• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1284962
審判番号 不服2012-20672  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-10-19 
確定日 2014-02-17 
事件の表示 特願2006- 5787「研磨パッド及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月 2日出願公開、特開2006-303432〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成18年1月13日(優先権主張平成17年3月22日)の出願であって、平成23年5月25日付けで拒絶理由が通知され、同年7月20日に手続補正がなされ、同年12月19日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成24年2月17日に手続補正がなされたところ、同年8月30日付けで平成24年2月17日の手続補正を却下する決定がなされ、同日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年10月19日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、これと同時に特許請求の範囲を補正対象とする手続補正(以下、同手続補正を「本件補正」という。)がなされたものである。

第2.本件補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
(1)補正前の本願発明
本件補正前の特許請求の範囲の記載は、
「【請求項1】
ポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッド(ただし、前記研磨パッドは中実ビーズを含有しない)において、前記ポリウレタン樹脂発泡体は、脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート末端プレポリマーと、下記一般式(1)?(3)からなる群より選択される少なくとも1種の非ハロゲン系芳香族アミンを含む鎖延長剤との反応硬化物であることを特徴とする研磨パッド。
【化1】

(ただし、一般式(1)において、R^(1)?R^(3)はそれぞれ独立に、炭素数1?3のアルキル基、又はメチルチオ基である。)
【化2】

(ただし、一般式(2)において、R^(4)?R^(7)はそれぞれ独立に、H又は炭素数1?4のアルキル基である。)
【化3】

(ただし、mは2?4の整数であり、nは1?20の整数である。)
【請求項2】
一般式(1)の非ハロゲン系芳香族アミンが、3,5-ジエチル-2,4-トルエンジアミン、3,5-ジエチル-2,6-トルエンジアミン、3,5-ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミン、及び3,5-ビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミンである請求項1記載の研磨パッド。
【請求項3】
一般式(2)の非ハロゲン系芳香族アミンが、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、及び4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトライソプロピルジフェニルメタンである請求項1又は2記載の研磨パッド。
【請求項4】
一般式(3)の非ハロゲン系芳香族アミンが、トリメチレングリコール-ジ-p-アミノベンゾエート、及びポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエートである請求項1?3のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項5】
脂環族イソシアネート末端プレポリマーを構成するイソシアネート成分が、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートである請求項1?4のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項6】
脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート末端プレポリマーを構成する高分子量ポリオール成分が、数平均分子量500?1500のポリテトラメチレンエーテルグリコールである請求項1?5のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項7】
脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート末端プレポリマーは、低分子量ポリオールを原料成分として含有する請求項1?6のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項8】
イソシアネート末端プレポリマーを含む第1成分と鎖延長剤を含む第2成分とを混合し、硬化してポリウレタン樹脂発泡体を作製する工程(1)を含む研磨パッド(ただし、前記研磨パッドは中実ビーズを含有しない)の製造方法において、
前記工程(1)は、イソシアネート末端プレポリマーを含む第1成分にシリコン系界面活性剤をポリウレタン樹脂発泡体中に0.05?10重量%になるように添加し、さらに前記第1成分を非反応性気体と撹拌して前記非反応性気体を微細気泡として分散させた気泡分散液を調製した後、前記気泡分散液に鎖延長剤を含む第2成分を混合し、硬化してポリウレタン樹脂発泡体を作製する工程であり、前記イソシアネート末端プレポリマーは脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート末端プレポリマーであり、かつ前記鎖延長剤は下記一般式(1)?(3)からなる群より選択される少なくとも1種の非ハロゲン系芳香族アミンを含むことを特徴とする研磨パッドの製造方法。
【化4】

(ただし、一般式(1)において、R^(1)?R^(3)はそれぞれ独立に、炭素数1?3のアルキル基、又はメチルチオ基である。)
【化5】

(ただし、一般式(2)において、R^(4)?R^(7)はそれぞれ独立に、H又は炭素数1?4のアルキル基である。)
【化6】

(ただし、mは2?4の整数であり、nは1?20の整数である。)
【請求項9】
前記シリコン系界面活性剤は、重量平均分子量が1000?6000であり、かつ分子内のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(モル比)が70/30?100/0であるシリコン樹脂を含有する請求項8記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項10】
前記シリコン樹脂は、シロキサン骨格の側鎖の末端に水酸基を有する請求項9記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項11】
請求項1?7のいずれかに記載の研磨パッドを用いて半導体ウエハの表面を研磨する工程を含む半導体デバイスの製造方法。」である(以下、「本願発明1」ないし「本願発明11」という。)。

