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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1284880
審判番号 不服2013-3339  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-02-21 
確定日 2014-03-12 
事件の表示 特願2007-232555号「システムインパッケージ型半導体装置用の樹脂組成物セット」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 4月24日出願公開、特開2008- 98620号、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯,本願発明
本願は,平成19年9月7日(優先権主張 平成18年9月14日)の出願であって,平成25年1月22日付けで拒絶査定がされ,これに対し,平成25年2月21日に拒絶査定に対する不服の審判が請求されると同時に手続補正がされ,その後,前置審査において平成25年5月17日付けで拒絶の理由(最後の拒絶理由通知)が通知されたところ,平成25年7月2日付けで意見書が提出されたものである。

そして,本願の各請求項に係る発明は,平成25年2月21日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1?2に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,そのうちの請求項1に係る発明(以下,「本願発明1」という。)は,次のとおりである。
「【請求項1】
基板,
該基板にフリップチップ方式で接続された第1の半導体素子,
該第1の半導体素子と基板との間のアンダーフィル部,
該第1の半導体素子の上側に配置された少なくとも1つの第2の半導体素子,及び,
該第1の半導体素子,該アンダーフィル部及び該第2の半導体素子を被う樹脂封止部,を備えるシステムインパッケージ型半導体装置であって,
該アンダーフィル部がアンダーフィル剤の硬化物からなり,及び前記樹脂封止部が樹脂封止剤の硬化物からなり,
前記アンダーフィル剤と前記樹脂封止剤の組合せが下記を満たすことを特徴とする,システムインパッケージ型半導体装置
1)アンダーフィル剤硬化物のTgが100℃以上であり,且つ,樹脂封止剤硬化物のTgとの差が20℃以下であり,
2)アンダーフィル剤硬化物の(Tg-30℃)以下の温度における線膨張係数と,樹脂封止剤硬化物の(Tg-30℃)以下の温度における線膨張係数の和が42ppm/℃以下であり,及び
3)樹脂封止剤硬化物の(Tg-30℃)以下における線膨張係数の,アンダーフィル剤硬化物の(Tg-30℃)以下の線膨張係数に対する比が0.3?0.9である。」

また,請求項2に係る発明(以下,「本願発明2」という。)は,次のとおりである。
「【請求項2】
基板,
該基板にフリップチップ方式で接続された第1の半導体素子,
該第1の半導体素子と基板との間のアンダーフィル部,
該第1の半導体素子の上側に配置された少なくとも1つの第2の半導体素子,及び,
該第1の半導体素子,該アンダーフィル部及び該第2の半導体素子を被う樹脂封止部,を備えるシステムインパッケージ型半導体装置において,
アンダーフィル剤の硬化物で前記アンダーフィル部を形成し,樹脂封止剤の硬化物で前記樹脂封止部を形成する,アンダーフィル剤と樹脂封止剤の組合せの使用方法であって,
前記アンダーフィル剤と樹脂封止剤の組合せが下記を満たすことを特徴とする,使用方法
1)アンダーフィル剤硬化物のTgが100℃以上であり,且つ,樹脂封止剤硬化物のTgとの差が20℃以下であり,
2)アンダーフィル剤硬化物の(Tg-30℃)以下の温度における線膨張係数と,樹脂封止剤硬化物の(Tg-30℃)以下の温度における線膨張係数の和が42ppm/℃以下であり,及び
3)樹脂封止剤硬化物の(Tg-30℃)以下における線膨張係数の,アンダーフィル剤硬化物の(Tg-30℃)以下の線膨張係数に対する比が0.3?0.9である。」

第2 刊行物の記載事項
(1) 前置審査の拒絶の理由に引用され,本願出願日前に頒布された刊行物である特開2003-183351号公報(以下,「引用例1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

1a) 「【0050】本発明のエポキシ樹脂組成物をアンダーフィル材として用いる場合,その硬化物のガラス転移温度以下の膨張係数が20?40ppm/℃であることが好ましい。なお,この場合,フィレット材用の封止材は公知のものでよく,特に上述したアンダーフィル材と同様の液状エポキシ樹脂組成物を用いることができるが,この場合はその硬化物のガラス転移温度以下の膨張係数が10?20ppm/℃であるものが好ましい。」

