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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) F16D
管理番号 1284816
審判番号 不服2012-17876  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-09-13 
確定日 2014-02-10 
事件の表示 特願2010-194428「駆動軸」拒絶査定不服審判事件〔平成23年1月6日出願公開、特開2011-2096〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯・本願発明
本件出願は、平成16年7月7日に出願した特願2004-200950号(以下「原出願」という。)の一部を平成22年8月31日に新たな特許出願としたものであって、平成24年6月8日付け(発送日:同年6月14日)で拒絶査定がされ、これに対して、同年9月13日に審判請求がされ、その審判の請求と同時に、請求項の削除を目的として、手続補正がされたが、当審において、平成25年4月26日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年7月1日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、同年8月21日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内の同年10月18日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。
そして、その請求項1ないし3に係る発明は、平成25年10月18日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「雄スプライン軸(2)と雌スプライン軸(3)とを備え、
前記雄スプライン軸(2)は全体が金属によって一体に形成され、前記雄スプライン軸(2)の、雌スプライン軸(3)と連結される端部の外周面には、前記外周面から径方向外方に向けて多数のキー(21)が突設され、かつ前記キーの軸方向の一端部が、前記軸方向の一端側の外周面から軸方向の他端側へかけて径方向外方に向けて傾斜された雄スプライン部(22)が構成され、
前記雌スプライン軸(3)は全体が金属によって一体に形成され、前記雌スプライン軸(3)の、雄スプライン軸(2)と連結される端部は、雄スプライン軸(2)側の端部に開口(30)が形成され、前記開口(30)を通して内部に雄スプライン部(22)が挿入される筒状に形成されていると共に、筒の内周面には、前記内周面から径方向外方に向けて、前記雄スプライン部(22)のキー(21)と噛み合わされる多数のキー溝(31)が凹入されて雌スプライン部(32)が構成され、
前記雄スプライン部(22)を構成する各キー(21)の両側面、および雌スプライン部(32)を構成する各キー溝(31)の両側面は、それぞれ動力伝達面としての当接面(21a)(31a)とされ、
前記雄スプライン軸(2)と雌スプライン軸(3)とが、前記キー(21)とキー溝(31)とを噛み合わせて互いの当接面(21a)(31a)を軸方向に摺動可能に当接させた状態で、軸方向に伸縮可能で、かつ軸を中心とする回転方向に動力伝達可能に連結される駆動軸(1)であって、
前記雄スプライン部(22)を構成する、前記傾斜された一端部を含む各キー(21)の両側面である、動力伝達面としての当接面(21a)と、頂面(21b)と、雄スプライン軸(2)の外周面に相当する、隣り合うキー(21)間の底面(21c)とが、金属の下地にケイ素膜、またはクロム膜を形成した上に、ビッカース硬さHvが1000以上、摩擦係数μが0.25以下の、連続したダイヤモンドライクカーボン膜(6)によって被覆されていると共に、
前記雌スプライン部(32)を構成する各キー溝(31)の両側面である、動力伝達面としての当接面(31a)と、キー溝(31)の底面(31b)と、隣り合うキー溝(31)間の凸条(36)の頂面(31c)とは、前記ダイヤモンドライクカーボン膜(6)によって被覆せずに金属の下地が露出されており、かつ
前記雄スプライン部(22)と雌スプライン部(32)との間にグリースが封入されていて、
前記雄スプライン部(22)と前記雌スプライン部(32)とは高速で回転しながら高速で軸方向に伸縮されながら、前記当接面(21a)(31a)間で動力を伝達するものであり、
前記ダイヤモンドライクカーボン膜(6)は、良好な摺動を維持すべく少なくとも当接面(21a)の膜厚が1?5μmであることを特徴とする駆動軸。」

