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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H04M 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H04M |
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管理番号 | 1284932 |
審判番号 | 不服2013-6912 |
総通号数 | 172 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2014-04-25 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-04-15 |
確定日 | 2014-02-20 |
事件の表示 | 特願2009- 27802「通信端末、通信端末の着信表示秘匿方法および通信端末の着信表示秘匿プログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 8月19日出願公開、特開2010-183532〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成21年 2月 9日の出願であって、平成25年 1月 8日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年 4月15日に拒絶査定に対する審判が請求されるとともに手続補正がなされ、同年 6月21日付けで審尋がなされ、これに対して同年 8月14日に回答書が提出されたものである。 第2 補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成25年 4月15日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本願発明と補正後の発明 上記手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成24年10月24日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された、 「 【請求項1】 図形又は文字を表示する表示手段と、 前記図形又は文字、あるいは指示の入力を行う入力手段と、 通話あるいは電子メールの送受信を行う通信手段と、 発信者の識別情報及び発信者の秘匿表示情報が記憶される記憶手段と、 どのような場合に秘匿表示を行うかについての秘匿表示条件をユーザに設定させる設定手段と、 前記通信手段を介して通話あるいは電子メールを着信した場合で、且つ前記秘匿表示条件を満たさない場合に、前記記憶手段に記憶された前記発信者の識別情報を前記表示手段に表示し、 前記秘匿表示条件を満たす場合に、前記記憶手段に記憶された前記発信者の秘匿表示情報を前記表示手段に表示し、 前記秘匿表示情報が前記表示手段に表示された状態で、前記入力手段から秘匿解除操作が行われると、前記秘匿表示情報を前記識別情報に切り替えて前記表示手段に表示する制御部と を有することを特徴とした通信端末。」 という発明(以下、「本願発明」という。)を、 「 【請求項1】 図形又は文字を表示する表示手段と、 前記図形又は文字、あるいは指示の入力を行う入力手段と、 通話あるいは電子メールの送受信を行う通信手段と、 発信者の識別情報及び発信者の秘匿表示情報が記憶される記憶手段と、 秘匿表示を行う時間帯、所定の近距離無線通信機器からの距離、または充電状況を秘匿表示条件としてユーザに設定させる設定手段と、 前記通信手段を介して通話あるいは電子メールを着信した場合で、且つ前記秘匿表示条件を満たさない場合に、前記記憶手段に記憶された前記発信者の識別情報を前記表示手段に表示し、 前記秘匿表示条件を満たす場合に、前記記憶手段に記憶された前記発信者の秘匿表示情報を前記表示手段に表示し、 前記秘匿表示情報が前記表示手段に表示された状態で、前記入力手段から秘匿解除操作が行われると、前記秘匿表示情報を前記識別情報に切り替えて前記表示手段に表示する制御部と を有することを特徴とした通信端末。」 という発明(以下、「補正後の発明」という。)に補正することを含むものである。 2.