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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C02F
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C02F
管理番号 1284760
審判番号 不服2013-712  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-16 
確定日 2014-03-04 
事件の表示 特願2006-323240「温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液の処理方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月19日出願公開、特開2008-136895、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成18年11月30日の出願であって、平成22年8月17日付けで拒絶理由が通知され、同年10月25日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、平成23年11月17日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成24年1月23日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年10月3日付けで、平成24年1月23日付けの手続補正書でした補正が却下され、同日付で拒絶査定がされ、これに対し、平成25年1月16日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正がされ、同年7月8日付けで当審により前置報告書を利用した審尋がされ、同年9月9日付けで回答書が提出され、同年10月25日付けで当審により拒絶理由が通知され、同年12月18日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願発明は、平成25年12月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、これらの請求項に係る発明を項番号に対応して、「本願発明1」などといい、これらをまとめて「本願発明」という。)。
「【請求項1】
細胞培養支持体である基材の表面に存在していた、37℃よりも低い下限臨界溶解温度を示す温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液の処理方法であって、前記温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液の温度を、前記水系洗浄液を収容した液槽中において、前記温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度以上に高めることにより水系洗浄液中の温度応答性高分子を固形分として析出させる析出工程と、前記析出工程で析出した温度応答性高分子を、水系洗浄液から、ろ過、沈殿物の回収、及び遠沈管と遠心分離器との組み合わせの使用から選択される手段により分離する分離工程とを含み、前記温度応答性高分子化合物が、下限臨界溶解温度未満の温度で親水性を示し、下限臨界溶解温度以上の温度で疎水性を示し、且つ、前記温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液の温度を前記下限臨界溶解温度以上であって前記下限臨界溶解温度より20℃高い温度以下に高めたときに固形分として析出する温度応答性高分子化合物である、前記方法。
【請求項2】細胞培養支持体である基材の表面に固定化された37℃よりも低い下限臨界溶解温度を示す温度応答性高分子化合物と遊離の前記温度応答性高分子化合物とが表面に存在する細胞培養支持体である前記基材の洗浄方法であって、前記基材の表面を、前記温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度未満の温度の水系洗浄液により洗浄して、前記固定化された温度応答性高分子は基材の表面に固定化したまま、前記遊離の温度応答性高分子化合物を基材の表面から除去し、除去された前記遊離の温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液を得る洗浄工程と、洗浄後の前記水系洗浄液の温度を、前記水系洗浄液を収容した液槽中において、前記温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度以上に高めることにより水系洗浄液中の温度応答性高分子を固形分として析出させる析出工程と、前記析出工程で析出した温度応答性高分子を、水系洗浄液から、ろ過、沈殿物の回収、及び遠沈管と遠心分離器との組み合わせの使用から選択される手段により分離する分離工程とを含み、前記温度応答性高分子化合物が、下限臨界溶解温度未満の温度で親水性を示し、下限臨界溶解温度以上の温度で疎水性を示し、且つ、前記温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液の温度を前記下限臨界溶解温度以上であって前記下限臨界溶解温度より20℃高い温度以下に高めたときに固形分として析出する温度応答性高分子化合物である、前記方法。
【請求項3】分離工程後の水系洗浄液の温度を下限臨界溶解温度未満に低下させた後、洗浄工程において再利用する、請求項2記載の方法。
【請求項4】細胞培養支持体である基材の表面に固定化された温度応答性高分子化合物と遊離の温度応答性高分子化合物とが表面に存在する細胞培養支持体である前記基材が、基材表面に、温度応答性高分子化合物の前駆物質であるモノマーを存在せしめ、基材表面上において重合反応と基材表面への結合反応とを進行させることにより形成されたものである請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】細胞培養支持体である基材の表面に固定化された温度応答性高分子化合物と遊離の温度応答性高分子化合物とが表面に存在する細胞培養支持体である前記基材が、基材表面に、温度応答性高分子化合物の前駆物質であるモノマー及びプレポリマーを存在せしめ、基材表面上において重合反応と基材表面への結合反応とを進行させることにより形成されたものである請求項2又は3記載の方法。
【請求項6】細胞培養支持体である基材の表面に存在していた、37℃よりも低い下限臨界溶解温度を示す温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液の処理装置であって、前記水系洗浄液を収容する液槽と、前記液槽に収容された水系洗浄液の温度を前記温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度以上に高める加温手段と、前記加温により形成される温度応答性高分子の固形分である析出物を、水系洗浄液から、ろ過、沈殿物の回収、及び遠沈管と遠心分離器との組み合わせの使用から選択される手段により分離する分離手段とを備え、前記温度応答性高分子化合物が、下限臨界溶解温度未満の温度で親水性を示し、下限臨界溶解温度以上の温度で疎水性を示し、且つ、前記温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液の温度を前記下限臨界溶解温度以上であって前記下限臨界溶解温度より20℃高い温度以下に高めたときに固形分として析出する温度応答性高分子化合物である、前記装置。
【請求項7】細胞培養支持体である基材の表面に固定化された37℃よりも低い下限臨界溶解温度を示す温度応答性高分子化合物と遊離の前記温度応答性高分子化合物とが表面に存在する細胞培養支持体である前記基材を洗浄するための洗浄装置であって、前記基材の表面を、前記温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度未満の温度の水系洗浄液により洗浄して、前記固定化された温度応答性高分子は基材の表面に固定化したまま、前記遊離の温度応答性高分子化合物を基材表面から除去する洗浄手段と、前記洗浄により発生する、除去された前記遊離の温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液を収容する液槽と、前記液槽に収容された水系洗浄液の温度を前記温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度以上に高める加温手段と、前記加温により形成される温度応答性高分子の固形分である析出物を、水系洗浄液から、ろ過、沈殿物の回収、及び遠沈管と遠心分離器との組み合わせの使用から選択される手段により分離する分離手段とを備え、前記温度応答性高分子化合物が、下限臨界溶解温度未満の温度で親水性を示し、下限臨界溶解温度以上の温度で疎水性を示し、且つ、前記温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液の温度を前記下限臨界溶解温度以上であって前記下限臨界溶解温度より20℃高い温度以下に高めたときに固形分として析出する温度応答性高分子化合物である、前記装置。
【請求項8】前記分離後の水系洗浄液の温度を前記温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度未満に低下させる冷却手段と、前記冷却後の水系洗浄液を前記洗浄手段に供給する供給手段とを更に備える請求項7記載の装置。」

