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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09C
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G09C
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09C
管理番号 1284814
審判番号 不服2012-8024  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-05-01 
確定日 2014-02-10 
事件の表示 特願2006-355395「データ処理装置及びデータ処理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 7月17日出願公開,特開2008-165008〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は,平成18年12月28日の出願であって,
平成21年3月19日付けで審査請求がなされ,平成23年9月30日付けで審査官により拒絶理由が通知され,平成23年11月4日付けで意見書が提出され,平成23年11月17日付けで審査官により拒絶理由が通知され,これに対して平成24年1月19日付けで意見書が提出されると共に手続補正がなされたが,平成24年2月3日付けで審査官により拒絶査定がなされ,これに対して平成24年5月1日付けで審判請求がなされると共に手続補正がなされ,平成24年7月17日付けで審査官により特許法第164条第3項の規定に基づく報告がなされ,平成25年1月24日付けで当審により特許法第134条第4項の規定に基づく審尋がなされ,平成25年3月26日付けで回答書の提出があったものである。

第2.平成24年5月1日付けの手続補正の却下の決定

[補正却下の決定の結論]

平成24年5月1日付け手続補正を却下する。

[理由]

1.補正の内容
平成24年5月1日付けの手続補正(以下,「本件手続補正」という)により,平成24年1月19日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲,
「 【請求項1】
各データ毎に疑似乱数を順に生成する疑似乱数生成部と,
第1群の複数個のデータに対応して前記疑似乱数生成部によって生成された複数個の疑似乱数に基づいて,前記第1群の複数個のデータに続く第2群の複数個のデータに対する複数個のスクランブル値を生成する第1の処理部と,
前記複数個のスクランブル値を用いて,前記第2群の複数個のデータに対するスクランブル処理を行う第2の処理部と
を備える,データ処理装置。
【請求項2】
前記第1の処理部は,
所定の順序変換テーブルが予め記憶された記憶部と,
前記順序変換テーブルに基づいて,前記疑似乱数生成部によって生成された前記複数個の疑似乱数の配列順序を変換し,それによって前記複数個のスクランブル値を得る順序変換部と
を有する,請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記第1の処理部は,
所定の演算規則テーブルが予め記憶された記憶部と,
前記演算規則テーブルに基づいて,前記疑似乱数生成部によって生成された前記複数個の疑似乱数を用いた演算を行い,それによって前記複数個のスクランブル値を得る演算部と
を有する,請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記第1の処理部は,
前記疑似乱数生成部によって生成された前記複数個の疑似乱数の配列順序を,当該複数個の疑似乱数自身の値に基づいて変換し,それによって前記複数個のスクランブル値を得る順序変換部
を有する,請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記第1の処理部は,
前記疑似乱数生成部によって生成された前記複数個の疑似乱数の値に基づいて,所定の演算規則を生成する演算規則生成部と,
前記所定の演算規則に基づいて,当該複数個の疑似乱数を用いた演算を行い,それによって前記複数個のスクランブル値を得る演算部と
を有する,請求項1に記載のデータ処理装置。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正前の請求項」という)は,
「 【請求項1】
データ群を構成するバイト単位の複数個のデータの各データ毎に疑似乱数を順に生成する疑似乱数生成部と,
第1データ群の複数個のデータに対応して前記疑似乱数生成部によって生成された複数個の疑似乱数に基づいて,前記第1データ群の複数個のデータに続く第2データ群の複数個のデータに対する複数個のスクランブル値を生成する第1の処理部と,
前記複数個のスクランブル値を用いて,前記第2データ群の複数個のデータに対するスクランブル処理を行う第2の処理部と
を備える,データ処理装置。
【請求項2】
前記第1の処理部は,
所定の順序変換テーブルが予め記憶された記憶部と,
前記順序変換テーブルに基づいて,前記疑似乱数生成部によって生成された前記複数個の疑似乱数の配列順序を変換し,それによって前記複数個のスクランブル値を得る順序変換部と
を有する,請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項3】
前記第1の処理部は,
所定の演算規則テーブルが予め記憶された記憶部と,
前記演算規則テーブルに基づいて,前記疑似乱数生成部によって生成された前記複数個の疑似乱数を用いた演算を行い,それによって前記複数個のスクランブル値を得る演算部と
を有する,請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項4】
前記第1の処理部は,
前記疑似乱数生成部によって生成された前記複数個の疑似乱数の配列順序を,当該複数個の疑似乱数自身の値に基づいて変換し,それによって前記複数個のスクランブル値を得る順序変換部
を有する,請求項1に記載のデータ処理装置。
【請求項5】
前記第1の処理部は,
前記疑似乱数生成部によって生成された前記複数個の疑似乱数の値に基づいて,所定の演算規則を生成する演算規則生成部と,
前記所定の演算規則に基づいて,当該複数個の疑似乱数を用いた演算を行い,それによって前記複数個のスクランブル値を得る演算部と
を有する,請求項1に記載のデータ処理装置。」(以下,上記引用の請求項各項を,「補正後の請求項」という)に補正された。

