管内に注入される付臭剤の圧力よりも高くなると、付臭剤配管内の付臭剤をバイオガス配管内に注入できなくなり、付臭剤の注入量が低下する。そこで、背圧弁の設定圧力を、バイオガス配管を流通するバイオガスの最大圧力よりも高くする。すると、バイオガス配管を流通するバイオガスの圧力よりも、バイオガス配管内に注入される付臭剤の圧力の方が高くなるので、付臭剤配管内の付臭剤をバイオガス配管内に安定して注入することができる。よって、バイオガス配管を流通するバイオガスの流量変動の影響を受けることなく付臭剤を注入することができる。」

c「【0018】
また、付臭設備1は、付臭剤配管6に設けられた背圧弁9を有している。 背圧弁9は、この背圧弁9の一次側(入口側)の付臭剤の圧力を一定に保っている。具体的には、背圧弁9は、背圧弁9の一次側の付臭剤の圧力、即ち、定量ポンプ5から送り出されて背圧弁9に入る前の付臭剤の圧力を例えば0.6MPaで一定に保っている。」

d「【0020】
ここで、定量ポンプ5は、圧力変化の影響を受ける。そのため、バイオガス配管21を流れるバイオガスの圧力変化の影響を受けて、定量ポンプ5の出口側の圧力が変化する。
また、付臭剤タンク3内の付臭剤の減少に伴い付臭剤タンク3の内圧が低下することで、定量ポンプ5の入口側の圧力が変化する。定量ポンプ5の圧力が変化すると、定量ポンプ5の能力にムラが生じ、バイオガスへの付臭剤の注入量(重量)が微妙に変化する。…そのため、注入量(重量)の微妙な変化でバイオガスの付臭濃度は不安定になる。
【0021】
そこで、背圧弁9で、定量ポンプ5から吐出されて背圧弁9に入る前の付臭剤の圧力を0.6MPaで一定に保っている。これにより、定量ポンプ5の出口側の圧力は、バイオガス配管21を流れるバイオガスの圧力変化の影響を受けることなく、一定となっている。…
【0022】
このように、定量ポンプ5の入口側および出口側の圧力を一定にすることによって、定量ポンプ5の能力を一定にすることができるから、付臭剤の注入量を安定させ、且つ、付臭濃度を安定させることができる。」

e「【0026】
また、バイオガス配管21を流通するバイオガスの圧力は、例えば0.15?0.25MPaである。これに対して、背圧弁9は、定量ポンプ5から吐出されて背圧弁9に入る前の付臭剤の圧力を例えば0.6MPaで一定に保っている。
【0027】
ここで、バイオガス配管21を流通するバイオガスの流量が変動し、バイオガス配管21を流通するバイオガスの圧力が、バイオガス配管21内に注入される付臭剤の圧力よりも高くなると、付臭剤配管6内の付臭剤をバイオガス配管21内に注入できなくなることで、付臭剤の注入量が低下する。
【0028】
そこで、背圧弁9の設定圧力を、バイオガス配管21を流通するバイオガスの最大圧力よりも高くする。具体的には、背圧弁9の設定圧力を、バイオガスの最大圧力である0.25MPaよりも0.2MPa以上高い0.6MPaとする。すると、バイオガス配管21を流通するバイオガスの圧力よりも、バイオガス配管21内に注入される付臭剤の圧力の方が高くなるので、付臭剤配管6内の付臭剤をバイオガス配管21内に安定して注入することができる。よって、バイオガス配管21を流通するバイオガスの流量変動の影響を受けることなく付臭剤を注入することができる。」

以上のa?eの記載事項によると、当初明細書の発明の詳細な説明には、背圧弁によって、定量ポンプの出口側の圧力がバイオガス配管を流れるバイオガスの圧力変化の影響を受けることなく一定となること(記載事項a)、バイオガス配管を流通するバイオガスの流量変動の影響を受けることなく付臭剤を注入することができるようにするために、背圧弁の設定圧力をバイオガス配管を流通するバイオガスの最大圧力よりも高く設定すること(記載事項b)が記載されていたものと認められる。
そして、背圧弁の設定圧力をバイオガス配管を流通するバイオガスの最大圧力よりも高く設定するにあたっての具体的な圧力について、
・背圧弁は、定量ポンプから送り出されて背圧弁に入る前の付臭剤の圧力を例えば0.6MPaで一定に保つこと(記載事項c?e)
・バイオガス配管を流通するバイオガスの圧力は、例えば、0.15?0.25MPaであるのに対して、背圧弁は、定量ポンプから吐出されて背圧弁に入る前の付臭剤の圧力を、具体的には、バイオガスの最大圧力である0.25MPaよりも0.2MPa以上高い0.6MPaとすること(記載事項e)
が、記載されていたものと認められる。

以上によると、当初明細書の発明の詳細な説明には、背圧弁の設定圧力の大きさとバイオガス配管を流通するバイオガスの最大圧力の大きさとの関係については、バイオガス配管を流通するバイオガスの圧力が例えば0.15?0.25MPa(即ち、最大圧力0.25MPa)であるのに対して、背圧弁の設定圧力をバイオガスの最大圧力である0.25MPaよりも0.2MPa以上高い0.6MPaとすることは記載されていたと認められるが、背圧弁の設定圧力をバイオガス配管を流通するバイオガスの最大圧力の何倍になるようにするかについては何ら記載されておらず、背圧弁の設定圧力をバイオガス配管を流通するバイオガスの最大圧力の1.8倍以上にすることが記載されていたとは認められない(なお、請求人は、審判請求書において、当該補正事項は、「背圧弁9の設定圧力を、バイオガスの最大圧力である0.25MPaよりも0.2MPa以上高い0.6MPaとする。」との記載に基づくものであることを主張しているが、本件補正による特許請求の範囲の請求項1は、バイオガスの圧力を何ら特定しないものであり、バイオガスの圧力が如何なる大きさであっても、背圧弁の設定圧力をバイオガス配管を流通するバイオガスの最大圧力の1.8倍以上にすることが当初明細書の発明の詳細な説明に記載されていたものとは認められない。)。