(2)本件補正後の発明
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
ポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッド(ただし、前記研磨パッドは中実ビーズを含有しない)において、前記ポリウレタン樹脂発泡体は、脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート末端プレポリマーと、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトライソプロピルジフェニルメタン、及びポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエートからなる群より選択される少なくとも1種の非ハロゲン系芳香族アミンを含む鎖延長剤との反応硬化物であることを特徴とする研磨パッド。
【請求項2】
脂環族イソシアネート末端プレポリマーを構成するイソシアネート成分が、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートである請求項1に記載の研磨パッド。
【請求項3】
脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート末端プレポリマーを構成する高分子量ポリオール成分が、数平均分子量500?1500のポリテトラメチレンエーテルグリコールである請求項1又は2に記載の研磨パッド。
【請求項4】
脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート末端プレポリマーは、低分子量ポリオールを原料成分として含有する請求項1?3のいずれかに記載の研磨パッド。
【請求項5】
イソシアネート末端プレポリマーを含む第1成分と鎖延長剤を含む第2成分とを混合し、硬化してポリウレタン樹脂発泡体を作製する工程(1)を含む研磨パッド(ただし、前記研磨パッドは中実ビーズを含有しない)の製造方法において、
前記工程(1)は、イソシアネート末端プレポリマーを含む第1成分にシリコン系界面活性剤をポリウレタン樹脂発泡体中に0.05?10重量%になるように添加し、さらに前記第1成分を非反応性気体と撹拌して前記非反応性気体を微細気泡として分散させた気泡分散液を調製した後、前記気泡分散液に鎖延長剤を含む第2成分を混合し、硬化してポリウレタン樹脂発泡体を作製する工程であり、前記イソシアネート末端プレポリマーは脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート末端プレポリマーであり、かつ前記鎖延長剤は4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトライソプロピルジフェニルメタン、及びポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエートからなる群より選択される少なくとも1種の非ハロゲン系芳香族アミンを含むことを特徴とする研磨パッドの製造方法。
【請求項6】
前記シリコン系界面活性剤は、重量平均分子量が1000?6000であり、かつ分子内のエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド(モル比)が70/30?100/0であるシリコン樹脂を含有する請求項5に記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項7】
前記シリコン樹脂は、シロキサン骨格の側鎖の末端に水酸基を有する請求項6に記載の研磨パッドの製造方法。
【請求項8】
請求項1?4のいずれかに記載の研磨パッドを用いて半導体ウエハの表面を研磨する工程を含む半導体デバイスの製造方法。」
と、補正された。

(3)補正事項
上記補正は、以下の事項からなる。

ア.補正事項1
本件補正前の請求項1に記載された発明を特定する事項である
「下記一般式(1)?(3)からなる群より選択される少なくとも1種の非ハロゲン系芳香族アミンを含む鎖延長剤との反応硬化物であることを特徴とする研磨パッド。
【化1】

(ただし、一般式(1)において、R^(1)?R^(3)はそれぞれ独立に、炭素数1?3のアルキル基、又はメチルチオ基である。)
【化2】

(ただし、一般式(2)において、R^(4)?R^(7)はそれぞれ独立に、H又は炭素数1?4のアルキル基である。)
【化3】

(ただし、mは2?4の整数であり、nは1?20の整数である。)」を、「4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトライソプロピルジフェニルメタン、及びポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエートからなる群より選択される少なくとも1種の非ハロゲン系芳香族アミンを含む鎖延長剤との反応硬化物であることを特徴とする研磨パッド。」と補正する。

イ.補正事項2
本件補正前の請求項2?4を削除する。

ウ.補正事項3
本件補正前の請求項5に記載の「請求項1?4のいずれかに記載の研磨パッド。」との記載を、「請求項1に記載の研磨パッド。」と補正し、新たな請求項2とする。

エ.補正事項4
本件補正前の請求項6に記載の「請求項1?5のいずれかに記載の研磨パッド。」を、「請求項1又は2に記載の研磨パッド。」と補正し、新たな請求項3とする。