2.補正の適否
本件手続補正は, 補正前の請求項1に係る発明における発明特定事項である,「各データ毎」における「データ」を,「データ群を構成するバイト単位の複数個のデータ」と限定するものであり,
また,同じく,補正前の請求項1に係る発明における「第1群」,及び,「第2群」を,それぞれ,「第1データ群」,及び,「第2データ群」と限定するものであって,
上記指摘の限定事項は,本願の願書に最初に添付された明細書,及び,図面(以下,これを「当初明細書等」という)の,発明の詳細な説明の段落【0022】に,
「以下,データDが1バイト長のデータであり,4つのデータDで1つのデータ群が構成される場合」,
と記載され,同じく,段落【0033】に,
「第1のデータ群に続く第2のデータ群」,
と記載されていることから,上記引用の本件手続補正における補正事項は,当初明細書等の範囲内であるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第3項の規定を満たすものである。
そして,上記引用の補正事項は,何れも,上記引用の補正前の請求項1に係る発明における発明特定事項を減縮することを目的とするものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項の規定を満たすものである。
そこで,本件手続補正が,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定を満たすものであるか否か,即ち,補正後の請求項に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か,以下に検討する。

(1)本件補正発明
補正後の請求項1に係る発明(以下,これを「本件補正発明」という)は,上記「1.補正の内容」において,補正後の請求項1として引用した,次の記載のとおりのものである。

「データ群を構成するバイト単位の複数個のデータの各データ毎に疑似乱数を順に生成する疑似乱数生成部と,
第1データ群の複数個のデータに対応して前記疑似乱数生成部によって生成された複数個の疑似乱数に基づいて,前記第1データ群の複数個のデータに続く第2データ群の複数個のデータに対する複数個のスクランブル値を生成する第1の処理部と,
前記複数個のスクランブル値を用いて,前記第2データ群の複数個のデータに対するスクランブル処理を行う第2の処理部と
を備える,データ処理装置。」

(2)引用刊行物に記載の発明
一方,原審が,平成23年11月17日付けの拒絶理由に引用した,本願の出願前に既に公知である,特表2003-519960号公報(平成15年6月24日公表,以下,これを「引用刊行物」という)には,関連する図面と共に,次の事項が記載されている。

A.「 【0030】
送信側22は,保護されたキーストリーム発生器(保護キーストリーム発生器)25および暗号化コンバイナ26を備える。保護キーストリーム発生器25は,擬似乱数発生器(PRNG)24を備える。保護キーストリーム発生器25は,保護キーストリーム発生器25を制御する秘密鍵32を受け取って,暗号化コンバイナ26へ提供される暗号化保護キーストリーム28を生成する。図1に示す実施形態では,保護キーストリーム発生器25に初期設定ベクトル34が提供され,複数のメッセージに対して保護キーストリーム発生器25を制御するために同じ秘密鍵32を使用した場合でも,暗号化保護キーストリーム28が同じにならないようにする。初期設定ベクトル34は,真の乱数(ランダム数)として実施され,暗号化されるあらゆるメッセージが僅かに異なることを確実なものとする。
【0031】
暗号化コンバイナ26には平文30も提供される。平文30は2進(バイナリ)データ・シーケンスである。暗号化コンバイナ26は,平文30と暗号化保護キーストリーム28とを組み合わせて暗号文36を形成するが,この暗号文もまた2進データ・シーケンスである。一実施形態では,暗号化コンバイナ26は,ビットごとのモジュロ2加算を行う排他的論理和(XOR)ビットワイズ論理ゲートとして実現される。」(下線は,当審が説明の都合上,附加したものである。以下,同じ。)

