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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1284775
審判番号 不服2011-6614  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2011-03-29 
確定日 2014-02-12 
事件の表示 特願2006-507635「循環器疾患の治療のためのL-カルニチンの使用」拒絶査定不服審判事件〔平成16年10月28日国際公開、WO2004/091602、平成18年10月19日国内公表、特表2006-523685〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.本件発明
本件出願は、2004年 3月 3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2003年 4月17日、イタリア)を国際出願日とする出願であって、請求項1?6に係る発明は、平成22年11月 8日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
急性心筋梗塞による死亡数の低減のための、L-カルニチンまたはその医薬上許容される塩の1つを含む医薬組成物であって、該死亡数の低減は、該医薬組成物による治療開始後最初の5日以内における急性心筋梗塞による死亡数の低減であり、該L-カルニチンまたはその医薬上許容される塩の1つは急性心筋梗塞の症状の発症後最初の6時間以内に初期量9グラム/日で5日間静脈内投与され、その後、治療は経口で用量4グラム/日にて継続される、医薬組成物。」

2 引用例の記載事項
これに対して、原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先権主張日前に頒布された、「The Journal of the American College of Cardiology,1995年,26(2),pp.380-387」(以下、「引用例1」という。)、「Postgraduate Medicine Journal,1996年,72,pp.45-50」(以下、「引用例2」という。)には、各々、以下の記載がある。なお、引用例1、2は外国語で記載された刊行物であるので、翻訳文を示す。

「引用例1」
1-1 「目的:本研究は、急性前壁心筋梗塞患者の長期間にわたる左心室拡大に関するL-カルニチン投与の効果を評価するために行われた。

背景:カルニチンは、心筋エネルギー生産での重要な役割をミトコンドリア・レベルで果たす生理化合物である。虚血、急性心筋梗塞、及び心不全において、心筋のカルニチン欠乏が発生する。実験的研究は、これらの事象において外因性カルニチン投与が機能に有益な影響を及ぼすことを示唆した。
方法:L-カルニチンデジタル化心エコー検査法心筋梗塞(CEDIM)試験は、無作為、二重盲検、プラセボ対照、多施設試験であって、最初の急性心筋梗塞をおこした、高品質二次元心エコー図をもつ472人の患者が、胸の痛みが現れてから24時間以内に、プラセボ(239人の患者)もしくはL-カルニチン(233人の患者)を投与された。プラセボもしくはL-カルニチンは、最初の5日、9g/日の量で静注され、次の12ヵ月の間、6g/日の量で経口で投与された。入院時、退院時、急性心筋梗塞の後の3、6、及び12ヵ月に、左心室容積と駆出率が評価された。

結果:急性心筋梗塞後の1年間の左心室拡大の有意な減少が、プラセボ群と比較してL-カルニチンで処置された患者において観察された。入院から3、6、12ヵ月評価に至るまで、拡張終期容積、収縮終期容積ともにパーセントの増加がL-カルニチン群で有意に減少された。両群間において左室駆出率の経時的変化に有意差は観察されなかった。臨床エンドポイントに差異を実証するように計画されていたわけではないが、退院後の死亡と鬱血性心不全との合計発病率は、L-カルニチン治療群の14人(6%)に対してプラセボ群(p=NS)の23人(9.6%)であった。フォローアップの間の虚血性疾患事象の発生率は、両患者群で同様だった。

結論:急性心筋梗塞後、早期に開始され、12ヵ月間続けられるL-カルニチン処置は、急性心筋梗塞後の1年間における左心室拡大を減らすことができ、その結果、該急性心筋梗塞後、3、6、及び12ヶ月における左心室容積をより小さくする。」(p380上段)

1-2 「472人の患者がCEDIM試験に登録された:239人がプラセボを、233人がL-カルニチンを投与された;投与は胸の痛みが現れた12.7±7.17時間後に行われた。 ・・・