1b) 「【0053】[粘度]BH型回転粘度計を用いて4rpmの回転数で25℃における粘度を測定した。
[ゲル化時間]組成物のゲル化時間を150℃の熱板上で測定した。
[靭性値K1c]ASTM#D5045に基づき,常温の強靭性値K1cを測定した。
[Tg(ガラス転移温度),CTE1(膨張係数),CTE2(膨張係数)]5mm×5mm×15mmの硬化物試験片を用いて,TMA(熱機械分析装置)により毎分5℃の速さで昇温した時のTgを測定した。また,以下の温度範囲の膨張係数を測定した。CTE1の温度範囲は50?80℃,CTE2の温度範囲は200?230℃である。
[接着力テスト]感光性ポリイミドをコートしたシリコンチップ上に上面の直径2mm,下面の直径5mm,高さ3mmの円錐台形状の試験片を載せ,150℃で3時間硬化させた。硬化後,得られた試験片の剪断接着力を測定し,初期値とした。更に,硬化させた試験片をPCT(121℃/2.1atm)で168時間吸湿させた後,接着力を測定した。いずれの場合も試験片の個数は5個で行い,その平均値を接着力として表記した。
[PCT剥離テスト]ポリイミドコートした10mm×10mmのシリコンチップを30mm×30mmのFR-4基板に約100μmのスペーサを用いて設置し,生じた隙間に組成物を侵入,硬化させ,30℃/65%RH/192時間後に最高温度265℃に設定したIRリフローにて5回処理した後の剥離,更にPCT(121℃,2.1atm)の環境下に置き,168時間後の剥離をC-SAM(SONIX社製)で確認した。
[熱衝撃テスト]ポリイミドコートした10mm×10mmのシリコンチップを30mm×30mmのFR-4基板に約100μmのスペーサを用いて設置し,生じた隙間に組成物を侵入,硬化させ,30℃/65%RH/192時間後に最高温度265℃に設定したIRリフローにて5回処理した後,-65℃/30分,150℃/30分を1サイクルとし,250,500,750サイクル後の剥離,クラックを確認した。」

1c) 表1を参照すると,実施例1?5における,アンダーフィル材のガラス転移温度の値及びアンダーフィル材の温度範囲50?80℃での膨張係数の値が記載されている。また,上記実施例1?5のガラス転移温度の値から,アンダーフィル材のガラス転移温度Tgが135?138℃のものが記載されているといえる。

1d) 図1を参照すると,有機基板1にバンプ2で接続された半導体チップ3と,半導体チップ3と有機基板1との間のアンダーフィル材4と,半導体チップ3の側面とアンダーフィル材4の側面を覆うフィレット材5からなるフリップチップ型半導体装置が記載されている。

上記の記載事項及び図面の記載を総合すると,引用例1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が実質的に記載されている。
「有機基板1にバンプ2で接続された半導体チップ3と,半導体チップ3と有機基板1との間のアンダーフィル材4と,半導体チップ3の側面とアンダーフィル材4の側面を覆うフィレット材5からなるフリップチップ型半導体装置であって,
エポキシ樹脂組成物をアンダーフィル材として用い,その硬化物のガラス転移温度以下の膨張係数が20?40ppm/℃で,50?80℃の温度範囲で測定した膨張係数であり,また,ガラス転移温度Tgが135?138℃のもので,
フィレット材用の封止材は,アンダーフィル材と同様の液状エポキシ樹脂組成物を用い,その硬化物のガラス転移温度以下の膨張係数が10?20ppm/℃である。」

(2) 前置審査の拒絶の理由に引用され,本願出願日前に頒布された刊行物である特開2004-124089号公報(以下,「引用例2」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