オ.補正事項5
本件補正前の請求項7に記載の「請求項1?6のいずれかに記載の研磨パッド。」を、「請求項1?3のいずれかに記載の研磨パッド。」と補正し、新たな請求項4とする。

カ.補正事項6
本件補正前の請求項8に記載された発明を特定する事項である
「かつ前記鎖延長剤は下記一般式(1)?(3)からなる群より選択される少なくとも1種の非ハロゲン系芳香族アミンを含むことを特徴とする研磨パッドの製造方法。
【化4】

(ただし、一般式(1)において、R^(1)?R^(3)はそれぞれ独立に、炭素数1?3のアルキル基、又はメチルチオ基である。)
【化5】

(ただし、一般式(2)において、R^(4)?R^(7)はそれぞれ独立に、H又は炭素数1?4のアルキル基である。)
【化6】

(ただし、mは2?4の整数であり、nは1?20の整数である。)」を、「かつ前記鎖延長剤は4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトライソプロピルジフェニルメタン、及びポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエートからなる群より選択される少なくとも1種の非ハロゲン系芳香族アミンを含むことを特徴とする研磨パッド。」と補正し、新たな請求項5とする。

キ.補正事項7
本件補正前の請求項9に記載の「請求項8記載の研磨パッドの製造方法。」との記載を、「請求項5に記載の研磨パッドの製造方法。」と補正し、新たな請求項6とする。

ク.補正事項8
本件補正前の請求項10に記載の「請求項9記載の研磨パッドの製造方法。」との記載を、「請求項6に記載の研磨パッドの製造方法。」と補正し、新たな請求項7とする。

ケ.補正事項9
本件補正前の請求項11に記載の「請求項1?7のいずれかに記載の研磨パッドを用いて」との記載を、「請求項1?4のいずれかに記載の研磨パッドを用いて」と補正し、新たな請求項8とする。

(4)補正の目的
補正事項1,6は、「鎖延長剤」が「一般式(1)?(3)からなる群より選択される少なくとも1種の非ハロゲン系芳香族アミン」から、「4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトライソプロピルジフェニルメタン、及びポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエートからなる群より選択される少なくとも1種の非ハロゲン系芳香族アミン」に限定するものであって、これは、平成18年法律第55号による改正前の特許法(以下、「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

補正事項2は請求項の削除を目的とするものに該当する。

補正事項3?5、及び補正事項7?9は、請求項2?4の削除に伴って、請求項5?7、及び請求項9?11の記載を整合させ、同時に請求項の項番を繰り上げたものであるから、不明瞭な記載の釈明に該当する。

(5)請求項1に係る発明について
そこで、本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(4-1)引用刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された特開2005-68175号公報(以下、「引用刊行物1」という。)には、「研磨パッド」に関して、図面とともに、以下のとおり記載されている。

ア.【特許請求の範囲】【請求項1】
「微細気泡を有するポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッドであって、前記ポリウレタン樹脂発泡体は、水酸基以外の親水性基を有しない疎水性高分子量ポリオール成分とイソシアネート成分とを原料成分として含有してなる疎水性イソシアネート末端プレポリマー(A)、エチレンオキサイド単位(-CH_(2)CH_(2)O-)を有する親水性高分子量ポリオール成分とイソシアネート成分とを原料成分として含有してなる親水性イソシアネート末端プレポリマー(B)、及び鎖延長剤を原料成分として含有してなることを特徴とする研磨パッド。」

イ.【特許請求の範囲】【請求項5】
「前記プレポリマー(A)及び/又は(B)の原料成分であるイソシアネート成分が芳香族ジイソシアネート及び脂環式ジイソシアネートである請求項1?4のいずれかに記載の研磨パッド。]

ウ.【特許請求の範囲】【請求項6】
「前記芳香族ジイソシアネートがトルエンジイソシアネートであり、前記脂環式ジイソシアネートがジシクロヘキシルメタンジイソシアネートである請求項5記載の研磨パッド。」

