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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H05B
審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 H05B
管理番号 1284984
審判番号 不服2013-9301  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-05-21 
確定日 2014-03-12 
事件の表示 特願2008-295777号「高周波誘導加熱装置」拒絶査定不服審判事件〔平成22年6月3日出願公開、特開2010-123387号、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成20年11月19日の出願であって、平成25年2月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成25年5月21日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされたものである。

第2 平成25年5月21日の手続補正について
1.補正の内容
本件補正により、特許請求の範囲は、
「【請求項1】
軸部を有する金属部品に対して、前記軸部の外径面に硬化層を形成する高周波誘導加熱装置であって、
高周波電流が印加される四角形断面の角パイプからなる加熱コイルを備え、前記加熱コイルは、軸部の外径側に周方向に沿って配設される四半弧円状の第1上わたり部と、第1上わたり部の端部から軸部の軸方向に沿って下方に延びる第1柱部と、第1柱部の下端部から軸部の外径側に周方向に沿って延びる半弧円状の下わたり部と、下わたり部の端部から軸部の軸方向に沿って上方に延びる第2柱部と、第2柱部の上端部から外径側に周方向に沿って延びる四半弧円状の第2上わたり部とを有し、少なくとも、前記第1上わたり部と第2上わたり部とにおいて、四角形状内面の角部を維持した状態で、下面と内径面とのコーナ部の外面側のみに、肉厚範囲内に収まるように電流集中緩和用の面取り部を設けたことを特徴とする高周波誘導加熱装置。
【請求項2】
前記面取り部は、C1からC3程度のC面取りにて構成したことを特徴とする請求項1に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項3】
前記面取り部は、R1からR3程度のR面取りにて構成したことを特徴とする請求項1に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項4】
前記金属部品は、車輪用軸受装置に用いられるハブ輪であることを特徴とする請求項1?請求項3のいずれかに記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項5】
前記金属部品は、等速自在継手の外側継手部材であることを特徴とする請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項6】
前記金属部品は、プロペラシャフト用スタブシャフトであることを特徴とする請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の高周波誘導加熱装置。
【請求項7】
前記金属部品は、アクスルシャフトであることを特徴とする請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の高周波誘導加熱装置。」と補正された。
上記補正事項は、請求項1の発明を特定するための事項である第1上わたり部及び第2上わたり部の面取り部に関し、「肉厚範囲内に収まるように電流集中緩和用の」との事項を限定するものである。また請求項1を引用する請求項2?7についても同様に限定するものといえる。
そうすると、請求項1?7についてする補正は、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許法第17条の2第3項、第4項に違反するところはない。
そこで、本件補正後の前記請求項1?7に記載された発明(以下「本願補正発明1?7」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2.引用刊行物
(1)引用刊行物1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の出願前に頒布された特開2006-302683号公報(以下「引用刊行物1」という。)には、図1?4とともに以下の事項が記載されている。
ア.「上記の課題を解決するために、本発明は、角パイプを接続して形成され、この角パイプの接続箇所に屈曲部が形成された高周波加熱コイルにおいて、前記屈曲部で接続される少なくとも一方の角パイプの断面形状を、屈曲部の屈曲内側の角パイプコーナ部の間に頂点を有する多角形断面とした構成を採用した。
すなわち、屈曲部で接続される少なくとも一方の角パイプの断面形状を、屈曲部の屈曲内側の角パイプコーナ部の間に頂点を有する多角形断面とすることにより、屈曲内側の角パイプコーナ部に集中する電流を、この角パイプコーナ部の間に設けた頂点の部分に分散させ、安価な手段で寸法精度を低下させることなく、屈曲内側の角パイプコーナ部への電流集中を防止できるようにした。
