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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H04W
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 取り消して特許、登録 H04W
管理番号 1284860
審判番号 不服2013-2274  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-06 
確定日 2014-03-04 
事件の表示 特願2008-323854「火災警報システム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月 1日出願公開、特開2010-147868、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年12月19日を出願日とする出願であって、平成24年7月30日付けで拒絶理由が通知され、同年10月9日付けで手続補正され、同年10月30日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成25年2月6日付けで拒絶査定不服審判が請求されるとともに、同日付けで手続補正されたものである。


第2 平成25年2月6日付け手続補正(以下、「本件補正という。)の適否
1.補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲について、
「【請求項1】
複数の無線局からなり、これら複数の無線局間で電波を媒体とする無線信号を送受信する無線通信システムであって、
各無線局は、無線信号を送信する送信手段と、無線信号を受信する受信手段と、所定のイベントが発生したときに送信手段を起動し、所定の送信期間に前記イベントに対応したメッセージを含む無線信号を送信させるとともに所定の休止期間に無線信号の送信を休止させる動作を交互に繰り返し且つ前記イベントが発生していないときには送信手段を停止させる送信制御手段と、一定の間欠受信間隔を繰り返しカウントするタイマ手段と、タイマ手段による間欠受信間隔のカウント中は受信手段を停止させ、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する度に受信手段を起動する受信制御手段と、電池を電源として各手段の動作電源を供給する給電手段とを備え、
受信制御手段は、受信手段で同期信号を受信した場合にタイマ手段による間欠受信間隔のカウントを中止させるとともに、当該同期信号の終了時点から一定の待機時間が経過した時点でタイマ手段による間欠受信間隔のカウントを再開させ、
送信制御手段は、前記イベントが発生した場合、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する時点と重なる前記送信期間に送信手段から無線信号を送信させるものであり、前記受信手段で前記同期信号を受信してから前記イベントが発生するまでは、送信手段に無線信号の送信を行わせないことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
受信制御手段によってカウントが中止させられるまでタイマ手段がカウントする間欠受信間隔と、受信制御手段によってカウントが再開させられて後にタイマ手段がカウントする間欠受信間隔とが等しく設定されていることを特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項3】
受信制御手段によってカウントが中止させられるまでタイマ手段がカウントする間欠受信間隔に対して、受信制御手段によってカウントが再開させられて後にタイマ手段がカウントする間欠受信間隔が長く設定されていることを特徴とする請求項1記載の無線通信システム。
【請求項4】
複数の無線局のうちの特定の無線局の送信制御手段は、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが一定回数完了する毎に送信手段から前記同期信号を送信させることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
複数の無線局が予め決められた順番で前記特定の無線局となることを特徴とする請求項4記載の無線通信システム。
【請求項6】
特定の無線局を除く他の無線局の送信制御手段は、受信手段で前記同期信号を受信したときに特定の無線局に対して応答メッセージを含む無線信号を送信手段から送信させ、
特定の無線局は、受信手段で前記応答メッセージを含む無線信号を受信するか否かに基づいて他の無線局が正常に動作しているか否かを判定する判定手段を備えたことを特徴とする請求項4又は5記載の無線通信システム。
【請求項7】