心エコー結果 退院時、急性心筋梗塞後3、6、及び12か月における、プラセボ群とL-カルニチン群間の、拡張終期容積、収縮終期容積、及び駆出率についての調整後の差が表3に示されている。L-カルニチン処理された患者においては、拡張終期容積、収縮終期容積ともに、急性心筋梗塞後3、6、及び12か月において有意により低い値であり;有意ではないものの、退院時と同様の早期においても、拡張終期容積、収縮終期容積ともにより低い値であった。左心室駆出率は、急性心筋梗塞後1年において両群間で有意な差異はなかった。
L-カルニチン処置患者において、進行性の左心室拡大は、ベースラインから、退院時、急性心筋梗塞後3、6、及び12か月におけるまで、拡張終期容積、収縮終期容積とも、その%増加によって示されているように、プラセボ処置患者における値に比べてより小さいことが記述されている(表3、図1)。左心室駆出率変化も、フォローアップ期間中、両群間において同様であった(表4)。

臨床結果 両処置群における、入院、フォローアップ期間中の臨床事象が表5に示されている。プラセボ群に比べてより低い(しかし、不適当な研究母集団の大きさのために、有意差がないのは明らかであるが、)退院後の死亡数と心不全患者数が、L-カルニチン群で観察された。フォローアップ期間に虚血性事象を示した患者数は両群において同様であった。
副作用のために処置が中止された本試験に関与した患者はいなかった。」(p382左欄 Resultsの項)

1-3 図1には、上段に拡張終期の、下段に収縮終期の、ベースライン(入院時)から、退院時、急性心筋梗塞後3、6、及び12か月における、L-カルニチン群の左心室容積の%変化(平均値±95%信頼区間)が、プラセボ群の該%変化に比べて常に低いことが記載されている。

1-4 表4には、L-カルニチン群とプラセボ群の拡張終期容積、収縮終期容積、駆出率の%変化が記載されている。入院時に対する退院時の拡張終期容積、収縮終期容積、駆出率の%変化は、L-カルニチン群で、順に、6.7±1.4、7.7±1.7±、0.6±0.9であり、プラセボ群で、順に、9.6±1.7、11.0±0.8、0.4±1.0であることが記載されている。

1-5 表5には、入院中の死亡、心不全患者が、L-カルニチン群で順に11名(4.7%)、42名(18%)、プラセボ群で順に14名(5.9%)、38名(15.1%)であること、1年のフォローアップ後において、各々、10名(4.3%)、4名(1.7%);13名(5.4%)、10名(4.2%)であることが記載されている。(p385右欄 表5)

1-6 「CEDIM試験において、L-カルニチンは突然の胸の痛みが現れてから12.7±7.17時間後に投与されたので、さらに迅速に投与したならば、危険域内の虚血灌流による機能不全によりよい保護効果を与えることができたかもしれない。この処置の遅延は、試験対象患者基準としての2次元心エコー検査法の品質に対する要求に左右された。今後の研究において、カルニチンが再灌流療法とともに速やかに投与されるならば、虚血再灌流ダメージを限定的にする可能性や、その結果としての左心室拡大に対する効果を評価するのに有益であろう。本研究がなされたと同様に、より多くの患者を対象としたプロジェクトであって、機能的なパラメーターよりむしろ生存率や死亡率というエンドポイントの確立を目的としたプロジェクトが現在準備段階にある。
本研究は臨床的なエンドポイントにおける有意差を明らかにするために計画されたものではなかったが、退院後の死亡と心不全の合計発生数は、L-カルニチン処置群で14名に対して、プラセボ処置群では24名であった。この差は、有意なものではないが、臨床事象における該化合物の有益な効果と一致する。該薬物が冠動脈システムそれ自体には効かずに、筋細胞にだけ有効であったことを反映する心筋虚血を含有する他の臨床エンドポイントの発生において差がなかったことは記載されるべきである。急性心筋梗塞患者のL-カルニチン処置の機能的な利益は、急性心筋梗塞の代謝療法の臨床的影響を評価することを目的として特別に計画される、より大規模な試験に対する概念的な基礎を示しうるものである。」(p385右欄下から6行?p386左欄24行)

