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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1285048
審判番号 不服2013-6206  
総通号数 172 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-04-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-04-05 
確定日 2014-02-19 
事件の表示 特願2012-100648「発光素子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 8月30日出願公開、特開2012-165011〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
1 本願発明
本願は、平成9年3月10日(優先権主張 平成8年4月26日)に出願した特願平9-55221号の一部を平成13年9月4日に新たな特許出願とした特願2001-267038号の一部を平成20年10月16日に新たな特許出願とした特願2008-267301号の一部をさらに平成24年4月26日に新たな特許出願としたものであって、その請求項に係る発明は、平成24年10月30日に補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりである。

「非単結晶の窒化物系の化合物半導体からなるバッファ層を気相成長法により形成する工程と、
前記バッファ層上に単結晶の窒化物系の化合物半導体からなる下地層を気相成長法により形成する工程と、
前記下地層上に第1導電型のコンタクト層を気相成長法により形成する工程と、
前記第1導電型のコンタクト層上に第1導電型の窒化物系の化合物半導体からなる第1のクラッド層を気相成長法により形成する工程と、
前記第1のクラッド層上にインジウムを含有する窒化物系の化合物半導体からなる活性層を気相成長法により形成する工程と、
前記活性層上にAlを含むAlGaNからなるキャップ層を前記活性層の成長温度とほぼ同じかまたは低い成長温度で気相成長法により形成する工程と、
前記キャップ層上に前記活性層の成長温度より高い成長温度で第2導電型の第2のクラッド層を気相成長法により形成する工程とを含み、
前記キャップ層は、前記活性層よりも大きなバンドギャップを有することを特徴とする発光素子の製造方法。」

2 刊行物の記載
(1)原査定の拒絶理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である「Jpn.J.Appl.Phys. part2(1996)Vol.35 No.1B,pp.L74-L76」(以下「刊行物1」という。)には、図とともに次の記載がある(かっこ書で訳文を付した。)。
ア 「III-V nitride films were grown by the two-flow metalorganic chemical vapor deposition (MOCVD) method. Details of the two-flow MOCVD have been described elsewhere.17) The growth was conducted at atmospheric pressure. Sapphire with (0001) orientation (C face) was used as the substrate. Details of the growth conditions of each layer haye been described elsewhere.8-10) The InGaN MQW LD device (Fig.1) consisted of a 300Å GaN buffer layer grown at a low temperature of 550℃, a 3-μm-thick layer of n-type GaN;Si, a 0.1-μm-thick layer of n-type In _(0.1)Ga_(0.9)N:Si, a 0.4-μm-thick layer of n-type Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Si,a 0.1-μm-thick layer of n-type GaN:Si, 26periods of a In_(0.2)Ga_(0.8)N/In_(0.05)Ga_(0.95)N MQW structure consisting of 25-Å-thick In_(0.2)Ga_(0.8)N well layers and 50-Å-thick In_(0.05)Ga_(0.95)N barrier layers, a 200-Å-thick layer of p-type Al_(0.2)Ga_(0.8)N:Mg, a 0.1-μm-thick layer of p-type GaN:Mg, a 0.4-μm-thick layer of p-type Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Mg, and a 0.5-μm-thick layer of p-type GaN:Mg. _(1 )The 0.1-μm-thick layer of n-type In_(0.1)Ga_(0.9)N served as a buffer layer of the thick AlGaN films growth to prevent cracking of the film. The 200-Å-thick 1ayer of p-type A1_(0.2)Ga_(0.8)N was used to prevent dissociation of InGaN layers during the growth of the p-type layers. The 0.1-μm-thick n-type and p-type GaN layers were light-guiding layers. The 0.4-μm-thick n-type and p-type Al_(0.15)Ga_(0.85)N layers were cladding layers for confinement of light emitted from the active region of the InGaN MQW structure.」(L74頁右欄2行?L75頁左欄2行)
(III-V族窒化物薄膜は2フロー有機金属化学気相成長(MOCVD)法により成長させた。2フローMOCVD法の詳細は他に説明されたものである。17)成長は、大気圧下で行った。(0001)配向(C面)のサファイアを基板として用いた。それぞれの層の成長条件の詳細は他に説明されたものである。8-10)InGaN系MQW LD素子(図1)は、550℃の低温で成長された300ÅのGaNバッファ層、3μm厚のn型GaN:Siの層、0.1μm厚のn型In_(0.1)Ga_(0.9)N:Siの層、0.4μm厚のn型Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Siの層、0.1μm厚のn型GaN:Siの層、25Å厚のIn_(0.2)Ga_(0.8)N井戸層と50Å厚のIn_(0.05)Ga_(0.95)Nバリア層からなるIn_(0.2)Ga_(0.8)N/In_(0.05)Ga_(0.95)Nの26周期のMQW構造、200Å厚のp型Al_(0.2)Ga_(0.8)N:Mgの層、0.1μm厚のp型GaN:Mgの層、0.4μm厚のp型Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Mgの層、0.5μm厚のp型GaN:Mgの層からなっていた。0.1μm厚のn型In_(0.1)Ga_(0.9)Nの層は膜の割れを防止するために厚いAlGaN膜成長のバッファ層として作用した。200Å厚のp型Al_(0.2)Ga_(0.8)Nの層はp型層の成長中にInGaN層の解離を防ぐために用いられた。0.1μm厚のn型及びp型GaNの層は、光ガイド層であった。0.4μm厚のp型Al_(0.15)Ga_(0.85)Nの層は、InGaNのMQW構造の活性領域から放出される光の閉じ込めのためのクラッド層であった。)