第3 拒絶理由の概要
1.原査定の拒絶理由の概要
本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開平2-203984号公報
刊行物2:特開2003-038170号公報

2.当審の拒絶理由の概要
本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。


「37℃よりも低い下限臨界溶解温度を示す温度応答性高分子化合物」という記載では、「下限臨界溶解温度」の下限が不明であって、「温度応答性高分子化合物」がどのようなものか明確ではない。

第4 当審の判断
1.原査定の拒絶理由について
(1)刊行物1の記載事項
刊行物1には、「廃水の処理方法及びその装置」(発明の名称)について、次の記載がある。
ア 「3.発明の詳細な説明
【産業上の利用分野】
この発明は、廃水、主としてアルミニウム合金鋳物の表面に付着した樹脂液を洗浄した使用済みの廃水の処理方法及びその装置に関する。」
イ 「【従来の技術】
自動車部品や電気部品等の素材として広く利用されているアルミニウム合金鋳物は、軽量かつ融点が低く鋳造し易い利点を持つ反面、内部組織にピンホールができ易い。 そのため、エンジンの吸排気系のマニホールドや気化器等の気密を要する製品では、これを熱硬化性の樹脂液に浸漬し加熱硬化させてピンホールを目つぶしし、気密性を確保するようにしており、その際、製品の表面に付着した樹脂液は水洗いして落すようにしているが、その使用済みの洗浄水(廃水)をそのまま河川等に放流させたのでは水質を汚染することになるし、また、この洗浄水を再使用することもできない。 そこで、洗浄水に溶け込んでいる樹脂を規制値以下に処理する次のような技術が提案されている。
即ち、上述のような鋳物製品を含浸カゴに収容してメタアクリル酸エステル等の熱硬化性の樹脂液で含浸処理し、これをカゴごと水洗槽に浸漬して洗浄し、製品は槽から取出して樹脂硬化工程側に移送する一方、槽から排出させた使用済みの洗浄水にはスラッジ生成用の薬液を添加して重合処理槽に滞留させ、水中に含まれている樹脂をスラッジ化し、次いで、スラッジ含有の水をスクリュープレスに送ってスラッジと水分に分離し、スラッジは適宜回収すると共に、水には高分子凝集剤を添加し第1中継槽に入れて攪拌する。 その後、水を沈降分離槽に送り前工程で回収できなかった微細な不純物を沈降分離させ、沈降した不純物は槽底から取出して重合処理層に戻し、槽からオーバーフローした水は次の第2中継層に入れ、二酸化マンガンを添加して残留薬品を中和させ、次いで水を濾過装置に送って微細な残留物やマンガン化合物をを除去する一方、濾過した水は再び洗浄用の水の一部として使用できるようにしている。」
ウ 「この発明は薬液や大がかりな設備を必要としないで、含有樹脂の析出分離を容易かつ経済的に行なうことができ、また、処理物の排出も円滑に行なえる新規な廃液の処理方法及びその装置を提供することを目的とする。」
エ 「【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、この発明は第1に廃水の処理方法として、水洗槽内の樹脂を含有した廃水を傾斜筒体の中に移送し、該筒体内において上記廃水を加熱すると共に、スクリュー羽根を互いにかみ合わせた上下一対のスクリュー軸により攪拌しつつ上送りして上記樹脂の粒状スラッジを形成し、次いで、該粒状スラッジを含む水を濾過し、濾過した水を上記水洗槽等に適宜移送するようにしたことを特徴とするものであり、また、第2にはこれを実施するための装置として、内外筒からなり水洗槽から移送される樹脂を含有した廃水を加熱する手段を備え、内部にはスクリュー羽根を互いにかみ合わせた上下一対のスクリュー軸を回転自在に配設した加熱重合装置と、この加熱重合装置から排出した粒状スラッジ含有の水を濾過する濾過装置と、該濾過装置で濾過された処理水を水洗槽等に移送する手段とで構成したことを特徴とするものである。」