エ.段落【0001】
「【発明の属する技術分野】
本発明はレンズ、反射ミラー等の光学材料やシリコンウエハー、ハードディスク用のガラス基板、アルミ基板、及び一般的な金属研磨加工等の高度の表面平坦性を要求される材料の平坦化加工を安定、かつ高い研磨効率で行うことが可能な研磨パッドに関するものである。本発明の研磨パッドは、特にシリコンウエハー並びにその上に酸化物層、金属層等が形成されたデバイスを、さらにこれらの酸化物層や金属層を積層・形成する前に平坦化する工程に好適に使用される。」

オ.段落【0003】
「研磨パッドの研磨特性としては、研磨対象物の平坦性(プラナリティー)及び面内均一性に優れ、研磨速度が大きいことが要求される。研磨対象物の平坦性、面内均一性については研磨層を高弾性率化することによりある程度は改善できる。また、研磨速度については、気泡を含有する発泡体にしてスラリーの保持量を多くすることにより向上できる。」

カ.段落【0010】
「本発明は、平坦性、面内均一性、研磨速度が良好であり、研磨速度の変化が少なく、さらに寿命特性に優れる研磨パッドを提供することを目的とする。また、該研磨パッドを用いた半導体デバイスの製造方法を提供することを目的とする。」

キ.段落【0012】
「すなわち、本発明の研磨パッドは、微細気泡を有するポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有し、前記ポリウレタン樹脂発泡体は、水酸基以外の親水性基を有しない疎水性高分子量ポリオール成分とイソシアネート成分とを原料成分として含有してなる疎水性イソシアネート末端プレポリマー(A)、エチレンオキサイド単位(-CH_(2)CH_(2)O-)を有する親水性高分子量ポリオール成分とイソシアネート成分とを原料成分として含有してなる親水性イソシアネート末端プレポリマー(B)、及び鎖延長剤を原料成分として含有してなることを特徴とする。」

ク.段落【0036】?【0037】
「疎水性高分子量ポリオール成分の数平均分子量は、得られるポリウレタン樹脂発泡体の弾性特性等の観点から、500以上であることが必要である。数平均分子量は、500?5000であることが好ましい。前記高分子量ポリオール成分の数平均分子量が500未満であると、これを用いて得られるポリウレタン樹脂発泡体は十分な弾性特性を有さず、また脆いポリマーとなり磨耗しやすくなるため、研磨パッドの寿命の観点からも好ましくない。
イソシアネート成分としては、ポリウレタンの分野において公知の化合物を特に限定なく使用できる。イソシアネート成分としては、2,4-トルエンジイソシアネート、2,6-トルエンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、m-フェニレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類、エチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’-ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネート類等が挙げられる。これらは1種で用いても、2種以上を混合しても差し支えない。」

ケ.段落【0055】
「鎖延長剤は、少なくとも2個以上の活性水素基を有する分子量500程度以下の有機化合物である。活性水素基としては、水酸基、第1級もしくは第2級アミノ基、チオール基(SH)等が例示できる。具体的には、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、トリメチロールプロパン等に代表される脂肪族系低分子グリコールやトリオール類、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、m-キシリレンジオール等に代表される芳香族系ジオール類、4,4’-メチレンビス(o-クロロアニリン)、2,6-ジクロロ-p-フェニレンジアミン、4,4’-メチレンビス(2,3-ジクロロアニリン)、3,5-ビス(メチルチオ)-2,4-トルエンジアミン、3,5-ビス(メチルチオ)-2,6-トルエンジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,4-ジアミン、3,5-ジエチルトルエン-2,6-ジアミン、トリメチレングリコール-ジ-p-アミノベンゾエート、1,2-ビス(2-アミノフェニルチオ)エタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジエチル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン等に代表されるポリアミン類等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。」

コ.段落【0058】?【0061】
「ポリウレタン樹脂は、溶融法、溶液法など公知のウレタン化技術を応用して製造することができるが、本発明のポリウレタン樹脂発泡体に関しては、気孔(気泡)をポリウレタン樹脂中に取り込む必要があること、さらにコスト、作業環境などを考慮して溶融法で製造することが好ましい。
ポリウレタン樹脂発泡体の製造方法としては、中空ビーズを添加させる方法、機械的発泡法、化学的発泡法などが挙げられる。
特に、ポリアルキルシロキサンとポリエーテルの共重合体であって活性水素基を有しないシリコーン系界面活性剤を使用した機械的発泡法が好ましい。かかるシリコーン系界面活性剤としては、SH-192(東レダウコーニングシリコン製)等が好適な化合物として例示される。
なお、必要に応じて、酸化防止剤等の安定剤、滑剤、顔料、充填剤、帯電防止剤、その他の添加剤を加えてもよい。」