第2 刊行物
1 刊行物1
これに対して、当審において、平成25年8月21日付けで通知した拒絶の理由に引用され、原出願の出願前に頒布された実願平3-69255号(実開平5-14624号)のCD-ROM(以下「刊行物1」という。)には、「プロペラシヤフト」に関して、図面(特に、図4参照。)とともに、以下の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【産業上の利用分野】
本考案は、雌形スプライン軸部と、この雌形スプライン軸部に対して相対回転不能かつ軸線方向に摺動可能にスプライン挿入嵌合する雄形スプライン軸部とよりなるプロペラシャフトに関するものである。」

(2)「【0002】
【従来の技術】
従来のこのようなプロペラシャフトにおいては、図4に示したように、雄形スプライン軸部1が背圧を受けることなく、外側の雌形スプライン軸部8のスプライン軸孔9内に進入することができるよう、スプライン軸孔9の軸線方向の雌形スプライン軸部8の先端側とは反対側の端部を小通気孔15を介して大気と連通する。またこの雌形スプライン軸部8の外部に潤滑グリース注入用のニップル16を設け、このニップル16から雌形スプラインに設けた給油孔17を介して雄形スプラインとのスプライン噛合面に潤滑グリースを供給していた。

(3)「【0003】
【考案が解決しようとする課題】
しかし、従来のこのようなプロペラシャフトにおいては、スプライン軸孔の軸線方向の雌形スプライン軸部の先端側とは反対側の端部を小通気孔を介して大気と連通しているため、この小通気孔から潤滑グリースが徐々に漏れ、長時間の使用後に油切れを起こし、グリース再充填作業が必要となる。またスプライン噛合面がスプライン軸孔及び小通気孔を介して直接外気に連通しているため、水やほこりが進入し、さびやよごれを生ずる恐れがある。」
(4)「【0017】
【考案の効果】
以上説明したように、スプライン摺動時における内圧変化を吸収し、内圧を一定に保つことにより、摺動抵抗を軽減し、シールの安定化、潤滑油保持特性を向上し、スプライン噛合面への再給油作業が不要であり、またスプライン噛合面にさびやよごれを発生しないメインテナンスフリーの構造が得られるという効果が得られる。
【0018】
更に、潤滑油経路をスプライン噛合面とする実施例の場合、潤滑効率が極めて良好となり、歯面への油切れを無くし、焼き付けを完全に防止することができるという効果が得られる。」

(5)図4には、上記(2)の「雌形スプラインに設けた給油孔17を介して雄形スプラインとのスプライン噛合面に潤滑グリースを供給」との記載と合わせみると、雄形スプライン軸部1は、雌形スプライン軸部8と連結される端部の外周面に雄形スプラインが設けられ、雌形スプライン軸部8は、雄形スプライン軸部1と連結される端部が雄形スプライン軸部1側の端部にスプライン軸孔9の開口が形成され、このようなスプライン軸孔9を形成することにより、当該開口を通して内部に雄形スプラインが挿入される筒状に形成され、筒の内周面に雌形スプラインが設けられることが示されている。

(6)上記(3)のスプライン噛合面が「さび」るとの記載からすれば、スプライン噛合する雄形スプラインと雌形スプラインは金属製であるといえる。

これらの記載事項及び図面の図示内容を総合し、本願発明の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。

「雄形スプライン軸部1と雌形スプライン軸部8とを備え、
前記雄形スプライン軸部1は、前記雄形スプライン軸部1の、雌形スプライン軸部8と連結される端部の外周面には、雄形スプラインが構成され、
前記雌形スプライン軸部8は、前記雌形スプライン軸部8の、雄形スプライン軸部1と連結される端部は、雄形スプライン軸部1側の端部にスプライン軸孔9の開口が形成され、前記開口を通して内部に雄形スプラインが挿入される筒状に形成されていると共に、筒の内周面には、雌形スプラインが構成され、
前記雄形スプライン軸部1と雌形スプライン軸部8とが、軸方向に伸縮可能で、かつ軸を中心とする回転方向に動力伝達可能に連結されるプロペラシャフトであって、
前記雄形スプライン軸部1と雌形スプライン軸部8との間にグリースが封入されているプロペラシャフト。」