1-7 「急性前壁心筋梗塞後のカルニチン処置は、急性心筋梗塞後1年における左心室容積における増加に有意な減少をもたらして、左心室リモデリングに対して有益な効果を発揮する。この機能的効果は、急性心筋梗塞後、およそ3ヶ月で観察される。この効果は、重要な臨床的意味を持つ可能性がある。というのは、最近発表されたところによれば、急性心筋梗塞後1年における左心室領域(左心室容積の間接推定)の増加が将来の重大な心臓事象の強力な予測因子とされているからである。」(p386左欄 Conclusionsの項 1?11行)

「引用例2」
2-1 「無作為、二重盲検、プラセボ対照試験において、経口L-カルニチン(2g/日)を28日間投与の効果が、急性心筋梗塞が疑われる患者51人(カルニチン群)と50人(プラセボ群)に分けて比較された。・・・心臓死と非致死性心筋梗塞を含む総心臓事象は、カルニチン群で15.6%で、プラセボ群で26.0%であった。急性心筋梗塞が疑われる患者において、L-カルニチン補充は、梗塞後28日の間における心臓壊死と合併症を防御する可能性がある。」(Summaryの項)

2-2 「各錠剤は330mgのL-カルニチンを含有する。処置群の患者は、カプセル中のカルニチンを2錠(1.98g/日)与えられた。プラセボカプセルには100mg/日の水酸化アルミニウムが含有されていた。」(p46左欄 Treatmentsの項 6?10行)

2-3 「急性心筋梗塞においては、虚血性ダメージと代謝反応がとても早く進行するから、梗塞後速やかに処置がなされなければ、処置の利益は得られない。我々の患者の多くに対して、症状が現れて10時間以内にカルニチンが与えられた。その結果、急性心筋梗塞が疑われる患者へのカルニチン補給(2g/日)は、・・・プラセボと比べて、カルニチン群におけるより低い心臓壊死を示したことがわかった(表2)。」(p47右欄 Discussionの項 1行?p48右欄8行)

2-4 「カルニチン補給された急性心筋梗塞患者の心臓壊死の改善は、狭心症と総心臓不整脈とクラスIII、IV心不全と左心室拡大の有意な減少と関連していた。総心臓死亡率はカルニチン群において有意な減少を示さなかったが、総心臓事象はプラセボ群と比べてカルニチン群において有意に少なかった(表4)」(p49 下から16?6行)

3.対比・判断
引用例1には、上記1-1、1-2に摘記のとおり、急性心筋梗塞患者に、胸の痛みが現れた12.7±7.17時間後に、L-カルニチンが、最初の5日、9g/日の量で静注され、次の12ヵ月の間、6g/日の量で経口で投与されたことが記載されている。ここで、急性心筋梗塞患者の胸の痛みとは、急性心筋梗塞の主たる症状であることは明らかであるから、上記の胸の痛みが現れて12.7±7.17時間後、とは、急性心筋梗塞の症状の発症後12.7±7.17時間後、の意である。
引用例1には、また、上記したL-カルニチン処置により、急性心筋梗塞後、1年間における左心室拡大を減らすことができた旨が記載されている(摘記事項1-1 結論の項)。
そうすると、引用例1には、「L-カルニチンを急性心筋梗塞の症状の発症後12.7±7.17時間から5日間、9g/日の量で静注され、次の12ヵ月の間、6g/日の量で経口で投与される、左心室拡大減少剤。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