オ 「【作 用】
製品から樹脂液を洗い落した廃水(使用済みの洗浄水)を加熱重合装置に送れば、廃水は所要温度に加熱されると共に、上下一対のスクリュー軸によりゆっくりと攪拌され、廃水に溶け込んでいる樹脂分が析出分離し、これを互いにかみ合うスクリュー羽根でこね回し、かつ掻き取りながら上送りする過程で造粒して粒状スラッジとなし、その処理水を濾過装置に送って濾過し、樹脂分を適宜外部に取出し、清澄水は途中貯槽に溜めるなどして水洗槽等に戻す。」
カ 「【実施例】
以下に、本発明を添付図面を参照しながら説明する。
第1図はこの発明の実施例を周辺の技術を含めて工程的に示すものであり、aは含浸カゴで、内部には前述のような熱硬化性の樹脂液で含浸処理したアルミニウム合金の鋳物製品が収容されており、その含浸カゴaを第1水洗槽1と第2水洗槽2に順次に上下の矢印のように浸漬して、鋳物製品の表面に付着した樹脂液を洗浄するが、その際、各槽中のCOD値は第1水洗槽1では約50,000ppmであるのに対し、第2水洗槽2では約5,000ppmであってかなり低くなっているが、まだ規制値より高いので、その使用済みの洗浄水を外部に放流するわけにいかず、ポンプP_(2)により第1水洗槽1に送って1次洗浄水として用いられる。
・・・(略)・・・
一方、第1の水洗槽1内の使用済みの洗浄水、即ち廃水はポンプP_(2)により取出されて、次のような加熱重合装置10の下端部に送り込まれ、その内部を上昇する過程で溶け込んだ樹脂分が析出分離される。
加熱重合装置10は第2図に示すように廃水の流れ方向下流側が高くなるように高低二つの支柱17a,17bによって斜めに支持された縦長の内筒11と、これより若干短く上流端(下端)を揃え、かつ内筒11との間に蒸気ジャケット15を設けて同心状に配設された外筒12とからなり、内筒11の内部には一対のスクリュー軸13,14が上下の関係でそのスクリュー羽根13a,14aを互いにかみ合わせて配設され、これらスクリュー軸13,14の両端部は内筒11の両側の軸受部材16a,16bにより軸支され、下流側の高い支柱17aの張出し腕17cにセットされたモータMからチェーン、歯車等の一連の伝導部材18を介して等速同方向(移送物を上昇させる方向)に5rpm程度でゆっくりと回転するようになされており、また、外筒12の周面には断熱材19が被着されている。
しかして、上記一対のスクリュー軸13,14を回転し、内外筒間の蒸気ジャケット15に供給パイプ20を通して蒸気を送る一方、ポンプP_(2)で取出した第1水洗槽1内の廃水を内筒11下端の入口パイプ21を通して内筒11内に送り込めば、廃水はスクリュー軸13,14で攪拌されながら蒸気により90℃前後に加熱され、その加熱とゆっくりした攪拌作用で水中に溶け込んだ樹脂分が析出分離し、上下のスクリュー羽根14a,13aでこね回されながら徐々に上送りされ、その過程で析出樹脂は凝集し造粒されて樹脂スラッジとなり、水分とともに上端の排出口22から次の濾過装置3に向かって送り出される。」
キ 図1