各無線局の送信制御手段は、前記イベントに対応したメッセージを含む無線信号を受信したときに前記同期信号を受信したときと共通の処理を実行することを特徴とする請求項1?6の何れか1項に記載の無線通信システム。
【請求項8】
複数の前記無線局と、前記同期信号を送信する送信局とからなることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の無線通信システム。
【請求項9】
前記無線局は、火災を感知する火災感知手段と、火災感知手段で火災が感知されたときに警報音を鳴動する火災警報手段とを備え、
送信制御手段は、火災感知手段で火災が感知されたときに火災警報メッセージを含む無線信号を送信手段より送信させ、
受信制御手段は、受信手段で受信した無線信号に火災警報メッセージが含まれている場合に火災警報手段に警報音を鳴動させることを特徴とする請求項1?8の何れか1項に記載の無線通信システム。」
を、
「【請求項1】
複数の火災警報器からなり、これら複数の火災警報器間で電波を媒体とする無線信号を送受信する火災警報システムであって、
各火災警報器は、火災を感知する火災感知手段と、火災感知手段で火災が感知されたときに警報音を鳴動する火災警報手段と、無線信号を送信する送信手段と、無線信号を受信する受信手段と、火災感知手段で火災が感知されたときに火災警報手段に警報音を鳴動させ、所定の送信期間に火災警報メッセージを含む無線信号を送信手段に送信させるとともに所定の休止期間に無線信号の送信を休止させる動作を交互に繰り返し且つ火災感知手段が火災を感知していないときには送信手段を停止させる送信制御手段と、一定の間欠受信間隔を繰り返しカウントするタイマ手段と、タイマ手段による間欠受信間隔のカウント中は受信手段を停止させ、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する度に受信手段を起動するとともに、受信手段で受信した無線信号に火災警報メッセージが含まれている場合に火災警報手段に警報音を鳴動させる受信制御手段と、電池を電源として各手段の動作電源を供給する給電手段とを備え、
受信制御手段は、受信手段で同期信号を受信した場合にタイマ手段による間欠受信間隔のカウントを中止させるとともに、当該同期信号の終了時点から一定の待機時間が経過した時点でタイマ手段による間欠受信間隔のカウントを再開させ、
送信制御手段は、火災感知手段で火災が感知された場合、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する時点と重なる前記送信期間に送信手段から無線信号を送信させるものであり、前記受信手段で前記同期信号を受信してから火災感知手段で火災が感知されるまでは、送信手段に無線信号の送信を行わせないことを特徴とする火災警報システム。
【請求項2】
受信制御手段によってカウントが中止させられるまでタイマ手段がカウントする間欠受信間隔と、受信制御手段によってカウントが再開させられて後にタイマ手段がカウントする間欠受信間隔とが等しく設定されていることを特徴とする請求項1記載の火災警報システム。
【請求項3】
受信制御手段によってカウントが中止させられるまでタイマ手段がカウントする間欠受信間隔に対して、受信制御手段によってカウントが再開させられて後にタイマ手段がカウントする間欠受信間隔が長く設定されていることを特徴とする請求項1記載の火災警報システム。
【請求項4】
複数の火災警報器のうちの特定の火災警報器の送信制御手段は、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが一定回数完了する毎に送信手段から前記同期信号を送信させることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の火災警報システム。
【請求項5】
複数の火災警報器が予め決められた順番で前記特定の火災警報器となることを特徴とする請求項4記載の火災警報システム。
【請求項6】
特定の火災警報器を除く他の火災警報器の送信制御手段は、受信手段で前記同期信号を受信したときに特定の火災警報器に対して応答メッセージを含む無線信号を送信手段から送信させ、
特定の火災警報器は、受信手段で前記応答メッセージを含む無線信号を受信するか否かに基づいて他の火災警報器が正常に動作しているか否かを判定する判定手段を備えたことを特徴とする請求項4又は5記載の火災警報システム。
【請求項7】
各火災警報器の送信制御手段は、前記火災警報メッセージを含む無線信号を受信したときに前記同期信号を受信したときと共通の処理を実行することを特徴とする請求項1?6の何れか1項に記載の火災警報システム。
【請求項8】
複数の前記火災警報器と、前記同期信号を送信する送信局とからなることを特徴とする請求項1?3の何れか1項に記載の火災警報システム。」
と補正するものである。

