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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23L |
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管理番号 | 1284785 |
審判番号 | 不服2012-667 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2012-01-13 |
確定日 | 2014-02-12 |
事件の表示 | 特願2009-531529「ネオテームおよびアセスルファム-Kの混合物を用いた、低カロリー飲料」拒絶査定不服審判事件〔平成20年4月10日国際公開、WO2008/042661、平成22年 2月25日国内公表、特表2010-505422〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、2007年9月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2006年10月4日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成22年8月17日付けの拒絶理由通知に対して、平成23年2月24日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成23年9月5日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成24年1月13日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正がなされたものである。 第2 本願発明 本願発明は、平成24年1月13日付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?16に記載されたとおりのものであって、そのうち、請求項1及び3に係る発明は、次のとおりのものと認める。(以下、請求項1に係る発明を「本願発明1」という。) 「【請求項1】 栄養甘味料と、 ネオテームを含む第1の代替甘味料、および第2の代替甘味料を含む、人工甘味料とを含む、食品用の低カロリー甘味料であって、 前記栄養甘味料の量が低カロリー甘味料の全甘味料の50?75%を提供し、 ネオテームおよび第2の代替甘味料の比が、甘味寄与率に基づいて90:10であることを特徴とする、 低カロリー甘味料。 【請求項3】 前記第2の代替甘味料がアセスルファム-Kを含むことを特徴とする請求項1または2記載の低カロリー甘味料。」 第3 原査定の理由 拒絶査定に記載された拒絶理由2の概要は、本願の請求項1?16に係る発明は、その出願前に頒布された下記1?4の引用文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができるものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 記 1.特開平10-248521号公報 2.特開平11-318382号公報 3.国際公開第2005/004636号 4.国際公開第2006/027796号 第4 引用刊行物に記載された事項 1 刊行物1に記載された事項 上記引用文献1である「特開平10-248521号公報」(以下、「刊行物1」という。)には、以下の事項が記載されている。 なお、下線は当審にて付与したものである。以下、同様である。 (刊1-1)「【特許請求の範囲】 【請求項1】N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルとアセスルファムKとを含有し、かつ、N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルが、N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルとアセスルファムKの全重量の3%?80%であることを特徴とする甘味料組成物。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は高甘味度甘味料であるN-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステル(以下「MII」と略記する。)とアセスルファムK(以下「AceK」と略記する)とを含有することを特徴とする自然な甘味を有する甘味料に関する。」 (刊1-2)「【0004】 【発明が解決しょうとする課題】本発明の課題は、前項に記載のMIIの甘味質特性に鑑み、先味を強め、あと味を弱め、渋味を弱めることにより、MIIをスクロースに類似した甘味質の高甘味度甘味料として提供するにある。」 (刊1-3)「【0007】 【発明の実施の形態】本発明の甘味料組成物は、MIIとAceKを含有してなるが、MIIとAceKの量比は、両者の合計重量に占めるMIIの比率が3?80重量%である。MIIの比率が3%を下回る又は80%を上回る組成物の場合、併用効果、即ち、各々単独の場合に比べてのさき味、後味、渋みの改善効果に欠ける。従って、MIIが、MIIとAceKの合計重量に占める比率は、3%?80重量%で、甘味特性の改善された甘味料組成物が得られ、更に好ましくは3.5%?60重量%含有すると、極めて甘味質のバランスがとれたスクロースに類似した甘味料組成物が得られる。」 (刊1-4)「【0009】[実験例1]市水をイオン交換した後、蒸留した水(以降、純水と称する)を用いて実験した。スクロース10%相当の甘味強度(以降、PSE10%と称する)を有するMII水溶液を調製し、先味、くせ、しつっこさ、刺激、苦味、あと味、渋味、すっきり、まろやかの9項目について、スクロース10%水溶液と比較評価した。先味が極端に弱く、あと味が極端に強く、渋味が強い。更に、くせ、しつっこさが強く、味のバランスが極端に崩れ、悪かった。一方、MIIとAceKを甘味強度比で9:1?1:9の割合で変化させ、しかし、PSE10%は一定として、水溶液を調製し、スクロース10%水溶液と比較評価した。甘味強度比で9:1?6:4までは、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が低減され、くせ、苦味はややあるも、大幅に呈味性が改善され、バランスの取れた良い呈味を示した。又、甘味強度比6:4を越えると、すなわちAceKの比率が甘味強度比で40%を越えると、先味は強まるが、後味、苦味、渋味、くせが、極端に強まり、甘味質のバランスが大幅に崩れた。AceK単独の強烈なくせのある甘味質が現出した。 【0010】[実験例2]PSE10%のMIIの炭酸コーラ溶液を調製し、スクロース10%炭酸コーラ溶液と比較評価した。水溶液での比較評価結果よりは、くせ、しつっこさが弱まっているが、先味が弱く、後味が強く、渋味が強かった。同様にPSE10%相当のAceKの炭酸コーラ溶液を調製し、スクロース10%炭酸コーラ溶液と比較評価したところ、強烈なくせのある呈味を示し、先味が強まるが、後味、渋味、苦味、しつっこさ、くせが極端に強く、まろやか、すっきりが極端に弱かった。一方、MIIとAceKを甘味強度比で9:1?1:9の割合で変化させ、しかし、PSE10%は一定として、炭酸コーラ溶液を調製し、スクロース10%炭酸コーラ溶液と比較評価した。甘味強度比で9:1?6:4までは、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が低減され、くせ、苦味はややあるも、大幅に呈味性が改善され、バランスの取れた良い呈味を示した。甘味強度比6:4を越えると、すなわちAceKの比率が甘味強度比で40%を越えると、先味は強まるが、後味、苦味、渋味、くせが、極端に強まり、甘味質のバランスが大幅に崩れた。AceK単独の強烈なくせのある甘味質が現出した。」 (刊1-5)「【0012】 【発明の効果】本発明の甘味料組成物は、MIIやAceKの単独使用では得られない良質のバランスの取れた呈味性を有する高甘味度甘味料を提供する。他の賦形剤(スクロース等も含む)との併用も勿論可能である。特に炭酸コーラではその優位性を発揮するが、これに限定されず、すべての用途で、改善された甘味質の組成物として適用可能である。」 (刊1-6)「【0027】[実施例3]上記の実験方法を用いて下記の割合の炭酸コーラ溶液を調製した。 【0028】実験No.1、3、7の各炭酸コーラ溶液を、スクロース10%炭酸コーラ溶液をコントロールとして、先味、くせ、しつこさ、刺激、苦味、後味、渋味、すっきり、まろやかの9項目について比較評価した。甘味質は改善され、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が弱まり、バランスのとれた呈味性を示した。(n=20)。又、実験No.4?6の各炭酸コーラ溶液(PSE換算比でAceKが5以上の場合)を、スクロース10%炭酸コーラ溶液をコントロールとして、同様に比較評価した。甘味質は改善され、各々、先味が強まるものの、後味、渋味、苦味、くせが極端に強く、すっきり、まろやかが極端に弱くなり、バランスの崩れた呈味性を示した。特にAceKの甘味強度比率が高まるにつれ、大きくバランスを崩した(n=20)。」 2 刊行物2に記載された事項 上記引用文献3である「国際公開第2005/004636号」(以下、「刊行物2」という。)には、以下の事項が記載されている。(翻訳は当審による。) (刊2-1)「Abstruct:This invention relates to sweetening compositions used to produce foodstuffs with a sweetness and taste profile comparable to HFCS 55. The sweetener compositions generally include at least one carbohydrate sweetener selected from the group consisting of HFCS 55, HFCS 42 and sucrose along with an effective amount of a high intensity sweetener composition. The high intensity sweetener composition includes acesulfame K and one of either aspartame, sucralose or neotame. Foodstuffs formed using the reduced-calorie sweetener compositions of the invention exhibit a taste profile comparable to HFCS 55 and a calorie reduction of 50% or more.」