2a) 「【0033】
ここで,本発明に用いるフリップチップ型半導体装置としては,例えば図1に示したように,通常,有機基板1の配線パターン面に複数個のバンプ2を介して半導体チップ3が搭載されているものであり,上記有機基板1と半導体チップ3との隙間(バンプ2間の隙間)にアンダーフィル材4が充填され,その側部がフィレット材5で封止されたものとすることができるが,本発明の封止材は,特にアンダーフィル材として使用する場合に有効である。
【0034】
本発明の液状エポキシ樹脂組成物をアンダーフィル材として用いる場合,その硬化物のガラス転移温度以下の膨張係数が20?40ppm/℃であることが好ましい。なお,この場合,フィレット材用の封止材は公知のものでよく,特に上述したアンダーフィル材と同様の液状エポキシ樹脂組成物を用いることができるが,この場合はその硬化物のガラス転移温度以下の膨張係数が10?20ppm/℃であるものが好ましい。」

2b) 「【0037】
[粘度]
BH型回転粘度計を用いて4rpmの回転数で25℃における粘度を測定した。
[Tg(ガラス転移温度),CTE1(膨張係数),CTE2(膨張係数)]
5mm×5mm×15mmの硬化物試験片を用いて,TMA(熱機械分析装置)により毎分5℃の速さで昇温した時のTgを測定した。また,以下の温度範囲の膨張係数を測定した。
CTE1の温度範囲は50?80℃,CTE2の温度範囲は200?230℃である。」

2c) 表1を参照すると,実施例1?5における,アンダーフィル材のガラス転移温度の値及びアンダーフィル材の温度範囲50?80℃での膨張係数の値が記載されている。また,上記実施例1?5のガラス転移温度の値から,アンダーフィル材のガラス転移温度Tgが110?119℃のものが記載されているといえる。

2d) 図1を参照すると,有機基板1にバンプ2で接続された半導体チップ3と,半導体チップ3と有機基板1との間のアンダーフィル材4と,半導体チップ3の側面とアンダーフィル材4の側面を覆うフィレット材5からなるフリップチップ型半導体装置が記載されている。

(3) 原査定の拒絶の理由及び前置審査の拒絶の理由に引用され,本願出願日前に頒布された刊行物である特開平11-274375号公報(以下,「引用例3」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

3a) 「【請求項3】 基板上にダイボンド材,アンダーフィル材及び導電性接着樹脂材又は異方性導電性樹脂材により多重チップを形成し,その上を封止樹脂材によりモールドされたスタックド方式の半導体装置において,
前記基板は,熱膨脹係数α1を有し,ガラス転移温度Tg1で形成され,
前記多重チップは,熱膨脹係数α5を有するダイボンド材,アンダーフィル材及び導電性接着樹脂材又は異方性導電性樹脂材により,ガラス転移温度Tg5で形成され,
前記封止樹脂材は,熱膨脹係数α3を有し,ガラス転移温度Tg3で形成され,
関係式,Tg1≧Tg5≧Tg3,
及びα1≦α5≦α3を満たすことを特徴とする半導体装置。」

3b) 「【0043】実施の形態3.この発明の実施の形態3に係る半導体装置及びその製造方法について図面を参照しながら説明する。図3は,この発明の実施の形態3に係る半導体装置を示す図である。なお,各図中,同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0044】図3において,1ははんだバンプ(ハンダボールグリッド),2はプリント配線基板,3はモールド(封止樹脂材),4は金ワイヤー,5はベアチップ(シリコンチップ),6はダイボンド材,7はバンプ,8は導電性接着樹脂材,9はアンダーフィル材である。なお,導電性接着樹脂材8の代わりに異方性導電性樹脂材でもよい。
【0045】図3は,裏面にハンダボールグリッド1を形成したプリント配線基板2へ,表面の多重シリコンチップ(スタックド)5の下部のバンプと導電性接着樹脂材8又はワイヤーボンドで電気接合し,封止樹脂材3によりモールドした半導体装置である。シリコンチップ搭載面から,ワイヤーボンドやバンプによる配線を施し,封止樹脂材3によりモールドした半導体装置である。」