本件発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「左心室拡大減少剤」は、心臓の病態を改善する薬剤であるから、「医薬組成物」に相当する。また、引用発明の「次の12ヶ月の間」、「経口で投与される」は、本件発明の「その後、治療は経口で」、「継続される」に相当する。
そうすると、両者は、
「L-カルニチンを含む医薬組成物であって、急性心筋梗塞の症状の発症後初期量9グラム/日で5日間静脈内投与され、その後、治療は経口で継続される、医薬組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
1.本件発明が、医薬組成物について、「急性心筋梗塞による死亡数の低減のための」、と規定し、また、「該死亡数の低減は、該医薬組成物による治療開始後最初の5日以内における急性心筋梗塞による死亡数の低減であり」、と規定しているのに対し、引用発明は、「左心室拡大減少剤」である点。
2.本件発明が、L-カルニチンの静脈内投与の時期について、急性心筋梗塞の症状の発症後「最初の6時間以内に」、と規定しているのに対し、引用発明は、「12.7±7.17時間」、とされている点。
3.本件発明が、L-カルニチンの経口投与量について、「用量4グラム/日」と規定しているのに対し、引用発明は、「6g/日の量」、とされている点。

そこで、上記相違点について、以下、相違点2、1、3の順に検討する。
相違点2について
引用例1には、L-カルニチンを急性心筋梗塞の症状の発症後「最初の6時間以内に」静脈内投与する点について明示の記載はない。
しかし、急性心筋梗塞においては、虚血性ダメージの進行が早く、早期の段階での処置が重要であることは、たとえば、急性心筋梗塞が疑われる患者におけるL-カルニチン投与の効果について論じた引用例2に、「急性心筋梗塞においては、虚血性ダメージと代謝反応がとても早く進行するから、梗塞後速やかに処置がなされなければ、処置の利益は得られない。我々の患者の多くに対して、症状が現れて10時間以内にカルニチンが与えられた。」(摘記事項2-3)と記載されるように、急性心筋梗塞の治療においては、早期処置がより好ましい治療効果をもたらすことは本出願前の技術常識である。
また、引用例1には、L-カルニチンの投与時期について、CEDIM試験対象患者基準としての2次元心エコー検査法の品質に対する要求により投与が遅延したことや、L-カルニチンがさらに迅速に投与されたならば、危険域内の虚血灌流による機能不全によりよい保護効果を与えることができたかもしれないこと、さらには、再灌流療法とともに速やかに投与される研究がなされれば、虚血再灌流ダメージを限定化する可能性の評価に有益となりうることが記載されている(摘記事項1-6)。
そうすると、上記技術常識を有し、また引用例1の上記記載に接した当業者であれば、より優れた急性心筋梗塞治療効果を期待して、引用発明におけるL-カルニチンの静脈内投与時期をさらに早めることを当然に検討するものと認める。
そして、本件発明の「最初の6時間以内に」という投与時期についても、引用発明におけるL-カルニチンの静脈内投与時期「12.7±7.17時間」は、急性心筋梗塞の症状の発症後、最短で「5.53時間」、最長で「19.87時間」と読み替えることができるから、引用例1には、本件発明の「最初の6時間以内に」L-カルニチンが投与された場合が記載されているともいえるものである。仮にそうでないとしても、早期の治療開始が好ましいとの上記技術常識を考慮するならば、L-カルニチンの投与時期を上記最短投与時期を参考にして、本件発明の相違点2に係る発明特定事項を想到することになんら困難性は見いだせない。