2 刊行物2
また、同じく、前記拒絶の理由に引用され、原出願の出願前に頒布された特開2003-301282号公報(以下「刊行物2」という。)には、「高面圧下での摺動特性に優れる摺動部材」に関して、図面(特に、図1参照。)とともに、以下の事項が記載されている。

(1)「【0001】
【発明が属する技術分野】本発明は、治工具類、自動車に代表される輸送機、産業機械、レジャー用品などの各分野において、特に高面圧下で使用される摺動部材に関する。
【0002】
【従来の技術】治工具類、自動車に代表される輸送機、産業機械、レジャー用品などの各分野においては、各部に多くの摺動部材が用いられている。その使用形態も純粋な摺動のみならず摺動の要素を含んだ転動など多岐に渡っている。代表的な摺動部材としては治工具、ピストンリング、バルブリフター、シム、軸受け、等速ジョイント、レールガイド等を挙げることができる。」

(2)「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は、硬質皮膜の高面圧下における摩耗状況(ピッチング発生状況)について鋭意研究した結果、硬質皮膜の靭性を向上させるだけでは十分な耐ピッチング性が得られず、高面圧下において摺動する際の相手材との摩擦により、基材に形成した硬質皮膜に過大な応力が発生し、これが原因となって損傷に至ることが見出された。上記応力の内、摺動部材の硬質皮膜表面(摺動面)に対して水平に作用する応力は、基本的には面圧および相手材と硬質皮膜の摩擦係数によって決まる。本発明では上記知見に基づき、基材にその硬度より高硬度でかつ靭性に富んだ硬質皮膜を形成すると共に相手材との間に固体潤滑皮膜を設け、摩擦係数の低減を測ることによって更なる高面圧摺動下において、より優れた耐久性を有する摺動部材の開発に成功した。」

(3)「【0007】
【発明の実施の形態】図1は本発明の摺動部材の各種形態を示すものであり、(A)に示した実施形態は、一方の摺動部材1の基材11の上に硬質皮膜12を形成し、この硬質皮膜12の上にさらに固体潤滑皮膜13を形成したものである。この場合、他方の摺動部材2は基材11のみでもよく、また(B)に示すように基材11の上に硬質皮膜12のみを形成したもの、あるいは(C)に示すように硬質皮膜12の上に更に固体潤滑皮膜13を形成したものでもよい。・・・前記硬質皮膜12の厚みとしては、2?50μm程度でよく、固体潤滑皮膜13の厚さは0.5?3μm程度でよい。
【0008】前記基材11としては、機械構造用鋼、工具用鋼、軸受け鋼等のFe基合金;Ti合金;Al合金等の各種金属材、超硬材、セラミックスなどを用いることができる。特に、高硬度材が好適である。局部的に高い面圧がかかる環境下で使用しても、基材の変形による皮膜の破壊、剥離を防止することができるからである。また、ヤング率は高い方が高面圧下における基材の弾性変形は小さく、皮膜と基材との界面に生じるせん断応力を抑制して密着性を向上させることができるので好ましい。かかる観点よりFe基合金、特にHv800以上、より好ましくはHv900以上の高硬度のFe基合金が好適である。
【0009】前記硬質皮膜12としては、基材より高硬度であることが必要であるが、Ni、Cr、Nを含み、残部実質的にFeからなる硬質皮膜であって、皮膜中に窒化物を含むオーステナイト相(以下、「γ相」と表記する場合がある。)が10 vol%以上含有され、かつHv900以上のγ相含有皮膜、あるいは硬度がHv1600以下のCrNが好適である。もっとも、高面圧下での耐久性寿命の点からは前者のγ相含有皮膜がより好ましい。
【0010】前記γ相含有皮膜については、靭性を有するγ相中に、微細な窒化物が析出しているため、靭性と耐摩耗性とを兼ね備えており、特に高面圧下での摺動に対する耐久性が高い。γ相が10 vol%未満の場合には、靭性が低下するため、その下限を10 vol%とする。好ましくは20 vol%以上であり、より好ましくは50 vol%以上である。また、表面硬度はHv900未満では耐摩耗性が不足するので、下限をHv900とする。」