ク 図2「



(2)刊行物1に記載された発明の認定
上記アから、刊行物1には、「主としてアルミニウム合金鋳物の表面に付着した樹脂液を洗浄した使用済みの廃水の処理方法及びその装置」が記載されている。
そして、上記イの「エンジンの吸排気系のマニホールドや気化器等の気密を要する製品では、これを熱硬化性の樹脂液に浸漬し加熱硬化させてピンホールを目つぶしし、気密性を確保するようにしており、その際、製品の表面に付着した樹脂液は水洗いして落すようにしているが、その使用済みの洗浄水(廃水)をそのまま河川等に放流させたのでは水質を汚染することになるし・・・」という記載から、刊行物1に記載された「使用済みの廃水」は、製品の表面に付着した樹脂液を水洗いした廃水を含むものであって、該「廃水」に、「水」及び「樹脂液」が含まれることは明らかである。
また、上記イの「使用済みの洗浄水(廃水)」という記載及び上記オの「製品から樹脂液を洗い落した廃水(使用済みの洗浄水)」という記載から、刊行物1においては、「廃水」は「洗浄液」とも表記されるということができる。

そして、上記エから、上記廃水(洗浄水)の処理方法について、
「水洗槽内の樹脂を含有した廃水を傾斜筒体の中に移送し、
該筒体内において上記廃水を加熱すると共に、スクリュー羽根を互いにかみ合わせた上下一対のスクリュー軸により攪拌しつつ上送りして上記樹脂の粒状スラッジを形成し、該粒状スラッジを含む水を濾過し、
濾過した水を上記水洗槽等に適宜移送するようにした」ことが記載され、これを実施するための装置について、
「内外筒からなり水洗槽から移送される樹脂を含有した廃水を加熱する手段を備え、内部にはスクリュー羽根を互いにかみ合わせた上下一対のスクリュー軸を回転自在に配設した加熱重合装置と、
この加熱重合装置から排出した粒状スラッジ含有の水を濾過する濾過装置と、
該濾過装置で濾過された処理水を水洗槽等に移送する手段とで構成した」ことが記載されている。