補正の適否 (1)新規事項の有無、補正の目的要件 本件補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において、「どのような場合に秘匿表示を行うかについての秘匿表示条件」を、「秘匿表示を行う時間帯、所定の近距離無線通信機器からの距離、または充電状況」に限定することにより、特許請求の範囲を減縮するものである。 したがって、本件補正は、特許法第17条の2第3項(新規事項)、及び、同条第5項(補正の目的)の規定に適合している。 (2)独立特許要件 本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、補正後の発明が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるのかどうかについて、以下に検討する。 [補正後の発明] 上記「1.本願発明と補正後の発明」の項において、「補正後の発明」として認定したとおりである。 [引用発明] 原査定の拒絶理由に引用された、特開平11-187109号公報(以下、「引用例」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。 イ.「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、通信回線から到来する発信者番号を受信可能な通信装置に関する。」(2頁1欄) ロ.「【0004】本発明は、単一の通信回線を複数人で使用する場合であっても、各個人のプライバシー保護を図ることができる通信装置を提供することを目的とするものである。」(2頁2欄) ハ.「【0013】図1において、1は図示しない交換機を介して相手側通信装置と接続される通信回線、2は通信回線1の捕捉/開放を行うフックスイッチ、3はフックスイッチ2によって捕捉された通信回線1を通じて相手側通信装置との通信経路を形成する通話回路、4は通話回路3によって形成された通信経路を用いて相手側通信装置との通話を行う送受話器、5は通信回線1から到来する発信者番号を受信検出する発信者番号検出部、6は未表示/着信経過記録禁止発信者登録の指示等を行う機能キーや電話番号の入力を行う数字キー等からなる操作部、7は発信者番号検出部5によって検出された発信者番号や操作部6によって入力された電話番号等を表示する表示部、8は発信者番号検出部5によって検出された発信者番号や操作部6によって入力された電話番号等を記憶する記憶部、9は発信者番号検出部5からの検出信号、操作部6からの各種指示信号、及び記憶部8に記憶されたデータ等に基づいてフックスイッチ2における回線捕捉/開放制御、通話回路3における通信制御、表示部7における表示制御、及び記憶部8におけるデータ書込/読出制御を行う制御部である。」(3頁3欄) ニ.「【0016】非通話状態において、使用者が操作部6を操作して未表示/着信経過記録禁止発信者登録の指示を行うことにより、未表示/着信経過記録禁止発信者登録動作が開始され、それに伴って、制御部9が表示部7に表示又は着信経過記録を禁止したい発信者の電話番号の入力を促すメッセージを表示させ(ステップF1)、それに伴い、操作部6によって入力された電話番号を記憶部8に記憶する(ステップF2)。 【0017】そして、操作部6による電話番号入力が終了したとき、制御部9が表示部7に暗証番号の入力を促すメッセージを表示させ(ステップF3)、それに伴い、操作部6によって入力された暗証番号を、直前に入力された電話番号に対応させて記憶部8に記憶し(ステップF4)、その後、操作部6による暗証番号入力が終了したとき、制御部9が“表示部7に表示のみを禁止するのか”“着信経過記録のみを禁止するのか”“表示と着信経過記録の両方を禁止するのか”の禁止要件の中から選択を要求するメッセージを表示させ(ステップF5)、それに伴い、操作部6によって選択された禁止要件を電話番号及び暗証番号に対応させて記憶部8に記憶し(ステップF6?F9)、未表示/着信経過禁止発信者登録動作を終了する。」(3頁3欄ないし4欄) ホ.「【0020】次に、着信時の動作を、図3に示すフローチャートに基づいて説明する。 