(4)「【0017】一方、前記固体潤滑皮膜13としては、MoS_(2)、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)あるいはW、Cr、Ti、Moから選ばれる1種以上の金属元素を30原子%以下含有し、残部C(DLCの場合を含む。)、あるいはC(DLCの場合を含む。)およびHよりなる金属含有炭素皮膜を用いる。これらの材質を適用することで、特に高面圧下において寿命延長効果が著しいことが見出された。その理由は必ずしも明らかではないが、上記材質で形成した固体潤滑皮膜は、前記硬質皮膜あるいは基材との密着性に優れ、高面圧下においても剥離することなくその機能を維持するためと考えられる。
【0018】前記金属含有炭素皮膜において、前記金属元素を30原子%以下とする理由は、30原子%超の金属元素を含有する場合、皮膜が軟質になり過ぎるとともに相手材に対する摩擦係数が上昇し、固体潤滑皮膜としての役割を果たさないようになるからである。好ましくは金属元素の含有量は25原子%以下、さらに好ましくは20原子%以下にするのがよい。特に高面圧下で使用する場合、前記金属元素がある程度含まれていた方が皮膜の靭性が高くなり、剥離し難くなるので、高面圧下での用途には金属元素が5原子%以上含有することが望ましい。さらに、最も好ましい金属炭素皮膜の材質としては、Fe基合金との摺動特性が優れていることから、5?20原子%のWを含有するDLCである。」

(5)「【0023】本発明の摺動部材は、特に高面圧摺動環境下で使用される用途に好適である。近年、摺動部材においても軽量化のために小型化が要請されており、これに伴い部材が受ける面圧が1GPa以上と高くなる傾向にあるが、従来の摺動部材では十分な耐久性を有しているとは言えない状況にあった。本発明の摺動部材では、面圧が1GPa以上の高い領域で使用されても耐久性に優れ、寿命延長効果は接触面圧が2?3GPa以上の高い領域でも顕著であり、本発明はこのような高い接触面圧で使用される摺動部品に好適に適用される。」

(6)「【0029】以上のようにして準備された摺動部材を用いて、ベーンオンディスク試験を行った。この試験は、図2に示すように、ディスク(第1摺動部材)1Aの摺動面に、先端部を半径Rに加工した2本のベーン(第2摺動部材)2Aを押し付けて、荷重すなわち面圧を付与しながら、ディスク1Aを回転させることで、相対摺動運動を模擬するものである。試験条件を下記に示す。寿命の判断はディスクあるいはベーン側にピッチングが生じ、振動が発生した時点の摺動距離で評価した。ディスク1Aおよびべーン2Aの摺動部の表面粗度は各々Raで0.1μmとした。評価結果を表1に併せて示す。
ベーン形状:3mmR(幅3mm)
面圧:3.0GPa
摺動速度:2m/秒
潤滑油:ディーゼルオイル(2L/分、油温90℃)
表1より、実施例にかかる試料No.9?15は優れた耐久性(寿命)が得られているが、固体潤滑皮膜が形成されていても硬質皮膜がTiNで形成されたNo.7では耐久性が低下している。また、本発明にかかる硬質皮膜が形成されていても、固体潤滑皮膜を有しないNo.2,3および5では十分な耐久性が得られていない。」

(7)段落【0030】の表1には、試料NO.9において、皮膜構造A(皮膜構造の符合は図1に従う。)、硬質皮膜の組成がCr51%,N49%、同硬度がHv1500、固体潤滑皮膜の種類がDLCであることが記載されている。