そうすると、上記廃水の処理方法において、「筒体内において廃水を加熱すると共に、スクリュー羽根を互いにかみ合わせた上下一対のスクリュー軸により攪拌しつつ上送りして樹脂の粒状スラッジを形成」することは、「内外筒からなり水洗槽から移送される樹脂を含有した廃水を加熱する手段を備え、内部にはスクリュー羽根を互いにかみ合わせた上下一対のスクリュー軸を回転自在に配設した加熱重合装置」で行われることは明らかである。

そして、上記カに、上記加熱重合装置について具体化した「実施例」について、「第1水洗槽1内の廃水を内筒11下端の入口パイプ21を通して内筒11内に送り込めば、廃水はスクリュー軸13,14で攪拌されながら蒸気により90℃前後に加熱され、その加熱とゆっくりした攪拌作用で水中に溶け込んだ樹脂分が析出分離し、上下のスクリュー羽根14a,13aでこね回されながら徐々に上送りされ、その過程で析出樹脂は凝集し造粒されて樹脂スラッジとなり、水分とともに上端の排出口22から次の濾過装置3に向かって送り出される」と記載されていることから、上記加熱重合装置においては、水中に溶け込んだ樹脂分が、加熱とゆっくりした攪拌作用で析出分離し、スクリュー羽根によってこね回される過程で凝集し造粒されて樹脂スラッジになることがわかる。

以上のことから、刊行物1には、
「主としてアルミニウム合金鋳物の表面に付着した樹脂液の洗浄に用いられた、該樹脂液を含む洗浄液の処理方法において、
(工程1)水洗槽内の洗浄液を傾斜筒体の中に移送し、
(工程2)該筒体内において上記洗浄液を加熱すると共に、スクリュー羽根を互いにかみ合わせた上下一対のスクリュー軸により攪拌しつつ上送りして、水中に溶け込んだ樹脂分を析出分離させ、
(工程3)スクリュー羽根によってこね回される過程で凝集し造粒されて粒状スラッジを形成し、
(工程4)該粒状スラッジを含む水を濾過し、
(工程5)濾過した水を上記水洗槽等に適宜移送するようにした洗浄液の処理方法」に関する発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているということができる。

(3)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「主としてアルミニウム合金鋳物の表面に付着した樹脂液の洗浄に用いられた、該樹脂液を含む洗浄液」は、水を含む洗浄液であるから、本願発明1の「水系洗浄液」に相当し、引用発明の「洗浄液の処理方法」は、本願発明1の「水系洗浄液の処理方法」に相当する。
また、引用発明の「アルミニウム合金鋳物」、「筒体」及び上記(工程4)の「濾過」する工程は、本願発明1の「基材」、「液槽」及び「ろ過により分離する分離工程」にそれぞれ相当する。
そして、本願発明1の「温度応答性高分子化合物」と、引用発明の「樹脂液」とは、「高分子化合物」である点で共通する。
また、上記(工程2)における「析出分離」される「水中に溶け込んだ樹脂分」は、高分子であることは明らかであるから、本願発明1の上記「析出工程」において「固形分として析出」される「温度応答性高分子」と、引用発明の「析出分離」される「水中に溶け込んだ樹脂分」とは、「高分子」である点で共通する。
そして、本願発明1の「前記温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液の温度を、前記水系洗浄液を収容した液槽中において、前記温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度以上に高めることにより水系洗浄液中の温度応答性高分子を固形分として析出させる析出工程」における「温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度以上に高めること」と、引用発明の上記(工程2)の「筒体内において上記廃水を加熱すると共に、スクリュー羽根を互いにかみ合わせた上下一対のスクリュー軸により攪拌しつつ上送りして、水中に溶け込んだ樹脂分を析出分離させ」ることにおいて、「廃水を加熱する」こととは、「高分子」を析出させるために、液体の温度を高める点で共通する。