以上によれば、引用刊行物1には、
「微細気泡を有するポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッドであって、前記ポリウレタン樹脂発泡体は、疎水性高分子量ポリオール成分とイソシアネート成分とを原料成分として含有してなる疎水性イソシアネート末端プレポリマー(A)、親水性高分子量ポリオール成分とイソシアネート成分とを原料成分として含有してなる親水性イソシアネート末端プレポリマー(B)、及び鎖延長剤を原料成分として含有する研磨パッド。」
との発明(以下、「引用刊行物発明1」という。)が開示されていると認められる。

(4-2)対比
そこで、本願補正発明と引用刊行物発明1とを比較すると、引用刊行物発明1の「微細気泡を有するポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッド」は、本願補正発明の「ポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッド」と一致している。
そして、引用刊行物発明1の「疎水性高分子量ポリオール成分とイソシアネート成分とを原料成分として含有してなる疎水性イソシアネート末端プレポリマー(A)、親水性高分子量ポリオール成分とイソシアネート成分とを原料成分として含有してなる親水性イソシアネート末端プレポリマー(B)」は、「イソシアネート末端プレポリマー」である限りにおいて、本願補正発明の「イソシアネート末端プレポリマー」に相当し、同様に、引用刊行物発明1の「鎖延長剤」は、本願補正発明の「鎖延長剤」に、相当している。
さらに、本願補正発明の「反応硬化物であること」についてみると、引用刊行物発明1の「ポリウレタン樹脂発泡体」が、プレポリマーと鎖延長剤の反応によって硬化していることは明らかであるから、このポリウレタン樹脂発泡体は、本願補正発明の「反応硬化物であるポリウレタン樹脂発泡体」に相当するものということができる。

以上の通りであるから、両者は、
<一致点>
「ポリウレタン樹脂発泡体からなる研磨層を有する研磨パッドにおいて、前記ポリウレタン樹脂発泡体は、イソシアネート末端プレポリマーと、鎖延長剤との反応硬化物である研磨パッド。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

<相違点1>
本願補正発明の研磨パッドは「中実ビーズを含有しない」ものであるのに対し、引用刊行物発明1の「研磨パッド」がそのように、積極的に「中実ビーズ」を排除しているかは不明である点。

<相違点2>
本願補正発明のイソシアネート末端プレポリマーは、「脂肪族及び/又は脂環族イソシアネート末端プレポリマー」であるのに対し、引用刊行物発明1の「イソシアネート末端プレポリマー」は、「脂肪族」、あるいは、「脂環族」とは規定されていない点。

<相違点3>
本願補正発明では、「鎖延長剤」が、「4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトラエチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’-ジイソプロピル-5,5’-ジメチルジフェニルメタン、4,4’-ジアミノ-3,3’,5,5’-テトライソプロピルジフェニルメタン、及びポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエートからなる群より選択される少なくとも1種の非ハロゲン系芳香族アミンを含む」ものであるのに対して、引用刊行物発明1の「鎖延長剤」はそのようなものに限定されないていない点。

(4-3)判断
○ 相違点1について
相違点1について検討すると、発泡材料からなる研磨パッドにおいては、例えば、特開2005-322790号公報、特開2004-297062号公報、国際公開第2005/077999号、特開2004-193390号公報等にみられるように、「中実ビーズ」を含有しないで研磨パッドを構成することは従来周知の事項にすぎない。
してみれば、相違点1に係る発明特定事項の違いは、引用刊行物発明1に周知事項を適用したにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

○ 相違点2について
相違点2について検討すると、本願発明の「脂肪族イソシアネート」について、発明の詳細な説明の段落【0027】の記載を参照すると、その実施例は「エチレンジイソシアネート」、「2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート」、「1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート」であり、これは、前記4-1の摘記事項ク.に記載の脂肪族イソシアネート類と一致しており、同様に、本願発明の「脂環族イソシアネート」について、発明の詳細な説明の段落【0028】の記載を参照すると、その実施例は「1,4-シクロヘキサンジイソシアネート」、「4,4’-ジシクロへキシルメタンジイソシアネート」、「イソホロンジイソシアネート」、「ノルボルナンジイソシアネート」であり、これは、前記4-1の摘記事項ク.に記載の脂環族イソシアネート類と一致している。
してみれば、ソシアネート末端プレポリマーを「脂肪族」あるいは「脂環属」と限定することは、当業者が容易に想到し得たものである。

