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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B24B |
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管理番号 | 1284695 |
審判番号 | 不服2012-25749 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-12-26 |
確定日 | 2014-02-13 |
事件の表示 | 特願2007-216839「磁気ディスク用ガラス基板の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 3月12日出願公開、特開2009- 50920〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯・本件発明 本件出願の手続の経緯は以下のとおりである。 平成19年 8月23日 :出願 平成24年 4月19日付け:拒絶理由の通知 平成24年 5月25日 :意見書、手続補正書の提出 平成24年 8月20日付け:拒絶理由の通知 平成24年 9月 4日 :意見書、手続補正書の提出 平成24年 9月21日付け:補正の却下の決定、拒絶査定 平成24年12月26日 :審判請求書、手続補正書の提出 平成25年 4月26日付け:審尋 平成25年 7月 3日 :回答書の提出 平成25年 8月21日付け:拒絶理由の通知(当審) 平成25年10月17日 :意見書、手続補正書の提出 そして、本件出願の請求項1ないし3に係る発明は、平成25年10月17日に提出された手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、以下のとおりのものである。 「カルボン酸基、カルボン酸基の塩、スルホン酸基及びスルホン酸基の塩の少なくとも1つが主鎖に結合している重量平均分子量が5300以上の水溶性ポリマーと、一次粒子の平均粒径が3?60nmのコロイダルシリカまたはヒュームドシリカとを含有するpH1?6の研磨液、及びショアA硬度が20以上の発泡ウレタン樹脂を有する研磨パッドを用いて円形ガラス板の主表面を0.3?1.5μm仕上げ研磨する工程を有し、 水溶性ポリマーが下記一般式で表されるカルボン酸系ポリマー及びスルホン酸系ポリマーから選ばれる一種以上の水溶性ポリマーのみからなる、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。 カルボン酸系ポリマー: 【化1】 スルホン酸系ポリマー: 【化2】 」 2 当審での拒絶理由 一方、当審において平成25年8月21日付けで通知した拒絶の理由のうち理由2の概要は、以下のとおりである。 「本件出願の請求項1-3に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物1-6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 刊行物1:特開2006-193695号公報 2:特開2001-64631号公報 3:特開平11-293231号公報 4:特開2000-87010号公報 5:特開2001-64632号公報 6:特開2002-167575号公報」 3 刊行物 刊行物1には、次の事項が記載されている。 (1) 段落【0008】-【0009】 「【0008】 以下、本発明の一実施形態を説明する。 磁気ディスクのような情報記録媒体には、アルミノシリケートガラス、ソーダライムガラス、ソーダアルミノシリケートガラス、アルミノボロシリケートガラス、ボロシリケートガラス、石英ガラス、結晶化ガラスなどのガラス製の基板が使用されることがある。これらのガラス基板は通常、表面を鏡面に仕上げるべく、化学機械研磨(CMP)プロセスに供される。ガラス基板の化学機械研磨は多くの場合、複数の研磨工程に分けて行なわれる。本実施形態に係る研磨用組成物は、ガラス基板を研磨する用途に用いられ、好ましくはガラス基板の表面を仕上げ研磨する用途、すなわちガラス基板の化学機械研磨において実施される複数の研磨工程のうちの最終の研磨工程で用いられる。 【0009】 本実施形態に係る研磨用組成物は、研磨材と分散剤と研磨促進剤と水から実質的になる。 前記研磨材は二酸化ケイ素粒子(シリカ粒子)を含有する。シリカ粒子は、本実施形態に係る研磨用組成物の研磨対象物であるガラス基板を機械的に研磨する役割を担う。シリカ粒子は、好ましくはコロイダルシリカ又はフュームドシリカであり、より好ましくはコロイダルシリカである。コロイダルシリカ又はフュームドシリカを用いた場合には、他のシリカ粒子を用いた場合に比べて、研磨用組成物を用いて研磨された後のガラス基板の表面粗さがより減少し、その中でもコロイダルシリカを用いた場合には研磨後のガラス基板の表面粗さが大きく減少する。」 (2) 段落【0011】 「【0011】 研磨用組成物中のコロイダルシリカの、BET法により測定される比表面積から求められる平均粒子径D_(SA)が5nmよりも小さい場合には、研磨用組成物を用いてガラス基板を研磨したときの研磨能率がやや低下する虞がある。従って、コロイダルシリカの平均粒子径D_(SA)が小さすぎることによる研磨能率の低下を防止するためには、コロイダルシリカの平均粒子径D_(SA)は、好ましくは5nm以上である。