相違点1について
引用例1記載の研究は、急性前壁心筋梗塞患者の長期間にわたる左心室拡大に関するL-カルニチン投与の効果を評価することを第一義的な目的としてCEDIM試験がなされたものであり(摘記事項1-1 目的の項)、臨床的なエンドポイントにおける有意差を示すことを目的としたものではなかった。そして、該CEDIM試験の結果、L-カルニチンが左心室拡大を低減する作用を有することを確認したものである、しかし、該試験により、上記に加え、退院後の死亡と心不全の合計発生数が、L-カルニチン処置群の14名に対して、プラセボ処置群では24名であること、両群の差は有意ではないものの、臨床事象における化合物の有益な効果と一致することが確認されている(摘記事項1-6)。引用例1には、さらに、生存率や死亡率というエンドポイントの確立を目的としたプロジェクトが準備段階にあることが記載されている(摘記事項1-6)。
以上の記載からみて、引用例1には、L-カルニチンが、急性心筋梗塞の治療におけるエンドポイントである患者の生存率や死亡率に対し改善効果を有する可能性があることが記載もしくは示唆されていると認められるから、当業者が、Lーカルニチンが有する効果について、引用発明の「左心室拡大減少剤」という機能性効果に代えて、患者の死亡数に与える効果に着目して、該死亡数の低減をもって引用発明の医薬組成物を特定することとし、これを「急性心筋梗塞による死亡数の低減のための」、と表現することに格別の困難性は見いだせない。
そして、引用例1には、急性心筋梗塞の症状の発症後の5日間と、それ以降とで、L-カルニチンの投与方法、投与量を、静注、9g/日から経口、6g/日と変更しており、早期においてより積極的な治療を行っていることに照らせば、上記死亡数の低減について、より早い時期、とりわけ、その治療条件を変更する時期にあたる発症後5日までの死亡数の低減をもって引用発明の医薬組成物を特定することに格別の困難性は見いだせない。
よって、上記相違点1に係る本件発明の発明特定事項は当業者が容易に想到し得たところである。

相違点3について
引用発明では、L-カルニチンの経口投与量は「6g/日」とされている。
また、引用例2には、急性心筋梗塞が疑われる患者に対して、経口L-カルニチンを「2g/日」、28日間投与することにより、梗塞後28日間における心臓壊死と合併症を防御することができた旨が記載されている(摘記事項2-1)。
そして、薬剤の投与量は、患者の状態、体重、求められる治療効果や副作用の可能性などを考慮の上、適宜調整して決定されるべきものである。
そうすると、本出願前、すでに、L-カルニチンの経口投与による急性心筋梗塞の治療において、従来採用されていた投与量である「6g/日」、「2g/日」の中間値でL-カルニチンを投与してみることに格別の困難性は見いだせない。

そして、本願明細書記載の本件発明の効果についてみても、急性心筋梗塞発症後、死亡数が、3日、5日、7日、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月、12ヶ月において、低減されているというものであって、そのような効果は、上記相違点について、の項においてすでに検討したとおり、引用例1、2に記載された事項から、当業者であれば、L-カルニチンを早期に投与することによりもたらされるであろうことを予想しうるものと認められる。
請求人は、引用例1、2のいずれの刊行物にも、治療開始後5日以内における死亡数の評価は行われておらず、また、より遅い時期において死亡数が低減していることが確認されているとしても、L-カルニチン群とプラセボ群との間に有意差があることは確認されていないのに対して、本件発明が、治療開始後5日の時点での死亡数を有意に低減させたことは驚くべき効果である旨主張する。
たしかに、本件明細書には、急性心筋梗塞発症後5日におけるL-カルニチン群の死亡数はプラセボ群に比べて有意に低減されているが、それより前の3日、また、それより後の、7日、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月、12ヶ月のいずれにおいても有意差は確認されておらず、単に低減傾向にあるというにすぎない。そして、本件発明は、L-カルニチンによる「治療開始後最初の5日以内における急性心筋梗塞による死亡数の低減」を規定するものであるが、本件発明に包含される最初の3日の時点において有意差が確認しえないのであるから、5日の時点で有意差が確認されたことをもって、直ちに本件発明が引用例から予測し得ないほどに顕著な効果を奏し得たものといえるものではない。

4 むすび
以上のとおり、本件出願の請求項1に係る発明は、本願の優先権主張日前に頒布された引用例1、2に記載された発明、並びに本願出願時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-07-11 
結審通知日 2013-07-16 
審決日 2013-09-27 
出願番号 特願2006-507635(P2006-507635)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 清野 千秋  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 川口 裕美子
穴吹 智子
発明の名称 循環器疾患の治療のためのL-カルニチンの使用  
代理人 山崎 宏  
代理人 田中 光雄  
代理人 志賀 美苗  
代理人 冨田 憲史  

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