B.「 【0035】
図1の暗号システム20の送信側22または受信側42を,図2にブロック図の形で一般的に示すが,この図には,保護キーストリーム発生器25/45およびPRNG24/44をより詳細に示してある。この実施形態のPRNG24/44は,線形フィードバック・シフト・レジスタ(LFSR)100を備える。LFSR100は,N個の記憶エレメント102と,シーケンスのそれぞれの新しい要素a(t)を以前に生成された要素a(t-N),a(t-N+1),...,a(t-1)で表す線形フィードバック・ファンクション104とを含む。LFSR記憶エレメント102は段と呼ばれ,2進信号a(0),a(1),a(2),...,a(N-1)が,キーストリーム・シーケンスを生成するための初期データとして段にロードされる。
【0036】
LFSR記憶エレメント102は,ワード長Mであるw個のLFSRワードに分割される。これらをLFSR0,LFSR1,...,LFSR(w-1)として表す。LFSR0は,その最下位ビット(LSB)に0のビットを含む。なぜなら,LFSR100は,よい統計を提供するようにプリミティブであり且つ縮小できない線形フィードバック・ファンクション104で表されるフィードバック多項式f(x)を有さなければならないからである。従って,記憶エレメントNの数は8の倍数にはならない。各ワード長Mが32ビットの場合,Nおよびwの適した例示的なサイズは,N=127およびw=4,N=159およびw=5である。
【0037】
LFSR100の出力に後処理を施すことにより,暗号分析者による幾つかのタイプの攻撃に対するセキュリティが提供される。図2に示す実施形態では,LFSR100からの出力は最上位ワードのLFSR(w-1)から提供され,これを無防備な(脆弱な)キーストリーム108と呼ぶ。他の実施形態では,脆弱なキーストリーム(脆弱キーストリーム)108は,特定のLFSR100の特性に応じて,他のLFSRワード(即ちLFSR0,LFSR1,...,LFSR(w-2))のうちの選択された1つから得られる。」

C.「 【0038】
脆弱キーストリーム108は非線形フィルタ110へ提供される。非線形フィルタ110は状態を有し,脆弱キーストリーム108から更に保護キーストリーム28/48を分離する暗号アイソレータとして機能する。非線形フィルタ110の状態は,初期設定ベクトル34で初期設定される。非線形フィルタ110は,脆弱キーストリーム108に対して非線形一方向関数を実施して,向上したセキュリティを有するキーストリーム28/48を暗号コンバイナ26/46へ提供する。例えば,非線形フィルタ110から提供される一方向関数は,暗号分析者による平文攻撃を防止する。暗号分析者による平文攻撃は,特定の平文を知るかまたは推測し,キーストリームに関する情報をもたらす関連する暗号文を観察し,次いで,逆向きの作業を行ってLFSRの秘密の鍵(即ち,LFSRの初期状態およびLFSRのフィードバック関数)を判定することによって行われる。LFSRは線形なので,十分な平文が暗号分析者に知られれば,初期状態および線形フィードバック関数を突き止めることは可能である。非線形フィルタ110は一方向関数であり,これにより,その出力に基づいてその入力を決定するために遡ろうとすることには多大な計算費用がかかるものとなり,あるいは,好ましくは,遡ることが不可能になる。」

D.「 【0051】
本発明による暗号システムの前述の実施形態に関し,様々な実施形態のうちで好ましい実施形態は,使用される際の特定の暗号システムの特性と,暗号システム設計者によって望まれる非線形フィルタ暗号アイソレータの特性と,設計者の手近にあるリソースと,設計者が各特性に対して支払う意思のある代価とに依存する。」