イ 「A Ni/Au contact was evaporated onto the entire area of the p-type GaN layer, and a Ti/Al contact onto the n-type GaN layer.」(L75頁左欄13?16行)
(Ni/Auのコンタクトがp型GaN層上の全領域に、Ti/Alのコンタクトがn型GaN層上に蒸着された。)

ウ Fig.1(図1)は、次のものである。


エ そして、Fig.1(図1)には、上記の層構造を有するInGan MQW LDの構造が示され、上記「Ni/Auのコンタクト」及び「Ti/Alのコンタクト」は、それぞれ、「p-electrode」及び「n-electrode」、すなわち、「p電極」及び「n電極」として示されている。

(2)刊行物2
同じく、特開平8-70139号公報(以下「刊行物2」という。)には、図とともに次の記載がある。
なお、刊行物2の【0019】?【0022】、【0032】?【0036】等において、1、2等の数字を○で囲った表記があるが、表記の都合上、これらは、(1)、(2)等の表現にあらためた。
ア 「【0001】【産業上の利用分野】本発明は発光ダイオード、レーザダイオード等の電子デバイスに使用されるn型窒化ガリウム系化合物半導体(In_(X)Al_(Y)Ga_(1-X-Y)N、0≦X、0≦Y、X+Y≦1、以下窒化ガリウム系化合物半導体を窒化物半導体という。)の結晶成長方法に係り、特に、基板上に直接またはバッファ層を介してn型窒化物半導体の結晶を成長させる方法に関する。
【0002】【従来の技術】青色、紫外に発光するレーザダイオード、発光ダイオードの材料として窒化物半導体(In_(X')Al_(Y')Ga_(1-X'-Y')N、0≦X'、0≦Y'、X'+Y'≦1)が注目されており、最近この材料で光度1cdの青色発光ダイオードが実用化されたばかりである。この青色発光ダイオードは図1に示すように、サファイアよりなる基板1の表面に、GaNよりなるバッファ層2と、GaNよりなるn型層3と、AlGaNよりなるn型クラッド層4と、InGaNよりなる活性層5と、AlGaNよりなるp型クラッド層6と、GaNよりなるp型コンタクト層7とが順に積層された構造を有している。
【0003】窒化物半導体素子は、一般にMOVPE(有機金属気相エピタキシャル)法、MBE(分子線エピタキシャル)法、HDVPE(ハイドライド気相エピタキシャル)法等の気相成長法を用い、基板表面に窒化物半導体層を積層させることにより得られる。基板にはサファイア、ZnO、SiC、GaAs、MgO等の材料が使用される。基板の表面にはバッファ層を介してn型の窒化物半導体(In_(X)Al_(Y)Ga_(1-X-Y)N、0≦X、0≦Y、X+Y≦1、その中でも特にn型GaN、n型AlGaNが多い。)が成長される。また、SiC、ZnOのように窒化物半導体と格子定数の近い基板を用いる場合には、バッファ層を形成せず、基板に直接n型窒化物半導体が成長されることもある。基本的には、基板の表面にまずn型窒化物半導体層を成長させることにより、発光素子、受光素子等の窒化物半導体素子が作製される。
【0004】例えばMOVPE法によると、窒化物半導体は、原料ガスにGa源、Al源、In源となる有機金属化合物ガスと、N源となるアンモニアガスとが用いられる。これらの原料ガスを加熱した基板表面に接触させることにより原料ガスを分解して、基板上に窒化物半導体がエピタキシャル成長される。バッファ層には通常GaN、AlN、GaAlN等が選択され、300℃?900℃の温度で10オングストローム?0.1μmの厚さで成長される。バッファ層の上に成長するn型窒化物半導体層は900℃以上の温度で、通常1μm以上、4μm以下の膜厚で成長される。
【0005】【発明が解決しようとする課題】窒化物半導体は、完全に格子整合する基板がないため、非常にエピタキシャル成長させにくい結晶であることが知られている。従って、従来ではSiC基板のように、成長させようする窒化物半導体の格子定数に近い基板を利用するか、または格子不整合を緩和するバッファ層を介して無理矢理エピタキシャル成長されてきた。