(8)図1(A)には、第1摺動部材1が基材11、硬質皮膜12、及び固体潤滑皮膜13からなり、第2摺動部材2が基材11のみからなることが示されている。

第3 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、後者の「雄形スプライン軸部1」及び「雌形スプライン軸部8」は前者の「雄スプライン軸(2)」及び「雌スプライン軸(3)」に相当し、以下同様に、「雄形スプライン」及び「雌形スプライン」は「雄スプライン部(22)」及び「雌スプライン部(32)」に、「スプライン軸孔9の開口」は「開口(30)」に、「プロペラシャフト」は「駆動軸」に、「潤滑グリース」は「グリース」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「雄スプライン軸と雌スプライン軸とを備え、
前記雄スプライン軸は、前記雄スプライン軸の、雌スプライン軸と連結される端部の外周面には、雄スプライン部が構成され、
前記雌スプライン軸は、前記雌スプライン軸の、雄スプライン軸と連結される端部は、雄スプライン軸側の端部に開口が形成され、前記開口を通して内部に雄スプライン部が挿入される筒状に形成されていると共に、筒の内周面には、雌スプライン部が構成され、
前記雄スプライン軸と雌スプライン軸とが、軸方向に伸縮可能で、かつ軸を中心とする回転方向に動力伝達可能に連結される駆動軸であって、
前記雄スプライン部と雌スプライン部との間にグリースが封入されている駆動軸。」
で一致し、次の点で相違する。

〔相違点1〕
本願発明は、雄スプライン軸(2)及び雌スプライン軸(3)が「全体が金属によって一体に形成され」るのに対し、
引用発明は、雄形スプライン軸部1及び雌形スプライン軸部8がどのように形成されるのか不明である点。

〔相違点2〕
本願発明は、雄スプライン部(22)が「前記外周面から径方向外方に向けて多数のキー(21)が突設され、かつ前記キーの軸方向の一端部が、前記軸方向の一端側の外周面から軸方向の他端側へかけて径方向外方に向けて傾斜され」、雌スプライン部(32)が「前記内周面から径方向外方に向けて、前記雄スプライン部(22)のキー(21)と噛み合わされる多数のキー溝(31)が凹入され」、「前記雄スプライン部(22)を構成する各キー(21)の両側面、および雌スプライン部(32)を構成する各キー溝(31)の両側面は、それぞれ動力伝達面としての当接面(21a)(31a)とされ」、「前記キー(21)とキー溝(31)とを噛み合わせて互いの当接面(21a)(31a)を軸方向に摺動可能に当接させた状態で」、「前記雄スプライン部(22)と前記雌スプライン部(32)とは高速で回転しながら高速で軸方向に伸縮されながら、前記当接面(21a)(31a)間で動力を伝達する」のに対し、
引用発明の雄形スプラインと雌形スプラインがかかる構成を備えていない点。

〔相違点3〕
本願発明は、「前記雄スプライン部(22)を構成する、前記傾斜された一端部を含む各キー(21)の両側面である、動力伝達面としての当接面(21a)と、頂面(21b)と、雄スプライン軸(2)の外周面に相当する、隣り合うキー(21)間の底面(21c)とが、金属の下地にケイ素膜、またはクロム膜を形成した上に、ビッカース硬さHvが1000以上、摩擦係数μが0.25以下の、連続したダイヤモンドライクカーボン膜(6)によって被覆されていると共に、
前記雌スプライン部(32)を構成する各キー溝(31)の両側面である、動力伝達面としての当接面(31a)と、キー溝(31)の底面(31b)と、隣り合うキー溝(31)間の凸条(36)の頂面(31c)とは、前記ダイヤモンドライクカーボン膜(6)によって被覆せずに金属の下地が露出されており、かつ」「前記ダイヤモンドライクカーボン膜(6)は、良好な摺動を維持すべく少なくとも当接面(21a)の膜厚が1?5μmである」のに対し、
引用発明の雄形スプラインと雌形スプラインがかかる構成を備えていない点。