2.補正の目的
本件補正は、請求項1?8に記載した発明を特定するために必要な事項である「無線局」を、「火災警報器」と限定し、
同「無線通信システム」を、「火災警報システム」と限定し、
同「所定のイベントが発生し」を、「火災感知手段で火災を感知され」と限定し、
同「送信手段を起動し、所定の送信期間に前記イベントに対応したメッセージを含む無線信号を送信させる」を、「火災警報手段に警報音を鳴動させ、所定の送信期間に火災警報メッセージを含む無線信号を送信手段に送信させる」と限定し、
同「タイマ手段による間欠受信間隔のカウント中は受信手段を停止させ、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する度に受信手段を起動する」を、「タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する度に受信手段を起動するとともに、受信手段で受信した無線信号に火災警報メッセージが含まれている場合に火災警報手段に警報音を鳴動させる」と限定するとともに、
「火災を感知する火災感知手段」及び「火災感知手段で火災が感知されたときに警報音を鳴動する火災警報手段」をさらに備えることを限定する補正を含むものである。

また、本件補正は、請求項9を削除する補正を含むものである。

そして、補正前の請求項1?8に記載された発明と補正後の請求項1?8に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、補正前の請求項1?8に対する補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとともに、特許法第17条の2第3項にも違反するところはない。
また、補正前の請求項9に対する補正は、特許法第17条の2第5項第1項の請求項の削除を目的するものに該当する。

そこで、本件補正後の前記請求項1?8に記載された事項により特定される発明が特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について以下に検討する。

3.本件補正発明
本願発明は、平成25年2月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるものであって、その内、請求項1に係る発明(以下、「本件補正発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
複数の火災警報器からなり、これら複数の火災警報器間で電波を媒体とする無線信号を送受信する火災警報システムであって、
各火災警報器は、火災を感知する火災感知手段と、火災感知手段で火災が感知されたときに警報音を鳴動する火災警報手段と、無線信号を送信する送信手段と、無線信号を受信する受信手段と、火災感知手段で火災が感知されたときに火災警報手段に警報音を鳴動させ、所定の送信期間に火災警報メッセージを含む無線信号を送信手段に送信させるとともに所定の休止期間に無線信号の送信を休止させる動作を交互に繰り返し且つ火災感知手段が火災を感知していないときには送信手段を停止させる送信制御手段と、一定の間欠受信間隔を繰り返しカウントするタイマ手段と、タイマ手段による間欠受信間隔のカウント中は受信手段を停止させ、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する度に受信手段を起動するとともに、受信手段で受信した無線信号に火災警報メッセージが含まれている場合に火災警報手段に警報音を鳴動させる受信制御手段と、電池を電源として各手段の動作電源を供給する給電手段とを備え、
受信制御手段は、受信手段で同期信号を受信した場合にタイマ手段による間欠受信間隔のカウントを中止させるとともに、当該同期信号の終了時点から一定の待機時間が経過した時点でタイマ手段による間欠受信間隔のカウントを再開させ、
送信制御手段は、火災感知手段で火災が感知された場合、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する時点と重なる前記送信期間に送信手段から無線信号を送信させるものであり、前記受信手段で前記同期信号を受信してから火災感知手段で火災が感知されるまでは、送信手段に無線信号の送信を行わせないことを特徴とする火災警報システム。」

4.引用例
原査定の拒絶の理由に引用された各文献には、図面とともに以下の記載がなされている(下線は、当審が付与した。)。

4-1.特開2008-187294号公報(以下、「引用例1」という。)
(1)「【請求項1】
複数の無線機を備え、これら複数の無線機の間で無線信号を伝送する無線伝送システムであって、
各無線機は、無線信号を送信する送信手段と、無線信号を受信する受信手段と、送信手段並びに受信手段を制御して無線信号を送受信させる制御手段と、一定の間欠受信間隔を繰り返しカウントするタイマ手段と、電源供給用の電池とを具備し、
制御手段は、所定のイベントが発生したときに送信手段を起動し、所定の送信期間に通知メッセージを含む無線信号を送信させるとともに所定の休止期間に無線信号の送信を休止させ且つ受信手段を起動して無線信号を受信可能とする動作を交互に複数回繰り返す制御動作と、所定のイベントが発生していないときに送信手段を停止させるとともにタイマ手段による間欠受信間隔のカウント中は受信手段を停止させ、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する度に受信手段を起動する制御動作とを行い、送信手段を起動して最初の送信期間に無線信号を送信する際は休止期間よりも短くない期間だけ受信手段を起動してキャリア検知を行い、キャリアが検知されなければ送信手段に無線信号を送信させ、キャリアが検知されれば無線信号の送信を中断することを特徴とする無線伝送システム。」