(フロントページ) (訳文)「要約:本発明は、HFCS55と同等の甘味と風味特性の食品の製造に使用される甘味料組成物に関する。甘味料組成物は、一般に、高強度甘味料組成物の有効量とともに、HFCS55、HFCS42及び蔗糖からなるグループから選ばれる少なくとも一つの炭水化物甘味料とからなる。高強度甘味料組成物は、アセスルファムK及びアスパルテーム、スクラロース又はネオテームのうちのどれか一つを含む。本発明の低カロリー甘味料組成物を使用した食品は、HFCS55と同等の風味特性と50%以上のカロリー低減を示す。」 (刊2-2)「Example 4:Beverage containing 10.15 wt.-% (bowf) HFCS 55 vs. 3.5 wt.-% carbohydrate mixture plus acesulfame K/neotame in a lemon-lime carbonated beverage The sensory profile of a 10.15 weight percent (bowf) HFCS 55 sweetened product was compared to a product sweetened with a reduced-calorie sweetener composition formed from a combination of (a) a carbohydrate sweetener mixture of 1.75 weight percent (bowf) HFCS 42 and 1.75 weight percent (bowf) sucrose and (b) an intense sweetener mixture of 0.158 g/l acesulfame K and 0.00345 g/l neotame. The products were based on the beverage system described in Comparative Example 1. The results are shown in Figure 6. As shown in Figure 6, only small statistically significant sensory differences between the products in accordance with the invention in comparison to HFCS 55 sweetened beverages were observed, i.e. the values differed for the most part only at a 95 % confidence interval. These differences can be regarded as being not relevant to consumers. The only difference at the 99 % confidence interval was the lemon/lime attribute, considered irrelevant to consumers. To determine if any relevance did exist, a subsequent triangle test was performed using the two beverages. Out of 24 consumers, only 11 picked the right sample, which results in no significant difference (alpha = 0.14) between the beverages. Consequently, the differences between these two beverages were not detectable by consumers. These results indicate that beverages sweetened with the neotame-based sweetener compositions exhibited a comparable taste profile to that of beverages sweetened with HFCS 55 alone. More particularly, the foregoing results indicate that the taste profile of beverages sweetened with the neotame-based sweeteners are statistically equivalent to, i.e. are substantially statistically identical to, the taste profile of beverages sweetened with HFCS 55 alone. This result is altogether unexpected.」(15頁7行?16頁8行) (訳文)「実施例4:レモンライム炭酸飲料中に10.15重量%(bowf)HFCS55対3.5重量%炭水化物混合物に加えアセスルファム K/ネオテームを含有する飲料 10.15重量%(bowf)HFCS55での甘味付け製品の官能特性を、(a)1.75重量(bowf)HFCS42と1.75重量(bowf)蔗糖の炭水化物甘味料混合物、及び(b)0.158g/lアセスルファムKと0.00345g/lネオテームの強度甘味料混合物の組合せから形成される低カロリー甘味料組成物で甘味付けされた製品と比較した。