前記屈曲内側の角パイプコーナ部の間に頂点を有する角パイプの多角形断面を、屈曲内側の角パイプコーナ部の間に1つの頂点を有する五角形断面とすることにより、多角形断面の角パイプを安価に形成することができる。
【発明の効果】
本発明の高周波加熱コイルは、屈曲部で接続される少なくとも一方の角パイプの断面形状を、屈曲部の屈曲内側の角パイプコーナ部の間に頂点を有する多角形断面としたので、屈曲内側の角パイプコーナ部に集中する電流を、この角パイプコーナ部の間に設けた頂点の部分に分散させ、安価な手段で寸法精度を低下させることなく、屈曲内側の角パイプコーナ部への電流集中を防止できるようにし、角パイプコーナ部でのろう付けの剥がれや、角パイプ自体の亀裂の発生を防止して、高周波加熱コイルの寿命を長く確保することができる。(段落【0008】?【0011】)
イ.「前記屈曲内側の角パイプコーナ部の間に頂点を有する角パイプの多角形断面を、屈曲内側の角パイプコーナ部の間に1つの頂点を有する五角形断面とすることにより、多角形断面の角パイプを安価に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、図面に基づき、本発明の実施形態を説明する。この高周波加熱コイルは、図1(a)、(b)に示すように、高周波電源(図示省略)に接続される一対のリード導体部1の間に、被加熱物Aの周りに沿わされる一対の円弧状の加熱導体部2と直線状の加熱導体部3および半円弧状の加熱導体部4がろう付けで接続されている。各リード導体部1と各加熱導体部2、3、4は銅製の角パイプで形成され、その内部に冷却水が通されるようになっている。
前記各直線状の加熱導体部3と各円弧状の加熱導体部2および半円弧状の加熱導体部4との接続箇所には、それぞれ直角の屈曲部5a、5bが形成されている。これらの各屈曲部5a、5bで接続された各加熱導体部2、4の角パイプは、それぞれ屈曲内側の角パイプコーナ部の間に1つの頂点2a、4aを有する五角形断面とされている。また、各加熱導体部2に接続されたリード導体部1の断面形状も、加熱導体部2と同じ1つの頂点1aを有する五角形断面とされている。なお、直線状の加熱導体部3の角パイプは矩形断面とされている。」(段落【0012】?【0014】)
ウ.「つぎに、図4(a)に示すように、上述した実施例と比較例の各高周波加熱コイルに、矢印で示す高周波電流を流し、被加熱物Aを高周波焼入れする高周波焼入れ実験を行なった。」(段落【0018】)
エ.図1及び4には、上下に延びる円柱状の被加熱物Aと、
下方に頂点を有する五角形断面の角パイプである一対のリード導体部1と、
一対のリード導体部1にそれぞれ接続され、円柱状の被加熱物Aに周方向で周りに沿わされる、下方に頂点2aを有する五角形断面の角パイプである、一対の四半円弧状の加熱導体部2と、
一対の四半円弧状の加熱導体部2に、それぞれ直角の屈曲部5aで接続され、円柱状の被加熱物Aに軸方向の下方に延びように周りに沿わされる、四角形断面の角パイプである、一対の直線状の加熱導体部3と、
一対の直線状の加熱導体部3に、それぞれ直角の屈曲部5bで接続され、円柱状の被加熱物Aに周方向で周りに沿わされる、上方に頂点4aを有する五角形断面の角パイプである、半円弧状の加熱導体部4と
から構成された高周波加熱コイルが図示されている。
オ.イ.で摘示したように高周波加熱コイルに高周波電源を接続して、ウ.で摘示したように高周波電流を流し、被加熱物Aを高周波焼入れするものであるから、高周波加熱コイルや高周波電源からなる高周波焼き入れ装置が記載されているといえる。
これらの記載事項ア.?ウ.、エ.の図示内容及びオ.で検討した事項を総合すると、上記引用刊行物1には、
「円柱状の被加熱物Aに対して、高周波加熱コイルに高周波電流を流し、被加熱物Aを高周波焼入れする高周波焼き入れ装置であって、
高周波電源に接続される一対のリード導体部1を有する五角形断面及び四角形断面の角パイプからなる高周波加熱コイルを備え、
前記高周波加熱コイルは、
下方に頂点を有する五角形断面の角パイプである一対のリード導体部1と、
一対のリード導体部1にそれぞれ接続され、円柱状の被加熱物Aに周方向で周りに沿わされる、下方に頂点2aを有する五角形断面の角パイプである、一対の四半円弧状の加熱導体部2と、
一対の四半円弧状の加熱導体部2に、それぞれ直角の屈曲部5aで接続され、円柱状の被加熱物Aに軸方向の下方に延びように周りに沿わされる、四角形断面の角パイプである、一対の直線状の加熱導体部3と、
一対の直線状の加熱導体部3に、それぞれ直角の屈曲部5bで接続され、円柱状の被加熱物Aに周方向で周りに沿わされる、上方に頂点4aを有する五角形断面の角パイプである、半円弧状の加熱導体部4とから構成され、
屈曲内側の角パイプコーナ部に集中する電流を、角パイプコーナ部の間に設けた頂点の部分に分散させ、安価な手段で寸法精度を低下させることなく、屈曲内側の角パイプコーナ部への電流集中を防止できるようにし、角パイプコーナ部でのろう付けの剥がれや、角パイプ自体の亀裂の発生を防止して、高周波加熱コイルの寿命を長く確保することができる、
被加熱物Aを高周波焼入れする高周波焼き入れ装置。」の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(2)引用刊行物2