3c) 図3を参照すると,プリント配線基板2にバンプ7で接続された下側のベアチップ5,該下側のベアチップ5とプリント配線基板2との間のアンダーフィル材9,該下側のベアチップの上側に配置された上側のベアチップ5,及び,下側のベアチップ5,アンダーフィル材9及び上側のベアチップを覆う封止樹脂材3を備える,半導体装置が記載されている。

第3 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「有機基板1」は本願発明1の「基板」に相当する。
以下,同様に「有機基板1にバンプ2で接続された半導体チップ3」は「基板にフリップチップ方式で接続された第1の半導体素子」に,「半導体チップ3と有機基板1との間のアンダーフィル材4」は「第1の半導体素子と基板との間のアンダーフィル部」に,アンダーフィル材の「硬化物のガラス転移温度」は「アンダーフィル剤硬化物のTg」に,「膨張係数」は「線膨張係数」に,それぞれ相当する。
引用発明の「半導体チップ3の側面とアンダーフィル材4の側面を覆うフィレット材5」と,本願発明1の「第1の半導体素子の上側に配置された少なくとも1つの第2の半導体素子,及び,該第1の半導体素子,該アンダーフィル部及び該第2の半導体素子を被う樹脂封止部」とは,「第1の半導体素子の少なくとも一部と,アンダーフィル剤とを覆う樹脂封止部」である点で共通している。
引用発明では,ガラス転移温度Tgが135?138℃であるアンダーフィル材の,50?80℃の温度範囲で測定した膨張係数を用いているから,引用発明のアンダーフィル材の「硬化物のガラス転移温度以下の膨張係数」は,本願発明1の「アンダーフィル剤硬化物の(Tg-30℃)以下の温度における線膨張係数」に相当する。
引用発明では,アンダーフィル材は硬化物を,フィレット材用の封止材も硬化物を用いているから,引用発明は本願発明1の「アンダーフィル部がアンダーフィル剤の硬化物からなり,及び前記樹脂封止部が樹脂封止剤の硬化物からなり」との構成を備える。
引用発明では,アンダーフィル材の硬化物として「ガラス転移温度Tgが135?138℃のもの」を用いているから,引用発明は本願発明の「アンダーフィル剤硬化物のTgが100℃以上」との構成を備える。

以上のことから,本願発明1と引用発明とは次の点で一致する。
「基板,
該基板にフリップチップ方式で接続された第1の半導体素子,
該第1の半導体素子と基板との間のアンダーフィル部,
第1の半導体素子の少なくとも一部と,アンダーフィル剤とを覆う樹脂封止部を備える半導体装置であって,
該アンダーフィル部がアンダーフィル剤の硬化物からなり,及び前記樹脂封止部が樹脂封止剤の硬化物からなり,
前記アンダーフィル剤と前記樹脂封止剤の組合せが下記を満たすことを特徴とする,システムインパッケージ型半導体装置
1)アンダーフィル剤硬化物のTgが100℃以上である。」

一方で,両者は次の点で相違する。
[相違点1]
「第1の半導体素子の少なくとも一部と,アンダーフィル剤とを覆う樹脂封止部」について,本願発明1では「第1の半導体素子の上側に配置された少なくとも1つの第2の半導体素子,及び,該第1の半導体素子,該アンダーフィル部及び該第2の半導体素子を被う樹脂封止部」であるのに対して,引用発明では「半導体チップの側面とアンダーフィル材の側面を覆うフィレット材」あり,また,半導体装置について,本願発明では「システムインパッケージ型」であるのに対して,引用発明では,システムインパッケージ型であるかどうか明確ではない点。

[相違点2]
本願発明1ではアンダーフィル剤硬化物のTgと樹脂封止剤硬化物のTgとの「差が20℃以下」であるのに対して,引用発明では,アンダーフィル材の硬化物のガラス転移温度Tgについては記載があるものの, フィレット材用の封止材の硬化物のTgは明らかではないから,アンダーフィル材の硬化物のガラス転移温度Tgとフィレット材用の封止材の硬化物のTgとの差についても,明らかではない点。