第4 当審の判断
そこで、各相違点を検討する。
1 相違点1について
刊行物1には、引用発明の雄形スプラインと雌形スプラインが金属製であることが記載されている。
そして、原出願の出願前に、金属製の雄形スプラインと雌形スプラインを、「全体が金属によって一体に形成」された雄スプライン軸及び雌スプライン軸から形成することは、周知技術(例えば、特開昭63-235029号公報の[従来技術]を記載した第1頁右下欄第6?9行、特開2001-74060号公報の段落【0003】、特公昭45-5081号公報の第2頁右欄45行?第3頁左欄2行参照。)である。
そうすると、引用発明において、前記周知技術を適用して、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
2 相違点2について
刊行物1には、スプライン噛合する雄形スプラインと雌形スプラインの形状に関する詳細な記載はないが、例えば、実願昭57-142982号(実開昭59-46719号)のマイクロフィルム(第1図及び第2図)、特開昭54-9340号公報(第1図及び第2図)、前掲特公昭45-5081号公報(第2頁右欄26行?34行及び第5頁右欄45行?第6頁左欄3行並びに第1図及び第2図)に示されるとおり、雄スプラインが「外周面から径方向外方に向けて多数のキーが突設され」、雌スプラインが「内周面から径方向外方に向けて、前記雄スプライン部のキーと噛み合わされる多数のキー溝が凹入され」ることは、周知技術であるから、引用発明において、前記周知技術を適用して、「雄スプライン部(22)が『前記外周面から径方向外方に向けて多数のキー(21)が突設され』、雌スプライン部(32)が『前記内周面から径方向外方に向けて、前記雄スプライン部(22)のキー(21)と噛み合わされる多数のキー溝(31)が凹入され』るようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。その際に、雄スプライン部の「キーの軸方向の一端部が、前記軸方向の一端側の外周面から軸方向の他端側へかけて径方向外方に向けて傾斜され」るようにすることは、当業者が容易になし得る程度の設計変更(例えば、前掲特公昭45-5081号公報の第3頁左欄31行?40行並びに第1図及び第2図参照。)である。

そして、このように構成した雄スプライン部のキー及び雌スプライン部のキー溝は、プロペラシャフトの技術常識(例えば、前掲特公昭45-5081号公報の第6頁左欄3行?9行参照。)及び刊行物1のプロペラシャフトが軸方向に伸縮可能で、かつ軸を中心とする回転方向に動力伝達することからみて、「前記雄スプライン部(22)を構成する各キー(21)の両側面、および雌スプライン部(32)を構成する各キー溝(31)の両側面は、それぞれ動力伝達面としての当接面(21a)(31a)とされ」、「前記キー(21)とキー溝(31)とを噛み合わせて互いの当接面(21a)(31a)を軸方向に摺動可能に当接させた状態で」、「前記雄スプライン部(22)と前記雌スプライン部(32)とは高速で回転しながら高速で軸方向に伸縮されながら、前記当接面(21a)(31a)間で動力を伝達する」ものである。

そうすると、引用発明において、前記周知技術を適用して、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
3 相違点3について
刊行物2には、自動車に代表される輸送機で用いられる軸受けや等速ジョイント等の、特に高面圧下で使用される摺動部材を対象とすることが記載されており(段落【0001】?段落【0002】)、刊行物1のプロペラシャフトが軸方向に伸縮可能でかつ軸を中心とする回転方向に動力伝達することからみて、刊行物1のプロペラシャフトが刊行物2に記載される摺動部材に該当することは、当業者において自明である。

また、刊行物1のスプライン噛合面は「摺動抵抗の軽減」(前記「第2の1(4)」)、「長時間の使用」(前記「第2の1(3)」)を技術的課題とし、刊行物2には「摩擦係数の低減を測ることによって更なる高面圧摺動下において、より優れた耐久性を有する摺動部材の開発」(前記「第2の2(3)」)について記載されているから、両者は、技術的課題においても共通する。