よって、補正事項3は、当初明細書の発明の詳細な説明に記載された事項の範囲内でしたものではなく、それによって、背圧弁の設定圧力をバイオガス配管を流通するバイオガスの最大圧力の1.8倍以上にするという新たな技術的事項を導入するものと認められるから、その余の補正事項について検討するまでもなく、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであって、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.補正の却下の決定のむすび
以上のとおりであって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである(なお、仮に、本件補正が特許法第17条の2第3項の規定に違反しないものであったとしても、本件補正発明は、後記「第5 2.」に記載する理由により、本出願前に頒布された刊行物に記載された発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものであるから、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定する要件を満たさないものである。)。
よって、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであるから、[補正却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本件出願に係る発明
本件出願に係る発明は、平成24年3月26日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、次のとおりのものである。
「不活性ガスを供給する不活性ガス供給源と、
付臭剤を貯留する付臭剤タンクと、
前記不活性ガス供給源と前記付臭剤タンクとを接続し、前記不活性ガス供給源からの前記不活性ガスを前記付臭剤タンク内に導く不活性ガス配管と、
前記付臭剤タンク内から前記付臭剤を送り出す定量ポンプと、
前記定量ポンプが送り出した前記付臭剤を、バイオガスが流通するバイオガス配管内に注入する付臭剤配管と、
前記不活性ガス配管に設けられ、前記付臭剤タンク内に供給される前記不活性ガスの圧力を一定に保つ減圧弁と、
前記付臭剤配管に設けられ、前記定量ポンプの出口側の圧力を一定に保つ背圧弁と、
を有し、
前記背圧弁は、前記バイオガス配管の直近に配置されていることを特徴とするバイオガスの付臭設備。」

第4 原査定の理由
原査定は、「この出願については、平成24年2月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって、拒絶をすべきものです。」とするものであり、平成24年2月8日付け拒絶理由通知書に記載した理由とは、次のとおりのものである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
・請求項1?4
・引用文献1?6

引 用 文 献 等 一 覧
1.特開2001-316685号公報

3.実願平5-61556号(実開平7-25928号)のCD-ROM
4.特開2000-15069号公報
5.特表平7-507826号公報
6.特開2004-300206号公報」

第5 当審の判断
1.原査定の理由の適否について
当審は、原査定の理由のとおり、本件発明は、引用文献1、3?6に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものと判断する。

(1)引用文献に記載された事項
引用文献1、3?6には、次の事項が記載されている。

[引用文献1]
・摘記1-a
「【0002】
【従来の技術】
LNG(液化天然ガス)やLPG(液化石油ガス)等を原料とする燃料ガスは、万一の漏れが容易に分かるようにするため付臭剤による着臭が義務付けられている。
【0003】このような燃料ガスへの着臭を行う着臭設備は、例えば図3に示すように、地下ピット1に設置した付臭剤タンク2に受入配管3が接続され、タンクローリから重力落下式で付臭剤Sを受入れ、地上に設置したモータ4で駆動されるダイヤフラム式の付臭ポンプ5に吸入配管6及び払出配管7を介して払い出して燃料に着臭するようになっており、地上の付臭ポンプ5への付臭剤Sの供給のためおよび払い出した付臭剤Sの減少に伴う液容積分を圧力調整弁8を介して供給される窒素ガスN_(2)で加圧して常時一定圧力に保持するようにしている。」

・摘記1-b
「【0011】この燃料ガスの着臭設備10では、地下ピット11に設置した付臭剤タンク12に受入配管13が接続され、タンクローリから重力落下式で付臭剤Sを受入れることができるようにしてある。この付臭剤タンク12の付臭剤Sを払い出すため、地上にモータ14で駆動されるダイヤフラム式の付臭ポンプ15が設置される。そして、付臭剤タンク12と付臭ポンプ15の吸入側が吸入配管16で接続される一方、付臭ポンプ15の吐出側に払出配管17が接続してあり、払い出した付臭剤Sで燃料を着臭するようにしてある。
【0012】さらに、地下の付臭剤タンク12から地上の付臭ポンプ15に付臭剤Sを送り込むため、および払い出した付臭剤Sの減少に伴う液容積分を圧力調整弁18を介して供給される窒素ガスN_(2 )で加圧して常時一定圧力に保持できるようにしてある。
【0013】
また、この燃料ガスの着臭設備10では、付臭剤タンク12内に供給されて付臭剤Sを加圧する窒素ガスN_(2) が付臭剤Sに溶解し、これがヘッド差によって分離し、付臭ポンプ15に混入することを防止するため、付臭ポンプ15の吸入側の吸入配管16の途中16aが付臭ポンプ15より高い位置となるように配管してあり、しかもこの吸入配管16の途中16aが太くされてガス溜め部を構成するようにしてある。そして、この吸入配管16の最も高い部分には、第1開閉弁19を介してガス分離器20の下端部が接続され、この第1開閉弁19とガス分離器20との間に第2開閉弁21を介して付臭ポンプ15の払出配管17とが配管で接続してある。また、ガス分離器20には、分離したガスの量を監視するためレベルゲージ22が取り付けてある。さらに、ガス分離器20には、分離したガスを付臭剤タンク12に戻すため、ガス分離器20のガス側である上端部に第3開閉弁23を介してガス戻し配管24が接続され、付臭剤タンク12と接続してある。」