そうすると、本願発明1と引用発明とは、
「基材の表面に存在していた、高分子化合物を含む水系洗浄液の処理方法であって、前記高分子化合物を含む水系洗浄液の温度を、前記水系洗浄液を収容した液槽中において、高めることにより水系洗浄液中の高分子を固形分として析出させる析出工程と、前記析出工程で析出した高分子を、水系洗浄液から、ろ過により分離する分離工程とを含む前記方法」である点で一致し、次の相違点1?3で相違する。
(相違点1)
基材が、本願発明1では、細胞培養支持体であるのに対し、引用発明では、主としてアルミニウム合金鋳物である点。
(相違点2)
水系洗浄液に含まれ、析出させて、分離する高分子化合物が、本願発明1では、温度応答性高分子化合物であり、しかも、前記温度応答性高分子化合物が、下限臨界溶解温度未満の温度で親水性を示し、下限臨界溶解温度以上の温度で疎水性を示し、且つ、前記温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液の温度を前記下限臨界溶解温度以上であって前記下限臨界溶解温度より20℃高い温度以下に高めたときに固形分として析出する温度応答性高分子化合物であるのに対し、引用発明では樹脂であって、温度応答性高分子であるかどうかは不明な点。
(相違点3)
水系洗浄液の温度を高めて高分子を固形分として析出させる析出工程における温度が、本願発明1では、温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度以上であるのに対し、引用発明では、加熱する温度は不明な点。

(4)相違点についての判断
事案にかんがみ、まず、相違点2について検討する。
(相違点2について)
引用発明の「樹脂液」について検討すると、上記イの「エンジンの吸排気系のマニホールドや気化器等の気密を要する製品では、これを熱硬化性の樹脂液に浸漬し加熱硬化させてピンホールを目つぶしし、気密性を確保するようにしており、その際、製品の表面に付着した樹脂液は水洗いして落すようにしているが、・・・鋳物製品を含浸カゴに収容してメタアクリル酸エステル等の熱硬化性の樹脂液で含浸処理し、これをカゴごと水洗槽に浸漬して洗浄し」という記載からみて、引用発明の「樹脂液」は、具体的には、熱硬化性の樹脂液であり、刊行物1には、本願発明1のような「下限臨界溶解温度未満の温度で親水性を示し、下限臨界溶解温度以上の温度で疎水性を示」す「温度応答性高分子」を樹脂液として用いることは記載も示唆もされていない。
また、「熱硬化性の樹脂液に浸漬し加熱硬化させてピンホールを目つぶしし、気密性を確保するように」用いられる「樹脂液」として、仮に、本願発明で用いられたような「温度応答性高分子」を用いたとすると、「温度応答性高分子」は熱硬化性のものに限られるものではなく、樹脂液で製品のピンホールを樹脂液で目つぶしした後に、水洗槽に浸漬して洗浄した際に、水洗槽に浸漬する温度によっては下限臨界溶解温度未満となって、目つぶしした樹脂液が親水性を示すことで、製品のピンホールから流出してしまい、目つぶしの作用が失われてしまう可能性がある。
そうすると、引用発明の「樹脂液」として、本願発明1のような「温度応答性高分子」を用いることには、阻害要因があるというべきであり、引用発明において、樹脂液として温度応答性高分子を用いる動機付けは見出すことができず、上記相違点2に係る本願発明1の発明特定事項については、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