一方、コロイダルシリカの平均粒子径D_(SA)が300nmよりも大きい場合、さらに言えば200nmよりも大きい場合、もっと言えば120nmよりも大きい場合には、研磨後のガラス基板の表面粗さがやや増大したり研磨後のガラス基板の表面に観察されるスクラッチがやや増加したりする虞がある。従って、コロイダルシリカの平均粒子径D_(SA)が大きすぎることによる研磨後のガラス基板の表面特性の低下を防止するためには、コロイダルシリカの平均粒子径D_(SA)は、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下、最も好ましくは120nm以下である。」 (3) 段落【0015】 「【0015】 前記分散剤は、ポリスチレンスルホン酸、ポリカルボン酸ポリマー(例えばポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸など)及びそれらの塩(例えばアルカリ金属塩、アンモニウム塩、アミン塩など)、並びにポリ酢酸ビニルよりなる群から選ばれる少なくとも一つの重合体化合物を含有する。重合体化合物は、研磨用組成物中のシリカ粒子の表面に作用してシリカ粒子が帯びる負電荷を増加させる作用を有する。重合体化合物は、好ましくはポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸又はそれらの塩であり、より好ましくはポリスチレンスルホン酸塩又はポリアクリル酸塩であり、最も好ましくはポリスチレンスルホン酸ナトリウム又はポリアクリル酸ナトリウムである。ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸又はそれらの塩を用いた場合には、他の重合体化合物を用いた場合に比べて、研磨後のガラス基板の表面特性(表面粗さ及び表面欠陥)及び研磨用組成物の洗浄性がより向上する。中でもポリスチレンスルホン酸塩又はポリアクリル酸塩を用いた場合、特にポリスチレンスルホン酸ナトリウム又はポリアクリル酸ナトリウムを用いた場合には、重合体化合物の溶解性が良好なこともあって研磨後のガラス基板の表面特性及び研磨用組成物の洗浄性が大きく向上する。」 (4) 段落【0033】 「【0033】 実施例1?55及び比較例1?15に係る各研磨用組成物を用いて表4に示す研磨条件でガラス基板を研磨したとき、研磨前後のガラス基板の重量の差、すなわち研磨によるガラス基板の重量減少量から下記式に基づいて研磨能率を求めた。そして研磨能率に基づいて、優(◎)、良(○)、可(△)、不良(×)の四段階で各研磨用組成物を評価した。具体的には、研磨速度が0.12μm/分以上の場合には優、0.08μm/分以上0.12μm/分未満の場合には良、0.05μm/分以上0.08μm/分未満の場合には可、0.05μm/分未満の場合には不良と評価した。この評価の結果を表1?3の“研磨能率”欄に示す。」 (5) 段落【0041】及び【0042】から 【0041】には、「表1?3の“研磨材”欄において、“コロイダルシリカ”は、平均粒子径D_(SA)と平均粒子径D_(N4)がいずれも80nmのコロイダルシリカを表す。」と記載されている。 【0042】には、「表1?3の“重合体化合物”欄において、(中略)“ポリアクリル酸Na”は、分子量1万?3万のポリアクリル酸ナトリウムを表す。」と記載されている。 (6) 【表1】の記載 実施例25の欄に、研磨材[質量百分率]として「コロイダルシリカ 20%」、重合体化合物[質量百分率]として「ポリアクリル酸Na 0.05%」、研磨促進剤[質量百分率]として「硫酸水素アンモニウム 1%」、表面粗さ、研磨能率、表面欠陥、洗浄性及び総合評価としてそれぞれ「◎」が記載されている。 (7) 【表4】の記載 「研磨対象物: 酸化セリウムを含有する研磨スラリーを用いて表面粗さRaが0.8nmになるように予備研磨された後の強化ガラス製の直径2.5インチ(約63.5mm)ガラス基板」、「研磨パッド: カネボウ株式会社製のスウェードタイプの研磨パッド“Belatrix N0058”」及び「研磨時間: 20分」と記載されている。 (8) 研磨量について 【表1】の実施例25の方法は、摘記事項(6)で示したとおり研磨能率が「◎」であるところ、摘記事項(4)の記載からみて研磨速度が「0.12μm/分以上」である。そして、摘記事項(7)から「研磨時間: 20分」であることが理解できるから、当該実施例25の方法での研磨量は「2.4μm以上」であると認められる。 (9) 刊行物1発明 そこで、刊行物1の上記摘記事項及び認定事項を、技術常識を踏まえ本件発明に照らして整理すると、刊行物1には下記の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されていると認められる。 「分子量が1万?3万のポリアクリル酸ナトリウムの重合体と、平均粒子径が80nmのコロイダルシリカと、硫酸水素アンモニウムとを含有する研磨液、及びカネボウ株式会社製のスウェードタイプの研磨パッド“Belatrix N0058”を用いて直径2.5インチ(約63.5mm)ガラス基板の主表面を2.4μm以上仕上げ研磨する工程を有する、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。」 4 対比 本件発明と刊行物1発明とを対比する。 