【0021】未表示/着信経過禁止機能が起動している非通話状態において、通信回線1より発信者番号が到来し発信者番号検出部5によって受信検出される(ステップF11)と、制御部9はその受信検出された発信者番号と一致する電話番号が記憶部8に記憶されているか判断し(ステップF12)、その結果、受信検出された発信者番号と一致する電話番号が記憶部8に記憶されていないと判断された場合には、制御部9は禁止要件を全てクリアし(ステップF13)、その受信検出された発信者番号を表示部7に表示する(ステップ14、F15)と共に、記憶部8にその受信検出された発信者番号を現在時刻等と共に記憶して着信経過記録として残す(ステップF16、17)。 【0022】一方、制御部9において、受信検出された発信者番号と一致する電話番号が記憶部8に記憶されていると判断された場合には(ステップF12)、その電話番号に対応して記憶部8に記憶されている禁止要件を読み出し(ステップF18)、その禁止要件に基づき発信者番号の表示又は着信経過記録を禁止する(ステップF14?F17)。このとき、発信者番号の表示の代わりに「表示禁止」等のメッセージを表示するようにしても良く、又発信者番号に対応して予め登録した使用者を特定するためのキャラクタを表示するようにしても良い。 【0023】尚、この状態において、操作部6によって暗証番号が入力され(ステップF19)、その入力された暗証番号が受信検出された発信者番号と一致する電話番号に対応して記憶されている暗証番号と一致すると判断された場合には(ステップF20)、制御部9は禁止要件を全てクリアし(ステップF13)、その受信検出された発信者番号を表示部7に表示する(ステップ14、F15)と共に、記憶部8にその受信検出された発信者番号を現在時刻等と共に記憶して着信経過記録として残す(ステップF16、17)。」(3頁4欄ないし4頁5欄) 上記摘記事項イ.ないしホ.の記載及び図面並びにこの分野における技術常識を考慮すると、 a.上記摘記事項ハ.によれば、引用例における表示部は電話番号等を表示しているから文字を表示するものといえる。 b.上記摘記事項ハ.に「6は未表示/着信経過記録禁止発信者登録の指示等を行う機能キーや電話番号の入力を行う数字キー等からなる操作部」と記載され、数字は文字といえるから、操作部は文字や、未表示/着信経過記録禁止発信者登録の指示等の入力を行うものといえる。 c.上記摘記事項ハ.に「3はフックスイッチ2によって捕捉された通信回線1を通じて相手側通信装置との通信経路を形成する通話回路」と記載されていることから、引用例は通話を行う通話回路を有しているといえる。 d.上記摘記事項ハ.によれば、記憶部は発信者番号検出部5によって検出された発信者番号や操作部6によって入力された電話番号等を記憶している。さらに、上記摘記事項ホ.の【0022】段落には、発信者番号の表示が禁止されたときには「表示禁止」等のメッセージや「キャラクタ」を表示することが記載されているが、これらの表示されるデータも記憶部に記憶されていると考えるのが自然である。 e.上記摘記事項ニ.の【0016】段落の記載をみれば、引用例は、発信者番号の表示を禁止するために、表示を禁止したい発信者の電話番号を入力させる手段を有するものと考えられる。 f.上記摘記事項ホ.の【0021】段落の記載によれば、引用例における制御部は、通信回線1より発信者番号が到来し、その受信検出された発信者番号が記憶部に記憶されている電話番号と一致するか判断し、一致しないと判断された場合には、その受信検出された発信者番号を表示部に表示するものである。この表示される「発信者番号」は、上記「d.」で検討したように記憶部に記憶されているものである。 g.また、上記摘記事項ホ.の【0022】段落には、上記一致するかの判断において、制御部は一致すると判断された場合には、禁止要件に基づき発信者番号の表示を禁止するものであり、このとき発信者番号に代えて、「表示禁止」等のメッセージやキャラクタを表示するようにしても良いことが記載されている。そしてこれらは上記「d.」で検討したように記憶部に記憶されているものである。 h.上記摘記事項ホ.の【0022】ないし【0023】段落に、 「このとき、発信者番号の表示の代わりに「表示禁止」等のメッセージを表示するようにしても良く、又発信者番号に対応して予め登録した使用者を特定するためのキャラクタを表示するようにしても良い。 【0023】尚、この状態において、操作部6によって暗証番号が入力され(ステップF19)、その入力された暗証番号が受信検出された発信者番号と一致する電話番号に対応して記憶されている暗証番号と一致すると判断された場合には(ステップF20)、制御部9は禁止要件を全てクリアし(ステップF13)、その受信検出された発信者番号を表示部7に表示する・・・」 と記載されていることからみて、「表示禁止」等のメッセージやキャラクタが表示された状態において、操作部から暗証番号が入力されると、制御部はその発信者番号を表示部に表示するものである。 