(2)「【0007】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、衝突を回避しつつ情報伝送の遅延を減らすことができる無線伝送システムを提供することにある。 」

(3)「【0016】
無線機TRは、アンテナ3から電波を媒体とした無線信号を送信するとともに他の無線機TRが送信した無線信号をアンテナ3で受信する無線送受信部2と、マイコンを主構成要素としイベント発生部4からイベントの発生が通知されたときに他の無線機TRに対してイベント発生を通知するための通知メッセージを含む無線信号を無線送受信部2より送信させる制御部1と、イベントが発生したときにイベントの発生を制御部1に通知するイベント発生部4と、イベント発生部4から制御部1に対してイベントの発生が通知されたことを報知する報知部5と、乾電池等の電池を電源として各部に動作電源を供給する電池電源部6とを具備している。
【0017】
無線送受信部2は、電波法施行規則第6条に規定される「特定小電力無線局」に準拠して電波を媒体とする無線信号を送受信するものである。またイベント発生部4は、例えば、火災に伴って発生する煙や熱、炎などを検出することで火災を感知する火災感知手段や、人体から放射される熱線(赤外線)を検出することで不審者の侵入のようなセキュリティに関する異常を検知するセキュリティ異常検知手段、押釦スイッチ等の操作入力を受け付ける操作入力受付手段などを有している。但し、火災感知手段、セキュリティ異常検知手段、操作入力受付手段の各手段については、従来周知であるから詳細な説明は省略する。
【0018】
制御部1は、メモリに格納されたプログラムをマイコンで実行することによって後述する各種の機能を実現している。例えば、イベント発生部4が火災感知手段を有している場合、イベント発生部4から火災発生を感知したことが通知されると、制御部1は報知部5が備えるブザーを駆動して報知音(警報音)を鳴動させることで火災発生を報知するとともに、他の無線機(火災感知器)TRにおいても火災発生の報知音を鳴動させるために火災発生を通知するための通知メッセージを含む無線信号を無線送受信部2より送信させる。また、他の無線機TRから送信された無線信号(火災発生を通知するための通知メッセージを含む無線信号)を無線送受信部2で受信したときも、制御部1は報知部5が備えるブザーを駆動して報知音(警報音)を鳴動させる。つまり、制御部1ではイベント発生部4から火災感知や人体検知、操作入力受付等のイベント発生が通知されたときに報知部5から報知音を鳴動させて報知するとともにイベント発生を通知するための通知メッセージを含む無線信号を無線送受信部2より送信させる機能を有している。
【0019】
ここで、従来技術で説明したように「特定小電力無線局テレメータ用、テレコントロール用及びデータ伝送用無線設備 標準規格(社団法人電波産業会 標準規格ARIB STD-T67)」や、「小電力セキュリティシステムの無線局の無線設備 標準規格(社団法人電波産業会 標準規格RCR STD-30)」などでは、無線信号を連続して送信してもよい期間(送信期間)と、送信期間と送信期間の間に設けられた、無線信号を送信してはいけない期間(休止期間)とが定められている。例えば、標準規格ARIB STD-T67では送信期間が40秒以下且つ休止期間が2秒以上と規定され、標準規格RCR STD-30では送信期間が3秒以下且つ休止期間が2秒以上と規定されており、制御部1では、これらの規格に適合する送信期間並びに休止期間で無線信号を送信させている。なお、休止期間においては、無線信号を受信した他の無線機TRが送信する無線信号、例えば、通知メッセージに対する応答メッセージを含む無線信号を受信するため、制御部1は無線送受信部2の送信機能(送信回路)は停止させているが受信機能(受信回路)は動作させている。
【0020】
また電池電源部6の電池寿命をできるだけ長くするため、制御部1では無線送受信部2を送信期間よりも時間の長い一定の間欠受信間隔(例えば、送信期間が3秒であれば7秒?9秒)毎に間欠的に起動して所望の電波(他の無線機TRが送信した通知メッセージ等を含む無線信号)が受信できるか否かをチェックし、当該電波が捉えられなければ直ちに無線送受信部2を停止して待機状態に移行させることで平均消費電力を大幅に低減している。なお、電波の受信チェックは、無線送受信部2から出力される、受信信号強度の大小に比例した直流電圧信号である受信信号強度表示信号(Receiving Signal Strength Indication:RSSI信号)に基づいて制御部1が行っており、詳細については従来周知であるから省略する。」