・摘記1-c
「【図1】


【図3】



[引用文献3]
・摘記2-a
「【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】稀釈水を稀釈槽に供給する供給管に上流から定流量弁、ラインミキサーを設け、薬液槽から夫々薬液を取出す取出管を上記定流量弁とラインミキサーの間で供給管に接続し、前記稀釈槽には槽内の液位に応じ供給管に設けた自動開閉弁を開閉するレベル計を設けたことを特徴とする薬液の稀釈装置。」

・摘記2-b
「【0001】
【産業上の利用分野】この考案は、例えばボイラーに薬注するための脱酸剤と復水処理剤を所定の濃度で稀釈水に混合したり、噴霧散布するための消毒剤と消臭剤を所定の濃度で希釈水に混合する薬液の稀釈装置に関する。」

・摘記2-c
「【0005】
【実施例】
図1の実施例はNo.1、No.2の2つの薬液を所定の濃度で稀釈水に混合するためのもので、薬液No.1は薬液槽11に、薬液No.2は薬液槽12に入っている。
【0006】
稀釈水を稀釈槽13に供給する供給管14には上流から順に流量計15、定流量弁16、自動開閉弁17、ラインミキサー18が設けてあり、供給管14中を流れる稀釈水の流量はほゞ一定に保たれる。
【0007】
薬液槽11内の薬液No.1はポンプを途中に有する取出管19で、又、薬液槽12内の薬液No.2はポンプを途中に有する取出管20で夫々、この実施例では自動開閉弁17と、ラインミキサー18の間で供給管14に注入する。尚、取出管19,20に設けるポンプ21には定量ポンプを使用し、一定流量の稀釈水に対して稀釈濃度となるように予めストローク長を調整して又、薬液槽内の薬液のレベルによって供給管への薬液の注入量がバラツクのを防ぐため各取出管19,20には背圧1kg/cm^(2) 程度の背圧弁22を設けておく。
…」

・摘記2-d
「【図1】



[引用文献4]
・摘記3-a
「【特許請求の範囲】
【請求項1】互いに混合すべき混合用原料を圧送する複数個の供給ポンプと、各供給ポンプにそれぞれ連結され、各供給ポンプによって圧送された混合用原料を混合機に供給する配管と、これら配管から上記混合用原料が供給される混合機とを備え、上記混合機によって上記混合用原料を混合して目的とする液状組成物を連続的に製造する液状組成物の連続製造装置において、上記各配管にアキュムレータ及び背圧弁をアキュムレータが上流側となるようにそれぞれ介装したことを特徴とする液状組成物の連続製造装置。」

・摘記3-b
「【0007】
本発明の液状組成物の連続製造装置は、供給ポンプ側に配設されたアキュムレータによって供給ポンプの脈動を減衰させて、供給ポンプの送液量の周期的なムラをなくすと共に、背圧弁によって混合機上流側の配管内の圧力が混合機以降の圧力変動の影響を受けて変動することを回避して、混合機への原料供給量のフレをなくすことができるものである。」

・摘記3-c
「【0013】
…また、背圧弁4,4′は、その種類等は特に制限されず、一次側の流体圧力をある一定圧力に保持するための調整弁として通常使用されているものを使用することができるが、背圧弁詰まり防止のため入口側にストレーナーを設置することが望ましい。背圧弁4,4′の設定圧力(背圧弁圧力)も特に制限されるものではなく、混合機以降の最大圧力以上、特に該最大圧力の1.2?1.5倍が好適である。なお、上記背圧弁4,4′の配設位置は特に制限されるものではなく、背圧力を安定に保つために背圧弁前後に最低配管径の10倍以上の直管部を設けることが望ましい。」

・摘記3-d
「【図1】



[引用文献5]
・摘記4-a
「本発明は、万一消費者用ガスが周囲に漏洩した場合に火災、爆発、中毒、窒息死の危険もしくはその他の危険な状況にある人々の注意を喚起することを目的とした消費地に分配される消費者用ガスへの着臭剤の添加方法に関する。」(第2頁右下欄第4?7行)

・摘記4-b
「図1に示される装置は、矢印Aの方向に流れる、着臭剤が添加されるべき消費者ガス、例えば酸素のための導管1を含む。着臭剤は圧力容器3から調節弁4を経てマスターガスを送入する導管2を経て添加される。マスターガスは硫化ジメチル(DMS)のような有機硫黄化合物と二酸化炭素との混合物からなり得る。マスターガスは圧力容器3における液相6から浸漬パイプ5により取り出されるが、該マスターガスは蒸発ガス7の量により与えられた圧力の作用により閉鎖弁8を経て該圧力容器から押し流される。調節弁4は、特に導管1を通り流量計9により測定される消費者用ガスの流量に応じて調節される。」(第3頁右下欄第13?22行)

・摘記4-c
「マスターガスの着臭剤濃度は0.5?10mol%が都合がよい。マスターガスは、消費者用ガスの着臭剤濃度が1?50ppm、好ましくは1?20ppmの範囲となる量で消費者用ガスに送入されることができる。」(第4頁右下欄最下行?第5頁左上欄第4行)

・摘記4-d


」(第5頁Fig.1)