○ 相違点3について
相違点3について検討すると、ウレタン結合を有するポリウレタンの合成において、プレポリマーと鎖延長剤(硬化剤)を反応させてポリウレタンを得るのは常套手段であり、その際、鎖延長剤として、「非ハロゲン系芳香族アミン」である、「4,4’-ジアミノジフェニルメタン」を用いることは、例えば、特開2005-322790号公報(段落【0029】の鎖延長剤に関する記載参照。)、特開2004-297062号公報(段落【0048】の鎖延長剤に関する記載参照。)にみられ、また、同様に、「ポリテトラメチレンオキシド-ジ-p-アミノベンゾエート」を用いることは、例えば、国際公開第2005/077999号(明細書第7ページ第28?32行に記載の「Example curative polyamines」としての「polytetramethyleneoxide di-p-aminobenzoate」の記載参照。)、特開2005-354077号公報(段落【0021】の硬化剤に関する記載参照。)にみられるように、いずれも従来周知の事項にすぎず、また、ハロゲン元素である塩素を含む物質を燃焼させるとダイオキシンが発生して環境衛生上問題があることは、広く知られた事項なのであるから、燃焼廃棄させるならば、材料として塩素を含まない非ハロゲン物質を選択するのは常套手段である。
してみれば、相違点3に係る発明特定事項の違いは、引用刊行物発明1に周知事項を適用したにすぎないものであり、当業者が容易に想到し得たものである。

○ 小括
上記相違点1?3についての検討より、本願発明は、引用刊行物発明1及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明できたものであり、作用・効果の点で当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際、独立して特許を受けることができないものである。

なお、請求人は、平成25年5月31日提出の回答書において、「しかし、本願請求項1?8に記載の発明は、「従来の研磨パッドより研磨特性に優れ、かつハロゲンを含有しない研磨パッド及びその製造方法を提供すること」等を課題としており(本願明細書段落0007)、当該課題を特定の鎖延長剤(本願請求項1、5)を用いることで解決しています。なお、本願明細書において研磨特性は「研磨対象物の平坦性(プラナリティー)、面内均一性、及び研磨速度」を意味します(本願明細書段落0003)。」(回答書の第2ページ第4-9行)と主張し、さらに、「引用文献2には、特定の鎖延長剤を用いることによって、中実ビーズを用いることなくサーマルリサイクルを可能にしながら研磨対象物の平坦性、面内均一性、及び研磨速度を解決せんとする技術思想は記載されておらず、示唆もありません。」(回答書の第2ページ第24-27行)と主張しているが、上記とおり、本願補正発明は、拒絶査定の理由に引用された刊行物2(国際公開第2002/083757号)にかかわらず特許を受けることができないものであるから、請求人の主張は採用できない。

(5)むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第5項において準用する特許法第126条第5項の規定に違反するので、改正前特許法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3.本願発明について
(1)本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし11に係る発明は、平成23年7月20日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載されたとおりのものと認められるところ、請求項1ないし11に係る発明は、前記第2.(1)補正前の本願発明のとおりのものである。

(2)引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物、及び、その記載事項、並びに周知事項は、前記第2.に記載したとおりである。

(3)対比・判断
本願発明1は、前記第2.で検討した本願補正発明から、前記第2.(2)に記載した補正事項の発明特定事項を省いたものである。
そうすると、本願発明1の発明特定事項を全て含み、さらに他の発明特定事項を付加したものに相当する本願補正発明が、前記第2.(4)に記載したとおり、引用刊行物発明1及び周知事項、及び設計的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明1も、同様の理由により、引用刊行物発明1及び周知事項及び設計的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)むすび
以上のとおり、本願発明1は、引用刊行物発明1及び周知事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、他の請求項についてみるまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-17 
結審通知日 2013-12-18 
審決日 2014-01-07 
出願番号 特願2006-5787(P2006-5787)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 馬場 進吾  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 刈間 宏信
菅澤 洋二
発明の名称 研磨パッド及びその製造方法  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