なお、原審における平成24年10月3日付けの補正の却下の決定には、「温度応答性高分子化合物は周知の樹脂」(2頁27行)と記載されているので、原査定の拒絶の理由で引用された特開2003-38170号公報(刊行物2)及び平成24年10月3日付けの補正の却下の決定において引用された特開平3-266980号公報(以下、「刊行物3」という。)の記載について検討する。
ア 刊行物2について
刊行物2は、「前眼部関連細胞シート、3次元構造体、及びそれらの製造法」(発明の名称)について、【0036】に、「【実施例1、2】市販のポリスチレン製細胞培養皿(ベクトン・ディッキンソン・ラブウェア(Becton Dickinson Labware)社製 ファルコン(FALCON)3001ペトリディッシュ(直径3.5cm)上に、N-イソプロピルアクリルアミドモノマーを40%(実施例1)、50%(実施例2)になるようにイソプロピルアルコールに溶解させたものを0.10ml塗布した。その塗布面上に直径2cmの孔を1つ持つ直径3.5cmの金属製マスクをのせ、そのままの状態で0.25MGyの強度の電子線を照射し、培養皿表面にN-イソプロピルアクリルアミドポリマー(PIPAAm)を円形状(島状の部分。マスク下の部分は電子線が当たらず何も被覆されない海部分となる。)に固定化した。」、「基材表面に温度応答性高分子が1.6μg/cm^(2)(実施例1)、2.2μg/cm^(2)(実施例2)被覆されることが分かった。」という記載(下線は当審によって付与した。)があり、温度応答性高分子である「N-イソプロピルアクリルアミドポリマー(PIPAAm)」が例示され、基材表面に温度応答性高分子が被覆されることは示されているとしても、刊行物2には、温度感応性高分子化合物を含む水系洗浄液の処理については記載が見当たらず、刊行物2には、水系洗浄液の温度を温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度以上に高めて、水系洗浄液から温度応答性高分子を固形分として析出させることについて、開示されているということはできない。

イ 刊行物3について
刊行物3には、「細胞培養用基材およびそれを用いた細胞集合体の製造方法」(発明の名称)について記載され、「本発明の細胞培養用基材は、培養温度より低いLCSTを有する温度感応性高分子化合物からなることを特徴とする。ここでLCST(Lower Critical Solution Temperature)とは、温度感応性高分子化合物の水和と脱水和の転移温度をいう。」(5頁右下欄1?5行)という記載があり、刊行物3には、細胞培養用基材が温度感応性高分子化合物からなることが示されているものの、温度感応性高分子化合物を含む水系洗浄液の処理については記載が見当たらず、刊行物3には、水系洗浄液の温度を温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度以上に高めて、水系洗浄液から温度応答性高分子を固形分として析出させることについて、開示されているということはできない。

また、温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液の処理において、上記析出工程を採用することが、当業者にとって技術常識ないし周知技術であるとする根拠も見当たらない。

そうすると、上述したように、引用発明において、樹脂液として温度応答性高分子を採用することについては阻害要因があり、温度応答性高分子が含まれる液体を下限臨界溶解温度よりも高い温度に高めて固形分として析出させることは、刊行物2、3には開示されておらず、しかも、当業者にとって技術常識ないし周知技術であるともいえない以上、引用発明において、上記相違点3に係る本願発明1の発明特定事項である「温度応答性高分子化合物の下限臨界溶解温度以上に高めることにより水系洗浄液中の温度応答性高分子を固形分として析出させる析出工程」を当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

(まとめ)
以上のことから、相違点1について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明及び刊行物2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

また、本願発明2は、上記上記相違点1?3に係る本願発明1の発明特定事項を備えるものであり、本願発明3?5は、本願発明2を引用し、本願発明2の発明特定事項を全て含むものであるから、本願発明1と同様な理由から、本願発明2?5は、引用発明及び刊行物2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
そして、本願発明6?8は、それぞれ、本願発明1?3に係る発明の実施に直接使用する装置に関する発明であるから、本願発明1と同様な理由から、引用発明及び刊行物2、3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

2.当審拒絶理由について
温度応答性高分子が、細胞培養支持体である基材の表面に存在していたことが記載されたことで、「下限臨界溶解温度」の下限が不明確であるとはいえなくなり、当審拒絶理由は解消した。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由及び当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-02-17 
出願番号 特願2006-323240(P2006-323240)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (C02F)
P 1 8・ 121- WY (C02F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小久保 勝伊  
特許庁審判長 川端 修
特許庁審判官 吉水 純子
真々田 忠博
発明の名称 温度応答性高分子化合物を含む水系洗浄液の処理方法及び装置  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  
代理人 藤田 節  
代理人 藤田 節  
代理人 平木 祐輔  
代理人 平木 祐輔  

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