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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C08B |
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管理番号 | 1284724 |
審判番号 | 不服2013-3461 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-02-22 |
確定日 | 2014-03-04 |
事件の表示 | 特願2007-555956「米糠由来の水溶性多糖類、その製造法及びこれを用いた乳化剤」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 8月 2日国際公開、WO2007/086389、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 本願は,国際出願日である平成19年1月24日(先の出願に基づく優先権主張 平成18年1月26日)にされたとみなされる特許出願であって,平成24年7月23日付けで拒絶理由が通知され,同年9月27日に意見書が提出されるとともに特許請求の範囲が補正され,同年11月20日付けで拒絶査定がされ,これに対して,平成25年2月22日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。 第2 本願発明について 本願の請求項1?2に係る発明(以下,順に「本願発明1」?「本願発明2」といい,これらを併せて「本願発明」という場合がある。)は,平成24年9月27日に補正された特許請求の範囲並びに明細書及び図面の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1?2に記載されている事項により特定されるとおりのものであると認める。そのうち,請求項1に係る発明(本願発明1)は,次のとおりである。 「pH2.5以上pH4以下,且つ95℃以上140℃以下の処理により,米糠から水溶性画分を抽出することを特徴とする,水溶性多糖類の製造法。」 第3 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は,要するに,本願発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である下記引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。 引用文献1: 特開平2-276801号公報 第4 当審の判断 1 引用発明 (1) 査定の理由で引用された引用文献1には,次の記載がある。(下線は本審決による。以下同じ。) ・ 1頁左下欄5行?最下行 「2.特許請求の範囲 1 穀類のヌカ,フスマ又は外皮の原料を,熱水の存在下で熱安定性アミラーゼを添加して脱デンプン工程で処理し,脱デンプンされた原料をアルカリ性または酸性下で抽出する抽出工程で処理し,次いで得られた水溶性ヘミセルロースB画分含有液を中和・脱塩工程に付する水溶性ヘミセルロースの製造方法。… 3 抽出工程は,エクストルーダー,コロイドミル,ホモミキサーのいずれかにより,または組み合わせて行う請求項1記載の製造方法。 4 酸性下に抽出工程を行う請求項3記載の製造方法。」 ・ 2頁右下欄下から4行?最下行 「本発明は,穀物のヌカやフスマ,外皮中に含有する種々の生理効果を持つヘミセルロースB画分を,工業的に能率良く生産できる方法を提供することを目的とする。」 ・ 3頁右上欄3行?左下欄3行 「抽出工程は,脱デンプンされた原料を,エクストルーダー,コロイドミル等の剪断・混練・磨砕力を持った装置,あるいはホモミキサーなどの高速攪拌力を持った装置で抽出すると,短時間で,あるいは連続的に処理することができる。…また,水酸化ナトリウムの代わりにpH5以下の低級脂肪酸などの食品に添加可能な酸を用いて抽出することもできる。例えば,無機酸であれば塩酸,硫酸,リン酸等が挙げられ,有機酸であれば酢酸,クエン酸,グルコン酸,氷酢酸,酒石酸,乳酸,フマル酸,リンゴ酸,プロピオン酸,シュウ酸等が挙げられる。これらの中では特に塩酸,シュウ酸,硫酸,リン酸,酢酸,氷酢酸,プロピオン酸等が好ましく,最も好ましい酸は酢酸である。」 ・ 3頁右下欄13?19行 「(発明の効果) 本発明の効果は,一連の工程によって水溶性ヘミセルロースの工業的に大量生産が可能となることである。これにより,能率良く穀物のヌカやフスマ,外皮中に含有する水溶性ヘミセルロースを抽出分離することができ,また溶解性の高い粉末を調製できる。」 (2) 上記(1)の摘記,特に特許請求の範囲や3頁右上欄などの記載から,引用文献1には,次の発明(引用発明)が記載されていると認める。 「穀類のヌカを,熱水の存在下で熱安定性アミラーゼを添加して脱デンプン工程で処理し,脱デンプンされた穀類のヌカをpH5以下の酸性下で,エクストルーダー,コロイドミル,ホモミキサーのいずれかによりまたは組み合わせて抽出する抽出工程で処理し,次いで得られた水溶性ヘミセルロースB画分含有液を中和・脱塩工程に付する水溶性ヘミセルロースの製造方法」 2 対比 本願発明1と引用発明を対比すると,引用発明の「水溶性ヘミセルロースB画分含有液」は本願発明1の「水溶性画分」に,「水溶性ヘミセルロース」は「水溶性多糖類」にそれぞれ相当する。 また,本願発明1の「抽出」は「pH2.5以上pH4以下」という酸性下での処理によるものであるから,引用発明の「抽出工程」はpH5以下の「酸性下」で処理されるという点で,本願発明1の「抽出」に対応するといえる。さらに,「米糠」は,上位概念としてみたとき,「穀類のヌカ」といえるから,本願発明1と引用発明とは,その原料について,穀類のヌカという点で両者は一致する。 そうすると,両者は少なくとも次の点で一致し(一致点),次の点で相違する(相違点1?2)といえる。 ・ 一致点 酸性下の処理により,穀類のヌカから水溶性画分を抽出することを特徴とする,水溶性多糖類の製造法 ・ 相違点1 抽出処理が行われる条件について,本願発明1は「pH2.5以上pH4以下,且つ95℃以上140℃以下」と特定するのに対し,引用発明はpHについては「pH5以下」と特定するが,温度条件についての特定がない点 ・ 相違点2 水溶性多糖類(水溶性ヘミセルロース)を製造するにあたっての原料もしくは水溶性画分(水溶性ヘミセルロースB画分含有液)の抽出の対象について,本願発明1は「米糠」であるのに対し,引用発明は「穀類のヌカ」もしくは「脱デンプンされた穀類のヌカ」である点 3 相違点についての判断 (1) 相違点1について 本願の明細書,特に【0010】,【実施例1】及び【実施例2】の記載によれば,本願発明1は,抽出処理工程における条件のうち,pH値を特定の範囲(pH2.5以上pH4以下)とすることで,例えばエタ沈収率や高分子画分の収率の低下を抑制し,また温度を特定の範囲(95℃以上140℃以下)とすることで,全糖すなわち多糖類純度の低下や灰分の増加を抑制するという技術的意義を有するものであるといえる。 他方,引用文献1には,温度という条件に着目し,これを適宜調整することで,全糖すなわち多糖類純度の低下や灰分の増加を抑制するといった技術思想の開示はない。また,引用発明は,pH5以下の酸性下で抽出処理を行うものではあるが,引用文献1には,エタ沈収率や高分子画分の収率の低下を抑制するという解決課題のもとでこのpH値を調整しようとするとの思想は何ら開示されていない。しかも,本願の明細書の【実施例1】の記載から,pH5以下の酸性下の抽出処理であっても,本願発明1の数値範囲(pH2.5以上pH4以下)の方が,その他の範囲よりも,例えばエタ沈収率の点で有利な効果を奏するといえる。 そうすると,引用発明の抽出処理工程について,温度条件に着目して,その温度範囲を「95℃以上140℃以下」に設定すること,また,「pH5以下」との特定をさらに「pH2.5以上pH4以下」とすることは,当業者であっても想到容易であるということはできない。 (2) 小活 以上のとおりであるから,相違点2について検討するまでもなく,本願発明1は引用文献1に記載された発明から当業者が容易に発明できたものであるということはできない。 また,本願発明1が引用文献1に記載された発明から想到容易であるといえないのは上述のとおりであるから,請求項1の記載を引用する請求項2に係る発明である本願発明2についても同様に,いわゆる進歩性を否定することはできない。 第6 むすび そうすると,本願は,原査定の理由によって拒絶すべきものとすることはできない。 また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって,結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2014-02-14 |
出願番号 | 特願2007-555956(P2007-555956) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(C08B)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 關 政立 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
富永 久子 蔵野 雅昭 |
発明の名称 | 米糠由来の水溶性多糖類、その製造法及びこれを用いた乳化剤 |