(4)「【0023】
まず、受信局TR1の制御部1はタイマ(図示せず)によって間欠受信間隔を繰り返しカウントしており、間欠受信間隔が経過する毎に無線送受信部2を起動してRSSI信号による電波チェックを実行し、電波チェックによって電波が捉えられれば無線送受信部2による受信動作を開始し、反対に電波チェックによって電波が捉えられなければ無線送受信部2を停止させる。
【0024】
第1送信局TR2の制御部1は、イベント発生部4から火災感知や人体検知、操作入力受付等のイベント発生が通知されると、無線送受信部2を起動して休止期間よりも短くない期間(以下、「キャリア検知期間」と呼ぶ。)だけRSSI信号によるキャリア検知を行う(図3のステップ1?3)。第1送信局TR2以外の無線機TRが無線信号を送信していないとすればキャリアは検知されないから、第1送信局TR2の制御部1は、イベント発生の通知メッセージを含む無線信号を送信期間内に無線送受信部2から送信させ(図3のステップ4)、送信期間後の休止期間中は無線送受信部2に受信動作を行わせ、受信局TR1から送信される応答メッセージを含んだ無線信号を受信するまで、送信期間毎に無線送受信部2に無線信号を送信させる(図3のステップ4?6)。そして、通知メッセージを含む無線信号を受信した受信局TR1から応答メッセージを含む無線信号が送信され、当該応答メッセージを含む無線信号が無線送受信部2で受信できれば、第1送信局TR2の制御部1は無線信号の送信処理を終了して次の処理に移行する(図3のステップ7)。 」

したがって、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

複数の火災警報器を備え、これら複数の火災警報器の間で電波を媒体とした無線信号を伝送する無線伝送システムであって、
各火災警報器は、火災に伴って発生する煙や熱、炎などを検出することで火災を感知する火災感知手段と、火災発生を感知したことが通知されると、報知音(警報音)を鳴動させるブザーと、無線信号を送信する送信手段と、無線信号を受信する受信手段と、送信手段並びに受信手段を制御して無線信号を送受信させる制御手段と、一定の間欠受信間隔を繰り返しカウントするタイマ手段と、乾電池等の電池を電源として各部に動作電源を供給する電池電源部とを具備し、
制御手段は、
火災発生を感知したことが通知されると、ブザーを駆動して報知音(警報音)を鳴動させることで火災発生を報知するとともに、
火災を感知したときに送信手段を起動し、所定の送信期間に火災発生を通知するための通知メッセージを含む無線信号を送信させるとともに所定の休止期間に無線信号の送信を休止させ且つ受信手段を起動して無線信号を受信可能とする動作を交互に複数回繰り返す制御動作と、火災を感知していないときに送信手段を停止させるとともにタイマ手段による間欠受信間隔のカウント中は受信手段を停止させ、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する度に受信手段を起動する制御動作とを行い、
送信期間並びに休止期間で無線信号を送信させ、
休止期間においては、無線信号を受信した他の無線機TRが送信する無線信号を受信するため、送信回路は停止させているが受信回路は動作させ、
無線送受信部を送信期間よりも時間の長い一定の間欠受信間隔毎に間欠的に起動して、他の無線機TRが送信した通知メッセージ等を含む無線信号が受信できるか否かをチェックし、当該電波が捉えられなければ直ちに無線送受信部2を停止して待機状態に移行させ、
火災感知が通知されると、無線送受信部を起動して休止期間よりも短くない期間だけRSSI信号によるキャリア検知を行い、他の無線機TRが無線信号を送信していないとすればキャリアは検知されないから、火災発生を通知するための通知メッセージを含む無線信号を送信期間内に送信させ、送信期間後の休止期間中は受信動作を行わせ、応答メッセージを含んだ無線信号を受信するまで、送信期間毎に無線信号を送信させ、応答メッセージを含む無線信号が受信できれば、無線信号の送信処理を終了して次の処理に移行し、
衝突を回避しつつ情報伝送の遅延を減らすことができる
ことを特徴とする無線伝送システム。