[相違点3]
本願発明1では「2)アンダーフィル剤硬化物の(Tg-30℃)以下の温度における線膨張係数と,樹脂封止剤硬化物の(Tg-30℃)以下の温度における線膨張係数の和が42ppm/℃以下であり,及び 3)樹脂封止剤硬化物の(Tg-30℃)以下における線膨張係数の,アンダーフィル剤硬化物の(Tg-30℃)以下の線膨張係数に対する比が0.3?0.9である。」であるのに対して,引用発明では,フィレット材の硬化物の膨張係数は,ガラス転移温度以下の膨張係数ではあるものの,「(Tg-30℃)以下」での膨張係数であるかどうかは明らかではなく,また,「アンダーフィル材の硬化物のガラス転移温度以下の膨張係数が20?40ppm/℃」で,フィレット材用の封止材の硬化物の「ガラス転移温度以下の膨張係数が10?20ppm/℃」ではあるものの,アンダーフィル材の硬化物の膨張係数と封止材の硬化物の膨張係数との和及び比については明らかではない点。

(2)判断
上記相違点2及び相違点3について検討する。
(2-1)引用例1について
引用例1には,実施例1?5として,アンダーフィル材のガラス転移温度が記載されている。しかし,引用例1には,実施例1?5のそれぞれに組合せるフィレット材用の封止材の硬化物のガラス転移温度Tgについて具体的な値は記載されていないから,アンダーフィル材の硬化物のガラス転移温度Tgとフィレット材用の封止材の硬化物のガラス転移温度Tgとの差については明らかではない。したがって,引用例1に,本願発明1の上記相違点2に係る構成のアンダーフィル剤硬化物のTgと樹脂封止剤硬化物のTgとの「差が20℃以下」とすることについて,示唆する記載があるとはいえない。

また,引用例1には,実施例1?5としてアンダーフィル材の膨張係数について具体的な値が記載されており,また,フィレット材用の封止材の硬化物として「ガラス転移温度以下の膨張係数が10?20ppm/℃」(記載事項1a)を参照。)であることも記載されている。しかし,引用例1には,実施例1?5のそれぞれに対して,具体的にどのような膨張係数を有するフィレット材用の封止材の硬化物を組合せるかは記載されていないから,アンダーフィル材の硬化物の膨張係数とフィレット材用の封止材の硬化物の膨張係数の和及び比の具体的な値については明らかではない。
また,引用例1には,「アンダーフィル材の硬化物のガラス転移温度以下の膨張係数が20?40ppm/℃」で,フィレット材用の封止材の硬化物の「ガラス転移温度以下の膨張係数が10?20ppm/℃」であることが記載されているから,膨張係数の和として,少なくとも30ppm/℃以上で,多くとも60ppm/℃以下のもの,及び,膨張係数の比として,少なくとも0.25以上で,多くとも1以下のものが一応想定される。しかし,引用例1には,膨張係数の「和が42ppm/℃以下」及び「比が0.3?0.9」の範囲内のものが,本願明細書記載の効果(段落【0008】?【0011】及び表1?6を参照。)を奏することまで示唆されているものではない。
このように,引用例1に,本願発明1の上記相違点3に係る構成の「線膨張係数の和が42ppm/℃以下」及び「比が0.3?0.9」とすることについて,示唆する記載があるとはいえない。

(2-2)引用例2について
引用例2についても,引用例1と同様に,本願発明1の上記相違点2に係る構成のアンダーフィル剤硬化物のTgと樹脂封止剤硬化物のTgとの「差が20℃以下」とすることについて,並びに,本願発明1の上記相違点3に係る構成の「線膨張係数の和が42ppm/℃以下」及び「比が0.3?0.9」とすることについて,示唆する記載があるとはいえない。