同じく特開2002-226911号公報(以下「引用刊行物2」という。)には、図1?9とともに以下の事項が記載されている。
ア.「図1は、本発明の一実施形態に係る半開放鞍型高周波誘導加熱コイル20を備えた高周波焼入装置21を示すものであって、本装置20は、クランクシャフト1のジャーナル部J_(1)?J_(5)及びピン部P_(1)?P_(4)の円柱部3a,4aを平焼入するためのものである。・・・(中略)・・・
この高周波焼入装置21は、・・・(中略)・・・これら一対の側板22a,22b間に取付けられた半開放鞍型高周波誘導加熱コイル20と、この高周波誘導加熱コイル20に給電用リード導体23a,23bを介して高周波電流を供給する高周波電源24と、・・・(中略)・・・をそれぞれ具備している。
本発明の一実施形態に係る半開放鞍型高周波誘導加熱コイル20は、被加熱部である円柱部3aの円筒状周面γの上半分部分に所定の間隔を隔てて対向配置されるコイル頭部30を有している。このコイル頭部30は、2本の電極である加熱導体31,32とから成り、これらの加熱導体31,32は互いに平行に配置されると共に図外の接続導体により互いに直列に接続されている。図2(a),(b)に示すように、これらの加熱導体31,32は、角パイプ材から成り、前記円筒状周面γの上半分部分に対して僅かな隙間を隔てて対応配置される加熱導体31,32の下辺部分は、屈曲形状となされている。すなわち、被加熱面である円柱部3aの円筒状周面γに対向配置されるコイル頭部30の形状は、前記コイル頭部30と前記円柱部3aの円筒状周面γとの間の隙間が前記ジャーナル部J_(1) の両側のスラスト面δの側で相対的に狭くなり、かつ、前記一対の加熱導体31,32の対向方向における中央側(円柱部3aの軸線方向の中央側であって、かつ互いに対向する一対のスラスト面δの間の中央箇所)で相対的に広くなるような形状となされている。
さらに具体的に述べると、加熱導体31,32同士の対向方向(円柱部3aの軸線方向)において相対的に遠く離れた外側部分は、円柱部3aの円筒状周面γに対して平行に配置される水平面部33,34(図2(a)において示すp-q間の面部分33、並びにu-t間の面部分34)となされている。そして、加熱導体31,32同士の対向方向において相対的に近い位置の内側部分は、上述の水平面部33,34に対して屈曲されて円柱部3aの円筒状周面γに対して傾斜状態で配置される傾斜面部35,36(図2(a)におけるq-r間の面部分35、並びにt-s間の面部分36)となされている。従って、高周波誘導加熱時におけるコイル頭部30と円柱部3aの円筒状周面γ(被加熱面)との間の隙間は、円柱部3aの両側のスラスト部3cの側(スラスト面δの側)で相対的に狭く設定されると共に、加熱導体31,32間の中央側で相対的に広く設定されるように構成されている。つまり、コイル頭部30の下辺形状は、スラスト面δの側すなわちピン部J_(1)の軸線X方向の両側で円柱部3aの円筒状周面γに近接せしめられ、コイル頭部30の中央側すなわちピン部P_(1)の軸線X方向の中央側でスラスト面δの側における隙間(間隔)よりも広くなって前記円筒状周面γからより離れるような形状となされている。なお、本実施形態においては、従来と同様に、円柱部3aに対する加熱効率を増加させるために珪素鋼板やダストコア等の磁性材(磁束集中部材)14,15が前記加熱導体31,32に装着されている。」(段落【0015】?【0018】)
イ.「ここで、上述の如き構成の高周波誘導加熱コイル20を用いた場合の作用効果について述べると、以下の通りである。高周波誘導加熱コイル20のコイル頭部30に傾斜面部35,36を設けて、コイル頭部30と円柱部3aの円筒状周面γとの間の隙間をスラスト面δ(側壁)の側で狭くし、その中央側で広くするように構成しているので、加熱導体43及び加熱導体44に高周波電流を流した場合、近接効果により、p-q間の面部分及びt-u間の面部分(水平面部33,34)と円柱部3aとの間に生じる磁束の強さは、q-r間の面部分及びs-t間の面部分(傾斜面部35,36)と円柱部3aとの間に生じる磁束の強さよりも相対的に強くなる。そのため、円柱部3aの端面側(スラスト面δの側)に加熱が集中されてその表面温度が相対的に高く上昇せしめられることとなるので、円柱部3aの円筒状周面γに得られる焼入硬化層パターンHは、図3に示すように、端面部硬化層深さ部Fから表面部Gへの立ち上がり角度が大きくなり、焼入部と生部の焼境が明確となる。従って、この斜めに形成される硬化層パターンの領域であるL_(3),L_(4)の幅を狭く設定することができることとなり、これに伴い端面側の焼入硬化層パターンが安定することにより円柱部3aの表面における焼入幅のバラツキの程度を少なくすることができる。」(段落【0025】)
ウ.「また、2本の加熱導体31,32から成るコイル頭部30の寸法条件について実験したところ、円柱部3aに最も近接する水平面部33,34の幅Z_(1)を加熱導体33,34の全幅Z_(2)(図2(b)参照)に対して50%以下に設定した場合に上述の如き効果を最も顕著に得ることができることが判明した。」(段落【0028】)
エ.図2には、一対の加熱導体31,32は、四角形の内側まで傾斜面となった傾斜面部35,36を有する五角形断面を有するパイプであることが図示される。