4-2.特開昭62-026941号公報(以下、「引用例2」という。)
(5)「(3)タイマ補正信号は、複数のフレーム同期信号を含み、
子局のリセットする手段は、この複数のフレーム同期信号の終了タイミングから所定時間の経過後に受信周期設定タイマをリセットする構成である
特許請求の範囲第(1)項に記載の移動無線通信方式の間欠受信方式。 」(特許請求の範囲の請求項3)

(6)「第5図に、この場合におけるタイマ補正信号eと二つの子局における受信タイミングTb1、Tb2と同期リセット設定タイマ17のタイミングチャートを示す。第5図において、e0?e3はフレーム同期信号であり、タイマ補正信号eの信号長は、すべての子局が受信できるように、受信周期T1より長く設定される。
本実施例において、タイマ補正信号eを受信した子局Bのコントロール部11は、フレーム同期信号の受信状況を監視する同期リセット設定タイマ17を同期信号enを受信する度にセットし、この同期リセット設定タイマ17がタイムアウトしたらただちに受信周期設定タイマ12をリセットする。ここで、同期リセット設定タイマ17の値は、同期信号enを受信するのに要する時間より長くする。そのため、例えば同期信号e1を受けて同期リセット設定タイマ17をリセットしても、リセットされる前に次の同期信号e2も受信されるため同期リセット管理タイマ17はリセットされず、最後の同期信号の受信後タイムアウトする。タイマ補正信号eを送出した親局Aは、タイマ補正信号eを送出後、子局Bの同期信号enの受信状況を監視する内部ソフトタイマの値と同じ値の同期リセット管理タイマ18をセットし、この同期リセット管理タイマ18がタイムアウトしたらただちに子局Bの受信周期管理タイマ3をリセットする。本動作により親局Aの受信周期管理タイマ3と全子局の受信周期設定タイマ12が同期してセット/タイムアウトされる。」(第4頁左下欄第6行目?同頁右下欄第14行目)

(7)「〔発明の効果〕
以上説明したように、本発明は、親局から送出したタイマ補正信号によって、全子局が受信可能状態となるタイミングをコントロールしている受信周期設定タイマを同時にリセットすることにより、個々の子局間の受信周期設定タイマの誤差を補正し、必要時親局が指示したタイミングで全子局が同時に受信状態となるので、親局は子局が受信状態となっているときにのみ電波を出すだけでよく、電波の有効利用が図れる効果がある。また、本方式をコードレス電話の制御チャネルにおける着呼信号の送出に応用すれば、制御チャネルが処理可能なトラヒィクの容量を増加できるという効果がある。 」(第4頁右下欄第15行目?第5頁左上欄第4行目)

したがって、引用例2には、次の事項が記載されている。

子局は、複数のフレーム同期信号の終了タイミングから所定時間の経過後に受信周期設定タイマをリセットする構成であり、
親局は、子局が受信状態となっているときにのみ電波を出し、
電波の有効利用が図れ、制御チャネルが処理可能なトラヒックの容量を増加できる
コードレス電話などの移動無線通信方式の間欠受信方式。

4-3.国際公開第2006/067922号(以下、「引用例3」という。)
(8)「【0053】
その後、各グループ内で一定期間ごとに最適なグループマスターノードの再選出が行われてゆく。たとえば、子ノード205がグループマスターノード207に昇格し、グループマスターノード204が子ノード208に降格するなどして、処理負荷が高くて電池消耗が早いグループマスターノード役を持ち回りで交代していき、グループ内の電池残量の平準化が行われる。この再選出動作は、グループマスターノードに備えたタイマー104の計時結果をもとに一定期間ごとに行われる。新たに選出されたグループマスターノード207は、子ノード208との接続を開始するとともにグループ206間のホッピング通信も開始して相互無線通信ネットワークシステム200を形成し維持していく(運用状態)。 」