(2-3)引用例3について
引用例3には,(アンダーフィル材のガラス転移温度Tg5)≧(封止樹脂材のガラス転移温度Tg)であることが記載されている。しかし,引用例3には,アンダーフィル材のガラス転移温度Tg5及び封止樹脂材のガラス転移温度Tgについての具体的な値は記載されておらず,本願発明1の上記相違点2に係る構成のアンダーフィル剤硬化物のTgと樹脂封止剤硬化物のTgとの「差が20℃以下」とすることについて,示唆する記載があるとはいえない。
引用例3には,(アンダーフィル材の熱膨張係数α5)≦(封止樹脂材の熱膨張係数α3)であることが記載されている。しかし,引用例3には,アンダーフィル材の熱膨張係数α5及び封止樹脂材の熱膨張係数α3についての具体的な値は記載されておらず,本願発明1の上記相違点3に係る構成の「線膨張係数の和が42ppm/℃以下」とすることについて,示唆する記載があるとはいえない。
また,引用例3における,封止樹脂材の熱膨張係数α3のアンダーフィル材の熱膨張係数α5に対する比は,1以上となるから,本願発明1の上記相違点3に係る構成の「比が0.3?0.9」の範囲とは異なり,したがって,本願発明1の上記相違点3に係る構成の「比が0.3?0.9」とすることについて,示唆する記載があるとはいえない。

(2-4)小括
以上のように,本願発明1の上記相違点2及び相違点3に係る構成については,引用例1?3には記載も示唆もない。
一方,本願発明1は,本願発明1の上記相違点2及び相違点3に係る構成を備えることにより,アンダーフィル剤硬化物のTgと樹脂封止剤硬化物のTgとの「差が20℃以上になると,高熱にさらされた場合,アンダーフィル部と樹脂封止部の間に応力がかかり,アンダーフィル部と樹脂封止部の剥離,アンダーフィル部とパシベーション膜との剥離が発生する」こと(本願明細書段落【0009】),アンダーフィル剤硬化物の線膨張係数と樹脂封止剤硬化物の線膨張係数の「和が42ppm/℃を越えると,高熱下で高い応力がかかり,アンダーフィル部と樹脂封止部の剥離,アンダーフィル部とパシベーション膜との剥離が発生する」こと(本願明細書段落【0010】),及び,樹脂封止剤硬化物の(Tg-30℃)以下における線膨張係数の,アンダーフィル剤硬化物の(Tg-30℃)以下の線膨張係数に対する「比が前記下限値未満である場合には,アンダーフィル部との間でクラック又は剥離が発生する恐れがある。一方,該比が前記上限値超,即ち,樹脂封止剤硬化物の線膨張係数が,アンダーフィル剤硬化物のそれより大きくても,クラックが生じる」こと(本願明細書段落【0011】)を,いずれも避けることができるものである。
したがって,当業者が引用発明に引用例1?3に記載された事項を組み合わせて,本願発明1における上記相違点2及び相違点3に係る構成に至るのが容易であるとは認められない。
よって,上記相違点2及び相違点3に係る構成に至るのが容易であるとは認められないから,上記相違点1について検討するまでもなく,上記相違点2及び相違点3に係る構成を具備する本願発明1は,引用発明及び引用例1?3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2 本願発明2について
(1)対比
本願発明2と引用発明とを対比すると,両者は,前記「1(1)」で示した[相違点1]?[相違点3]の点で相違する。

(2)判断
相違点2及び相違点3についての判断は,前記「1(2)」で示したのと同様である。
したがって,当業者が引用発明に引用例1?3に記載された事項を組み合わせて,本願発明2における上記相違点2及び相違点3に係る構成に至るのが容易であるとは認められない。
よって,上記相違点2及び相違点3に係る構成に至るのが容易であるとは認められないから,上記相違点1について検討するまでもなく,上記相違点2及び相違点3に係る構成を具備する本願発明2は,引用発明及び引用例1?3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明1及び本願発明2は,引用発明及び引用例1?3に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることができないから,原査定の理由及び前置審査における拒絶の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-02-26 
出願番号 特願2007-232555(P2007-232555)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 宮崎 園子  
特許庁審判長 大熊 雄治
特許庁審判官 小関 峰夫
山口 直
発明の名称 システムインパッケージ型半導体装置用の樹脂組成物セット  
代理人 松井 光夫  

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