E.引用刊行物の【図2】には,「保護されたキーストリーム発生器」が,「PRNG」と「非線形フィルタ」を有することが示されている。

ア.上記Aの「保護キーストリーム発生器25は,擬似乱数発生器(PRNG)24を備える」という記載,及び,上記Bの「この実施形態のPRNG24/44は,線形フィードバック・シフト・レジスタ(LFSR)100を備える。LFSR100は,N個の記憶エレメント102と,シーケンスのそれぞれの新しい要素a(t)を以前に生成された要素a(t-N),a(t-N+1),...,a(t-1)で表す線形フィードバック・ファンクション104とを含む」という記載,並びに,上記Bの「LFSR記憶エレメント102は,ワード長Mであるw個のLFSRワードに分割される。これらをLFSR0,LFSR1,...,LFSR(w-1)として表す」という記載から,引用刊行物には,
“ワード長Mであるw個のLFSRワードに分割されるN個のLFSR記憶エレメントと,シーケンスのそれぞれの新しい要素a(t)を以前に生成された要素a(t-N),a(t-N+1),...,a(t-1)で表す線形フィードバック・ファンクションを有する疑似乱数生成器”
が記載されていると読み取れる。

イ.上記ア.において検討した事項と,上記Aの「保護キーストリーム発生器25は,保護キーストリーム発生器25を制御する秘密鍵32を受け取って,暗号化コンバイナ26へ提供される暗号化保護キーストリーム28を生成する」という記載,上記Bの「LFSR100からの出力は最上位ワードのLFSR(w-1)から提供され,これを無防備な(脆弱な)キーストリーム108と呼ぶ。他の実施形態では,脆弱なキーストリーム(脆弱キーストリーム)108は,特定のLFSR100の特性に応じて,他のLFSRワード(即ちLFSR0,LFSR1,...,LFSR(w-2))のうちの選択された1つから得られる」という記載,上記Cの「脆弱キーストリーム108は非線形フィルタ110へ提供される。非線形フィルタ110は状態を有し,脆弱キーストリーム108から更に保護キーストリーム28/48を分離する暗号アイソレータとして機能する」という記載,及び,上記Cの「非線形フィルタ110は,脆弱キーストリーム108に対して非線形一方向関数を実施して,向上したセキュリティを有するキーストリーム28/48を暗号コンバイナ26/46へ提供する」という記載,並びに,上記Eにおいて指摘した,【図2】に示された事項から,引用刊行物には,
“疑似乱数生成器が有するLFSRの内の1つから提供される脆弱なキーストリームが入力され,該脆弱なキーストリームに非線形一方向性関数を実施し,暗号化保護キーストリームを分離する暗号アイソレータとして機能する非線形フィルタ”
が記載されていると読み取れる。

ウ.上記イ.おいて引用したAの記載内容,及び,上記Aの「暗号化コンバイナ26には平文30も提供される」という記載,並びに,「暗号化コンバイナ26は,平文30と暗号化保護キーストリーム28とを組み合わせて暗号文36を形成する」という記載から,引用刊行物には,
“平文と,暗号化保護キーストリームが提供され,前記平文と,前記暗号化保護キーストリームとを組み合わせて暗号文を形成する,暗号化コンバイナ”が記載されていることが読み取れる。

エ.上記Dに引用した記載中に,「本発明による暗号システムの前述の実施形態に関し」とあるとおり,引用刊行物には,「暗号システム」が記載されていることは,明らかである。

以上,ア.?エ.において検討した事項から,引用刊行物には,次の発明(以下,これを「引用発明」という)が記載されていると認める。

ワード長Mであるw個のLFSRワードに分割されるN個のLFSR記憶エレメントと,シーケンスのそれぞれの新しい要素a(t)を以前に生成された要素a(t-N),a(t-N+1),...,a(t-1)で表す線形フィードバック・ファンクションを有する疑似乱数生成器と,
前記疑似乱数生成器が有する前記LFSRの内の1つから提供される脆弱なキーストリームが入力され,該脆弱なキーストリームに非線形一方向性関数を実施し,暗号化保護キーストリームを分離する暗号アイソレータとして機能する非線形フィルタと,
平文と,前記暗号化保護キーストリームが提供され,前記平文と,前記暗号化保護キーストリームとを組み合わせて暗号文を形成する,暗号化コンバイナと
を有する,暗号システム。