したがって、摘記した引用例の記載を総合すると、引用例には以下のような発明(以下、「引用発明」という。)が開示されているものと認められる。 (引用発明) 「文字を表示する表示部と、 文字や、未表示/着信経過記録禁止発信者登録の指示等の入力を行う操作部と、 通話を行う通話回路と、 発信者番号検出部によって検出された発信者番号や、操作部によって入力された電話番号等、さらに発信者番号の表示が禁止されたときに表示する「表示禁止」等のメッセージやキャラクタを記憶する記憶部と、 発信者番号の表示を禁止するために、表示を禁止したい発信者の電話番号を入力させる手段と、 通信回線1より発信者番号が到来し、その受信検出された発信者番号が記憶部に記憶されている電話番号と一致するか判断し、一致しないと判断された場合には、前記記憶部に記憶された発信者番号を表示部に表示し、 上記一致するかの判断において、一致すると判断された場合には、禁止要件に基づき発信者番号に代えて前記記憶部に記憶された「表示禁止」等のメッセージやキャラクタを表示部に表示し、 前記「表示禁止」等のメッセージやキャラクタが表示部に表示された状態において、操作部から暗証番号が入力されると、制御部はその受信検出された発信者番号を表示部に表示する制御部と を有する通信装置。」 [対比・判断] 補正後の発明を引用発明と対比すると、 (あ)引用発明の「表示部」は「図形」を表示してはいないものの「文字」を表示している点で補正後の発明の「表示手段」に対応する。 (い)引用発明の「操作部」は、「図形」を入力していないものの「文字」の入力は行っており、また引用発明の「未表示/着信経過記録禁止発信者登録の指示等」は補正後の発明の「指示」に相当するから、補正後の発明の「入力手段」に対応する。 (う)引用発明の「通話回路」は、電子メールの送受信はしないものの、通信に使われる手段である点で補正後の発明の「通信手段」に対応する。 (え)引用発明の「操作部によって入力された電話番号」とは、上記摘記事項ニ.の【0016】段落によれば発信者の電話番号であり、これによって発信者が識別できるから、引用発明の「発信者番号検出部によって検出された発信者番号や、操作部によって入力された電話番号等」は、補正後の発明の「発信者の識別情報」に相当する。また、引用発明の「表示禁止」等のメッセージやキャラクタは、「発信者の」ものであるかどうかは別として、発信者番号の表示が禁止されたときに表示するという点で、補正後の発明の「秘匿表示情報」に対応する。そしてこれらを記憶する「記憶部」が補正後の発明の「記憶手段」に相当する。 (お)引用発明は「発信者番号の表示を禁止するために、表示を禁止したい発信者の電話番号を入力させる手段」を有するのに対し、補正後の発明は「秘匿表示を行う時間帯、所定の近距離無線通信機器からの距離、または充電状況を秘匿表示条件としてユーザに設定させる設定手段」を有するが、これらは「秘匿表示条件をユーザに設定させる設定手段」であるという点では共通する。 (か)引用発明の「通信回線1より発信者番号が到来し、その受信検出された発信者番号が記憶部に記憶されている電話番号と一致するか判断し、一致しないと判断された場合」という記載は、電子メールを着信した場合を包含しない点で補正後の発明とは異なるものの、「通信回線1より発信者番号が到来」するのは着信時だから、補正後の発明でいえば「前記通信手段を介して通話・・・を着信する」ときに当たり、また補正後の発明と秘匿表示条件の具体的内容は異なるものの、秘匿条件を満たさない場合にという点では補正後の発明と変わるところはない。したがって「前記通信手段を介して通話を着信した場合で、且つ前記秘匿表示条件を満たさない場合」という点で共通する。そして引用発明の「前記記憶部に記憶された発信者番号を表示部に表示し」という記載は、補正後の発明の「前記記憶手段に記憶された前記発信者の識別情報を前記表示手段に表示し」に相当する。 (き)そして同様に、引用発明の「上記一致するかの判断において、一致すると判断された場合には、禁止要件に基づき発信者番号に代えて、前記記憶部に記憶された「表示禁止」等のメッセージやキャラクタを表示部に表示」するという構成は、「「表示禁止」等のメッセージやキャラクタ」は上述したように「発信者の」ものということができるかどうかはともかく、補正後の発明のように「前記秘匿表示条件を満たす場合に、前記記憶手段に記憶された・・・前記秘匿表示情報を前記表示手段に表示」することということができる。 (く)引用発明の暗証番号の入力が補正後の発明の「秘匿解除操作」に、そして引用発明の「制御部」が補正後の発明の「制御部」に相当する。 (け)また、引用発明の「通信装置」は通信を行う上で端末として動作していることを踏まえれば「通信端末」ということができる。 したがって、両者は以下の点で一致ないし相違する。 (一致点) 「 文字を表示する表示手段と、 前記文字、あるいは指示の入力を行う入力手段と、 通話を行う通信手段と、 発信者の識別情報、及び秘匿表示情報が記憶される記憶手段と、 秘匿表示条件をユーザに設定させる設定手段と、 前記通信手段を介して通話を着信した場合で、且つ前記秘匿表示条件を満たさない場合に、前記記憶手段に記憶された前記発信者の識別情報を前記表示手段に表示し、 前記秘匿表示条件を満たす場合に、前記記憶手段に記憶された前記秘匿表示情報を前記表示手段に表示し、 前記秘匿表示情報が前記表示手段に表示された状態で、前記入力手段から秘匿解除操作が行われると、前記秘匿表示情報を前記識別情報に切り替えて前記表示手段に表示する制御部と を有することを特徴とした通信端末。」 (相違点1)補正後の発明では「図形」を「表示手段」に表示し、また「入力手段」により入力しているのに対して、引用発明ではこれに関して明示されていない点。 (相違点2)補正後の発明の「通信手段」は電子メールの送受信も行うのに対して、引用発明はこれに関して明示されていない点。 (相違点3)「秘匿情報表示」に関して、補正後の発明は「発信者の秘匿表示情報」であるのに対して、引用発明の「「表示禁止」等のメッセージやキャラクタ」は「発信者の秘匿表示情報」といえるか不明な点。 (相違点4)秘匿表示条件としてユーザに設定させる条件を、補正後の発明は「秘匿表示を行う時間帯、所定の近距離無線通信機器からの距離、または充電状況」としているが、引用発明がこれらを条件とすることは明らかでない点。 (相違点5)補正後の発明では「電子メールを着信した場合」も秘匿表示条件を判断し、発信者の識別情報や秘匿表示情報を表示するが、引用発明ではこれについては不明な点。 上記(相違点1)及び(相違点2)について検討する。 通信端末において、本願出願時点である平成21年頃においてメール機能やインターネット接続機能を有する多機能な携帯電話端末が通信端末として一般的であったことを踏まえると、表示部に文字に加えて、マークや記号を含めた図形を表示したり、また、これを入力するような構成とすることも格別な事項ではない。 したがって、(相違点1)とした補正後の発明の構成は当業者が容易に想到できたものである。 上述のように、本願出願時点である平成21年頃においてメール機能やインターネット接続機能を有する多機能な携帯電話端末が通信端末として一般的であったことから、通信端末において通話に加え電子メールの送受信を行わせることは格別な事項ではなく、また補正後の発明が電子メールの送受信に特有の特徴的な構成を有しないことを勘案しても、引用発明において通話機能に加え電子メール機能を有する構成とすることは適宜なし得る事項である。 したがって(相違点2)とした「通信手段」の構成は格別なものではない。 上記(相違点3)について検討する。 本願の発明の詳細な説明の【0048】ないし【0049】段落に 「・・・入力手段によって、記憶部32のアドレス帳から秘匿表示を行う対象となる発信者が選択される。また、発信者に対応したマーク等の選択が行われる。 【0049】 選択された宛先の電話番号および又はメールアドレスと秘匿表示マークは対応させて、秘匿者設定情報として記憶部32に記憶される。ここでは、秘匿者設定情報を記憶部32に記憶するとしたが、記憶部32のアドレス帳情報の登録情報の一つとして秘匿表示マークを設定するようにしても良い。」 と記載されていることからみて、補正後の発明における「発信者の秘匿表示情報」とはその発信者に対応して設定されている秘匿表示情報であると解される。 これに対して、引用発明の「発信者番号の表示が禁止されたときに表示する「表示禁止」等のメッセージやキャラクタ」は何に対応した表示であるのかは不明りょうなものの、発信者番号の表示の代わりに表示するものであるから、発信者に対応して設定した秘匿表示情報とすることには格別の困難があったものともいえず、また平成25年 6月21日付け審尋において示された特開2005-184539号公報(例えば【0008】ないし【0010】段落参照。)