したがって、引用例3には、次の事項が記載されている。

処理負荷が高くて電池消耗が早いグループマスターノード役を持ち回りで交代していき、
グループ内の電池残量の平準化が行われる
相互無線通信ネットワークシステム。

5.対比
引用発明の「火災警報器」及び「これら複数の火災警報器の間で電波を媒体とした無線信号を伝送する無線伝送システム」は、本件補正発明の「火災警報器」及び「これら複数の火災警報器間で電波を媒体とする無線信号を送受信する火災警報システム」に対応する。

引用発明の「火災に伴って発生する煙や熱、炎などを検出することで火災を感知する火災感知手段」は、本件補正発明の「火災を感知する火災感知手段」に対応する。

引用発明の「火災発生を感知したことが通知されると、報知音(警報音)を鳴動させるブザー」は、本件補正発明の「火災感知手段で火災が感知されたときに警報音を鳴動する火災警報手段」に対応する。

引用発明の「無線信号を送信する送信手段」は、本件補正発明の「無線信号を送信する送信手段」に対応する。

引用発明の「無線信号を受信する受信手段」は、本件補正発明の「無線信号を受信する受信手段」に対応する。

引用発明の「一定の間欠受信間隔を繰り返しカウントするタイマ手段」は、本件補正発明の「一定の間欠受信間隔を繰り返しカウントするタイマ手段」に対応する。

引用発明の「乾電池等の電池を電源として各部に動作電源を供給する電池電源部」は、本件補正発明の「電池を電源として各手段の動作電源を供給する給電手段」に対応する。

引用発明の「制御手段」は、「送信手段並びに受信手段を制御して無線信号を送受信させる」手段であって、「火災を感知したときに送信手段を起動し、所定の送信期間に火災発生を通知するための通知メッセージを含む無線信号を送信させるとともに所定の休止期間に無線信号の送信を休止させ且つ受信手段を起動して無線信号を受信可能とする動作を交互に複数回繰り返す制御動作と、火災を感知していないときに送信手段を停止させる」ことから、引用発明は、本件補正発明の「火災感知手段で火災が感知されたときに火災警報手段に警報音を鳴動させ、所定の送信期間に火災警報メッセージを含む無線信号を送信手段に送信させるとともに所定の休止期間に無線信号の送信を休止させる動作を交互に繰り返し且つ火災感知手段が火災を感知していないときには送信手段を停止させる送信制御手段」を備えているといえる。

引用発明の「制御手段」は、「送信手段並びに受信手段を制御して無線信号を送受信させる」手段であって、「火災発生を感知したことが通知されると、ブザーを駆動して報知音(警報音)を鳴動させることで火災発生を報知するとともに、火災を感知していないときに送信手段を停止させるとともにタイマ手段による間欠受信間隔のカウント中は受信手段を停止させ、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する度に受信手段を起動する」から、引用発明は、本件補正発明の「タイマ手段による間欠受信間隔のカウント中は受信手段を停止させ、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する度に受信手段を起動するとともに、受信手段で受信した無線信号に火災警報メッセージが含まれている場合に火災警報手段に警報音を鳴動させる受信制御手段」を備えているといえる。

したがって、本件補正発明と引用発明とを対比すると、次の点一致し、相違する。

<一致点>
複数の火災警報器からなり、これら複数の火災警報器間で電波を媒体とする無線信号を送受信する火災警報システムであって、
各火災警報器は、火災を感知する火災感知手段と、火災感知手段で火災が感知されたときに警報音を鳴動する火災警報手段と、無線信号を送信する送信手段と、無線信号を受信する受信手段と、火災感知手段で火災が感知されたときに火災警報手段に警報音を鳴動させ、所定の送信期間に火災警報メッセージを含む無線信号を送信手段に送信させるとともに所定の休止期間に無線信号の送信を休止させる動作を交互に繰り返し且つ火災感知手段が火災を感知していないときには送信手段を停止させる送信制御手段と、一定の間欠受信間隔を繰り返しカウントするタイマ手段と、タイマ手段による間欠受信間隔のカウント中は受信手段を停止させ、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する度に受信手段を起動するとともに、受信手段で受信した無線信号に火災警報メッセージが含まれている場合に火災警報手段に警報音を鳴動させる受信制御手段と、電池を電源として各手段の動作電源を供給する給電手段とを備えることを特徴とする火災警報システム。