(3)引用刊行物3
前置報告書で引用され、本願の出願前に頒布された実願平5-72194号(実開平7-36395号)のCD-ROM(以下「引用刊行物3」という。)には、図1?7とともに以下の事項が記載されている。
ア.「本考案は、シャフト等の直棒状のワークの表面の焼入に用いられ、寿命の長い高周波誘導加熱コイルに関する。
【従来の技術】
ドライブシャフトやアクスルシャフト等の直棒状のワークWを加熱する従来の高周波誘導加熱コイルを図7を参照しつつ説明する。
回転対称体である直棒状のワークWを加熱するこの種の高周波誘導加熱コイル700は、いわゆる半開放型に構成されている。すなわち、高周波電源500に接続されるほぼ1/4円弧状の一対の第1及び第2円弧状導体710、750と、この第1及び第2円弧状導体710、750に接続される一対の第1及び第2直線状導体720、740と、この第1及び第2直線状導体720、740の端部同士を接続しているほぼ半円弧状の半円弧状導体730とを有している。
ワークWに対する焼入は、ワークWの軸を高周波誘導加熱コイル700の軸に一致させ、ワークWを軸を中心として回転させながら、高周波電源500からの高周波電流を高周波誘導加熱コイル700に所定時間通電してワークWを加熱した後、ワークWを急冷することによって行われる。」(段落【0001】?【0003】)
イ.「第1の実施例に係る高周波誘導加熱コイル100は、図1に示すように、シャフト等の直棒状のワークを加熱する半開放型の高周波誘導加熱コイルであって、半開放型の内側コイル110と、この内側コイル110に直列に接続された半開放型の外側コイル120とを有している。
内側コイル110は、断面略ロ字形状の良導電金属からなる角パイプを組み合わせたものであり、ほぼ1/4円弧状の内側第1弧状導体111と、この内側第1弧状導体111の他端に接続される内側第1直線状導体112と、この内側第1直線状導体112の他端に接続される内側半円弧状導体113と、この内側半円弧状導体113の他端に接続される内側第2直線状導体114と、この内側第2直線状導体114の他端に接続されるほぼ1/4円弧状の内側第2弧状導体115とを有している。
内側第1弧状導体111は、直棒状のワークWの外径より若干大きめの円弧に従って形成されており、その一端は第1電源供給導体410が接続される部分111Aとして外側に延出されている。
このような内側第1弧状導体111の他端に、内側第1弧状導体111に対して直交する方向に接続される内側第1直線状導体112は、直棒状のワークWの軸Lに対して平行に配設されている。
また、このような内側第1直線状導体112の他端に、内側第1直線状導体に対して直交する方向に接続される内側半円弧状導体113は、ワークWの周方向に配設される。
さらに、このような内側半円弧状導体113の他端に、内側半円弧状導体113に対して直交する方向に接続される内側第2直線状導体114は、直棒状のワークWの周面WAに沿って設けられるものであり、ワークWの軸Lに対して平行に設定されている。さらに、当該内側第2直線状導体114は、ワークWの軸Lを対称軸として前記内側第1直線状導体112と線対称の位置に配設されている。
このような内側第2直線状導体114の他端に、内側第2直線状導体114に対して直交する方向に接続される内側第2円弧状導体115は、前記内側第1円弧状導体111と同様に、直棒状のワークWの外径より若干大きめの円弧に従って形成されている。この内側第2円弧状導体115は、内側第1円弧状導体111と同一平面上に配設されている。
一方、外側コイル120は、内側コイル110と同様に、断面略ロ字形状の良導電金属からなる角パイプを組み合わせたものであり、一端が前記内側第2弧状導体115に接続されるほぼ1/4円弧状の外側第1弧状導体121と、この外側第1弧状導体121の他端に接続される外側第1直線状導体122と、この外側第1直線状導体122の他端に接続される外側半円弧状導体123と、この外側半円弧状導体123の他端に接続される外側第2直線状導体124と、この外側第2直線状導体124の他端に接続されるほぼ1/4円弧状の外側第2弧状導体125とを有している。」(段落【0011】?【0018】)
ウ.「すなわち、ワークWの周面WAを加熱するコイルが2ターンとなっているので、従来のこの種の高周波誘導加熱コイルに比べて、コイル自身のインダクタンスが大きく、高周波電源500の電圧が同じであると、コイルに流れる高周波電流が小さくなる。」(段落【0027】)
エ.図2には、ほぼ1/4円弧状の内側第1弧状導体111、内側第2弧状導体115、外側第1弧状導体121及び外側第2弧状導体125、並びに内側半円弧状導体113及び外側半円弧状導体123が、直棒状のワークWの周面WAに沿って、ワークWの周方向に配設され、
内側第1直線状導体112、内側第2直線状導体114、外側第1直線状導体122、外側第2直線状導体124が、直棒状のワークWの周面WAに沿って、ワークWの軸Lに対して平行に配設される様子が図示される。
オ.ア.で摘示したように高周波誘導加熱コイルは直棒状のワークWの表面の焼入に用いられるものであって、高周波電源500を接続して高周波電流を高周波誘導加熱コイルに通電してワークWを加熱するものであるから、高周波誘導加熱コイルや高周波電源500からなる高周波誘導加熱装置が記載されているといえる。
これらの記載事項ア.?ウ.、エ.の図示内容及びオ.で検討した事項を総合すると、上記引用刊行物3には、
「シャフト等の直棒状のワークWの表面の焼入に用いられる高周波誘導加熱装置であって、
高周波電流が通電される断面略ロ字形状の良導電金属からなる角パイプからなる高周波誘導加熱コイルを備え、
前記高周波誘導加熱コイルは、
直棒状のワークWの周面WAに沿って、ワークWの周方向に配設されるほぼ1/4円弧状の内側第1弧状導体111と、
内側第1弧状導体111の他端に接続され、直棒状のワークWの軸Lに対して平行に配設されている内側第1直線状導体112と、
内側第1直線状導体112の他端に接続され、直棒状のワークWの周面WAに沿って、ワークWの周方向に配設される内側半円弧状導体113と、
内側半円弧状導体113の他端に接続され、直棒状のワークWの軸Lに対して平行に配設されている内側第2直線状導体114と、
内側第2直線状導体114の他端に接続され、直棒状のワークWの周面WAに沿って、ワークWの周方向に配設されるほぼ1/4円弧状の内側第2円弧状導体115を有する、
高周波誘導加熱装置。」の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