刊行物1発明の研磨液に含有される「分子量が1万?3万のポリアクリル酸ナトリウムの重合体」は、カルボン酸基の塩が主鎖に結合している重量平均分子量が5300以上の水溶性ポリマーであり、当該水溶性ポリマーが本件発明の「カルボン酸系ポリマー: 【化1】(1)式」で表されるカルボン酸系ポリマーのみからなる点も本件発明と共通するものであるから、本件発明の研磨液に含有される「カルボン酸基、カルボン酸基の塩、スルホン酸基及びスルホン酸基の塩の少なくとも1つが主鎖に結合している重量平均分子量が5300以上の水溶性ポリマー」で「水溶性ポリマーが【化1】(1)式で表されるカルボン酸系ポリマー及びスルホン酸系ポリマーから選ばれる一種以上の水溶性ポリマーのみからなる」ものに相当する。 また、刊行物1発明の「硫酸水素アンモニウムとを含有する研磨液」は、硫酸水素アンモニウム水溶液が強酸性を示すものであるから酸性の研磨液となるため、本件発明の「pH1?6の研磨液」に相当する。 さらに、刊行物1発明の「カネボウ株式会社製のスウェードタイプの研磨パッド“Belatrix N0058”」は、当該研磨パッドが発泡ウレタン樹脂を用いた仕上げ用の研磨パッドであり、ショアA硬度が20以上となるものであることも、精密研磨加工の業界では公知の事項であるから、本件発明の「ショアA硬度が20以上の発泡ウレタン樹脂を有する研磨パッド」に相当する。 そして、刊行物1発明の「コロイダルシリカ」は、本件発明の「コロイダルシリカまたはヒュームドシリカ」に相当し、同様に「直径2.5インチ(約63.5mm)ガラス基板」は「円形ガラス板」に相当するものである。 そうすると、両者は下記の点で一致する。 <一致点> 「カルボン酸基の塩が主鎖に結合している重量平均分子量が5300以上の水溶性ポリマーと、コロイダルシリカとを含有するpH1?6の研磨液、及びショアA硬度が20以上の発泡ウレタン樹脂を有する研磨パッドを用いて円形ガラス板の主表面を仕上げ研磨する工程を有し、 水溶性ポリマーが下記一般式で表されるカルボン酸系ポリマーのみからなる、磁気ディスク用ガラス基板の製造方法。 カルボン酸系ポリマー: 【化1】 」 一方、両者は下記の点で相違する。 <相違点1> コロイダルシリカの一次粒子の平均粒径について、本件発明では「3?60nmであるのに対し、刊行物1発明では「80nm」である点。 <相違点2> 円形ガラス板の主表面を仕上げ研磨する量が、本件発明では「0.3?1.5μm」であるのに対し、刊行物1発明では「2.4μm以上」である点。 5 当審の判断 上記相違点について検討する。 <相違点1>については、刊行物1発明ではコロイダルシリカの一次粒子の平均粒径を80nmにしているが、刊行物1の上記摘記事項(2)では、コロイダルシリカの平均粒子径D_(SA)を5nm以上にすることも示されている。また、磁気ディスク用ガラス基板の研磨に際し、ロールオフの低減を考慮して研磨を行う場合に、コロイダルシリカの一次粒子の平均粒径について、研磨効率を担保した上で表面加工精度を向上させる下限値として5nm?10nmに設定することは、例えば、刊行物6(段落【0012】、【0014】、【0037】、【0042】の記載等を参照。)、特開2007-70548号公報(段落【0002】、【0008】-【0009】、【0039】等の記載を参照。)にも示されているように、従来周知の技術である。そうすると、刊行物1発明のコロイダルシリカの一次粒子の平均粒径について、上記従来周知の技術を勘案することで80nmより小さい60nm以下として、<相違点1>に係る本件発明のように構成することは、当業者であれば容易に想到し得たものというべきである。 <相違点2>については、仕上げ研磨における研磨量の設定は、研磨精度と研磨効率とのバランスを考慮して当業者が必要に応じて定める設計的事項であって、研磨液の供給量、研磨時間、研磨圧力等を変化させることにより、適宜調整することが可能なものである。そして、本件発明において、円形ガラス板の主表面を仕上げ研磨する量を「0.3?1.5μm」とした数値範囲の臨界的意義も明確でないことから、当該数値範囲は単なる数値の限定にしか過ぎないものであり、刊行物1発明において、研磨時間等を適宜調整することにより、当該数値範囲内の研磨量とすることは、当業者であれば容易に想到し得たものである。 また、本件発明によってもたらされる効果も、刊行物1発明及び従来周知の技術から当業者であれば予測できる程度のものであって、格別なものではない。 6 むすび したがって、本件発明は、刊行物1発明及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、当審で通知した上記拒絶の理由によって拒絶をすべきものである。 よって、本件出願のその余の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきであるから、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-12-10 |
結審通知日 | 2013-12-17 |
審決日 | 2013-12-25 |
出願番号 | 特願2007-216839(P2007-216839) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(B24B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 橋本 卓行 |
特許庁審判長 |
野村 亨 |
特許庁審判官 |
栗田 雅弘 刈間 宏信 |
発明の名称 | 磁気ディスク用ガラス基板の製造方法 |
代理人 | 小栗 昌平 |
代理人 | 市川 利光 |
代理人 | 本多 弘徳 |
代理人 | 濱田 百合子 |