【0006】格子整合しない基板の表面に成長したn型窒化物半導体の結晶の模式断面図を一例として図2に示す。これはジャーナル オブ クリスタル グロウス{Jounal of Crystal Growth, 115, (1991) P628-633}より引用したものであり、サファイア基板の表面にAlNよりなるバッファ層を介してn型GaNをエピタキシャル成長させ、その断面をTEM(transmission electron microscopy)で測定して、そのTEM像から結晶の構造を模式的に示したものである。この図によると、基板上に配向性が整っていないバッファ層が柱状に成長されており、そのバッファ層の上にGaNをエピタキシャル成長させると、そのバッファ層の一部が種結晶のような役割を果たして、徐々にGaNの配向性が整うことにより、結晶性がよくなったGaN層が成長されることを示している。
【0007】しかしながら、完全に結晶欠陥の無いGaNを成長させることは難しく、図2の破線に示すような多数の結晶欠陥が、バッファ層とGaN層との界面から、GaN層表面に達するまで伸びている。この欠陥は結晶の内部で止まるものもあるが、GaN層表面にまで達するものは、表面で例えば10^(7)?10^(9)個/cm^(2)ある。同様に図1の発光ダイオード素子においても、n型層3の結晶中では同様の現象が発生している。
【0008】基板の表面に成長したn型窒化物半導体層の表面に多数の結晶欠陥があると、その欠陥がn型層の表面に成長するクラッド層、活性層等、全ての半導体層に受け継がれ、素子構造全体に悪影響を及ぼすという問題がある。結晶欠陥の多い素子は、例えば上記のような発光ダイオードとした場合に、発光出力、寿命等の素子性能に悪影響を及ぼすという欠点がある。
【0009】基板の表面にまずn型窒化物半導体層を成長させるにあたり、結晶欠陥の少ないn型結晶を成長させることが非常に重要であり、それを実現できれば、そのn型結晶の上に成長させるクラッド層、活性層等の結晶欠陥が少なくなるので、窒化物半導体より成るあらゆる素子の性能を向上させることができる。従って、本発明はこのような事情を鑑みなされたものであり、MOVPE、MBE法等の気相成長法により、完全に格子整合していない基板の表面にn型窒化物半導体層を成長させる際に、そのn型窒化物半導体層の格子欠陥を少なくして成長させる方法を提供することを目的とする。
【0010】【課題を解決するための手段】本発明の方法の第一の態様は、気相成長法により基板表面に直接、またはバッファ層を介してn型窒化物半導体(In_(X)Al_(Y)Ga_(1-X-Y)N、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)の結晶を成長させる方法において、前記n型窒化物半導体層成長中に、そのn型窒化物半導体層と組成の異なる第二の窒化物半導体層(In_(a)Al_(b)Ga_(1-a-b)N、0≦a、0≦b、a+b≦1)を少なくとも一層以上成長させることを特徴とする。
【0011】また本発明の方法の第二の態様は、気相成長法により基板表面に直接、またはバッファ層を介してn型窒化ガリウム系化合物半導体(In_(X)Al_(Y)Ga_(1-X-Y)N、0≦X、0≦Y、X+Y≦1)の結晶を成長させる方法において、前記n型窒化ガリウム系化合物半導体層を少なくとも5μm以上の膜厚で成長させることを特徴とする。
【0012】【作用】第一の態様において、n型窒化物半導体層の中に、組成の異なる第二の窒化物半導体層を形成すると、第二の窒化物半導体が緩衝層、即ちバッファ層として作用するので、バッファ層で結晶欠陥を緩和できると考えられる(以下本明細書において、第二の窒化物半導体層を第二のバッファ層という)。詳しく述べると、n型窒化物半導体層が基板上に成長される場合、基板と窒化物半導体とのミスマッチが大きいため、成長中に図2の破線に示すような結晶欠陥が結晶中に発生する。ところが、成長させようとするn型窒化物半導体層と組成の異なる第二のバッファ層を中間層として介在させることにより、n型窒化物半導体層の連続した結晶欠陥が、組成が異なる第二のバッファ層で一時的に止まる。次に、第二のバッファ層の表面にn型窒化物半導体を成長させる際は、その第二のバッファ層がミスマッチの少ない基板のような作用をするため、第二のバッファ層の上に成長させるn型窒化物半導体の結晶性がよくなると推察される。」