[引用文献6]
・摘記5-a
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物を発酵させて得られる低熱量のバイオガスを、脱硫処理、脱炭酸ガス処理、脱湿処理、熱量調整及び付臭処理を行って、12A程度の都市ガスに相当する高熱量燃料ガスを得て消費者に供給することを特徴とするバイオガスの都市ガス化利用方法。」

・摘記5-b
「【0002】
【従来の技術】
し尿、浄化槽汚泥、畜産・水産施設からの廃棄物、生ゴミなどの有機性廃棄物を発酵、つまり生物化学的に処理して得られたバイオガスを、常圧あるいは低圧に加圧してガスホルダーに貯蔵し、必要に応じてボイラーなどの燃焼用、或いは発電用のエネルギー源として使用している。」

・摘記5-c
「【0010】
ところで、高熱量の燃料ガス、例えば12A程度のガス(12A程度のガスとは、発熱量:37?42MJ/Nm^(3)程度の燃料ガスで、用品検定ガスグループの基準に定められている,ウォッベ指数:WIが49?54,燃焼速度MCP:34?47の12Aグループのガスをいう)は、中小の都市などの限られた地域を対象として、配管を用いて供給していた。」

(2)検討
ア.引用文献1に記載された発明
引用文献1には、摘記1-cの【図1】、【図3】の記載からみて、引用文献1に係る燃料ガスの着臭設備、及び、従来の燃料ガスの着臭設備として、窒素ガスN_(2)を圧力調整弁(18、8)を介して付臭剤タンク(12、2)へ導入し、付臭剤タンク(12、2)を一定圧力に加圧して付臭剤Sを吸入配管(16、6)を通して付臭ポンプ(15、5)で払出配管(17、7)へ払い出して燃料ガスを着臭する燃料ガスの着臭設備、が記載され、当該着臭設備について、地下に設置した付臭剤タンク内を窒素ガスで一定圧力に加圧して地上に設置したモータで駆動されるダイヤフラム式の付臭ポンプで払い出して燃料に着臭する燃料ガスの着臭設備であること(摘記1-a、1-b)が記載されていると認められる。
よって、以上の記載事項からみて、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。

「窒素ガスを圧力調整弁を介して付臭剤タンクへ導入し、付臭剤タンクを一定圧力に加圧して付臭剤を吸入配管を通し、ダイヤフラム式の付臭ポンプで払出配管へ払い出して燃料ガスを着臭する燃料ガスの着臭設備。」

イ.本件発明と引用発明との対比
本件発明と引用発明とを対比する。
「窒素ガス」が「不活性ガス」であることは、技術常識からみて、明らかである。また、引用発明において、「窒素ガスを…付臭剤タンクへ導入」とされていることは、窒素ガスが窒素ガスの供給源から配管を通して付臭剤タンクへ導入されることにあたるものであって、明記はされていなくとも、窒素ガス供給源が存在することは明らかなことと認められる。
よって、引用発明の「窒素ガスを…付臭剤タンクへ導入」は本件発明の「不活性ガスを供給する不活性ガス供給源と、付臭剤を貯留する付臭剤タンクと、前記不活性ガス供給源と前記付臭剤タンクとを接続し、前記不活性ガス供給源からの前記不活性ガスを前記付臭剤タンク内に導く不活性ガス配管」に相当すると認められる。

引用発明の「ダイヤフラム式の付臭ポンプ」は、本件明細書の「…定量ポンプ5は、例えばダイアフラム式電磁定量ポンプである。…」(段落【0016】)、及び、引用文献1についての「引用文献1には、…ポンプ注入方式の燃料ガスの着臭設備が開示されている。…ところで、ポンプ注入方式においては、圧力変化の影響を受ける定量ポンプを用いている。…」(段落【0003】?【0005】.当該記載における引用文献1(特開2001-316685号公報)は本審決における引用文献1と同じ文献である。)との記載等からみて、本件発明の「前記付臭剤タンク内から前記付臭剤を送り出す定量ポンプ」に相当するものと認められる。

引用発明の「(…付臭剤を吸入配管を通して…)払出配管へ払い出して燃料ガスを着臭する」、「燃料ガスの着臭設備」は、それぞれ、本件発明の「…送り出した前記付臭剤を、…ガスが流通する…ガス配管内に注入する付臭剤配管」、「…ガスの付臭設備」に相当する。

以上を総合すると、両者は、
「不活性ガスを供給する不活性ガス供給源と、
付臭剤を貯留する付臭剤タンクと、
前記不活性ガス供給源と前記付臭剤タンクとを接続し、前記不活性ガス供給源からの前記不活性ガスを前記付臭剤タンク内に導く不活性ガス配管と、
前記付臭剤タンク内から前記付臭剤を送り出す定量ポンプと、
前記定量ポンプが送り出した前記付臭剤を、…ガスが流通する…ガス配管内に注入する付臭剤配管と、
を有…する…ガスの付臭設備。」
の点で一致し、次の点で相違するものと認められる。

相違点1:付臭されるガスの種類が、本件発明は「バイオガス」であるのに対して、引用発明は「燃料ガス」である点。

相違点2:本件発明は「不活性ガス配管に設けられ、…付臭剤タンク内に供給される…不活性ガスの圧力を一定に保つ減圧弁」を有するのに対して、引用発明は「圧力調整弁」を有するものである点。

相違点3:本件発明は「付臭剤配管に設けられ、…定量ポンプの出口側の圧力を一定に保つ背圧弁…を有し」、「背圧弁は、…ガス配管の直近に配置されている」ものであるのに対して、引用発明はそのような背圧弁を有することを発明特定事項とするものでない点。