(3)本件補正発明と,引用発明との対比
ア.引用発明において,「疑似乱数生成器」からの出力である「脆弱なキーストリーム」とは,“疑似乱数”であることは明らかであり,該“疑似乱数”は,「ワード長M」の「LFSR」の1つから,「非線形フィルタ」に,供給されるものであるから,前記「疑似乱数生成器」は,“疑似乱数”を,「ワード長M」毎に生成するものといいうるものであって,引用発明における「ワード長Mであるw個のLFSRワード」とは,その内容から,“ワード長MのW個のデータからなるデータ群」であること,即ち,“ワード長MのWこのデータは,データ群を構成している”ことは明らかである。
そして,該「ワード長M」の“疑似乱数”は,「非線形フィルタ」に供給され,「平文」を暗号化する「暗号化保護キーストリーム」に「分離」,即ち,変換され,その後,「平文」の暗号化に用いられるのであるから,該「平文」は,「ワード長M」毎に,暗号化処理を施されること,更に,引用発明において,「シーケンスのそれぞれの新しい要素a(t)を以前に生成された要素a(t-N),a(t-N+1),...,a(t-1)で表す線形フィードバック・ファンクション」を有することから,引用発明においては,“疑似乱数”は,シーケンスに,即ち,“順次”生成されていることも明らかである。
このことから,引用発明における「ワード長Mであるw個のLFSRワードに分割されるN個のLFSR記憶エレメントと,シーケンスのそれぞれの新しい要素a(t)を以前に生成された要素a(t-N),a(t-N+1),...,a(t-1)で表す線形フィードバック・ファンクションを有する疑似乱数生成器」と,
本件補正発明における「データ群を構成するバイト単位の複数個の各データ毎に疑似乱数を順に生成する疑似乱数生成部」とは,
“データ群を構成する複数のデータ毎に疑似乱数を順に生成する疑似乱数生成手段”
である点で共通する。

イ.上記ア.で検討したとおり,引用発明における「脆弱なキーストリーム」が,本件補正発明における「疑似乱数」に相当し,
引用発明における「暗号化」は,一種の“スクランブル処理”であるから,引用発明における「暗号化保護キーストリーム」が,本件補正発明における「スクランブル値」に相当し,
引用発明における「平文」が,「暗号化」される,即ち,「スクランブル処理」される対象であるから,本件補正発明における「データ群」に相当し,該「平文」は,複数の「データ」から構成される態様を含むものであるから,この“平文を構成するデータ”が,
本件補正発明における「複数個のデータ」に相当し,
上記ア.で検討した事項から,引用発明において,ある「ワード長M」の「平文」を「暗号化」するのに用いられる「暗号化保護キーストリーム」は,その前段の「ワード長M」の「平文」が,「暗号化」されている時点での,「脆弱なキーストリーム」,即ち,“疑似乱数”から,「非線形フィルタ」によって“変換”されていることになるので,
引用発明における“前段のデータ群”,“後段のデータ群”が,本件補正発明における「第1のデータ群」,「第2のデータ群」に相当することは明らかである。
よって,引用発明における「前記疑似乱数生成器が有する前記LFSRの内の1つから提供される脆弱なキーストリームが入力され,該脆弱なキーストリームに非線形一方向性関数を実施し,暗号化保護キーストリームを分離する暗号アイソレータとして機能する非線形フィルタ」が,
本件補正発明における「第1データ群の複数個のデータに対応して前記疑似乱数生成部によって生成された複数個の疑似乱数に基づいて,前記第1データ群の複数個のデータに続く第2データ群の複数個のデータに対する複数個のスクランブル値を生成する第1の処理部」に相当する。

ウ.引用発明において,「暗号化コンバイナ」に,「平文と,前記暗号化保護キーストリームが提供され,前記平文と,前記暗号化保護キーストリームとを組み合わせて暗号文を形成する」ことは,上記イ.において検討した事項を踏まえると,「暗号コンバイナ」が,“データ群を構成する複数のデータと,スクランブル値とで,スクランブル処理を行う”ことにほかならないので,
引用発明における「平文と,前記暗号化保護キーストリームが提供され,前記平文と,前記暗号化保護キーストリームとを組み合わせて暗号文を形成する暗号化コンバイナ」が,
本件補正発明における「前記複数個のスクランブル値を用いて,前記第2データ群の複数個のデータに対するスクランブル処理を行う第2の処理部」に相当する。

エ.引用発明における「暗号システム」は,「疑似乱数生成器」と,「非線形フィルタ」と,「暗号化コンバイナ」から構成される「装置」といいうるものであり,該「装置」おいて“データ処理”が行われていることは明らかであるから,
引用発明における,該「装置」が,
本件補正発明における「データ処理装置」に相当する。