イ 「【0015】さらに、第二のバッファ層の電子キャリア濃度は先に形成したn型窒化物半導体層とほぼ同一か、またはそれより大きく調整することが望ましい。図3および図4は本発明の方法により得られたn型窒化物半導体層3”の上に、nクラッド層4'、活性層5'、pクラッド層6'、pコンタクト層7'を積層して実際の発光素子として、その発光素子の構造を断面図でもって示した図である。図3は、第二のバッファ層33が、負電極形成用のn型層のエッチング面よりも活性層5'側にあるのに対し、図4は第二のバッファ層33がエッチング面よりも基板1'側に形成された点で異なっている。例えば、図3に示すような発光素子を実現した場合、つまり第二のバッファ層33の位置が、負電極を形成すべきエッチング面よりも活性層側に近い位置にあるような素子を実現した場合、第二のバッファ層33の電子キャリア濃度がn型層3'よりも小さいと、第二のバッファ層でnからpへ供給される電子が阻止されて、n型層からp層に電流が流れにくくなり、素子の性能が悪くなる。逆に、第二のバッファ層33の電子キャリア濃度がn型層3よりも大きいと、電子は第二のバッファ層33に均一に広がりやすくなるので、均一な発光を得ることができる。一方、図4のような素子であると、第二のバッファ層33の電子キャリア濃度は小さくても、電流は電子キャリア濃度の大きいn型層3”の方を流れるので、発光素子の特性にはほとんど影響がないが、逆に第二のバッファ層33の電子キャリア濃度が大きい場合は、電流は第二のバッファ層33の方に流れやすくなって、均一な発光が得られる。従って、第二のバッファ層33の電子キャリア濃度は先に形成したn型窒化物半導体層とほぼ同一か、またはそれより大きく調整することが好ましい。」

ウ 「【0016】次に、本発明の第二の態様では、n型窒化物半導体層を5μmよりも厚く成長させることにより、表面に到達する結晶欠陥を少なくできる。図2において、破線がn型層の中間で止まっているのは、結晶欠陥が途中で止まっていることを示している。この途中で止まっている結晶欠陥について、さらによく研究してみると、n型窒化物半導体層が基板からおよそ4μmぐらいで止まるものが多いことを新たに見いだした。そこで、同一材料を連続して成長中であれば、結晶欠陥を成長中に次第に止めることが可能であるので、5μm以上でn層を成長させることにより、n層の表面にまで到達する結晶欠陥を少なくすることができる。第二の態様において、さらに好ましいn型窒化物半導体層の厚さは7μm以上である。」
ここで、図4は次のものである。

そして、【符号の説明】欄には次のとおり記載されている。
「1、1’・・・基板 2、2'・・・バッファ層
3、3'、3”・・・n型窒化物半導体層 4、4'・・・n型クラッド層
5、5'・・・活性層 6、6'・・・pクラッド層
7、7'・・・pコンタクト層
33・・・第二のバッファ層(第二の窒化物半導体層)」