には、秘匿時に発信者(例えば「ひろみ」)に対応した仮識別情報(例えば「ひろし」)を表示することが記載されていることからみても、格別な事項とはいえない。 したがって、(相違点3)とした点は格別な事項ではなく、当業者が容易に想到できた事項にすぎない。 上記(相違点4)について検討する。 まず、本願の発明の詳細な説明の【0051】ないし【0056】段落の記載を参照すれば、補正後の発明の複数の秘匿表示条件を「または」で列記した構成は、列記された条件のうちのいずれか1つの条件を有すれば足りると解されるから、相違点4にかかる補正後の発明の構成を「秘匿表示を行う時間帯を秘匿表示条件としてユーザに設定させる設定手段」として検討する。 平成25年 6月21日付け審尋において示された特開2005-348353号公報(【0039】ないし【0046】段落参照)、特開2005-184539号公報(【0009】【0010】段落参照。)に記載されているように、秘匿表示を行う条件として時間帯を用いる技術は周知の技術である。そうしてみるとセキュリティーやプライバシー保護の観点から秘匿表示を行うという補正後の発明と共通の分野において周知の技術として知られた秘匿表示を行う条件として時間帯を用いる技術を補正後の発明に適用することは、当業者にとって容易になし得る事項であり、そうすると(相違点4)とした補正後の発明の構成は引用発明及び周知技術から容易に想到できるものである。 したがって、相違点4とした事項は格別な事項とはいえない。 上記(相違点5)について検討する。 上記(相違点2)について検討したように、引用発明において通話機能に加え電子メール機能を付加することは格別の事項ではない。そうした場合、電子メールを着信した場合にも秘匿表示を行うことは適宜なされる程度の事項にすぎないから、(相違点5)とした事項は格別のものとはいえない。 そして、補正後の発明が奏する効果も引用発明及び周知技術から容易に予測できる範囲内のものである。 よって、補正後の発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定によって特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3.結語 以上のとおり、本件補正は、補正後の発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合していない。 したがって、本件補正は、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1.本願発明 平成25年 4月15日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願発明は上記「第2 補正却下の決定」の項中の「1.本願発明と補正後の発明」の項で「本願発明」として認定したとおりである。 2.引用発明 引用発明及び周知技術は、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で引用発明及び周知技術として認定したとおりである。 3.対比・判断 本願発明は上記補正後の発明から本件補正に係る限定を省いたものである。 そうすると、本願発明の構成に本件補正に係る限定を付加した補正後の発明が、上記「第2 補正却下の決定」の項中の「(2)独立特許要件」の項で検討したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2013-12-05 |
結審通知日 | 2013-12-10 |
審決日 | 2013-12-24 |
出願番号 | 特願2009-27802(P2009-27802) |
審決分類 |
P
1
8・
575-
Z
(H04M)
P 1 8・ 121- Z (H04M) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 梶尾 誠哉、丸山 高政 |
特許庁審判長 |
田中 庸介 |
特許庁審判官 |
矢島 伸一 山本 章裕 |
発明の名称 | 通信端末、通信端末の着信表示秘匿方法および通信端末の着信表示秘匿プログラム |
代理人 | 山口 昭則 |
代理人 | 伊東 忠重 |
代理人 | 伊東 忠彦 |