ウ.相違点の検討
(ア)相違点1
燃料ガスの用途で用いられるガスとして、バイオガスは周知のものであり(例えば、引用文献6の摘記5-b、5-c参照。)、バイオガスについて付臭処理を行うことも周知の技術と認められる(例えば、引用文献6の摘記5-a参照。なお、その他にも、例えば、特開2010-59416号公報の段落【0032】に「…熱量調整が行われた精製バイオガスは、次いで、都市ガス製造に使用される公知の付臭剤が、付臭部33から添加される。」と、バイオガスに付臭剤による処理が行われることが記載されるように、バイオガスの付臭処理は周知の技術と認められる。)ことを考慮すると、引用発明において、付臭される燃料ガスとして、バイオガスを採用することは、引用文献6に例示される周知技術に基づいて、当業者が容易になし得たことと認められる。

(イ)相違点2
引用発明の「圧力調整弁」は、摘記1-a、1-bからみて、付臭剤タンクに供給される不活性ガス(窒素ガスN_(2))の圧力を調整し、付臭剤タンクを常時一定圧力に保持するするものである点で、本件発明の「減圧弁」と軌を一にするもの(本件明細書の「…また、減圧弁8で、付臭剤タンク3内に供給される窒素ガスの圧力を0.15MPaで一定に保つことで、付臭剤タンク3内の付臭剤は、一定の圧力の窒素ガスで常時加圧されている。これにより、…定量ポンプ5の入口側の圧力が一定となっている。」(段落【0021】)等参照。)と認められる。
そして、圧力調整を行って一定圧力を保持するための弁として、減圧弁は周知のものであること(例えば、「JIS 工業用語大辞典 第4版」財団法人日本規格協会編・発行、1998年7月15日発行、第42頁には、複数の「圧力調整弁」の項の中に「圧縮空気を一定の圧力に調整又は減圧するバルブ.(慣)給気弁,減圧弁」との説明がされた項がある。)を考慮すると、引用発明において、付臭剤タンクに供給される不活性ガス(窒素ガスN_(2))の圧力調整弁として、周知の圧力調整弁である減圧弁を採用することは、当業者が周知技術に基づいて容易に想到し得たことと認められる。
(なお、付臭剤タンクに導入するガスとして、圧力容器から導出された高圧のガスを用いることは普通に行われること(例えば、引用文献5の摘記4-b、4-d参照。)と認められるから、斯かる点からも、高圧の付臭剤ガスを減圧して一定の圧力に調整するために減圧弁を用いることは、当業者が周知技術に基づいて容易に想到し得たことと認められる。)

(ウ)相違点3
定量ポンプによって供給される流体の量のバラツキを防止するために、その出口側に背圧弁を設けることは、例えば、引用文献3、4に例示されるように周知の技術と認められる(摘記2-a?2-d、3-a?3-d、特に、2-c、2-d、3-b参照。また、その他にも、例えば、特開2003-42291号公報の【従来の技術】【0003】に「前記背圧弁を往復動ポンプの二次側の配管に接続し、該背圧弁により、適切な流体の定量供給を維持すべく、往復動ポンプの吐出側に所定の圧力を付加するように使用することができる。」と、従来技術として、背圧弁を流体の定量供給のため用いることが記載されるように、流体の供給量のバラツキを防止するために、流体の出口側に背圧弁を設けることは周知の技術と認められる。)。
そして、付臭剤を供給するにあたって、バラツキのないように供給する必要があることは技術常識と認められる(例えば、燃料ガス用付臭装置に係る特開昭60-255893号公報の第2頁左上欄第5?17行に、「…従来のものは…ガス流量に対し適正な付臭剤の添加が得られず、特に小流量の場合には極めて不都合であった。…本発明は…均一にして適正なる添加量を維持しうる付臭装置を提供しようとするものである。」と、適正な付臭剤の添加がなされないことが、従来の技術の問題として記載されている。)ことを考慮すると、引用発明においても、定量ポンプで付臭剤を供給するにあたって、そのバラツキを防止し定量的に供給するために定量ポンプの出口側に背圧弁を設けることは、当業者が引用文献3、4に例示される周知技術に基づいて容易に想到し得たことと認められる。

また、背圧弁を定量ポンプを設置した配管のいずれの箇所に設けるかは、流体の定量供給が安定的に行われるか否か等を考慮して、当業者が通常の創作能力の範囲で適宜設定し得た事項と認められる(例えば、引用文献4の摘記3-bには、背圧弁によって下流(混合機以降)の圧力変動の影響による原料供給量のフレをなくすことが記載され、さらに、摘記3-cには、背圧弁の設置位置等の設定を特に制限なく行うことが記載されていると認められる。)。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、背圧弁をバイオガス配管の直近に配置することによって、そうでない場合に比べて、当業者が予測し得ない顕著な効果が奏されることが、技術的な裏付けをもって開示されているものとは認められない。
よって、背圧弁をバイオガスのガス配管の直近に配置するようにすることは、当業者が、引用文献3、4に例示される周知技術に基づいて、容易になし得たことと認められる。