エ 「【0019】
【実施例】以下、MOVPE法による本発明の方法を詳説する。
[実施例1](1)まず、よく洗浄したサファイア基板を反応容器内のサセプターの上に設置する。容器内を真空排気した後、水素ガスを容器内に流しながら、基板を1050℃で約20分間加熱し表面の酸化物を除去して、基板のクリーニングを行う。その後サセプターの温度を500℃に調整し、500℃においてGa源としてTMG(トリメチルガリウムガス)、N源としてアンモニアガスを基板の表面に流しながら、GaNよりなるバッファ層を0.02μmの膜厚で成長させる。
【0020】(2)次に、TMGガスを止め、温度を1050℃まで上昇させた後、TMGガス、SiH_(4)ガスを流し、Siドープn型GaN層を2μmの膜厚で成長させる。
【0021】(3)次に、TMGガス、SiH_(4)ガスを止め温度を800℃にする。800℃になったらキャリアガスを窒素に切り替え、TMGガス、TMI(トリメチルインジウム)、SiH_(4)ガスを流し、第二のバッファ層としてSiドープn型In_(0.1)Ga_(0.9)N層を0.01μmの膜厚で成長させる。
【0022】(4)In_(0.1)Ga_(0.9)N層成長後、再度温度を1050℃まで上昇させ、キャリアガスを水素に戻してTMGガスおよびSiH_(4)ガスを流し、同様にしてSiドープn型GaN層を2μmの膜厚で成長させる。なお第二のバッファ層のキャリア濃度とこのn型GaN層のキャリア濃度はほぼ同一とした。
【0023】成長後、基板を反応容器から取り出し、最上層のn型GaN層の表面をTEMで測定し、そのTEM像より、単位面積あたりの結晶欠陥の数を計測したところ、およそ1×10^(4)個/cm^(2)であった。」

オ 「【0032】[実施例7]実際の発光素子の構造とした実施例を示す。実施例1の(4)の工程の後に以下の工程を加えた。
(5)Siドープn型GaN層成長後、新たにTMA(トリメチルアルミニウム)ガスを加え、同じく1050℃で、nクラッド層としてSiドープn型Al_(0.2)Ga_(0.8)N層を0.1μmの膜厚で成長させる。
【0033】(6)nクラッド層成長後、TMG、TMA、SiH_(4)ガスを止め、再び温度を800℃に設定して、TMG、TMI、SiH_(4)ガスに加えてDEZ(ジエチルジンク)を流し、活性層としてSiおよびZnドープIn_(0.05)Ga_(0.95)N層を0.1μmの膜厚で成長させる。
【0034】(7)活性層成長後、TMG、TMI、SiH_(4)、DEZガスを止め、温度を1050℃にした後、TMG、TMA、Cp_(2)Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)ガスを流し、pクラッド層としてMgドープp型Al_(0.1)Ga_(0.9)N層を0.1μmの膜厚で成長させる。
【0035】(8)p型Al_(0.1)Ga_(0.9)N層成長後、TMAガスを止め、同じく1050℃でpコンタクト層としてMgドープp型GaN層を0.3μmの膜厚で成長させる。
【0036】(9)以上のようにして得た素子のエッチングを行い、第二のバッファ層の次に成長したn型GaN層を露出させ、pコンタクト層と、露出したSiドープn型GaN層とに電極を形成した。つまり図4に示すような構造の発光ダイオード素子とした。さらにこの素子をリードフレームに取り付け、樹脂でモールドした。この発光ダイオードは20mAにおいてVf3.6V、発光波長450nmであり、光度3.0cd、発光出力は3.5mWであった。」

カ 「【0039】[実施例8]以下本発明の第二の態様について具体的な実施例を示す。この実施例も第一の方法と同様にMOVPEで成長させる手法を示すものであるので基本的操作に大差はない。
(1)実施例1の(1)の工程と同様にしてサファイア基板の表面にGaNよりなるバッファ層を0.02μmの膜厚で成長させる。
【0040】 実施例1のの工程と同様にして、バッファ層の上に、Siドープn型GaN層を10μmの膜厚で成長させる。
【0041】【0041】成長後、基板を反応容器から取り出し、n型GaN層表面をTEMで測定し、そのTEM像より、単位面積あたりの結晶欠陥の数を計測したところ、およそ1×10^(5)個/cm^(2)であった。」