そして、刊行物2には、前記技術的課題を解決するために、図1(A)に示される、摺動部材を構成する第1摺動部材1を、基材11、硬質皮膜12、及び固体潤滑皮膜13とし、同第2摺動部材2を、基材11のみとし、当該固体潤滑皮膜13にDLC(ダイヤモンドライクカーボン)を用い(段落【0017】)ることが記載されていることからみて、相対的に摺動する一方の部材のみにダイヤモンドライクカーボン膜を設けることが記載されているといえる。

また、原出願の出願前に、ダイヤモンドライクカーボン膜を設ける際に、ケイ素膜(特開2003-120695号公報の表1のNo.1-4及び段落【0015】参照。)や、クロム膜(特開2002-235748号公報の段落【0022】参照。)を設けて、ダイヤモンドライクカーボン膜の付着性を改善することは、周知技術である。

さらに、雄スプラインを構成する各キーが、両側面と、頂面と、隣り合うキー間の底面とからなり、雌スプラインを構成する各キー溝が、両側面と、キー溝の底面と、隣り合うキー溝間の凸条の頂面とからなることは、自明である。

そうすると、前記「1 相違点1について」及び「2 相違点2について」で検討した引用発明において、前記技術的課題を解決するために、刊行物2に記載された事項及び前記周知技術を適用して、「雄スプラインを構成する、前記傾斜された一端部を含む各キーの両側面である、動力伝達面としての当接面と、頂面と、雄スプラインの外周面に相当する、隣り合うキー間の底面とが、金属の下地にケイ素膜、またはクロム膜を形成した上に」「連続したダイヤモンドライクカーボン膜よって被覆されていると共に、雌スプラインを構成する各キー溝の両側面である、動力伝達面としての当接面と、キー溝の底面と、隣り合うキー溝間の凸条の頂面とは、前記ダイヤモンドライクカーボン膜によって被覆せずに金属の下地が露出され」るようにすることは、当業者が容易になし得たことである。

その際、雄スプラインに設けるダイヤモンドライクカーボン膜の硬度、摩擦係数、膜厚をどの程度とするかは、前記技術的課題を解決するために、当業者が適宜決定すべき設計的事項であるところ、刊行物2には、固体潤滑皮膜13の膜厚を0.5?3μmとすることが記載されており、また、原出願の出願前に、ダイヤモンドライクカーボン膜のビッカース硬さHvを1000以上、摩擦係数μを0.25以下とすることは、周知技術(例えば、前掲の特開2003-120695号公報の表1等、同特開2002-235748号公報の段落【0022】及び段落【0029】参照。)である。

そして、本願明細書及び図面をみても、本願発明のダイヤモンドライクカーボン膜の「ビッカース硬さHvが1000以上、摩擦係数μが0.25以下」かつ「膜厚が1?5μm」について、臨界的意義を確認することができない。

そうすると、前述した、引用発明に刊行物2に記載された事項及び前記周知技術を適用したものにおいて、ダイヤモンドライクカーボン膜を「ビッカース硬さHvが1000以上、摩擦係数μが0.25以下」かつ「良好な摺動を維持すべく少なくとも当接面の膜厚が1?5μm」とすることは、当業者が設計的事項として決定した事項といわざる得ない。

以上を総合すると、引用発明に刊行物2に記載された事項及び前記周知技術を適用して、相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

4 効果について
本願発明が奏する効果は、引用発明、刊行物2に記載された事項、及び前記周知技術から、当業者が予測できる範囲内のものであって、格別なものでない。

5 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された事項、及び前記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、刊行物2に記載された事項、及び前記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願のその他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-11-28 
結審通知日 2013-12-05 
審決日 2013-12-20 
出願番号 特願2010-194428(P2010-194428)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (F16D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増岡 亘  
特許庁審判長 森川 元嗣
特許庁審判官 島田 信一
冨岡 和人
発明の名称 駆動軸  
代理人 川崎 実夫  
代理人 稲岡 耕作  

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