<相違点>
本件補正発明の「受信制御手段」は、「受信手段で同期信号を受信した場合にタイマ手段による間欠受信間隔のカウントを中止させるとともに、当該同期信号の終了時点から一定の待機時間が経過した時点でタイマ手段による間欠受信間隔のカウントを再開させ」るものであり、本件補正発明の「送信制御手段」は、「火災感知手段で火災が感知された場合、タイマ手段による間欠受信間隔のカウントが完了する時点と重なる前記送信期間に送信手段から無線信号を送信させるものであり、前記受信手段で前記同期信号を受信してから火災感知手段で火災が感知されるまでは、送信手段に無線信号の送信を行わせない」のに対して、引用発明の「受信制御手段」及び「送信制御手段」がこのような作用を奏することは特定されていない点。

6.当審の判断
上記相違点について、以下で検討する。

引用例2には、「子局は、複数のフレーム同期信号の終了タイミングから所定時間の経過後に受信周期設定タイマをリセットする構成であり、親局は、子局が受信状態となっているときにのみ電波を出し、電波の有効利用が図れ、制御チャネルが処理可能なトラヒックの容量を増加できるコードレス電話などの移動無線通信方式の間欠受信方式。」が記載されている。
しかしながら、引用例2に記載された前記事項では、「複数のフレーム同期信号の終了タイミングから所定時間の経過後に受信周期設定タイマをリセットする構成」は子局の構成であり、「子局が受信状態となっているときにのみ電波を出」す構成は親局の構成であるから、これらの構成を「各無線局」が備えているとはいえない。
このため、引用発明に引用例2に記載された前記事項を適用したとして、本件補正発明の如き構成となり得ず、本件補正発明が容易に発明し得たものとはいえない。

しかも、引用発明は、火災警報器であって、火災の発生を迅速且つ確実に知らせることを目的とした発明であるから、引用発明の送信動作は、火災を検知した場合などの非常時にしか生じないごく希な動作であると考えるのが妥当であり、送信動作において消費電力の低減を図る必要性があるとはいえない。
これに対して、引用例2に記載された事項は、コードレス電話など移動無線通信方式であって、電波の有効利用やトラヒックの容量の増加を目的とした発明であるから、引用例2に記載された事項の送信動作は、送信動作はユーザの操作により頻繁に生じる動作であり、該送信動作後も引き続いて機器を動作させる必要があると考えるのが妥当であり、送信動作において消費電力の低減を機器に内在する課題といえる。
してみると、引用発明と引用例2に記載された事項とは、目的が異なるものであるとともに、送信動作における消費電力の低減の必要性の有無も異なるものであるから、引用例2に記載された事項を引用発明に適用する動機付けがあるとはいえず、引用発明に引用例2に記載された事項を適用することが容易になし得たものとはいえない。

さらに、「受信手段で同期信号を受信した場合にタイマ手段による間欠受信間隔のカウントを中止させる」ことについても、引用発明に引用例2に記載された事項を適用することが容易になし得たものとはいえないことから、当業者が適宜選択すべき設計的事項にすぎないとはいえない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

また、引用例3に記載された事項をさらに適用したとしても、本件補正発明ごとく構成することはできたとはいえないとともに、他に本件補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができない理由を発見しない。

他の請求項に係る発明についても同様である。

よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

7.むすび
以上のように、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。


第3 本願発明
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第5項に規定する要件を満たしているから、本願の請求項1?8に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2014-02-19 
出願番号 特願2008-323854(P2008-323854)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H04W)
P 1 8・ 572- WY (H04W)
最終処分 成立  
前審関与審査官 ▲高▼橋 真之  
特許庁審判長 近藤 聡
特許庁審判官 吉田 隆之
佐藤 聡史
発明の名称 火災警報システム  
代理人 仲石 晴樹  
代理人 西川 惠清  
代理人 坂口 武  
代理人 北出 英敏  

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