3 引用発明
上記2(1)によれば、刊行物1には、
「サファイア基板上に、GaNからなるバッファ層、n電極が接触するn型GaN:Si層、n型In_(0.1)Ga_(0.9)N:Siからなるバッファ層、n型Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Siからなるn型クラッド層、n型GaN:Siからなる光ガイド層、In_(0.2)Ga_(0.8)N/In_(0.05)Ga_(0.95)NのMQW構造からなる活性層、InGaN層の解離を防ぐp型Al_(0.2)Ga_(0.8)N:Mg層、p型GaN:Mgからなる光ガイド層、p型Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Mgからなるp型クラッド層、p電極が接触するp型GaN:Mg層が順次積層されたInGaN系多重量子井戸構造レーザダイオード」
が記載されているものと認められる。
また、刊行物1には、これらの各層は、「two-flow metalorganic chemical vapor deposition (MOCVD) method」、すなわち、2フロー有機金属化学気相堆積(MOCVD)法により成長された旨の記載がされているから、上記InGaN系多重量子井戸構造レーザダイオードの各層は気相成長法により形成されたものといえる。

したがって、刊行物1には、
「サファイア基板上に、GaNからなるバッファ層、n電極が接触するn型GaN:Si層、n型In_(0.1)Ga_(0.9)N:Siからなるバッファ層、n型Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Siからなるn型クラッド層、n型GaN:Siからなる光ガイド層、In_(0.2)Ga_(0.8)N/In_(0.05)Ga_(0.95)NのMQW構造からなる活性層、InGaN層の解離を防ぐp型Al_(0.2)Ga_(0.8)N:Mg層、p型GaN:Mgからなる光ガイド層、p型Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Mgからなるp型クラッド層、p電極が接触するp型GaN:Mg層が順次積層されたInGaN系多重量子井戸構造レーザダイオードの各層を気相成長法により形成するレーザダイオードの製造方法」(以下「引用発明」という。)
が記載されているものと認められる。

4 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「GaNからなるバッファ層」、「n電極が接触するn型GaN:Si層」、「n型Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Siからなるn型クラッド層」、「In_(0.2)Ga_(0.8)N/In_(0.05)Ga_(0.95)NのMQW構造からなる活性層」、「InGaN層の解離を防ぐp型Al_(0.2)Ga_(0.8)N:Mg層」及び「p型Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Mgからなるp型クラッド層」がそれぞれ、本願発明の「窒化物系の化合物半導体からなるバッファ層」、「第1導電型のコンタクト層」、「第1導電型の窒化物系の化合物半導体からなる第1のクラッド層」、「インジウムを含む窒化物系の化合物半導体からなる活性層」、「Alを含むAlGaNからなるキャップ層」及び「第2導電型の窒化物系の化合物半導体からなる第2のクラッド層」に相当するところであり、ここで、引用発明の前記各層は、本願発明と同様に「気相成長法」により形成されているものである。
また、引用発明の「InGaN層の解離を防ぐp型Al_(0.2)Ga_(0.8)N:Mg層」及び「In_(0.2)Ga_(0.8)N/In_(0.05)Ga_(0.95)NのMQW構造からなる活性層」は、それぞれ、本願発明と同様に「Alを含むAlGaN」ないし「インジウムを含む窒化物系の化合物半導体」からなるものであるから、引用発明は、「前記キャップ層は、前記活性層よりも大きなバンドギャップを有する」ものといえる。

(2)したがって、審判請求書の請求の理由「3.(3)」(審判請求書6頁)において、請求人が主張するとおり、本願発明と引用発明とは、
「窒化物系の化合物半導体からなるバッファ層を気相成長法により形成する工程と、前記バッファ層上に第1導電型のコンタクト層を気相成長法により形成する工程と、前記第1導電型のコンタクト層上に第1導電型の窒化物系の化合物半導体からなる第1のクラッド層を気相成長法により形成する工程と、前記第1のクラッド層上にインジウムを含有する窒化物系の化合物半導体からなる活性層を気相成長法により形成する工程と、前記活性層上にAlを含むAlGaNからなるキャップ層を気相成長法により形成する工程と、前記キャップ層上に第2導電型の第2のクラッド層を気相成長法により形成する工程とを含み、前記キャップ層は、前記活性層よりも大きなバンドギャップを有する発光素子の製造方法」である点で一致し、以下のアないしエの点で相違するものと認められる。

ア 本願発明の「バッファ層」は、「非単結晶」であるのに対し、引用発明の「GaNからなるバッファ層」が「非単結晶」であるか不明である点(以下「相違点1」という。)。