製品は、比較例1に記載の飲料システムに基づいている。結果を図6に示す。 図6に示すように、HFCS55で甘味付けした飲料と比較すると、本発明に従った製品との間には、ほんの少ししか統計的に有意な感覚的差異はみられなかった、すなわち、値は、大部分、95%信頼区間で異なる。 これらの相違は、消費者に関連しないと見なされる。99%信頼区間でのただ一つの相違は、消費者にとって無関係と考えられるレモン/ライムの特性である。 何らかの関連性が存在するかどうかを判断するために、次のトライアングルテストを二つの飲料で実施した。24人の消費者のうち11人だけが正しいサンプルを選んだ、すなわち、飲料間で顕著な相違はない(アルファ=0.14)という結果である。 それゆえに、これら二つの飲料間の相違は、消費者にとって検出可能ではない。 これらの結果は、ネオテームベースの甘味料組成物で甘味付けされた飲料は、HFCS55だけで甘味付けされた飲料と同等な風味特性を示すことを意味する。特に、先の結果は、ネオテームベースの甘味料で甘味付けされた飲料の風味特性は、統計的に同等であることを示している、すなわち、HFCS55だけで甘味付けされた飲料の風味特性と実質上統計的に同一である。この結果は、全く予期しないことである。」 (刊2-3)「 」(FIG.6) 3 刊行物3に記載された事項 上記引用文献4である「国際公開第2006/027796号」(以下、「刊行物3」という。)には、以下の事項が記載されている。(翻訳は当審による。) (刊3-1)「Example 1: The following composition is developed and proposed for use in food commodities such as beverage, chewing gums, etc. and compared with that of preparations using plain sucrose with same sweetness intensity. A formulated dry sweetener product made with Trichlorogalactosucrose (TGS) which is 1',6'-Dichloro-1',6'-Dideoxy-a-D-Fructo-Furanosyl-4-Chloro-4-Deoxy-a-D-Galactopyranoside (also widely known as sucralose), Acesulphame K and Neotame, Tapioca starch, maltodextrin, citric acid and flow agents was produced by first mixing the following components in a Hobart mixer. Then, 1520 grams of water was slowly added for about 1 hour until the mix was slightly damp. The material was then removed and dried overnight (16 hours) at 170.degree.F and ground. The sweeteners according to their organoleptic properties (desirable and undesirable properties were studied) were mixed in varied proportions with sucrose. The sucrose quantity was evaluated by testing the overall organoleptic property of the preparation. The agglomerated product is then filled in sachets for ready to use in Coffee and tea preparations as a substitute for sugar. The starch component in the formulation is derived from tapioca that has been designed for use in broad range of products. This starch gives clean flavor release and has been designed to tolerate harsh processing and long-term storage conditions. The product helps in use under cold, warm and hot applications are fully functional in liquids of various viscosities and soluble solids level. Following is the use of the Composition A prepared as above in the preparation of instant coffee. Also the comparison with other sweetener