(4)引用刊行物4
前置報告書で引用され、本願の出願前に頒布された実願平4-53427号(実開平6-10356号)のCD-ROM(以下「引用刊行物4」という。)には、図1?10とともに以下の事項が記載されている。
ア.「全周にわたる凹所が形成されているほぼ回転対称体のワークの周面を、或いは、全周にわたる凸所を形成することによってこの凸所以外が凹所に形成されているほぼ回転対称体のワークの周面を加熱する高周波加熱コイルにおいて、
ワークの周面に対向しワークの軸方向に配設された直線状の第1加熱導体と、この第1加熱導体の前記凹所に対向する部分に、前記凹所に向かって突設しているように取り付けられた第2加熱導体とを備えたことを特徴とする高周波加熱コイル。」(請求項1)
イ.「 図4に示すように、加熱導体16の断面形状は、加熱導体11の断面と同形の四角形状の凹部16a を有するコ字状であって、加熱導体11が加熱導体16の凹部16a に挿入されろう付けによって固着されている。なお、加熱導体16、16の互いに対向している面の両端部分には、加熱導体16をワーク80の周面の形状に対応させるために、面取り部16b が形成されている。
・・・(中略)・・・
この周面の加熱に際し、ワーク80の両端近辺81、83は、加熱コイル100 の加熱導体11、11に接近対向しており、また、ワーク80の凹所82も、加熱導体16、16に接近対向している上に、加熱導体16、16が、ワーク80の両端近辺81、83と凹所82との境界部分においても、ワーク80のこの境界部分の周面の形状に対応し且つこの周面に接近するように、加熱導体16、16の両端部分に面取り部16b 、16b を設けているので、両端近辺81、83、凹所82および両端近辺81、83と凹所82の境界部分共に同様に均一に加熱される。」(段落【0013】?【0015】)
ウ.「なお、加熱導体26、26の互いに対向している面の一端部分には、加熱導体26をワーク90の周面の形状に対応させるために、面取り部26b が形成されている。加熱導体27、27の互いに対向している面の一端部分にも、加熱導体27をワーク90の周面の形状に対応させるために、面取り部27b が形成されている。
・・・(中略)・・・
この周面の加熱に際し、ワーク90の凹所91、93は、それぞれ、加熱コイル200の加熱導体26、27に接近対向しており、また、ワーク90の凸所92は、加熱導体21に接近対向している上に、加熱導体26、26および27、27が、ワーク90の凸所92と凹所91、93との境界部分においても、ワーク90のこの境界部分の周面の形状に対応し且つこの周面に接近するように、加熱導体26、26および27、27のそれぞれの一端部分に面取り部26b 、26b および27b 、27b を設けているので、凹所91、93、凸所92、および凸所92と凹所91、93との境界部分共に同様に均一に加熱される。」(段落【0018】?【0020】)