エ.本件発明の効果について
本件発明は、本件明細書の発明の詳細な説明の「…本実施形態に係る付臭設備1によると、付臭剤タンク3内に供給される窒素ガスの圧力を減圧弁8で一定に保つことで、付臭剤タンク3内の付臭剤は、一定の圧力の窒素ガスで常時加圧される。これにより、付臭剤タンク3内の付臭剤が減少しても付臭剤タンク3の内圧が低下することがないので、定量ポンプ5の入口側の圧力が一定となる。また、背圧弁9により、定量ポンプ5の出口側の圧力は、バイオガス配管21を流れるバイオガスの圧力変化の影響を受けることなく、一定となる。このように、定量ポンプ5の入口側および出口側の圧力を一定にすることによって、定量ポンプ5の能力を一定にすることができるから、付臭剤の注入量を安定させ、且つ、付臭濃度を安定させることができる。」(段落【0031】)、「また、バイオガス配管21を流通するバイオガスの流量が変動し、バイオガス配管21を流通するバイオガスの圧力が、バイオガス配管21内に注入される付臭剤の圧力よりも高くなると、付臭剤配管6内の付臭剤をバイオガス配管21内に注入できなくなることで、付臭剤の注入量が低下する。そこで、背圧弁9の設定圧力を、バイオガス配管21を流通するバイオガスの最大圧力よりも高くする。すると、バイオガス配管21を流通するバイオガスの圧力よりも、バイオガス配管21内に注入される付臭剤の圧力の方が高くなるので、付臭剤配管6内の付臭剤をバイオガス配管21内に安定して注入することができる。よって、バイオガス配管21を流通するバイオガスの流量変動の影響を受けることなく付臭剤を注入することができる。」(段落【0033】)との記載等からみて、付臭剤の注入量、付臭濃度を安定させることができ、バイオガス配管を流通するバイオガスの流量変動の影響を受けることなく付臭剤を注入することができる、という効果を奏するものと認められる(なお、段落【0032】、【0034】に記載された効果は、「付臭室内の温度が一定にされていること」に係る事項を有する請求項2に記載された発明、「バイオガス配管に設けられたクッションタンク」に係る事項を有する請求項4に記載された発明による効果であって、それらの事項を発明特定事項とするものでない請求項1に係る本件発明全体について奏される効果とは認められない。)。

しかしながら、引用文献1に、圧力調整弁によって、着臭設備を「常時一定圧力に保持」(摘記1-a)することが記載され、流体を一定の圧力に保持する圧力調整弁として減圧弁が周知のものであること(前記「ウ.(イ)」参照。)を考慮すると、圧力制御弁として減圧弁を設けることによって、着臭設備の圧力が一定となって、圧力が一定でない場合に比べて、付臭ガスの供給が安定に行われることは、当業者が予測し得たことと認められる。
また、背圧弁によって、流体の定量供給が行われ供給量のバラツキが防止されることは、周知の技術と認められること(前記「ウ.(ウ)」参照。)を考慮すると、背圧弁を設けることによって、下流にあるバイオガス配管を流通するバイオガスの流量変動の影響を受けることなく一定量の付臭剤を供給し注入することができることは、当業者が予測し得たことと認められる。
そして、流体の流量を調整する弁として減圧弁、背圧弁はいずれも周知のものであるところ、本件明細書の記載をみても、減圧弁と背圧弁とを併用することによって、当業者が予測し得ないような効果が奏されることを技術的な裏付けをもって確認できるものとは認められない。
そうすると、付臭設備の導入側に減圧弁を設け、導出側に背圧弁を適当な位置、圧力条件等で設ければ、付臭剤の供給量、濃度を安定させることができ、バイオガス配管を流通するバイオガスの流量変動の影響を受けることなく付臭剤を注入することができることは、引用文献1、3?6に記載された発明、及び、周知技術から、当業者が予測し得た効果であって、格別顕著な効果とは認められない。

オ.まとめ
よって、本件発明は、その出願前頒布された刊行物である引用文献1、3?6に記載された発明、周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

2.補正却下の決定の検討の補足
前記「第2」に記載したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであって、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものであるが、本件補正が、仮に、特許法第17条の2第3項の規定に違反しないものであったとした場合について、一応、検討する。
なお、本件補正のうち、請求項1に係る補正は、再掲すると次のとおりである。
・「前記付臭剤タンク内から前記付臭剤を送り出す定量ポンプ」を「前記付臭剤タンク内から微量の前記付臭剤を送り出す定量ポンプ」とする補正事項(補正事項1)
・「前記定量ポンプが送り出した前記付臭剤」を「前記定量ポンプが送り出した微量の前記付臭剤」とする補正事項(補正事項2)
・「前記背圧弁の設定圧力が、前記バイオガス配管を流通する前記バイオガスの最大圧力の1.8倍以上にされていること」との事項を加える補正事項(補正事項3)

(1)補正の目的要件について
補正事項1、2は、定量ポンプから送り出した付臭剤を「微量の」ものに限定するものであり、補正事項3は、背圧弁について、「設定圧力をバイオガス配管を流通するバイオガスの最大圧力の1.8倍以上」と限定するものであり、これらの補正事項は、いずれも補正の前後で、発明の産業上の利用分野、解決すべき課題を変えるものではないから、特許法第17条の2第5項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての補正は、補正の目的要件を満たすものである

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際、独立して特許を受けることができるものであるか否かについて検討する。
具体的には、本件補正発明が、前記「第4」に記載した引用文献1、3?6(以下に再掲する。)に記載された発明に基づいて、当業者が容易になし得たものであるか否かについて検討する。

引用文献1:特開2001-316685号公報

引用文献3:実願平5-61556号(実開平7-25928号)のCD-ROM
引用文献4:特開2000-15069号公報
引用文献5:特表平7-507826号公報
引用文献6:特開2004-300206号公報