preparations is discussed. Preparation 1 Preparation 2 Preparation 3 Preparation 4 The preparations were tested for organoleptic properties. A panel of 5 experts evaluated the preparations and the properties were rated in the scale of ten as given below. The overall organoleptic evaluation concludes that Preparation 2 using the formulated sweetener mix matches by and large with that of Preparation 1 (sucrose).」(11頁6行?13頁11行) (訳文)「実施例1: 飲料、チューインガムなどの食料品に使用するために、以下の組成物が開発・提案され、同じ甘味度の通常の砂糖を使用して調製したものと比較された。 処方乾燥甘味料製品は、1’,6’-ジクロロ-1’,6’-ジデオキシ-a-D-フルクト-フラノシル-4-クロロ-4-デオキシ-a-D-ガラクトピラノシド(また、スクラロースとして広く知られる)であるトリクロロガラクトスクロース(TGS),アセスルファムK及びネオテームで作られ、タピオカ澱粉、マルトデキストリン、クエン酸及びフロー剤は、ホバート混合機で次の成分を最初に混合して製造する。 項目 Qty(g) TGS 5.52 アセスルファムK 3.68 ネオテーム 0.003 澱粉乳化剤 14.7 蔗糖 14.7 マルトデキストリン(希釈剤) 738 クエン酸(希釈剤) 738 次に、混合物を少し湿るまで、水1520gをゆっくり約1時間かけて加える。そして、材料を取出し、一夜(16時間)170度Fで乾燥し、粉砕する。 (望ましい及び望ましくない特性が研究されている)官能特性にしたがって甘味料は、蔗糖と種々の割合で混合する。蔗糖の量は、調製品の全体の官能特性をテストすることで評価した。次に、凝集物が、蔗糖の代替品としてコーヒー及び茶の調製で使用するために小袋に充填された。 処方における澱粉成分は、広範囲の製品で使用することが予定されたタピオカ由来である。この澱粉は、混じりけのない風味の放出を与え、過酷な処理と長期の貯蔵状態に耐えるようにする。製品は、冷、温及び熱下で役立ち、種々の粘度の液体及び可溶性固体レベルで十分に機能的に適用される。 以下は、インスタントコーヒーの調製物における上記のように調製された組成物Aの使用である。また、他の甘味料調製物との比較を考察する。 調製物1 項目 Qty(g)/カップ 蔗糖 5.00 インスタントコーヒー 0.99 乳成分不含クリーム 3.97 バニラフレーバー 0.08 水 72.86 調製物2 項目 Qty(g)/カップ 甘味料混合小袋 2.04 インスタントコーヒー 0.99 乳成分不含クリーム 3.97 バニラフレーバー 0.08 水 72.86 調製物3 項目 Qty(g)/カップ トリクロロガラクトスクロース 0.007 インスタントコーヒー 0.99 乳成分不含クリーム 3.97 バニラフレーバー 0.08 水 72.86 調製物4 項目 Qty(g)/カップ マルチトール 5.00 インスタントコーヒー 0.99 乳成分不含クリーム 3.97 バニラフレーバー 0.08 水 72.86 調製物は官能特性をテストした。5人の専門家のパネルが調製物を評価し、特性を次のように10のスケールで格付けした。 特性 調1 調2 調3 調4 甘味 7 7 8 7 後味の苦味 4 3 6 5 テクスチャ 6 6 3 4 味のシャープさ 9 9 6 5 粘性 0 1 1 4 フレーバー 6 6 8 6 全体の官能評価は、処方甘味料混合物を使用した調製物2が、調製物1(蔗糖)に匹敵していると結論づけられる。」 第5 刊行物1に記載された発明 刊行物1の摘示(刊1-1)には、 「N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルとアセスルファムKとを含有し、かつ、N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルが、N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステルとアセスルファムKの全重量の3%?80%であることを特徴とする甘味料組成物。」が記載されており、以下、これを引用発明1という。 第6 対比 1 引用発明1における「N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステル」は、 上記拒絶理由で引用文献2として引用された「特開平11-318382号公報」に 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、粉体のN-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステル(ネオテーム Neotame。以下、「NM」と略記する。)と粉体のアセスルフェームK(Acesulfame K。以下、「ACE-K」と略記する。)とを有効成分とする、溶解性に優れた粉体甘味料組成物に関する。」と記載されているように、本願発明1の「ネオテーム」に相当する。 