イ 本願発明は、「前記バッファ層上に単結晶の窒化物系の化合物半導体からなる下地層を気相成長法により形成する工程」を含むのに対し、引用発明は、GaNからなるバッファ層上に、コンタクト層として機能するn型GaN:Si層を直接形成しており、バッファ層上に下地層を形成する工程を含んでいない点(以下「相違点2」という。)。

ウ 本願発明は、第2導電型の第2のクラッド層を前記活性層の成長温度より高い成長温度で形成するのに対して、引用発明は、In_(0.2)Ga_(0.8)N/In_(0.05)Ga_(0.95)NのMQW構造からなる活性層とp型Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Mgからなるp型クラッド層の成長温度がこのようなものであるか不明である点(以下「相違点3」という。)。

エ 本願発明は、Alを含むAlGaNからなるキャップ層を前記活性層の成長温度とほぼ同じかまたは低い成長温度で形成するのに対して、引用発明は、InGaN層の解離を防ぐp型Al_(0.2)Ga_(0.8)N:Mg層の成長温度がこのようなものであるか不明である点(以下「相違点4」という。)。

5 判断
(1)相違点1について
ア 本願明細書には、非単結晶及び単結晶に関して次の記載がある。
「【0050】まず、有機金属化学気相成長装置内に基板1を設置した後、その基板1を非単結晶成長温度、例えば600℃の成長温度(基板温度)に保持した状態にして、キャリアガスとしてH_(2)およびN_(2)、原料ガスとしてアンモニア、トリメチルガリウム(TMG)およびトリメチルアルミニウム(TMA)を用いて、基板1上に非単結晶のアンドープのAlGaNバッファ層2を成長させる。
【0051】その後、基板1を単結晶成長温度、好ましくは1000?1200℃、例えば1150℃の成長温度に保持した状態にして、キャリアガスとしてH_(2)およびN_(2)、原料ガスとしてアンモニアおよびトリメチルガリウム(TMG)を用いて、バッファ層2上に単結晶のアンドープのGaN下地層3を成長させる。」

イ 上記記載によれば、本願発明でいう「非単結晶」とは、「非単結晶成長温度」である「例えば600℃の成長温度(基板温度)」という低い温度で窒化物系の化合物半導体の層を成長させたものであり、一方、「単結晶」とは、「単結晶成長温度」である「好ましくは1000?1200℃、例えば1150℃」という高い温度で窒化物系の化合物半導体の層を成長させたものと認められるところ、引用発明の「GaNからなるバッファ層」は、刊行物1に「a 300Å GaN buffer layer grown at a low temperature of 550℃」(550℃の低温で成長された300ÅのGaNバッファ層)と記載されている(前記2(1)アを参照。)ように、550℃という低い温度、すなわち、本願明細書でいう「非単結晶成長温度」で成長されたものであるから、本願発明と同様に「非単結晶」の「窒化物系の化合物半導体からなるバッファ層」であると認められる。したがって、相違点1は、実質的な相違とはいえない。

(2)相違点2について
ア 刊行物2(特に前記2(2)イを参照。)には、窒化物系の化合物半導体からなる各層を気相成長法により形成した発光素子において、基板上に形成されたバッファ層とn型クラッドの間の層構造を、図4に示されるように、バッファ層2’、n型窒化物半導体層3’、第二のバッファ層33、n型窒化物半導体層3’’、n型クラッド層4’の積層構造とすることが記載されている。

イ ここで、バッファ層2’、n型窒化物半導体層3’、第二のバッファ層33及びn型窒化物半導体層3’’は、刊行物2の【0019】?【0022】(前記2(2)エを参照。)に記載されているように、それぞれ、500℃で成長させたGaNよりなるバッファ層、1050℃で成長させたn型GaN層、800℃で成長させたn型In_(0.1)Ga_(0.9)N層及び1050℃で成長させたn型GaN層であるから、上記(1)での検討に照らして、バッファ層2’は、本願発明のバッファ層と同様に非単結晶であり、n型窒化物半導体層3’及び3’’は、単結晶であると認められる。

ウ また、刊行物2の【0032】?【0036】(前記2(2)オを参照。)、特に【0036】に「以上のようにして得た素子のエッチングを行い、第二のバッファ層の次に成長したn型GaN層を露出させ、pコンタクト層と、露出したSiドープn型GaN層とに電極を形成した。つまり図4に示すような構造の発光ダイオード素子とした。」と記載されるとおり、上記n型窒化物半導体層3’’には電極が形成されており、このn型窒化物半導体層3’’は、n電極が接触するコンタクト層といえる。