ア.本件補正発明
本件補正発明は、平成24年7月12日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「不活性ガスを供給する不活性ガス供給源と、
付臭剤を貯留する付臭剤タンクと、
前記不活性ガス供給源と前記付臭剤タンクとを接続し、前記不活性ガス供給源からの前記不活性ガスを前記付臭剤タンク内に導く不活性ガス配管と、
前記付臭剤タンク内から微量の前記付臭剤を送り出す定量ポンプと、
前記定量ポンプが送り出した微量の前記付臭剤を、バイオガスが流通するバイオガス配管内に注入する付臭剤配管と、
前記不活性ガス配管に設けられ、前記付臭剤タンク内に供給される前記不活性ガスの圧力を一定に保つ減圧弁と、
前記付臭剤配管に設けられ、前記定量ポンプの出口側の圧力を一定に保つ背圧弁と、
を有し、
前記背圧弁は、前記バイオガス配管の直近に配置されており、
前記背圧弁の設定圧力が、前記バイオガス配管を流通する前記バイオガスの最大圧力の1.8倍以上にされていることを特徴とするバイオガスの付臭設備。」

イ.引用文献1、3?6に記載された事項、及び、引用発明
引用文献1、3?6には、前記「1.(1)」に記載したとおりの事項が記載されている。
また、引用文献1には前記「1.(2)ア.」に記載したとおりの発明(以下において同様に「引用発明」という。なお、以下に再掲する。)が記載されている。

「窒素ガスを圧力調整弁を介して付臭剤タンクへ導入し、付臭剤タンクを一定圧力に加圧して付臭剤を吸入配管を通し、ダイヤフラム式の付臭ポンプで払出配管へ払い出して燃料ガスを着臭する燃料ガスの着臭設備。」

ウ.本件補正発明と引用発明との対比
本件補正発明は、本件発明に前記補正事項1?3に係る発明特定事項が加えられたものであることを考慮して、本件補正発明と引用発明とを、前記「1.(2)イ.」において、本件発明と引用発明とを対比したのと同様に対比すると、両者は、

「不活性ガスを供給する不活性ガス供給源と、
付臭剤を貯留する付臭剤タンクと、
前記不活性ガス供給源と前記付臭剤タンクとを接続し、前記不活性ガス供給源からの前記不活性ガスを前記付臭剤タンク内に導く不活性ガス配管と、
前記付臭剤タンク内から…前記付臭剤を送り出す定量ポンプ…と、
前記定量ポンプが送り出した…前記付臭剤を、…ガスが流通する…ガス配管内に注入する付臭剤配管と、
を有…する…ガスの付臭設備。」
の点で一致し、次の点で相違する。

相違点1’:付臭されるガスの種類が、本件補正発明は「バイオガス」であるのに対して、引用発明は「燃料ガス」である点。

相違点2’:本件補正発明は「不活性ガス配管に設けられ、…付臭剤タンク内に供給される…不活性ガスの圧力を一定に保つ減圧弁」を有するのに対して、引用発明は「圧力調整弁」を有するものである点。

相違点3’:本件補正発明は「付臭剤配管に設けられ、…定量ポンプの出口側の圧力を一定に保つ背圧弁…を有し」、「背圧弁は、…ガス配管の直近に配置されており、…背圧弁の設定圧力が、…ガス配管を流通する…ガスの最大圧力の1.8倍以上にされている」ものであるのに対して、引用発明は背圧弁を有することを発明特定事項とするものでない点。

相違点4’:付臭剤タンク内から送り出される付臭剤の量が、本件補正発明は「微量」であるのに対して、引用発明は付臭剤の量を発明特定事項とするものでない点。

エ.相違点等の検討
(ア)相違点1’、2’について
上記相違点1’、2’は、前記「1.(2)イ.」に記載した相違点1、2と同様の相違点と認められるから、上記相違点1’、2’に係る本件補正発明の構成の点は、前記「1.(2)ウ.(ア)」、「1.(2)ウ.(イ)」に、相違点1、2について記載した理由と同様に理由によって、当業者が容易になし得たことと認められる。

(イ)相違点3’について
上記相違点3’は、前記「1.(2)イ.」に記載した相違点3に、さらに、本件補正発明は、背圧弁の設定圧力が、ガス配管を流通するガスの最大圧力の1.8倍以上にされているのに対して引用発明は斯かる事項を発明特定事項とするものでない点をも含む相違点である。
そこで、斯かる点について検討すると、背圧弁の設定圧力をどの程度の圧力とするかは、流体の定量供給が安定的に行われるか否か等を考慮して、当業者が通常の創作能力の範囲で適宜設定し得た事項と認められる(例えば、引用文献4の摘記3-bには、背圧弁によって下流(混合機以降)の圧力変動の影響による原料供給量のフレをなくすことが記載され、さらに、摘記3-cには、背圧弁の設定圧力、設置位置の設定を特に制限なく行うことが記載されていると認められる。)。
そして、本件補正明細書の発明の詳細な説明の記載をみても、背圧弁の設定圧力をバイオガス配管を流通するガスの最大圧力の1.8倍以上に設定することによって、そうでない場合に比べて、当業者が予測し得ない顕著な効果が奏されることが、技術的な裏付けをもって開示されているものとは認められない。
よって、背圧弁の設定圧力をバイオガスのガス配管を流通するガスの最大圧力の1.8倍以上に設定することは、当業者が、引用文献3、4に例示される周知技術に基づいて、容易になし得たことと認められる。

また、上記相違点3’のその余の点については、前記「1.(2)ウ.(ウ)」に、相違点3について記載した理由と同様に理由によって、当業者が容易になし得たことと認められる。