3.対比・判断
(1)本願補正発明1について
ア.引用発明1を主引例とする場合
本願補正発明1と引用発明1とを対比すると、後者の「円柱状の被加熱物Aに対して、高周波加熱コイルに高周波電流を流し、被加熱物Aを高周波焼入れする高周波焼き入れ装置」は、その機能、構成からみて、前者の「軸部を有する金属部品に対して、前記軸部の外径面に硬化層を形成する高周波誘導加熱装置」に相当し、同様に、後者の「高周波電源に接続される一対のリード導体部1を有する」「角パイプからなる高周波加熱コイル」は前者の「高周波電流が印加される」「角パイプからなる加熱コイル」に相当する。
また、後者の「前記高周波加熱コイル」が、「下方に頂点を有する五角形断面の角パイプである一対のリード導体部1と、
一対のリード導体部1にそれぞれ接続され、円柱状の被加熱物Aに周方向で周りに沿わされる、下方に頂点2aを有する五角形断面の角パイプである、一対の四半円弧状の加熱導体部2と、
一対の四半円弧状の加熱導体部2に、それぞれ直角の屈曲部5aで接続され、円柱状の被加熱物Aに軸方向の下方に延びように周りに沿わされる、四角形断面の角パイプである、一対の直線状の加熱導体部3と、
一対の直線状の加熱導体部3に、それぞれ直角の屈曲部5bで接続され、円柱状の被加熱物Aに周方向で周りに沿わされる、上方に頂点4aを有する五角形断面の角パイプである、半円弧状の加熱導体部4とから構成され」る態様は、前者の「前記加熱コイル」が、「軸部の外径側に周方向に沿って配設される四半弧円状の第1上わたり部と、第1上わたり部の端部から軸部の軸方向に沿って下方に延びる第1柱部と、第1柱部の下端部から軸部の外径側に周方向に沿って延びる半弧円状の下わたり部と、下わたり部の端部から軸部の軸方向に沿って上方に延びる第2柱部と、第2柱部の上端部から外径側に周方向に沿って延びる四半弧円状の第2上わたり部とを有」する態様に相当する。
そうすると、両者は、「軸部を有する金属部品に対して、前記軸部の外径面に硬化層を形成する高周波誘導加熱装置であって、
高周波電流が印加される角パイプからなる加熱コイルを備え、前記加熱コイルは、軸部の外径側に周方向に沿って配設される四半弧円状の第1上わたり部と、第1上わたり部の端部から軸部の軸方向に沿って下方に延びる第1柱部と、第1柱部の下端部から軸部の外径側に周方向に沿って延びる半弧円状の下わたり部と、下わたり部の端部から軸部の軸方向に沿って上方に延びる第2柱部と、第2柱部の上端部から外径側に周方向に沿って延びる四半弧円状の第2上わたり部とを有する
高周波誘導加熱装置。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