以上,ア.?エ.において検討した事項から,本件補正発明と,引用発明との一致点,及び,相違点は,次のとおりである。

[一致点]
データ群を構成する複数のデータ毎に疑似乱数を順に生成する疑似乱数生成手段と,
第1データ群の複数個のデータに対応して前記疑似乱数生成手段によって生成された複数個の疑似乱数に基づいて,前記第1データ群の複数個のデータに続く第2データ群の複数個のデータに対する複数個のスクランブル値を生成する第1の処理部と,
前記複数個のスクランブル値を用いて,前記第2データ群の複数個のデータに対するスクランブル処理を行う第2の処理部と
を備える,データ処理装置。

[相違点]
“データ群を構成する複数のデータ毎”に関して,
本件補正発明においては,「データ群を構成するバイト単位の複数個のデータの各データ毎」であるのに対して,
引用発明においては,「ワード長M」毎であって,「バイト単位」ではない点。

(4)相違点に対する当審の判断
「疑似乱数」を「バイト単位」で生成する点については,本願の出願前に既に公知である,特開平06-342257号公報(平成6年12月13日公開,以下,これを「周知文献1」という)に,

F.「【0013】なお,ここでは,擬似乱数生成器3a,3bが1回の処理で1バイトの擬似乱数を生成するものとする。
【0014】まず,暗号部1での動作を説明する。
【0015】(1)暗号部1における第1の擬似乱数生成器3aは,フレームの先頭で各線形フィードバックレジスタ(LFSR)6a?9aに初期値を設定する。このLFSR6a?9aに設定する初期値が暗号部1と復号部2とに「共通の秘密の鍵」となっている。LFSR6a?9aに初期値が設定されると,第1の擬似乱数生成器3aは1回の処理を行い,1バイトの擬似乱数データPN[0]を生成する。この動作の結果,シフト動作によって各線形フィードバックレジスタ(LFSR)6a?9aの格納値が変化する。すなわち,第1の擬似乱数生成器3aの「内部状態」が更新される。言い換えると,この擬似乱数生成器3aは,内部状態をもち,内部状態によって決定される擬似乱数列を生成するとともに内部状態を更新するようになっている。なお,初期状態においては,その内部状態は設定された初期値に依存する。
【0016】(2)第1の排他的論理和部4は,入力されてきた1バイトの平文データP[0]と擬似乱数データPN[0]との排他的論理和を計算して暗号文データC[0]を作成し,それを送出する。暗号文データC[0]は,“^”を排他的論理和の演算子として,
C[0]=P[0]^PN[0]
となる。」

と記載され,同じく,本願の出願時点で既に公知である,特開2000-041031号公報(平成12年2月8日公開,以下,これを「周知文献2」という)に,

G.「【0018】DVD-ROMドライブ16は,バッファリングされたRS-PCブロックに誤りコード修正を実行する必要はない。その代わりDVD-ROMドライブ16は,バッファリングされたRS-PCブロックに暗号化を実行する。第1疑似乱数発生器24が,M×Nブロックの乱数を発生し,各乱数は1バイトの長さを有する。例えば乱数は,ROMモジュール26からアクセスされるシードから発生してもよい。」

と記載され,同じく,本願の出願時点で既に公知である,特開2004-274339号公報(平成16年9月30日公開,以下,これを「周知文献3」という)に,

H.「【0032】
図3に1バイトごとに処理される暗号化処理に関するフローチャートを示す。ステップS301で暗号化対象データ(200)から1バイトが逐次切り出されてステップS302に渡される。ステップS302では、暗号処理部(203)による排他的論理和演算処理が行われる。ステップS303では、値域外データかどうかが1バイト単位でチェックされ、値域外の場合はステップS304に、値域内の場合はステップS305に渡される。ステップS304では、ステップS302で使われた擬似乱数を用いて同様の処理が行われる。ステップS305は暗号化データがHD106などに出力され、ステップS306に渡される。ステップS306では、暗号化対象データ(200)すべての情報が処理されたかどうかをチェックし、処理が完了していない場合にはステップS301に渡される。ステップS306で完了していると判断された場合には処理を終える。」