(ウ)相違点4’について
ガスの付臭処理を行う際に、付臭剤の量をどの程度とするかは、当該ガスに認識可能な程度の付臭がなされるか否か等を考慮して当業者が適宜決定し得た事項であり、また、例えば、引用文献5に例示されるように、付臭剤がガスに対して、通常、微量添加されるものであることは技術常識と認められること(摘記4-a?4-d参照。特に、摘記4-cには、消費者ガスに対して、付臭剤に相当する着臭剤を1?50ppm導入することが記載されており、1?50ppmは、微量にあたるものと解される。)を考慮すると、引用発明において、付臭剤の量を微量とすることは、当業者が引用文献5に例示される周知技術に基づいて容易になし得たことと認められる。

(エ)本件補正発明の効果について
本件補正発明の効果は、前記「1.(2)エ.」に本件発明の効果について記載した理由と同様の理由によって、当業者が予測し得た範囲のものであって、格別顕著なものとは認められない。

オ.独立特許要件のまとめ
したがって、本件補正発明は、その出願前頒布された刊行物である引用文献1、3?6に記載された発明、周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

(3)まとめ
よって、仮に、本件補正が特許法第17条の2第3項の規定に違反しないものであったとしても、本件補正発明は、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定する要件を満たさないものであるから、本件補正は、特許法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.補正案について
請求人は、平成24年12月11日付け回答書において、特許請求の範囲の請求項1を次のものとする補正案を提示している。
「不活性ガスを供給する不活性ガス供給源と、
付臭剤を貯留する付臭剤タンクと、
前記不活性ガス供給源と前記付臭剤タンクとを接続し、前記不活性ガス供給源からの前記不活性ガスを前記付臭剤タンク内に導く不活性ガス配管と、 前記付臭剤タンク内から微量の前記付臭剤を送り出す定量ポンプと、
前記定量ポンプが送り出した微量の前記付臭剤を、バイオガスが流通するバイオガス配管内に注入する付臭剤配管と、
前記不活性ガス配管に設けられ、前記付臭剤タンク内に供給される前記不活性ガスの圧力を一定に保つ減圧弁と、
前記付臭剤配管に設けられ、前記定量ポンプの出口側の圧力を一定に保つ背圧弁と、
を有し、
前記背圧弁は、前記バイオガス配管の直近に配置されており、
前記バイオガス配管を流通する前記バイオガスの圧力は0.15?0.25MPaであり、
前記背圧弁の設定圧力が、前記バイオガス配管を流通する前記バイオガスの最大圧力の1.8倍以上にされていることを特徴とするバイオガスの付臭設備。」

そこで、本件発明に係る特許請求の範囲の請求項1について、当該補正案のとおりの補正がされた場合に、当該補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明が、引用文献1、3?6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるか否かについて検討する。

上記補正案は、前記「第3」に記載した特許請求の範囲の請求項1に、付臭剤が「微量」であるとの事項(2箇所)、及び、「前記バイオガス配管を流通する前記バイオガスの圧力は0.15?0.25MPaであり、前記背圧弁の設定圧力が、前記バイオガス配管を流通する前記バイオガスの最大圧力の1.8倍以上にされている」との事項を加えるものであるが、前者の事項、及び、後者の事項の後段部分の「前記背圧弁の設定圧力が、前記バイオガス配管を流通する前記バイオガスの最大圧力の1.8倍以上にされている」との事項については、前記「2.(2)エ.(イ)」、「2.(2)エ.(ウ)」において相違点3’、4’について記載した理由と同様の理由により、当業者が、引用文献3、4、及び、引用文献5に例示される周知技術に基づいて、容易になし得たことと認められる。
また、後者の事項の前段部分の「前記バイオガス配管を流通する前記バイオガスの圧力は0.15?0.25MPa」との事項について検討すると、バイオガスを燃料ガス等として利用する際に、バイオガス配管を流れるバイオガスの圧力をどの程度とするかは、必要なガス量、圧力調整のコスト等を考慮して、当業者が適宜決定し得た事項であり、バイオガスの圧力として0.15?0.25MPa程度の圧力は、普通の範囲のものと認められる(例えば、特開2006-272160号公報には、「バイオガスプラントの制御装置およびバイオガスプラントの制御方法」の発明について、段落【0034】に「製品ガス貯槽7内の製品ガスの圧力は製品ガス圧力検出手段24で検出される。製品ガス圧力検出手段24で検出した圧力を、予め設定した上限値(例えば0.3MPa)、中間値1(例えば0.2MPa)、中間値2(例えば0.1MPa)、下限値(例えば0.02MPa)と照合する。」と、製品バイオガスの圧力が0.3?0.02MPaの設定値と照合されるものであることが記載されている。)。そうすると、上記補正案に係る「前記バイオガス配管を流通する前記バイオガスの圧力は0.15?0.25MPa」との事項に係る点は、バイオガスの普通の範囲の圧力を特定するものであって、当業者が、周知の技術を考慮して容易になし得たことと認められる。

以上のとおりであるから、上記補正案のとおりの補正が行われた場合、前記「第2 2.新規事項の追加について」の問題は解決するとしても、当該補正後の本件発明は依然として当業者が引用文献1、3?6に記載された発明、及び、周知技術に基づいて当業者が容易になし得たものと認められる。

第6 むすび
以上のとおりであって、本件発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の点について検討するまでもなく、本件出願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-03 
結審通知日 2013-12-10 
審決日 2013-12-26 
出願番号 特願2011-251378(P2011-251378)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C10L)
P 1 8・ 55- Z (C10L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 森 健一  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 星野 紹英
菅野 芳男
発明の名称 バイオガスの付臭設備  
代理人 梶 良之  
代理人 一角 哲也  
代理人 須原 誠  

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