相違点:加熱コイルに関して、本願補正発明1が「四角形断面の角パイプからなる」ものであって、「第1上わたり部と第2上わたり部とにおいて、四角形状内面の角部を維持した状態で、下面と内径面とのコーナ部の外面側のみに、肉厚範囲内に収まるように電流集中緩和用の面取り部を設けた」ものであるのに対して、引用発明1は「五角形断面及び四角形断面の角パイプからなる」ものであって、「一対の四半円弧状の加熱導体部2」は「下方に頂点2aを有する五角形断面の角パイプである」である点。

そこで、上記相違点について検討する。
引用刊行物2には、高周波焼入装置21の半開放鞍型高周波誘導加熱コイル20における、被加熱部である円柱部3aの円筒状周面γに対向配置されるコイル頭部30の加熱導体31,32の形状を、円柱部3aの円筒状周面γに対して平行に配置される水平面部33,34において、加熱導体31,32同士の対向方向において相対的に近い位置の内側部分を屈曲されて傾斜状態で配置される傾斜面部35,36とすること(2.(2)ア.)が記載されている。
しかしながら、引用刊行物2の一対の加熱導体31,32の傾斜面部35,36は、円柱部3aに最も近接する水平面部33,34の幅Z_(1)を加熱導体33,34の全幅Z_(2)に対して50%以下に設定される(2.(2)ウ.)程度の大きさであって、一対の加熱導体31,32は四角形の内側まで傾斜面となった傾斜面部35,36を有する五角形断面を有するパイプ(2.(2)エ.)を実施例とするものである。
そうすると、上記引用刊行物2には、上記相違点に係る本願補正発明1の「第1上わたり部と第2上わたり部とにおいて、四角形状内面の角部を維持した状態で、下面と内径面とのコーナ部の外面側のみに、肉厚範囲内に収まるように電流集中緩和用の面取り部を設けた」との構成は記載されておらず、当該構成について、引用発明1及び引用刊行物2に記載された事項から当業者が容易に想到できたとはいえない。

また、引用刊行物3及び4にも上記相違点に係る本願補正発明1の構成は記載されていない。

そして、本願補正発明1は上記した面取り部を設けることで、焼き入れ品質として劣ることなく電流集中緩和ができるという効果を奏するものである。
そうすると、上記相違点について、当業者が容易に想到できたとはいえない。
従って、引用発明1を主引例として、引用刊行物2?4に記載の事項を参酌して、本願補正発明1について、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

イ.引用発明3を主引例とする場合
本願補正発明1と引用発明3とを対比すると、後者の「シャフト等の直棒状のワークWの表面の焼入に用いられる高周波誘導加熱装置」は、その機能、構成からみて、前者の「軸部を有する金属部品に対して、前記軸部の外径面に硬化層を形成する高周波誘導加熱装置」に相当し、同様に、後者の「高周波電流が通電される断面略ロ字形状の良導電金属からなる角パイプからなる高周波誘導加熱コイル」は前者の「高周波電流が印加される四角形断面の角パイプからなる加熱コイル」に相当する。
また、後者の「前記高周波誘導加熱コイル」が、「直棒状のワークWの周面WAに沿って、ワークWの周方向に配設されるほぼ1/4円弧状の内側第1弧状導体111と、
内側第1弧状導体111の他端に接続され、直棒状のワークWの軸Lに対して平行に配設されている内側第1直線状導体112と、
内側第1直線状導体112の他端に接続され、直棒状のワークWの周面WAに沿って、ワークWの周方向に配設される内側半円弧状導体113と、
内側半円弧状導体113の他端に接続され、直棒状のワークWの軸Lに対して平行に配設されている内側第2直線状導体114と、
内側第2直線状導体114の他端に接続され、直棒状のワークWの周面WAに沿って、ワークWの周方向に配設されるほぼ1/4円弧状の内側第2円弧状導体115を有する」態様は、前者の「前記加熱コイル」が、「軸部の外径側に周方向に沿って配設される四半弧円状の第1上わたり部と、第1上わたり部の端部から軸部の軸方向に沿って下方に延びる第1柱部と、第1柱部の下端部から軸部の外径側に周方向に沿って延びる半弧円状の下わたり部と、下わたり部の端部から軸部の軸方向に沿って上方に延びる第2柱部と、第2柱部の上端部から外径側に周方向に沿って延びる四半弧円状の第2上わたり部とを有」する態様に相当する。
そうすると、両者は、「軸部を有する金属部品に対して、前記軸部の外径面に硬化層を形成する高周波誘導加熱装置であって、
高周波電流が印加される四角形断面の角パイプからなる加熱コイルを備え、前記加熱コイルは、軸部の外径側に周方向に沿って配設される四半弧円状の第1上わたり部と、第1上わたり部の端部から軸部の軸方向に沿って下方に延びる第1柱部と、第1柱部の下端部から軸部の外径側に周方向に沿って延びる半弧円状の下わたり部と、下わたり部の端部から軸部の軸方向に沿って上方に延びる第2柱部と、第2柱部の上端部から外径側に周方向に沿って延びる四半弧円状の第2上わたり部とを有する高周波誘導加熱装置。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。