そして、摘示(刊2-1)の 「要約:本発明は、HFCS55と同等の甘味と風味特性の食品の製造に使用される甘味料組成物に関する。甘味料組成物は、一般に、高強度甘味料組成物の有効量とともに、HFCS55、HFCS42及び蔗糖からなるグループから選ばれる少なくとも一つの炭水化物甘味料とからなる。高強度甘味料組成物は、アセスルファムK及びアスパルテーム、スクラロース又はネオテームのうちのどれか一つを含む。本発明の低カロリー甘味料組成物を使用した食品は、HFCS55と同等の風味特性と50%以上のカロリー低減を示す。」との記載によれば、ネオテームは、高強度甘味料であり、低カロリー甘味料組成物を構成するものであるから、代替甘味料であることは明らかである。 したがって、引用発明1に係る「N-[N-(3,3-ジメチルブチル)-L-α-アスパルチル]-L-フェニルアラニン 1-メチルエステル・・・を含有し、」は、本願発明1の食品用の低カロリー甘味料の「ネオテームを含む第1の代替甘味料」に対応する。 2 引用発明1に係る「アセスルファムK」は、本願特許請求の範囲の「請求項3」の 「前記第2の代替甘味料がアセスルファム-Kを含むことを特徴とする請求項1または2記載の低カロリー甘味料。」の記載に照らし、本願発明1の「第2の代替甘味料」に対応する。 3 そして、ネオテームやアセスルファムKの高強度甘味料が、人工甘味料であることは明らかである。 4 本願発明1と引用発明1とを対比すると、次の点で一致している。 「ネオテームを含む第1の代替甘味料、および第2の代替甘味料を含む、人工甘味料とを含む、食品用の低カロリー甘味料であって、 ネオテームおよび第2の代替甘味料の比が、特定の数値であることを特徴とする、 低カロリー甘味料。」 5 そして、次の点で相違している。 (1)本願発明1では、人工甘味料のほかに、「栄養甘味料」を含むのに対して、引用発明1ではそうでない点。(以下、「相違点(A)」という。) (2)本願発明1では、「栄養甘味料の量が低カロリー甘味料の全甘味料の50?75%を提供」するのに対し、引用発明1では、そうでない点。(以下、「相違点(B)」という。) (3)本願発明1では、「ネオテームおよび第2の代替甘味料の比が、甘味寄与率に基づいて90:10である」のに対し、引用発明1では、「ネオテームが、ネオテームとアセスルファムKの全重量の3%?80%」である点。(以下、「相違点(C)」という。) 第7 判断 1 相違点(A)及び(B)について 本願発明1に係る「栄養甘味料」に関して、発明の詳細な説明の段落【0007】には、 「栄養甘味料としては、例えば、イヌリン、D型グルコース、果糖、トウモロコシの高果糖シロップ(HFCS)、グルコース、ラクトース、リボース、キシロース、マルトースまたはショ糖が挙げられる。」との記載がある。 一方、摘示(刊2-1)には、 「本発明は、HFCS55と同等の甘味と風味特性の食品の製造に使用される甘味料組成物に関する。甘味料組成物は、一般に、高強度甘味料組成物の有効量とともに、HFCS55、HFCS42及び蔗糖からなるグループから選ばれる少なくとも一つの炭水化物甘味料組成物とからなる。高強度甘味料は、アセスルファムK及びアスパルテーム、スクラロース又はネオテームのうちのどれか一つを含む。本発明の低カロリー甘味料組成物を使用した食品は、HFCS55と同等の風味特性と50%以上のカロリー低減を示す。」との記載があり、 上記した本願発明1の「栄養甘味料」に関する記載を加味すると、摘示(刊2-1)には、アセスルファムKやネオテームの「高強度甘味料」と、HFCSや蔗糖(ショ糖)の栄養甘味料とからなる甘味料組成物が記載されていると解される。 そして、摘示(刊2-2)には、 「(a)1.75重量(bowf)HFCS42と1.75重量(bowf)蔗糖の炭水化物甘味料混合物、及び (b)0.158g/lアセスルファムKと0.00345g/lネオテームの強度甘味料混合物の組合せから形成される低カロリー甘味料組成物」及び、 摘示(刊3-1)には、 「 項目 Qty(g) TGS 5.52 アセスルファムK 3.68 ネオテーム 0.003 澱粉乳化剤 14.7 蔗糖 14.7 マルトデキストリン(希釈剤) 738 クエン酸(希釈剤) 738 」 との記載があり、HFCSや蔗糖の「栄養甘味料」と、ネオテームやアセスルファムKの「高強度甘味料」とを併用することが本願優先日前に既に公知であったことがわかる。 したがって、ネオテームやアセスルファムKの人工甘味料に加えて、「栄養甘味料」を併用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。 加えて、摘示(刊1-5)には、 「本発明の甘味料組成物は、MIIやAceKの単独使用では得られない良質のバランスの取れた呈味性を有する高甘味度甘味料を提供する。他の賦形剤(スクロース等も含む)との併用も勿論可能である。」との記載があり、スクロース(蔗糖)を更に併用することの示唆があり、この点からも、ネオテームやアセスルファムKに蔗糖を併用することに当業者であれば容易に気付くと考えられる。 さらに、栄養甘味料と人工甘味料の比較において、栄養甘味料のほうが甘味特性で優れている、というのが、本願優先日当時の技術常識であることを踏まえると、例えば、栄養甘味料を、甘味寄与率として、半分(50%)以上含有させることは、当業者が適宜実施し得る範囲内のことである。 (本願の発明の詳細な説明の段落【0007】には、「他に示されない限り、比は、低カロリー甘味料の所望の甘味(DS)についての、PSSおよびSSSの甘味寄与率に基づいており、種々の甘味料成分の重量に基づくものではない。」