と記載されてもいるように,“1バイト毎に,暗号化を行うために,疑似乱数を1バイト毎に生成する”ことは,本願の出願前に,当業者には周知の技術事項であり,
引用発明においても,“平文をワード長M毎に処理する”ことに替えて,周知技術を採用して,「バイト単位」とし,「疑似乱数」を「バイト単位」で生成することは,当業者が適宜なし得る事項である。
よって,相違点は,格別のものではない。
そして,本件補正発明の構成によってもたらされる効果も,引用発明から当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって,格別のものとはいえない。

よって,本件補正発明は,引用発明,及び,周知文献1?周知文献3に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3.補正却下むすび
したがって,本件手続補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって,補正却下の決定の結論のとおり決定する。

第3.本願発明について
平成24年5月1日付けの手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明(以下,これを「本願発明」という)は,平成24年1月19日付けの手続補正により補正された,上記「第2.平成24年5月1日付けの手続補正の却下の決定」の「1.補正の内容」において,補正前の請求項1として引用した,以下の記載のとおりのものである。

「各データ毎に疑似乱数を順に生成する疑似乱数生成部と,
第1群の複数個のデータに対応して前記疑似乱数生成部によって生成された複数個の疑似乱数に基づいて,前記第1群の複数個のデータに続く第2群の複数個のデータに対する複数個のスクランブル値を生成する第1の処理部と,
前記複数個のスクランブル値を用いて,前記第2群の複数個のデータに対するスクランブル処理を行う第2の処理部と
を備える,データ処理装置。」

第4.引用刊行物に記載の発明
一方,原審が,平成23年11月17日付けの拒絶理由に引用した,本願の出願前に既に公知である,特表2003-519960号公報(平成15年6月24日公表,以下,これを「引用刊行物」という)には,上記「第2.平成24年5月1日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」における「(2)引用刊行物に記載の発明」において検討した,次のとおりの「引用発明」が記載されていると認める。

ワード長Mであるw個のLFSRワードに分割されるN個のLFSR記憶エレメントと,シーケンスのそれぞれの新しい要素a(t)を以前に生成された要素a(t-N),a(t-N+1),...,a(t-1)で表す線形フィードバック・ファンクションを有する疑似乱数生成器と,
前記疑似乱数生成器が有する前記LFSRの内の1つから提供される脆弱なキーストリームが入力され,該脆弱なキーストリームに非線形一方向性関数を実施し,暗号化保護キーストリームを分離する暗号アイソレータとして機能する非線形フィルタと,
平文と,前記暗号化保護キーストリームが提供され,前記平文と,前記暗号化保護キーストリームとを組み合わせて暗号文を形成する,暗号化コンバイナと
を有する,暗号システム。

第5.本願発明と引用発明との対比,及び,判断
本願発明は,上記「第2.平成24年5月1日付けの手続補正の却下の決定」の「2.補正の適否」における「(1)本件補正発明」において検討した,本件補正発明から,「各データ毎」の限定事項である「データ群を構成するバイト単位の複数個のデータ」を取り除き,本件補正発明における発明特定事項である「第1データ群」,及び,「第2データ群」を,それぞれ,「第1群」,「第2群」としたものであるから,
本願発明と,引用発明は,

データ群を構成する複数のデータ毎に疑似乱数を順に生成する疑似乱数生成手段と,
第1群の複数個のデータに対応して前記疑似乱数生成手段によって生成された複数個の疑似乱数に基づいて,前記第1群の複数個のデータに続く第2群の複数個のデータに対する複数個のスクランブル値を生成する第1の処理部と,
前記複数個のスクランブル値を用いて,前記第2群の複数個のデータに対するスクランブル処理を行う第2の処理部と
を備える,データ処理装置。

である点で一致し,格別の相違点は存在しない。
よって,本願発明と,引用発明とは,文言上の相違は存在するものの,実質的に同一である。
そして,引用発明が,本願発明の実質的に同一な構成を有する以上,本願発明は,引用発明から,当業者が容易に構築し得ることは明らかである。

第6.むすび
したがって,本願発明は,引用発明と同一であるから,特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることはできない。
そして,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-22 
結審通知日 2013-11-29 
審決日 2013-12-24 
出願番号 特願2006-355395(P2006-355395)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G09C)
P 1 8・ 575- Z (G09C)
P 1 8・ 113- Z (G09C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中里 裕正  
特許庁審判長 山崎 達也
特許庁審判官 石井 茂和
田中 秀人
発明の名称 データ処理装置及びデータ処理方法  
代理人 高尾 建吾  

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