相違点:加熱コイルに関して、本願補正発明1が「前記第1上わたり部と第2上わたり部とにおいて、四角形状内面の角部を維持した状態で、下面と内径面とのコーナ部の外面側のみに、肉厚範囲内に収まるように電流集中緩和用の面取り部を設けた」ものであるのに対して、引用発明3は上記のようなものではない点。

そこで、上記相違点について検討する。
引用発明1は「屈曲内側の角パイプコーナ部に集中する電流を、角パイプコーナ部の間に設けた頂点の部分に分散させ、安価な手段で寸法精度を低下させることなく、屈曲内側の角パイプコーナ部への電流集中を防止できるようにし、角パイプコーナ部でのろう付けの剥がれや、角パイプ自体の亀裂の発生を防止して、高周波加熱コイルの寿命を長く確保することができる」ものではあるものの、その構成は「円柱状の被加熱物Aに周方向で周りに沿わされる、」「一対の四半円弧状の加熱導体部2」については「下方に頂点2aを有する五角形断面の角パイプ」とするものである。
そうすると、引用発明1は上記相違点に係る本願補正発明1の「第1上わたり部と第2上わたり部とにおいて、四角形状内面の角部を維持した状態で、下面と内径面とのコーナ部の外面側のみに、肉厚範囲内に収まるように電流集中緩和用の面取り部を設けた」との構成を有していない。
そして、引用発明3に引用発明1を適用しても、上記のような四角形状内面の角部を維持した状態での面取り部を設けることが容易であるとはいえない。

また、引用刊行物2にも、ア.で述べたように五角形断面の角パイプが記載されるのみで、上記相違点に係る構成は記載されていない。

さらに、引用刊行物4に記載される面取り部16b,26b,27bは、加熱導体16,26,27を凹所または凸所が形成されているワーク80,90の周面の形状に対応させるために形成されるものであり、引用発明3には対応するワークの周面に凹所または凸所もなく、かつ、上記相違点のような「四角形状内面の角部を維持した状態で、」「肉厚範囲内に収まるように電流集中緩和用の面取り部」を設けることが容易に想到できたものともいえない。

そして、本願補正発明1は上記した面取り部を設けることで、焼き入れ品質として劣ることなく電流集中緩和ができるという効果を奏するものである。
従って、引用発明3を主引例として、引用発明1並びに引用刊行物2及び4に記載の事項を参酌して、本願補正発明1について、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

以上述べたとおりであるから、本願補正発明1は、引用発明1及び引用刊行物2?4に記載の事項からは、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、他に拒絶の理由を発見しない。

(2)本願補正発明2?7について
本願補正発明2?7は、本願補正発明1の全てを引用するものである。従って、上記(1)で述べたと同様に、本願補正発明2?7についても、引用発明1及び引用刊行物2?4に記載の事項からは、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、他に拒絶の理由を発見しない。

上記(1)及び(2)のとおり、本願補正発明1?7は特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合する。

4.むすび
本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合する。

第3 本願発明について
本件補正は上記のとおり、特許法第17条の2第3項ないし第6項の規定に適合するから、本願の請求項1?7に係る発明は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものである。
そして、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2014-02-28 
出願番号 特願2008-295777(P2008-295777)
審決分類 P 1 8・ 575- WY (H05B)
P 1 8・ 121- WY (H05B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田村 佳孝  
特許庁審判長 鳥居 稔
特許庁審判官 山崎 勝司
平上 悦司
発明の名称 高周波誘導加熱装置  
代理人 熊野 剛  
代理人 城村 邦彦  

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