との記載があり、かつ栄養甘味料と人工甘味料の甘味度が数百倍異なるにもかかわらず相違点(B)に係る「栄養甘味料の量が低カロリー甘味料の全甘味料の50?75%」の記載を「重量%」と解釈することに困難があることから、「甘味寄与率」と解釈して判断を示した。) このことは、下記の刊行物A?Cに記載された周知技術からも裏付けられる。 刊行物A:特表昭62-502827号公報 刊行物B:特表平3-505518号公報 刊行物C:国際公開01/025262号 (刊行物A) 刊行物Aには、 「1.結晶糖を基礎とした成形食品に、アスパルテームのような水への溶解性の低い物質を混入する方法において、濃縮された糖シロツプ中の上記物質の均一な懸濁物を調製し、この懸濁物を結晶糖を含有する上記食品と混合しそして得られた混合物を最終的に塊りに成形すること、そして成形に必要な水の量を、本質的に糖シロツプによつて得られそして懸濁物中への上記物質の配量が上記塊りへの配量によつて決定されることを特徴とする上記混入方法。 ・・・ 6.シロツプを形成する糖が蔗糖、ブドウ糖、転化糖および乳糖よりなる群の要素のうちの少くとも1種であることを特徴とする上記の請求の範囲のうちの1つによる方法。 ・・・ 10.それがアスパルテーム0.5%ないし2%を含有することを特徴とする上記請求の範囲のうちの1つによつて製造された塊状の砂糖。」(請求の範囲の項)および 「蔗糖の180ないし200倍というその甘味度は、アスパルテームをして食養生の見地から蔗糖の代用品として求めせしめている。」(2頁左上欄14?16行)との記載がある。 アスパルテームが0.5%であれば、蔗糖は、100-0.5=99.5%となり、アスパルテームの甘味度を蔗糖の200倍として計算すると、0.5×200=100となる。 したがって、刊行物Aに記載された配合は、甘味度の寄与率に換算すると、蔗糖:アスパルテーム=99.5:100であり、甘味寄与率は、栄養甘味料がほぼ半分を占めている。 (刊行物B) 刊行物Bには、 「実施例2 この実施例においては、ショ糖99.6%と強力甘味料0.4%から成り、全体として容積単位について市販の粉末状砂糖と同じ甘味力を示す製品を調製することを目ざした。このために、図2に示すような装置を使用した。この装置では、混合機1内に、一方でショ糖、もう一方では高い甘味力を持つ甘味料(aspartame)を連続的あるいは不連続的に導入する。」(3頁右下欄23行?4頁左上欄6行)との記載がある。 アスパルテームの甘味度は、ショ糖の200倍とすると、0.4×200=80となる。 したがって、刊行物Bに記載された配合は、甘味度の寄与率に換算すると、ショ糖:アスパルテーム=99.6:80であり、甘味寄与率は、栄養甘味料が勝っている。 (刊行物C) 刊行物Cには、 「【請求項27】アスパルチルジペプチドエステル誘導体とショ糖の全甘味強度に占めるショ糖の甘味強度比率が5?95%の範囲内にある請求の範囲26記載の甘味料組成物。」との記載がある。 刊行物Cによると、栄養甘味料であるショ糖と人工甘味料である化合物からなる組成物において、ショ糖の甘味強度が、50%を越えても良いことが分かる。 以上のとおり、人工甘味料のほかに、「栄養甘味料」を含めること、そして、その場合に「栄養甘味料の量が低カロリー甘味料の全甘味料の50?75%を提供」するようにすることは、刊行物1?3に記載された発明および刊行物A?Cに記載された周知技術を参酌すれば、当業者が容易に想到し得る範囲内のことである。 よって、相違点(A)及び(B)は、当業者にとって格別なことではない。 2 相違点(C)について 摘示(刊1-4)には、 「MIIとAceKを甘味強度比で9:1?1:9の割合で変化させ、 ・・(略)・・ 甘味強度比で9:1?6:4までは、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が低減され、くせ、苦味はややあるも、大幅に呈味性が改善され、バランスの取れた良い呈味を示した。又、甘味強度比6:4を越えると、すなわちAceKの比率が甘味強度比で40%を越えると、先味は強まるが、後味、苦味、渋味、くせが、極端に強まり、甘味質のバランスが大幅に崩れた。AceK単独の強烈なくせのある甘味質が現出した。」との記載がある。 上記「すなわちAceKの比率が甘味強度比で40%を越えると、先味は強まるが、後味、苦味、渋味、くせが、極端に強まり、甘味質のバランスが大幅に崩れた。AceK単独の強烈なくせのある甘味質が現出した。」との記載を踏まえると、AceK(アセスルファムK)は、できるだけ少なければ良好であることが教示されていると理解する。 そうすると、ネオテームとアセスルファムKの「甘味強度比で9:1?6:4」に関し、アセスルファムKが最小である「9:1」すなわち「90:10」という甘味強度比(甘味寄与率)を採用することは、当業者であれば容易に想到し得ることである。 なお、摘示(刊1-6)には、 「 No. MII:AceK MII:AceK 全重量に対する PSE比(%) 重量比(mg/dl) MIIの含量(%) 1 9:1 1.4 :1.0 58.3 2* 8:2 1.1 :4.9 18.3 3 6:4 1.1 :30.5 3.5 」 との記載があり、この記載によると、上記甘味強度比が9:1?6:4の場合、全重量に対するMII(ネオテーム)の含量(%)は、「3.5?58.3」であって、「3%?80%」の範囲内である。