エ してみると、刊行物2の図4に示される上記層構造の「バッファ層2’」、「n型窒化物半導体層3’」、「n型窒化物半導体層3’’」及び「n型クラッド層4’」は、それぞれ、本願発明の「非単結晶の窒化物系の化合物半導体からなるバッファ層」、「単結晶の窒化物系の化合物半導体からなる下地層」、「第1導電型のコンタクト層」及び「第1導電型の窒化物系の化合物半導体からなる第1のクラッド層」に相当するところであり、引用発明における「GaNからなるバッファ層」から「n型Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Siからなるn型クラッド層」までの層構造として、刊行物2の図4に示される層構造を採用して、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たものと認められる。

オ なお、本願明細書には、下地層に接してコンタクト層が形成される実施例が記載される(図3)ところ、このような層構造についても検討するに、刊行物2には、【0011】、【0016】及び【0039】?【0041】に「第二の態様」について記載されるところ、【0016】に記載されるとおり、バッファ層上に例えば1050℃で成長されるn型窒化物半導体層の結晶欠陥は、基板から4μmぐらいで止まるものが多いとされることに照らせば、バッファ層上に1050℃で成長されるn型窒化物半導体層において、基板から4μm厚の層を下地層とし、その上に成長されるn型窒化物半導体層をコンタクト層として、相違点2に係る本願発明の発明特定事項とすることも、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(3)相違点3について
刊行物2には、窒化物系の化合物半導体からなる各層を気相成長法により形成した発光素子について、
「【0033】(6)nクラッド層成長後、TMG、TMA、SiH_(4)ガスを止め、再び温度を800℃に設定して、TMG、TMI、SiH_(4)ガスに加えてDEZ(ジエチルジンク)を流し、活性層としてSiおよびZnドープIn_(0.05)Ga_(0.95)N層を0.1μmの膜厚で成長させる。
【0034】(7)活性層成長後、TMG、TMI、SiH_(4)、DEZガスを止め、温度を1050℃にした後、TMG、TMA、Cp_(2)Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)ガスを流し、pクラッド層としてMgドープp型Al_(0.1)Ga_(0.9)N層を0.1μmの膜厚で成長させる。」との記載があり(前記2(2)オを参照。)、クラッド層の成長温度をインジウムを含有する活性層の成長温度より高くすることが記載されているから、引用発明において、p型Al_(0.15)Ga_(0.85)N:Mgからなるp型クラッド層の成長温度をIn_(0.2)Ga_(0.8)N/In_(0.05)Ga_(0.95)NのMQW構造からなる活性層の成長温度より高いものとして、相違点3に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に採用し得たものと認められる。

(4)相違点4について
「InGaN層の解離を防ぐp型Al_(0.2)Ga_(0.8)N:Mg層」は、引用発明を実施するに際して、適宜の成長温度で成長させるべきものであるところ、当該「InGaN層の解離を防ぐp型Al_(0.2)Ga_(0.8)N:Mg層」は、In_(0.2)Ga_(0.8)N/In_(0.05)Ga_(0.95)NのMQW構造からなる活性層を成長させた後、p型層の成長中にInGaN層の解離(dissociation)を防ぐために用いられたものである(上記2(1)ア)ことを考慮すれば、あえて、In_(0.2)Ga_(0.8)N/In_(0.05)Ga_(0.95)NのMQW構造からなる活性層を成長させる成長温度より高い成長温度を選ぶ格別の技術的理由はない。
そうすると、「InGaN層の解離を防ぐp型Al_(0.2)Ga_(0.8)N:Mg層」の成長温度を、In_(0.2)Ga_(0.8)N/In_(0.05)Ga_(0.95)NのMQW構造からなる活性層の成長温度とほぼ同じかまたは低いものとなし、相違点4に係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に採用し得たものと認められる。

6 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、刊行物1及び刊行物2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものと認められ、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-09-19 
結審通知日 2013-09-24 
審決日 2013-10-07 
出願番号 特願2012-100648(P2012-100648)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 道祖土 新吾  
特許庁審判長 服部 秀男
特許庁審判官 中田 誠
松川 直樹
発明の名称 発光素子の製造方法  
代理人 神保 泰三  
代理人 中塚 雅也  
代理人 松川 克明  
代理人 鳥居 和久  
代理人 鳥居 洋  
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