そうすると、引用発明1に係る「(ネオテーム)が、(ネオテーム)とアセスルファムKの全重量の3%?80(重量)%」(摘示(刊1-1)(刊1-3))という事項は、良好な効果が奏される甘味強度比が反映された重量比の数値範囲と解され、かつ当該重量比で記載された「3%?80%」の数値範囲には甘味強度比(甘味寄与率)で記載された本願発明1の「90:10」が含まれている。 3 本願発明1の効果について 本願明細書の発明の詳細な説明には、 「【0005】 本発明は、食品用の低カロリー甘味料に関する。低カロリー甘味料には、ネオテームを含む有効量の第1の代替甘味料、および第2の代替甘味料を有する合成甘味料が含まれる。本低カロリー甘味料は、従来の代替甘味料に付随する不快な味を妨げる。」との記載がある。 一方、刊行物1には、 「本発明の課題は、前項に記載のMIIの甘味質特性に鑑み、先味を強め、あと味を弱め、渋味を弱めることにより、MIIをスクロースに類似した甘味質の高甘味度甘味料として提供するにある。」(摘示(刊1-2))および 「先味が強まり、後味が弱まり、渋味が低減され、くせ、苦味はややあるも、大幅に呈味性が改善され、バランスの取れた良い呈味を示した。」(摘示(刊1-4))との記載があり、 これらの記載は、上記した本願発明1の「低カロリー甘味料は、従来の代替甘味料に付随する不快な味を妨げる。」という効果と軌を一にしている。 また、本願明細書の発明の詳細な説明には、 「【0009】 別の実施の形態では、低カロリー甘味料は、栄養甘味料(NS)および人工甘味料(AS)を有効量で含み、ここでASはPSSおよびSSSを含み、実質的に完全カロリーの栄養甘味料のような味および感触のする低カロリー甘味料を生じる。」および 「【0011】 本低カロリー甘味料は、不快な味を妨げ、良好な口当たりを維持すると同時に、食品のカロリーを低減させるのに効果的である。」との記載もある。 一方、刊行物1には、 「極めて甘味質のバランスがとれたスクロースに類似した甘味料組成物が得られる。」(摘示(刊1-3))および 「先味、くせ、しつこさ、刺激、苦味、後味、渋味、すっきり、まろやかの9項目について比較評価した。甘味質は改善され、先味が強まり、後味が弱まり、渋味が弱まり、バランスのとれた呈味性を示した。(n=20)。」(摘示(刊1-6))との記載があり、 本願発明1の「実質的に完全カロリーの栄養甘味料のような味および感触のする」および「不快な味を妨げ、良好な口当たりを維持する」との効果も併せて奏しているものと判断される。 そうすると、本願発明1の効果は、刊行物1?3に記載された事項および周知技術から予測されるところを越えて優れているとはいえない。 なお、審判請求人は、審判請求書の「(b)本願発明と引用発明との対比」において、 「一方、引用文献1は、スクロースを代替するための人工甘味組成物に関するものでありますが、この組成物中の栄養甘味料の甘味量に関する記載はなく、当然ながら本願発明の特徴とする低カロリー甘味料の全甘味料の50-75%を提供する栄養甘味料を含む低カロリー甘味料についての記載や示唆も全くありません。」と主張している。 しかし、本願の発明の詳細な説明には、栄養甘味料と低カロリー甘味料の量に関し、 「人工甘味料の量は、低カロリー甘味料の全甘味の約25?50%に相当し、約30%であることが好ましい。」(段落【0005】)、 「1つの実施の形態では、NSは、低カロリー甘味料の全甘味の50?70%を与える。NSは、低カロリー甘味料の甘味の70%に寄与することが好ましい。」(段落【0009】)、 「例えば、栄養甘味料の20%が人工甘味料(例えば・・・20%のNS・・・)で置き換えられる場合、20%のカロリー低減が達成される。」(段落【0011】)、 「例では、1000gの栄養甘味料のうち30%を、・・・人工甘味料で置換する。」(段落【0012】)、 「別の例を提供する。・・・飲料の甘味は、約70%が栄養甘味料、約30%が・・・人工甘味料に由来する。」(段落【0013】)、 「試験品のバリエーションは、次の甘味料を有する: a)70%の栄養甘味料、および b)30%の人工甘味料であって、・・・」(段落【0017】) との記載があるものの、これらの記載は、いずれも栄養甘味料の一部を人工甘味料で置換すること自体の開陳に止まり、特定の割合で配合したことによる効果を逐一確認し、それに基づいて上限・下限を設定したものでもない。 したがって、上記「50-75%」という数値限定に、格別の臨界的意義は見出せないから、審判請求人の主張は、採用できない。 第8 むすび 以上のとおり、本願発明1は、刊行物1?3に記載された発明および刊行物A?Cに記載された周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本願に係る他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-09-05 |
結審通知日 | 2013-09-10 |
審決日 | 2013-09-30 |
出願番号 | 特願2009-531529(P2009-531529) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(A23L)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉田 知美、平塚 政宏 |
特許庁審判長 |
田村 明照 |
特許庁審判官 |
関 美祝 板谷 一弘 |
発明の名称 | ネオテームおよびアセスルファム-Kの混合物を用いた、低カロリー飲料 |
代理人 | 佐久間 剛 |
代理人 | 柳田 征史 |